(1)重水減速炉
重水減速炉は、中性子吸収の少ないジルコニウム合金圧力管が開発されて以来、この圧力管内に燃料を収め、減速材の重水と冷却材とを分離して用いる型が開発されてきた。どのような冷却材を用いるかは、それぞれの国の原子力に関する開発基盤や歴史あるいは評価により異なっている。
(ⅰ)重水減速沸騰軽水冷却炉
現在、英国、カナダ、イタリーおよびわが国で開発が進められている。
英国においては1967年9月にSGHWRの原型炉(100MWe)が臨界になり、ついで1968年初め全出力運転に成功し、さらに最近この型炉の(450MWe)をギリシャに輸出する動きがあった。
カナダは、一貫して天然ウラン専焼の圧力管型重水減速炉を開発しており、従来は重水冷却型を主としていたが、最近は重水漏れが少なく、かつ直接サイクルの長所をもつ沸騰軽水冷却型(CANDU-BLW)の開発にも力を注いでおり、原型炉(Gentilly,250MWe)を1971年に運開させるべく開発を進めている。
一方、イタリーは独自の霧冷却研究に端を発したCIRENE計画を進めており、実験炉(35MWe)を1971年に稼動させることとしている。
(ⅱ)重水減速有機材冷却炉
米国、カナダおよびユーラトムで開発が進められてきたが、米国は1967年に行なった動力炉開発計画の検討の結果、この炉型は実用化までにはなお相当多くの開発が必要であるなどの理由で、基礎研究を除いて重水減速有機材冷却炉(HWOCR)開発計画を中止した。
カナダは、開発の主流を水冷却型においており、本炉型については基礎的なものないしは米国の開発(HWOCR開発計画)に協力する形で行なってきた。
一方、ユーラトムでは、1960年以来、イスプラ研究所を中心に、その開発が進められてきたが、現在燃料試験炉(ESSOR)は稼動しているものの、原型炉計画(ORGEL)は資金などの理由により中止されている。
(ⅲ)重水減速炭酸ガス冷却炉
フランス、西ドイツ、スイスなどで開発が進められており、1967年にはEL-4(73MWe、フランス)、1968年にはLucens(7.5MWe、スイス)が稼動を開始した。また西ドイツのNiederaichbach(1.00MWe)も来年稼動の予定で ある。しかし、本炉型では、被覆管として使用に耐えるベリリウムあるいはジルコニウム合金の開発に成功しないため、フランスは、大型炉計画を具体化するに至らず、またスイスも開発路線よりはずした。
(ⅳ)重水減速重水冷却炉(圧力管型)
本炉型の開発は主にカナダで行なわれ、実験炉NPD(20MWe)、原型炉Douglas Point(200MWe)は、すでに運転に入っている。そして商用炉Pickering(500MWe×4基)は建設中であり、インド、パキスタンにも輸出され、またBruce(750MWe×4基)計画も具体化している。
(ⅴ)重水減速重水冷却炉(圧力容器型)
西ドイツならびにスェーデンで開発が進められ、西ドイツでは天然ウラン専焼のみでなく、将来トリウムを用いた熱中性子増殖をねらっている。本炉型の将来は、重水漏れを少なくすること、大型化および燃料交換の諸問題に対処するため、プレストレストコンクリート圧力容器を用い、燃料交換機や一次冷却系を圧力容器に内蔵するインテグラル・タイプが実用化されるかどうかにかかっている。
西ドイツでは実験炉MZFR(50MWe)を稼動しており、最近アルゼンチンにAtucha(340MWe)の輸出に成功した。一方、スェーデンは実験炉Ågesta(10MWe+55MWt)を1963年臨界にし、近く重水蒸気直接サイクルの原型炉Marviken(200MWe)を完成するが、これに続く実用炉の開発計画は具体化していない。
(2)黒鉛減速炉
(ⅰ)改良炭酸ガス冷却炉(AGR)
英国がコールダーホールより一貫して開発を進めてきた黒鉛減速炭酸ガス冷却炉の改良型で、現在、Dungeness-B(600MWe×2基)をはじめ、多くの商用炉が建設中または計画中である。
