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昭和56年原子力年報(総論) 原子力委員会
(解説)
「昭和56年原子力年報」は、昭和56年11月24日の原子力委員会において決定され、昭和56年12月4日の閣議に報告された。 本年報は、例年のとおり、総論、各論、資料編から構成されており、以下に総論を掲載する。 第1章 原子力開発利用の新展開を迎えて
1 四半世紀の歩みと今後の方向
(1) 四半世紀の歩み
我が国の原子力開発利用は、その基本方針を宣明した原子力基本法が昭和31年に施行されて以来、四半世紀を越える歳月を重ねるに至った。 我が国が原子力開発利用に取り組むに当たっては、朝野における盛んな議論が展開され、「平和の目的に限り、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。」という基本方針が定められ、これに基づき開発利用が進められてきた。 ⅰ 昭和30年代は、我が国の原子力開発利用を進めるため、将来に向けて体制が整備され、研究開発基盤が確立された時期であった。昭和31年から昭和32年にかけて原子力の研究、開発及び利用に関する国の施策を計画的に遂行し、原子力行政の民主的な運営を図ることを目的として原子力委員会が設置され、更に日本原子力研究所、原子燃料公社(動力炉・核燃料開発事業団の前身)及び放射線医学総合研究所などの研究開発機関が設立される等原子力開発利用を推進するための基本的な組織体制が整えられた。また、この時期には、原子炉等規制法、放射線障害防止法等の原子力関係諸法も整備された。国際面では、技術的に立ち遅れ、かつ、資源的制約のある我が国は、日米間の研究協力に関する協定を締結するとともに、その後資材の供与を含めた2国間の原子力協力協定を米国、英国、及びカナダと相次いで締結したほか、国際原子力機関(IAEA)の設立当初から同機関に加盟するなど国際的な協力体制が整えられた。 このような体制の下に国内における研究開発の面では、昭和32年に臨界に達した研究炉(JRR-1)を始めとして原子力研究開発施設の整備が進められるとともに、昭和37年には日本原子力研究所において国産1号炉(JRR-3)が臨界に達するなど、着実に研究開発の水準の向上が図られた。 更に、原子力開発については、昭和38年日本原子力研究所の動力試験炉(軽水型、電気出力1万2,500KW)により我が国初の発電が行われ、動力炉の運転経験の蓄積及び技術者の養成に大きな貢献をした。商業用発電については昭和32年に日本原子力発電(株)が設立され、昭和36年にはコールダーホール型発電所の建設が始められた。 この他、放射線の利用に期待が寄せられ、昭和35年には放射線による植物の品質改良を目的とした農林省放射線育種場の設立、また昭和38年には主として放射線化学の研究を実施する日本原子力研究所高崎研究所の設立等研究開発機関の整備が進めれるとともに、JRR-1を始めとした研究炉による国産ラジオ・アイソトープの生産が進められた。 また、昭和30年代の末には、日本原子力船開発事業団の設立により、官民協力による原子力船第1船の開発が着手されるとともに、我が国に適した新型炉開発に向けての胎動も始まった。 ⅱ 昭和40年代前半には、核燃料サイクルの確立のため大型プロジェクトが次々と開始された。即ち、新型転換炉及び高速増殖炉の開発を官民協力して進めることとし、このための中核機関として昭和42年に原子燃料公社が改組され動力炉・核燃料開発事業団が発足した。更に、ウラン濃縮については、遠心分離法による技術開発が、食品照射及び核融合に引き続き、昭和44年に原子力特定総合研究に指定され、また、核燃料サイクルの要である使用済核燃料の再処理についても動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設の建設が昭和46年に始められた。 一方、原子力発電の分野では昭和41年、コールダーホール型発電所(日本原子力発電(株)東海発電所)により初めて商業発電が開始されたが、その後は軽水炉による原子力発電所の建設が本格的に進められ、昭和45年に最初の軽水炉による発電所(日本原子力発電(株)敦賀発電所)が運転を開始した。このようにして昭和40年代末には運転中の商業用原子力発電所は8基、約390万KWとなり、建設中及び建設準備中(電源開発調整審議会決定済)のものが17基、約1,430万KWに達した。この間、原子炉の国産技術は格段に向上するとともに原子力発電施設の増大に対応し、国内の核燃料加工事業も成長してきた。 また、研究開発の分野においても研究基盤の整備・拡充が進むとともに、原子炉多目的利用の研究が始められたほか、核融合研究についてもJFT-2の運転成功等研究の進展が見られた。 放射線の利用に関しては、基礎科学分野から工業、農業、医学の広汎な分野に拡大し、放射性同位元素等を使用する事業所の数は約3,200に達した。 一方、原子力開発利用の進展に伴い安全性を中心とした社会的問題が昭和40年代の後半に顕在化してきた。安全確保は、原子力開発を進める上で、第一になすべき重要な課題として種々の対策が講じられてきたが、米国における冷却材喪失事故の実験結果に端を発した非常用炉心冷却設備(ECCS)の信頼性に関する議論、更に沸騰水型軽水炉における配管の応力腐食割れ又は加圧水型軽水炉における蒸気発生器の損傷に象徴される商業用発電所におけるトラブルの発生により、原子力発電の安全性をめぐって多くの論争が展開されるようになった。こうした中で昭和48年には四国電力(株)伊方発電所の設置許可処分の取消しを求める行政訴訟が相次いで起こされた。 更に、原子力船「むつ」で放射線漏れが起きたこと等を契機として原子力行政に対する国民の不信感が高まった。 ⅲ 昭和50年代は、原子力行政のあり方についての見直しから好まった。政府においては学識経験者による原子力行政懇談会を設置し、原子力行政のあり方について諮問した。同懇談会での審議を踏まえて、まず昭和51年には科学技術庁における原子力行政部局を開発推進と安全規制に分離するため原子力局とは別に、安全規制を行う原子力安全局が設置された。更に、昭和53年度には、原子力基本法の基本方針に安全の確保を旨とすることが明示され、原子力開発利用の開発推進と安全規制を分離し国民の信頼感を高めるため、原子力委員会の機能から安全規制を分離独立させ原子力安全委員会が新設されるとともに、安全規制行政の一貫化による安全規制の充実強化が図られ、また、地元住民の意見の反映を図るため原子力発電所の建設に際して公開ヒアリング制度が設けられるなど、原子力に対する信頼の確立を目指し、新たな体制で開発利用が進められることとなった。 また、昭和48年、及び昭和53年から昭和55年の2度にわたる石油危機により石油代替エネルギーとしての原子力発電の開発を推進する必要性が高まったが、一方、安全性に対する不安などから原子力発電所の立地はますます困難になってきており、昭和50年代においては原子力発電所などの原子力施設の立地難の打開が重要な課題となってきた。そのために、新たな体制のもとに各種の施策を通して、原子力に対する信頼を確保し国民の合意を得ていくとともに、立地地域における福祉向上の方策を充実するなどにより、立地の円滑化を推進することが急務となってきた。 一方、昭和40年代から本格的に推進されてきた研究開発も着実に成果をあげ昭和50年代に入り次々と新しい段階に進つつある。即ち、新型炉開発については高速増殖炉実験炉が昭和52年に、新型転換炉原型炉が昭和53年に臨界に達し成果をあげてきており、核燃料サイクルの分野では、我が国独自の技術により開発されてきた遠心分離法によるウラン濃縮パイロットプラントが昭和52年に、また、使用済燃料の再処理について技術経験の蓄積を図るための東海再処理施設が昭和52年に、各々運転を開始した。更には、核融合では臨界プラズマ試験装置の建設が進められるなど、着実に研究開発は進展してきており、また、放射線の利用は広い分野で進展をみせ特に医学の面での期待が高まってきている。 世界的な核不拡散体制強化の動きも昭和50年代の一つの特徴であった。昭和51年我が国は核兵器の不拡散に関する条約(NPT)を批准し、翌年同条約に基づく国際原子力機関との間の保障措置協定を締結した。また、昭和52年には東海再処理施設の運転をめぐる再処理協議が日米間の大きな政治問題となった。更に核不拡散問題は国際的な場で検討されることとなり昭和52年から昭和55年にかけて原子力平和利用と核不拡散との両立を図る方途を求めるため国際核燃料サイクル評価(INFCE)が行われ、その成果をもとに具体的方策についての協議が二国間の場で、あるいは国際原子力機関の場で行われるようになっている。 (2) 今後の方向
二度にわたる石油危機を契機として世界的にも石油代替エネルギーの中核として原子力に対する期待が強まっているが、西側主要先進国では原子力開発促進の努力にかかわらず原子力開発が停滞ぎみな現況にある。 これらの国では、我が国と比べ資源が比較的豊かであり、原子力開発の遅れに対しては、他のエネルギー源の増強により対処しうる一面もあるが、国内エネルギー資源に乏しい我が国としては、エネルギーの安定供給確保を図る上で原子力開発の遅れは許されない。 今後、我が国の原子力の開発利用を推進していくに当たっては、当面、次の点に配慮していかなければならない。 まず第1に原子力発電は既に総発電電力量の約16%(昭和55年度)を占めるに至っており、石油代替エネルギーの中核として原子力発電の開発を一層強力に推進していくことである。 このため、原子力発電の推進は安全確保なしにはありえないことを十分認識し、安全確保をより一層徹底して原子力に対する信頼を確保するとともに、併せて原子力施設の立地地域との調和及び地域の発展にも寄与することにより、立地難の打開に努めていくべきである。更に軽水炉の性能向上、運転性・信頼性の向上、放射線作業環境の改善等我が国の国情に合った、いわば日本型軽水炉の確立を図るとともに、核燃料サイクルの確立、放射性廃棄物対策の推進等原子力発電を円滑に進めるための基礎整備を進める必要がある。 第2に実用化を図るべき段階に達した技術開発プロジェクトについて官民あげてその実用化に向けての努力を進めるとともに、これらに続く広範な分野に及ぶ研究開発プロジェクトを効果的に推進していくことである。 即ち、実用化を図る段階にきているプロジェクトとしては、新型転換炉の実証炉及びウラン濃縮原型プラントの建設計画があり、それぞれ今後の進め方を定めていく必要があり、また、東海再処理施設の経験を基に日本原熱サービス(株)により準備が進められている民間再処理工場の建設も、重要な課題である。 一方、本格的なウラン・プルトニウムサイクルの確立に必要な高速増殖炉の開発については原型炉の建設準備が進められ、高レベル放射性廃棄物の固化処理技術の開発についてもパイロットプラントの建設に向けて研究開発が進められている。更に、長期的課題である多目的高温ガス炉の開発についても実験炉の建設のための準備が整いつつあり、核融合の開発についても臨界試験装置の建設に次ぐ次段階の目標をめざして研究開発を進める段階に来ている。 このように、原子力の技術開発は、基礎研究から実用化に近い段階に至るまで広範な技術開発が着実に進められ、それぞれ新しい段階に進みつつある。このため多額の資金と多くの人材を必要とする状況にあり特に実用化段階に近い技術開発プロジェクトについては、民間産業界の一層積極的な取組みが期待される。 第3に、原子力平和利用の推進について国際的な協力を一層強力に進めていくことである。 すなわち、世界的に核不拡散強化の方策がとられつつあるが、我が国は、もとより国内的には原子力の平和利用に徹する方針をとってきており、国内保障措置体制等の充実を図ってきているところであり、国際的にも核の拡散の防止については、積極的な役割を果たし、新しい国際秩序の形成に貢献していかなければならない。 更に、原子力の研究開発等の分野での国際協力に積極的に参加するとともに、開発途上国への技術協力を強化するなど、国際協力を増進し、国際的にも原子力平和利用の推進に寄与していく必要がある。 2 原子力発電の推進とその基盤整備
(1) 世界の原子力発電の動きと我が国の立場
