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資料 昭和61年度原子力開発利用基本計画 昭和61年3月 はじめに 昭和31年に原子力委員会が発足して以来30年余の年月が経過し、その間幅広い分野で、原子力研究開発利用が着実な進歩を遂げている。今や原子力発電は我が国の総発電電力量の約4分の1を賄っており、また、極めて良好な稼働実績を記録するなど、安定したエネルギー源として、国民生活、経済社会に定着するに至っている。我が国におけるエネルギーの対外依存度は、主要先進国の中でも依然として高く、我が国が将来にわたって低廉なエネルギーを安定的に確保していくためには、原子力開発利用長期計画にのっとり、安全確保を大前提として、石油代替エネルギーの中核たる原子力エネルギーの開発導入を着実に推進していく必要がある。また、国産エネルギーに準じた高い供給安定性を持つという原子力発電の特徴を最大限生かすために自主的な核燃料サイクルの早期確立、プルトニウムの有効利用を目指した新型動力炉の開発等に一層の努力を払っていくことが必要である。 特に、現在進められている商業用核燃料サイクル事業について、国としては、円滑な事業化が図られるよう諸施策を講じていくとともに、放射性廃棄物の処理処分対策を積極的に推進していくことが必要である。 また、将来のエネルギー源として期待される核融合、非電力分野への原子力利用を目指した高温ガス炉、原子力船等の研究開発も引き続き推進していく必要がある。さらに、原子力のエネルギー利用と並んで放射線利用についても、医療、工業、農林水産業等多様な分野で幅広く進められ、国民生活の向上に大きく貢献しているところであるが、今後一層の利用分野の拡大及び利用技術の高度化を図っていく必要がある。 一方、原子力分野における国際協力については、近時、高速増殖炉、核融合等の研究開発の大規模化等にともない、国際協力の重要性が増加してきており、我が国としては先進国との協力を一層強化していく必要がある。また、開発途上国に対する協力についても、我が国としては、原子力先進国としての国際的責務を果たすとの観点から核不拡散にも十分配慮しつつ、研究交流等を通じ積極的に展開することが重要である。 このような、原子力開発利用をめぐる各般にわたる動向を踏まえ、昭和61年度は、以下に示す具体的施策を講じ、原子力開発利用の総合的かつ計画的な推進を図るものとする。 Ⅰ 昭和61年度施策の概要 1.安全確保対策の強化原子力の研究開発利用を進めるに当たっては、これまでも厳重な規制と管理を実施し、安全の確保に万全を期してきたところであるが、原子力発電の推進、高速増殖炉原型炉の建設、新型転換炉実証炉及び再処理工場等核燃料サイクル施設の建設計画、放射性廃棄物処理処分対策の推進等今後における原子力研究開発利用の進展に対応していくためには、内外の事故・故障等の教訓も踏まえ、原子力の安全確保対策をさらに充実し、安全性の一層の向上を図っていく必要がある。 (1)原子力安全規制行政の充実 原子力の安全確保のための規制については、行政庁において法令に基づき、厳正な安全規制を行っているが、今後とも、安全審査、運転管理監督体制等のより一層の充実・強化を図る。また、原子力委員会及び原子力安全委員会がそれぞれ決定した放射性廃棄物の処理処分に関する基本的な考え方に沿って放射性廃棄物の廃棄の事業に関する規制を創設し、放射性廃棄物の処理処分の安全確保に関する法律上の責任の明確化及び安全規制の充実強化並びに原子力損害賠償責任の明確化を図るとともに、原子力施設の検査体制等を充実させることを目的に「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」等の整備を図る。 原子力安全委員会においては、行政庁の行った設置許可等に係る安全審査についてダブルチェックを行うほか、設置許可等の後の各段階においても必要に応じ審議し、行政庁の行う安全規制の統一的評価を行い、原子力の安全確保に万全を期する。 原子力安全委員会の調査・審議に当たっては、原子炉安全専門審査会及び核燃料安全専門審査会の調査・審議において、独自の安全解析を行うなど審査機能等の充実を図り、客観性・合理性の確保に努める。