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ウラン濃縮技術開発懇談会報告



 ウラン濃縮技術の研究開発の推進については本年8月の本懇談会による中間報告と、これを受けた原子力委員会による決定によって次のような方針が打ち出されている。すなわち、

(1)ガス拡散法については、わが国が欧米の技術段階に達するには、なお相当の資金と人材の投入が必要であり、しかも同方式は最低経済規模と電力消費原単位がかなり大きいため国内工場向けとしては問題がある。
 したがって、本方式については国際共同濃縮事業を対象とすることとし、同事業へのわが国の参加をより意義あるものとするために基礎的研究を継続する。

(2)遠心分離法については、最近の研究開発の結果、今後の強力な推進により、国際競争力のある濃縮工場を実現することは可能と判断されるようになってきた。また同方式はガス拡散法に比し、電力消費が少なくかつ比較的小規模でも経済性が損われず、需要の増加に合わせた工場の段階的増設が可能であり、国産工場に適した技術である。
 さらに世界的にもこの研究開発が積極的に進められるようになってきた。
 したがって、本方式については、昭和60年までにわが国において国際競争力のあるウラン濃縮工場を稼動させることを目標にそのパイロットプラントの建設、運転までの研究開発を原子力特別研究開発計画(国のプロジェクト)としてとりあげ、動力炉・核燃料開発事業団を中心として強力に推進する。
 この方針に基づき、本懇談会はさらに検討を進めてきたが、ここに下記のような基本計画に沿って両方式の研究開発を進めるべきであるとの結論に達したので報告する。


1.遠心分離法

 遠心分離法に関しては、総合システム開発の観点からその研究開発を推進することとし、まず第1段階として遠心分離機、関連機器等の開発を行ない、これと平行してプラントシステムの開発を実施する。
 さらに昭和51年頃これらの成果について総合的な評価検討を行ないそのすすめ方について結論を得たうえで第2段階のパイロットプラントによる総合試験にすすむ。
 開発の実施にあたっては、動力炉・核燃料開発事業団を中心として学界、産業界および関係機関の衆知を結集して行なうものとする。
 なお、本研究開発に要する資金は、パイロットプラントの建設、運転を含め約1,000億円と見積られる。

(1)標準機開発

 カスケードシステムとの関連を考慮しつつ、遠心機単機の開発を進め、遠心機の分離性能、安定性および経済性の向上をはかるとともに寿命試験を行なう。

 (ⅰ)遠心機開発
遠心機の単純化、標準化のための研究をすすめ数次にわたり標準機の開発を行なう。これらの標準機のうちから最も実用性の高い遠心機を選び、カスケード試験およびパイロットプラント試験をへて、実用プラントの原型機の決定に資する。
 (ⅱ)回転胴開発
炭素繊維強化材を含め高性能材料による回転胴の開発を行ない、耐久性および量産性のすぐれた回転胴の開発を行なう。
 (ⅲ)寿命試験

       標準機について寿命試験を行ない、その改良に資するとともに耐用年数および故障
        発生率を推定する。

(2)遠心機の量産技術開発


 加工、組立および検査等遠心機の製造全般にわたって経済性のすぐれた大量生産技術を開発する。

(3)高性能機開発

 将来における世界的な遠心機の水準向上に対処するため、高速化、長胴化等により性能が格段にすぐれた高性能機の開発をすすめ標準機の改良に資する。

(4)システム解析および設計研究

 ウラン濃縮プラントを遠心機、駆動電源、配管等から構成されるシステムとして捉え、この設計コードおよび解析コードを開発し、カスケード特性、経済性等を総合的に解析することによりシステムの最適化を行なう。

(5)安全工学研究

 回転胴の破壊現象およびその影響について研究をすすめるとともに地震・振動対策、緊急遮断等の検討を行なう。

(6)関連技術研究

 ウラン濃縮システムを構成する駆動電源、配管等各種周辺機器の研究開発を行ないその技術的見通しを立てるとともに、所要の大型化の開発をすすめる。また、原料UF6の製造技術、プラント保守技術および保障措置関連技術等の開発を行なう。

(7)カスケード試験

 ウラン濃縮プラントの基本となるカスケードシステムの諸特性を把握しプラント設計の最適化に資するためカスケード試験を行なう。
 また、この試験を通じて濃縮プラントの建設および運転管理に関する技術の習得をはかる。

 (ⅰ)1次カスケード試験
実用プラントおよびパイロットプラントと同一段で構成される最小規模のアイデイアルカスケードを建設し、このカスケードの濃縮特性、 負荷変動特性等を把握するとともにカスケード理論との比較検討を行なう。
 (ⅱ)2次カスケード試験
遠心機のセット化により一次カスケードと同一規模のステップカスケードを建設しその特性を把握するとともに両カスケードの比較検討を行なう。

(8)パイロットプラント

 標準機開発をはじめとする各研究開発およびカスケード試験の成果を総合してパイロットプラントを建設し、安定性、経済性等に関する総合的な試験を行なう。なお、パイロットプラントの建設着手に当っては、研究開発の成果、海外の動向等に関し、事前に評価検討を行ない国際競争力のある実用工場の建設の見通しが得られた場合において、その建設を進めるものとする。


2 ガス拡散法

 ガス拡散法に関しては、国際濃縮共同事業に関するこれまでの調査検討の経験からみて、わが国が同事業に参加するについての技術的経済的検討に資するとともに、同事業への主体的関与を可能ならしめるため、少なくとも以下の基礎的試験研究を日本原子力研究所、理化学研究所等において継続して行なう。

(1)隔膜の開発および特性試験

 四ふっ化樹脂系等の隔膜の試作をすすめ製造技術の向上をはかるとともに、隔膜の微細構造の解析および特性試験を行ないその性能向上をはかる。

(2)工学的拡散筒ユニットの研究

 工学的拡散筒ユニット試験装置の製作、試験を行ない、拡散筒内のガスの流れ効果等の特性の解明に資する。

(3)UF6循環ループ試験

 軸流圧縮機を中心としたUF6循環ループ試験により軸流圧縮機の動特性測定等を行なう。

(4)システム解析および関連技術の開発

 ガス拡散法によるカスケードシステムの解析を行なうとともに、連続分析技術等の開発をすすめる。


     ウラン濃縮技術開発懇談会構成員

        井上 五郎    原子力委員
       有沢 広己     前原子力委員
      北川 一栄           〃
 座長  武藤俊之助    原子力委員
      松井  明            〃
      武田 栄一           〃
      田島 英二           〃
      山田太三郎          〃
      石原 周夫     日本開発銀行総裁
      内田 元享     技術評論家
      大島 恵一     東京大学教授
      大山 義年     東京工業大学名誉教授
       金森 政雄     三菱重工業(株)常務取締役
      河内 武雄     前中部電力(株)最高技術顧問
       菊池 正士     理化学研究所招聘研究員
      高市 利夫     富士電機製造(株)取締役
       高木  正       (株)日立製作所常務取締役
       高島 洋一     東京工業大学教授
       永野  治      東京芝浦電気(株)専任副社長
      法貴 四郎     住友原子力工業(株)常務取締役
       渡部 時也     中部電力(株)副社長
       村田  浩      日本原子力研究所副理事長
       瀬川 正男     動力炉・核熱料開発事業団副理事長
      星野 敏雄     理化学研究所理事長
      小松勇五郎    前通商産業省官房長
      和田 敏信     通商産業省官房長
      成田 寿治     科学技術庁原子力局長
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