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巻頭言


原子力委員会委員長代理
清成 


 我が国のように確実な成長を続ける高度の工業国家、福祉国家で、しかも石油、石炭、天然ガス等の化石燃料を殆んど産出しないところでは、年々増加する尨大なエネルギー需要を支障なく賄っていくには、原子力を中心とする以外に策のないことは、近頃一般に段々と滲透して来たように思われる。

 ところが、この原子力を実際に活用するためには、どうしても国民大衆の合意、賛同が必要であるのに、それを得ることはまだなかなか難かしい。それは、我が国が戦時中に史上類を見ないような原爆の洗礼を受けたことと、もう一つはあの複雑な原子力発電システムにおいて、関係者が宣伝するような絶対安全など、到底あり得ないという不信感がもとになっているためであると思われる。

 被爆国という感情問題は一応別として、絶対安全はあり得ないとするのは、説明字句の不消化による誤解のように考えられる。勿論すべてのことに完全無欠など滅多にあり得ないのは当然であるが、万に一つの誤動作等の時には、それをカバーする仕組みが二重三重に出来ており、末端の環境への影響は、必ず自然放射線量程度におさまるように考えられているというのであれば、絶対安全と称しても、さほど誇張ではあるまいと考えられる。

 この環境への影響ということは、物質の燃焼に伴う煙や排気ガスとか、また工場や家庭からの排水とか、原子力以外にも種々の場合に起ることであるが、我々人間の現在の知見において、人類の生存に客観的な害が認められないならば、これを容認して人類の文化向上、福祉増進を図るのは我々の「良識」となっている。

 ところが、原子力では他のケースのようにはなっていない。原子力は不幸にして、最初、その発生する莫大なエネルギーを核兵器として使用せられ、想像を絶する惨害を人類に与えた。これが原子力について人類、特に日本人の「良識」を曇らせる最大の原因であることは申す迄もないであろう。

 我が日本は身を以て原子力災害の悲惨を知るが故に、逸早く非核三原則を確立し、NPTに加盟して原子力の平和利用に徹し、また安全をすべてに優先させることをその根本第一義とし、もっぱら人類福祉の向上エネルギー問題解決の鍵としての原子力と取り組んでいる。

 しかし、いかに我が国が努力しても、まだ世界に核兵器が存在する以上、原子力に対する国民大衆の感情も判らぬではない。しかし、私は我が国が示している「誠」を国民は率直にこれを信用して認め、それに応えるに「良識」を以て原子力を評価し、我が国最大の弱点であるエネルギー問題を解決して、子孫、将来の文化・福祉の向上を可能ならしめるように、切望してやまない。

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