また、行政庁の行った原子力発電所等主要原子力施設設置許可等に係る審査についてダブルチェックを行う際には当該施設の安全性に関し、公開ヒアリング等を開催する。 安全規制に必要な各種安全審査指針、基準については、発電用軽水型原子炉、核燃料施設等に関し、原子炉立地審査指針、発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針、発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針等の見直しを引き続き行うとともに、低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制上重要な各種基準値の設定等、放射性廃棄物の処理処分に関する安全指針、基準の検討等を進めていく。 放射性物質の輸送の増大、多様化に対処し、輸送の安全確保を図るため、放射性物質の輸送の安全評価等のための調査検討を進めるとともに、国際原子力機関(IAEA)放射性物質安全輸送規則の改訂に伴い、同規則に準拠している国内法令の見直しのための検討を行う。 さらに、IAEAにおける原子炉の安全基準作成に関する検討及び放射性物質の安全輸送に関する検討並びに経済協力開発機構-原子力機関(OECD-NEA)における原子力施設安全規制国際協力事業に参加するとともに、米国、フランス等との間で安全規制の情報交換を進め、我が国の安全審査指針、基準等の整備等安全規制の充実に資する。 なお、原子力全般に係る安全問題について専門家によるシンポジウムを開催することとする。 また、放射性同位元素等の利用の拡大に対処して、より一層の安全確保に努める。 国際放射線防護委員会(ICRP)の新勧告の国内制度への取り入れについては、放射線審議会における審議及び関係行政庁における検討が進められているところであるが、放射線審議会の意見具申を踏まえて所要の措置を検討する。 (2)安全研究の推進 安全規制の裏付けとなる科学技術的知見を蓄積し、名種安全審査指針・基準等の一層の整備・充実及び原子力施設の安全性の向上に資するため、軽水炉等原子力施設の工学的安全研究、放射線障害防止に関する研究等の環境安全研究及び放射性廃棄物安全研究を推進する。 ① 工学的安全研究 軽水炉に関する工学的安全研究については、日本原子力研究所を中心に、国立試験研究機関等の協力の下に、総合的、計画的に実施する。特に、日本原子力研究所においては、加圧水型軽水炉の小破断冷却材喪失事故時の総合実験(ROSA-Ⅳ計画)、原子炉安全性研究炉(NSRR)による反応度事故に関する試験研究、材料試験炉(JMTR)及び実用燃料照射後試験施設(大型ホットラボ)による燃料の安全研究等を実施する。また、引き続き炉心損傷挙動に関する研究等を実施する。 再処理施設等核燃料施設に関する工学的安全研究については、日本原子力研究所等において、臨界安全性に関する研究、しゃへい安全性に関する研究、再処理施設の安全評価に関する研究等を実施するとともに、臨界安全に関する安全研究等に必要な研究施設の整備に着手する。また、高速増殖炉等の新型炉に関する工学的安全研究については、動力炉・核燃料開発事業団において燃料、材料の安全性に係る研究、崩壊熱除去に関する研究等を進める。 このほか、金属材料技術研究所、地質調査所、船舶技術研究所等の国立試験研究機関においても、再処理施設の耐食安全性に関する研究、断層の活動性評価法に関する研究、使用済燃料輸送船の船内放射線量率分布に関する研究等の安全研究を実施する。 さらに、国際協力による安全研究として、燃料の性能及び信頼性等に関する研究を行うハルデン計画、冷却材喪失事故時における燃料損傷に関する研究を行うLOFT計画、炉心損傷及びソースタームに関する研究を行うSFD計画、エアロゾル状の核分裂生成物の閉じ込め試験を目的とするLACE計画、燃料照射研究を行うバッテル計画、再処理施設の臨界安全性に関する日米共同研究計画等に参加するほか、日本原子力研究所の原子炉安全性研究炉(NSRR)及び冷却材喪失事故試験装置(ROSA-Ⅳ)と、米国、西ドイツ、フランス等の安全性実験施設との間の研究員の相互派遣、情報の交換等を行う。 ② 環境放射能安全研究 放射線障害防止に関する調査研究として、放射線医学総合研究所を中心に、低レベル放射線による晩発障害、遺伝障害、内部被ばく、トリチウムの生物影響に関する研究等を推進する。特に、プルトニウムの内部被ばくに関する研究を強化するため、同研究所の内部被ばく実験棟において、プルトニウムを使用した本格的研究を開始する。さらに、人体に対する放射線のリスクの評価に係る研究を積極的に推進する。放射線医学総合研究所以外の国立試験研究機関等においては、遺伝子に対する放射線効果における細胞内環境の役割に関する研究等を実施する。 また、環境放射能に関する調査研究として、放射線医学総合研究所、その他の国立試験研究機関、日本原子力研究所、地方公共団体試験研究機関等において、環境放射線モニタリング及び公衆の被ばく線量評価に関する調査研究並びに一般環境、食品及び人体内の放射能の挙動と水準の調査を引き続き行うとともに、気象研究所において大気拡散数値モデル等に関する研究に着手する。 ③ 放射性廃棄物安全研究 低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分に関する安全研究については、日本原子力研究所において、環境安全評価に資するため、環境シュミレーション試験、放射性核種の地表面移行試験等を実施するほか、実サイトに適用しうる総合安全評価モデルの整備を図る。また、海洋処分については、海洋科学技術センター等において、海洋環境モニタリングに関する調査研究等を引き続き実施する。 なお、超ウラン元素(TRU)廃棄物の処分に関する安全研究については、日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団において、TRU核種の地層環境下における挙動に関する試験研究等を実施する。 高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する安全研究については、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、地質調査所等において、地層処分に関する安全評価、指針基準等の考え方に係る基本的な調査研究を進めるほか、人工バリアに係る試験研究として、地層処分施設の安全評価手法に関する研究、ガラス固化体、固化体容器等の安全性評価手法に関する研究等を実施する。また、天然バリアに係る試験として、処分場周辺の地層の安定性に係る安全性評価に関する研究、天然バリアによる閉じ込め性能の安全性評価手法に関する研究、天然バリア中のウラン挙動研究等を実施する。さらに、地層処分の総合安全性評価手法に関する研究等を進める。 特に、天然バリアに係る試験については、カナダ、スウェーデン等諸外国との情報交換、人的交流等による国際協力を積極的に推進する。 (3)防災対策の充実 原子力施設の万一の緊急時における防災対策を推進するため、引き続き緊急時連絡網、緊急時環境放射能監視体制、緊急医療体制及び防災活動資機材の整備を進めるとともに、引き続き緊急時迅速放射能影響予測システムの整備、緊急技術助言組織による助言の迅速・的確化等のための調査研究の推進等防災対策の充実強化を図る。 (4)原子力事業従事者の被ばく管理対策の充実 原子力事業従事者の被ばく管理については、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律、労働安全衛生法等に基づき、今後ともその徹底を図る。さらに、定期検査等における従事者の被ばく線量の低減化対策の充実を図る。 (5)核燃料サイクルの確立、新型炉の開発等に当たっての安全確保 使用済燃料の再処理等核燃料サイクルの確立、推進、原子炉の廃止措置に関する技術開発の推進、高速増殖炉及び新型転換炉等新型炉の開発、核融合の研究開発等の進展が図られているので、これらに即応して、必要な安全審査指針・基準の検討及び安全性に関する研究開発を進める。 2.原子力発電の推進 近年、原子力発電の必要性及び安全性についての国民の認識は高まってはきているものの、立地地域における合意形成は必ずしも容易なことではなく、地域の固有事情を踏まえ、よりきめ細かい推進方策を総合的に展開し、合意形成の促進に努め、原子力発電を推進する必要がある。 