世界の原子力発電は、昭和56年6月末現在、22ヵ国で259基、約1億5,800万キロワットの原子力発電所が運転されており、建設中及び計画中のものを含めると、41ヵ国で704基、6億約100万キロワットとなっている。 一方、世界の石油需給についてみれば、当面、先進消費国における大幅な石油消費の減少等により緩和基調にあり、また、昭和54年から昭和56年初めにかけて大幅に上昇した原油価格も最近は軟化傾向にある。しかしながら、中長期的には、石油需要は増加する方向にあるうえ、中東情勢は依然として不安定であり、産油国の資源温存政策の強化、開発途上国の発展に伴う需要増等石油供給面での懸念材料が少なくない。 このため、各国とも、省エネルギーの推進及び石油代替エネルギーの開発を積極的に進めている。国際的にも昭和55年12月及び昭和56年6月の国際エネルギー機関(IEA)閣僚理事会及び昭和56年7月オタワで開催された先進国首脳会議においても、石油代替エネルギーの一つの柱として、原子力発電を推進すべきことが合意されており、ここ数年、世界各国の原子力発電開発の現状は遅れ気味であるが将来に向けて各国とも積極的に計画を進めつつある。 世界最大の原子力発電国である米国においては、ここ数年、発注がほとんどなく、逆にキャンセルがなされるという厳しい状況下に置かれている。これは、電力需要の伸びの鈍化、許認可手続きの複雑化・不確実性、規制の強化によるリードタイムの長期化、最近の高インフレ率・高金利と相まっての建設費の急上昇、更にスリー・マイル・アイランド原子力発電所事故の影響等のため、電力会社が原子力発電所を建設することを躊躇しているためである。この背景には、依然として、当面、エネルギー需要を豊富な石炭等の国内資源に依存できるとの事情がある。昭和56年10月米国レーガン政権は原子力発電を推進し、高速増殖炉及び再処理の開発を再開する趣旨の新国内原子力政策を発表したが、これに基づき第3次国家エネルギー計画で示された原子力による発電量を昭和75年までに昭和55年の4倍に拡大する計画の実現に向けて、努力が払われることとなった。 最近、世界第2位の原子力発電国となったフランスでは、原子力発電開発が積極的に進められ、その結果、原子力発電規模は急速に拡大されてきた。昭和56年5月に誕生したミッテラン社会党政権においては同年10月国会において、電力需要の伸びの鈍化に対応し、今後2年間に新たに建設を予定していた9基の原子力発電所を6基に減らす等、建設のペースを多少緩めるものの、再処理工場の建設を含め、主要なエネルギー源として原子力開発を進めるとの新政権の政策が承認され、積極的な姿勢が続けられることとなった。 英国においては、ここ数年、北海油田からの石油及び天然ガスの供給量が増加したこと及び第1次石油危機以降の電力需要の伸び率が低下していることから、原子力発電の開発が鈍化していたが、北海油田の資源量の制約、国内石炭のコストの上昇といった情勢を背景に、政府は、昭和54年12月原子力政策の見直しを行い、昭和57年から10年間で、1,500万キロワットの原子力発電所の発注を行うこととしている。 西独においては、訴訟による長期建設中断や複雑な許認可手続き等により原子力発電所の建設は遅れているが、従来豊富な国内石炭資源を背景に、省エネルギーの推進、国内石炭の優先的利用等によりエネルギー情勢の改善を図ってきた同国においても、最近は省エネルギー効果の限界、国内炭のコスト高、環境問題等により、原子力発電の開発を進めざるを得ない情勢となっている。 また、その他の西側先進諸国においても、国内にエネルギー資源のない国では原子力開発が積極的に進められており、原子力発電の総発電電力量に占める割合は、昭和55年で、スイス28%,スウェーデン27%、ベルギー21%(既述のフランスは23%)と、我が国の16%を上回っている。 更に、世界でも屈指のエネルギー資源国であり、輸出国でもあるソ連においても、原子力開発が積極的に行われており、原子力発電規模を昭和60年までに、昭和55年の3倍にするという意欲的な計画を進めている。 一方、我が国は、国内資源が乏しく、石油、石炭、天然ガス、ウラン等のエネルギー資源についても石炭を除き目ぼしいものはないうえ、エネルギー消費は自由世界第2位という状況にある。昭和55年度は、3.8%の実質経済成長率を維持しつつも、省エネルギー努力の結果、一次エネルギー消費は3.4%減少した。更にその間原子力発電電力量が17%増加したこと、石油から石炭への切換えが進み石炭の消費が20.2%増加したこと等により、石油消費量は10.1%も減少し、一次エネルギー供給に占める海外石油依存度は、11年ぶりに70%を下まわり66%となった。しかしながら、輸入炭等も含めれば、我が国の一次エネルギーの海外依存度はなお8割を越えており、それに対する外貨の支払いは、我が国の輸入総額約32兆円の半分の約16兆円に達している。エネルギー源が海外資源特に石油に依存した体質を持続するならば、エネルギー供給上の問題が生じるばかりでなく、石油価格の上昇によるインフレを起こさせるなど、国民生活及びこれを支える我が国の経済活動の上にも重大な影響をもたらすことは明らかである。 このため、石油からこれに代わるエネルギーへの転換を一層進める必要があるが、①経済性の優れていること、②輸送及び備蓄が容易であること、③燃料購入のための所要外貨が少ないこと、等の利点を有している原子力発電への期待は大きい。昭和55年11月閣議で決定された「石油代替エネルギーの供給目標」では、環境保全に留意しつつ、石油代替エネルギーの供給目標を達成することとされた。そのうち原子力については、昭和65年度において原油換算7,590万キロリットル、2,920億キロワット時(全必要エネルギーの10.9%に相当)の供給目標が示され、これを達成するための必要発電設備容量は5,100~5,300万キロワットと見込まれているが、この目標を達成することは必ずしも容易ではなく、今後、原子力発電を拡大していくためには、格段の努力が必要である。 (2) 原子力発電推進のための基盤整備
当面、原子力発電所の建設を推進する上での最大の課題は、立地を確保することである。これを打開するためには、第一に原子力施設の安全確保の徹底を図り、安全運転の実績を積み上げて原子力に対する信頼を確立することが重要である。第二に、原子力に対する正確な知識・情報を提供することに努めつつ、地域住民の意見をくみとり原子力施設の立地が地域と共存できるよう配慮していかなければならない。また、原子力発電を拡大していく上での中長期的課題としては、軽水炉自体をより一層信頼性の高いものに改良していくとともに、核燃料の確保及び再処理体制の確立を図ることはもとより放射性廃棄物対策の促進、運用期間を終了した原子力施設のデコミッショニング(以下、「運転廃止後の措置」という。)対策の推進等原子力発電推進のための基盤の整備を図っていくことが必要である。 ⅰ 信頼の確立と安全確保の徹底
前節で述べたように昭和50年代に入り原子力安全委員会が設置され、その新体制のもとで安全規制の強化、安全研究の推進、安全審査基準の整備等が着実に進められてきた。また、軽水炉の改良標準化及び品質管理の徹底等も進み、機器及び施設全体の安全性及び信頼性の向上が図られてきた。昭和54年の米国スリー・マイル・アイランド原子力発電所事故により増大した国民の不安に対しては、同事故の教訓を踏まえ、原子力発電所の安全対策の強化、防災対策の確立などによりその解消に努めてきたところであるが、昭和56年4月には敦賀発電所における放射性廃液の一般排水路への流出等が判明し、国民の原子力発電に対する不安を増大させる結果となり、誠に遺憾であった。国民の安全を図ることは国の責務であるが、原子力発電の安全確保については、まず当事者である電気事業者がその責任を全うしなければならないのは言うまでもない。このため電気事業者において安全管理体制が改善され一層安全確保が徹底されるとともに、国において入念な審査、検査を行う等所要の対策の強化していく必要がある。 また、敦賀発電所の事例は、電気事業者の安全管理が不適切であったこと、国における安全規制面の徹底を欠いた点があったことに加え、事故が国に報告されなかったこと等が重なり、これが社会に対する影響を大きくする結果となった。原子力関係者は、原子力施設のトラブルは事の大小にかかわらず原子力に対する信頼を損うことにつながることに十分配慮し、その取り扱いについては適切に措置し、かつ正確な情報の発表に努めていかなければならない。 ⅱ 立地の推進と地域社会との共存
原子力発電所、再処理工場、廃棄物処分場等の原子力施設の立地を推進するに当たっては、地元住民を始め国民の理解と協力を得ることが肝要である。このため、特に原子力施設に対する地元住民の理解を得るべく適切な広報を実施することはもとより、あらゆる機会を通じ地元の意見をくみあげることに努め、原子力施設が地域社会と共存できる形で地域に受け入れられるようにすることが重要である。 昭和49年いわゆる電源三法(発電用施設周辺地域整備法、電源開発促進税法及び電源開発促進対策特別会計法)を制定して以来、原子力施設立地地域の自治体等の要望を踏まえて、立地市町村及びその周辺市町村の道路、港湾、公園、水道、教育文化施設等公共用施設を整備し、地域の福祉向上に努めてきた。また、昭和56年度から電源三法に基づく交付金制度の拡充強化により、電源地域における地元雇用の促進、産業の振興等のための施策が講ぜられることとなった。 立地の推進には、地域の事情に応じたきめ細かい対応が必要であり、今後とも関係者の一層の努力が求められる。 原子力施設の立地及び建設に関する諸手続の促進等に関しては、関係各省庁間の密接にして迅速な連絡調整が必要であるが、一方地元自治体の果たす役割も極めて重要であり、原子力開発の重要性に鑑み、原子力施設と地域社会との共存の方策を探究し原子力施設の立地の促進等が図られるよう、積極的な関係者の努力を期待するものである。 ⅲ 軽水炉技術の自主的改良
軽水炉は米国からの技術導入により建設されてきたが、我が国産業界は既に20余基の軽水炉の建設・運転の経験を得、軽水炉技術を消化吸収し、国産化率を高めるとともに、その間、技術開発能力を強化してきた。 我が国においては、こうして高まった技術力を背景に、我が国に適したいわば日本型
軽水炉の確立を目ざし軽水炉の改良標準化計画が進められてきている。昭和56年度から信頼性の向上、運転性の向上、放射線作業環境の改善等を図る第3次計画に入ることとなった。今後もこれらの成果を逐次具体化し、技術水準の向上を図っていくことが必要である。 なお、国内原子炉製造業者は海外の製造業者と協力して改良型軽水炉の開発調査を進めているが、その成果は上記軽水炉の改良標準化計画に反映されていくことが望ましい。 ⅳ 核燃料サイクルの体制整備
原子力発電を将来にわたって円滑に推進するためには、今後ともますます需要が増大するウラン燃料が安定に供給されるとともに使用済燃料が円滑に処理されるよう自主的核燃料サイクルの体制が整備されることが重要である。 このためには、第一にウラン資源について単に輸入に依存するだけでなく、準国産とも言えるように我が国企業等の参加のもとで探鉱・開発が行われたウラン資源を輸入する、いわゆる開発輸入の増大が図られなければならない。現在、海外の調査探鉱については動力炉・核燃料開発事業団が中心となって進めており、昭和56年に入って豪州のイルガルン地区等有望な地点も見い出されつつある。動力炉・核燃料開発事業団の海外ウラン調査探鉱については、昭和56年度約60億円を投じ開発を進めているところであるが、今後更に一層効果的な推進を図っていく必要がある。また、民間企業による海外ウラン探鉱開発も積極的に推進されることが期待される。 第二にウランの濃縮役務について、国内で相当部分を処理しうる体制を確立する必要がある。遠心分離法によるウラン濃縮技術の開発が進められ、現在、商業用プラントへの橋わたしの役割を果たす原型プラントの建設準備が急がれており、民間の積極的な協力のもとにその推進が図られなければならない。 第三に核燃料サイクルの要である再処理事業については、昭和65年度頃に大規模な民間再処理工場を運転開始することを目途に、日本原燃サービス(株)が建設の準備を進めている。国においては動力炉・核燃料開発事業団による技術支援はもとより、立地の促進、建設についての財政措置等について支援の措置を講ずることとしているところであるが、関係者の一層の努力により早期に建設が進められることを期待するものである。 ⅴ 放射性廃棄物の処理処分等
放射性廃棄物の処理処分を適切に行うことは今後の原子力発電推進の上で重要な課題である。 原子力発電所を始めとする原子力施設で発生する低レベル放射性廃棄物については、現在、原子力施設で安全に保管されているが、最終的には海洋処分及び陸地処分をあわせて行う必要がある。海洋処分については安全性は十分確保されているとの評価が得られ、また、必要な法制面の整備、国際条約への加盟、経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)の放射性廃棄物の海洋投棄に関する多数国間協議監視制度への参加等も完了している。しかしながら、その実施についてはいまだ内外の関係者の理解が得られておらず、今度ともあらゆる機会をとらえ関係者の理解を得るよう努めていく必要がある。また、陸地処分については、安全性の調査研究等を十分踏まえて試験的陸地処分を行うべく準備を進めているところである。 再処理施設から発生する高レベル廃液については固化処理及び貯蔵に関する技術開発が進められており、昭和60年代初め頃にそのパイロットプラントの実証運転を開始することを目標としている。その処分については、処分に適する状態になるまで冷却するため一定期間(数十年程度)貯蔵する必要があることから処分時期はなお相当期間先のこととなるので、今後計画的にその技術の確立を図っていくこととし、現在地層処分に関する基礎的研究を進めていくところである。 また、運用期間を終了した原子力施設の運転廃止後の措置についても長期的に重要な課題であるばかりでなく、当面の原子力施設の立地対策上も地域住民の関心事項であることからその長期的な展望を明らかにする必要が生じている。このため、原子力委員会では昭和55年11月廃炉対策専門部会を設置し我が国の国情に適した措置方法について審議を進めているところである。 3 新たな段階を迎えた研究開発
