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九州電力株式会社川内原子力発電所の原子炉の設置について(答申)


52原委第754号
昭和52年12月13日

内閣総理大臣 殿
原子力委員会委員長

 昭和51年5月6日付け51安第2738号(昭和52年9月14日付け52安(原規)第266号、昭和52年10月15日付け52安(原規)第298号及び昭和52年10月28日付け52安(原規)第303号で一部補正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。


 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に掲げる許可の基準に係る適合性に関する意見は別紙のとおりであり、各基準に適合しているものと認める。

(別紙)

核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に掲げる許可の基準の適合に関する意見

(平和利用)

1 この原子炉は、商業発電のために用いるものであって、平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める。

(計画的遂行)

2 この原子炉の設置は、「原子力開発利用長期計画」に定める方針にのっとっており、将来のエネルギー供給の安定を図るうえで十分な意義を有するものであると考えられるので、この原子炉の設置がわが国の原子力開発および利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないものと認める。

(経理的基礎)

3 この原子炉の設置に要する資金は、自己資金、社債、日本開発銀行を含む国内金融機関からの借入れ等により調達する計画になっており、申請者の総合的経理能力および原子炉設置のための資金計画からみて、原子炉を設置するために必要な経理的基礎があるものと認める。

(技術的能力)

4 別添の原子炉安全専門審査会の審査結果のとおり、この原子炉を設置し、かつ、その運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があるものと認める。

(災害防止)

5 原子炉安全専門審査会の審査結果のとおり、この原子炉の位置、構造および設備は、核原料物質、核燃料物質によって汚染された物または原子炉による災害の防止上支障がないものと認める。(別添参照)

(別添)

昭和52年12月3日
原子力委員会
    委員長 熊谷太三郎 殿
原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄

九州電力株式会社川内原子力発電所の原子炉の設置に係る安全性について

 当審査会は、昭和51年5月11日付け51原委第406号(昭和52年9月14日付け52原委第549号、昭和52年10月15日付け52原委第615号及び昭和52年10月28日付け52原委第650号をもって一部補正)をもって審査を求められた標記の件について結論を得たので報告する。


Ⅰ 審査結果


 九州電力株式会社川内原子力発電所の原子炉の設置に関し、同社が提出した「川内原子力発電所原子炉設置許可申請書」(昭和51年4月15日付け申請、昭和52年9月6日付け、昭和52年10月11日付け及び昭和52年10月24日付け一部補正)に基づき、審査した結果、本原子炉の設置に係る安全性は、十分確保し得るものと認める。


Ⅱ 申請の概要


 本原子炉施設の設置に関する申請の概要について、九州電力株式会社が提出した原子炉設置許可申請書及び同添付書類に基づく内容は、ここに示すとおりである。

 原子炉施設は商業発電用として使用され、基底負荷用として運用される計画であり、原子炉は熱出力約2,660MW(電気出力890MW)の濃縮ウラン、軽水減速、軽水冷却型(加圧水型)1基が設置される。

1 原子炉施設の立地概要

(1) 敷地

 発電所を設置する敷地は、鹿児島県川内市久見崎町に属し、川内川河口の左岸側に位置しており、その面積は、海面埋立予定地を含め約145万㎡である。

 原子炉本体から敷地境界までの最短距離は陸側で約560m、周辺監視区域境界までの最短距離は陸側で約520mである。

(2) 地盤

 敷地周辺、敷地内の地質及び地質構造を把握するため、文献調査、航空写真判読、地表踏査、ボーリング調査、音波探査、トレンチによる調査及び試掘坑調査が実施されている。また、原子炉設置予定地付近の基礎岩盤の岩盤、岩石物性を把握するため、試掘坑内での諸試験及び試掘坑より採取した供試体による諸試験が実施されている。

 敷地周辺の地質は、主として古生代及び中生代の堆積岩、新しい時代の火成岩によって構成されている。新しい時代の火成岩は、中新世から更新世にかけての火山活動に起因したものとされている。

 地質構造線としては、仏像構造線及び延岡-紫尾山構造線があり、北薩地方には、これらの構造線に斜交する断層が存在するとされている。また、川内川に沿っての推定断層があげられている。これらの構造線は、新しい時代の火山岩類で広く覆われており、調査結果からみて、構造線の活動は第三紀中ごろに終えんしたものとされている。また、北薩地方の断層及び川内川の推定断層についても、調査の結果、第三紀末以前の古い時代のものとされている。

 更に、敷地内に推定されている断層は、阿久根・川内古生層と中生代の久見崎累層を境する断層で、中新世中期以後活動していないとされている。

 敷地内の地質は、礫岩、砂岩、粘板岩からなる古生代から中生代の堆積岩を主体とし、同岩を原子炉建家基盤としている。

 敷地内の地質構造は、1背斜1向斜が認められ、原子炉はこの背斜軸の西側に設置される。背斜軸とほぼ同一走向の破砕帯が原子炉基礎付近に4本認められているが、いずれも原子炉設置上支障となるものではないとされている。

 岩盤、岩石の物性に関する諸調査の結果により、基礎岩盤は、全般的に堅硬かつ緻密であるとされている。

(3) 地震

 原子炉設置予定地点を中心として敷地周辺の地震活動性が「日本被害地震総覧」等により調査されている。

 これによると、原子炉設置予定地点から半径50㎞以内には、薩摩の地震(明治27年1月、M(マグニチュード)=6.4、震央距離=19.4㎞)、串木野南方の地震(大正2年6月、M=6.4、震央距離=25.5㎞)、及び桜島の地震(大正3年1月、M=6.1、震央距離=46.6㎞)がある。

 更に、半径50㎞から100㎞の範囲では、霧島山北麓の地震(昭和43年2月、M=6.1、震央距離=58.5㎞)などがある。

 これらの地震により、川内付近に大きな被害が生じた記録は見当たらない。

 上記の各地震について、記録に残されている地震被害状況から推定される敷地付近の最高震度階は、強震(震度階Ⅴ)である。更に、各種の計算式等による計算結果によると、敷地基盤に生じた最大加速度は、130Galを超えなかったと推定されている。

 また、敷地周辺の断層についても検討され、いずれの断層も耐震設計上考慮の対象とはならないものとされている。

 以上の考察に基づき、設計用地震加速度を180Galとしている。

(4) 気象

 原子炉施設の一般的設計条件を決定するため、最寄りの鹿児島地方気象台、阿久根測候所及び枕崎測候所の3気象官署の資料が調査されている。

 敷地及び敷地付近での気象観測を行うため、敷地内に山仁田、川内、新川内、久見崎及び新久見崎の5観測所が設けられ、風向、風速、日射量、気温、気温差等が観測されている。また、雲量については、川内市五代町で観測されている。

 敷地付近の風向等の特徴は、風向については陸側からの風が多く、特に低風速時にこの傾向が見られる。また、大気安定度についてはD型が最も多い。

 なお、安全解析に使用した気象観測年(昭和49年8月~昭和50年7月)の異常年検定には、上記3気象官署の気象資料が用いられている。

(5) 水理

 発電所で使用される淡水量は、通常運転時約1,000m3/dであり、この淡水は敷地内の宮山池から取水される。宮山池からの取水可能量については、宮山池水位及び同池への流入量算定の基礎となる付近河川流量が調査されている。これによれば、約1,300m3/dの取水が可能であるとされている。

 復水器冷却水等の冷却用海水の取水口は、防波堤の内側に設けられ、放水口は防波堤の外側に設けられる。

(6) 社会環境

 敷地周辺の人口及び産業活動が、各種統計資料により調査されている。

 人口は敷地から半径30㎞以内では約23万人、半径5㎞以内では約4千人である。

 川内市の産業別就業状況は、第1次産業約30%、第2次産業約24%、第3次産業約46%である。

2 原子炉施設の構造及び設備の概要

2.1 原子炉施設の耐震構造

 原子炉施設は、原則として剛構造とされ、安全上の重要度に応じてA、B、Cの3クラスに区分され、それぞれの重要度に応じた耐震設計が行われる。

 耐震設計法としては、建築基準法に基づく震度法による静的解析が全施設に対し用いられ、Aクラスの施設については、更に、基盤に180Galの加速度が生じるものとして動的解析が併用される。

 なお、Aクラスの施設のうち原子炉格納容器及び原子炉停止装置は、270Galの地震力に対し、その機能の保持されることが確認される。

2.2 原子炉本体

 原子炉本体は、燃料体、炉心支持構造物、原子炉容器等から構成される。

(1) 炉心
燃料集合体数 157体
炉心等価直径 約3.0m
炉心有効高さ 約3.7m
炉心全ウラン装荷量 約72t
主要な核的制限値
 反応度停止余裕 0.01Δk/k以上
主要な熱的制限値(定格出力時において)
 最小DNBR 1.8
 燃料棒最大線出力密度 41.1kW/m

(2) 燃料体
種類 二酸化ウラン燃結ペレット
被覆材 ジルカロイ-4
ウラン235濃縮度
 初装荷燃料(平均) 約2.6wt%
 取替燃料 約3.2wt%
ペレット初期密度 理論密度の約95%
燃料集合体最高燃焼度 約39,000MW・d/t

(3) 原子炉容器
型式 たて置円筒上下半球鏡容器型
内径 約4.0m
全高(内のり) 約12.1m
最高使用圧力 175㎏/㎝2G
最高使用温度 343℃

2.3 核燃料物質の取扱施設及び貯蔵施設

(1) 核燃料物質取扱設備
 燃料取扱設備は、燃料取替装置、燃料移送装置及び除染装置から構成される。

(2) 核燃料物質貯蔵設備
新燃料貯蔵設備
貯蔵能力 約2/3炉心相当分
使用済燃料貯蔵設備
貯蔵能力 約17/3炉心相当分

2.4 原子炉冷却系統施設

(1) 一次冷却設備

 一次冷却設備は、3つの閉回路からなり、蒸気発生器、一次冷却材ポンプ、加圧器、配管、弁等で構成される。

蒸気発生器
 型式 たて置U字管式熱交換器型
 基数 
一次冷却材ポンプ
 型式 漏洩制御軸封式たて置斜流型
 台数 
 容量 約20,100(m3/h)/台
加圧器
 型式 たて置円筒上下半球鏡容器型
 基数 
  圧力制御方式ヒータ、スプレイ装置及び逃し弁

(2) 二次冷却設備

 二次冷却設備は、主蒸気系統、タービン設備、復水設備、給水設備等から構成され、主蒸気系統には、主蒸気ダンプ弁、主蒸気逃し弁及び主蒸気安全弁が設けられる。

蒸気タービン
 型式 串型4車室6分流排気再熱再生式
 出力 890MW

(3) 非常用炉心冷却設備

 非常用炉心冷却設備は、蓄圧注入系、高圧注入系及び低圧注入系から構成される。これらの系統は、それぞれ2回路相当の構成となっており、充てん/高圧注入ポンプ及び低圧注入ポンプは非常用電源にも接続される。

充てん/高圧注入ポンプ
 台数 
 容量 約147(m3/h)/台
低圧注入ポンプ
 台数 
 容量 約681(㎡/h)/台
蓄圧タンク
 基数 
 容量 約41m3/基
 加圧ガス圧力約45㎏/㎝2G

(4) その他の主要な設備

① 化学体積制御設備

 化学体積制御設備は、体積制御タンク、充てん/高圧注入ポンプ、再生熱交換器、脱塩塔、一次系薬品タンク、フィルタ、ほう酸タンク等から構成される。

ほう酸タンク
 基数 
 容量 約30m3/基
ほう酸ポンプ
 台数 
 容量 約17(m3/h)/台
充てん/高圧注入ポンプ
 台数    3
 容量    約34(m3/h)/台

② 余熱除去設備

 余熱除去設備は、余熱除去冷却器、余熱除去ポンプ等から構成される。

余熱除去ポンプ(低圧注入ポンプと共用)
 台数 
 容量 約852(m3/h)/台
余熱除去冷却器
 基数 

2.5 計測制御系統施設

(1) 計装

 原子炉計装は、炉外核計装、炉内計装、停止余裕監視装置及び制御棒クラスタ位置指示計装から構成される。

(2) 安全保護回路

 安全保護回路は、プラントの各種パラメータを監視する多重チャンネルの検出器を含む計測回路と、その出力を受信し、原子炉トリップ、非常用炉心冷却設備作動等を行うための論理回路から構成される。

(3) 原子炉制御設備

 原子炉制御設備は、制御棒クラスタ制御系、ほう素濃度制御系、加圧器圧力制御系、加圧器水位制御系、給水制御系及び主蒸気ダンプ制御系から構成され、この制御方式に加え必要に応じてバーナブル・ポイズンが使用される。

 なお、制御棒クラスタ制御系により原子炉停止が不可能な場合には、ほう素濃度制御系が使用される。

制御棒クラスタ 
 個数 48
 吸収材 銀・インジウム・カドミウム
出力分布調整用制御棒クラスタ
 個数 
 吸収材 銀・インジウム・カドミウム
ほう素濃度調整
 サイクル初期約1,000~約1,500ppm
 サイクル末期約10ppm
バーナブル・ポイズン
 棒本数
  初装荷炉心約1,080本
  取替炉心 1,080本以下
 吸収材 ほうけい酸ガラス

(4) その他の主要な設備

 原子炉施設の通常運転、事故処置等に必要な計装及び制御機器は、中央制御室に設置される。

2.6 放射性廃棄物の廃棄施設

(1) 気体廃棄物処理設備

 気体廃棄物処理設備は、窒素廃ガス処理系統及び水素廃ガス処理系統からなり、ガス圧縮装置、水素分離装置、ガス減衰タンク、水素廃ガス減衰タンク等で構成される。

ガス減衰タンク
 基数 
 容量 約17m3/基
 貯留能力 約45日
水素廃ガス減衰タンク
 基数 
 容量 約17m3/基

(2) 液体廃棄物処理設備

 液体廃棄物処理設備は、ほう酸回収系統、機器ドレン処理系統、床ドレン・薬品ドレン処理系統及び洗浄排水処理系統からなり、冷却材貯蔵タンク、廃液貯蔵タンク、蒸発濃縮装置、脱塩塔、モニタ・タンク等から構成され、一次冷却材中のほう素濃度調整、原子炉の起動停止の態様を考慮して、発生廃液を十分処理できる能力を持つものが設置される。

蒸発濃縮装置
 基数 
 容量 約3.4(m3/h)/基

約1.7(m3/h)/基

約0.45(m3/h)/基×2基

(3) 固体廃棄物処理設備

 固体廃棄物処理設備は、使用済樹脂貯蔵タンク、ドラム詰め装置、ベイラ、固体廃棄物貯蔵庫等から構成される。

使用済樹脂貯蔵タンク
 基数 
 容量 約21m3/基
 貯蔵保管能力 発生する使用済樹脂の約5年分
固体廃棄物貯蔵庫
 型式 地上式鉄筋コンクリート造り
 面積 約3,000㎡
 貯蔵保管能力 発生する固体廃棄物の約10年分

2.7 放射線管理施設

(1) 屋内管理用の主要な設備

 屋内管理用の主要な設備は、放射線監視設備、出入管理設備、汚染管理設備、試料分析関係設備等から構成される。

(2) 屋外管理用の主要な設備

 屋外管理用の主要な設備は、排気及び排水モニタリング設備、環境モニタリング設備、気象観測設備等から構成される。

2.8 原子炉格納施設

 原子炉格納施設は、原子炉格納容器、外周コンクリート壁等から構成され、原子炉格納容器と外周コンクリート壁との間の下部は密閉構造のアニユラス部となっている。

(1) 原子炉格納容器
 型式 上部半球下部半だ円鏡円筒型
 内径 約40m
 全高 約87m
 設計圧力 2.25㎏/㎝2G
 設計温度 127℃
 漏洩率 0.1%/d以下(常温空気設計圧力において)
外周コンクリート壁
 型式 たて置円筒上部ドーム型
 内径 約44m
 地上高さ約61m

(2) その他の主要な設備

① アニユラス空気再循環設備

 アニユラス空気再循環設備は、よう素用フィルタを含むフィルタ・ユニット、アニユラス空気再循環ファン等から構成される。

 この系統は2系統設けられ、アニユラス空気再循環ファンは非常用電源にも接続される。

アニユラス空気再循環ファン
 台数  2
 容量  約13,600(m3/h)/台
よう素用フィルタ
 よう素除去効率 95%以上

② 原子炉格納容器スプレイ設備

 原子炉格納容器スプレイ設備は、スプレイ・ポンプ、スプレイ冷却器、よう素除去薬品タンク等から構成される。この系統は2系統設けられ、スプレイ・ポンプは非常用電源にも接続される。

スプレイ・ポンプ
 台数 
 容量 約940(m3/h)/台
スプレイ冷却器
 基数 

2.9 その他原子炉の付属施設

(1) 電源設備

 電源設備は、受電系統、非常用ディーゼル発電機及び蓄電池から構成される。

受電系統
 500kV 2回線
 220kV 1回線
非常用ディーゼル発電機
 台数 
 容量 約4,650kW/台
 起動時間 約10s
蓄電池
 型式 鉛蓄電池
 組数 
 容量 約1,200A・h/組×2組

約2,000A・h/組

(2) その他の主要な設備

 その他の主要な設備としては、換気設備等がある。

 換気設備は、原子炉格納容器換気設備、原子炉補助建家換気設備、中央制御室換気設備等から構成される。

Ⅲ 審査方針

1 審査の基本方針

 本審査会は、九州電力株式会社が鹿児島県川内市の敷地に設置する商業用原子力発電所の原子炉施設について、通常運転時はもとより、万一の事故を想定した場合にも、一般公衆及び従事者等の安全が確保されるように所要の安全設計等がなされることを確認するため、次の事項を基本方針として審査することとした。

(1) 原子炉施設が設置される場所の地盤、地震、気象、水理等の自然事象及び火災、爆発等の人為事象によって原子炉施設の安全性が損なわれないような安全設計がなされること。

(2) 平常運転時に放出される放射性物質による一般公衆の被曝線量が許容被曝線量以下に抑えられることはもちろんのこと、更に、それをできるだけ少なくするような安全設計がなされること。

(3) 平常運転時において従事者等が許容被曝線量を超える線量を受けないような放射線の防護及び管理がなされること。

(4) 原子炉の運転に際し、異常の発生を早期に発見し、その拡大を未然に防止するような安全設計がなされること。

(5) 原子炉の運転に際し、機器の故障、誤操作等が発生しても燃料の健全性、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性等が損なわれないような安全設計がなされること。

(6) 原子炉冷却材を包含している原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性が損なわれ、冷却材が喪失するような事故、炉心の反応度を制御している制御系の健全性が損なわれ、反応度が異常に上昇するような事故等の発生を仮定しても、事故の拡大を防止し、放射性物質の放出を抑制できるような安全設計がなされること。

(7) 重大事故及び仮想事故を想定しても、その安全防護施設との関連において、一般公衆の安全が確保されるような立地条件を有していること。

2 審査方法

(1) 審査は、申請者が提出した「川内原子力発電所原子炉設置許可申請書及び同添付書類」に基づき行うこととした。

 また、必要に応じて申請内容の補足資料及び参考文献の提出を求め審査を行うこととした。

 本申請内容の基本的設計方針は、今後の詳細設計、施行、検査及び運転の段階においても堅持されることが法令上前提となっているものである。

(2) 立地条件の評価に際し、敷地の地質、地盤等の自然環境及び社会環境については書類による審査のほか、書類上の内容と照合するため、必要な事項について現地調査を実施することとした。

(3) 非常用炉心冷却系の性能評価については、申請者が行った性能評価を審査するほか、日本原子力研究所安全解析部の協力により、別途にチェック計算を行い確認することとした。

(4) 審査に当たっては、原子力委員会が審査を行うに際し、これによるべきであると指示した指針を用いて行うこととした。

 これらの指針は、次のとおりである。
① 「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」 (昭和39年5月)
② 「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針について」 (昭和50年5月)
③ 「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針について」 (昭和50年5月)
④ 「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」 (昭和51年9月)
⑤ 「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」 (昭和52年6月)
⑥ 「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」 (昭和52年6月)

(5) また、当審査会が原子炉施設の安全審査に当たり、解析条件、判断基準等を内視として運用するために作成した報告書を活用することとした。

 これらの報告書は、次のとおりである。
① 「被曝計算に用いる放射線エネルギー等について」 (昭和50年11月)
② 「加圧水型原子炉に用いられる17行17列の燃料集合体について」 (昭和51年2月)
③ 「発電用軽水型原子炉の反応度事故に対する評価手法について」 (昭和52年5月)
④ 「取替炉心検討会報告書」(昭和52年5月)
⑤ 「発電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被ばく線量評価について」(昭和52年6月)