また、現在の発電炉の主流を占める軽水炉の信頼性等の向上を図るため、技術の高度化等を推進する必要がある。以上の見地から次の施策を講ずる。 (1)原子力発電所等の立地の促進 ① 広報活動等の推進 原子力研究開発利用に関する国民の正しい認識を求め、原子力発電及び核燃料サイクルを始めとする原子力の研究開発利用を一層円滑に推進するため、マスメディアの一層の活用、講演会及び各種セミナーの開催、オピニオンリーダーに対する資料送付、原子力映画・ビデオの作成等各種広報素材の提供、原子力モニター制度の活用等により広報活動等を積極的に推進する。 さらに、原子力発電所、核燃料サイクル施設等の立地を円滑に進めるために立地予定地域のオピニオンリーダー等を対象とした原子力講座等の開催を図るとともに、原子力発電所をはじめ再処理施設等の立地の初期段階における地元住民の理解と協力を得るための施策を進め、また地方自治体の行う広報対策等への助成を行う。 また、電源立地調整官等の機動的な対応により、原子力発電所の立地に係る地元調整を推進するとともに、原子力発電所の立地県については、原子力連絡調整官による地元と国との連絡調整を進める。さらに、核燃料サイクル施設の立地に係る地元と国との密接な連絡調整の充実・強化を図る。 ② 立地地域の振興対策の充実等 発電用施設周辺地域整備法等の電源三法を活用し、原子力発電施設等の周辺住民の福祉の向上等に必要な公共用施設の整備、地域の産業振興及び住民、企業等に対する給付金の交付等の施策を引き続き推進する。また、周辺海域を含む施設周辺の環境放射能の調査・監視、温排水の影響調査、防災対策、原子力発電施設等の安全性・信頼性実証試験等を推進し、原子力発電施設等の立地の円滑化を図る。 さらに、昭和61年度には、電源立地促進対策交付金の原子力施設に係る交付金単価の特別措置の延長等を図るとともに、原子力発電施設等周辺地域交付金の交付対象施設の着工期限の延長を行う。 (2)軽水炉技術の高度化等の推進 現在、建設、運転が進められている軽水炉について、信頼性、稼働率の向上、保守点検作業の効率化、作業員の被ばく低減化等の観点から、自主技術を基本として、技術の高度化を図り日本型軽水炉を確立するための調査を行うとともに、原子力発電検査技術の開発及び原子力発電施設の補修作業等を行うロボットの開発を行い、また、民間における原子力発電支援システムの開発の助成を行う。 また、軽水炉の安全性・信頼性を実証するため、大型再冠水効果実証試験、配管信頼性実証試験、耐震信頼性実証試験、ポンプ信頼性実証試験、実用原子力発電施設安全性実証解析等を実施する。さらに、作業員の被ばく低減化のための技術開発を行うとともに原子炉内蔵型再循環ポンプ、大型炉心、高性能燃料等について確証試験を実施し、その実用化の促進を図るとともに、新たに、高機能炉心に関する技術調査、高燃焼度燃料確証試験に着手する。さらに、軽水炉の長寿命化及び稼働率向上のための技術開発等を実施する。 このほか、実用発電用原子炉の恒久的な運転終了に備えて日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)をモデルとして解体実地試験に着手するなど原子炉の廃止措置に関する技術開発を推進する。また、実用発電用原子炉の廃止措置に使用される設備について確証試験を行うとともに、同措置に伴って生ずる放射性廃棄物の処理処分方策に係る調査に着手する。 また、原子力発電所の新立地方式技術として高耐震構造立地技術の確証試験を実施する。 3.核燃料サイクルの確立 我が国の自主的核燃料サイクルを早期に確立するため、海外ウラン調査探鉱活動の推進、ウラン濃縮国産化対策の推進、国内再処理事業の確立のための施策の推進、放射性廃棄物の処理処分対策の推進等を行う。 (1)ウラン資源確保策の推進 動力炉・核燃料開発事業団によるオーストラリア、カナダ、ニジェール等における単独、または、諸外国の機関と共同で行う海外ウラン調査探鉱活動の重点化を図るとともに、成果の得られたプロジェクトについては、民間への引き継ぎ方策の具体化を図る。また、金属鉱業事業団の出融資制度等により民間企業による海外ウラン探鉱開発活動を助成する。 