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昭和58年度原子力関係経費の見積りについて



昭和57年9月7日
原子力委員会

 Ⅰ 昭和58年度施策の概要

 我が国において原子力発電は、全発電電力量の約17%を占め、既に電力供給の重要な担い手となっており、また放射線利用も工業、農業、医療等の分野で幅広く進められるなど、原子力は国民生活や産業活動に不可欠のものとなっているが、原子力研究開発利用の進展に伴い、克服すべき現実の課題が多くなってきている。

 すなわち、原子力研究開発利用の推進に当たっては、安全の確保が大前提であり、その上にたって広い国民的支持を得るよう努める必要がある。そのためには、何よりもまず、原子力発電所等の安全運転の実績を積み上げていく必要があり、国としては原子力安全規制行政の充実を図り、安全研究の推進をはじめとする安全確保対策の強力な展開を図るとともに、万一の事態に備えた防災体制の整備充実に努めることが重要である。

 また原子力発電所等の立地難の打開を図るためには、原子力発電の必要性と安全性について、国民の理解を得る方策の充実とともに、電源三法等を活用して、地域の振興を図るための施策を、より効率的、効果的に推進しつつ、地域の実情に応じたきめ細かな立地促進策を展開する必要がある。

 更に、中長期的観点から、原子力発電を拡大していくに当たっては、ウラン濃縮、再処理、放射性廃棄物処理処分等の核燃料サイクルを早期に確立する必要があるほか、高速増殖炉等の新型動力炉の開発、核融合の研究等を精力的に推進していく必要がある。これらの研究開発は今後ますます大型化していくため、必要な資金及び人材を確保し、計画的かつ効率的に推進することに留意せねばならない。

 一方、国際的には、核拡散に対する懸念が増大しつつある中で、多国間協議や二国間交渉等を通じて、核拡散防止と、原子力平和利用の両立のための新たな国際秩序の形成の努力が行われている。我が国としては原子力の利用は厳に平和目的に限るとの立場を堅持し、世界の核不拡散体制の確立に積極的に貢献していくとともに、より効果的な保障措置体制の整備等を図る必要がある。

 以上の原子力をめぐる内外情勢を踏まえ、原子力委員会は、先般、21世紀を展望し、今後10年間における原子力開発利用に関する重点施策の大綱とその推進方策を示す新たな原子力開発利用長期計画を策定したところである。

 原子力開発利用長期計画にも示されているとおり、原子力研究開発については、その成果が得られるまでのリードタイムが長いこと等から、今後、長期的かつ着実に、資金及び人材の拡充を図っていく必要があるが、昨今の厳しい行財政事情を考慮して、一般会計については、可能な限り当面の資金需要等の縮小を図っている。その結果、後年度における資金負担等の大幅な増加が避けられず、原子力研究開発利用の円滑な推進を図るためには、次年度以降、特段の財政措置が必要となっている。

 また、電源開発促進対策特別会計に係る原子力研究開発利用に必要な経費についても、可能な限り民間資金の導入、歳出の抑制等を図った結果、必要最小限の歳出となっているが、現行の税収規模では対処しきれない状況にある。

 従って、政府においては、このような事情を十分考慮し、昭和58年度の予算編成に当たっては、所要財源及び人材の確保に特段の配慮がなされるよう期待したい。

 以上のような考え方に基づき、昭和58年度は、新しい原子力開発利用長期計画の実質的な初年度として、以下の施策を講じ、原子力研究開発利用の総合的かつ計画的な推進を図るものとする。

1. 安全確保対策の総合的強化

(1) 原子力安全規制行政の充実

 原子力安全委員会においては、安全確保総合調査及び公開ヒヤリングを実施し、行政庁の行った安全審査の再審査(ダブルチェック)等に万全を期するとともに、国際的に行われる安全基準策定作業等に協力しつつ、我が国の審査基準の充実を図る。