(6) そのほか、先行炉の審査経験及び諸外国の審査基準をも参考として行うこととした。

 なお、審査を行うに際しては、昭和51年4月30日川内市長から、本原子力発電所建設予定地の地盤の審査に関する要望書が提出されているので、その趣旨を尊重することとした。

Ⅳ 審査内容

 本原子炉施設の設置に関する立地条件、安全設計の基本方針、平常運転時における被曝管理、運転時の異常な過渡変化の解析、事故解析、災害評価等について検討した結果は、次のとおりである。

1 立地条件

1.1 敷地

 川内原子力発電所の敷地面積は、海面埋立予定地を含め約145万㎡とされている。原子炉本体は敷地中央部の海岸側に設置される。原子炉本体の中心から敷地境界までの距離については、申請者が航空写真測量によって作成した地形図に基づいて記載されており、それによれば、ほぼ海岸線に沿った北北東方向で約930m、南南西方向で約630m、海岸線にほぼ直角な東南東方向で約920mであり、最短距離はほぼ南南東方向で約560mである。

 本敷地の広さについては、Ⅳ.3及びⅣ.6に後述するように周辺監視区域の設定に十分な条件を有しており、また、「原子炉立地審査指針」に示される非居住区域及び低人口地帯をも包含する結果となっているので妥当であると判断する。

1.2 地盤

1.2.1 敷地周辺の地質

 敷地周辺の地質については、文献調査、航空写真判読及び地表踏査が実施され、それらの結果に基づいて、敷地を中心とする半径約50㎞の陸上部の地質図(縮尺20万分の1)が作成されている。この地質図では、敷地周辺に主として古生層・中生層からなる基盤岩類、新第三紀から第四紀の火山岩類及び第四紀の火山砕屑物・堆積物の分布が記載されている。古生層は阿久根・川内古生層と仮称され、阿久根西方及び川内川河口付近に分布するとされている。中生層としては四万十層群が紫尾山付近、薩摩半島等に、また、久見崎層が川内川河口付近の左岸に分布するとされている。新第三紀から第四紀の火山岩類は敷地周辺に広く分布し、更に、第四紀の火山砕屑物は主にこれらの火山岩類周辺に分布するとされている。

 阿久根・川内古生層は、秩父帯に属する古生代末から中生代初めの地層で、久見崎層は、同じく秩父帯に属する白亜紀の地層とされている。

 この地質図の岩相分布や地質構造は、最近の研究報告や地質図と大局的にはほぼ同じ記載となっている。

 敷地付近の基盤岩類については、これまで時代未詳の地層として扱われてきた経緯があり、調査者によって秩父帯に属する古生層ないし中生層とされたり、又は四万十帯の中生層と解釈されたりしているが、現地調査及び最近の研究論文を比較検討した結果、同層は秩父帯に属するものと判断する。

1.2.2 敷地周辺の地質構造

 敷地周辺の大局的な地質構造は、仏像構造線(仏像線と称す)及び延岡-紫尾山構造線と、これらに斜交する北薩地方の断層及び川内川に沿う推定断層で特徴付けられるとされている。仏像線と延岡-紫尾山構造線はほぼ平行して、九州中部を北東-南西方向に横断し、北薩地方で南ないし南南東に屈曲しているとされている。両構造線とも南九州では大半が新第三紀から第四紀の火山岩類に覆われており、その全体像を把握することは難しい。しかし、両構造線の最近の活動性については、航空写真判読、わずかながらも露出する断層露頭の調査等により検討されている。その結果、両構造線とも第三紀中ごろには活動が終えんしたものとされている。また、北薩地方の断層は、両構造線の南南東方向への屈曲をもたらした運動時に生じたものとされている。

 南九州地方の大局的な地質構造を規制するものとしては、仏像線、延岡-紫尾山構造線の2構造線があげられる。更に、これらの構造線と斜交する方向の断層に注目した場合には、北薩地方の断層や川内川に沿う推定断層があげられる。

 仏像線の位置については、敷地付近の基盤岩類が秩父帯に属する場合には仏像線が敷地の東方に、同層が四万十帯に属する場合には敷地の西方海域に存在することになる。また、敷地の基盤岩類が秩父帯、四万十帯、いずれに属する場合であっても、敷地対岸の月屋山に分布する地層と敷地付近の地層との関係から、川内川に沿う断層が推定できるものである。

 南九州地方の断層の活動や地殻変動については、これまでの文献等においても、新第三紀の火山岩類に影響を及ぼした大規模な褶曲構造や断層が存在するという記載はない。また、仏像線、延岡-紫尾山構造線の推定線に沿って、基盤岩の構造の反映とみられるリニアメントも認められない。これらのことからみて、少なくとも第四紀以降、敷地及びその周辺には褶曲や断層を伴う顕著な地殻変動はなかったものと判断する。

 南九州地方の大まかな地史を考察した場合、考慮すべき事象として、仏像線の形成、延岡-紫尾山構造線の形成、両構造線の屈曲や北薩の断層群の形成、川内川に沿う推定断層の形成及び新第三紀から第四紀の火山活動があげられる。仏像線は秩父帯と四万十帯を境する構造線、延岡-紫尾山構造線は四万十層群中のものであり、一般に両構造線とも新第三紀以前に形成されたものとされ、両構造線の屈曲も新第三紀の火山活動以前に存在していたと考えられている。北薩地方の断層も、屈曲を生じさせた地殻変動に起因して形成されたものとすることが無理のない解釈である。

 また、敷地前面海域の地質構造については、川内川河口沖合の音波探査を実施し、第四紀層を切る断層の存在を示すパターンは得られていないことから、敷地近傍の海域には新期の断層は存在しないものと判断する。更に、遠方の甑島周辺の海域においては、地質調査所の調査により断層が、甑島南方の海域においては、海上保安庁の調査により活断層が推定されているが、これらの断層はいずれも長さは短く、それぞれ連続性に乏しいものと判断する。

1.2.3 敷地内及び敷地近傍の地質構造

 敷地内の地質調査は、地表踏査、地表弾性波探査、ボーリング、トレンチ及び試掘坑調査によって実施されている。更に、基礎岩盤について、その詳細な分布、岩質変化を把握するため、ボーリング及び弾性波試験が実施されている。それらの結果に基づき、詳細な地質図(縮尺5千分の1)・同断面図(縮尺4千分の1)及び建家基礎岩盤の水平・鉛直断面図(縮尺5百分の1)が作成されている。その地質図によると敷地内には、阿久根・川内古生層、久見崎層、変はんれい岩、火山岩類及び沖積層の分布が確認され、阿久根・川内古生層には1背斜1向斜の褶曲構造及び変はんれい岩の貫入が認められている。原子炉建家はこの背斜の西翼部、阿久根・川内古生層からなる場所に位置している。この背斜軸面は西方に傾斜しており、東翼では地層が急傾斜を呈し、西翼では緩傾斜となっているとしている。試掘坑内においては、背斜軸とほぼ同一の走向の破砕帯が確認されている。これらの破砕帯の多くは走向が背斜軸の走向とほぼ同一であることから、背斜構造の形成に伴って形成されたものとしている。

 阿久根・川内古生層と久見崎層との関係は、敷地東部において断層で接することが確かめられており、その関係はトレンチによって詳細に調査されている。同断層は5万分の1地質図幅「羽島」に記載のある断層に同定され、火山岩類を変位させるものではないとされている。また、川内川に沿う推定断層の調査については、河口での弾性波探査、河口前面海域での音波探査が実施されていたが、更に、河口両岸でボーリング及び河口前面海域でより広範囲にわたる音波探査が追加実施された。その結果、同推定断層は河口及び前面海域の新第三紀火山岩類に変位を与えていないことが確かめられ、その活動は少なくとも新第三紀末までには終えんしたものとされている。なお、音波探査の記録には、第三紀層と推定される地層に小断層の可能性を示すパターンが数ケ所で認められたが、いずれも方向、連続性等から、川内川に沿う断層とは関係のないものとされている。

 敷地内の地質については、ボーリング、試掘坑、トレンチ及び敷地近傍の主要点の現地調査を実施した。敷地内に分布する阿久根・川内古生層は、主として礫岩、砂岩及び粘板岩からなり、試掘坑内での調査において、局部的にかなりの岩相変化が認められる。また、敷地内の地質構造は、基本的には1背斜1向斜が存在するとしていることは適切な構造解釈と言える。敷地内には褶曲に伴って派生した断層や節理が存在し、その中には破砕された部分を伴うものがある。原子炉建家設置場所付近にも破砕された部分を伴うものが若干認められる。原子炉建家設置場所付近で実施されていたボーリング調査については、更に、綿密なボーリング等の追加調査の実施を求め、岩石分布、破砕された部分の分布についてのデータが示された。これらのデータに基づき、原子炉建家は主として礫岩類の広く分布する安定した基礎岩盤上に設置されることを確認した。

 敷地東部のトレンチで確認された断層は、現地調査の結果、阿久根・川内古生層と久見崎層を境するものと判断した。同断層は、5万分の1地質図幅「羽島」に記載のある断層に同定すべきものである。同断層は久見崎層堆積後のものであること、断層角礫や断層粘土も顕著なものは認められず、かつ、その固結度も高いこと、同断層の南方に分布する新第三紀の角閃石安山岩類(5万分の1地質図幅の天狗鼻角閃石安山岩)の露頭においても、同断層の延長と考えられるような断層の存在は認められないことから、同断層の形成は白亜紀末以降新第三紀以前であり、かつ、新第三紀火山岩類噴出以降の活動はなかったものと判断する。

 川内川に沿う推定断層については、川内川左岸に白亜紀層が分布すること、川内川河口前面海域の音波探査や、川内川河口での弾性波探査によれば、それぞれ新第三紀の堆積岩(鮮新世)及び新第三紀の火山岩類(中新世)を変位させていないという結果が得られたことから、同断層の活動は少なくとも白亜紀以降中新世までと思われる。

1.2.4 岩盤、岩石物性

 岩盤、岩石物性の試験として、炉心予定地付近の試掘坑内における岩盤変形試験、弾性波試験が、また、試掘坑内より採取した供試体の密度及び吸水率測定、一軸圧縮試験、引張試験が実施されていたが、更に原子炉建家基盤の詳細な物性を調査するため、炉心部の試掘坑内において、岩盤せん断試験、岩盤変形試験、弾性波試験が、また、炉心部の試掘坑内より採取した供試体の密度及び吸水率測定、一軸圧縮試験、引張試験、三軸圧縮試験が追加実施された。

(1) 岩石試験

 密度及び吸水率測定の結果によると、乾燥状態での密度は礫岩2.65~2.72g/㎝3(各箇所別平均値)、砂岩2.58~2.66g/㎝3(各箇所別平均値)、粘板岩2.58~2.68g/㎝3で、吸水率は礫岩0.28~0.37%(各箇所別平均値)、砂岩0.27~0.30%(各箇所別平均値)、粘板岩0.62~1.42%と小さく、基盤の岩石は緻密であることを示している。

 一軸圧縮試験の結果では、圧縮強度は自然状態で礫岩470~990㎏/㎝2(各箇所別平均値)、砂岩910~1,060㎏/㎝2(各箇所別平均値)、粘板岩360~780㎏/㎝2(層理に平行)及び560~1,250㎏/㎝2(層理に直角)となっている。

 これらの試験結果にはかなりのばらつきが見られるが、岩石としては原子炉建家基礎部全体にわたって堅硬の部類に属するものと考えられる。

 なお、引張強度は自然状態で礫岩及び砂岩(各箇所別平均値)、粘板岩とも75~140㎏/㎝2の範囲にあり、この試験結果からは、岩石は堅硬なものと判断する。

 更に、岩石の三軸圧縮試験結果では、せん断強度は自然状態で礫岩155~165㎏/㎝2、砂岩約210㎏/㎝2、内部摩擦角は礫岩47~49°、砂岩約49°で、両者には特に著しい差異は認められない。

 なお、一軸圧縮試験時に求めた弾性系数はおおよそ600,000㎏/㎝2であって、この値からも岩質は堅硬である。

(2) 岩盤試験(支持力の検討)

 原子炉建家基礎部の大部分を占める礫岩、砂岩の岩盤変形試験結果では、静弾性係数は低荷重域(0~10㎏/㎝2)で10,000~50,000㎏/㎝2を示している。岩盤の良好度及び亀裂係数は中程度であり、亀裂のやや多い傾向を示しているが、かなり線形的な荷重一変位曲線を示している。また、高荷重域(60~70㎏/㎝2)においても、弾性的挙動を示し、本試験によって破壊荷重を求めることができなかったと述べている。このことから基礎岩盤は原子炉格納施設の荷重(常時荷重約5㎏/㎝2)に対して、十分な支持力を有していると判断する。

 なお、粘板岩の岩盤試験では、その静弾性係数は2,000~12,000㎏/㎝2である。また、原子炉基礎付近の破砕部2ケ所において行われた変形試験では、その変形係数はいずれも約2,200㎏/㎝2(荷重域3~6㎏/㎝2)となっている。

(3) すべり抵抗の検討

 岩盤せん断試験は、炉心部の試掘坑内でCM、CL級岩盤及び破砕部について実施されている。試験結果によると、せん断強度はCM級、CL級の岩盤とも約10㎏/㎝2、内部摩擦角はCM級で約50°、CL級で約45°の値を示している。また、破砕部におけるせん断強度はそれぞれ0.38㎏/㎝2及び1.27㎏/㎝2、内部摩擦角はそれぞれ約34°及び約26°となっている。

 地震時に基礎底面に作用する全水平力は、建築基準法に定められた水平震度の3倍を原子炉建家に与えた場合、約53,300tであり、最も不利な方向の基礎岩盤のせん断抵抗力は約256,000tであるので、せん断摩擦安全率は4.8であるとしているが、このすべり抵抗に対する考察は妥当なものと判断する。

(4) 基礎変位の検討

 建家の基礎は、主として礫岩、砂岩、粘板岩よりなり、岩相変化が認められるが、そのうち粘板岩は量的には少ないこと、基盤には亀裂があるが、岩質は堅硬であるので、岩盤として変位の絶対量が小さく、かつ、高荷重域まで弾性的挙動を示すこと、建家荷重(約5㎏/㎝2)と掘削岩石荷重(約6㎏/㎝2)がほぼ等しいこと、更に、破砕された部分の巾は小さく、したがって、その周囲の応力集中も小さいので、重大な局部破壊は考えられないこと等により、原子炉設置に影響を及ぼす不等沈下の生ずるおそれはないと判断する。


 以上のことから、本地盤は原子炉施設の基盤として十分な安全性を有するものと判断する。

1.3 地震

 敷地周辺の地震活動性については、「日本被害地震総覧」等をもとに調査され、更に、個々の被害地震について、それぞれの地震に関する文献に基づき調査されている。これらの調査によると、マグニチュード7ないし8クラスの地震は、敷地から約130㎞離れた場所で発生している。また、マグニチュード6クラスの地震は、敷地から半径50㎞以内の地域では、記録上3件、50㎞から100㎞の地域では、記録上5件発生している。これらの地震のうち、薩摩の地震(明治27年1月、M=6.4)が敷地に最も近いものである。

 上記のいずれの地震についても、敷地付近に大きな被害を与えた記録は見当たらないとしている。敷地付近での最高の震度階は、敷地周辺の被害状況から推定して、強震(震度Ⅴ)であったとしている。

 敷地基盤に加わる最大加速度は、金井式-シード図の組合せ等を用いて算出している。その結果、敷地の基盤における最大加速度は、薩摩の地震について金井式-シード図の組合せを用いて算出した場合であり、その加速度は、約130Galとなるとしている。

 以上の歴史地震に関する調査は、多くの文献、既存の報告書等を参考としており、敷地周辺の地震活動性の調査内容は妥当なものと判断する。

 また、基盤における最大加速度についても、その算出に用いられた金井式-シード図の組合せは、従来より用いられており、上記の最大加速度は妥当なものと判断する。

 当該発電所の基盤に生じると想定された最大加速度は、約130Galとなり、これに基づいて設計用地震加速度を180Galとしている。これは安全余裕を見込んだ評価を加えたものであり、設計用地震加速度を180Galとすることは妥当なものと判断する。

1.4 気象

 敷地及びその周辺の気象については、原子炉施設を設計するに当たって考慮する気象条件及び原子炉施設の安全解析に用いる気象条件がそれぞれ調査されている。

 原子炉を設計するに当たって考慮する気象条件については、最寄りの気象官署である鹿児島地方気象台、阿久根測候所及び枕崎測候所における長期間の観測資料(それぞれ、明治16年、昭和14年及び大正12年から昭和45年までの記録)が調査されている。これによれば気象極値は最低気温-6.7℃、最大降水量95㎜/h、最大瞬間風速62.7m/s、最深積雪38㎝となっている。

 これらの3気象官署と敷地の一般的気象概況は比較的類似しており、当該敷地の極値も上記3気象官署と大差ないと考えられるので、これらを参考として原子炉施設を設計することは妥当であると判断する。

 原子炉施設の安全解析に使用されている気象資料は、敷地内の川内観測所で風向、風速、日射量の観測を、同じく敷地内の新久見崎観測所で風向、風速の観測を、川内市五代町で雲量の観測を行った観測記録のうち、昭和49年8月から昭和50年7月までの1年間のものである。

 川内観測所(標高約55m)においては、排気筒放出に係る高所の風を観測しており、新久見崎観測所(標高約42m)においては、敷地を代表する地上風を観測している。

 当初、敷地を代表する地上風の資料及び排気筒高さを代表する高所の風の資料として川内観測所の観測値を用いる予定であったが、本観測所は敷地を代表する地上風の観測地点として高度が高すぎるために、新たに加えた敷地内の新川内観測所の観測資料も含めて再検討した結果、敷地を代表する地上風としては、新久見崎観測所の資料が妥当であると判断する。

 以上の観測に用いられた風向・風速計及び日射計は気象庁検定を受けており、雲量観測は(財)日本気象協会に依頼して行われている。

 また、評価に用いた気象資料の観測年は、上述した3気象官署における過去10年間の気象資料の解析結果から特に異常な年でないことが確認されている。

 更に、本観測年の気象資料については、欠測率が約1%程度となっている。

 大気拡散の解析は、敷地における1年間の気象資料をもとに平常運転時及び想定事故時に分けて行われている。

 平常運転時の大気拡散の解析に使用する気象資料としては、放射性物質の連続及び間けつ放出を考慮して、それぞれ風向別大気安定度別風速逆数の総和及び平均が用いられている。

 また、大気拡散の計算に当たっては、放出源の有効高さとして37mが用いられている。この放出源の有効高さは、敷地周辺の地形等を考慮した風洞実験により決定されたものであり、妥当であると判断する。

 想定事故時の大気拡散の解析に当たっては、厳しい気象条件を設定して評価を行うため、上記1年間の気象資料をもとに想定事故継続期間に対応する相対濃度(χ/Q)及び相対線量(D/Q)が計算されている。

 χ/Q及びD/Qの計算は、実効放出継続時間の長短、放射性物質の放出源の高さ、建家の影響等を考慮して行われており、また、陸側敷地境界上の各方位ごとの着目地点に対し、累積出現頻度が97%に当たるχ/Q及びD/Qの値を算出し、それらの中の最大の値が求められている。

 この結果、一次冷却材喪失事故の場合のχ/Qは3.3×10-5s/m3、D/Qは1.3×10-6R/Ci、蒸気発生器伝熱管破損事故の場合のχ/Qは4.1×10-5s/m3、D/Qは1.5×10-6R/Ciと解析されている。

 以上述べたように、本原子炉施設の安全解析に使用されている大気拡散のパラメータ、気象観測方法、統計処理方法、大気拡散の解析方法等は、「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」の趣旨に適合しており、妥当なものと判断する。

1.5 水理

 原子炉設置予定地点は、川内川左岸側の小丘陵に囲まれる標高約7mの平地で、西側は東支那海に面している。

 敷地付近の河川、湖沼等の状況調査によれば敷地北方約2㎞に川内川、南方約2㎞に轟川、敷地内に宮山池があるが、過去の降雨実績、敷地周辺の地形及び表流水の状態等からみて、原子炉施設が洪水の被害を受けることはないと判断する。