国内探鉱については、動力炉・核燃料開発事業団で、東濃地区の美佐野鉱床の精密試錘等を行う。さらに、ウラン資源開発のための研究開発として、動力炉・核燃料開発事業団において、ウラン鉱石から、六フッ化ウランまでの製錬転換技術開発のための、製錬・転換パイロットプラントの運転を進める。また、転換の事業化に関する調査を行う。 さらに、動力炉・核燃料開発事業団において、低濃度ウランの回収技術に関する研究を行うとともに、金属鉱業事業団において、海水ウランの技術確証調査を行う。 (2)ウラン濃縮国産化対策の推進 遠心分離法によるウラン濃縮の国産化を図るため、動力炉・核燃料開発事業団においてウラン濃縮パイロットプラントの運転試験を継続するとともに、官民協力の下に、岡山県の人形峠事業所内に建設を進めているウラン濃縮原型プラントについては、建屋の建設、遠心分離機の製作等を継続して行う。また、高性能遠心分離機の信頼性試験を進めるとともに、低コスト化及び複合材料機の開発を含む高性能化に必要な研究開発、遠心分離機量産化技術の開発等を引き続き進める。 さらに、民間によるウラン濃縮商用プラントの建設計画を推進するとともに、民間で行うウラン濃縮遠心分離機製造技術の確立及び耐振動衝撃システム開発に対して助成を行う。 また、レーザー法ウラン濃縮の技術開発については、早期に技術的見通しを得るよう、積極的に推進するとともに民間企業による化学法ウラン濃縮技術のシステム開発調査に対して助成を行う。また、各種ウラン濃縮技術について技術面、経済面等の総合的な評価、調査を行う。 (3)使用済燃料の再処理並びにプルトニウム及び回収ウランの利用の推進 ① 再処理技術の実証等を図るため、動力炉・核燃料開発事業団において、東海再処理工場の安定した操業を行うとともに、所要の施設整備を行う。また、プルトニウム転換施設の運転を行うとともに再処理の改良技術、工程管理技術等の研究開発を進める。 一方、民間による再処理工場の建設計画を推進することとし、動力炉・核燃料開発事業団において、建設及び運転経験によって得られた技術等の円滑な移転を図るとともに、大型再処理施設の環境安全の確保及び保障措置の適用のための技術開発、再処理主要機器及びプロセス機器等の技術確証調査を引き続き行うほか、民間再処理施設における海外技術の国内定着化等を図るための調査に対する助成を行う。また、高燃焼度燃料の再処理技術及び使用済燃料の管理技術に関する研究開発を進めるほか再処理施設の安全解析コードの整備を進めるとともに、再処理施設の安全性を実証するために、耐食安全性実証試験、排気フィルタ安全性実証試験及び臨界安全性実証試験に加え、セル換気系安全性実証試験及び再処理施設安全性実証解析に着手する。 さらに、高速増殖炉の使用済燃料を再処理する技術を確立するため、所要の研究開発を進める。 ② プルトニウムについては、これを高速増殖炉、新型転換炉等の燃料に利用するため、動力炉・核燃料開発事業団において、プルトニウム燃料加工技術の開発、プルトニウム燃料の照射試験等を行う。また、軽水炉へのプルトニウム利用について、少数体規模での実証を推進するとともに、実用規模利用の実証に関する調査等を行う。また、新型動力炉におけるプルトニウム利用方策に関する調査を進める。さらに、プルトニウム取扱施設の安全性を実証するために、グローブボックスの耐震安全性実証試験を引き続き行うとともに、プルトニウムの航空輸送用容器の開発を行う。 ③ 回収ウランを再濃縮して利用する技術の確立を図るため、動力炉・核燃料開発事業団において、回収ウラン転換試験、濃縮カスケード試験装置(BT-3)等による濃縮試験を行う。 ④ また、プルトニウム及びウランの効率的、計画的な利用を促進するため、核燃料サイクル評価システムの確立を図る。 (4)放射性廃棄物の処理処分対策の推進 低レベル放射性廃棄物については、原子力発電の進展に伴い、今後発生量の増大が予想されているところであり、その適正な処理処分のための技術開発を推進するとともに、発生から処理・処分に至る効率的な全体システムの確立に資する調査等を進める。また、将来の最終貯蔵施設における止水技術開発等に対する助成及び原子力発電所から発生する放射性廃棄物の発電所内における最適な処理技術開発について、経済性等の観点から調査に着手する。 