(ⅱ)高温ガス炉
ENEA、米国および西ドイツで開発が進められ、実験炉はDragon(20MWt、ENEA)、Peach Bottom(40MWe 米国)、AVR(15MWe 西ドイツ)が1964年から1966年にかけ、あいついで運転を開始した。
米国では、ガルフ・ゼネラル・アトミックス社(GGA)を中心に開発が進められており、1971年に稼動予定で実証炉Fort
St Vrain(330MWe)の建設が進められている。英国もこの炉型に関心を示しており、実用炉の設計発表を行なうなどしている。一方西ドイツは、ユーリッヒ研究所、BBC/クルップを主体にAVRに続く独特のタドン型燃料を用いたTHTR(Thorium
High Temperature Reactor) プロジェクトを進めており、最近その原型炉(300MWe)の敷地が決定された。なお、最近この炉型については、その経済性を高め、プラントを合理化する観点から、ガスタービンを用いる直接サイクルの採用や、低濃縮ウランを用いる構想、あるいはこの炉を製鉄に利用する構想が出されている。
(3)均質炉
本炉型は、燃料が液体状なので燃料交換および 核分裂生成物の除去が連続的に行なえること、熱中性子増殖炉にすることができ、燃料装荷量が少ないことなどの長所がある。現在溶融塩炉および水均質炉の開発が、それぞれ米国およびオランダで進められているが、実用化にはまだほど遠い感がある。
以上海外における新型転換炉に関する最近の動向について概観したが、その情勢変化を要約すれば次のとおりである。
(ⅰ)重水減速沸騰軽水冷却炉については、英国において、SGHWRの原型炉が運転を開始し、この原型炉をベースとした商用炉がギリシャへ輸出される動きが出たこと、カナダにおいて、CANDU-BLWの原型炉Gentilly
の建設が進展しているなど、順調な発展がみられた。
(ⅱ)重水減速炭酸ガス冷却炉については、被覆材(ベリリウムまたはジルコニウム合金)の開発が非常に難行しており、本炉型の開発は停滞している。
(ⅲ)重水減速重水冷却炉(圧力容器型)については、西独が実用炉としてアルゼンチンへ輸出するなど、実用化の域に達しつつある。
(ⅳ)黒鉛減速高温ガス炉については、米国において実証炉の建設が行なわれているが、西ドイツ、英国でも経済性のある炉として開発が進展している。
第2-1表 世界の新型転換炉一覧表
2.2 わが国で開発すべき炉型
(1)選定基準の検討
わが国で自主開発すべき新型転換炉(ATR)として、重水減速沸騰軽水冷却炉が選ばれた主たる理由は、昭和41年5月の原子力委員会の内定「動力炉開発の基本方針について」およびそれ以前の動力炉開発懇談会などの審議によれば、(ⅰ)来在炉型に比し、核燃料の効率的利用および多様化の観点から、天然ウランをも使用しうるものであること、(ⅱ)早期の実用化が考えられること、(ⅲ)プルーブンでないことの三つである。
最近の内外の動向を勘案して、上記基準の評価検討を行なった結果は、§1においても述べたように、(ⅰ)に関しては、核燃料の需給バランスが楽観すべき状況になったとはいいがたく、(ⅱ)に関しては、高速増殖炉の実用化時期を考慮し、また海外における新型転換炉の開発状況をも勘案して、できるだけ早期実用化を達成することが望ましいので、わが国のATRとして、天然ウランが使用できるものであることおよび早期開発が行なえるものであることの必要性は、現時点においても変っていないと考えられる。
なお、(ⅲ)のプルーブンでないことに関しては、動力炉開発計画検討の初期より、海外において商品化されているもの(プルーブンであるもの)は自主開発の対象からはずされており、現段階においてもこの方針を変える必要はないと考えられる。
(2)開発すべき炉型
世界で開発中の新型転換炉の炉型について、主として技術的見地から前記(ⅰ)、(ⅱ)、(ⅲ)の基準によ り評価を行なった結果を表2-2に示す。