 敷地前面海域の潮位については、敷地南方約60㎞に位置する枕崎港からの換算値によると、最高潮位は東京湾中等潮位に対し、+1.65mとされている。

 波浪については、季節風の影響を受け、冬期に高波浪が出現するとしている。また、水深10m部で実施された波浪観測によれば、観測期間中の最大有義波高は3.0mであったが、台風資料による波浪推算の結果では、有義波高は水深15m以上で6.2m、10~15mで5.7mとなり、敷地前面に設けられる防波堤の最深部は水深12mの位置であるので、波高5.7mで設計することとしている。

 原子炉主要施設の設置位置は、標高13mに造成され、また、防波堤が設置されること、敷地付近に関して過去における津波、高潮の被害がないことから、海象により原子炉施設の安全性が損なわれることはないものと判断する。

 利水計画は、発電所の淡水所要量として、通常運転時約1,000m3/dが見込まれている。この淡水は、敷地内にある有効貯水量約26万m3の宮山池から取水されるが、その取水可能量は、最近10ヶ年間の内、渇水年の水収支計算によれば、約1,300m3/dとされている。また、池田川流量の実測及び宮山池水位の測定がなされており、その結果から約1,000m3/dの淡水所要量は確保されるものと判断する。

 原子炉施設の運転に必要な冷却水は、防波堤内側の静穏区域に設けられる取水口から取水される。敷地前面地域は、主として川内川が砂の供給源と考えられる砂質海岸であるが、防波堤は漂砂のほとんどを防止する構造としており、一部開口部より流入する漂砂は、防波堤内側の静穏区域に沈降するため、冷却水は漂砂の混入による支障もなく、確保され得ると判断する。

1.6 社会環境

 敷地付近の社会環境については、原子炉を中心とする半径5㎞以内の集落及び公共施設、川内市等における産業活動、交通の状況及び開発計画等について行政機関が作成した統計資料等により調査されている。

1.6.1 敷地周辺の産業活動

 敷地周辺の産業活動状況は、行政機関作成の統計資料等により、川内市を中心として調査されている。

 この調査によれば、川内市における産業別就業状況は、第1次産業30%、第2次産業24%、第3次産業46%(昭和50年国勢調査)となっている。

 主要工場としては、中越パルプ㈱川内工場、京都セラミック㈱鹿児島工場及び九州電力㈱川内火力発電所があるが、敷地に最も近い川内火力発電所でも約2.5㎞離れており、これらの産業活動が原子炉施設の安全性に影響を与えることはないと判断する。

1.6.2 敷地周辺の交通

 敷地周辺の陸上交通は、鉄道路線として国鉄鹿児島本線及び国鉄宮之城線があり、道路としては、国道3号線及び国道267号線があるが、いずれも発電所から約4㎞以上離れている。

 最寄りの道路として県道川内-串木野線がある。この県道の一部は敷地内を陸側周辺監視区域境界外側に沿って通っている。

 海上交通については、敷地から北方約2.3㎞に川内港があり、15,000t級岸壁への整備拡充が進められているが、船舶等の事故による敷地への影響はないと判断する。

 航空関係については、最寄りの空港として東方約50㎞に鹿児島空港があるが、川内市付近に飛行場はない。また、敷地の東方約22㎞及び約32㎞離れた位置の上空にはそれぞれ鹿児島-大村間及び鹿児島-福岡間を結ぶ国内線の定期航空路があるが、敷地上空に定期航空路は通っておらず、航空機の墜落による原子炉施設への影響については確率的にみて考慮する必要はないと判断する。

 以上のことから、各交通関係については、原子炉施設の安全性に影響を及ぼすことはないと判断する。

2 原子炉施設の安全評価

2.1 原子炉施設全般

2.1.1 原子炉施設全般に対する設計上の考慮

 本原子炉施設の安全上重要な構築物、系統及び機器(以下重要な構築物等という。)は、安全上適切と認められる規格及び基準に準拠することが必要である。

 本原子炉施設は、国内法規に基づく規格及び基準に基づいて、設計、材料選定、製作、建設並びに検査が行われるほか、必要に応じて国内の民間規格、基準及び諸外国の規格、基準をも参考とすることとしているので、妥当であると判断する。

 重要な構築物等は、人為事象、飛来物、火災等により、それらの安全機能が喪失しないよう、設計上の考慮が必要である。また、原子炉施設には、避難道路及び通信連絡設備が必要である。

 重要な構築物等を含む区域は、それを取り囲む物的障壁を持つ防護された区域とし、これらの区域への接近管理、出入管理の徹底を図るとともに、不法侵入を防止するための探知設備、外部との通信連絡設備等が設けられるので、第三者による不法な接近等を未然に防止できるものと判断する。

 タービン発電機等に対しては、その損壊によりプラントの安全を損なうおそれのないよう設計、製作、品質管理、運転管理に十分な考慮が払われることとされている。更に、万一タービンの破損を想定した場合でも、タービン羽根、T-Gカップリング、タービン・ディスク、タービン・ロータ等の飛散物によって重要な構築物等の機能が損なわれる可能性は無視できることを確認した。

 また、一次冷却材管、主蒸気、主給水管については、材料選定、強度設計、品質管理に十分な配慮を払うこととなっているが、仮想的にそれらの配管の瞬時破断を想定し、その結果生じる可能性が考えられる配管のむち打ち等に対し、それらの影響を低減させるため、配置上の考慮を払うとともに、配管のレストレイント等を設けることとなっているので、重要な構築物等の機能が損なわれる可能性はないものと判断する。

 重要な構築物等は、火災の発生防止、火災の早期検知及び早期消火の対策を講ずることとされ、また、可能な限り不燃性難燃性材料を用いた設計がなされる。更に、中央制御室、安全保護系、原子炉停止系、残留熱除去系、工学的安全施設等の安全上重要な系統及びこれらのケーブル、配管は、相互に物理的分離をはかり、適切な隔離距離をとるか又は必要に応じて隔壁が設けられる。また、ケーブル・トレイ等が隔壁を貫通する場合は、隔壁効果を減少させないような構造とする等の対策が講じられるので、火災により重要な構築物等が安全機能を損なうことはないと判断する。

 更に、原子炉施設の建家内には、必要な避難通路が設けられる。避難通路には標識並びに非常灯及び誘導灯が設けられ、通常の照明用電源喪失時にその機能を失うことがない設計とされるので、容易に避難できると判断する。

 事故時に発電所内の従事者等に対し、中央制御室から指示できるように有線通信設備が設けられるとともに、発電所外の必要箇所と連絡するため、加入電話の他に電力保安通信設備が設けられるので、通信連絡設備の設計は妥当であると判断する。

2.1.2 耐震設計

 本原子炉施設のうち原子炉格納施設等の重要な建物、構築物は原則として剛構造に設計され、岩盤で直接支持されることとなっている。

(1) 重要度による分類

 原子炉施設は、安全上の観点から耐震設計上の重要度に応じ、A、B、Cの3クラスに分類され、各分類ごとの耐震設計法により適切な設計が実施される。

 Aクラスに分類される施設は、その機能喪失が原子炉事故を引き起こすおそれのある施設及び周辺公衆の災害を防止するために緊要なものとし、原子炉格納施設、原子炉容器、非常用炉心冷却系等を同分類に含めている。

 Bクラスに分類される施設は、高放射性物質に関連するAクラス以外のものとし、原子炉補助建家、原子炉補助設備等を同分類に含めている。

 Cクラスの施設は、Aクラス及びBクラス以外の施設としている。

 施設の分類に当たって、上位の分類に属するものが下位の分類に属するものの破損によって波及的に損傷を受けないことを確めることとしている。

 上述の施設の各分類は、原子力発電所の安全性を保持する上で適切なものであり、波及的事故に対する設計上の考慮方針と合わせ、原子炉施設の安全設計上妥当なものと判断する。

(2) 耐震設計法

 各施設は、重要度に応じ、適切な設計法によって耐震設計されるが、基本的には、建築基準法に定められた震度に基づく静的解析により得られる地震力、又は、基盤に設計用地震動を与え、各施設の固有の動特性を考慮する動的解析によって求められる地震力に対して安全であるように設計される。

 静的解析によって算定する水平地震力は、建築基準法に基づき基礎底面における基準震度を0.2とし、高さ方向に所定の割増しを行い、地盤の種別及び構造物の構造種別によるてい減率を乗じた水平震度(以下「水平震度」という。)から求まるものである。また、鉛直地震力は、基準震度0.2に、上記てい減率を乗じた水平震度の1/2が、鉛直方向にかかるもの(以下「鉛直震度」という。)として求まるものであり、高さ方向には一定としている。

 静的解析に用いる静的震度は、建物、構築物と機器・配管系により、またA、B、Cのクラス毎に異なる値を用いている。Aクラスの建物、構築物は「水平震度」「鉛直震度」の3倍を静的震度として用い、機器・配管系では、建物、構築物に対する静的震度の1.2倍を用いている。Bクラス及びCクラスに対する静的震度については、建物、構築物と機器・配管系の関係はAクラスの場合と同一であるが、水平震度については、BクラスをAクラスの1/2、CクラスをAクラスの1/3としている。なお、B、Cクラスについては「鉛直震度」は考慮していない。

 動的解析に用いる設計用地震動は、地震加速度を180Galとし、エルセントロ、仙台501、ゴールデンゲートで記録された地震波が用いられる。

 動的解析は、Aクラスの施設に対し実施され、Bクラスの機器・配管系のうち支持構造物の振動と共振するおそれのあるものに対しても、検討が行われる。

 Aクラスの施設は静的解析又は動的解析により得られる水平地震力のうちいずれか大きい方の水平地震力と静的解析により求まる鉛直地震力とが同時に不利な組合せで作用するものとし、これに耐えるよう設計されることとしている。

 B、Cクラスの施設は、静的解析により得られる水平地震力に耐えられるように設計される。

 なお、Aクラスの施設のうち、特に一般公衆の安全を確保するために、安全対策上緊要な施設である原子炉格納容器、原子炉停止系のうち緊急停止機能を有する部分に対しては、設計用地震加速度の1.5倍の加速度(270Gal)が基盤に生じた場合でも、それらの機能が保持できることが確認される。

 また、地震に対する考慮として、ある程度以上の地震が起こった場合に原子炉を自動的に停止させるため、地震感知器が設置される。

 以上の耐震設計によって原子炉施設の耐震安全性は十分確保し得るものであり、この耐震設計法は、原子炉施設の安全設計上妥当なものと判断する。

2.2 原子炉及び計測制御系

2.2.1 炉心設計

(1) 核設計

 炉心の核設計においては、以下に示す事項を満足することが必要である。

① 運転に伴う反応度の変化を安定に制御できるとともに、最大の反応度価値を有する制御棒クラスタが完全に引抜かれた状態であっても、常に原子炉を臨界未満にできること。

② 通常運転時及び運転時の異常な過度変化時において、プラントの各系統とあいまって、燃料の許容設計限界を超えないこと。

③ すべての運転範囲で急速な固有の負の反応度フィードバック特性を有する設計であること。

 このため審査に当たっては、核設計手法の妥当性、出力分布制御法等について検討を加えた。

 核設計手法は、先行プラントの手法と同じであり、同手法による計算結果は、プラント試験結果及び運転実績と良く一致している。

 通常運転時において、アキシャル・オフセット一定値制御が、熱流束熱水路係数を設計値以下に抑えるために採用される。これは、通常運転時にアキシャル・オフセットを常時監視し、必要に応じて出力分布調整用制御棒クラスタ又はバンクD制御棒クラスタを操作してアキシャル・オフセットを定められた範囲に抑える方式である。

 このアキシャル・オフセット一定値制御により、通常運転時の出力分布を適正に保つことができ、燃料棒最大線出力密度は41.1kW/m以下となる。

 制御棒クラスタは、最も反応度効果の大きい制御棒クラスタ1本が、完全引抜き位置に固着して挿入できない場合でも、十分な余裕をもって炉心を臨界未満にでき、更に、化学体積制御設備によるほう酸注入により、この臨界未満を維持できる設計となっている。

 本原子炉は、Ⅳ.4に後述するように、プラントの各系統とあいまって、運転時の異常な過渡変化時においても燃料の許容設計限界を超えることはない。

 また、本原子炉は、ドップラ係数、減速材温度係数等を総合した固有の負の反応度フィードバック特性を有しておりⅣ.4に後述するように、未臨界状態からの制御棒クラスタ引抜き等の運転時の異常な過渡変化時においても、急激な出力上昇を軽減できる。

 なお、炉心の設計燃焼度は、燃料集合体最高燃焼度の観点からみて問題ない。

 以上のことから、本原子炉の核設計は妥当なものと判断する。

(2) 熱水力設計

 炉心の熱水力設計は、通常運転時はもちろん、運転時の異常な過渡変化時においても、燃料が損傷しないように以下に示す燃料の許容設計限界を満足することが必要である。

① 最小DNBRは、修正W-3相関式による計算値に0.865を乗じた値が1.30以上であること。

② 燃料中心最高温度は、二酸化ウランの融点未満であること。

 このため、審査に当たってはDNB評価に用いる水平方向出力分布、軸方向出力分布及びTDC(熱拡散係数)について検討したほか、熱水力設計に使用する一次冷却材流量及び炉心バイパス流量についての検討を加えた。

 熱水力設計に用いる出力分布のうち水平方向出力分布は、@(エンタルピ上昇熱水路係数)として、1.55が使用され、制御棒クラスタ挿入による@の増大効果も盛り込まれている。

 軸方向出力分布としては、ピークが1.55であるコサイン分布が使用されるが、通常運転時及び運転時の異常な過渡変化時に出現する分布を使用するよりも、安全側であることが確かめられている。また、TDCについては、実験を行って平均値として0.059が得られているが、DNB評価上は0.038を使用しており、十分な余裕が見込まれている。

 DNB評価においては、修正W-3相関式が使用されるが、これは「W-3相関式」で求めたDNB熱流束にRグリッド補正因子である改良型スペーサファクタ(F’s)を乗じるものである。17行17列の燃料集合体を模擬したDNB実験により、修正W-3相関式で求めた値に0.88を乗じると、14行14列及び15行15列の燃料集合体のDNB評価と同じ精度でDNB熱流束を求められることが確認されているが、本原子炉のDNB評価では0.865を乗じてDNBRを求めており、安全側の評価となっている。

 熱水力設計に使用する一次冷却材流量は設計流量に余裕を見たものとなっており、また、バイパス流量についても大き目に4.5%としているので、炉心流量は控え目な値となっている。

 本原子炉の最小DNBRは、通常運転時には約1.8であり、運転時の異常な過渡変化時でも1.30以上である。また、燃料中心最高温度の計算値は、定格出力時で1,790℃であり、更にⅣ.4に後述するように、運転時の異常な過渡変化時においても最大2,348℃であるので、燃焼につれて二酸化ウランの融点が低下する分を考えても、これより十分低いことを確認した。

 以上のことから、本原子炉の熱水力設計は妥当なものと判断する。

(3) 動特性

 原子炉を安定に運転するためには、運転中の外乱に対して燃料の許容設計限界を超える状態となる過大な出力振動が生じないように自己制御性を持たせるとともに、十分な減衰特性を持たせる設計であるか、又は、たとえ出力振動が生じても、それを検出して抑制できる設計であることが必要である。

 このため審査に当たっては、動特性計算コードの実証性及びキセノンの空間振動の安定性について検討を加えた。

 動特性計算コードは、先行プラントにおける実測データとの比較検討により、十分な実証性を有することを確認した。

 キセノンの空間振動について検討し、十分な負の反応度フィードバック特性を有していること及び出力振動が起こっても、確実かつ容易に検出し、出力分布調整用制御棒クラスタ又はバンクD制御棒クラスタにより抑制可能であることから問題ないことを確認した。

 更に、プラント安全性についても、外乱を与えて解析した結果からプラントの各系統の機能とあいまって、十分な減衰特性を有していることを確認した。

 以上のことから、本原子炉は十分な安全性を有しているものと判断とする。

(4) 機械設計

 燃料の機械設計においては、使用材料、使用温度・圧力条件、照射効果等を考慮し、原子炉内における使用期間中を通じ、通常運転時はもちろん、運転時の異常な過渡変化時にも、プラントの各系統の機能とあいまって、燃料の許容設計限界を超えないことが必要である。

 本原子炉で使用される17行17列の燃料集合体の構造設計については、PWR新型燃料検討会において、その妥当性が確認されている。

 このため審査に当たっては、更に、燃料棒のわん曲対策及び評価、燃料棒の累積疲労、燃料設計手法における核分裂生成ガスの放出モデルの妥当性等について検討を加えた。

 燃料棒のわん曲対策として、グリッドスパン長の短縮、グリッド拘束力の低減等が考慮されている。これらの効果について検討した結果、わん曲軽減対策は有効なものであり、また、燃料寿命末期における予測わん曲量に対応するDNBペナルティは、DNB評価の余裕の範囲内にあることを確認した。

 燃料棒の累積疲労は、寿命中の過渡条件及び繰返しサイクル数を考慮して評価した結果、設計疲労寿命以下であることを確認した。

 また、燃料設計手法における核分裂生成ガスの燃料ペレットからの放出モデルは、実測データに基づく放出割合より厳しく考慮されており、燃料棒内圧評価は妥当であることを確認した。

 炉心槽、炉心支持板、制御棒クラスタ案内管等の炉内構造物は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時、地震時及び事故時の荷重に対し、原子炉容器内の温度、圧力等を考慮して必要な強度及び機能を保持するように設計される。

 なお、バーナブル・ポイズン棒についても、内圧、吸収材温度、被覆管応力等を検討し、問題ないことを確認した。

 以上のことから、本原子炉の炉心に関する機械設計は妥当であると判断する。

2.2.2 計測制御系

(1) 中央制御室

 中央制御室には、通常運転時の操作はもちろん、事故時にも従事者がとどまり、事故処置が可能であるような換気設計、遮蔽設計及び不燃設計等の適切な防護がなされた設計が必要である。

 このため審査に当たっては、事故時の居住性、主要ケーブル、制御盤等の火災対策、及び中央制御室外原子炉停止装置の機能について検討を加えた。

 中央制御室には、通常運転、事故処置等に必要な原子炉制御系、安全保護系、タービン設備、電気設備、放射線監視設備、プロセス計装設備等の計測制御装置が設置され、集中的に監視及び制御を行えるように設計される。

 中央制御室の換気系は、他の換気系とは独立して設けられており、事故時には外気との連絡口を遮断し、チャコール・フィルタを備えた閉回路循環方式が取られるため、従業者は内部放射線被曝から防護される。また、中央制御室の遮蔽は、事故時においても従事者が外部放射線被曝から防護される設計となっている。したがって、通常運転時にはもちろん、事故時にも従事者が中央制御室内にとどまって必要な操作を行うことができるものと判断する。

 中央制御室は、火災が発生する可能性を極力少なくするように配慮されるとともに、早期火災検知及び早期消火が行えるように設計される。具体的には、中央制御室内のケーブル、制御盤等は、原則として不燃性、難燃性材料を用いるほか消火設備が設けられる。

 なお、中央制御室において、火災等により操作が困難な場合にも、中央制御室から十分離れた場所に設けられた中央制御室外原子炉停止装置により、スクラム後の高温停止状態を維持することが可能なように設計される。更に、必要に応じて、適切な手段を用いて原子炉を低温停止状態に導くことができるようになっている。

 以上のことから、中央制御室は所定の機能を果たす能力を有していると判断する。

(2) 電源設備

 電源設備は外部電源系及び非常用電源系から構成されている。

 外部電源系は、2回線以上の送電線により電力系統に接続されていることが必要である。

 本発電所に連繋する送電線としては、500kV送電線1ルート2回線と220kV送電線1回線とが設置されるので、外部電源系との電力系統連繋の多重性は、確保されるものと判断する。

 非常用電源設備としては、外部電源喪失時に、1系統が作動しないと仮定しても、燃料及び原子炉冷却材圧力バウンダリの設計条件を超えることなく炉心を冷却でき、あるいは一次冷却材喪失事故が同時に起こったと仮定しても、炉心の冷却とともに、原子炉格納容器並びに安全上重要な系統及び機器の機能を確保できる容量と機能を有することが必要である。

 このため、審査に当たっては、非常用ディーゼル発電機の容量及び信頼性、直流電源の信頼性並びにケーブル等の火災対策について検討を加えた。

 非常用電源として、非常用ディーゼル発電機が2台、蓄電池が3組設けられ、各々独立分離した部屋に収納されるほか、独立分離した非常用母線に接続される。

 非常用ディーゼル発電機は、発電所の通常運転時にも定期的にその起動試験が行われ、信頼性が確保されるとともに、蓄電池も定期的にその健全性及び浮動充電状況にあることが確認される。

