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エネルギー問題と原子力政策


原子力委員会委員長
中川 一郎

 本日は、第19回目を迎えられた原子力総合シンポジウムにおいて、原子力委員長としては初めて講演する機会を得ましたことは大変光栄でございます。

 この機会に政策責任者として常日頃考えておりますことを御紹介し、今後における皆様方からの忌憚のない御意見、御提言をいただく際の御参考になれば大変幸いでございます。

(原子力研究開発利用の経緯と成果)

 我が国の、原子力の研究、開発及び利用は、その推進によって、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的として、昭和30年に制定された原子力基本法の下で進められてきたことは御高承のとおりであります。同法制定以来、既に25年の歳月が経ち、原子力発電は、既に電力供給の重要な柱となり、国民生活に不可欠なエネルギーとなっております。また、原子力の研究開発関係予算につきましては、昭和29年に初めて2億5千万円の原子力予算が計上されて以来、昭和55年度までに累計で約1兆4千億円の国費が投じられ、更に昭和56年度には約2,700億円にのぼる原子力予算を計上するまでになっており、動燃、原研及び原子力船の開発機関と、総勢5,200人という原子力開発体制を整えるに至っております。

 このような関係者の努力の結果、原子力研究開発の各分野において我が国の自主技術は世界に水準に比肩し得るほどに育ってきており、これらはまた、我が国の科学技術水準の向上、原子力産業界の基盤強化等に大きく貢献してきているものと確信いたします。今や、これらの成果の実用化を一層促進することによって、原子力を長期にわたり、より安定した石油に代わる基幹エネルギーとすることが一段と強く期待されております。

(原子力研究開発利用の基本的考え方)

 我が国の原子力研究開発利用についての基本理念は、原子力基本法に規定されているところでありますが、この機会に今後の原子力研究開発利用を進めるに当たっての基本的な考え方を述べておきたいと思います。

(平和利用の確保)

 第1には、原子力の研究開発利用は、厳に平和目的に限って、これを進めるということでございます。

 我が国の原子力基本法が、原子力の研究開発利用は平和目的に限ることを基本としているのは、我が国が世界唯一の被ばく国であるという体験と、それを二度と繰り返させまいとする決意より出たものであります。

 現にその後、我が国は、「核兵器を持たず、作らず、持ちこませず」の非核三原則を国是として堅持してまいりました。また、我が国は、昭和51年に、核兵器不拡散条約を批准いたしましたが、これは、同条約の精神が、我が国の平和理念に基本的に合致するものであるとの認識に基づくものであり、また、核兵器廃絶という我が国民の願いとともに、原子力平和利用促進への期待をこめたものでございました。

 我が国は、このような不動の決意の下に、原子力の平和利用による国民福祉の向上と、人類の幸福への貢献に力を尽くしてまいりましたが、国際的には非核保有国への核兵器の拡散に対する懸念から、原子力の平和利用の上にも、特に核燃料物質や原子力技術等の移転あるいは使用済燃料の再処理などに対する規制が強化される傾向にあり、これが国際政治上も重要な問題となってきております。

 もとより、我が国は核兵器の拡散防止に国際的にも積極的に寄与していくべき立場にあり、原子力委員会としても世界の核不拡散に対するより効果的な方途を探求するため、不断の努力を積み重ねる所存であり、また、我が国の原子力研究開発利用は、今後とも、原子力基本法の精神に立脚し、平和目的に徹してこれを進めることを強調しておきたいと思います。

(安全確保と国民の支持)

 第2には、原子力研究開発利用は、安全の確保を大前提として進めるべきものであり、このための対策の一層の充実に努めることとし、この上に立って、原子力に対する広い国民的支持を得るよう努力してまいりたいと考えております。

 資源小国の我が国にとって、原子力が必要であることについては、議論の余地がないことだと確信いたしますが、原子力研究開発利用を推進するためには、国民のより深い理解と、より広い協力を得ねばなりません。しかしながら、原子力の安全性について、未だ十分な国民的合意が得られていないことが、原子力発電所の立地が必ずしも円滑に進まない最も大きな要因になっているのが実情であります。

 政府といたしましては、御列席の皆様方の御支援、御協力を得て、原子力の安全の確保について万全を期し、実績を積み上げ、その上に立って、エネルギー問題の解決のためには原子力研究開発利用が不可欠であることについて、国民一般及び地域住民の広範な支持を得てまいりたいと思います。

(国際協力と自主性の確保)