処分のうち、陸地処分については、引き続き日本原子力研究所における環境シュミレーション研究等の安全評価に関する試験研究を推進するとともに、処分技術に関する調査研究等を進める。また、原子力発電所等の敷地外における最終貯蔵の計画についてその推進を図るとともに、安全性実証試験を継続し、最終貯蔵技術の開発として新型容器、新型固化体等の開発を進める。さらに、放射性廃棄物処分の安全解析コードの整備に着手する。 海洋処分については、関係国の懸念を無視して強行はしないとの方針の下に、ロンドン条約締約国協議会議の下に進められている諸検討に関し、関係諸国とも協議しつつ慎重に対処する。 極低レベル廃棄物については、合理的処分の安全性実証試験及びリサイクル利用の可能性についての調査を進める。 高レベル放射性廃棄物の処理処分については、動力炉・核燃料開発事業団を中心に進められている。 動力炉・核燃料開発事業団においては、ガラス固化処理の関連技術開発、固化プラントの調整設計、貯蔵プラントの概念設計等を進めるとともに、地層処分に関し、地層に関する調査研究、人工バリアに関する研究、処分予定地の選定に資するための広域調査等を進めるほか貯蔵工学センターの立地環境調査を引き続き進め、また、同センターについての地元の理解を深めるための広報活動を行う。 日本原子力研究所においては、処理処分に関する安全性評価試験等を引き続き実施する。また、国立試験研究機関等においても、処理処分に関する基礎的調査研究を実施する。さらに、国際協力の分野においては、日豪協力によるシンロック固化処理の研究等を進めるほか、日加協力による地層処分の研究に着手する。 また、アルファ放射性廃棄物の処理処分に関する調査を行うとともに、動力炉・核燃料開発事業団において、プルトニウム廃棄物処理施設の建設を進める。 使用済燃料の海外再処理委託に伴う返還廃棄物に関しては、その技術仕様についての検討を行うとともに、我が国への受入れが円滑に行えるよう受入れ・貯蔵システムに関する開発調査・受入れ検査機器の開発、仕様承認調査を行うほか、動力炉・核燃料開発事業団において固化体物性、耐震性等の試験を行う。 4.新型炉の開発 (1)新型動力炉の開発 核燃料の有効利用を目指す新型動力炉である高速増殖炉及び新型転摸炉の開発を推進する。 ① 高速増殖炉 高速増殖炉の開発については、動力炉・核燃料開発事業団において、実験炉「常陽」について熱出力10万kwの照射用炉心での定格運転を行い燃料、材料の照射試験を実施する。同原型炉「もんじゅ」については、昭和67年度臨界を目途として、敷地造成工事等の準備工事及び建物の建設工事を進めるほか、機器の設計・製作・据付を行うとともに機器システム、燃料、材料、安全性等の研究開発を進める。また、同実証炉の開発については電気事業者及び動力炉・核燃料開発事業団が相互に連絡・調整を取りながらメーカーの協力を得て進める。 ② 新型転換炉 新型転換炉原型炉「ふげん」については、連続運転を実施して、実証炉設計等へ反映するための運転経験及びデータの蓄積と評価を進めるほか、供用期間中検査装置の開発等の運転に関連する研究開発を進める。 同実証炉については、建設、運転の実施主体である電源開発株式会社において、用地取得等を行い、動力炉・核燃料開発事業団においては、関連する研究開発を進める。 ③ その他 動力炉・核燃料開発事業団において高速増殖炉「常陽」及び新型転換炉「ふげん」に使用するプルトニウム燃料の開発のため、引き続き、プルトニウム燃料製造施設の操業を行う。また、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の燃料を製造する高速増殖炉燃料製造技術開発施設の建設を進めるとともに、試運転を行う。さらに、新型転換炉実証炉の燃料を製造する新型転換炉実証炉燃料製造技術開発施設の建設を進める。また、同実証炉の安全解析コードの整備を進める。 また、新型動力炉原型炉の各種機器・機材等の寿命信頼性等に関する実証試験を進める。 (2)高温ガス炉の研究開発 高温ガス炉の開発については、日本原子力研究所において、実験炉の総合調整設計を行うとともに、実験炉を構成する各種プラント機器の安全性を実証するための大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)の炉内構造物実証試験部T2による試験に着手するとともに、燃料体スタック実証試験部T1による試験を進める。 さらに、高温構造試験、伝熱流動試験等の実施及び被覆粒子燃料、黒鉛材料、耐熱金属材料等の研究開発を進めるとともに高温ガス炉臨界実験装置(VHTRC)による炉物理実験を行う。 5.核融合の研究 核融合については、大学における各種研究の進展を総合的に考慮し、国際協力の推進にも留意しつつ、日本原子力研究所におけるトカマク方式による大規模な研究開発、国立試験研究機関による研究等を計画的に推進する。 日本原子力研究所においては、昭和62年末の臨界プラズマ条件達成を目途として臨界プラズマ試験装置(JT-60)の実験を引き続き行うとともに、同条件の達成に不可欠な加熱装置の製作・据付・試験を進める。また、高性能トカマク開発試験装置(JFT-2M)による非円形断面トーラスプラズマの研究を行うとともに、プラズマ加熱の研究開発、核融合炉心工学技術の研究開発、超電導磁石技術をはじめとする炉工学技術の研究開発等を進める。 特に、核融合燃料であるトリチウムについては、大量トリチウム取扱技術の開発、習熟を目指し、トリチウムプロセス研究棟の整備等を進める。 電子技術総合研究所においては、高ベータ・プラズマの研究のため逆磁場ピンチ型核融合装置(TPE-1RM・15)による実験等を進める。また、金属材料技術研究所においては、材料の基礎的研究を行う。 さらに、米国のダブレット-Ⅲを使った共同実験、核融合材料の共同照射研究等の日米間の共同研究等の二国間協力並びに、IAEAのINTOR計画、国際エネルギー機関(IEA)の大型超電導磁石計画(LCT計画)及び米国のTFTR、ECのJETと我が国のJT-60の間での大型トカマク装置の研究協力等の多国間協力を推進し、我が国の核融合研究開発の効率的推進に資することとする。 6.原子力船の研究開発 日本原子力研究所において、原子力船「むつ」の維持、管理を行うとともに、関根浜地区における新定係港の建設を進める。また、将来の舶用炉の開発のための研究についても引き続き行うものとする。 また、船舶技術研究所においても、原子力船に関する研究を進める。 7.放射線利用の推進 放射線利用については、医療分野における各種疾病の診断、サイクロトロンによるガン治療等に関する研究、工業分野における放射線化学の研究開発、農林水産分野における放射線育種の研究等を推進する。 このため、放射線医学総合研究所において、サイクロトロンを用いて速中性子線及び陽子線によるがん治療研究を引き続き進めるとともに、がん治療成績の著しい向上が期待される重粒子線の医学利用に関する調査研究を実施するとともに重粒子線がん治療装置の基本設計等を推進する。また、ポジトロン核種による診断に関する研究開発等、短寿命ラジオアイソトープの生産・利用の技術開発を推進する。 日本原子力研究所においては、放射線化学関係の研究、ラジオアイソトープの生産及び利用を推進するとともに、新材料、情報・電子、ライフサイエンス等の分野における放射線利用研究の推進に必要なイオン照射装置の設計研究に着手する。 さらに理化学研究所において、重イオン計測技術の開発等を進めるとともに、国立試験研究機関においては、電子技術総合研究所における放射線標準に関する研究、国立病院等における放射性同位元素を用いた疾病の診断に関する研究、農林水産省各試験場における放射線による品種改良、トレーサー利用による生理生態研究等を行うほか、国立衛生試験所における食品照射に関する研究等に着手するなど、放射線利用に関する研究を推進する。 さらに、鹿児島県奄美諸島及び沖縄県下の諸島における放射線照射によるウリミバエ防除事業に対して必要な助成を行う。 8.原子力開発利用の基盤強化 (1)基礎研究等の充実 我が国独自の原子力技術の研究を進めるため、その基盤となる基礎研究等を、日本原子力研究所、理化学研究所及び国立試験研究機関において大学との緊密な連携の下に推進する。 