 また、所内ケーブル、電源盤等の絶縁材料は、可能な限り、不燃性又は難燃性の材料が使用される。

 本発電所の全動力電源喪失を想定した場合にも原子炉を安全に停止できることとしている。この場合、原子炉は自動的にスクラムし、蓄電池を電源とする非常用照明、原子炉核計装及びプロセス計装により、必要な運転監視を行うことができる。原子炉の冷却は、一次冷却系においては一次冷却材の自然循環、二次冷却系においては、タービン駆動補助給水ポンプ及び主蒸気安全弁の動作により行われ、30分程度の全動力電源喪失に対しても、十分な冷却を行うことができ、この間に交流電源の回復が期待できるので、他に特別な電源を必要としない。

 以上のことから、非常用電源設備は、外部電源喪失と機器の単一故障を仮定しても、安全上重要な系統及び機器が所定の機能を果たすのに十分な電力を供給できる能力を有するものと判断する。


2.3 原子炉停止系、反応度制御系及び安全保護系

2.3.1 原子炉停止系

 原子炉停止系は少なくとも2つの独立した系統を有し、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時において、炉心を臨界未満にできることが必要である。

 このため審査に当たっては、制御棒クラスタ落下時間及び反応度添加曲線、反応度停止余裕等について検討を加えた。

 原子炉停止系は、制御棒クラスタ制御系による制御棒クラスタ挿入及び化学体積制御設備によるほう酸注入の原理の異なる2つの系統が設けられる。

 制御棒クラスタは、最も反応度効果の大きい制御棒クラスタ1本が完全引抜位置のまま挿入できない場合でも、反応度停止余裕条件として最も厳しい高温停止状態で少なくとも0.01Δk/k以上の反応度停止余裕を与えることを確認した。

 また、この反応度停止余裕は、化学体積制御設備によるほう酸注入により維持される設計となっている。通常運転時には、この反応度停止余裕を確保するため、制御棒クラスタ挿入限界を常時監視することとしている。

 制御棒クラスタが動作不能の場合でも、化学体積制御設備によるほう酸注入のみによって原子炉を高温状態及び低温状態において臨界未満にできるので、原子炉停止系の独立性は満足される。

 スクラム時の制御棒クラスタ挿入時間は、全ストロークの85%挿入までを2.2秒としているが、この値は落下試験によって十分満足されることが確認されている。

 運転時の異常な過渡変化時においては、Ⅳ.4に後述するように、炉心特性とあいまって、燃料の許容設計限界を超えることなく、原子炉を臨界未満にし、かつ、維持できることを確認した。

 また、Ⅳ.5に後述するように、事故時においても必要な場合非常用炉心冷却設備の作動とあいまって、原子炉を臨界未満にし、かつ、維持できることを確認した。

 以上のことから、原子炉停止系の設計は妥当であると判断する。

2.3.2 反応度制御系

 反応度制御系は、負荷変動、キセノン濃度変化等の反応度変化を調整するとともに、その最大反応度価値及び添加率から想定される反応度事故により原子炉冷却材圧力バウンダリの破損が生じないような設計であることが必要である。

 このため審査に当たっては、制御棒クラスタの制御能力、ほう素の添加、希釈能力等について検討を加えた。

 本原子炉の反応度制御系としては、制御棒クラスタ制御系及び一次冷却材中のほう素濃度を調整する化学体積制御系の2つの独立した系を設け、十分な反応度制御能力を有するように設計される。

 制御棒クラスタ制御系は、負荷変動及び零出力から全出力までの反応度変化の調整を行い、化学体積制御系は、キセノン濃度変化、高温状態から低温状態までの温度変化及び燃料の燃焼に伴う反応度変化の調整を行う設計となっており、両者の組合せによって所要の運転状態に維持できることを確認した。

 急激な反応度添加は御制棒クラスタの飛出しによって起こり得るが、制御棒クラスタ挿入限界を設定することにより、制御棒クラスタの挿入を制限しているので、過大な反応度が添加されないことを確認した。

 また、急激な反応度添加は、制御棒クラスタ・バンクの連続引抜きによっても起こり得るが、制御棒クラスタの引抜き最大速度を制限することにより、過度な反応度添加率とならないことを確認した。

 なお、高温出力運転状態で減速材温度係数を負にし、出力分布を平坦化するため、必要に応じてバーナブル・ポイズンが使用される。

 以上のことから、反応度制御系の設計は妥当なものと判断する。

2.3.3 安全保護系

 安全保護系は、以下に示す事項を満足することが必要である。

(1) 運転時の異常な過渡変化又は事故を検知し、原子炉停止系及びその他の主要な安全保護動作を自動的に開始させる機能を有すること。

(2) 通常運転時、運転時の異常な過渡変化時、保修時、試験時及び事故時において、その保護機能を喪失しないように、チャンネル相互を分離し、多重性を持たせたチャンネル間の独立性を確保できること。

(3) 原子炉運転中における定期的試験により、その健全性を確認できること。

 このため審査に当たっては、多重性、独立性、計測制御系との分離等について検討を加えた。

 安全保護系の多重性については、安全保護機能を失う結果をもたらさないように、十分に信頼性のある少なくとも2チャンネルの安全保護回路が設けられる。更に、原子炉停止系及び工学的安全施設を作動させるための検出器は、原則として「2 out of 3」又は「2 out of 4」構成となっているので、この系を構成する機器又はチャンネルの単一故障あるいは使用状態からの単一の取外しを行っても安全保護機能が損なわれることはないと判断する。

 安全保護系の独立性については、その系を構成するチャンネルは相互干渉が起こらないように、各チャンネル毎に専用のケーブル・トレイ、計器ラック等を設けるとともに、各チャンネル相互を可能な限り物理的・電気的に分離し、独立性を持たせるように設計される。

 また、安全保護系及び計測制御系の電源、検出器、ケーブル等は、原則として互いに分離するように設計される。安全保護系の一部から、計測制御系への信号を取り出す場合には、信号の分岐箇所に絶縁増幅器を使用し、計測制御系の短絡、地絡又は断線によって安全保護系に影響を与えることのないように設計される。

 安全保護系は、駆動源の喪失、系の遮断等不利な状態になっても、最終的に安全な状態に落着くように設計される。すなわち本系統によって作動される弁等は、フェイル・セイフとするか又は故障と同時に現状維持(フェイル・アズ・イズ)としている。この現状維持の場合には速やかに同一の機能を持つ他の系統の保護動作が行えるように設計される。

 安全保護系は、原子炉運転中にも計測チャンネル及び論理回路トレインの試験ができるように設計される。計測チャンネル及び論理回路トレインは、多重性、独立性を持たせることにより、試験中でも、残りのチャンネル及びトレインで保護機能を果たせるように設計される。

 以上のことから、安全保護系は十分な信頼性を有していると判断する。

2.4 原子炉冷却系

2.4.1 原子炉冷却材圧力バウンダリ

 原子炉冷却材圧力バウンダリを講成する機器及び配管は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時において、その健全性が確保できるとともに、原子炉冷却材圧力バウンダリの漏洩検出、破壊の防止及び定期的な試験・検査を行って健全性の維持を図ることが必要である。

 このため審査に当たっては、通常運転時における原子炉運転圧力、運転温度及び加熱・冷却率の妥当性、運転時の異常な過渡変化時及び事故時に予想される過圧に対する健全性、漏洩検知対策、脆性破壊防止対策、更に、運転開始後における定期的な試験可能性について検討を加えた。

 通常運転時における原子炉圧力制御は、加圧器により行われ、これにはヒータ及びスプレイ装置が設けられており、一次冷却材の圧力調整の役割を果たしている。

 更に、原子炉容器については、原子炉起動・停止時の加熱・冷却率を55℃/h以下に抑えることとしている。

 負荷喪失、タービン・トリップ等の運転時の異常な過渡変化時に対しては、原子炉スクラムにいたる安全保護回路が設けられるほか、原子炉冷却材圧力バウンダリの過度の圧力上昇を防止するため、加圧器逃し弁及び加圧器安全弁が設けられる等により、原子炉冷却材の過渡期の最高圧力がⅣ.4に後述するように、原子炉冷却材圧力バウンダリの最高使用圧力(175㎏/㎝2G)の1.1倍を超えないことを確認した。

 事故時において一次冷却材圧力が最も高くなるものは、Ⅳ.5に後述するように一次冷却材ポンプ軸固着事故である。この事故時においても、「一次冷却材流量低」信号により原子炉はスクラムし、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は保たれることを確認した。また、制御棒クラスタ飛出し事故に代表される速い過渡変化を伴う事故では、燃料ペレット保有エンタルピが問題となるが、Ⅳ.5に後述するように、燃料ペレット最大保有エンタルピは原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性を損なうほど大きくないことを確認した。

 原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する機器及び配管のうち、一次冷却材に直接触れる部分は、腐食防止の観点から使用材料としては、耐食性にすぐれたステンレス鋼、ニッケル・クロム・鉄合金が主に使用されている。

 また、脆性破壊を防止するため、原子炉容器、蒸気発生器水室、加圧器等は原子炉冷却材圧力バウンダリの最低使用温度においても、脆性破壊が起きない材料を選び製作され、使用する場合は、この最低使用温度より高い温度で使用するので破壊の防止対策は妥当なものと判断する。

 原子炉冷却材圧力バウンダリの漏洩に対しては、原子炉格納容器ガス・モニタ及び塵埃モニタ、凝縮液量計並びに格納容器サンプ水位計が設けられ、約4l/minの漏洩を1時間以内に検出できるようになっており、漏洩検知対策は多重性を有し、漏洩量の確実な監視が可能であり、また、漏洩の早期検出も十分できるものと考える。

 原子炉容器の母材、溶接部等については、照射試験片を原子炉容器内に挿入して、原子炉容器とほぼ同様な条件で加速照射し、計画的に取り出し、試験を行うこととしている。原子炉冷却材圧力バウンダリとなる機器及び配管は、原子炉の運転開始後、重要な部分に対し、定期的に供用期間中検査が行えるように、機器、銀管等の設計に当たっては、検査箇所へ検査機器等が接近できるように配置が考慮されている。

 以上のことから、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は十分に確保されると判断する。

2.4.2 非常用炉心冷却系

 非常用炉心冷却系は、一次冷却材喪失事故を想定した場合、非常用電源系のみの運転下で単一故障を仮定しても、燃料被覆のジルコニウムと水との反応による酸化量を十分小さな量に抑えて、炉心冷却能力を損なうような燃料の大きな損傷を生じることのないようにするとともに、崩壊熱を長期にわたって除去できる能力が必要である。

 したがって、非常用炉心冷却系については、電源系も含めて多重性、独立性及び試験・検査の可能性が確保され、また、「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針について」(以下「ECCS安全評価指針」という。)で要求されている機能及び性能を有しているかについて検討を行った。本原子炉施設では化学体積制御系の充てんポンプと非常用炉心冷却系の高圧注入ポンプとを共用する設計となっているので、この共用による影響についても検討を加えた。

 非常用炉心冷却系は、蓄圧注入系50%容量3系統、高圧注入系、低圧注入系はそれぞれ100%容量2系統で構成され、各系統間で相互干渉を起こさないように配慮された機器、配管構成となっている。高圧注入系、低圧注入系のそれぞれの2系統は、外部電源のほか、独立した非常用母線にも接続されており、また、起動信号についても独立2系統が設けられているので、多重性、独立性は十分確保されているものと考える。

 また、事故発生時、各ポンプは、燃料取替用タンクを水源とするが、同タンク水位が低下するとポンプの吸込みを原子炉格納容器サンプに切り替える系統構成となっており、長期にわたり炉心冷却の継続が可能になっている。

 充てん/高圧注入ポンプは、100%容量のものが3台設置され、通常運転時は化学体積制御系として一次冷却材の充てんに使用される。また、低圧注入系は原子炉停止時に余熱除去設備として崩壊熱及び他の残留熱の除去に使用される。

 これらの系統は、事故時に各々高圧注入系及び低圧注入系として使用されるが、通常運転時の機能が同時に要求されることはなく、また、通常運転時には、工学的安全施設として待機状態に保持される設計であるので、安全上問題はない。

 本設備の試験・検査の可能性については、ミニマム・フロー・ライン、テスト・ライン等が設けられ、各系統ごとに独立して試験・検査が可能なように設計されることから、原子炉運転中でも、必要に応じて試験・検査が行えるものと考える。

 非常用炉心冷却系の機能及び性能について、Ⅳ.5に後述するように、「ECCS安全評価指針」に基づいた解析により、同指針の基準を満足する機能及び性能を有することを確認した。

 以上のことから、非常用炉心冷却系の設計は妥当なものと判断する。

2.4.3 残留熱除去系

 残留熱除去系は、原子炉停止時に燃料の許容設計限界及び原子炉冷却材圧力バウンダリの設計条件を超えないように、炉心からの核分裂生成物の崩壊熱及び他の残留熱を除去できることが必要である。

 このため審査に当っては、残留熱除去系の除熱能力、本系統の原子炉冷却材圧力バウンダリからの隔離性等について検討を行った。

 炉心からの核分裂生成物の崩壊熱及び他の残留熱は、原子炉停止後の初期段階においては、蒸気発生器により除去され、発生蒸気は、復水器又は大気放出により処理される。その後、一次冷却系の圧力、温度が所定の値以下に低下した段階においては、余熱除去設備により熱除去が行われる。

 余熱除去設備は、2系統構成とし、更に、余熱除去ポンプ等は非常用電源にも接続されている。

 余熱除去施設は、原子炉冷却材圧力バウンダリの冷却速度の制限値を超えない速さで、炉心の崩壊熱と他の残留熱を除去できるように設計される。

 すなわち、余熱除去設備を2系統運転することにより、原子炉停止後約20時間で一次冷却材の温度を60℃まで下げることができ、また、1系統運転でも必要な熱除去能力を有していることを確認した。

 一次冷却設備に接続される余熱除去ポンプ入口配管には隔離弁が設けられ、一次冷却系の圧力が余熱除去設備の設計圧力より高い時は、弁が開かないようにインターロックされており十分な隔離性を有しているものと考える。

 以上のことから、残留熱除去系の設計は妥当なものと判断する。

2.4.4 冷却水系

 冷却水系は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時において、重要な構築物等の全熱負荷を最終的な熱の逃し場に確実に伝達できることが必要である。

 このため審査に当たっては、冷却水系の熱除去能力について検討を行った。

 通常運転時において、炉心の発生熱は、一次冷却系から二次冷却系へ伝えられ、復水器を通して海水に放出される。運転時の異常な過渡変化時及び事故時においては、炉心の発生熱は、一次冷却系及び二次冷却系により海水に、又は、主蒸気逃し弁あるいは主蒸気安全弁により大気に放出される。

 その他の重要な構築物等の冷却水系としては、原子炉補機冷却水設備及び原子炉補機冷却海水設備が設けられる。

 原子炉補機冷却水設備は、余熱除去冷却器、スプレイ冷却器等の除熱を行い、原子炉補機冷却海水設備は、原子炉補機冷却水冷却器、非常用ディーゼル発電機等の除熱を行う設計となっている。また、これらの冷却水系は、2系統設けられ、多重性を持つとともに非常用電源にも接続される。

 したがって、冷却水系は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時において十分その機能を果たし得るものと考える。

 以上のことから、冷却水系の設計は妥当なものと判断する。

2.5 原子炉格納施設

2.5.1 原子炉格納容器及び付属設備

 原子炉格納容器の設計においては、以下に示す事項を満足することが必要である。

(1) 一次冷却材喪失事故時の想定される最大エネルギ放出によって生じる圧力、温度に耐え、かつ、その場合にも所定の漏洩率を超えないこと。

(2) 定期的に原子炉格納容器全体及びその貫通部等の重要な部分の漏洩率試験及び検査ができること。

(3) 原子炉格納容器バウンダリは、脆性破壊及び急速な伝播型破断を防止する設計であること。

(4) 原子炉格納容器を貫通する配管系は隔離機能を有し、動力源の単一故障によって自動隔離機能を喪失しないこと。

 これらの事項を考慮して検討を行った結果は次のとおりである。

 原子炉格納容器の設計圧力は2.25㎏/㎝2G(最高内圧2.50㎏/㎝2G)、設計温度は127℃となっているが、最も苛酷と考えられる配管破断による一次冷却材喪失事故を仮定した場合でも、Ⅳ.5に後述するように、圧力は最高で2.19㎏/㎝2Gであり、温度は最高で120℃であるので、事故時に想定される最大エネルギ放出によって生じる圧力、温度に耐え得ることを確認した。

 原子炉格納容器の漏洩率は、常温空気設計圧力において0.1%/d以下となるように設計されるが、この値はⅣ.6に後述する災害評価の結果からみて、妥当なものと判断する。

 また、原子炉施設の寿命中、定期的な漏洩率試験が行われ、上記の漏洩率を下回ることが確認される。

 更に、原子炉格納容器漏洩率試験以外にも、電線貫通部及びベローズを用いてシールする配管貫通部は、個々に試験ができるように、2重シールにし、試験用タップが設けられる。

 また、原子炉格納容器を貫通する配管系(計装配管を除く)には、原則として原子炉格納容器の内外にそれぞれ1個の自動隔離弁が設けられるとともに、必要な隔離機能の維持を確認するため、定期的な弁漏洩試験ができるように試験用タップが設けられる。

 原子炉格納容器バウンダリの材料は、その脆性遷移温度が最低使用温度より少なくとも17℃低いものであることを確認した上で使用される。

 また、2つの自動隔離弁の駆動動力源は互いに独立なものとし、単一故障によって隔離機能を喪失することのない設計であることを確認した。

 なお、一次冷却材喪失事故後の原子炉格納容器内の水素の蓄積については、Ⅳ.5に後述するように、極めて緩慢であり、水素濃度が可燃限界に達するまでに100日以上の時間を要し、その間に必要な処置が十分とれるものと判断する。

 以上のことから、原子炉格納容器は、事故時に、その健全性を保持し、放射性物質の外部への放出を抑制する機能を有するものと判断する。

2.5.2 原子炉格納容器スプレイ系

 原子炉格納容器スプレイ系は、一次冷却材喪失事故時の原子炉格納容器内の圧力、温度を低下させるとともに、原子炉格納容器雰囲気を浄化して環境に放出される放射性物質の濃度を減少させる機能が必要である。

 このため審査に当たっては、原子炉格納器スプレイ系の信頼性、よう素除去効果等について検討を行った。

 原子炉格納容器スプレイ系は独立した100%容量2系統からなり、それぞれ、非常用電源にも接続されている。したがって、機器の単一故障及び外部電源喪失を仮定しても、原子炉格納容器内の圧力、温度を長期間にわたって抑制でき、Ⅳ.5に後述するように、一次冷却材喪失事故後約1日で、原子炉格納容器内の圧力を大気圧程度まで低下させることができることを確認した。

 更に、スプレイ水による原子炉格納容器内の放射性無機よう素の除去効率が等価半減期100秒以下となる設計であることを確認した。

 なお、スプレイ・ポンプの作動試験は、テスト・ラインを使用して定期的に行えるようになっている。

 以上のことから、原子炉格納容器スプレイ系は、原子炉格納容器内の除熱、減圧及び放射性よう素除去機能を有するものと判断する。

2.5.3 アニュラス空気再循環設備

 アニュラス空気再循環設備は、一次冷却材喪失事故時に原子炉格納容器からの漏洩気体中に含まれるよう素を除去し、環境に放出される放射性物質の濃度を減少させる機能が必要である。

 このため審査に当たっては、アニュラス部の負圧達成能力、よう素用フィルタによるよう素除去効果等について検討を行った。

 アニュラス空気再循環設備は、独立した100%容量2系統からなり、また、非常用電源にも接続されているので、一次冷却材喪失事故時に外部電源喪失を仮定しても、アニュラス部の負圧を達成、維持でき、また、原子炉格納容器から漏洩して来た放射性物質をフィルタにより除去できるものと考える。

 一次冷却材喪失事故後のアニュラス部の負圧達成時間は1系統運転で10分以下となるように設計され、その負圧達成及び維持能力はプラント運転に先立ち系統試験により確認されることになっている。また、よう素用チャコール・フィルタのよう素除去効率は、95%以上になるように設計され、その性能は、フィルタの性能試験により確認されている。この負圧達成時間と、よう素除去効率は、Ⅳ.6に後述する災害評価の結果からみて妥当なものであると考える。