(1) 研究開発の進展
我が国の原子力開発利用に関する研究開発は、エネルギー分野及び放射線利用の分野において幅広く行われてきた。 エネルギー分野に関する研究開発については、基礎的研究、安全研究等の基盤的な研究から実用化を目指した大型の研究開発計画に至るまで、幅広く進められ大きな成果をあげつつあるが、他方、研究開発の進展に伴い開発資金も膨大となり、かつ多くの人材を要する段階に至っている。 このエネルギー分野については、まず原子力発電を推進するうえで、自主的核燃料サイクルを早期に確立することが肝心であるが、そのための研究開発は次の様に着実に進展してきた。 昭和44年以来開発が進められてきた遠心分離法によるウラン濃縮技術については、昭和56年末には、岡山県人形峠におけるパイロットプラントの完成が予定され、次の段階である商業プラントへの橋渡しの役目をもつ原型プラントの建設計画を進める段階にあり、原子力委員会のウラン濃縮国産化専門部会の検討の結果(昭和56年8月報告書提出)を基に、濃縮ウラン国産化の具体的方策を検討しているところである。 また、再処理については、動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設の建設・運転の経験を経て、現在、日本原燃サービス(株)が昭和65年度頃の運転開始を目途に大規模な再処理工場を建設すべく準備を進める段階に至っている。 更に、使用済燃料の再処理により取出されるプルトニウムの取扱い技術の開発も重要な課題である。この面では動力炉・核燃料開発事業団が東海再処理施設で取出されたプルトニウム溶液とウラン溶液を混合し、粉末の混合酸化物に転換するため、我が国独自の技術による混合転換法を採用したプルトニウム転換施設の建設を進めるとともに、また、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」用のプルトニウム燃料を加工するため、「常陽」及び「ふげん」の燃料製造技術の経験を基に、自動化技術を取り入れたプルトニウム燃料製造技術開発施設の建設を昭和56年度中に着工する予定となっている。 なお、既に、東海再処理施設で取り出されたプルトニウムの一部が、上記の混合転換法による試験設備により転換され、プルトニウム燃料施設で加工され新型転換炉「ふげん」の燃料として昭和56年8月から9月にかけて装荷された。 更に、再処理の結果生じる高レベル廃液の処理技術についても、ガラス固化処理及び貯蔵に関する技術の開発が進められ着実に成果があがり、昭和56年度から実廃液を使用して固化処理試験が行われることとなっており、これにより昭和60年代の初め頃に実証運転の開始が計画されているパイロットプラントのためのデータを収集する段階に至っている。 原子力発電推進の上で、重要な課題である安全確保に関する研究開発については、日本原子力研究所等における工学的安全研究及び放射線医学総合研究所等における環境放射能安全研究が着実な進展を示しており、これまでの成果は安全審査基準、指針等の整備及び安全裕度の定量化や安全技術の向上に寄与している。今後とも、最新の科学技術の知見、原子力施設の運転経験の蓄積等に基づき、より一層の安全性の向上を図るため長期的な観点から総合的、計画的に安全研究が進められていくと期待される。 次に、限られたウラン資源を有効に活用し長期的に安定したエネルギー源として原子力発電を拡大していくためには新型炉の開発が必要である。このため燃えた燃料より多くの新しい燃料(プルトニウム)を生みだしていく高速増殖炉の開発が進められ、また軽水炉から高速増殖炉へという基本路線を補完し、プルトニウムの有効利用及び天然ウラン所要量の減少を図るため新型転換炉の開発が行われてきた。 高速増殖炉の開発については、実験炉「常陽」(昭和52年4月臨界)の建設・運転の経験及び動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センターを中心に進められてきた各種の研究開発の成果をもとに、昭和62年度に臨界に達することを目途に原型炉「もんじゅ」の建設準備が進められており、昭和55年12月から科学技術庁による安全審査が進められている。 また、新型転換炉の開発については、原型炉「ふげん」(昭和53年3月臨界)の建設・運転の経験を踏まえ、実証炉の建設計画を進める段階にあり、原子力委員会においては、新型転換炉実証炉評価検討専門部会の検討結果(昭和56年8月報告書提出)を基に、今後の進め方を検討しているところである。 更に、発電以外にも核熱エネルギーを利用すべく開発を進めてきた多目的高温ガス炉は、昭和60年代前半に実験炉の運転を開始することを目標に、大型構造物実証試験ループ
(HENDEL)の建設が進められる等設計研究、工学試験が行われており、また世界的な造船・海運国である我が国としては将来に予想される原子力船時代に備え、原子力船の開発を推進し世界の大勢に遅れられないようにしなければならない。 実用化された場合には、豊富なエネルギーの供給を可能とするものとして期待されている核融合の研究開発については、日本原子力研究所、大学等においてそれぞれの特徴を生かして進められているが、核融合制御に関する科学的実証のための臨界プラズマ試験装置(JT-60)は昭和59年度完成を目途に建設が行われており、これにより昭和60年代初頭には臨界プラズマ条件が達成されるものと期待されている。 他方、以上のようなエネルギー分野に関する研究開発に対し、放射線利用の分野の研究開発については、早くから原子力平和利用の一環として農業、工業、医学等広範な分野において研究が行われ、多くのものがすでに実用に供されてきている。今後も各分野においてその利用が一層拡大していくことが期待されているが、特に医学分野においては各種の粒子加速器の発達、電子計算機技術の進展等もあって国民の医療の維持・向上のうえで大きく寄与していくことが期待されている。 このように、四半世紀にわたる研究開発努力の結果、新型転換炉、ウラン濃縮及び再処理の各プロジェクトについては実用化を図る段階を迎えるに至っており、その実用化の実現は、自主技術の開発を実らせるばかりでなく、これに続く他のプロジェクトの推進に対する大きな励みとなるものであり、これらのプロジェクトの実用化について所要の準備あるいは検討を進めていく必要がある。 原子力の研究開発は、前述のように、広範囲の分野に展開され、それぞれ着実に推進されてきており、今後更に一層の推進が必要とされるとともに、基礎的研究の充実も重要な課題となっている。 一方、現下の厳しい財政事情から、今後の研究開発の道は容易でなく、これらの研究開発を総合的に推進し、我が国の原子力開発利用体系を確立していくためには、政府及び民間における格段の努力と密接な協力が必要とされるところである。 (2) 実用化への課題
ⅰ 各プロジェクトの現状
新型転換炉、ウラン濃縮及び再処理についてのその実用化のために行われている検討あるいは準備状況は次のとおりである。 (ⅰ) 新型転換炉
昭和54年3月から本格的な運転を開始した原型炉(電気出力16万5千KW)の成果をもとに、原子力委員会では新型転換炉実証炉評価検討専門部会を設置し、実験炉の開発に関する評価検討を行ってきたが、昭和56年8月同専門部から報告を受けた。 原子力委員会としては、同報告をもとに今後の進め方を明らかにすべく検討中であるので、ここでは同報告の趣旨を紹介しておく。 新型転換炉は我が国が世界に先がけてプルトニウムの本格的利用をめざしている自主開発炉であり、プルトニウム及び減損ウランを有効かつ容易に利用できるため、天然ウラン所要量の削減等核燃料の有効利用を実現できるばかりでなく、プルトニウム蓄積量を減らし経済的負担を軽減できる等の多面的な効果が期待できる。実証炉はその設計で示された機能及び性能を実現できる見通しであること、また負荷追従運転が制御上容易である等の諸特長を有している。また、経済性については、本格的商業化段階において、新型転換炉の発電原価は軽水炉より割高ではあるが石炭火力発電等と比肩し得る見通しであり、更に技術改良による経済性の向上も期待させる。 以上を考慮すると高速増殖炉の実用化時期や軽水炉へのプルトニウム利用の見通し等との兼合いもあるが、現時点では、新型転換炉を原子力発電体系に組み入れることができるよう、官民協力して開発を進めていくことが望ましく、このため、資金分担、実施主体等について関係者の間で合意を得ることが基本的前提になるが、大容量化に伴う技術の実証及び経済性の見通しの確立を目的とし、更に技術改良による経済性の向上を検討するため、実証炉を建設することが妥当である。 実証炉の建設、運転に当たっては、民間が積極的役割を担うことが適切と考えられる。この場合、実証炉が開発初期にあるため未経験の問題が多いこと等によりその建設費及び発電原価は相当割高になることも予測されること、我が国のエネルギー・セキュリティの向上に寄与すること等に鑑み、国による適切な支援措置が必要である。 なお、実証炉の建設・運転に当たって必要な研究開発については、国が積極的な役割を果たすことが期待される。 (ⅱ) ウラン濃縮
我が国は、現在、ウラン濃縮役務の全量を海外に依存しており、濃縮ウランの国産化を図る必要がある。このため原子力委員会ではウラン濃縮国産化専門部会を設置し濃縮ウラン国産化の具体的な推進方策の検討を行ってきたが、昭和56年8月同専門部会から報告を受けた。原子力委員会では、新型転換炉と同様、同報告をもとに今後の進め方を明らかにすべく検討中であるので、ここでは同報告の趣旨を紹介しておく。 ウラン濃縮役務の安全供給の確保、我が国の自主性の確保、回収ウランの再利用及び原子力産業の振興に対する寄与という観点から可能な限り早期に濃縮ウランの国産化を図ることが望ましい。 商業プラントは、昭和60年代前半に運転を開始し、昭和75年頃までに最低3,000SWU/トン年程度の規模とすることを目標とする。 また、この商業プラントに先立って、遠心分離機の低コスト化及びその他の機器の大型化、合理化等に係る技術開発を行うため、原型プラントを建設・運転する必要がある。その建設・運転については、技術開発要素が多いことなどから国が民間の積極的な協力を得て推進することが適当であり、原型プラントに早期に着手するという観点から、当面、動力炉・核燃料開発事業団がその建設・運転に当たり、民間はこれに積極的に協力していくことが現実的である。この原型プラントは相当の生産能力をもつ濃縮プラントであり、その濃縮役務は適正な価格で電力業界が引き取るとともに原型プラントは将来ウラン濃縮事業の一部として活用されるべきである。 (ⅲ) 再処理
核燃料サイクルの要としての再処理については、東海再処理施設に続き、電気事業者を中心とする民間企業の共同出資により設立された日本原燃サービス(株)が昭和56年度頃の運転開始を目途に、年間処理量1,200トンの規模の民間再処理工場を建設するため、現在、立地地点の選定作業、設計研究等を進めている。 商業プラントとしては安定した再処理役務を提供することが重要であり、この観点から安全性はもとより、信頼性・稼働率等について十分な準備・検討が必要とされる。このため、従来、動力炉・核燃料開発事業団に培われてきた種々の技術が、この再処理工場の建設・運転に十分活かされなければならない。 この他、米国の核不拡散政策を始めとする国際動向を十分勘案し、主要先進国と協調を図りつつ、これを推進していく必要がある。 ⅱ 今後の課題
前項に述べたとおり、新型転換炉、ウラン濃縮及び再処理の各プロジェクトについては、研究開発の成果が実りつつあり、技術的経済的な実証を行う段階あるいは事業として進める段階を迎えている。これらは我が国の原子力開発利用にっとていわば初めての経験ともいえるものであり、実用化を円滑に進めるためには、官民一体の努力と協力が必要である。 すなわち、第一に、実用化に当たっては、実用規模の大型施設を建設・運転することともにこれに伴う研究開発を行う必要があるため、多額の資金及び多数の人材を要するが、すでに事業化を図る、あるいは事業の段階であるので、民間が主体となって、あるいは積極的に参画し、資金及び人材等の面で貢献することが期待される。 第二に、国においては、技術開発上のリスクを減らすため、研究開発面での支援の他、適切な資金、金融上の助成等を行い民間実施主体による事業の円滑化あるいは事業主体として育成を図るべきである。 第三に、これまで動力炉・核燃料開発事業団が中心となって研究開発してきた技術を実施主体に円滑に移転していかなければならない。研究開発の初期の段階から、動力炉・核燃料開発事業団では研究を民間に委託するとともに民間の人材の活用を図ってきたため、すでに民間にかなりの技術が蓄積されはいるが、今後は実施主体に対して事業化を目的として技術情報の提供、人材の交流等により技術移転を適切に進めていく必要がある。 第四には、ウラン濃縮及び再処理については、改良保障設置の確立等国際情勢への対応を適切に行うべきである。 4 新長期計画の策定