 行政庁における安全規制については、原子力施設の安全審査及び検査の充実強化を図るとともに、運転管理専門官制度の充実等により運転管理監督体制の強化を図る。

(2) 安全研究の推進

 安全規制の裏づけとなる各種データの蓄積及び原子力施設等の各種の安全審査基準、指針のより定量化、精密化を図ることを目的として以下の安全研究を推進する。

 ① 工学的安全研究

 原子力施設については、日本原子力研究所において国立試験研究機関の協力を得て、引きつづき、緊急炉心冷却実験装置による沸騰水型軽水炉の冷却材喪失事故実験(ROSA-Ⅲ計画)、加圧水型軽水炉の小破断冷却材喪失事故時の総合実験(ROSA-Ⅳ計画)、原子炉電線材料等の健全性に関する研究、原子炉安全性研究炉(NSRR)による反応度事故時の試験研究、実用燃料照射後試験施設(大型ホット・ラボ)による燃料の安全研究等を実施する。

 更に、国際協力による燃料、材料等に関する安全研究として引き続きハルデン計画、LOFT計画、バッテル計画、炉心損傷研究計画等に参加する。また、防災科学技術センター等において、原子力施設の耐震性評価に関する研究等を実施する。

 核燃料施設及び輸送容器については、日本原子力研究所を中心に、遮蔽安全性実験、臨界安全性実験等を実施するとともに、各種安全解析コードの開発に係る安全研究を進める。

 ② 環境安全研究

 放射線医学総合研究所を中心に、環境放射能の挙動に関する研究、低レベル放射線による晩発障害、遺伝障害、内部被曝に関する研究、トリチウムの生物影響に関する研究等を推進する。特に、プルトニウムの内部被曝研究を強化するための内部被曝実験棟の建設を昭和59年度の完成を目途に進め、58年度に一部、その運転を開始するとともに、人体に対する放射線のリスクの評価解析を行う。

 また、防災対策関連の研究として、日本原子力研究所を中心に環境放射能予測システムに関する研究等を推進する。

(3) 防災対策の強化

 原子力施設の万一の緊急時に備えて緊急時連絡網、緊急時環境放射能監視体制及び緊急医療体制の整備、関連調査研究の推進等防災対策の充実強化を図る。特に原子力発電施設等緊急時安全対策交付金については、緊急時に必要な防護資機材の整備を図るための制度改善を行う。

(4) 放射線障害防止対策の充実

 原子力施設等における従事者の放射線被曝による障害の防止対策の充実を図るとともに、放射性同位元素等に関する安全規制体制の充実を図る。

(5) 環境安全の確保

 原子力施設周辺の放射能調査体制の拡充を図るとともに、一般環境の放射能水準調査、原子力軍艦の寄港及び外国の核実験に関連する放射能調査等を引き続き行い、環境放射能の監視に万全の措置を講ずる。

 また、原子力利用に係る環境保全に万全を期するため、原子力発電所等の立地に際し、温排水等に係る環境審査を引き続き実施する。

(6) 放射性物質輸送の安全確保

 放射性物質の輸送の増大に対処し、輸送の安全確保を図るため、放射性物質の輸送の安全性評価及び緊急時対策のための調査検討を進めるとともに、国際原子力機関(IAEA)における放射性物質安全輸送規則の改訂事業に協力する。

2. 原子力発電の推進

(1) 軽水炉の改良標準化等の推進

 軽水炉については、信頼性、稼働率の向上、保守点検作業の効率化、作業員の被曝低減化等の観点から、自主技術を基本としつつ国際協力を図って改良標準化を推進するための調査を行うとともに、原子力発電所に係る品質保証対策のための調査、原子力発電検査機器の開発のための調査及び民間における原子力発電支援システムの開発の助成を行う。

 また、軽水炉の安全性・信頼性を実証するため大型再冠水効果実証試験、配管信頼性実証試験、耐震信頼性実証試験、ポンプ信頼性実証試験等を実施する。

 更に、作業員の被曝低減化のための確証試験及び技術開発を実施するとともに、原子炉内蔵型再循環ポンプ、高性能燃料等について確証試験を実施し、その実用化の促進を図る。

 このほか、原子力発電所の廃止の時期に備えて、日本原子力研究所において動力試験炉(JPDR)をモデルとして、原子炉解体の技術開発を推進するとともに、発電用原子炉の廃止措置に使用される設備について確証試験を実施する。