 更に、アニュラス空気再循環設備は、プラント運転中でも、1系統ずつの起動試験及び性能チェックが可能なように設計され、また、フィルタについては、定期検査時にその性能が確認されることになっている。

 以上のことから、アニュラス空気再循環設備は、一次冷却材喪失事故時に環境に放出される放射性物質の量を低減させる機能を有するものと判断する。

2.6 燃料取扱い及び廃棄物処理系

2.6.1 核燃料取扱い及び貯蔵設備

 核燃料取扱い及び貯蔵設備の設計においては、以下に示す事項を満足することが必要である。

(1) 燃料貯蔵設備は、適切な格納機能、貯蔵容量及び未臨界性を有すること。

(2) 核燃料取扱機器は、試験・検査機能を有し、かつ、燃料落下防止対策が講じられていること。

(3) 使用済燃料貯蔵設備は、放射線遮蔽、プール水の冷却、浄化並びに漏洩防止及び検知機能を有し、燃料落下時にも損傷しないこと。

(4) 核燃料の取扱場所は、残留熱の除去能力の喪失に至る状態及び過度の放射線レベルが検出できるとともに、その事態を適切に従事者に伝えるか、又は、自動的に対処できること。

 これらの事項を考慮して検討を行った結果は次のとおりである。

 新燃料及び使用済燃料貯蔵ラックは、所定の位置以外には燃料集合体を挿入できない構造とされ、各ラックに一体ずつ適切に収納される。

 新燃料貯蔵庫の貯蔵容量は、全炉心燃料の約2/3を収納できる設計であり、使用済燃料プールの貯蔵容量は、全炉心燃料の約17/3に設計され、通常運転時には、全炉心の燃料を貯蔵できる容量が常に確保され得るものと考える。

 新燃料貯蔵庫は、水が充満するのを防止するために排水口が設けられるが、容量一杯の新燃料を貯蔵した状態で、貯蔵庫内が純水で満たされるという厳しい異常状態を想定しても実効増倍率は、0.90以下に保たれるように設計されている。更に、新燃料貯蔵庫には水消火設備を設けない設計となっているが、実効増倍率が最も高くなるような密度の水分で満たされた場合でも臨界未満になることが計算で示されている。

 また、使用済燃料貯蔵ラックは、貯蔵燃料の臨界を防止するために、適切な燃料集合体間距離をとることになっており、容量一杯の新燃料を貯蔵し、常温の純水で満たされた場合を想定しても実効増倍率は0.90以下に保たれるように設計されている。

 したがって、新燃料貯蔵庫及び使用済燃料プールは、予想されるいかなる状態においても臨界に達することはないものと判断する。

 燃料取扱機器、使用済燃料プール浄化冷却設備等の安全上重要な機器は、定期的な試験・検査が可能な設計となっている。

 使用済燃料輸送容器は、使用済燃料プール上を通過できないようになっており、また、燃料取扱設備は、取扱い中の燃料集合体の落下を防止する対策がとられている。

 使用済燃料プールは、側面にコンクリート壁による遮蔽が設けられ、使用済燃料の上部には十分な水深が有ることから、燃料取扱い及び貯蔵時に適切な遮蔽効果を有するものと判断する。

 使用済燃料プール水浄化冷却設備は、全貯蔵容量を貯蔵したとしても崩壊熱を十分除去できるように設計されるとともに、最終的な熱の逃し場までの熱伝達経路は、機器の単一故障を仮定しても確保されるようになっている。万一、プール水の温度が異常に上昇した場合には、中央制御室に警報を発し、運転員が対処できるようになっている。また、プール水の漏洩防止及び漏洩検知に対する設計上の配慮がなされている。

 なお、万一、燃料集合体が落下することを想定しても、使用済燃料プールの機能を失うような損傷は生じないように設計される。使用済燃料プール水面上の空気は、フィルタ・ユニットを内蔵する換気設備によって浄化され、原子炉補助建家排気筒から、排気筒モニタによって放射能を監視しながら排気される。また、使用済燃料プール・エリアには、放射線監視のためのエリア・モニタが設置され、万一、放射線レベルが異常に上昇した場合には、中央制御室に警報を発し、運転員が対処できるようになっている。したがって、燃料取扱場所の放射線レベルの検出及び空気浄化は適切に行えるものと考える。

 以上のことから、本設備は十分安全であり、所要の貯蔵能力を有しているものと判断する。

2.6.2 放射性気体廃棄物処理設備

 放射性気体廃棄物処理設備は適切な濾過、貯留、減衰及び管理を行うことにより、周辺環境に放出される放射性物質の濃度及び量を実用可能な限り低減できる設計であることが必要である。

 このため審査に当たっては、放射性気体廃棄物の発生量と貯蔵能力、窒素廃ガス処理系統及び水素廃ガス処理系統の設計、換気設備の性能、放射性気体廃棄物の放出管理等について検討を加えた。

 放射性希ガスを含んだ冷却材貯蔵タンク等のベント・ガスを主体とする放射性気体廃棄物の貯留及び減衰を行うために、窒素廃ガス処理系統がある。この系統のガス減衰タンクの貯留期間は設計上45日であり、この間放射能を十分減衰できるものと考える。

 また、一次冷却材中の放射性物質の濃度を低減させるため、水素廃ガス処理系統がある。

 この系統は、体積制御タンク液相側に水素ガスを連続注入し、一次冷却材中の放射性ガスを水素ガスとともにパージするもので、パージされた放射性ガスと水素ガスは、パラジウム合金膜を用いた水素分離装置で放射性ガスと水素ガスとに分離され、分離された放射性ガスは水素廃ガス減衰タンクに長期間貯蔵する設計となっており、放射性物質の放出量を低減する役割を果たし得るものと考える。

 換気設備の系統には高性能粒子用フィルタを設置することとしているので、この系統は粒子状放射性物質を十分除去する性能を有しているものと考える。

 窒素廃ガス処理系統及び換気系統からの放射性気体廃棄物は、放射性物質の濃度を測定監視し、原子炉補助建家排気筒又は原子炉格納容器排気筒から放出されることとなっている。

 更に、放射性気体廃棄物放出による一般公衆の被曝線量は、Ⅳ.3に後述するように、放出される放射性液体廃棄物によるものと合計しても、「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」(以下「線量目標値に関する指針」という。)の線量目標値を満足している。

 以上のことから、放射性気体廃棄物処理設備の設計及び処理方法は妥当であると判断する。

2.6.3 放射性液体廃棄物処理設備

 放射性液体廃棄物処理設備は適切な濾過、蒸発処理、イオン交換、貯留、減衰及び管理を行うことにより、周辺環境に放出される放射性物質の濃度及び量を実用可能な限り低減できる設計であることが必要である。

 このため審査に当たっては、放射性液体廃棄物の発生量と処理能力、放出管理等について検討を加えた。

 放射性液体廃棄物処理設備には、処理する放射性廃液の性状に応じて、貯蔵タンク、脱塩装置、廃液蒸発装置等が設けられるが、これらの設備の性能については、処理容量等からみて発生廃液を十分処理する能力を有するものと判断する。

 また、本設備で処理された処理水は、原則として環境へは放出せず、できる限り再使用することになっている。

 なお、洗濯排水の処理水等放射能レベルの極く低いものは放出されることとなっているが、この場合は、あらかじめ放射性物質の濃度で十分低いことを確認した後、モニタによって測定監視しながら復水器冷却水と混合、希釈して放出することとしている。

 更に、放射性液体廃棄物放出による一般公衆の被曝線量は、Ⅳ.3に後述するように、放出される放射性気体廃棄物によるものと合計しても、「線量目標値に関する指針」の線量目標値を満足している。

 以上のことから、放射性液体廃棄物処理設備の設計及び処理方法は妥当であると判断する。

2.6.4 放射性固体廃棄物処理設備

 放射性固体廃棄物処理設備は、遮蔽、遠隔操作等によって従事者の被曝線量を実用可能な限り低減できる設計であることが必要である。

 また、放射性固体廃棄物貯蔵設備は、発生する放射性固体廃棄物を貯蔵する容量が十分であるとともに、放射性固体廃棄物の貯蔵による敷地周辺の空間線量率を実用可能な限り低減できる設計であることが必要である。

 このため審査に当たっては、従事者の被曝低減対策、放射性固体廃棄物の発生量、固体廃棄物貯蔵庫の貯蔵及び遮蔽能力等について検討を加えた。

 廃液蒸発装置で濃縮された廃液はドラム詰室でセメント固化ドラム詰めされるが、ドラム詰室には、従事者の被曝線量を低減できるように遮蔽壁、遮蔽扉、鉛ガラス窓等が設けられる。ドラム缶の移動及びドラム詰めは、すべて遠隔操作で行える設計となっている。使用済樹脂は、原則として約5年間タンクに貯蔵し、放射能の減衰が図られる。その後、放射能レベルが低いものについては、上記のドラム詰室においてドラム詰めも可能な設計となっている。使用済液体用フィルタ取扱装置は、使用済のカートリッジ・フィルタを遠隔操作で取り出し、鉛容器に収容した後、ドラム詰室に移送し、ドラム詰めする設計となっている。

 以上のことから、放射性固体廃棄物処理設備の設計及び処理方法は妥当であると判断する。

 一方、固体廃棄物貯蔵庫は、放射性固体廃棄物の発生量を先行炉の実績等から推定し、約10年分を貯蔵保管するため面積約3,000㎡のものが設けられることになっており、また、将来必要に応じ増設される。

 放射性固体廃棄物の貯蔵設備からの敷地周辺の直接線量及びスカイシャイン線量は、原子炉格納容器内線源等によるものと合計して、人の居住の可能性のある発電所敷地境界外において、年間5mR以下となることを目標に遮蔽等が行われ管理されることとなっている。

 なお、放射性固体廃棄物を最終的に処分する場合には、関係官庁の承認を受けることになっている。

 以上のことから、放射性固体廃棄物貯蔵設備の設計は妥当なものと判断する。

2.6.5 放射線管理施設

(1) 放射線防護設備

 放射線防護設備は、従事者等が立入場所において不必要な放射線被曝を受けないように、作業性等を考慮して所要の措置を講じた設計であることが必要である。

 このため審査に当たっては、遮蔽能力、機器の配置、放射性物質の漏洩防止対策及び換気能力について検討を加えた。

 遮蔽については、原子炉一次遮蔽、原子炉二次遮蔽、原子炉格納容器外部遮蔽(外部コンクリート壁)、補助遮蔽、燃料取扱遮蔽等が設けられるので、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時において従事者等の被曝線量は低く抑えられると考える。

 機器の配置に当たっては、高放射性物質を内蔵するタンク、ポンプ、熱交換器等は原則として1基1室とし、電磁弁及び制御盤等の保修頻度の高い電気計装品は、低放射線区域に配置される。

 また、放射線レベルが高い機器の操作は原則として遠隔自動操作となっている。

 したがって、機器の配置は、放射線レベル、保修頻度、操作方法等が考慮されており妥当なものと判断する。

 漏洩防止対策については、一次冷却材等の放射性物質濃度の高い流体が漏洩しないような弁等が可能な限り採用され、万一漏洩が生じた場合でも、汚染が拡大しないように機器が独立した区画内に配置され、また、これらの機器の周辺には堰が設けられる。更に、主要な床ドレンには漏洩検知器を設置することにより、漏洩の早期発見が可能な設計となっているので妥当なものと判断する。

 換気設備は、原子炉格納施設、原子炉補助建家、中央制御室等の各区域の換気に必要な容量を有し、作業環境の空気を清浄に保つことができる設計となっている。

 また、各換気設備のフィルタは点検及び交換ができる設計となっている。

 以上のことから放射線防護設備の設計は妥当であると判断する。

(2) 放射線監視及び管理設備

 放射線管理設備は従事者等を放射線被曝から防護するため、放射線被曝を十分に監視及び管理できるとともに、必要な情報を中央制御室又は適当な管理場所に通報できる設計であることが必要である。

 また、敷地周辺の放射線を監視するため、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時において、原子炉格納容器、放射線物質の放出経路、敷地周辺等を適切にモニタリングできることが必要である。

 これらの事項を考慮して検討を行った結果は次のとおりである。

 従事者等の放射線被曝の監視及び管理については、外部放射線量及び空気中若しくは水中の放射性物質の濃度等が「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」で定める線量及び濃度を超えるおそれのある場所を管理区域とし、人の出入管理を行うとともに、これらの区域内においては、外部放射線量及び空気中若しくは水中の放射性物質の濃度等を測定監視し、その結果を管理区域内等の諸管理に反映することとしている。

 管理区域内への立入り及び物品の搬出入を管理するための出入管理設備及び汚染管理設備が設けられるほか、エリア・モニタリング設備、プロセス・モニタリング設備、放射線サーベイ設備及び個人管理関係設備が設けられる。

 エリア・モニタリング設備は中央制御室及び管理区域内の主要箇所の空間線量率を、また、プロセス・モニタリング設備は、主要系統の放射能レベルを中央制御室に指示記録し、異常時には中央制御室及びその他必要な箇所に警報を発する設計となっているので妥当であると判断する。

 敷地周辺の放射線監視については、放出源の監視用として、原子炉施設内にプロセス・モニタリング設備、また、野外監視用として環境モニタリング設備及び環境試料測定関係設備が設けられる。

 すなわち、原子炉格納容器内雰囲気のモニタリングは、格納容器塵埃モニタ及び格納容器ガス・モニタによって連続的に行い、また、原子炉格納容器内の空気をサンプリングすることにより、放射性物質の濃度等を測定することもできる設計となっている。

 更に、放射性物質の放出経路である排気筒、液体廃棄物排水ライン等にモニタを設置するほか、必要箇所においてサンプリング測定できる設計となっている。

 野外監視用としては、発電所の周辺にモニタリング・ステーション、モニタリング・ポスト及びモニタリング・ポイントを設置し、更に、放射性物質の異常放出等があった場合にはモニタリング・カーにより放射線測定を行うことになっており、放出放射性物質の周辺環境に及ぼす影響を十分監視できるものと考える。

 以上のことから、放射線監視及び管理設備の設計は妥当であると判断する。

3 原子炉施設周辺の一般公衆の被曝線量評価

3.1 被曝線量評価の概要

 一般公衆の被曝線量評価は、平常運転時に環境に放出される放射性物質の量を推定し、これらの放射性物質による一般公衆の被曝線量が現行法令に定める許容被曝線量を下回ること、更に、「線量目標値に関する指針」に十分適合することを示すために行われている。

 放射性物質の環境への放出量については、先行炉における燃料被覆欠陥の程度等の実績を参考とし、放射性物質が原子炉から排気口又は排水口に至るまでの過程について解析し、放出経路ごとに計算されている。

 大気中に放出された放射性物質による一般公衆の被曝線量は、敷地における1年間の気象資料を用いて算出された空気中濃度をもとに計算され、また、海洋に放出された放射性物質による一般公衆の被曝線量は復水器冷却水放水口濃度を用いて計算されている。

 放射性物質の環境への放出量及び一般公衆の被曝線量の計算は、「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」(以下「線量評価指針」という。)に従って行われている。

3.2 大気中に放出される放射性物質の年間放出量

 気体廃棄物中の主な放射性物質は、一次冷却材中に含まれる核分裂生成物のうち、放射性希ガス(以下希ガスという。)及び放射性よう素(以下よう素という。)であるのでこれらの放射性物質に着目して年間放出量が計算されている。

 希ガス及びよう素の年間放出量は、燃料棒の被覆に微小欠陥があるものとし、一次冷却材保有量、浄化系の性能等を考慮して計算した一次冷却材中の放射性物質濃度(例えばよう素131の場合、2.31μCi/g)をもとに「線量評価指針」に示された方法により算定されている。この一次冷却材中の放射性物質濃度は、先行炉の実績より見て、十分厳しいものである。

 このほかにも一次冷却材中及び原子炉容器外周部の空気が中性子照射を受けて生成するアルゴン41等の放射化生成物が放出されるが、これらの放射化生成物は生成量が少ないこと、あるいは半減期が短いことなどにより、環境への放出量は極めて少ないことが示されている。

 なお、水素廃ガス処理系統は放射性物質の放出量を低減する効果があるが、本評価では無視して計算されている。

 年間放出量の計算は、以下の項目に分けて行われている。

(1) ガス減衰タンクから放出される希ガス及びよう素

 ガス減衰タンクに収集される気体廃棄物は、原子炉の運転制御に伴って抽出される一次冷却材(以下一次冷却材抽出水という。)、格納容器冷却材ドレン及び補助建家冷却材ドレン(以下一次系機器ドレンという。)を処理する過程で分離された気体、並びに冷却材貯蔵タンクなどに一次冷却材抽出水及び一次系機器ドレンが流入する際に移行する窒素を主体とするカバー・ガスである。

 この場合、ガス減衰タンクに移行する希ガスの量は、ほう酸回収装置で処理される一次冷却材抽出水、一次系機器ドレン及び冷態停止時における脱ガス操作中の一次冷却材にそれぞれ含まれるすべての希ガスがガス減衰タンクに収集されるという「線量評価指針」に示された方法により計算されている。

 ガス減衰タンクから放出される希ガスの量は、ガス減衰タンクに移行した希ガスがすべてガス減衰タンクに30日間貯留されるものとして計算されているが、このガス減衰タンクの貯留期間の設計上の能力は45日であり安全側に評価されている。

 なお、よう素についてはガス減衰タンクに移行する量も少なく、またガス減衰タンクの減衰効果を考慮すると、環境への放出量は極めて少なくなるので放出量の計算に当たっては無視されている。

(2) 原子炉停止時の原子炉格納容器換気及び原子炉格納容器減圧時の排気により放出される希ガス及びよう素

 原子炉停止時の原子炉格納容器換気及び原子炉格納容器減圧時の排気により放出される気体廃棄物中の放射性物質は、機器、弁等から原子炉格納容器内に漏洩した一次冷却材中に含まれる希ガス及びよう素である。

 この換気及び減圧時の排気により放出される希ガス及びよう素は、一次冷却材の漏洩率、漏洩一次冷却材中に含まれる放射性物質が空気中に移行する割合等について、「線量評価指針」のパラメータを用いており、これに停止時の換気回数、減圧時の排気量、原子炉格納容器内での減衰時間等を考慮して計算されている。このうち、換気回数は最近の運転実績等を参照して年4回としている。

(3) 原子炉補助建家換気により放出される希ガス及びよう素

 原子炉補助建家換気により放出される気体廃棄物中の放射性物質は、原子炉停止時の原子炉格納容器換気及び原子炉格納容器減圧時の排気の場合と同様に、原子炉補助建家内に漏洩した一次冷却材中に含まれる希ガス及びよう素である。

 この換気により放出される希ガス及びよう素は、一次冷却材の漏洩率、原子炉補助建家内に漏洩した一次冷却材に含まれる放射性物質が空気中に移行する割合として「線量評価指針」のパラメータを用い、原子炉補助建家内における減衰効果を無視して計算されている。

(4) 定期検査時に放出されるよう素

 定期検査時には、一次冷却材中に含まれているよう素のうちよう素131が機器の保修等に伴って放出されると考えられる。ここでは。「線量評価指針」に示されている方法により、原子炉停止時の原子炉格納容器換気、原子炉格納容器減圧時の排気及び原子炉補助建家換気から放出されるよう素131の合計値の1/4が定期検査時に放出されるものとして計算されている。

 以上のようにして計算された希ガスの年間放出量は約22,000Ci(γ線実効エネルギ0.045MeV)、よう素の年間放出量は、よう素131約0.85Ci、よう素133約0.56Ciである。

3.3 海洋中に放出される放射性物質の年間放出量

 液体廃棄物は、一次冷却材抽出水、各建家の機器からのドレン、床ドレン、防護衣類等を除染する際に生ずる洗濯排水等であり、これらのなかに含まれる主な放射性物質は、一次冷却材中に漏洩した核分裂生成物と一次冷却材中に含まれる不純物が中性子照射を受けて生成した放射化生成物である。発生した液体廃棄物は、その性状に応じて分離回収された後、液体廃棄物処理設備で濾過、脱塩、蒸発濃縮などの処理が行われ、処理水は放射性物質の濃度、水質等を考慮して再使用、再処理又は所外放出を行うこととなっている。

 環境に放出される液体廃棄物の量は、処理モード、処理設備の性能、処理水の再使用の割合等を考慮して計算されているが、その計算に当たっては先行炉の運転実績が参考にされている。