 第3には、原子力研究開発利用について積極的に国際協力を推進するとともに、自主性を確保するということであります。

 我が国は、従来から、原子力の研究開発について積極的に国際協力を行ってまいりましたが、核融合、安全研究等の分野、あるいは発展途上国に対して国際協力の機会が増加しているほか、核不拡散問題をめぐり、国際原子力機関を中心に行われている多国間協議等に積極的に対応することが求められております。

 一方、このような国際協力による共同プロジェクトを効果的に推進する上で、我が国として、借り物でない独自の技術蓄積や開発態勢を持っている必要があり、かつ、近年、核不拡散との関連において、原子力に関する重要技術の国際間移転がとみに制約され、安易な導入期待は許されなくなってきていることなどを考慮すれば、自主的な原子力技術体系の確立を目指す必要があります。

 このような原子力研究開発利用における自主性の確保が、長期的見地から、我が国の原子力技術と関連産業の発展に必須なことであると考えます。

(エネルギー問題と原子力政策の方向)

 次に、今後の原子力政策を具体的にどのように推進するかにつき、最近のエネルギー情勢を踏まえながら、お話し申し上げたいと思います。

(エネルギー問題への対応策)

 エネルギー問題は、世界が抱えている緊急に解決しなければならない重要な課題であります。

 現在、世界のエネルギー供給の約5割は石油によっていますが、その供給は、石油輸出国機構(OPEC)諸国の動きに大きく依存しており、相次ぐ価格の引上げ、産油国の生産調整の動き、イラン・イラク紛争等が近年の国際石油情勢を極めて不安定なものとしており、中長期的にも石油需要のひっ迫化の傾向は避けられないものと見られます。

 このような事態に如何に対処していくかということは、国際的に最重要課題であり、ここ数年来の各種の国際会議において重要テーマとして取り上げられてきております。一昨年の東京サミットにおいては、各国の石油輸入目標が設定され、また、昨年のベネチアサミットにおいては、サミット参加国の全エネルギー供給に占める石油の割合を、現在の53%から、昭和65年までには約40%に低下させること等が合意されております。我が国の石油輸入目標は、昭和60年に630万バーレル/日と設定されましたが、この目標を達成するとともに、国際会議への参加メンバーの一員として、国際的な合意が達成しうるよう我が国が積極的に石油依存低減化のための努力を払うことは、我が国に果せられた国際的責務と言えます。

 我が国は、こうした国際的責務を果たすという観点からだけではなく、
(1) 石油依存度が71%(昭和54年度)と主要国中最も高いこと
(2) 石油の99%以上を輸入にたよっているほか、他のエネルギー資源も国内に乏しいため、エネルギーの自給率が10%程度と主要国中最も低いこと

等極めてぜい弱なエネルギー供給構造を有しており、他のどの国にもまして石油依存度の低下を図っていかなければなりません。

 石油については、単にエネルギー供給面での量の確保といったことだけでなく、石油依存体質では、コスト面からも経済への影響が少くなく、国内における物価抑制や貿易収支の改善という見地からも我が国の石油依存度の低減化が必要であります。

 すなわち、石油価格(アラビアンライトの価格)は、10年前には、バーレル当たり2ドル弱だったものが、昨年12月には32ドルにまで引き上げられ、わずか1年余りの間でも14ドルも値上がりしております。我が国は年間約3億klの石油を輸入しておりますが、14ドルの値上がりだけでも年間265億ドル、約5兆3,000億円もの外貨を余分に支払わねばなりません。このようなことは、物価や貿易収支に悪影響を与えることとなり、我が国の全輸入額に占める石油輸入の割合は10年前には、約15%であったものが、昭和54年度には35%にまで上昇し、将来は50%にもなろうかと言われております。ちなみに、昭和54年度の石油輸入額は8兆3,700億円に達しており、これは我が国の自動車、鉄鋼、テレビ、ラジオ、カメラ及び腕時計の輸出額をも上回るものとなっています。

 石油依存度の低減のためには、省エネルギーの推進と石油代替エネルギーの開発、導入の促進が必要であります。

 省エネルギーの推進については、中長期的観点から、生産、民生及び輸送の各分野において省エネルギー構造化を図る必要があり、政府においてはこれまで各分野の省エネルギー努力、例えば、冷暖房温度の調整、自動車の経済速度の励行等を促すべく諸般の対策を進めてきております。