 また、原子力発電所の新立地技術については、技術調査を行うとともに、高耐震構造立地技術の確証試験を実施する。

(2) 原子力発電所等の立地の促進

 原子力発電の円滑な推進のためには、原子力発電をはじめとする原子力の研究開発利用について、広く国民の理解と協力を得ることが極めて重要である。

 このため、前述の安全確保対策の強化を図るほか以下の施策を進める。

 ① 広報活動等の強化

 原子力研究開発利用に対する国民の理解を求め、原子力発電をはじめとする原子力の研究開発利用を一層円滑に推進するため、テレビ、出版物等の活用、公開ヒアリング、講演会、名種セミナーの開催、オピニオンリーダーに対する資料送付、原子力広報映画の作成、原子力モニター制度の活用などにより、広報活動を積極的に推進する。

 特に、原子力発電所等の立地を円滑に進めるために、その立地予定地域における広報活動を積極的に展開し、さらに立地予定地域のオピニオンリーダーを対象とした原子力講座等の開催を図るとともに、原子力発電所をはじめ、再処理施設等の立地の初期段階における地元住民の理解と協力を得るための施策を進める。また電源立地調整官等の機能的活動により原子力発電所の立地に係る地元調整を推進するとともに、原子力発電所の設置県については、原子力連絡調整官による地元と国との連絡調整を進める。

 ② 立地地域の振興方策の充実

 電源三法等を活用し、原子力発電施設等の周辺の地域の振興を図るため、公共用施設の整備、地域の産業振興及び住民、企業等に対する給付金の交付等の施策を引き続き推進することとし、昭和58年度においては、電力移出県等交付金について、各県の移出電力量及び石油代替電源の割合に応じて交付金額の見直しを図るほか、電源立地促進対策交付金についても、交付対象施設の充実を図り、交付金を一層効率的、効果的なものとする。

3. 核燃料サイクルの確立

(1) ウラン資源の確保

 動力炉・核燃料開発事業団による海外ウラン調査探鉱活動を重点的に実施するとともに、民間企業による海外ウラン探鉱開発活動に対する助成を行い、ウラン資源の確保に努める。

 また、ウラン資源開発に関連した研究開発として、動力炉・核燃料開発事業団において製錬転換パイロットプラントの運転等を進めるとともに、海水ウランの回収システムについて、金属鉱業事業団においてモデルプラントの建設による確証調査を行う。

(2) 濃縮ウランの確保

 遠心分離法によるウラン濃縮国産化を図るため、動力炉・核燃料開発事業団においてパイロットプラントの運転試験を引き続き行うとともに、原型プラントの建設に着手する。また、高性能遠心分離機の信頼性試験に着手するとともに、より高性能化及び低コスト化に必要な研究開発、遠心分離機量産化技術の開発等を引き続き進める。

 更に、ウラン濃縮の事業化に関する調査を行うほか、民間における遠心分離機製造技術確立に対し助成を行う。

 また、民間企業による化学法ウラン濃縮技術の試験研究及びシステム開発に対して引き続き助成を行う。

(3) 使用済燃料の再処理並びにプルトニウム及び回収ウランの利用

 再処理技術の実証と確立を図るため、動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設及びプルトニウム転換施設の操業を行うとともに、高レベル放射性廃液貯槽の建設等所要の施設整備を行う。

 更に、同事業団において再処理の改良技術、放射性物質の放出低減化技術等の研究開発を進める。

 また、民間再処理工場の設計・建設に必要な技術確証調査、環境安全、保障措置に関する試験研究を引き続き行う。

 更に、動力炉・核燃料開発事業団において、高速増殖炉の使用済燃料を再処理する技術を確立するため、所要の研究を進める。

 プルトニウム利用については、軽水炉のプルトニウム実用規模利用の実証性調査を行うとともに、高速増殖炉及び新型転換炉用燃料に利用するためのプルトニウム燃料加工技術の開発及び照射試験等を行う。また、新型転換炉実証炉燃料製造技術開発施設の建設に着手する。

 更に、回収ウランを再濃縮して利用する技術の確立を図るため、動力炉・核燃料開発事業団においてUF6転換試験を進めるとともに、カスケード試験装置(BT-3)による濃縮試験を引き続き実施する。