 この結果、液体廃棄物の年間放出量は約4,000m3で、そのなかに含まれる放射性物質の量は、トリチウムを除き約0.2Ciである。

 液体廃棄物中の放射性物質による被曝線量の計算を行うに当たっては、処理水の再使用の条件等を考慮して、放射性物質の年間放出量は、トリチウムを除き1Ciとし、トリチウムについては先行炉の実績等を参考として1,500Ciが用いられている。

3.4 被曝線量の計算

3.4.1 気体廃棄物中の希ガスによる全身被曝線量

 気体廃棄物中の希ガスによる全身被曝線量の計算は排気筒から放出され、拡散移動する放射性雲からのγ線による外部全身被曝線量を対象に行われている。

 計算に当たってはⅣ.3.2に前述した希ガスの年間放出量及びγ線の実効エネルギを基礎にⅣ.1に前述した大気拡散の解析結果を用い、かつ、連続放出、間けつ放出の放出モードを考慮して「線量評価指針」に示された方法により、敷地境界外における希ガスのγ線による全身被曝線量が計算されている。

 この結果、希ガスのγ線による全身被曝線量は、敷地境界外の最大となる場所において年間約0.2mremである。

3.4.2 液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量

 液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量の計算は放射性物質が海産物を介して人体に摂取される場合の内部全身被曝線量を対象にして行われている。

 人体の放射性物質の摂取率は、海水中の放射性物質濃度、海産物の濃縮係数、海産物摂取量等を考慮して、「線量評価指針」に示された方法により計算されている。

 この場合、海水中の放射性物質濃度はⅣ.3.3に前述した放射性物質の年間放出量、「線量評価指針」に示されている核種組成及び復水器冷却水の年間放出量をもとに算出された復水器冷却水放水口濃度が用いられている。

 この結果、液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量は、年間約0.2mremである。

3.4.3 甲状腺被曝線量の計算

 甲状腺被曝線量の計算は気体廃棄物中のよう素及び液体廃棄物中のよう素に着目し、これらが呼吸、葉菜、牛乳及び海産物を介して、成人、幼児及び乳児にそれぞれ摂取される場合の内部甲状腺被曝線量を対象にして行われている。

 人体のよう素摂取率は、空気中又は海水中のよう素濃度、呼吸率、空気中のよう素が葉菜や牛乳に移行する割合、海産物の濃縮係数、食物摂取量等を考慮して「線量評価指針」に示された方法により計算されている。

 この場合、よう素の空気中濃度は、Ⅳ.3.2に前述したよう素の年間放出量をもとにⅣ.1に前述した大気拡散の解析結果を用いて求め、また、海水中のよう素濃度は、復水器冷却水放水口濃度が用いられている。

 甲状腺被曝線量の計算に当たっては、人体に摂取されたよう素の甲状腺に移行する割合が、摂取食物中に含まれる安定よう素の量によって変化することを考慮し、各被曝経路における安定よう素摂取量に応じて行われている。

 この結果、よう素に起因する甲状腺被曝線量は、敷地境界外の最大となる場所において年間約3.1mremである。この線量は幼児がよう素を呼吸、葉菜及び牛乳を介して摂取し、かつ、海藻類を除く海産物を介して摂取するとした場合の値である。

3.5 評価

 前述の計算方法は、「線量評価指針」に示されたものと同一のものであり、また同指針に定められていない条件も原子炉施設の設計、運転実績より見て、概ね、被曝線量が高めになるように選定されていると考えられる。

 このようにして計算された被曝線量の値は、全身被曝線量については年間約0.4mrem、甲状腺被曝線量については年間約3.1mremであり、本原子炉施設は「線量目標値に関する指針」を満足しているものと判断する。

 以上の評価された被曝線量のほかに、原子炉施設からの直接線量及びスカイシャイン線量並びにβ線による皮膚被曝線量、海水浴中に受ける被曝線量、大気中に放出された粒子状放射性物質に起因する被曝線量等がある。

 直接線量及びスカイシャイン線量は、人の居住の可能性のある発電所敷地境界外で年間5mR以下となることを目標に抑えられる。また、この線量は線源が固定されているため、距離が離れるに従って急激に減少するという性質を考慮すると、一般公衆の被曝線量に寄与する地点は敷地境界近傍に限られる。

 また、β線による皮膚被曝線量等については、「発電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被ばく線量評価について」に示すように、一般に極めて小さい寄与しか与えない。

 したがって、これらによる線量などを考慮しても、周辺監視区域外における被曝線量は、現行法令に定める許容被曝線量(年間500mrem)を十分下回っていると判断する。

4 運転時の異常の過渡変化の解析

 運転時の異常な過渡変化とは、原子炉の運転状態において原子炉施設寿命期間中に予想される機器の単一故障又は誤動作あるいは運転員の単一誤操作によって、原子炉施設が通常運転状態から外れる場合をいう。

 これらの原因になるものとしては、
(1) 弁1個の誤開放又は誤閉止
(2) 単一の機器の誤始動又は誤停止
(3) 単一の制御機器の誤動作
(4) 単一の電気系故障
(5) 単一の運転員誤操作
が考えられるが、これらの原因により原子炉圧力、一次冷却材温度、一次冷却材流量、原子炉出力及び炉心反応度に変動を生じる。

 このような運転時の異常な過渡変化時においても、原子炉の炉心及びそれに関連する一次冷却系、計測制御系及び安全保護系は、燃料の許容設計限界を超えることなく、また、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性を確保できるよう、それぞれの機能を果たし得るような設計になっていることが必要である。

 これらプラント各系統の設計の妥当性を確認するため、以下に示す項目を具体的な判断基準として運転時の異常な過渡変化の解析の評価を行った。

(1) 燃料の健全性に対しては、

① 最小DNBRが1.30以上であること。

② 燃料ペレットの中心溶融が起こらないこと。

③ 急激な反応度増加をもたらすような過渡現象に対しては、非断熱計算による燃料ペレット保有エンタルピの最大値が許容設計限界値(内圧が問題となる場合は、110cal/g・UO2、その他の場合は170cal/g・UO2)を超えないこと。

(2) 原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性に対しては、過渡最大圧力が最高使用圧力の1.1倍の圧力(192.5㎏/㎝2G)を超えないこと。

 以下に示す申請者の解析においては、運転時の異常な過渡変化として、反応度又は出力分布の異常、一次冷却材の流量又は保有量の異常及び二次冷却系による熱除去の異常を生じる過渡変化に分類し、それぞれに対して過渡変化の結果が厳しくなる事象及び条件を選定している。なお、機器の設計の妥当性を評価するために運転時の異常な過渡変化の定義を超えて想定されている事象もこの中に含まれている。

 これらの事象の選定は、炉心への種々の影響を生じる過渡変化を代表し、包含するものが選ばれていることから、妥当であると判断する。

4.1 反応度又は出力分布の異常を生じる過渡変化

 反応度又は出力分布の異常を生じる原因としては、制御棒クラスタの移動、ほう素濃度の変化及び炉心温度の変化すなわち冷水の導入が考えられる。

4.1.1 未臨界状態からの制御棒クラスタ引抜き

 制御棒クラスタ制御系又は制御棒クラスタ駆動装置の誤動作などにより、御制棒クラスタが連続的に引抜かれると、急速に中性子束が上昇する。

 解析では、制御棒クラスタ引抜き前の原子炉は臨界状態にあり、出力は定格値の10-13としている。この状態から、最大反応度効果を有する2つの制御棒クラスタ・バンクが同時に最大速度で炉心から連続して引き抜かれた場合として8.6×10-4(Δk/k)/sで反応度が添加されたと仮定している。

 解析の結果によれば、中性子束は約7.2秒後に出力領域中性子束高(低設定)原子炉スクラムの設定点に達し、原子炉は自動停止される。その間、中性子束の上昇は、負のドプラ係数による反応度帰還効果によって過大になる以前に抑えられる。

 熱流束の増加及び燃料温度の上昇は小さく、過渡期間中の最小DNBRは1.52であり燃料被覆の損傷こ起こらず、また、燃料中心温度は最高1,118℃であり燃料溶融も起こらない。

 また、非断熱計算による熱料ペレット保有エンタルピの最大値は64cal/g・UO2であり、170cal/g・UO2より十分小さいので、燃料の健全性は損なわれない。

 一次冷却材温度の上昇は少なく、原子炉圧力は最大171㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性には影響を与えない。

4.1.2 出力運転中制御棒クラスタ引抜き

 Ⅳ.4.1.1と同様な事態が定格出力運転中に生じた場合を仮定している。

 解析では、反応度添加率として、最大の反応度効果を有する2つの制御棒クラスタバンクが同時に最大速度で引き抜かれる場合として8.6×10-4(Δk/k)/sを仮定しているが、この最大反応度添加率のケースが必ずしも最悪のケースとならないので、更に、感度解析の結果最も厳しい最小DNBRを与える5.0×10-5(Δk/k)/sをも仮定している。

 解析の結果によれば、出力領域中性子束高(高設定)原子炉スクラム信号又は過大温度・ΔT高原子炉スクラム信号によって、原子炉は上述の2ケースの場合、それぞれ約1.9秒後及び約27秒後に自動停止され、原子炉圧力及び一次冷却材平均温度の上昇は抑制される。

 過渡期間中の最小DNBRはそれぞれ1.44及び1.34であり燃料被覆の損傷は起こらず、また、燃料中心温度はそれぞれ最高2,196℃及び2,348℃であり燃料溶融も起こらないので、燃料の健全性は損なわれない。また、原子炉圧力は最大162㎏/㎝2G及び164㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は損なわれない。

4.1.3 制御棒クラスタ落下及び不整合

 制御棒クラスタ駆動装置又はその制御系などの故障によって制御棒クラスタが引抜き位置から炉心内に落下すると、局部的に原子炉出力が減少し出力分布が悪化する。

 解析では、定格出力運転中に、実際の制御棒クラスタ1本の最大反応度効果を上回る反応度効果一2.5×10-3Δk/kを有する制御棒クラスタ1本が落下すると仮定している。この場合、中性子束変化率高原子炉スクラム信号により原子炉は自動停止する。しかし、反応度効果が小さいと自動停止しない場合もあるので、この解析では自動停止せずに原子炉出力は制御棒クラスタ制御系により定格出力に復帰すると仮定している。

 解析の結果によれば、減少した原子炉出力は他の制御棒クラスタの自動引抜きによって補償され、過渡変化の生じる前の出力に復帰する。これにより炉心内出力分布が変化するが、最小DNBRは1.57であり燃料被覆の損傷は起こらず、燃料中心温度の上昇も小さく、燃料の健全性は損なわれない。また、原子炉圧力は最大162㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は損なわれない。

 また、制御棒クラスタ駆動装置、同駆動回路の故障により、バンク内の制御棒クラスタが不揃いに駆動された場合には、炉心内出力分布が悪化する。

 解析では、原子炉が定格出力運転時にバンクD制御棒クラスタが挿入限界にあり、内1本の制御棒クラスタが全引抜き位置にあるものと仮定している。

 解析の結果によれば、最小DNBRは1.45であり燃料被覆の損傷は起こらず、また、燃料中心温度の上昇も小さく、燃料の健全性は損なわれない。

4.1.4 ほう素の異常な希釈

 化学体積制御設備の誤動作により純水が一次冷却材中に注入されると、炉心内のほう素濃度が下がり反応度が添加される。

 解析では、一次冷却材中のほう素濃度を起動時においては2,000ppm、出力運転時においては1,500ppmとするとともに、起動時においては一次系補給水ポンプ2台運転時の全容量、出力運転時においては充てん/高圧注入ポンプ3台運転時の全容量の純水が一次冷却材中に注入されるものと仮定している。

 解析の結果によれば、起動時の場合は、希釈が始まってから臨界に至るまでの間に運転員が線源領域炉停止時中性子束高の警報により異常状態を検知し、適切な対策をとることができる。

 出力運転時で、制御棒クラスタを手動制御している場合は、希釈により反応度が添加され、過大温度・ΔT高原子炉スクラム信号により原子炉は自動停止される。この場合の反応度添加率はⅣ.4.1.2の解析の範囲内にあることから、この過渡変化が問題になることはない。

 出力運転時で、制御棒クラスタが自動制御の場合は、希釈に伴う反応度添加を補償するため制御棒クラスタが挿入される。希釈が進むと制御棒クラスタが挿入限界に達し警報が発せられ、更に希釈が進んで停止余裕を失うに至るまでに運転員が適切な対策をとることができるので問題ない。

4.1.5 一次冷却系停止回路誤起動に伴う冷水導入

 仮に、一次冷却材ポンプ2台で部分負荷運転を行っているとしたときに、もうひとつの停止回路を起動した場合、停止回路を逆流していた低温の冷却水が急速に炉心へ導入され、減速材密度係数の効果により正の反応度が添加され、原子炉出力が上昇する。

 解析では、原子炉を定格の62%出力(一次冷却材ポンプ2台運転時の最高原子炉出力)で運転中に、停止している一次冷却材ポンプが誤起動し、停止回路中の流量が20秒で定格に達すると仮定している。

 解析の結果によれば、出力領域中性子束高(高設定)原子炉スクラム信号によって原子炉は自動停止される。最小DNBRは1.33であり燃料被覆の損傷は起こらず、また、燃料中心温度は最高2,300℃であり燃料溶融も起こらないので、燃料の健全性は損なわれない。また、原子炉圧力は最大165㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は損なわれない。

4.2 一次冷却材の流量又は保有量の異常を生じる過渡変化

 一次冷却材流量の異常を生じる原因としては、一次冷却材ポンプ1台の故障が考えられる。また、一次冷却材保有量の異常を生じる原因としては、加圧器安全弁の誤開放が考えられる。

4.2.1 一次冷却材流量部分喪失

 原子炉出力運転中に、一次冷却材ポンプ1台が故障などにより停止すると、炉心の冷却能力が低下する。

 解析では、定格出力運転中に一次冷却材ポンプ3台のうち1台が停止し、流量がポンプの慣性によって徐々に減少すると仮定している。この場合、一次冷却材ポンプ遮断器開等の原子炉スクラム信号の発生も考えられるが、厳しい結果を与える一次冷却材流量低原子炉スクラム信号により原子炉は自動停止されると仮定している。

 解析の結果によれば、最小DNBRは1.59であり燃料被覆の損傷は起こらず、また、燃料中心温度の上昇も小さく、燃料の健全性は損なわれない。また、原子炉圧力は最大158㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性も損なわれない。

4.2.2 一次冷却系の異常な減圧

 加圧器安全弁などが何らかの原因により全開し続けるとすると、一次冷却材の保有量が減少し一次冷却系の圧力が降下するため、中性子束が減少する。自動運転中はこの中性子束の減少を補償するため制御棒クラスタが引き抜かれる。

 解析では、定格出力運転時に加圧器安全弁1個が定格容量の120%で吹き出すものと仮定している。

 解析の結果によれば、一次冷却材温度の低下による制御棒クラスタの自動引抜きにより出力はわずかに上昇するが、過大温度・ΔT高原子炉スクラム信号により原子炉は自動停止される。この場合、最小DNBRは1.44であり燃料被覆の損傷は起こらず、また、原子炉出力は定格値の103%にとどまり燃料中心温度の上昇も小さく、燃料の健全性は損なわれない。また、原子炉圧力は降下するのみである。

4.3 二次冷却系による熱除去の異常を生じる過渡変化

 二次冷却系による熱除去の異常を生じる現象としては、蒸気流量に起因するもの、給水流量に起因するもの及び電源系に起因するものがある。

4.3.1 蒸気流量過大に伴う冷水導入

 主蒸気ダンプ弁、蒸気加減弁、主蒸気逃し弁又は主蒸気安全弁の誤動作などにより蒸気流量が過大になると、一次冷却材の温度が低下し反応度が添加される。また、制御棒クラスタ制御系が自動運転であると、更に反応度が添加される。

 解析では、定格出力運転中に上記の弁のうちの1個が全開となった場合の蒸気流量増加を上回る値として、蒸気流量が10%急増すると仮定している。

 解析の結果によれば、制御棒クラスタ制御系が自動運転であって、減速材密度係数が最小又は最大のいずれの場合でも、最小DNBRは1.47であり、燃料被覆の損傷は起こらず、また、原子炉出力は112%にとどまり、燃料中心温度の上昇も小さく、燃料の健全性は損なわれない。また、原子炉圧力は最大157㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は損なわれない。

4.3.2 二次冷却系の異常な減圧

 主蒸気ダンプ弁、主蒸気逃し弁又は主蒸気安全弁のうちの1個が誤って全開し蒸気が放出されると、一次冷却材の温度が低下し反応度が添加される。

 解析では、出力運転時に比較し保有エネルギが少なく除熱の影響が大きい高温停止状態で、上記の弁のうち最大容量の弁1個が全開したと仮定している。

 解析の結果によれば、蒸気放出に伴い一次冷却材が冷却されると、炉心には温度低下により反応度が添加されるが、加圧器水位低信号及び原子炉圧力低信号の一致により高圧注入系が動作し高濃度のほう酸水が炉心に注入されるので、原子炉は未臨界に保たれる。したがって、原子炉出力の上昇がないことから最小DNBRの低下及び燃料中心温度の上昇が問題となることはない。

4.3.3 蒸気発生器への過剰給水に伴う冷水導入

 蒸気発生器の給水制御弁の誤動作などによって給水が過剰になったとすると、一次冷却材の温度が低下し反応度が添加される。

 解析では、定格出力運転中に給水制御弁1個が全開したと仮定している。

 解析の結果によれば、蒸気発生器水位異常高信号によりタービンがトリップし、引き続いて原子炉は自動停止される。最小DNBRは1.65であり、燃料被覆の損傷は起こらず、燃料中心温度の上昇も小さく、燃料の健全性は損なわれない。原子炉圧力も最大159㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は損なわれない。

4.3.4 蒸気発生器二次側給水設備の故障又は誤動作

 主給水ポンプ又は復水ポンプの電源喪失あるいは給水設備の誤動作などによって蒸気発生器への給水が停止すると、熱除去能力が低下し、一次冷却材温度及び圧力が上昇する。

 解析では、定格出力運転時に外部電源が喪失して、主給水ポンプ2台が停止し、同時に一次冷却材ポンプも停止すると仮定している。また、蒸気発生器の初期水位は、狭域水位検出器の下端水位にあると仮定している。

 解析の結果によれば、蒸気発生器水位が急減し、蒸気発生器水位異常低原子炉スクラム信号により原子炉は自動停止され、非常用ディーゼル発電機によって電動補助給水ポンプが自動起動され水位は回復する。また、一次冷却材が各冷却回路を自然循環することにより冷却は継続される。また、原子炉圧力は最大165㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は損なわれない。なお、この過渡変化では原子炉出力も上昇せず、自然循環による除熱とあいまって燃料の健全性は損なわれない。

4.3.5 負荷喪失

 送電系統の故障、タービン又は発電機の故障、タービン制御系統の誤動作などにより急激な負荷減少が生じると原子炉圧力が上昇する。

 解析では、定格出力運転時に外部負荷の完全喪失が起こると仮定している。この場合、タービンはトリップするが、タービン・トリップ信号による原子炉の自動停止は起こらないものとし、かつ、主蒸気ダンプ弁及び主蒸気逃し弁は作動しないと仮定している。

 解析の結果によれば、蒸気発生器二次側の圧力は上昇し、主蒸気安全弁が動作する。一方、一次冷却材温度及び圧力も上昇し、過大温度・ΔT高原子炉スクラム信号又は原子炉圧力高原子炉スクラム信号により原子炉は自動停止される。この場合、加圧器の圧力抑制効果が働くとすると最小DNBRは1.63、原子炉圧力は最大164㎏/㎝2Gである。また、同効果を無視すると最小DNBRは初期値を下回ることはなく、原子炉圧力は最大178㎏/㎝2Gである。いずれの場合にも原子炉出力は上昇しないので、燃料中心温度の上昇は小さく、燃料及び原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は損なわれない。

4.3.6 電源喪失

 送電系統又は所内電気設備の故障などにより所内補機の動力が喪失すると原子炉施設の運転状態が乱される。ここではこの最も厳しい状態として外部電源が喪失した場合を仮定している。

 この過渡変化の初期は、一次冷却材ポンプが3台ともトリップするので、Ⅳ.5.2に後述する結果とほぼ同じである。また、その後の過渡状態は、給水ポンプもトリップするので、Ⅳ.4.3.4に前述した過渡変化と類似の経過となるが、蒸気発生器水位の初期状態がこの事象では通常運転時の水位を考えており、保有水量が多いため、Ⅳ.4.3.4に前述した結果よりも厳しくなることはない。