 政府としては、民間の協力を得て昭和56年度においては、石油換算で2,500万kl以上(昭和55年度2,000万kl以上)の節約を達成したいと考えています。

 一方、政府は、昭和65年度には石油依存度を50%(石油消費量3.5億kl)にまで低減させることを基本とする、原子力をはじめ、石炭、LNG等の各種の石油代替エネルギーの昭和65年度の供給目標を昨年11月に設定したところであります。

 自由世界で消費される石油の1割を消費している我が国としては、不安定な国際石油情勢の下で、石油依存度を下げつつ、積極的にエネルギーの安定供給確保の努力を払うことは、国の総合安全保障の見地から当然のことであると同時に、国際的に果たすべき責務であり、官民の最大限の努力によって、石油代替エネルギーの供給目標を是非とも達成したいと考えております。

(原子力の位置付け)

 石油代替エネルギーには各種のものがありますが、我が国にとって最も有望かつ現実的なものは、原子力であると考えています。

 この理由としては、
(1) 世界で247基、1億4,600万kw(昭和55年12月末現在)の原子力発
電所が運転中であることからもわかるとおり、既に技術的に実用段階に達していること
(2) 1基の原子力発電所で100万kw以上という大量のエネルギー供給が可能であり、基幹エネルギーとしての寄与が期待出来ること
(3) 経済性についても、石油火力発電の発電コストが約19円/kwh(昭和55年度運開)であるのに対し原子力発電のコストは約10円/kwhと既に優位に立っており、しかも、原子力発電の場合燃料費の占める割合が低く(約3割、石油火力の場合約8割)、今後の石油の値上がりを考えれば、更にこの差は拡大していくことが考えられること
(4) ウラン資源にも限りがあるとはいえ、高速増殖炉の導入により長期間にわたり利用可能であり、将来の核融合によるエネルギー供給源の開発までの橋渡し役を充分果しうるものであること
(5) もちろん、石炭、LNGについても今後その利用を拡大していく必要がありますが、石炭については海外炭の安全供給確保、環境保全対策といった課題を抱えており、LNGについても生産、流通面で巨額の設備が必要とされるため需要が限定されるといった問題があり、その拡大も決して容易でないこと

等があります。

 このように、原子力は石油代替エネルギーの中心的役割を担うものと期待されますが、我が国においては原子力発電の規模は現在約1,500万kwに達し、全発電量の13.3%(全エネルギー供給中の約4%)を占めるに至っています。原子力の供給目標においては、昭和65年度には、これを5,100~5,300万kw、全発電量の約30%(全エネルギー供給中の約11%)にまで拡大することとしています。

 原子力発電については、世界各国とも積極的に取り組んでおり、特に我が国とよく似たエネルギー事情にあるフランスにおいては、昭和65年には全発電量の73%(全エネルギー供給中の30%)を原子力発電により賄うという意欲的な計画を持っており、思想、信条、党派を超えて、国を挙げて原子力を推進しています。したがって、フランス以上にエネルギー自給率の低い我が国としては、原子力の供給目標を目指して、困難を克服してその達成を図らなければならないと考えています。

(我が国の原子力政策の課題)

 次に、我が国が今後原子力開発利用を推進していく上での主要な課題とその対応策について述べてみたいと思います。

原子力発電の推進

 まず、原子力発電についてですが、現在、運転中及び建設中(建設準備中を含む。)の原子力発電所の出力の合計は、約2,800万kwであり、原子力の供給目標を達成するためには、今後10年間以内に2,300~2,500万kw、原子炉基数で、20基以上の原子力発電所を建設しなければなりません。この場合の最大の問題は、原子力発電所の立地難の打開であります。

(1) 立地難の背景には、依然として、原子力の安全性について国民の合意が十分得られていないことがあり、この合意を得ることが急務であります。

 このためには、原子力発電所のトラブルの減少を図り、稼働率を高め、安全運転の実績を積み上げることにより、国民の原子力に対する信頼を得ることが、まず第一に必要であります。政府といたしましては、原子力発電所の安全審査及び検査の充実を図るとともに、運転管理に対しても十分な監督を行い、原子力の安全確保対策には今後とも万全を期していく考えであります。

 また、原子力発電の必要性と安全性について、国民の十分な御理解を得る必要があり、立地の初期段階から地元において求められる情報の提供等積極的な広報活動を展開していきたいと考えております。

(2) 更に、原子力発電所の立地が地元の福祉向上の上で、積極的なメリットがないということでは受け入れてくれる地元はありません。

 このため、政府は、従来より、電源三法を活用し、地方自治体に対し、公共用施設の整備に要する費用に充てるため、電源立地促進対策交付金を交付してきております。この制度については、年々地元の要望を基にその拡充に努めてきておりますが、更に、昭和56年度においては、新たに電源立地特別交付金を創設し、電気料金の実質的な軽減措置を講ずるとともに、地元における雇用確保事業の推進を図ることとしています。