(4) 放射性廃棄物の処理処分

 低レベル放射性廃棄物の海洋処分の安全性の確認と処理処分技術の確立を図るための試験的海洋処分については、内外関係者の理解を得て、実施できるよう努める。また、陸地処分についても、パッケージ及び処分施設の基準化のための調査、陸地処分試験の準備の一環としての環境モニタリング手法確立のための調査研究及び陸地処分に係る安全性実証試験を引き続き実施する。また、施設貯蔵については、安全性実証試験を継続する。

 更に民間が行う発生量の低減化、減容化等のための処理技術開発に対する支援及び極低レベル廃棄物の合理的処分方法の調査等を引き続き実施する。

 再処理施設で発生する高レベル放射性廃液については、動力炉・核燃料開発事業団において、ガラス固化処理の技術開発、固化パイロットプラントの設計等を進めるとともに、地層処分等に関する調査研究を進める。また、日本原子力研究所においては、処理処分に関する安全性評価試験を引き続き実施する。更に、放射性廃棄物処理処分対策に必要な調査を進める。

 また、海外再処理に伴う返還固化体に関し、その技術仕様についての検討を行うとともに、我が国への受入れが円滑に行えるように受入れ・貯蔵システムに関する調査を行うほか、動力炉・核燃料開発事業団等において、冷却特性、耐震性等の試験を行う。

4. 動力炉の開発

(1) 新型動力炉の開発

 長期的観点に立った核燃料の有効利用を目指す次代の新型動力炉である高速増殖炉及び新型転換炉の開発を進める。

 高速実験炉については、照射用炉心の特性試験を行った後、高速増殖炉用燃料、材料の照射試験のための運転を行う。

 同原型炉については、設計研究、炉物理、機器、燃料・材料、安全性、蒸気発生器等の研究開発を進めるとともに、昭和65年度臨界を目途に、建設を進める。

 新型転換炉原型炉については、定格運転を継続し、運転経験を蓄積するほか、使用期間中検査装置の開発等の運転に関連する研究開発を進める。

 同実証炉については、建設・運転の実施主体である電源開発株式会社において、基本設計の実施等の建設準備を行い、動力炉・核燃料開発事業団においては、関連する研究開発を進める。

(2) 多目的高温ガス炉の研究開発

 製鉄、水素製造等非電力部門への核熱エネルギーの利用を目的とする多目的高温ガス炉の開発については、日本原子力研究所において、プラント機器の安全性を実証するための大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)の建設を引き続き行うとともに実験炉の詳細設計を進める。

 また炉心耐震試験、高温構造試験等の実施及び被覆粒子燃料、黒鉛材料等の研究開発及び実証試験を進める。

 更に、半均質臨界実験装置(SHE)の炉心を改造し、実験炉の炉物理研究を行う。

5. 核融合の研究

 人類究極のエネルギー源である核融合動力炉の実現を目指し、その前提となる臨界プラズマ条件を達成するための研究を推進する。

 日本原子力研究所においては、昭和59年度末の運転開始を目途に、臨界プラズマ条件達成を目指した臨界プラズマ試験装置(JT-60)の建設を進める。また、トーラスプラズマの研究、非円形断面トーラスプラズマの研究、プラズマ加熱の研究開発、核融合炉心工学、炉工学技術の研究開発等を進めるとともに、臨界プラズマ試験装置等の核融合研究施設の建設用地の確保等引き続きサイトの整備を行う。また、トリチウムの製造、取扱技術の研究開発を拡充強化する。

 電子技術総合研究所においては、高ベータ・プラズマの研究のため、昭和58年度完成を目途に圧縮加熱型核融合装置(TPE-2)の建設を進める。理化学研究所においては、プラズマの診断・真空技術の基礎的研究を進める。金属材料技術研究所及び名古屋工業試験所においては、材料の基礎的研究を行う。

 なお、超電導磁石技術については、日本原子力研究所、電子技術総合研究所、金属材料技術研究所等において研究開発を進めるとともに、経済協力開発機構国際エネルギー機関(OECD-IEA)の大型超電導磁石国際協力計画(LCT計画)に基づき、日本原子力研究所が製作したLCTコイルの共同実験を行う。