 したがって、燃料及び原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は損なわれない。

4.4 評価

 以上の検討の結果から、解析では種々の厳しい仮定をおいているにもかかわらず、本原子炉は、加圧水型原子炉が持つ自己制御性と、種々の安全保護機能の動作があいまって、運転中に起こる異常な過渡変化を安定に制御し、燃料及び原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性を保持することが確認された。

 すなわち、最小DNBRは最も厳しい過渡現象である一次冷却系停止回路誤起動に伴う冷水導入でも1.33であり、制限値1.30を下回ることはない。

 また、燃料中心温度は、最も厳しい過渡変化である出力運転中制御棒クラスタ引抜き時においても最高2,348℃であり、燃料ペレットの融点を上回ることはない。

 更に、急激な反応度増加を伴う過渡現象として取り上げた未臨界状態からの制御棒クラスタ引抜きの場合の非断熱計算による燃料ペレット保有エンタルピの最大値は64cal/g・UO2であり、許容設計限界値を下回っている。

 したがって、いかなる運転時の異常な過渡変化時においても、燃料の健全性は損なわれないものと判断する。

 また、原子炉圧力が最も高くなる負荷喪失においてもその最大値は178㎏/㎝2Gにとどまり、最高使用圧力の1.1倍の圧力(192.5㎏/㎝2G)を下回っており、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は保たれるものと判断する。

5 事故解析

 ここで想定する事故とは、運転時の異常な過渡変化を超える異常状態であって、現実に起こる可能性は極めて小さいが、事故の拡大を防止し、放射性物質の放出を抑制する等の原子炉施設の安全性を評価する観点から各種の安全防護機能の妥当性を検討するためのものである。

 事故の想定に当たっては、原子炉施設に内在する放射性物質の量や周辺環境に漏洩する経路等を考慮して発生事象を系統的に分類し、代表的な事象を選定する必要がある。

 以下に示す申請者の解析においては、
(1) 出力分布の異常を生じる事故については燃料集合体誤装荷事故
(2) 一次冷却材流量の減少を生じる事故のうち減少量が最大となる事故については一次冷却材流量喪失事故
(3) 一次冷却材流量の減少を生じる事故のうち減少率が最大となる事故については一次冷却材ポンプ軸固着事故
(4) 反応度の異常を生じる事故については制御棒クラスタ飛出し事故
(5) 一次冷却材保有量の減少を生じ、原子炉格納容器内へ一次冷却材を放出する事故については一次冷却材喪失事故
(6) 一次冷却材保有量の減少を生じ、原子炉格納容器外へ一次冷却材を放出する事故については蒸気発生器伝熱管破損事故
(7) 二次冷却系による熱除去の異常を生じる事故については主蒸気管破断事故
(8) 機器取扱事故については燃料取替取扱事故
(9) 放射性廃棄物廃棄施設の事故については水素廃ガス減衰タンクの破損事故
が取り上げられている。

 これら事故事象の分類、代表事故の選定は、事故の発生原因、事故経過及び結果からみて、妥当なものと判断する。

 なお、これらの事故は、以下の各項目でも述べるように、その発生の可能性が極めて小さくなるように十分な防止対策がとられることを確認した。

5.1 燃料集合体誤装荷事故

 何らかの原因で燃料集合体の誤装荷が行われ、原子炉が運転されると、出力分布が設計値からはずれる。

 事故の想定としては、燃料集合体が計画と異なる位置に装荷される場合を考える。

 解析の結果によれば、零出力運転時の炉内核計装による出力分布測定で、誤装荷の影響が容易に確認できる。

 また、出力上昇試験時のいくつかの段階でも出力分布測定により誤装荷の有無を確認できるので、適切な措置をとることができる。

 この事故の発生を防止するため以下のような対策がとられるので、事故発生の可能性は極めて小さいものと考える。

(1) 燃料は、設計、製作及び検査の各段階で、1本の燃料棒又は1本の燃料集合体に設計と異なる濃縮度の燃料ペレット又は燃料棒が混入されないよう配慮される。

(2) 燃料を装荷する際には、新燃料貯蔵庫又は使用済燃料ピットから出す時及び炉心に装荷された時に各々の燃料集合体番号、炉心位置などが確認される。

5.2 一次冷却材流量喪失事故

 原子炉出力運転中に何らかの原因で、一次冷却材ポンプ3台停止が起きた場合、一次冷却材流量の完全喪失を引き起こし、炉心の冷却能力が低下する。

 このような事故に対して一次冷却材ポンプの慣性を大きくして、流量の急速な減少が生じないよう設計がなされている。事故の想定としては、電源喪失により一次冷却材ポンプが3台とも停止する場合を考える。

 事故解析に当たっては、次の前提条件が用いられている。

(1) 原子炉は、定格出力の102%で運転しているものとする。

(2) 一次冷却材ポンプの慣性モーメントは小さ目の値として3,110㎏・㎡とする。

 解析の結果によれば、原子炉は事故発生後直ちに一次冷却材ポンプ電源電圧低原子炉スクラム信号で自動停止する。原子炉圧力は最大159㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は保たれ、また、最小DNBRは1.46にとどまるので、炉心の冷却能力が失われることはない。

 この事故の発生を防止するため以下のような対策がとられるので、事故発生の可能性は極めて小さいものと考える。

(1) 一次冷却材ポンプ3台は、発電機側と送電線側のいずれからも受電可能な所内母線に接続され、発電機側の電源が遮断されると、直ちに送電線側に切り替えられるよう設計される。

(2) 一次冷却材ポンプ3台の接続される母線は、単一母線故障で2台以上のポンプ喪失が起こらないよう分離される。

5.3 一次冷却材ポンプ軸固着事故

 原子炉出力運転中に何らかの原因で、一次冷却材ポンプ1台が急停止すると、一次冷却材流量が急減し、炉心の冷却能力が低下し、一次冷却材温度、燃料被覆温度及び原子炉圧力が上昇する。

 事故の想定としては、何らかの原因によりポンプ1台の回転軸が固着する場合を考える。

 事故解析に当たっては、次の前提条件が用いられている。

(1) 原子炉は、定格出力の102%で運転しているものとする。

(2) 原子炉圧力の評価では、その初期値を定常運転時の最大圧力とし、原子炉圧力の低減効果を持つ加圧器スプレイ、加圧器逃し弁及び主蒸気ダンプ弁は作動しないものとする。

(3) 過渡時には、燃料被覆温度が高くなるように、ギャップ熱伝達率を大きくとる。

 解析の結果によれば、原子炉は一次冷却材流量低原子炉スクラム信号で自動停止する。原子炉圧力は最大184㎏/㎝2Gであり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は保たれる。最小DNBRは1.30を下回るが、その燃料棒本数の割合は約5%であり、燃料被覆温度は最高1,138℃にとどまり、水-ジルコニウム反応による酸化量も少ないので、炉心の冷却能力が失われることはない。

 この事故の発生を防止するため、以下のような対策がとられるので、事故発生の可能性は極めて小さいものと考える。

(1) 一次冷却材ポンプは、長期間の運転に耐えるよう設計し、品質管理や運転保守を十分に行うことにより、一次冷却材ポンプ故障の可能性が小さくなるよう配慮される。

(2) 一次冷却材ポンプの軸受温度、軸受油等の異常を検知すると警報が出され、運転員のポンプ停止操作により軸固着が防がれる。

5.4 制御棒クラスタ飛出し事故

 原子炉運転中に何らかの原因で制御棒クラスタ駆動装置圧力ハウジングが破断した場合、制御棒クラスタは大きな圧力差のため短時間の内に炉心から飛び出し、急激な反応度添加と厳しい出力分布の歪をもたらし、燃料被覆の損傷の可能性があり、かつ、一次冷却材の流出を伴う。

 このような事故に対して、制御棒クラスタは挿入限界の設定により挿入を制限して、所要の反応度停止余裕を確保するとともに、制御棒クラスタ飛出しによる過大な反応度の添加が生じないように設計がなされている。

 事故の想定としては、原子炉臨界状態で破断したハウジング内の制御棒クラスタ1本が炉心から完全に飛び出す場合を考える。

 事故解析に当たっては、次の前提条件が用いられている。

(1) 原子炉は、サイクル初期及びサイクル末期に対し、各々全出力及び零出力状態で運転しているものとする。

(2) 飛出し制御棒クラスタの反応度効果は、高温全出力のケースには、挿入限界位置、高温零出力のケースには、完全挿入位置から飛び出す場合のものとして評価する。

 解析の結果によれば、まず零出力運転の場合には、原子炉は出力領域中性子束高(低設定)原子炉スクラム信号で自動停止する。燃料ペレット保有エンタルピは中性子束の急激な上昇によって増大するが、断熱計算によるピーク出力部燃料ペレット保有エンタルピの最大値は135cal/g・UO2、また、非断熱計算による燃料ペレット保有エンタルピの最大値は152cal/g・UO2となり、反応度事故における圧力波発生の限界値としている230cal/g・UO2より低い。更に、原子炉圧力の最大値は174㎏/㎝2Gにとどまる。

 次に、全出力の場合には、原子炉は出力領域中性子束高(高設定)原子炉スクラム信号で自動停止する。中性子束の上昇により燃料温度が上昇し、燃料中心温度の最高値は2,642℃、非断熱計算による燃料ペレット保有エンタルピの最大値は172cal/g・UO2となる。また、最小DNBRが1.30を下回る燃料棒の割合は約12%となる。更に、原子炉圧力の最大値は169㎏/㎝2Gにとどまる。

 したがって、「発電用軽水型原子炉の反応度事故に対する評価手法について」の判断基準に照らしても、炉心の冷却能力を損なうような燃料の大破損は起こらず、原子炉冷却材圧力バウンダリの新たな破損も起こらない。

 また、破損したハウジングから流出する一次冷却材量は、一次冷却材喪失事故に比べて少なく、原子炉スクラムとあいまって、非常用炉心冷却系の作動により炉心は未臨界状態に維持され十分に冷却される。

 この事故の発生を防止するため以下のような対策がとられるので、事故発生の可能性は極めて小さいものと考える。

(1) 制御棒クラスタ駆動装置圧力ハウジングは、各種の応力を考慮し、厳しい条件を適用した設計、水圧試験による耐圧性の実証及び十分な強度と靭性を有するステンレス鋼の使用などにより、ハウジング破損の可能性が小さくなるよう配慮される。

(2) 過渡状態での一次冷却系の過圧を防止するため、加圧器逃し弁及び加圧器安全弁などの設備が設けられる。

5.5 一次冷却材喪失事故

 以下に述べる一次冷却材喪失事故の解析は、非常用炉心冷却系、原子炉格納容器等の設計の妥当性を検討するためのものである。

5.5.1 非常用炉心冷却系の性能解析

 何らかの原因で一次冷却系の配管の破損が生じると、炉心内の冷却材が流出する。この場合、冷却水が十分補給できないと、炉心の冷却が行えなくなり、放置すれば崩壊熱による燃料の過度の温度上昇が起こり、核分裂生成物が燃料から放出される可能性がある。このような事故に対処するため、原子炉には非常用炉心冷却系が設けられているが、その機能及び性能を評価するため、一次冷却材喪失事故を以下のような想定する。

 事故の想定としては、一次冷却材配管の完全両端破断から、これに接続されている小口径配管が破断を起こす場合までを考える。

 事故の解析に当たっては、「ECCS安全評価指針」に従い、次の前提条件が用いられている。

(1) 事故前の原子炉は、定格出力の102%で長時間運転しているものとして、炉心の保有エネルギ及び崩壊熱を計算する。

(2) 外部電源は喪失するものとし、電源を必要とする非常用炉心冷却系の作動は、非常用ディーゼル発電機の電力が供給されるまでの間遅延するものとする。

(3) 非常用ディーゼル発電機及び工学的安全施設を構成する機器の最悪の単一故障を仮定する。

 また、解析モデルについても、「ECCS安全評価指針」を満足するものを使用している。

 配管からの冷却材流出量の程度によって原子炉水位及び原子炉圧力の低下の割合も変化するため、配管の破断面積によって非常用炉心冷却系の作動状態が異なる。

 このため、小破断から最大口径の配管破断まで、各種の破断面積について解析が行われている。一次冷却材喪失事故想定時に、燃料の健全性を評価するものとして、最高燃料被覆温度に着目し、また炉内での水-ジルコニウム反応の割合及び長時間の炉心冷却能力についても検討を行った。

 解析の結果によれば、低温側一次冷却材配管の完全両端破断に対し放出係数0.4を想定した場合が、燃料被覆温度の上昇及び水-ジルコニウム反応の割合が最大となるので、以下、この場合について申請者が行った解析の具体的条件、経過及び結果を示す。

(1) 低温側配管が完全両端破断すると、破断口から一次冷却材が急激に流出し、原子炉格納容器内の圧力に等しくなる約32秒後までブローダウンが持続する。

(2) 高圧及び低圧注入系は、非常用炉心冷却系作動信号により作動するが、外部電源喪失を仮定しているので、非常用ディーゼル発電機の起動シーケンス等から事故発生の約32秒後に作動する。

 なお、蓄圧注入系は、原子炉圧力が蓄圧タンクの保持圧力を下回る事故発生の約18秒後に作動するが、ダウンカマ部で注入水が落下できるようになる時点までに注入した水は、ブローダウン後の原子炉水位上昇には無効であると仮定する。

(3) 機器の単一故障の仮定として、低圧注入ポンプ1台が作動しないという一番厳しい条件をとる。

(4) 事故発生の約40秒後に、原子炉水位は炉心燃料の下端に達し、再冠水が始まる。再冠水開始後は、炉心で発生する蒸気とその蒸気に巻き込まれた水滴によって炉心冷却が行われる。燃料被覆温度は、事故発生の約140秒後に最高値に達するが、その後、冠水により急速に低下する。

(5) 解析の結果によれば、最高燃料被覆温度は1,105℃であり、制限値1,200℃を下回る。また、燃料被覆の局部的な水-ジルコニウム反応量の被覆厚みに対する割合の最大値は約5%で、制限値15%を下回り、全炉心平均の水-ジルコニウム反応による酸化量は0.3%以下であり十分小さい。したがって、燃料体は冷却可能なように形状が保持されるので、長期にわたる炉心の冷却は、再循環モードの確立によって確保される。

 なお、小破断の解析として、最も厳しい低温側配管口径約20㎝スプリット破断の解析結果によれば、最高燃料被覆温度は816℃であり、水-ジルコニウム反応による酸化量も十分に小さい。

 上記の解析は、原子炉容器頂部の一次冷却材温度が低温側配管温度に等しいとして行っているが、更に、この温度を高温側配管温度に等しいと仮定した解析を実施している。この場合、最高燃料被覆温度を与えるのは、放出係数が0.6の時であり、その温度は1,175℃となるが、制限値1,200℃以下にとどまる。

 また、別途に上記の解析結果の妥当性を評価するため、WREM(米国原子力規制委員会作成の安全審査用解析コード・パッケージ)等を用いて、低温側配管の完全両端破断に対するチェック計算を実施した。これら両計算の解析モデル、入力条件及び解析結果を比較検討した結果、申請者の解析モデルは妥当であり、かつ、「ECCS安全評価指針」の要求事項及び基準を満足しているので、事故後の炉心冷却は維持できるものと判断する。

5.5.2 原子炉格納容器の性能解析

 一次冷却材喪失事故時の原子炉格納容器の健全性については、原子炉格納容器内圧が最も高くなる蒸気発生器出口配管の完全破断をとりあげ、事故時の応答を解析している。構築物などによる吸熱を小さ目に仮定して評価した結果によれば、原子炉格納容器内圧の最大値は2.19㎏/㎝2Gで、最大許容圧力2.50㎏/㎝2Gを下回っている。また、原子炉格納容器内圧は、事故後約1日で大気圧程度に戻ることが示されている。したがって、原子炉格納容器の健全性は確保されると判断する。

 更に、一次冷却材喪失事故時に発生する可燃性ガス(水素)の原子炉格納容器内での蓄積についても検討を行った。

 原子炉格納容器内の水素濃度を大き目に見積るため、厳しい水素発生を仮定したモデル(米国原子力規制委員会のレギュラトリ・ガイドに示されるもの)を用いて解析した結果、水素濃度がその燃焼限界(4vol%)に達するまでに100日以上を要することが示されており、その間に必要な処置が十分とれるので、原子炉格納容器の健全性は保たれるものと判断する。

 一次冷却材喪失事故の発生を防止するため以下のような対策がとられるので、事故発生の可能性は極めて小さいものと考える。

(1) 原子炉冷却材圧力バウンダリの機器及び配管は、各種の応力を考慮し、厳しい条件を適用した設計、耐食性に優れたステンレス鋼等の使用、十分な品質管理、一次冷却材の水質管理等により、原子炉冷抜材圧力バウンダリ破損の可能性が小さくなるよう配慮される。

(2) 過渡状態での一次冷却系の過圧を防止するため、加圧器逃し弁、加圧器安全弁等の設備が設けられる。

(3) 一次冷却系の健全性を監視するため、供用期間中検査が行われるほか、一次冷却材の漏洩を早期に検出するため、原子炉格納容器内に一次冷却材漏洩監視設備が設けられる。

5.6 蒸気発生器伝熱管破損事故

 何らかの原因で蒸気発生器伝熱管が破損した場合、一次冷却材が蒸気発生器二次側へ流出し、一次冷却系から放射性物質が外部に放出される可能性がある。

 事故の想定としては、原子炉出力運転中に、蒸気発生器の伝熱管1本が瞬時に完全破断を起こす場合を考える。

 事故解析に当たっては、次の前提条件が用いられている。

(1) 原子炉スクラム後直ちに外部電源は喪失するものとし、主蒸気安全弁の作動によって、一次冷却系の除熱及び減圧が蒸気発生器を介して行われるものとする。

(2) 一次冷却系及び二次冷却系への注水は、それぞれ充てん/高圧注入ポンプ2台及び補助給水ポンプ3台中2台の作動によるものとする。

 解析によれば、事故の経過は以下のとおりである。

 原子炉は事故発生の約5分後に、過大温度・ΔT高原子炉スクラム信号で自動停止し、引き続くタービン・トリップに伴い主蒸気安全弁が作動する。その後、一次冷却系の減圧及び二次冷却系への一次冷却材流出により、原子炉圧力低信号及び加圧器水位低信号の一致によって、非常用炉心冷却系が作動し、ほう酸水が炉心に注入される。冷却及び減圧が進んで、破損蒸気発生器側の蒸気圧力が主蒸気安全弁の設定圧力以下になると、主蒸気隔離弁、主蒸気逃し弁を閉じ補助給水を停止することにより、事故発生後30分以内に破損蒸気発生器は隔離される。また、破損蒸気発生器の隔離後は、健全側の蒸気発生器の主蒸気逃し弁により一次冷却系の除熱及び減圧を継続し、事故は収拾される。

 解析の結果によれば、一次冷却系から二次冷却系へ流出する一次冷却材量は、全保有水量の約32%(約60t)以下にとどまる。また、最小DNBRは1.41であり、燃料中心温度の上昇もほとんどなく、燃料の健全性は損なわれない。

 この事故の発生を防止するため、以下のような対策がとられるので、瞬時の完全破断のような事故発生の可能性は極めて小さいものと考える。

(1) 蒸気発生器の伝熱管は、耐食性に優れ、延性に富んだニッケル・クロム・鉄合金を使用し、設計、製作及び検査の各段階で、蒸気発生器伝熱管破損の可能性が小さくなるよう配慮される。

(2) 蒸気発生器伝熱管の腐食を少なくするため、適切な化学薬品の注入、復水脱塩等により使用する水の溶存酸素、塩素等の含有量を抑えるような水質管理が行われる。

(3) 過渡状態での一次冷却系の過圧を防止し、伝熱管に過大な差圧が生じないようにするため、加圧器逃し弁及び加圧器安全弁などの設備が設けられる。

(4) 蒸気発生器ブローダウン水及び復水器真空ポンプ排気の放射能レベルは常時監視されており、蒸気発生器伝熱管の漏洩は早期に検出できるので、適切な処置が講じられる。

5.7 主蒸気管破断事故

 何らかの原因で主蒸気管が破断すると、蒸気の流出によって、一次冷却材の温度及び圧力が低下するので反応度が添加される。

 このような事故に対して、非常用炉心冷却系から高濃度ほう酸水を注入することによって、適切な反応度停止余裕を確保することとしている。

 事故の想定としては、高温停止状態にあるときに、主蒸気管のフロー・ノズル下流部分の破断で外部電源の有る場合、蒸気発生器出口部分の破断で外部電源の有る場合及び無い場合の3ケースを考える。