 以上のような施策の充実を図ることにより、国民の理解と協力を得つつ、原子力発電所の立地を促進し、エネルギー源としての原子力に対する国民の期待に応えていきたいと考えています。

(核燃料サイクルの確立)

 次に、原子力発電が安定したエネルギー源としての役割を果たしていくためには、核燃料を安定的に確保し、その有効利用を図ることが極めて重要であり、このため、自主的な核燃料サイクルを早期に確立することが極めて重要であります。

天然ウランの確保

 核燃料サイクルの確立のためには、まず第1にウラン資源の確保が必要であります。

 ウラン資源に乏しい我が国は、必要な天然ウランの大部分を海外に求めざるを得ません。現在のところ、昭和60年代後半までに必要な天然ウランについては長期契約等により、確保されていますが、今後の世界的なウラン需要の増大に対処し、安定的にウランを確保していくためには、開発輸入の比率を高めることが重要であり、このため、アフリカ、オーストラリア等の海外における探鉱開発を積極的に進めていくこととしております。

ウラン濃縮

 第2に国内におけるウラン濃縮事業の確立が必要であります。我が国の原子力発電に必要な濃縮ウランは、現在のところ全面的にアメリカ及びヨーロッパからの輸入に依存しております。既に昭和65年頃までに必要とされる濃縮ウランは確保済みでありますが、近年、核不拡散の強化を目的として濃縮ウランの供給に伴い、種々の制約が課せられるようになってきており、自主性の確保、供給の安定化の観点から、濃縮ウランの国産化の必要性が高まってきております。

 我が国では、遠心分離法によるウラン濃縮技術の開発を国のプロジェクトとして推進しておりますが、既に、60万kw級の原子力発電所の1年分の取替燃料を製造できるパイロット・プラントが岡山県人形峠において、一部運転を開始しており、本年秋には全面運転開始の予定であります。更に、パイロット・プラントに続く原型プラントの設計を進めているところであります。

 今後は、これらの技術開発の成果を踏まえ、ウラン濃縮の国内事業化を推進していくことが必要であり、その方策について現在、原子力委員会において検討を行っているところであります。本年4月頃には結論を得て、濃縮ウランの国産化路線を確定する予定であります。

使用済燃料の再処理

 第3に、核燃料サイクルの要となる再処理対策を推進しなければなりません。

 我が国は、現在、英国及び仏国に再処理の大部分を委託していますが、基本的には国内での再処理を目指しております。このため、東海再処理施設の建設・運転を通じ、我が国における再処理技術の確立を図るとともに、再処理需要の一部を賄うこととしております。

 同施設は本年1月17日より、本格操業を開始しましたが、同施設の運転については、日米原子力協会協定に基づき、両国間における共同決定が必要とされており、現在、この4月末までの間、処理量の上限として99トン(ウラン)の範囲内で運転することとされていますが、既に昨年末までに、約80トンの処理が終了したため、昨年来、米国と話合いを続けた結果、99トンに加えて、新たに50トン、合計149トンを本年6月1日までの期限で処理することを、ほぼ合意することができました。

 6月1日以降の運転につきましては、再度、米国と交渉が必要でありますが、継続して施設の運転が行えるよう米国に働きかけていきたいと考えております。

 また、今後増大する再処理需要に対処するためには、より大規模な民間の再処理工場を昭和65年頃の運転開始を目途に建設する必要があり、このため昨年3月に日本原燃サービス株式会社が設立されたところであります。政府といたしましても、同社の再処理工場建設計画が計画どおり実現できるよう積極的に支援していくこととしております。

放射性廃棄物の処理処分

 昨年来、低レベル放射性廃棄物の海洋投棄の問題が新聞紙上をにぎわせておりますが、放射性廃棄物の処理処分対策の確立は今後の原子力の開発利用を進めていくうえで重要な課題であり、政府及び関係者の間で鋭意努力しているところであります。

(低レベル放射性廃棄物)

 原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物については、現在、セメント固化等の処理を施したうえで、ドラム缶につめて、発電所敷地内の貯蔵施設に安全に貯蔵されており(累積量22万本;昨年11月末現在)当面支障はないわけでありますが、長期的に見た場合、これらの廃棄物を未来永劫に発電所に貯蔵しておくというのも問題があり、最終的な処分方策の確立が必要とされるところであります。