以上述べてきたように、近時の石油情勢に鑑み、原子力に対し石油代替エネルギーの中核としての期待が一層高まってきており、原子力発電についての施策を一層積極的に展開していくことが必要となっている。また、我が国の原子力の研究開発は、新たな段階を迎えつつあり、この時期に適切な政策を明示することが今後の原子力開発利用を進めていく上で重要である。更に、国際的には国際核燃料サイクル評価(INFCE)後の情勢を踏まえ、核不拡散と原子力の平和利用の両立をめざし国際協力を進めていかなければならない。 こうした状況を踏まえ、原子力委員会は、我が国の原子力開発利用の長期計画を見直すこととし、昭和56年3月、長期計画専門部会を設置した。同専門部会は、既に設置されていた関連する専門部会の審議結果を踏まえつつ、原子力発電の開発の促進、研究開発の計画的遂行及び成果の実用化の促進、並びに国際情勢への対応に関する諸方策について新しい長期計画の取りまとめを進めているところである。 原子力発電の開発の促進については、原子力発電の開発目標の達成に障害となっている立地問題等に対応するための方策、低レベル放射性廃棄物の処分等実施の促進方策、運用期間を終了した原子力施設の運転廃止後の措置の対策等が検討されている。また、研究計画の計画的遂行及び成果の実用化の促進については、高速増殖炉の実証炉以降の開発の進め方、新型転換炉の実証炉の評価検討結果を踏まえた今後の進め方、遠心分離法によるウラン濃縮の事業化方策、民間再処理会社による再処理事業の推進方策、高レベル放射性廃棄物の処理・処分に関する研究開発の進め方、JT-60計画の進展等を踏まえた核融合の今後の研究開発の推進方策等が検討されている。 更に、国際情勢への対応について、INFCE後の国際情勢を踏まえ、国内保障措置の充実及び核物質防護体制の強化を含む核不拡散問題における国際協力方策が検討されている。 原子力開発の推進により、低廉かつ安定したエネルギーを供給し、我が国社会の福祉と国民生活の向上に寄与するために、また、我が国が原子力分野において国際社会に貢献するためにも、今次策定される長期計画の意義は重要であり、原子力委員会はその策定に最大の努力を傾注していく所存である。 第2章 原子力開発利用の進展状況
1 原子力発電
(原子力発電開発の状況)
昭和56年3月九州電力(株)の玄海原子力発電所2号炉が新たに運転を開始したことにより、現在、我が国の運転中の商業用原子力発電設備は、合計22基、総電気出力1,551万1千キロワットとなっている。 これは、昭和55年度末において国内の総発電設備容量の約12%、また総発電電力量の16%を占め、全1次エネルギーに対してはその約5%を占めるものであり、国際的には米国、フランスに次いで第3位の原子力発電国となっている。 建設中の商業用原子力発電設備は、昭和56年3月に新たに九州電力(株)川内原子力発電所2号炉の工事計画が認可されたことにより、計11基、総電気出力1,011万キロワットとなった。建設準備中の商業用原子力発電設備は、昭和56年3月、東京電力(株)の柏崎・刈羽原子力発電所2号炉・5号炉及び中国電力(株)の島根原子力発電所2号炉、並びに昭和56年11月、東北電力(株)の巻原子力発電所1号炉の4基が新たに加わったことにより、計6基、総電気出力610万5千キロワットとなった。 この結果、現在、我が国の運転中、建設中及び建設準備中の原子力発電設備は、総計39基、総電気出力3,172万6千キロワットとなっている。 昭和55年11月28日の閣議において「石油代替エネルギーの供給目標」として決定された原子力発電の規模は、昭和65年度において、原油換算7,590万キロリットル、2,920億キロワット時(全必要エネルギーの10.9%に相当)であり、この目標を達成するための必要発電設備容量は、5,100~5,300万キロワットと見込まれている。 商業用原子力発電所の設備利用率についてみれば、昭和55年度には60.8%と順調な運転に示し、昭和48年度以降8年ぶりに60%を越えた。これは、初期故障に伴う点検改修作業がほぼ終了したこと、定期検査の効率的実施が図られたこと等のためである。 なお、昭和56年度に入ってからも、4月から9月までの6ヵ月間の平均65.9%となっており、前年同期間平均61.6%を上回っている。 (安全確保の状況)
原子力発電の安全性の向上については、原子力安全委員会及び行政庁において様々な施策が進められてきている。米国スリー・マイル・アイランド原子力発電所事故の教訓を我が国の安全確保に反映させるため、審議を行っていた原子力安全委員会は昭和56年6月米国原子力発電所事故調査報告書(第3次)をとりまとめ、これによりスリー・マイル・アイランド原子力発電所事故に係る調査は一段落することとなった。 また、昭和56年4月敦賀発電所について、同発電所の第4給水加熱器からドレン水漏れが昭和56年1月に発生し監督官庁へ報告されていなかったことが判明された。更に同発電所放水口対岸付近のホンダワラから異常値が検出され、通商産業省が調査した結果、昭和56年3月に発生したフィルタースラッジ貯蔵タンクからのオーバーフロー水が一般排水路に漏洩し浦底湾へ流出したことが解明された。 これら一連の事故の重要性に鑑み通商産業省は電気事業者に対し、原子炉等規制法に基づき6ヵ月間敦賀発電所原子炉の運転停止を命ずるなどの処分を行うとともに、技術基準の整備充実、安全審査の改善、保安規定の整備充実等6項目の安全規制強化対策を講じた。 なお、敦賀発電所の事故の他、昭和55年度電気事業法及び原子炉等規制法の規定に基づき報告された原子力発電所の事故・故障は25件、昭和56年度に入っては、4月から5月末まで4件あった。いずれの場合も放射線及び放射性物質による従業員及び周辺公衆への影響はなかった。 (原子力発電所の立地)
原子力発電所の立地については、困難さが増大しており、特に新規立地点において地元関係者の取り組みが極めて慎重になってきており、最近においては、立地可能性の調査段階においてすら地元の協力が得られにくい場合が多く、きめ細かな対応が必要となってきている。 このため、原子力発電の必要性、安全性等について地元住民の理解と協力を得るため、広報活動等が積極的に推進されるとともに、電源立地の円滑化に資するとの観点から立地地域の振興を図るための施策が充実、強化されてきている。 広報活動等については、従来から広報資料の作成配布、各種研修の実施等が行われてきているが昭和56年度からは立地初期の調査段階における対策の重要性が増していることに鑑み、立地の初期段階において、国自らが広報を行う他、地方自治体の行う広報への助成等、積極的な広報活動を行うことにしている。 一方、立地地域の振興については、従来から電源三法に基づく交付金制度等の充実が図られてきたが、昭和55年度においては立地交付金の交付限度額の増額及び交付期間の延長、都道府県、市町村の行う広報・安全及び防災対策への支援等の新しい施策が実施され、更に昭和56年度においては次のような施策が行われることとなった。 即ち、発電所施設の周辺の地域の住民の雇用確保等を図るため、原子力発電施設等周辺地域交付金及び電力移出県等交付金から成る電源立地特別交付金を創設し、原子力を始めとする石油代替電源の立地を促進することとした。原子力発電施設等周辺地域交付金は、原子力発電所等の所在市町村、隣接市町村を有する都道府県に対し、原子力発電所等の設備能力に応じて、一定額の交付金を交付し、この財源をもとに、第3者機関を通じて電灯需要家については一戸当たり定額、企業等の電力需要家については、その契約電力に応じた額の給付金を交付するか、又は地域住民の雇用の機会を確保するための事業を促進しようとするものである。また、電力移出県等交付金は、県内における発生電力量が県内における消費電力量の1.5倍以上の比率で上回る等の状況にある都道府県を対象に当該地域からの移出電力量に応じて一定額の交付金を交付し、地域住民の雇用の機会を確保するための事業を促進しようとするものである。 更に、電源立地促進対策交付金の使途が拡充され、同交付金で整備された公共用施設の維持費等の経費に、交付金の交付限度額の10%を限度として基金を積み立て、その運用益金等を使用することができることとなった。 (公開ヒアリングの実施)
原子力発電所の新増設に際し、当該計画に地域住民の意見を反映するための制度として設けられた公開ヒアリングは、これまで第1次公開ヒアリングが3回、第2次公開ヒアリングが5回それぞれ行われてきている。 第1次公開ヒアリングは、電源開発基本計画案が電源開発調整審議会に付議される前に、発電所の設置に係る諸問題について地元住民から意見を聴くとともに、地元住民の理解と協力を得るため通商産業省の主催により開催されるものであるが、昭和55年12月に初めて東京電力(株)柏崎・刈羽原子力発電所2号炉及び5号炉について開催され、その後中国電力(株)島根原子力発電所2号炉(昭和56年1月)、東北電力(株)巻原子力発電所(昭和56年8月)について実施された。 また、第2次公開ヒアリングは、通商産業省の行った原子力発電所の安全審査について原子力委員会が調査審議を行う際に、当該原子炉施設の固有の安全性について地元住民の意見等を聴取し、これに参酌するため原子力安全委員会により、開催されてきているが、昭和55年1月、関西電力(株)高浜発電所3号炉及び4号炉につき行われた後、東京電力(株)福島第二原子力発電所3号炉及び4号炉(昭和55年2月)、九州電力(株)川内原子力発電所2号炉(昭和55年7月)、日本原子力発電(株)敦賀発電所2号炉(昭和55年11月)及び中部電力(株)浜岡原子力発電所3号炉(昭和56年3月)について実施された。 今後、上記の公開ヒアリングの開催に当たっては、制度創設の意義が一層高められるよう、原子力開発の賛成論者、反対論者を問わず、積極的に参加することが望まれる。 (軽水炉技術についての技術開発等)
軽水炉技術の信頼性の向上、被ばく低減、検査の効率化等を目的として産業界の積極的参加のもとに通商産業省により進められていた軽水炉の第2次改良標準化計画は所期の成果を収め、昭和55年度終了した。この成果をもとに昭和56年度から5ヵ年計画で、信頼性の向上、運転性の向上等を目指し炉心に至るまで、自主技術を基本とし、日本型軽水炉を確立することを目的として第3次改良標準化計画が開始されることとなった。 また、この第3次改良標準化計画と並行して昭和56年度からインターナルポンプ設備及び高性能燃料の実用化が、国の委託により(株)原子力工学試験センターにおいて進められることとなった。 更に、原子力発電所の品質保証向上については従来から官民一体となって進められ着実に成果をあげてきているが、昭和56年9月通商産業省において今後の品質保証向上対策の基本的方向がとりまとめられ、これに沿って諸外国の現状も参考としつつ、より一層、統一的な基準・指針類の策定など基盤整備、機器・材料の標準化等が進められることとなった。 運用期間を終了した原子力施設の運転廃止後の措置については、技術面、安全面、経済面等について従来から調査検討が進められてきているが、その方策を計画的に進めていく必要性が高まってきてきることに鑑み、原子力委員会は昭和55年11月廃炉対策専門部会を設置した。同専門部会では、今後の課題とその対応策を検討整理し、運転廃止後の措置の対策確立への長期的展望を明らかにするとともに、我が国により適した運転廃止後の措置の技術を確立するための技術上の課題を検討し、総合的な技術開発計画を策定することとしている。また、運転廃止後の措置に関し、科学技術庁では昭和56年度から総合的な技術開発を進めることとしており、一方、通商産業省ではその対策に関する調査を実施してきており、昭和56年度からは技術の確証試験を進めることとしている。 2 新型炉の開発
我が国の原子力発電には、現在、主に軽水炉が採用されているが長期にわたり原子力発電を我が国のエネルギー供給源の中核として拡大していくためには、ウラン資源を効率的に利用し得る適切な新型炉の開発が重要な課題である。 このため我が国は昭和42年以来、技術導入依存型から脱却し自主技術として確立することを目ざし、高速増殖炉及び新型転換炉の開発を国のプロジェクトとして進めてきている。このプロジェクト達成は単に我が国のエネルギーの安全保障を確立するばかりでなく、技術水準の向上、国際競争力の強化等我が国の産業の発展を図る上でも大きな意義を有するものである。 また長期的には、原子力を電力という形で利用するだけでなく製鉄、水素製造等各種の分野で、核熱エネルギーを積極的に活用していくことが必要であり、多目的高温ガス炉の開発が進められている。 (新型転換炉)
