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近時雑感


原子力委員会委員
渡部 時也

 今年はサンフランシスコ講和30年であり、電力会社も創立30年を迎えた年であった。我国は平和の30年富国軽軍備路線を一貫して辿ってきたが、ここへきて行財政改革防衛費増額と何やら路線転換を模索しているような動きとなってきた。国債依存体質改善のための財政再建であるが、元はオイルショック後の財政による景気下支えのための財政肥大の咎であり、改めてショックの深さを思わざるを得ない。

 経済は全般的にはショックを乗り切って、中成長に軟着陸したと言えるのかもしれないが、石油、電力の多消費産業は尚苦しい道を歩んでいて安定とはほど遠いようである。電力も又例外ではない。ショック後大幅な料金値上げを重ねて緊急避難を図り経営破綻を脱れたものの、石油依存体質改善はそう急には進まないため、尚OPEC情勢に一喜一憂をしなければならない状況である。電源多様化手段のうち石炭は今後のことであり、LNGは安定入手の利点はあるが、価格の石油連動性があり、真の脱石油は原子力に依らざるを得ない。その原子力も立地問題を抱えていて、最近政府と電力の努力で2、3立地成功を見たが、尚全般的にはたゆまない努力を必要としている。原子力反対が今程盛でなかった初期にいち早く地点を確保した先発会社と、苦闘を続けている後発会社との間に、原子力保有率にかなりの隔りが生じた。これは石油対抗力の差となって、今後の石油値上げに際して電力会社間の料金格差を拡げる方向となる。現在も格差はあるが、この程度はまだ需要家に容認されていると見えて問題にはなっていない。しかし、この次“第3次オイルショック”というような衝撃的値上げがあれば、料金レベルの上ることは兎も角も、格差は我慢できないとして需要家から“もうあの会社にはまかせておけない”と言う声が大きく上ることも想像でき、地域と共に歩むことをモットーとし、需要家の付託に応ずるべく努力してきた電力にとって致命的なこととなるおそれがある。今の所石油は小康状態であるので、これが長続きし後発会社が原子力比率を高めるまでオイルショックが起らないことを願わずには居れない。

 気楽な話もある。昭和55年度は豊水と円高で電力は30年間最大の利益を上げることができた。それにしても電力、ガス合計で昭和54年度の40倍以上、電力だけでは160倍以上の利益を挙げたとの当局の発表にはいささか驚いた。調べてもらうと、昭和54年度は電力9社中7社は大赤字で、2社が僅かながら利益を計上していたが、赤字会社は利益は0とし2社の黒字と昭和55年度の9社の黒字との比較であることを知った。当局は例年この様な計算の仕方で発表しているとのことで他意は勿論ないのだが、過去電力はもうけ過ぎとマスコミの大合唱に会って、料金割戻しをやらされた経験もあるので心配したが、まだその声は出ていない。余剰利益は各社共次の料金値上げを少しでも先に伸ばすために留保してある。

 電力はこの30年、安定供給と企業効率化を目指し毎年資本金を上廻る設備投資をして、施設の充実と近代化を図って来た。ここにきて原子力の本格化につれて、電力は発電所だけでなく、核燃料資源確保、核燃料サイクルの各施設にまで守備範囲を拡げてカバーしなければいけなくなってきた。これら自主開発技術のうちいくつかは実用化の前の段階迄進んできて、今後実用化迄に更に多額の資金を必要とする。電力も協力は惜まないであろうが、経済合理性だけではすまされない性質のものが多いだけに、前途には問題多しと言うことであろう。

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