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保障措置について


原子力委員会委員
新関 欽哉

 ポスト・インフセ問題協議会の保障措置研究会は、このほど、今後の国内保障措置制度のあり方をまとめた報告書を原子力委員会に提出した。この報告書の内容は、目下審議中の「原子力研究開発利用長期計画」にも適当な形で組み入れられることになろう。

 1970年わが国が核兵器拡散防止条約(NPT)に調印してから、これを批准するまで6年の歳月を費やしたが、最後まで残った大きな問題は保障措置問題であった。その間において、国際原子力機関(IAEA)は、各国との間で保障措置につき個別的協定をつくる際の基準となるべき「モデル協定」を採択したが、それはわが方の主張を大幅に取り入れたものであった。従来IAEAが行ってきた国際査察制度を簡素化、合理化しつつ、できる限り各国による自主的管理を尊重していくという趣旨のものであり、各国の国内保障措置システムによる査察の結果をIAEAの査察官が検証することを建前とするものであった。

 わが国のNPT加盟に伴いIAEAとの間に新しい保障措置協定が締結され、これにもとづき保障措置実施の多くの部分はわが国の自主的査察に委ねられることとなった。それだけに、わが国にとって、国際的にも十分信頼されるに足る国内保障措置体制を整備することが急務となった。今回、核物質管理センターの川島専務理事を主査として作成された「国内保障措置体制の整備計画について」という報告書は、まさにこうした内外の期待に応えるためのものである。

 そもそも、IAEAが各国の国内保障措置制度を重視するようになったのは、国際査察によって商業上の機密が洩れたり、不当にコストが高くなったりして、原子力の平和利用計画に支障を来すことがないようにという非核兵器国の主張に応じたものであるが、もう一つの理由としては、IAEA一本の保障措置制度では財政的負担に耐えられなくなるという将来の見通しもあった。事実、その後主要国における核物質量の増大、施設の大型化ばかりでなく、原子力の平和利用に新しく取り組むようになった国の数も年々増加し、それに応じて、保障措置適用の対象となる原子力施設もふえてきている。他方、本年9月のIAEA総会における発展途上国の要求にもみられるように、IAEA予算の大半が保障措置に使われていて、肝腎の技術援助のための財源が不足していることに対する根強い不満があることも考慮しなければならない。

 こうした状況にかんがみ、IAEAの保障措置そのもののあり方も改めて見直すべき時期が来ている。従来の原子力発電所等に対する保障措置をこの際思い切って簡素化、合理化し、保障措置実施の要点を再処理とか濃縮とかの機微な技術にかかわる分野に移すことによって、同時にまた、計量管理ばかりでなく、監視および封印の方法を併用することによって、より効果的な保障措置システムを再構築する必要があり、わが国としてもこれに積極的に寄与すべきであると思う。

 来年9月IAEA主催で「原子力経験国際会議」が開かれることにあっており、日本は保障措置関係の論文の提出を求められているが、私はこういった機会を利用して、わが国は、長年にわたる貴重な経験をふまえ今後における国際保障措置のあり方について建設的な提言を行う必要があると考えている。

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