軽水炉から高速増殖炉へという新型炉開発の基本路線を補完する中間炉と位置づけられている新型転換炉については、昭和60年代の実用化を目途に動力炉・核燃料開発事業団において研究開発が進められている。原型炉「ふげん」は昭和54年3月に本格運転を開始して以来、順調な運転を行っていたが、昭和55年11月に冷却系配管の一部に応力腐食割れによる傷が発見された。このため当該箇所の補修と予防対策を兼ねて所要の配管取り替え工事が行われるとともに、同工事と併行して行われた第2回定期検査において各施設設備の健全性が確認され、昭和56年11月に運転が再開された。また、この機会に取り替えられた新燃料中の44体には動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設において回収されたプルトニウムが初めて使われ、これにより、我が国の核燃料サイクルの輪がつながったことになった。 原子力委員会は、次の開発段階である実証炉の検討を行うため、昭和55年1月新型転換炉実証炉評価検討専門部会を設置した。同専門部会は、昭和56年8月、検討結果を取りまとめ既に第1章で述べたように新型転換炉の意義、実証炉の建設の妥当性等について原子力委員会に報告を行った。現在、原子力委員会としてその報告を踏まえ今後の進め方を検討中である。 (高速増殖炉)
高速増殖炉は、昭和70年代の実用化を目途に、動力炉・核燃料開発事業団において研究開発が進められている。 高速増殖炉の実験炉「常陽」については、昭和52年4月の初臨界以来順調な運転を続け、原型炉の開発に必要な技術データや運転経験を着実に蓄積しており、昭和55年8月から昭和56年8月まで第3サイクル運転、第2回定期検査、第4サイクル運転及び第5サイクル運転を行い、この間、昭和56年4月には原子炉運転通算10,000時間を達成した。また、実験炉は、昭和57年度に高速増殖炉の燃料・材料の照射試験を行えるように炉心(最大熱出力10万キロワット)が改造されることになっており、その準備として、照射用炉心に使用する炉心燃料、制御棒、反射体等の炉心構成要素の制作等が行われてきている。 実験炉「常陽」に続く原型炉「もんじゅ」は、その設計・建設・運転の経験を通じて発電プラントとしての高速増殖炉の性能及び信頼性を技術的に確認するとを目的としているものであり、高速増殖炉の開発に欠くことのできない重要なステップである。現在、原型炉は福井県敦賀市を立地予定地点として建設準備が進められているが、地元の理解を得やすくするため、国による原子炉の安全審査を先行させることとし、地元の了解を得て科学技術庁において安全審査が行われている。高速増殖炉の重要性に鑑み早期に地元の了解が得られて建設に着手することが望まれる。 更に、実証炉以降の高速増殖炉の開発計画を円滑に進めるため原型炉「もんじゅ」の建設と併行して次の段階としての実証炉の調査検討を進めることも重要である。このため動力炉・核燃料開発事業団は、昭和54年度から大型炉設計研究を開始するとともに、炉物理研究、日米共同による大型炉心モックアップ実験等の研究開発を進めている。また、電気事業者においても、電気事業連合会が中心となり、実施炉の概念設計を進めている。一方、通商産業省においても実用化推進のため、その技術面、経済面からの調査・検討に着手している。 原子力委員会は、これらの検討状況等も踏まえ、現在、新しい原子力開発利用長期計画の検討の一環として、実用化の展望を踏まえた実証炉以降の開発体制、スケジュール、実証炉に関する研究開発計画、高速増殖炉核燃料サイクル等について検討を進めている。 (多目的高温ガス炉)
我が国は、海外依存度の高い脆弱なエネルギー供給構造からの脱却を目指して、原子力発電を推進しているが、一次エネルギー需要の2/3を占める電力以外の分野についても、原子力エネルギーの利用を図ることがエネルギー安全保障のうえから肝要な事である。 このような電力以外の分野における核燃エネルギー利用の重要性に鑑み、原子力委員会は、昭和53年9月、原子力研究開発利用長期計画において、発電以外に核熱エネルギーを活用するための原子炉として、従来研究を進めてきていた多目的高温ガス炉の開発を進めることとし、その第一段階として発生高温ガスの温度、1,000℃程度を目標とする実験炉を昭和60年代前半の運転を目途に建設することとした。 この多目的高温ガス炉は日本原子力研究所において研究開発が進められてきたが、昭和54年度からは、実験炉用機器の実証試験を目的とした大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)の建設を進めており、昭和55年度からは、実験炉の詳細設計を進めている。昭和56年度においては、引き続き詳細設計及び大型構造機器実証試験ループの建設を進めるとともに、大型構造機器実証試験ループ本体部についての性能試験を行うこととしている。 一方、核熱の利用システムについては、通商産業省において「高温還元ガス利用による直接製鉄技術の研究開発」を進めた結果、昭和55年度までに実験炉規模における直接製鉄に関する基礎技術を確立することができたので、一旦中断し、今後は多目的高温ガス炉開発の進展状況等を勘案しつつその推進について適宜検討していくこととなった。 核熱の利用分野については、製鉄のほか水素製造、石炭のガス化・液化、化学工業等が考えられるが、今後、これらの実施の可能性につき積極的に検討を進めていく必要がある。 なお、最近では地域暖房、紙パルプ製造等への低温領域での核熱利用として軽水炉の核熱利用の可能性が検討されている。 3 核燃料サイクルの確立
(天然ウランの確保)
原子力発電の進展に伴い、我が国のウラン需要は、今後増大すると見込まれるが、国内ウラン資源に期待できない我が国としては、必要なウランを海外に依存せざるを得ない。我が国は、海外のウラン鉱山会社との購入契約及び開発輸入により、イエローケーキ(U3O8)にして合計19万3千ショートトンの天然ウランを確保しており、これによって昭和60年代後半までの必要量は賄われているが、それ以降に必要とされる天然ウランについては、新規手当が必要である。 現在、世界的な原子力発電開発の停滞等もあって天然ウランの供給に余裕があると考えられるが、長期的には、ウラン資源について需要がひっ迫することが予想され、また、ウラン資源は、米国、カナダ、南アフリカ、オーストラリア等の小数国に偏在していることから、将来の天然ウランの価格の動向については楽観することはできない。更に、海外において我が国企業等によるウラン資源開発を進めるには、調査探鉱から生産までには十数年を要することを考慮する必要があり、需給バランスの均衡がくずれるとみられる昭和60年代後半以降に備えて長期的安定供給の方策を今から講じていく必要がある。 このため、ウラン供給先の多様化に配慮しつつ、引きつづき海外ウランの購入契約を進めるとともに、我が国の企業等によるウラン資源の探鉱開発を進めていくことが必要である。 このうち、ウラン資源の探鉱開発については動力炉・核燃料開発事業団において、カナダ、オーストラリア、アフリカ諸国等でウランの調査探鉱を実施しているが、昭和56年6月にはオーストラリア西部のイルガルン地区でこれまでの調査探鉱のなかで最も有望なウラン鉱床が発見されるなど、今後の調査探鉱の発展が大いに期待されるものもでてきている。 また、民間企業においても、ウラン調査探鉱で7社、ウラン鉱山開発で2社が、それぞれ外国企業と共同で探鉱及び開発を行っている。このうち、ニジュールのアフター鉱山では既に生産が行われ、昭和55年度において我が国の年間ウラン供給量の約1割強を供給している。 なお、海水からウランを回収するシステムについては、金属工業事業団において、昭和58年度完成を目途に、現在、モデルプラントを建設中である。 (ウラン濃縮)
我が国は、現在、ウラン濃縮役務の全量を海外に依存しており、米国及びフランスとの長期契約により昭和60年代中頃までに必要な量は確保している。大規模な原子力発電開発計画を持つ我が国としては、我が国の原子力開発利用を計画的に進める上で、ウラン濃縮役務を海外依存の現状から脱却するとともに、再処理回収ウランのリサイクル利用などの観点から、濃縮ウランの国産化を推進する必要がある。 動力炉・核燃料開発事業団を中心に、開発が進められてきた遠心分離法ウラン濃縮技術によるパイロットプラントは、昭和55年10月には遠心分離機4,000台に増設され昭和56年末には更に3,000台の据付けが終り、パイロットプラントが完成する予定である。 このような状況を踏まえ、原子力委員会は、実用濃縮工場の建設・運転に至るまでウラン濃縮国産化の進め方について検討するため、昭和55年10月、ウラン濃縮国産化専門部会を設置した。同専門部会は、昭和56年8月、既に第1章で述べたようにウラン濃縮国産化の目標、推進方策等についてとりまとめ原子力委員会に報告したところであり、原子力委員会においては、この報告をもとに今後の進め方を検討中である。 一方、民間企業において開発が進められ実験室規模の研究開発で技術的可能性の見通しが得られつつある化学法ウラン濃縮技術についても、遠心分離法などの他の濃縮技術に比して、経済的に採算のとれるプラントの最小規模が小さく、また原理的に高濃縮ウランを作ることが困難であるため、核不拡散上有利であるなどの利点を有することから、遠心分離法を補完する技術としてその開発について国により助成措置が講じられている。 (再処理)
ウラン資源に乏しく、そのほとんどを全量を海外に依存している我が国としては、資源の効率的利用等の観点から、原子力発電所から発生する使用済燃料を再処理し、燃え残りのウラン及び新たにウラン238から生じた核分裂性物質のプルトニウムを再利用することが不可欠である。現在、我が国において生ずる使用済燃料の再処理については、その一部が動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設で再処理されているが、その能力が小さいので大半は海外の再処理施設に依存している状況にある。 このような状態では、今後増大する使用済燃料の再処理需要に対しては極めて不安定であり、国内に十分な再処理能力を有する再処理工場を建設・運転することが必要である。 このため昭和55年3月電気事業者を中心とする民間企業の共同出資により日本原燃サービス(株)が設立され、昭和65年頃の運転開始を目途にサイト選定のための調査等諸準備作業が進められている。政府としても、この民間再処理工場に関し、技術面、立地面等について必要な支援措置を講じていくとともに、同工場の建設、運転に際しては厳重な安全規制を行うこととしている。 また、動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設については、昭和55年12月に使用前検査の合格証を取得し、昭和56年1月本格運転を開始したが、その後、酸回収精留塔の故障等があったため同年10月末までに累積再処理量は約110トンにとどまっている。 更に、原子力発電所から発生する使用済燃料の海外再処理委託については、我が国の電力会社と英国核燃料公社(BNFL)及びフランス核燃料公社(COGEMA)との間で、約5,700トンの使用済燃料を再処理する契約が締結されており、昭和55年度には約150トンの使用済燃料が英国及びフランスへ移送された。 (放射性廃棄物処理処分)
原子力発電所等において発生した低レベル放射性廃棄物はドラム缶等に詰められ安全に施設内に保管されているが、その量は毎年5万本程度増加しており、昭和55年度末における累積量は約33万本に達している。この量は、今後の原子力開発利用の拡大に伴い更に増大していくことが見込まれ、これらの放射性廃棄物の適切な処理処分を行うことは、原子力利用の推進に当たって重要な課題の1つとなっている。 低レベル放射性廃棄物の処分については、海洋処分及び陸地処分を併せて行うとの方針のもとに所要の施策を進めている。 このうち、海洋処分の進め方としては、事前に安全性を評価した上で試試的海洋処分を行い、その結果を踏まえて本格的海洋処分を行うという慎重な方法を採ることとしている。また、海洋処分の実施に際しては、国際条約に加盟する等国際的協調のもとに、内外の関係者の理解を得て実施することとしている。 海洋処分の安全性についてはこの方針に従い、既に昭和51年8月科学技術庁が環境安全評価をとりまとめ、昭和54年11月原子力安全委員会がその内容を再評価し、安全であることを確認している。なお、これらは処分固化体に関する安全性実証試験、投棄予定海域の海洋調査等多くの試験研究の成果に基づき、かつ現実に起こるとは考えられない厳しい条件の下で行われた評価である。 また、海洋処分の国際的協調に関しては、我が国について昭和55年11月に廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(いわゆるロンドン条約)が発効され、また、昭和56年7月には経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)の放射性廃棄物の海洋投棄に関する多数国間協議監視制度に参加した。同制度に参加することにより、我が国は、①処分実施前にNEAへ投棄計画の内容、海洋処分に係る環境安全等を通知し、NEAの審査を受ける、②実施処分の際には、NEAより派遣された代理人より投棄作業について監視を受ける、等の国際的制度のもとで実施することになった。 海洋処分の実施について内外関係者の理解を得ることについて、昭和51年以来、国内水産関係者への説明を続けているが、昭和56年に入ってからも全国漁業協同組合連合会を始めとする水産関係団体等に説明を行うなど国内関係者の理解を得るべく話し合いを進めている。