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我が国の原子力政策について


原子力委員長代理
清成 

 人類文化の進展に伴い、エネルギー問題は極めて深刻となり、世界的な対応が必要とされているが、特に我が国では文化、人口、資源等の状態から考えて、石油代替エネルギーの中核である原子力開発利用が不可欠であることは言うまでもない。我が国の様なエネルギー資源を殆んど持たぬ高度工業国で原子力を開発利用するには、ウランの持つ核エネルギーを完全に利用するために、核燃料サイクルの自主確立と我が国情に即した合理的な運用とが最も主要な課題である。

 そこで、先づ第一に、核燃料サイクルについて順次思うところを述べてみたい。

 ウラン資源については、将来は需要の3分の1程度の開発輸入を目指し、目下アフリカ、オーストラリアで精力的な調査探鉱を行っている。

 濃縮については、人形峠のパイロットプラントが近く全面運転に入るので、その成果を踏まえて次の国内事業化路線を確立すべき段階と考え、現在各界の参画を得て方策の検討を進めている。

 次に、我が国は現在軽水炉の定着に力をつくしているが、立地の問題で計画が思う様に進まぬことは甚だ遺憾である。これはまだ国民に原子力への不安感が残っていることを物語るものであり、国の安全施策の実際を根気よく徹底させると同時に、一面地域事情等も考えた行政措置により住民の納得を促進すべく努力中である。

 また、中長期的観点から、次代の発電炉として新型転換炉、高速増殖炉等新型炉の研究開発が極めて重要であり、現在転換炉については原型炉「ふげん」の経験をもとにした実証炉の建設段階を迎えている。増殖炉については、原型炉「もんじゅ」の建設が立地問題で折衝中であるが、いづれも今後種々の面で産業界の理解と自主的取組みが望まれるところである。

 それから核分裂のサイクルとは異なるが、核融合は資源の点、環境への影響等の点で核分裂のもつ避け難き問題点を、原理的には緩和が可能と期待され、究極の人類エネルギーと考えられ、完成は相当先のことと思われるが、巨大な資金と長期の研究を必要とするので、今から肝を据えた取り組みが必要である。目下国のプロジェクトとしてトカマク型臨界プラズマ方式試験装置「JT−60」が原研において建設中であるが、トカマク以外の種々の方式も各大学等において熱心に研究されつゝある。

 使用済燃料の再処理では、東海パイロットプラントの運転は本年6月1日迄と日米間で合意されているが、その後の運転も円滑に実施出来る様折衝すると共に、次の商用民間工場の建設計画についても、再処理が我が国に於ては絶対必要なことを是非米国に認識させる様努力を続けて行く。

 放射性廃棄物で発電所等から発生する低レベルのものは、一応敷地内に貯蔵し、必要に応じて海洋または陸地に処分することとし、目下その研究調査と体制の確立を目指して努力している。なお、海洋処分については、万全の安全措置が講じてあるが、出来るだけ早く太平洋諸国の理解を得て試験的海洋処分を実施することが必要である。一方、再処理施設等から出る高レベル廃棄物は、当面施設内に厳重保管し、その後ガラス固化法等によって安全な形態に固化処理し、30〜50年程度貯蔵した上で処分することを基本方針とし、それに向って総合的に研究開発を推進して行きたいと考えている。高レベルの廃棄物は量的には極めて少ないもので、一歩一歩確実且つ充分な調査研究を進めるべきであると考える。

 燃料サイクルに続いて、第二に国際間の問題が非常に重要である。我が国は化石燃料等の資源に乏しいので、将来エネルギーは原子力に依存せざるを得ないと同時に、世界唯一の被爆国として核兵器による惨害を身を以て体験した国である。したがって、原子力の開発利用は厳に平和目的に徹してのみ許されるものであり、また軍事利用への核拡散の危険はこれを出来る限り防止すべきものとの考えに立っている。

 そして、これまでの経験から人類の真の幸福を思う心さえあれば、原子力の平和利用と核拡散防止とは両立し得ると云う信念をもつに至った。この意味からINFCEは誠に時機を得た試みで、原子力に対する各国の相互理解が深まった。現在その成果を踏まえIAEAを中心に新たな枠組造りとして、国際Pu貯蔵、国際使用済燃料管理及び核燃料の供給保証の検討が進められており、我が国としては上述の趣旨から、これらの検討に積極的に参画協力している。

 今後は蓄積した自主技術を以て安全研究、核融合等の分野で先進諸国の先端研究に参画し、他方開発途上国の原子力平和利用推進に進んで協力することが望ましいと考えている。

(昭和56年3月10日、第14回日本原子力産業会議講演要旨)

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