日本原子力研究所においては、汎用研究炉の老朽化及び最近の研究炉利用の動向に対処するためにJRR-3の改造を進めるとともに材料試験炉等による各種燃料・材料の照射試験を引き続き実施する。 また、タンデム型重イオン加速器の運転を行い材料の照射損傷、核データ等の研究及び核融合等の開発に資するとともに高転換型軽水炉については、炉物理等の研究を行い、炉の概念について検討を行う。 理化学研究所においては、重イオン科学用加速器の前段加速器である線型加速器を用いて重イオンに関する各種研究を引き続き進めるとともに、重イオン科学用加速器の後段加速器であるリングサイクロトロンの建設を進め、一部実験を開始する。 (2)科学技術者等の養成訓練 原子力関係技術者の養成訓練については、大学に期待するほか、海外に留学生として派遣し、その資質向上に努める。また、日本原子力研究所のラジオアイソトープ・原子炉研修所及び放射線医学総合研究所において養成訓練を引き続き実施する。 また、引き続き、原子力発電所等の運転員の長期養成計画、資格制度の運用により運転員の資質向上を図る。 9. 国際協力の推進 (1)多国間協議としては、核不拡散を担保しつつ原子力資材等の供給を円滑に行うための協議等が、IAEAを中心として進められており、我が国としても他の原子力先進国と協調を図りつつ、積極的にこれに参加していく。また、二国間協議としては、日米間で再処理等についての事前同意を長期的かつ予見可能な形で得るための取極めに関する協議が進められており、我が国の原子力平和利用をより一層円滑に実施していけるよう、本協議の早期解決を目ざし努力する。また、日中間においては、昭和60年7月に、日中原子力協力協定が署名されたところであり、本協定に基づく協力の強化、拡充を図っていく。 (2)また、原子炉の安全研究協力、核融合、新型動力炉の開発、多目的高温ガス炉の研究開発等の各分野において、欧米先進国との二国間協力及びIAEA、OECD-NEA等を通じた多国間協力を進める。 (3)開発途上国との関係については、IAEA技術協力計画及び原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練に関する地域協力協定(RCA)に基づく協力を進めるほか、各国との原子力関係者の交流の促進の強化等を通じて、核不拡散に配慮しつつこれら諸国との関係強化を図る。また、今年度から各国の原子力開発利用の発展段階とそのニーズを踏まえつつ開発途上国が自立的かつ着実な原子力開発を進めるために研究者の交流を積極的に推進する。 10.保障措置及び核物質防護対策の強化 (1)保障措置 核兵器の不拡散に関する条約(NPT)に基づく保障措置のより有効な実施を図るため、核物質に関する情報処理、査察、試料の分析等の国内保障措置業務を一層充実するとともに、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、核物質管理センター等において、保障措置技術の改良に関する研究開発を積極的に推進するほか、対IAEA保障措置支援計画(JASPAS)の推進を始めとするIAEA等との国際共同研究計画への参加や、米国、西ドイツ等との保障措置技術開発のための協力を積極的に推進することを通じ、より効率的、効果的な保障措置体制の確立を図る。また、民間再処理事業計画の円滑化に資するため、IAEAにおける大型再処理施設保障措置適用性評価に関する検討に対し、必要な支援を行う。 (2)核物質防護 核物質防護については,原子力発電所、日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団の施設を始めとする各種原子力施設の防護措置及び輸送に係る防護措置の一層の充実を図るとともに、関連調査研究等を行う。さらに、核物質防護条約等核物質防護に関する国際的な動向にも留意しつつ、関係法令に関する検討を行うなど国内核物質防護体制の一層の整備・充実を進める。 Ⅱ 昭和61年度原子力関係予算の概要 昭和61年度における原子力開発利用を推進するために必要な原子力関係予算及び人員は次表のとおりである。(1)昭和61年度原子力関係予算総表 |
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