 将来における処分方法としては海洋処分と陸地処分をあわせて行うこととしていますが、このうち海洋処分については、まず試験的海洋処分を実施し、十分なモニタリング等を行った上で本格的処分に移行することとしており、処分海域としては東京から南東へ約900km、水深約6,000mの公海上を予定しております。既に、海洋処分実施に必要なロンドン条約への加盟及び関連国内法の改正並びに安全性の許価を終了しており、現在試験的海洋処分の実施について内外関係者の理解を得るべく努力を続けているところであります。特に太平洋諸国に対しては、昨年8月以来4次にわたって技術説明団を派遣し、オーストラリア、ニュージーランドはもとより、グアム、西サモア、北マリアナ、トンガ、トラック等18の地域に対し、説明を行っております。今後もこのような努力を続け、関係者の理解を得て、一日も早く試験的海洋処分を実施したいと考えております。また陸地処分につきましても、試験的陸地処分の準備の一環として陸地処分の安全性の調査研究等を精力的に実施しているところであります。今後ともこれらの処分対策の一層の充実強化に努めてまいる所存であります。

(高レベル放射性廃棄物)

 再処理施設から発生する高レベル廃棄物につきましては、高い放射能を有し、かつ、長半減期の放射性物質を含むので長期間の管理が必要であり、このため当面施設内に厳重に保管し、その後安定な形態に固化処理し30~50年程度貯蔵することとしており、最終的な処分方法としては、地層処分をすることを基本方針としております。現在は、昨年12月に原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会が示した今後40年程度にわたる研究開発計画に沿って、処理処分の研究開発を実施しているところであります。すなわち、ガラス固化処理及び貯蔵の技術については、昭和60年代初頭にパイロット・プラントの運転開始を目標に、昭和56年度より、その基本設計を行うこととしているほか、固化体の安全性を評価するための大型施設の建設を進めるなど総合的に研究開発を推進しております。

(新型炉の開発及び核融合の研究)

 次に、より長期的観点に立った新型炉の開発及び核融合の研究について述べてみたいと思います。

(1) 新型動力炉の開発

 我が国の原子力発電は、これまで軽水炉に中心が置かれてきましたが、軽水炉のみに依存する限り、長期的にはウラン資源の制約から、原子力発電の規模に限界が生ずることは避けられません。従って、原子力発電の規模を長期にわたって、拡大していくためにはウランの利用効率のよい新型動力炉を開発し導入していくことが必要であります。

 このような観点から我が国は高速増殖炉を自主開発し、将来の発電炉の本命として導入していくことを炉型戦略の基本路線としております。また、この基本路線を補完する原子炉として、ウランやプルトニウムを有効に利用できる新型転換炉の自主開発を進めております。

 高速増殖炉につきましては、原型炉「もんじゅ」(電気出力28万kw)を建設すべく準備を始めております。「もんじゅ」は総建設費約4,000億円の官民共同の大プロジェクトであり、昭和62年度の臨界を目標として、昨年12月より、安全審査が開始されております。今後は高速増殖炉の使用済燃料の再処理技術の開発等を進めるとともに、原型炉の建設及び運転経験を蓄積し、昭和70年代には高速増殖炉の本格的実用化を図ることを目標としております。

 新型転換炉につきましては、原型炉「ふげん」(電気出力16.5万kw)が昭和54年3月より本格運転を開始しております。

 現在は、昨年11月の計画停止中に発見された冷却系配管の微少な傷について調査を実施中であります。今後の新型転換炉の開発については、「ふげん」の運転実績、実証炉の設計情報等を基に原子力委員会において、実証炉に関する評価検討を行っており、近々実証炉の建設について結論が得られる見通しであります。

(2) 多目的高温ガス炉の開発

 現在実用化されている軽水炉にしても、今述べました新型動力炉にしてもこれらは発電を主たる目的としたものでありますが、我が国にエネルギー需要の3分の2は非発電部門であることを考えますと、原子力の利用を製鉄、化学工業等電力以外の分野にも拡大していくことは将来のエネルギー供給確保のうえで極めて重要な意味を持っております。このような意味において、多目的高温ガス炉の開発も今後の原子力分野での重要な課題であります。

 我が国では、昭和44年から基礎的研究開発が進められており、昭和55年度より実験炉の詳細設計が行われております。原子力委員会は、昭和60年代前半の運転開始を目途に実験炉の建設を行うことを目標としておりますが、今後、更に多目的高温ガス炉の研究開発の進め方について検討し、その具体化を図る考えであります。