 事故解析に当たっては、次の前提条件が用いられている。

(1) 炉心の反応度停止余裕は、原子炉スクラム時に最大の反応度効果をもつ制御棒クラスタ1本が完全引抜き位置に固着し挿入されないときの値として1.77%Δk/kとする。

(2) 高濃度ほう酸水を注入する充てん/高圧注入ポンプ1台が働かないものと仮定する。

(3) 主蒸気管の逆止弁の効果は無視し、主蒸気管の隔離は主蒸気隔離弁によって行われるものとする。

 解析の結果によれば、蒸気発生器出口部分の破断で外部電源の有る場合が最も激しく放出蒸気流量が最大となり、再臨界後の熱流束の最大値は定格値の23%に達する。しかし、高圧注入系の作動により高濃度ほう酸水が注入され、原子炉は再び未臨界になる。この間、最小DNBRも1.37で、原子炉圧力も上昇せず原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は保たれ、炉心の冷却能力が失われることはない。

 この事故の発生を防止するため以下のような対策がとられるので、事故発生の可能性は極めて小さいものと考える。

(1) 主蒸気管は、材料選定、設計、製作及び検査の各段階で、主蒸気管破損の可能性が小さくなるよう配慮される。

(2) 過渡状態での主蒸気系の過圧を防止するため、主蒸気ダンプ系、主蒸気逃し弁及び主蒸気安全弁が設けられる。

5.8 燃料取替取扱事故

 燃料取替作業中に、何らかの原因によって取扱い中の燃料集合体が落下し燃料被覆が破損すると、使用済燃料集合体の場合には核分裂生成物が放散する可能性がある。

 事故の想定としては、取替作業中に使用済燃料集合体が使用済燃料ピット内で落下する場合を考える。

 事故解析に当たっては、次の前提条件が用いられている。

(1) 燃料取替えは、原子炉停止の100時間後に開始するものとする。

(2) 落下した燃料集合体は、3サイクルの間最高出力で燃焼していたものとする。

(3) 落下した燃料集合体の全燃料棒の被覆が損傷するものとする。

(4) よう素は使用済燃料ピット水中にほとんどとどまるが、希ガスは全量が放出されるものとする。

 解析の結果によれば、燃料取扱建家内に放出される放射性物質の量はⅣ.6に後述する大気放出量より少ない。このような事故が発生した場合、使用済燃料ピット排気設備により放射性物質は処理され、原子炉補助建家排気筒に導かれるので、相対濃度(χ/Q)及び相対線量(D/Q)はⅣ.6に後述するものより小さい。したがって、敷地境界外で最大となる被曝線量は、十分小さくなると考えられる。

 この事故の発生を防止するため、以下のような防止対策がとられるので事故発生の可能性は極めて小さいものと考える。

(1) 燃料用グリッパは駆動源の喪失に対してフェイル・セイフな設計とし、更に燃料をつかんでいる間グリッパが開かないように機械的なインターロック装置が設けられる。

(2) 過大荷重による落下を防止するため、設定された荷重を超えると吊り上げを行えないように機械的なインターロック装置が設けられる。

5.9 水素廃ガス減衰タンクの破損事故

 放射性廃棄物廃棄施設の一部が何らかの原因で破損すると、内蔵されている放射性物質が施設外に放出されるおそれがある。

 しかし、液体廃棄物処理設備に破損や漏洩が生じても、流出物は原子炉補助建家サンプに集められ回収されるので、原子炉施設外に放出されることはない。

 したがって、事故の想定としては、気体廃棄物が最も多く貯蔵されている水素廃ガス減衰タンク1基が破損する場合を考える。

 事故解析に当たっては、次の前提条件が用いられている。

(1) 燃料棒の被覆に、Ⅳ.3.2に前述したと同様の微小欠陥があるものとし、希ガスは体積制御タンクにおいてその全量が水素ガスによってパージされ、水素廃ガス減衰タンクに移行するものとする。

(2) 4基のタンクの切替えを考慮し、タンク1基当たりの貯蔵量が最大となる時点で破損するものとする。

 解析の結果によれば、原子炉補助建家内に放出される放射性物質の量は、Ⅳ.6に後述する大気放出量より少ない。この放射性物質は換気系によって原子炉補助建家排気筒に導かれるので、相対線量(D/Q)はⅣ.6に後述するものより小さい。したがって、敷地境界外で最大となる被曝線量は、十分小さくなると考えられる。

 放射性廃棄物廃棄施設の事故発生を防止するため以下のような対策がとられるので、事故発生の可能性は極めて小さいものと考える。

(1) 放射性廃棄物廃棄施設の配管、タンク、ポンプ類は、材料選定、設計、製作及び検査の各段階で、放射性廃棄物廃棄施設の破損や漏洩の可能性が小さくなるよう配慮される。

(2) 水素廃ガス減衰タンク及びガス減衰タンクのガス圧がタンクの設計圧力を下回るように、それぞれのガス圧縮機の吐出圧力が決められる。

6 災害評価

6.1 災害評価の概要

 申請者が行った災害評価は「原子炉立地審査指針」に基づき、重大事故及び仮想事故を想定し、これらの事故による被曝線量が非居住区域、低人口地帯及び人口密集地に係るめやす線量を下回ることを示すために行われている。

 重大事故及び仮想事故の種類については、核分裂生成物の大気中への放出量が大きくなるような事象として、一次冷却材喪失事故及び蒸気発生器伝熱管破損事故が想定されている。

 これらは、核分裂生成物の放出が最大となる可能性のある事象で、核分裂生成物が原子炉格納容器内及び原子炉格納容器外に放出される事象を代表して想定されたものである。

 重大事故の解析は、核分裂生成物が燃料から大気中に放出されるまでの過程について行われており、核分裂生成物の大気中への放出量については、厳しい評価となるような仮定を用いて解析されている。

 仮想事故の解析は、重大事故の解析と同様に行われているが、核分裂生成物の大気中への放出量については、炉心燃料から放出される核分裂生成物の割合等が重大事故の場合に比べより大きくなるような仮定を用いて解析されている。

 大気中に放出された核分裂生成物の大気拡散は、これらの事故が任意の時刻に起こること及び実効的な放出継続時間が短いことを考慮して敷地における気象条件の出現頻度からみて、めったに遭遇しないと思われる厳しい気象条件を用いて解析されている。

 解析の対象とした核分裂生成物は、全身被曝に対しては希ガスとし、甲状腺被曝に対してはよう素としている。なお、そのほかの核分裂生成物は、被曝線量に与える寄与が小さいものとして計算上無視されている。被曝線量は、放射性雲からのγ線による外部全身被曝線量及びよう素の吸入による内部甲状腺被曝線量がそれぞれ計算されている。

 更に、一次冷却材喪失事故については、原子炉格納容器内に浮遊する核分裂生成物によるスカイシャイン線量及び直接線量についても計算されている。

6.2 重大事故の解析

6.2.1 一次冷却材喪失事故

 一次冷却材喪失事故における核分裂生成物の大気中への放出量は、一次冷却材喪失事故のうち、事故の程度が最大となる一次冷却材配管1本が瞬時に完全破断する場合を想定し、次の仮定を用いて解析されている。

(1) 核分裂生成物の炉内蓄積量は、原子炉が定格出力の102%(2,705MWt)で最高23,000時間連続運転されていたものとする。

(2) 炉心燃料から原子炉格納容器内に放出される希ガス及びよう素は全燃料に内蔵されているもののうち、希ガスについては2%、よう素については1%とする。

(3) 炉心燃料から放出された希ガス及び有機よう素は、すべて原子炉格納容器からの漏洩に寄与するものとし、無機よう素については、原子炉容器、配管及び原子炉格納容器の壁面等に付着又は沈着する効果を考慮して、50%が原子炉格納容器からの漏洩の寄与するものとする。

 よう素のうち有機よう素の生成割合は、一次冷却材喪失事故条件下の実験結果によれば、多くても3.2%とされているが、ここでは10%とする。

(4) 原子炉格納容器内のよう素は、原子炉格納容器スプレイ設備のスプレイ水により除去されるが、計算に当たっては無機よう素の除去効果として等価半減期を100秒とする。

 有機よう素に対しては、希ガスと同様スプレイ水による除去効果が無いものとする。

(5) 原子炉格納容器の漏洩率は事故発生後24時間は、0.3%/d、その後3日間は0.135%/dとする。

(6) 原子炉格納容器からの漏洩は、その97%がアニュラス部に生じ、3%が原子炉格納容器ドーム部で生ずるものとする。

(7) 原子炉納格容器からアニュラス部に漏洩した希ガス及びよう素は、アニュラス空気再循環設備で浄化され、再びアニュラス部へ戻されるが、その一部はアニュラス部の負圧維持のため、原子炉納格容器排気筒から大気中に放出されるものとする。

 また、アニュラス空気再循環設備に備えられたチャコール・フィルタのよう素の除去効率は設計除去効率95%以上であるが小さ目に90%とする。

 なお、事故後、アニュラス部の負圧達成時間は評価上10分とし、この間はアニュラス空気再循環設備のフィルタの除去効果を無視し、アニュラス部に漏洩してきた気体はそのまま、外部へ放出されるものとする。

(8) 原子炉格納容器ドーム部から漏洩した希ガス及びよう素は直接大気中に放出されるものとする。

 以上の仮定に基づいて計算された核分裂生成物の大気中への放出量は、よう素約34Ci(よう素131換算値、以下同様)及び希ガス約5,500Ci(0.5MeV換算値、以下同様)である。

 大気放出に伴う被曝線量の計算は、上記のよう素及び希ガスの大気中への放出量をもとに、Ⅳ.1.4に前述した相対濃度(χ/Q)及び相対線量(D/Q)を用いて行われている。

 よう素による甲状腺被曝線量は、よう素の放出量にχ/Qの値を乗じた値を敷地境界の地表空気中時間積分濃度として求め、その濃度の空気を人が呼吸した場合の被曝線量をICRPパブリケーション2の計算方法によって計算している。

 希ガスのγ線による外部全身被曝線量は、希ガスの放出量に敷地境界のD/Qの値を乗じて計算している。

 また、原子炉格納容器内に浮遊する核分裂生成物をもとに、スカイシャイン線量及び直接線量を計算している。

 全身被曝線量は希ガスのγ線による外部全身被曝線量、スカイシャイン線量及び直接線量を合計した値で評価している。

 この結果、一次冷却材喪失事故による被曝線量は、敷地境界外で最大となる場合において、小児甲状腺に対して約1.6rem、全身に対し約0.06remである。

6.2.2 蒸気発生器伝熱管破損事故

 蒸気発生器伝熱管破損事故における核分裂生成物の大気中への放出量は蒸気発生器伝熱管1本が瞬時に完全破断する場合を想定し、次の仮定を用いて解析されている。

(1) 蒸気発生器伝熱管破損事故が起こる前の原子炉は、燃料被覆に欠陥がある状態において定格出力の102%で運転されていたものとし、その時の一次冷却材中のよう素濃度は2.68μCi/㎝3、希ガス濃度は35.2μCi/㎝3とする。

(2) 大気中に放出される希ガス及びよう素には運転中の一次冷却材中に含まれていた希ガス及びよう素のほかに、燃料棒から一次冷却材中に追加放出される希ガス及びよう素があるものとする。

 この一次冷却材中への追加放出については、燃料被覆に欠陥を有する燃料棒から原子炉圧力の低下に伴い放出されるものとし、この場合、よう素約13,000Ci、希ガス約89,000Ciが追加放出に寄与するものとする。

(3) よう素のうち有機よう素の生成割合は一次冷却材喪失事故と同様10%とし、有機よう素の二次側に流出するまでの低減率は1/10とする。

(4) 破損した蒸気発生器を隔離するまでの時間及びこの間の一次冷却材の二次側への流出水量は、Ⅳ.5.6に前述した解析結果からそれぞれ30分及び一次冷却系保有水量の32%とする。

(5) 隔離後の二次冷却系から大気への蒸気の漏洩率は、隔離時に10m3/dとし、その後1日間は二次冷却系の圧力低下に依存するものとする。

(6) 二次側へ流出した希ガス及び有機よう素は、その全量が大気へ放出されるものとする。無機よう素については、気相への移行率を1/100として大気中の放出量を計算する。この際、大気に放出されるまでの崩壊による減衰は考慮しない。

 以上の仮定に基づいて計算された核分裂生成物の大気中への放出量は、よう素約21Ci及び希ガス約8,900Ciである。

 被曝線量の計算は、上記のよう素及び希ガスの大気中への放出量をもとに、Ⅳ.1.4に前述した相対濃度(χ/Q)及び相対線量(D/Q)を用いて行われている。

 この結果、蒸気発生器伝熱管破損事故による被曝線量は、敷地境界外で最大となる場所において、小児甲状腺に対して約1.8rem、全身に対して約0.02remである。

6.3 仮想事故の解析

6.3.1 一次冷却材喪失事件

 一次冷却材喪失事故における核分裂生成物の大気中への放出量の解析に当たっては、次に述べる仮定以外は重大事故の解析に用いられた仮定と同一の仮定が用いられている。

 すなわち、全炉心燃料に内蔵されている核分裂生成物のうち希ガス100%、よう素50%が原子炉格納容器内に放出されるものとしている。

 以上の仮定に基づいて計算された核分裂生成物の大気中への放出量は、よう素約1,700Ci及び希ガス約270,000Ciである。

 被曝線量の計算は、重大事故の場合と同様に行われている。

 この結果、被曝線量は、敷地境界外で最大となる場所において、成人甲状腺に対して約20rem、全身に対して約2.5remである。

6.3.2 蒸気発生器伝熱管破損事故

 蒸気発生器伝熱管破損事故における核分裂生成物の大気中への放出量の解析に当たっては、次に述べる仮定以外は重大事故の解析に用いられた仮定と同一の仮定が用いられている。

(1) 蒸気発生器伝熱管破損事故発生と同時に、追加放出に寄与する希ガス及びよう素の全量が一次冷却材中に放出されるものとする。

(2) 蒸気発生器隔離後の二次冷却系からの大気への蒸気の漏洩は、10m3/dの割合で無限時間続くものとし、大気に放出されるまでのよう素の崩壊による減衰を考慮する。

 以上の仮定に基づいて計算された核分裂生成物の大気中への放出量は、よう素約130Ci及び希ガス約32,000Ciである。

 被曝線量の計算は、重大事故の場合と同様に行われている。

 この結果、被曝線量は、敷地境界外で最大となる場所において、成人甲状腺に対して約2.4rem、全身に対して約0.05remである。

6.3.3 全身被曝線量の積算値

 国民遺伝線量の見地からみた全身被曝線量の積算値は、仮想事故としての一次冷却材喪失事故及び蒸気発生器伝熱管破損事故について、次の仮定を用いて解析されている。

(1) 大気中に放出される核分裂生成物の量はⅣ.6.3.1及びⅣ.6.3.2に前述した解析結果の値を用いる。

(2) 拡散条件は風速1.5m/s、大気安定度F型、水平方向拡散巾30°とする。

(3) 拡散方向は積算値が最大となる方向とする。

(4) 人口は昭和49年の人口のほか、2025年における推定人口を用いる。

 以上の仮定に基づいて計算された全身被曝線量の積算値は、一次冷却材喪失事故において、昭和49年の人口に対して約10万人・rem、2025年の人口に対して約14万人・rem、蒸気発生器伝熱管破損事故においては、昭和49年の人口に対して約1.2万人・rem、2025年の人口に対して約1.6万人・remである。

6.4 評価

 重大事故及び仮想事故の解析に当たっては、核分裂生成物の大気中への放出量が最大になる可能性をもつ事故事象として、一次冷却材喪失事故と蒸気発生器伝熱管破損事故が選定されている。

 Ⅳ.5.5及びⅣ5.6に前述した事故解析が各種の安全防護機能の妥当性を検討するためのものであったのに対し、重大事故及び仮想事故の解析は、「原子炉立地審査指針」に基づき、立地条件の適否をみるため、核分裂生成物の放出に着目して行われたものである。

 核分裂生成物の大気中への放出量の解析は炉心燃料から放出される核分裂生成物の割合等を重大事故及び仮想事故の趣旨に照らして、それぞれ十分厳しくなるような仮定を用いて行われており、妥当なものと判断する。

 また、以上の仮定に基づいて解析された核分裂生成物の大気中への放出量、厳しい気象条件等を用いて計算された甲状腺及び全身の被曝線量並びに全身被曝線量の積算値は、「原子炉立地審査指針を適用する際に必要な暫定的な判断のめやす」に示されるめやす線量を十分下回っているので、本原子炉施設の立地条件は、「原子炉立地審査指針」に十分適合しているものと判断する。

7 技術的能力

 申請者は、玄海原子力発電所1号炉の建設を昭和46年3月開始し、昭和50年10月より営業運転を行っており、建設、運転に関する実績を既に有している。

 更に、同発電所2号炉についても、現在建設中である。

(1) 本原子炉施設を設置するに当たっては、法令に基づく諸手続、基本設計の実施、工事進捗の管理並びにこれらに付随する対外連絡等の業務に従事する約70名の本店要員が継続的に又は一時的に関与する見込みであり、また、現地において全工程を通じ実際の建設に従事する平均60名の現地要員の合計約130名の技術者を確保することとしているので、1プラント当たりの建設に必要とされる技術者の数は妥当であると判断する。

 これら各部門に必要な組織、管理者及び技術者の確保並びに養成計画については、その概要が示されているが、これら各部門の管理者については、原子力・火力発電所の建設、運転等に10~20年の経験を有する者がそのほとんどを占め、原子力技術に限っても平均約9年の経験を有しており、妥当である。

 また、申請者は引き続き玄海原子力発電所の建設、運転経験並びに原子力専門機関への派遣等を通じて技術能力の養成訓練を行うこととしており、妥当であると判断する。

(2) 本原子炉施設を運転するに当たっては、運転を安全、かつ、確実に遂行するため、発電所の運営管理、対外連絡等の本店業務を行う約10名の本店要員と実際に発電所の運転管理を行い、安全確保を図るための現地要員約120名の技術者を本発電所運転開始時に確保することとしているので、1プラント当たりの運転に必要とされる技術者の数は妥当であると判断する。

 運転を行うに当たっては、運転直等を管轄する部門、放射線管理部門、炉心及び燃料管理部門、保修部門及び技術総括部門が必要であり、それぞれ、保健物理系、炉物理系、電気・機械系、計測制御系等の知識を有し、経験も5~6年以上の者が管理職となることが良いとされているが、申請者の管理職名簿による経歴等を見ると、このような人材をそれぞれの部門に配置することは十分可能であると判断する。

(3) 法令上必要な主任技術者については、原子炉主任技術者有資格者13名及び放射線取扱主任者有資格者27名を有しており、十分確保されているものと判断する。

 以上のことから、本原子炉施設を設置するために必要な技術的能力及び運転を適確に遂行するに足りる技術的能力が十分にあるものと判断する。

Ⅴ 審査経過

 本審査会は、昭和51年5月17日第148回審査会において、次の委員からなる第123部会を設置した。

(審査委員)

青木 成文(部会長) 東京工業大学
安藤 良夫
 東京大学
石原 豊秀
 日本原子力研究所
大崎 順彦
 東京大学
金井 清
 日本大学
木村 啓造
 金属材料技術研究所
竹越 尹
 電力中央研究所
中田 正也
 船舶技術研究所
松野 久也
 地質調査所
山本 荘毅
 筑波大学
(調査委員)

石田 泰一
 動力炉・核燃料開発事業団
伊藤 公介
 地質調査所
伊藤 直次
 日本原子力研究所
垣見 俊弘
 地質調査所
岸田 英明
 東京工業大学
佐藤 一男
 日本原子力研究所
丹羽 義次
 京都大学
三神 尚
 東京工業大学
森内 和之
 電子技術総合研究所
森島 淳好
 日本原子力研究所
山崎 達雄
 九州大学
吉川 宗治
 京都大学
吉田 芳和
 日本原子力研究所

同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査することとし、昭和51年6月4日に第1回部会を開催し、審査方針を検討するとともに、主として施設を担当するAグループ、主として環境を担当するBグループ及び主として地質・地盤を担当するCグループを設け審査を開始した。

 以後、部会及び審査会において審査を行ってきたが、昭和52年10月31日の部会において部会報告書を決定し、本審査会はこれを受け、昭和52年12月3日第165回審査会において本報告を決定した。



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