 また、日米協力ではダブレットⅢ共同実験及び材料共同研究を進めるとともに、国際原子力機関(IAEA)等多数国間の核融合研究についての国際協力を推進し、我が国の核融合研究開発の効率的実施に資することとする。

6. 原子力船の研究開発

 原子力船の研究開発については、日本原子力船研究開発事業団において、原子力第一船「むつ」の新定係港の建設工事に着手する。また、改良舶用炉の設計及び評価に関する研究を進める。

 更に、船舶技術研究所においては、原子力船についての基礎的研究等を進める。

7. 放射線利用の推進

 放射線の医学利用については、放射線医学総合研究所において、サイクロトロンを用いた速中性子線及び陽子線によるガン治療研究を引き続き進めるとともに、診断用の短寿命ラジオアイソトープの生産利用技術の開発を推進する。また、国立衛生試験所、国立病院等においても放射性医薬品に関する研究、ガン治療研究等を推進する。

 更に、日本原子力研究所において、放射線化学関係の研究、ラジオアイソトープの生産等を推進するとともに、国立試験研究機関においても、電子技術総合研究所における放射線標準に関する研究の推進、農業技術研究所等におけるラジオアイソトープを利用した動植物の代謝機構の研究の推進等放射線利用に関する研究を強化する。

8. 原子力研究開発利用の基盤強化

(1) 基礎研究等の充実

 我が国独自の原子力技術の研究開発を進めるため、その基盤となる基礎研究等を、日本原子力研究所、理化学研究所及び国立試験研究機関において大学との連携を図りつつ推進する。

 日本原子力研究所においては、汎用研究炉の老朽化に対処するためにJRR-3の改造に着手するとともに、材料試験炉等による各種燃料・材料の照射試験を引き続き実施する。また、タンデム型重イオン加速器の運転を行い、材料の照射損傷、核データ等の研究及び核融合等の開発に資する。

 また、理化学研究所においては、重イオン科学用加速器の前段加速器である線型加速器を用いて、重イオンに関する各種研究を継続するとともに、重イオン科学用加速器の後段加速器であるリング・サイクロトロンの建設を進める。

 このほか、国立試験研究機関においても、核融合炉材料等の基礎研究を実施するとともに、金属材料技術研究所において小型サイクロトロンの建設を進める。

(2) 科学技術者等の人材の確保

 原子力関係科学技術者の資質向上のため、その養成訓練については、大学に期待するほか海外に留学生として派遣する。また、日本原子力研究所のラジオアイソトープ・原子炉研修所及び放射線医学総合研究所において、養成訓練を引き続き実施する。

 更に、長期的観点から、原子力研究開発の推進に必要な研究者等の人材確保に努める。

9. 国際協力の推進

 原子力の平和利用と核不拡散を両立させつつ、我が国の自主的な核燃料サイクルの確立を図るという基本方針に立脚し、国際原子力機関(IAEA)の保障措置の改善に協力していくとともに、国際原子力機関(IAEA)を中心として行われている国際プルトニウ

ム貯蔵(IPS)、原子力資材の供給保証(CAS)等の国際的検討の場に積極的に参加する。また、日米原子力協議等の二国間協議の場では、我が国の原子力の平和利用の円滑な推進に支障のないよう適切に対処していく。

 国際的な研究開発協力については、原子炉の安全研究、核融合に関する日米協力のほか、新型動力炉、多目的高温ガス炉の研究開発等の各分野に関し、米国、西ドイツ、フランス、ソ連との二国間協力等を進める。また米国、フランスとの二国間規制情報交換を進める。

 更に、国際原子力機関(IAEA)を中心として進められている原子力発電所の安全基準作成事業に参加するなど、国際原子力機関、経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)等の国際機関の活動に積極的に参加する。

 開発途上国に対する技術援助については昭和53年8月に加盟した「原子力科学技術に関する研究開発及び訓練のための地域協力協定」(RCA)に基づく協力を進める。また、開発途上国の原子力開発状況調査を行うとともに、原子力関係要人の我が国への招へい等を通じて、これら諸国との原子力分野における関係強化を図ることとする。