(3) 核融合の研究

 さらに、長期的観点から、半永久的にエネルギーを供給し得る可能性をもつ、核融合の実現に大きな期待が寄せられます。特に、エネルギー資源に恵まれない我が国としては、21世紀の実用化を目標として、その研究開発を推進していく必要があります。現在我が国はEC、米、ソ連においてそれぞれ建設中の世界最北端の核融合試験装置と並ぶ大型のトカマク装置JT-60(臨界プラズマ試験装置、総建設費2,000億円)を昭和59年度の完成を目標として建設を進めております。

 また、我が国は昭和54年度以来5ヶ年計画で、ダブレットⅢという米国にある試験装置を用いた、トカマク方式による核融合の日米共同研究にも参加しています。核融合についてはトカマク方式のほかレーザー法やその他の方式についても広く大学等で研究が進められていますが、現段階においては国際的にもトカマク方式が抜きんでており、核融合エネルギーの活用への道として最も近いものと認識されております。

 核融合の実用化までには多くの人材と長い年月、各種の研究開発の推進、更には膨大な資金が必要であるため、国際協力にも十分留意しつつ計画的かつ効率的に研究開発を推進していきたいと考えております。

(原子力をめぐる国際動向)

 原子力の利用については、国際的には常にその軍事利用への懸念がついてまわるところであり、非核保有国への核の拡散防止の強化をめぐる国際的活動が近年活発化しつつあります。最後にこの点についてふれておきたいと思います。

 原子力利用に伴う核拡散への懸念は、昭和49年のインドの核実験を契機として世界的に急速に高まり、核拡散防止強化の観点から核物資等の輸出規制が強化され、また、核物質防護措置の充実が要請されるなど、原子力の平和利用についても厳しい国際的制約を課そうとする動きが活発になってきました。

 このような動きの中で、米国のカーター前大統領の提唱を契機として核不拡散を確保しながら原子力の開発を促進する方策を探求するため、昭和52年10月より昨年2月まで国際核燃料サイクル評価(インフセ)が開催されました。インフセにおいては、一時、ウラン濃縮、再処理等を前提とする我が国の原子力開発に大きな支障がでるような結果になるのではないかとの懸念がありましたが、幸い、我が国や西欧諸国の積極的な対応により、我が国の原子力開発利用の既定路線に支障をきたさない形で結論がとりまとめられました。現在、インフセの結果を踏まえて、二国間の協定改定交渉やIAEA(国際原子力機関)を中心として、核燃料サイクルに係る新しい制度に関する多国間協議が行われており、これらの諸協議等を通じて核燃料サイクルをめぐる新しい国際的秩序が除々に形成されていくものと考えられます。

 政府は、現在、豪州との間で原子力協定の改訂交渉を行っているほか、本年からは米国の要求により、使用済燃料を太平洋の島に中間貯蔵する事のフィージビリティについて共同研究を開始し、また、先程も述べましたように、本年6月1日以降の東海再処理施設の運転のあり方等今後の日本の再処理政策の進め方について、米国との間で再度協議しなければなりません。我が国としては、このような協議等においては、インフセの結果を基に、国際的な核の拡散防止の方策に協力しつつ、今後の我が国の原子力政策の遂行に支障がないよう対処していく考えであります。

 以上、最近のエネルギー情勢を踏まえた原子力開発利用の現状と今後の課題について述べました。

 原子力委員会としては厳しいエネルギー事情の下で、原子力に対する期待が一層高まっていること、インフセにより国際的な原子力開発に対する理解が増進したこと、20年余にわたる我が国の原子力開発の成果の実用化を促進する必要があること等を踏まえて、昭和53年9月に策定した原子力研究開発利用長期計画の見直しを行い、我が国の原子力開発利用についての国内及び国際的な要請に応えつつ着実にその発展を図っていくための長期的展望及び方策を明確にしたいと考えております。

 最後に、本シンポジウムにおける諸研究の成果発表を通じて皆様方の間で活発な意見の交換が行われ、我が国原子力技術の一層の進歩に貢献されることを期待いたしますとともに、今後とも、原子力総合シンポジウムがますます御発展されることをお祈りいたします。また、原子力政策の推進に責任を有する私といたしましては、原子力発電の拡大、原子力研究開発の実用化の促進等が強く求められる今日、皆様方の御支援、御協力が不可欠であると考えておりますので、よろしくお願いいたします。

(第19回原子力総合シンポジウム講演要旨)

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