また、太平洋関係諸国等については、第2回太平洋地域首脳会議で試験的海洋処分計画の概要、試験的海洋処分の環境安全評価の内容等について説明を行ったのを始め、昭和55年度中に4回にわたり、我が国から関係諸国に専門家を派遣し同様の説明を行った。更に政府は昭和56年度に入ってからも9月にグアム島で開催された第3回太平洋地域首脳会議へ説明団を派遣し、海洋処分の実施に当たっては安全性を十分確認の上、IAEA、OECD-NEA等の国際的な基準に基づき行う等我が国の基本的な考え方について説明を行った。その際、太平洋諸国から提示されていた我が国の海洋処分の安全評価に関する批判に対しても批判の内容が我が国の安全評価を十分理解して行われたものではないこと、批判の根拠となるデータの使い方が学術的に適切でないこと等を指摘し、我が国の安全評価が十分な正当性を有するものであることについて説明が行われた。しかしながら、いまだ海洋処分の実施についてこれら諸国の十分な理解を得るに至っておらず、今後ともあらゆる機会をとらえ関係者の理解を得るよう努めていく必要がある。 一方、陸地処分については、海洋処分に適さないもの、あるいは、回収可能な状態にしておく必要があるもの等を対象とし、施設での貯蔵、地中への処分が検討されている。この一環として、(株)原子力環境整備センターによる秋田県尾去沢における浅層処分を模擬した状態での安定同位元素による各種試験、日本原子力研究所による放射性同位元素を用いた放射性核種の地中挙動に関する試験等が行われている。 一方、再処理施設で発生する高レベル放射性廃液は、量的には少ないが、半減期が長く、高い放射能を有しているので、環境汚染と公衆の放射線被ばくを防止する観点から、人間の生活圏から隔離し、安全に管理することが必要である。このため高レベル放射性廃液は安定な形態に固化し、一定期間貯蔵した後、処分することとしている。 従来、再処理施設から生ずる高レベル放射性廃液の処理処分については、「放射性廃棄物対策に関する研究開発計画」(昭和51年6月放射性廃棄物対策技術専門部会中間報告)に沿って、動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所を中心に研究開発が進められてきたが、その後の技術開発の進展を踏まえ、原子力委員会の放射性廃棄物対策専門部会において上記の研究開発計画の見直しが行われ、その結果、昭和55年12月検討結果がとりまとめられ原子力委員会に報告された。その概要は次のとおりである。 使用済燃料の再処理施設から発生する高レベル放射性廃液はガラス固化して安定な形態にし、放射能による発熱が減少する間、一定期間(数十年程度)貯蔵した後、最終的には地層に埋設して処分し、人間環境から隔離する必要がある。 固化処理については、近い将来実用化が見込まれるものとして世界的に主流となっているホウケイ酸ガラスによる固化処理技術に重点を置いて研究開発を進めるべきである。また、地層処分については、地層という天然のバリア(障壁)に工学的バリアを組み合わせることによって、高レベル放射性廃棄物を人間環境から隔離することを基本的考え方とし、今後40年程度にわたる長期的な計画のもとに、(ⅰ)可能性のある地層の調査、(ⅱ)有効な地層の調査、(ⅲ)模擬固化体現地試験、(ⅳ)実固化体現地試験、(ⅴ)試験的処分、の5段階で研究開発を進めるべきとしている。 現在、更に同専門部会においては、低レベル放射性廃棄物の処理の今後の進め方、陸地処分の進め方、極低レベル放射性廃棄物の合理的な取扱い等について、今後の具体的方策を検討しているところである。 4 安全研究等の推進
原子力開発利用は、施設の工学的安全性を高め、その信頼性を確保すると同時に、施設に由来する放射性物質及び放射線を安全に管理することによって、はじめてその発展が期待されるものである。 このような観点から、従来より、原子力開発利用に当たって、安全の確保には特段の配慮がなされてきたところであるが、今後とも安全基準、安全解析モデル等の整備及び安全裕度の定量化を図るとともに安全性の向上を目的として、原子力施設等に関する工学的安全研究及び環境放射能に関する安全研究の計画的な推進を図っていく必要がある。 原子力施設等に関する工学的安全研究については、原子力安全委員会原子力施設等安全研究専門部会が策定した「原子力施設等安全研究年次計画(昭和56年度~昭和60年度)」に沿って、日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団を中心に、国立試験研究機関等において研究が進められているが、同年次計画は昭和56年5月において見直しが行われた。 昭和55年度から昭和56年度にかけて、軽水炉施設に関する研究としては、燃料の照射後試験を始めとする燃料の安全性研究、PWRの小口径配管破断時の影響評価を行うROSA-Ⅳ計画などの冷却材喪失事故に関する研究、構造安全に関する研究等が日本原子力研究所等において実施されている。また、核燃料施設等に関する研究としては、再処理施設から放出されるクリプトン、トリチウム等の除去・回収技術の開発等が動力炉・核燃料開発事業団等が実施された。 環境放射能に関する安全研究については、原子力安全委員会環境放射能安全研究専門部会が策定した「環境放射能安全研究年次計画(昭和56年度~昭和60年度)」に沿って、放射線医学総合研究所を中心に、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、国立試験研究機関等において研究が進められた。 昭和55年度から昭和56年度にかけて、環境中での放射性物質や放射線の挙動に関する研究については、放射性物質の大気中における拡散に関する研究、海洋における食物連鎖等に関する研究、環境モニタリング技術に関する研究等が放射線医学総合研究所、動力炉・核燃料開発事業団等で実施されるとともに、緊急時における放射性物質の拡散予測手法・システムの開発が日本原子力研究所等において進められている。また、低線量放射線の影響に関する研究については、晩発障害、遺伝障害、内部被ばく及びトリチウムに関する研究が放射線医学総合研究所、国立遺伝学研究所等において進められた。 一方、原子力施設の安全性及び信頼性を、実規模又は実物に近い形で模擬した装置を用いて実証する事を目的として、大型再冠水効果実証試験、燃料集合体信頼性実証試験等の実証試験が、昭和55年度から昭和56年度にかけて、日本原子力研究所、(株)原子力工学試験センター等で実施している。 5 原子力船の研究開発
政府は、昭和55年4月に原子力委員会が決定した「原子力船研究開発の進め方」の方針等を踏まえ、日本原子力開発事業団が「むつ」の開発に加えて原子力船に開発に必要な研究を行うことができるよう同事業団を日本原子力船研究開発事業団と改め、同事業団に研究開発機能を付し、併せて昭和59年度末までに同事業団を他の原子力関係機関に統合する旨定めることを主な内容とする、日本原子力船開発事業団法の一部改正法案を第93回国会に提出した。同法案は昭和55年11月26日成立し、同月29日に施行された。 一方、原子力船「むつ」の開発については、佐世保港において「むつ」の修理が進められるとともに、新定係港の問題を解決するための努力がなされた。 佐世保港における「むつ」の修理については、昭和55年8月の本格的遮蔽改修工事の開始以来、長崎の地元関係三者(長崎県知事、佐世保市長、長崎県漁連会長)と約束した修理期限(昭和56年10月)を厳守するため、最大限の努力がなされたが、日本原子力船研究開発事業団は「むつ」の修理を完了するためにはどうしても修理期間を延長せざるを得ないとの判断に至った。このため科学技術庁及び日本原子力船研究開発事業団は昭和56年8月、地元関係三者に対し、「むつ」が修理を終えて佐世保港を出港する期限を昭和57年8月31日まで延長することを要請した。地元関係三者は、この要請について、議会等それぞれの関係機関に諮り、これを受け入れることを決定して、昭和56年10月、科学技術庁及び日本原子力船研究開発事業団に対し、この旨回答した。これによって佐世保港における「むつ」の修理期限は、昭和57年8月31日まで延長されることとなった。 また、「むつ」の新定係港の問題については、昭和55年8月、科学技術庁から青森の地元関係三者(青森県知事、むつ市長、青森県漁連会長)に対し、青森県の大湊港を「むつ」の定係港として再度利用することの可能性について検討を要請した。以来、地元関係三者との間で鋭意折衝が行われたが、その結果、科学技術庁及び日本原子力船研究開発事業団と地元関係三者の間に、「むつ」の新定係港を青森県内の外洋に設置することとし、むつ市関根浜地区を候補地として調査、調整のうえ決定し、可及的速やかに建設すること、「むつ」は新定係港が完成するまでの間は、大湊港に停泊すること、などの合意が得られ、昭和56年5月、科学技術庁長官、日本原子力船研究開発事業団理事長及び青森の地元関係三者の五者で会談を行い、これらの合意事項を共同声明として発表した。これによって「むつ」の新定係港の問題の解決について基本的な方向が得れることとなった。 現在、この共同声明に基づき、日本原子力船研究開発事業団が関根浜地区の立地に関する調査を鋭意進めているところである。 6 核融合の研究開発
核融合は、その主体となる燃料を海水から取得することができ、これが実用化された暁には豊富なエネルギー供給を可能とするものである。このため、21世紀前半における実用化をめざし、我が国の他、米国、EC、ソ連等が研究開発を積極的に推進している。 我が国の研究開発は、昭和30年代のプラズマ物理の基礎研究から出発し、日本原子力研究所、大学及び国立試験研究機関における20余年の研究開発の歴史を経て、今日世界的水準に達している。 日本原子力研究所においては、昭和50年7月に原子力委員会が策定した「第二段階核融合研究開発基本計画」に沿って、臨界プラズマ条件の達成を目指した研究開発が進められている。この研究開発の中核的装置としてトカマク型臨界プラズマ試験装置(JT-60)が昭和59年度の完成を目途に現在建設が進められており、JT-60による研究開発の成功によって核融合が科学的探究の段階から工学的進展を図る段階に移行するものと強く期待されている。 また、電子技術総合研究所及び理化学研究所においては高ベータ装置に関する研究及び計測・真空技術に関する研究が進められている。 大学関係では、名古屋大学プラズマ研究所において核反応プラズマ生成のための準備研究を開始しており、京都大学、大阪大学、筑波大学等において各種方式によりプラズマの閉じ込め及び加熱に関する研究並びに関連分野の研究を幅広く行っている。 最近、我が国のJFT-2(日本原子力研究所)、米国のPLT(プリンストン大学プラズマ物理研究所)、ダブレットⅢ(ジェネラル、アトミック社)などの既存の装置を用いた実験によって、炉心技術に関する成果が相次いで得られており、これらの成果からみて、JT-60において臨界プラズマ条件が達成されることは確実視されるようになっている。 このような核融合の研究開発の発展を踏まえ、原子力委員会に設置された核融合会議は臨界プラズマ条件達成後の研究開発の進め方について審議検討を行い、昭和56年9月原子力委員会に報告書を提出した。同報告書において、同会議は、JT-60の次の段階の目標は、核融合が炉として実現し得ることを示す自己点火条件の実現であり、このために必要な炉心技術及び炉工学技術の開発を推進すべきであるとしている。 核融合は、人類の未来を担う有力なエネルギー源として、その実現が強く期待されているものであるが、その研究開発には多額の資金、多くの人材及び長年月を要するものであり、今後とも政府関係機関のみならず大学、産業界をも含めた緊密な協力体制の下に、さらに国際的な協力をも推進しつつ、自主技術の確立を目指して、総合的かつ効果的に研究開発を進めていかなければならない。 7 放射線利用
