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巻頭言



前原子力委員会委員長代理
清成 



 石炭、石油等のいわゆる化石燃料がエネルギー源として用いられる様になってから、人類社会の進歩発達、即ち、今我々が享受している科学文明(自動車、飛行機、各種機械器具、化学製品等々)の躍進は目をみはるものがあるが、それを支えるエネルギーの消費も急上昇を続けている。勿論成長には限界があり、必ずS字曲線に沿って逓減し飽和する筈であるが、一挙に飽和に到達することは到底不可能で、ここ数十年以上で増加の一途を辿ることを覚悟せねばならない。この過渡期は石油資源の大部分を輸入に仰いでいる我が国は、エネルギーの供給が非常な困難に陥り、打開の方途として期待されるのは、化石資源に頼らぬ原子力を急遽活用してこれをエネルギーの中心とすることである。

 然るに原子力はその特徴として、宿命的に、人類に対する大きな貢献と悪意に用いられれば害毒を与えるという両面を併せ持って居り、その理学的工学的実態が判りにくいのみならず、上述の特徴が国内でも国際的にも政治的謀略的に種々論議され発表されるので、一般国民が正しい事実を認識するのが極めてむつかしい。一般国民大衆の理解と協力がなくては原子力の利用拡大は望むべくもないので、何としてでも正しい事実を知らせる必要がある。

 私は中立的な権威ある機関として、原子力委員会が是非これに当って載き度いと思う。この月報も今の目的の一部は果しているとは思うけれども、これはその月の委員会の業務の報告が中心であり、国民全部が必ず知らねばならぬとも云えないし、むしろ委員会の業務以外にも、原子力問題で是非国民に正しい事実認識を与えるべき事は沢山あると思われる。新聞に雑誌に沢山の記事は出るけれども、或いは専門技術の解説であったり、会議の速報であったり、特定国の独自の主張見解であったりで、一般国民が我が国の原子力利用について持たねばならぬ正しい知識とは云い離い。第一専門的に過ぎ尨大過ぎて、それを国民に望むのは無理である。とすれば何か専門にこれを担当する組織を設けねばならないであろうが、国家的に非常に重大なことと思うので、是非真剣な御取り組みを切望する。

 エネルギー問題はここ当分の間世界でも大きな関心事であり、特に化石資源を持たぬ工業大国として、我が国では極めて重大な問題である。それから又今後特に力を入れねばならぬ原子力利用は、日本は世界唯一の被爆国として、感情上からも国民の理解協力なくしては到底目的を達し得ない。私は原子力委員会が権威ある最高機関として、大局的見地から国民に事の真相を示し、それにより国民は正しい事実認識とそれに基く合理的な推理判断によって真の人間の幸福を知り、原子力に対する識見を確立することを祈って止まぬものである。

以上



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