10. 保障措置及び核物質防護対策の強化

(1) 保障措置

 原子力の平和利用を確保し、核兵器の不拡散に関する条約を履行するため、国内保障措置体制の拡充強化を図る必要がある。このため、核物質に関する情報処理、試料の分析、査察等の業務を充実強化するとともに、国際原子力機関(IAEA)等との協力を図りつつ、保障措置の有効性向上のための技術の研究開発を推進する。

(2) 核物質防護

 原子力開発利用の進展に伴う核物質防護の重要性の増大に対処するため、国内の核物質防護体制の充実強化のための施策を推進する。

 Ⅱ 見積りの概要

 昭和58年度において、以上の施策を進めるために必要な原子力関係経費は、総額約2,997億円(一般会計約1,796億円、電源開発促進対策特別会計約1,201億円)、国庫債務負担行為限度額約1,054億円(一般会計約830億円、電源開発促進対策特別会計約224億円)と見積られる。

 原子力関係機関別の見積りについては、「Ⅲ概算要求総表」に示すとおりであるが、主要な原子力研究開発機関別の見積りの概要を示せば以下の通りである。

1. 日本原子力研究所

 日本原子力研究所の総事業費は約911億円であり、これに必要な政府支出金は約840億円(国庫債務負担行為限度額約515億円)である。また必要な人員増は総計60名である。

 うち原子力施設の工学的安全研究及び放射性廃棄物の処理処分の研究等環境安全研究に必要な経費は約75億円(国庫債務負担行為限度額約35億円)であり、6名の増員を行う。また、核融合の研究開発に必要な経費は約398億円(国庫債務負担行為限度額約356億円)であり、44名の増員を行う。更に、多目的高温ガス炉の研究開発に必要な経費は約50億円(国庫債務負担行為限度額約39億円)であり、7名の増員を行う。

2. 動力炉・核燃料開発事業団

 動力炉・核燃料開発事業団の総事業費は約1,739億円であり、これに必要な政府支出金は約1,284億円(一般会計約684億円、電源開発促進対策特別会計約599億円)、国庫債務負担行為限度額約421億円(一般会計約197億円、電源開発促進対策特別会計約224億円)である。また、必要な人員増は、総計120名(一般会計56名、電源開発促進対策特別会計64名)である。

 このうち、高速増殖炉及び新型転換炉の開発に必要な経費は総額約895億円であり、これに必要な政府支出金は約726億円(国庫債務負担行為限度額約260億円)である。また、必要な人員増は63名である。

 また、ウラン濃縮技術開発、探鉱開発等核燃料開発に必要な経費は、総額約288億円であり、これに必要な政府支出金は約274億円(国庫債務負担行為限度額約37億円)である。また、50名増員を行う。

 更に、再処理施設の運転等に必要な経費は総額約556億円であり、これに必要な政府支出金は約283億円(政府保証借入金約193億円、民間出資約8億円、国庫債務負担行為限度額約125億円)である。また必要な人員増は39名である。

3. 日本原子力船研究開発事業団

 原子力船「むつ」の新定係港建設、舶用炉研究等に必要な経費は、総額約115億円であり、うち政府出資金は約113億円である。また必要な人員増は13名である。

4.放射線医学総合研究所

 内部被曝実験棟の建設、運営及び粒子加速器の医学利用、低レベル放射線の影響、トリチウムの生物影響等の特別研究の拡充強化等に必要な経費は約61億円であり、必要な人員増は4名である。

5. 国立試験研究機関

 原子力施設の安全研究、核融合、材料研究及び施設等の維持運営等、原子力研究に必要な経費は約18億円である。

6. 理化学研究所

 重イオン科学、サイクロトロン等の研究及び重イオン科学用加速器の建設等、原子力研究に必要な経費は約16億円である。

 Ⅲ 概算要求総表

1. 昭和58年度原子力関係予算概算要求総表

2. 科学技術庁一般会計概算要求総表

3. 各省庁(科学技術庁を除く。)一般会計概算要求総表

4. 電源開発促進対策特別会計原子力関係予算概算要求総表

5. 原子力関係予算概算要求重要事項別総表


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