放射線及び放射性同位元素(RI)の利用は、原子力発電とともに原子力平和利用の重要な一環として、早くから基礎科学分野から医学、工業、農業等の応用分野に至るまで幅広く行われており、今や国民生活に不可欠なものとなっている。その利用は年々増加しており、昭和56年3月末現在で放射性同位元素や各種放射線発生装置を使用して放射線障害防止法の規制をうける事業所数は4,084ヵ所にのぼり、この1年間でも約100ヵ所余も増えている。 放射線の利用面を分野別に見ると、社会のニーズに即応し、医学の分野における利用開発がめざましく、また、その他の分野における利用技術も年々多様化、高度化しつつある。 まず、医学の分野では、放射性医薬品の利用が進み、臨床上欠くことのできない診断法となっている。更に医療用加速器の利用開発にめざましいものがあり、治療面では放射線医学総合研究所において速中性子線治療が有望な成績をあげており、診断面では、理化学研究所において開発された超小型サイクロトロンが既に実用化されるとともに、放射線医学総合研究所において、通商産業省工業技術院及び厚生省の協力のもとに、短寿命RI標識有機化合物製造技術及びポジトロンCTの開発が進められている。工業分野では、放射線を利用した測定器による製造工程の自動制御等が普及しており、また、日本原子力研究所においては放射線を利用した耐熱性及び耐薬品性の優れた高分子材料の開発等が進められている。農業分野では、沖縄本島周辺の島で放射線により不妊化した虫の放飼による害虫根絶技術が実用化しており、また農業技術研究所等において放射線育種研究等が、国立衛生試験所等において照射みかんの健全性の研究等が進められている。環境保全の分野においては、国立公害研究所において、汚染物質の生物への影響の解明、土壌中の元素の動態の解明等に放射性物質が利用されており、また、日本原子力研究所においては、排煙中のNOX、SOXの除去廃水処理、汚泥処理等への放射線の利用技術について研究が進められている。 これらの放射線利用の分野のうち、特に放射線化学及び加速器の医学利用の研究開発についてその推進方策等について調査審議するため、昭和55年11月原子力委員会は放射線利用専門部会を設置した。 同専門部会は、昭和56年10月に報告書をとりまとめ、次のように述べている。 放射線化学については、近年、生物学、医学、工業等他の分野の専門家との共同研究により研究開発を行う必要性が高まっており、これら境界領域における重点研究開発課題を整理するとともに、それらを円滑に推進していく体制の整備が必要である。また加速器の医学利用については、最近その進歩にめざましいものがあるが、今後ポジトロンCT技術による診断技術及びより生物効果の高い速中性子線、陽子線等の高LET放射線によるがん治療技術の研究開発を積極的に推進する必要がある。 8 原子力産業
原子力産業は、極めて高度かつ広範囲な技術分野によって成り立つ典型的な知識集約型システム産業であり、その発展は、幅広く産業に影響を及ばすものであり、我が国産業全体の高度化にとって重要な意義を有するものである。 原子力産業は昭和54年度約5,700億円の売上げをあげ、我が国の鉱工業生産の0.5%程度を占めているといわれている。 以下、原子力産業を原子力発電関連機器産業、核燃料サイクル産業及びアイソトープ・放射線機器産業に大別し、これらについて概説する。 原子力発電関連機器産業は、技術面では米国企業からの技術導入を基盤とし製造技術の消化吸収に努めてきた。その結果、原子炉機器については、近年国際化率が90数%に達するものが現われ、国産化体制がほぼ整ってきている。また、我が国の製造技術も成長し、近年は、一方的な海外技術依存から自主技術に基づく改良型軽水炉の開発を進めるなど、技術面で自立する動きもみられつつある。 原子炉プラントについては、国産第1号機着工(昭和43年12月関西電力(株)美浜発電所2号炉)以来10年余りを経過し、稼動中の国産機も12基となっているが、今後更に建設経験を積むとともにシステムエンジニアリング技術の確立、品質保証の向上等軽水炉技術の成熟を図っていく必要がある。 原子力発電関連機器産業の市場は、需要がこれまで年1~2基程度と少なかったことと、又、電源立地、事故等による原子力発電所の遅れの影響を受け易いことなど、受注が安定しないということもあって、事業収支は依然として不安定であり、原子力発電関連機器産業の経営基盤は脆弱な状態にあるとみられ、今後更に企業努力により経営基盤を強化していく必要がある。また、輸出については、原子炉圧力容器、冷却系統設備等の輸出が行われているが、その輸出規模は小さく、今後更に発展が望まれる。 核燃料サイクルの各分野については、核燃料の加工を除いて、国内における事業化は達成されておらず、自主的核燃料サイクル確立の観点からも、今後増大する需要を十分踏まえつつ、核燃料サイクル全般の事業化を推進する必要がある。 核燃料の加工については、核燃料サイクル中、最も事業化の進んだ分野である。軽水炉用燃料については、既に国内における生産体制は整っており、品質面においても極めて高品質な製品を生産している。今後は、経営基盤の強化、より一層の技術力の向上等が課題である。 ウラン濃縮については、これまで動力炉・核燃料開発事業団の研究開発を通じて遠心分離機製造メーカーが育成されてきており、遠心分離機製造メーカー3社の製造能力も高まってきている。今後、遠心分離機の量産化を図る必要があることから、動力炉・核燃料開発事業団の研究開発と連携を取りつつ、メーカーにおいても量産体制の検討が進められてきている。一方、電力業界において昭和56年3月、電気事業連合会にウラン濃縮準備室を設け、ウラン濃縮国産化をめざした調査検討を進めている。 再処理については、昭和55年3月に設立された日本原燃サービス(株)が商業用再処理工場建設に向けて、サイト選定のための立地調査を進めるとともに、設計研究等を行っている。 アイソトープ・放射線機器産業については、アイソトープ・放射線測定器、アイソトープ装備機器、放射線発生装置等の分野がある。これらの産業は工業、医療、農業等の各産業における放射線利用の拡大に伴い、着実な進展を見せ、既に世界的水準にある。今後とも引き続き放射線利用の浸透、拡大が予想されるため、線源としてアイソトープ、計測・分析のための放射線測定器の部門の伸びが期待される。他方、アイソトープの利用の増加に伴いアイソトープ廃棄物の合理的・経済的な処理処分が課題となっている。 第3章 核不拡散への対応と国際協力
1 核不拡散をめぐる国際動向
核不拡散問題は、安全保障、軍縮、エネルギー開発利用、資源等の問題が複雑にからみあっているため、各国にとっては核兵器の不拡散に関する条約(NPT)やそれに基づく保障措置等の制度的・技術的な面のみにとどまらず政治性の強い問題となっている。 昭和49年5月インドの核実験は、世界に衝撃を与え、これを契機とする資源国を中心とした核不拡散強化の動きは、ここ数年我が国の原子力開発利用に大きな影響を及ぼしてきた。昭和52年米国のカーター大統領の核不拡散政策は、世界の核兵器国と非核兵器国、ウラン資源供給国と消費国、先進国と開発途上国等といった関係での対立や原子力平和利用の面での混乱を引き起こしたが、これらの対立や混乱を解決する道を見い出すため、昭和52年10月から2年余にわたって、国際核燃料サイクル評価(INFCE)が開催された。この結果、原子力の平和利用と核不拡散は適切な保障措置等のもとに両立するとの結論が出され核不拡散問題について関係諸国間の相互理解が深まることとなった。即ち、INFCEを1つの契機として、世界の核不拡散について考え方が「対立」の時代から「協調」の時代へと踏み出され、核不拡散の新しいレジームの確立を目指して、二国間や多国間で種々の協議が行われるようになった。 このような中で、昭和56年6月イスラエルによるイラクの原子炉爆撃事件が発生したが、この事件は、改めて世界に核不拡散問題の持つ政治性の大きさを認識させるとともに、NPT体制下での原子力平和利用に複雑な波紋を投げかけた。このため、国際原子力機関(IAEA)の保障措置の有効性に関し、論議を呼ぶこととなったが、本事件を受け国際原子力機関の理事会では直ちにイスラエルの暴挙を批判するとともに、国際原子力機関の保障措置が信頼できるものであり、かつイラクにおいてNPT保障措置に反するいかなる事実も見い出されていないことを確認した。 その後、昭和56年7月、我が国の原子力開発利用に最も大きな影響を持つ米国において、核不拡散に関する対外政策として、「核不拡散及び原子力平和利用協力に関する米国レーガン大統領の声明」が発表されたが、INFCE後の世界の核不拡散の協調のあり方を示唆するものとして十分注目に値するものと考えられる。今回のレーガン大統領の声明の内容は、(ⅰ)核不拡散は、安全保障と世界の平和維持にとって重要であり、米国は、今後も核不拡散努力を続け、その強化を図る必要がある。(ⅱ)原子力平和利用の協力において、友好国や同盟国の米国に対する信頼を回復する必要があり、また、核拡散の危険のない進んだ原子力計画を持つ国での再処理及び高速増殖炉の開発を妨げない、の二点に集約される。 米国のこのような新しい核不拡散に対する対応は、先のINFCEの結論とも十分整合性のとれるものであり、INFCE後の新しい核不拡散体制の確立に向けて大きな意味を持つものと思われる。カーター前政権の硬直的な姿勢に比べ、今回の政策は核不拡散の多面的な側面を考慮して友好国や同盟国との連帯の強化、米国の信頼の回復、保障措置技術の改良等により総合的、現実的な形で核不拡散問題を扱っていこうとするものであり、原子力委員会としては、昭和56年7月原子力委員会委員長談話として発表したように本声明は十分評価しうるものと考えている。 しかしながらこのようなレーガン大統領の声明を受け、日米間の再処理に関する長期的取決め等をひかえている我が国としては、米国が今後どのような具体的核不拡散政策をとっていくか十分注目していく必要がある。 2 我が国の核不拡散に対する基本的考え方
我が国は、従来より、原子力基本法の精神にのっとり、自らの原子力開発利用を厳に平和目的に限って推進してきたところである。また一方、核兵器の不拡散に関する条約に加盟し、国際原子力機関との間に保障措置協定を締結し国内の全ての核物質について国際原子力機関の保障措置を受け入れるとともに、核不拡散のための国際的努力に参画する等、国際的核不拡散体制の確立に積極的に寄与してきた。今後ともNPT体制の強化とNPT体制を支える保障措置の充実等を図ることにより核不拡散体制を強化するとともに原子力の平和利用を確保していくことが我が国の基本的立場である。 先にも触れた様に、核燃料サイクルを核不拡散の観点から評価するという試みであったINFCEは昭和55年2月に終了し、保障措置を始めとする核不拡散の手段により、原子力の平和利用と核不拡散は両立し得るとの結論となった。我が国としては、核不拡散の強化により原子力平和利用が妨げられてはならないし、核不拡散と原子力平和利用を両立させる方策は可能であるとの立場を堅持してきており、この結論を受け、世界において、二国間や多国間の場で新たな枠組みに関し今後とも十分な検討がなされるべきと考える。 我が国をめぐる二国間の協議については、当面、日米間の再処理に関する長期的取決めの作成、日豪の原子力協定の改訂等が中心的課題となっている。我が国としてはINFCEの結論、ユーラトム等他の諸国の動向などを踏まえ、我が国の原子力開発利用に支障とならないよう対処する必要がある。 一方、国際原子力機関を中心とする多国間の協議においては、余剰のプルトニウムを国際的な監視の下に貯蔵する制度(国際プルトニウム貯蔵、IPS)、使用済燃料を国際的に管理する制度(国際使用済燃料管理、ISFM)、原子力資材等の供給保障等の核不拡散と原子力平和利用の両立を目指した新しい国際制度の検討が進められてきており、また、核不拡散上の重要な手段である国際原子力機関による保障措置について改善の努力が行われている。 我が国としては、積極的にこうした二国間の協議及び国際的な枠組み作りの作業に参画するとともに国内的には、国内保障措置体制の整備充実及び核物質防護施策の整備を図り、核不拡散に対する我が国の姿勢を積極的に示していく必要がある。 また、我が国としては、国際的な場において核保有国による核兵器拡大競争を止め、核軍縮と原子力平和利用の推進のため努力していかなければならず、核兵器の脅威を低減させるため核保有国が核軍縮の努力を行うよう、国際的な場で積極的に核軍縮を訴えていく必要がある。 更には、開発途上国を含めたNPT加盟国の拡大、南北両側の適正な相互依存関係の樹立等に向けての二国間、多国間及び国際機関との協力を強化する必要がある。 3 核不拡散に対する我が国の対応
(1) 二国間原子力協議への対応
最近の核不拡散をめぐる二国間の主な動きとしては、日米間の再処理に関する交渉及び日豪間の原子力協定の改訂がある。 東海再処理施設の運転については、日米原子力協定に基づき、合衆国産の特殊核物質の再処理について規制を受けている。同施設の運転開始に際しては、昭和52年9月、日米共同決定及び共同声明を行い、当初2年間、99トンの枠内で使用済燃料の再処理を行うこととなった。 その後、日米間の合意により4度にわたる運転期間の延長及び再処理枠50トンの上積みという暫定措置を講じ、昭和56年10月末まで、累計量149トンまで再処理できることとなっていた。 昭和56年5月、鈴木総理大臣とレーガン大統領との日米首脳会談では、米側は、我が国にとって使用済燃料の再処理が重要であることを理解するとともに、両国は東海再処理施設の運転期間延長、新たな再処理施設の建設等の日米間の再処理問題について恒久的解決を図るべく早急に協議を開始すべきことを合意した。 昭和56年7月には、先に述べたレーガン大統領の対外原子力政策が発表され、その後上記首脳会談の共同声明でうたわれている恒久的解決をめざすべく、協議が開始された。その結果、同年9月、東海再処理施設については、設計能力(210トン/年)の範囲内で昭和59年末まで運転すること、第二再処理工場については、建設に関する主要な措置に対する規制を撤廃すること、東海再処理施設における保障措置技術の改良に関しては、国際原子力機関に対する保障措置技術支援計画を通じて、東海再処理施設における改良保障措置技術の研究開発(TASTEX)のフォローアップ等保障措置技術の研究開発を行っていくこと、等で実質的合意に達した。その後、米国内の所要の手続きを経て同年10月日米共同決定の署名、共同声明の発表等が行われた。 原子力委員会としては、原子力委員会委員長談話として発表したように東海再処理施設の運転については、本来、無期限であるべきではあるが、恒久的な解決のための協議にはなお時間を要するという米側の立場を理解し、上記期限については、その満了とともに東海再処理施設の運転を中断する意図ではなく、この期限内に長期的な取決めを行うとの趣旨であることを日米間で確認したため、これが現時点では最も現実的な解決策であるとして同意したものである。 今後は昭和56年5月の上記首脳会談の共同声明の趣旨に鑑み、今回の合意をさらにおしすすめ、できるだけ早期に長期的解決が得られるよう努力することとしている。 日豪間の原子力協定改訂の動きは、昭和52年5月、豪州フレーザー首相が核不拡散の観点からのウラン輸出政策を発表し、この具体化のため関係各国に協定改訂・締結交渉を申し入れたことに始まる。 我が国との間では、昭和53年8月以来昭和56年9月までに7回の交渉が行われている。豪州はこれまでに、豪・ユートラム協定等、16の相手国との間で9つの協定を合意しており、我が国との間の改訂交渉の早期妥結が重要な課題となっている。 我が国としては豪・ユートラム協定締結交渉等の結果を踏まえつつ我が国の原子力平和利用の自主性を確保するとの立場から対応していくこととしている。 (2) 国際的制度に関する多国間協議への対応
国際プルトニウム貯蔵(IPS)は、再処理して得られるプルトニウムを、国際的な監視の下で貯蔵することにより、プルトニウムが平和目的以外に転用されることを防止しようという国際的制度である。このような制度は、将来プルトニウムが大規模に再利用される時代において、プルトニウム利用に係る核不拡散の国際的信頼性を高め、ひいてはプルトニウムの円滑な利用に資するものと期待されている。我が国としては、IPSの検討に当っては、核拡散を十分防止しつつもプルトニウムの平和利用の円滑な実施が妨げられないよう配慮していくこととしている。 国際使用済燃料管理(ISFM)は、将来再処理能力を上まって発生する使用済燃料を国際的に管理し、核不拡散等に寄与することを目的とした国際的制度である。我が国としては、発生する使用済燃料は全て再処理する方針であり、長期的に使用済燃料を貯蔵する意志はないが、世界的にみた場合、再処理能力を上まわって使用済燃料が発生することも事実であり、核不拡散等の観点から使用済燃料の暫定貯蔵に係わる検討を行うことは有意義であると考え、本検討に参加しているところである。 原子力資材、技術及び核燃料サービスの供給保証については、それが適切に行われるならば、結果として核不拡散に寄与することになるとの考えのもとに、開発途上国の強い要請もあり、昭和55年6月、国際原子力機関の理事会において、この問題を検討するための委員会として供給保証委員会(CAS)の設置が合意された。我が国としては、NPT体制の維持強化を図りつつ、原子力平和利用と核不拡散の両立をめざすとの基本的立場に立って、この検討に参加しているところである。 (3) 保障措置の充実
世界的な核不拡散強化の状況下で、NPT体制を支える国際原子力機関の保障措置の充実が求められており、我が国としても、国際原子力機関による保障措置の円滑かつ効果的な実施のため、原子炉等規制法の改正等国内保障措置体制の整備充実を鋭意行ってきているところである。一方国内では原子力委員会のポストINFCE問題協議会に、昭和55年10月保障措置研究会を設置し、国際原子力機関による保障措置の改良等の国際的核不拡散強化の動向、並びに国内における原子力開発利用の進展に伴う核燃料サイクル主要部門の拡大及び核物質取扱い量の増大に適切に対処するために、INFCE後の諸問題についての審議の1つとして、国際保障措置の前提となる国内保障措置の整備の充実に関する検討を進めてきた。同研究会は昭和56年10月、国内保障措置体制の整備計画をとりまとめ、我が国が国際的に信頼され、かつ、NPTに基づく国際原子力機関の保障措置適用の前提としての国内保障措置を実施していくために推進すべき所要の方策を提言した。 また、我が国は、従来より、保障措置技術の改良を独自であるいは国際原子力機関を中心とした国際協力の形で行ってきたが、INFCEの結論を踏まえ今後ともこれに積極的に取り組んでいく必要がある。 米国、フランス及び国際原子力機関と共同して、昭和52年9月の日米共同声明の趣旨にのっとって、実施してきた東海再処理施設における改良保障措置技術の研究開発(TASTEX)は、所期の成果が達成されたとの結論が得られ、昭和56年5月に終了した。また、日本、米国、トロイカ三国(英、西独、蘭)、豪州、国際原子力機関及びユーラトム六者による遠心分離法ウラン濃縮施設に関する保障措置技術開発国際協力プロジェクトに対しても、我が国は今後とも積極的に参加していくこととしている。さらには、国際原子力機関が実際に適用する保障措置技術の開発及び実証試験を行うことを目的とした国際原子力機関に対する保障措置技術支援計画が昭和56年11月に発足した。 (4) 核物質防護措置の整備
原子力開発利用の進展に伴い、核物質が各施設において大量に扱われるようになったため、これを盗収等により入手し平和目的以外に利用することを防止するいわゆる核物質防護が極めて重要となってきた。国際的には、昭和47年に、国際原子力機関が核物質防護に関する勧告を出しており、国内においても昭和51年原子力委員会に核物質防護専門部会が設置され、国際動向にも対応した我が国の核物質防護のあり方について検討を進めてきたところである。これによって我が国の核物質防護は上記の国際原子力機関の勧告等の国際的基準を満たし得るものとなっている。しかしながら核物質防護をめぐる国際的動向は、なお年々動いている。昭和55年3月、署名のために開放された核物質防護条約は、国際輸送における核物質防護確保のためのシステムを構築するものとして、国際原子力機関において2年間の討議を経て成立したものであるが、昭和56年10月現在、31カ国及びECが署名を行っており、このうちスウェーデン及びドイツ民主共和国は批准まで終了している。また、二国間の原子力協定においても核物質防護の実施の義務づけを明確に規定することが一般化しつつある。 このような動きを受けて原子力委員会は、昭和56年3月、同専門部会がとりまとめた報告(昭和55年6月報告書提出)を基に、
① 関係行政機関においては、報告書に示された内容を指針として、今後の核物質防護施策を進めること、
② 必要に応じ核物質防護の実施義務等に関する法令整備を含む体制整備を図ること、及び、
③ 核物質防護条約については、批准に備え国際動向に留意しつつ、諸般の整備を進めること、
を内容とする委員会決定を行った。 4 原子力の研究開発等に関する国際協力
原子力の研究開発等に関する我が国の国際協力は、近年、とみに活発化の傾向を見せている。この背景としては、過去四半世紀の間、営々として築き上げられてきた我が国の原子力技術に対する国際的評価の高まり、個々のプロジェクトの巨大化に伴う研究開発リスクの分散化の傾向、国際的規模での安全性技術等に関する評価推進の動き、開発途上国からの協力要請の高まり等が上げられる。我が国は、国際協力については、原子力開発利用における自主性の確保を前提として必要に必じ、協力相手国と協力形態を選びつつ国際協力を推進することとしているが、国際協力活発化の動きは今後ますます増大し、特に我が国が主導的立場で進めることが必要とされる国際協力が多くなってくるものと予想される。 我が国の原子力の研究開発等に関する国際協力には、安全研究に関するもの、高速増殖炉等の新型炉の開発に関するもの、核融合研究に関するもの、原子力施設の規制情報交換に関するもの、開発途上国との放射性・アイソトープの利用技術に関するもの及び国際原子力関係機関を通じての協力がある。 安全研究協力については、軽水炉に関し日本と同様に軽水炉路線をとる米国、西独及びフランスとの間で協力が進められているが、最近では、軽水炉の安全研究のみでなく、特に日米間では、高速増殖炉及び高温ガス炉の分野にも協力の範囲が拡大されてきている。 安全研究においては、各種の事故条件を再現する特殊な研究用原子炉が重要な役割を果たすが、これらの各種の原子炉を一国で全て備えることは資金面、研究人員等の面から制約があるので、各国がそれぞれ所有している再現事故条件の異なる研究用原子炉を活用し、相互に研究協力を行うことは極めて有効なことである。 我が国は、日本原子力研究所のNSRR炉(反応度事故時の燃料の安全性の研究のための炉)、米国のPBF炉(原子炉の過渡状態における炉心安全性の研究のための炉)、及び西独のPNS炉(冷却材喪失事故時及び出力冷却不整合時の燃料安全性の研究のための炉)等を対象とし、これらの国の間で研究成果についての情報交換及び研究者、技術者等の交流を活発に行っている。 最近の動きとしては、昭和56年2月から我が国の日本原子力研究所とフランスの原子力庁との間で、NSRR炉とフランスのPHEBUS炉を用いた軽水炉燃料の安全研究協力(NSRR/PHEBUS計画研究協力)が始められている。 また、スリー・マイル・アイランド原子力発電所の事故の教訓を踏まえて、昭和55年5月及び6月の日米首脳会談において意見の一致が得られた原子炉の安全研究に関する日米協力の拡大、強化については、現在、小破断時の冷却材喪失事故、原子炉の耐震信頼性等に関する4つの協力分野が選定され、協力の枠組みを示す政府間の取極め締結等のため、作業が進められている。 この他、日独間で、高レベル廃棄物管理分野における技術協力が昭和56年2月から動力炉・核燃料開発事業団と西独カールスルーエ原子力センターの間で開始された。 更に、新型炉については、重水炉に関しカナダと、高速増殖炉に関し米国、英国、西独、フランス及びソ連と、高温ガス炉に関し西独との間で、協力を行っている。これらの新型炉に関する協力の中では、米国との協力が、最も活発であり、各種の専門家会合、専門家の相互派遣及び情報交換が行われている。 核融合の研究については、米国、ソ連等との間で協力を行っている。特に、米国との間では、昭和54年5月に締結された日米エネルギー協力協定に基づいて米国のトカマク型プラズマ試験装置ダブレット-Ⅲを用いた共同研究、交流計画等が行われている。核融合関連では、この他、国際原子力機関、国際エネルギー機関(IEA)の協力プロジェクトの一環として、INTOR計画(次期大型トカマク炉の共同研究)、TEXTOR計画(プラズマ壁面相互作用研究)、超電導磁石研究計画等の協力が、多国間の協力として行われている。 このような新型炉に関する協力、核融合に関する協力等は、今後、大型化していくことが予想され、我が国としては、自主開発路線のもとに、費用対効果、効率性等を十分に検討し必要なプロジェクトについては、積極的に対応していくことが望まれる。 原子力施設の規制情報交換協力については、原子力施設の規制上必要とされる技術情報、許認可措置、運転経験、規制手続等について各種の情報交換、専門家会合の開催等が米国及びフランスの規制当局との間で行われている。 一方、開発途上国との協力活動としては国際原子力機関の「原子力科学技術に関する研究・開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」のもとで、現在、アジア・太平洋地域の開発途上国を対象とする農業及び工業分野への放射線・アイソトープの利用を中心とした協力活動が行われている。この協力活動の一環として我が国は、放射線・アイソトープの食品照射計画及び工業利用計画について資金の拠出、研修員の受け入れ、専門家の派遣、各種ワークショップの開催等を行っている。我が国独自のRCA協力として国際協力事業団の協力を得て、我が国は昭和56年2月、医療面への協力の拡大の観点から、「RCA放射線・アイソトープの医学生物学利用調査団」をアジア諸国に派遣するとともに、同年8月には、放射線医学総合研究所の実施機関として「アイソトープ・放射線の医学・生物学利用ワークショップ」を開催する等積極的な対応を行いつつあるが、今後は更に、協力の拡充強化を図っていくことが望まれる。 また、原子力分野の国際原子力関係機関としては、国際原子力機関の他、経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)等があるが、我が国はこれらの国際原子力関係機関における原子力平和利用のための国際協力活動に積極的に協力を行ってきているところである。このうち、経済協力開発機構原子力機関への協力活動の1つとして、我が国は昭和56年4月には、NEA運営委員会を東京に招致するとともに「原子力開発における国際協力の役割」と題する特別シンポジウムを主催した。 このシンポジウムでは、原子力開発先進6カ国から各国における原子力政策の紹介があり、原子力開発を推進する上で直面している諸問題解決のための国際協力のあり方について意見交換が行われた。 |
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