黒鉛減速改良炭酸ガス冷却型および高温ガス炉は、天然ウランを使用するシステムとなっておらず、また重水減速炭酸ガス冷却型については、2.1でも述べたように、被覆材の開発が進まないために、天然ウランを用いての早期実用化が困難である。
早期開発が困難なものとしては、重水減速有機材冷却型、重水減速炭酸ガス冷却型などがあげられるが、その理由は表2-2の右欄に概略示されている。なお、重水減速重水冷却型(圧力管型)および黒鉛減速改良炭酸ガス型は、プルーブンである点から自主開発する炉型としては対象外である。
以上の検討の結果、わが国で開発している重水減速沸騰軽水冷却型は、新型転換炉として上記の基準に適合した有望な炉型であり、現時点でこの炉型を変更すべき理由は見当たらない。
(3)わが国のATRとCANDU-BLWおよびSGHWRとの比較
わが国で開発中のATRとCANDU-BLWおよびSGHWRは、いずれも重水減速沸騰軽水冷却型に属する炉であるが、そのおのおのの原型炉の主要仕様を表2-3に示す。
各炉の主な相違点は、燃料使用方式、燃料交換方式および制御方式にあり、これらはそれぞれの国のエネルギー事情、これまでの開発基盤、安全性に対する考え方などの国情に由来するものである。
燃料使用方式に関しては、CANDU-BLWは天然ウラン専焼方式であり、SGHWRは低濃縮ウラン使用方式であるのに対して、ATRは近い将来の目標としてPuSSを採っている。これに関してCANDU-BLWは、正のボイド係数が大きく、SGHWRでは、この問題を解決するため、および経済性の概点から、燃料に低濃縮ウランが用いられている。これに対し、わが国のATRは、安全性を確保しつつ、経済性を達成し、あわせて核燃料の安定供給と有効利用を図る観点から、プルトニウムを天然ウランに富化して用い、いわゆるPuSS方式を一つのねらいとしている。またこの炉では、プルトニウム富化天然ウラン燃料(PuSS方式の場合を含む。)の炉心と同じ炉心で微濃縮ウランを用いることも可能である。
第2-2表 世界で開発中の新型転換炉の評価

第2-3表 わが国のATRと海外の重水減速沸騰軽水冷却炉の比較

§3 原型炉開発計画
動燃事業団のATR開発計画は、昭和50年代の前半にこれを実用化することを目標に、原型炉を49年度頃臨界を目途として建設することとしているが、この開発計画に関し、これまでに行なわれた設計研究、開発試験など原型炉の建設を行なうに必要な技術的見通し、研究開発計画との関連も含めた原型炉の開発スケジュールの妥当性およびATR実用化の技術的見通しについて検討した。
3.1 原子炉開発計画の概要
動燃事業団の計画などによる原型炉建設計画の概要は、次のとおりである。
(1)原型炉の概要
発電所電気出力 |
定格 165MWe |
|
目標最大 200MWe |
原子炉形式 |
重水減速沸騰軽水冷却型 |
設置場所(候補地点)敦賀市 |
原型炉の主要仕様は表3-1のとおりで、その主要事項についての設計上の考え方および特徴は次のとおりである。
(ⅰ)規模:実用炉の炉心などをモック・アップする観点から約20万kWeとした。
(ⅱ)燃料:実用炉としては将来目標を天然ウラン専焼炉としているが、あとに述べるように現段階では正のボイド係数の問題が解決されていないので、当面PuSS方式の炉を開発することとし、原型炉においては、初装荷燃料として1.5%微濃縮ウランを用いるとともに、プルトニウム富化天然ウラン燃料を約20本挿入して、PuSSを実証することとしている。
(ⅲ)炉心設計:500MWe級の実用炉プルトニウム炉心について最適設計を行ない、原型炉炉心はこれをモック・アップしている。
(ⅳ)構造:原子炉本体はカランドリア・タンク、圧力管、燃料、遮蔽体などで構成されている。カランドリア・タンクには減速材である重水が満たされており、圧力管は正方形格子に配置されたカランドリア管にそれぞれ挿入されている。燃料集合体はその圧力管内にあり、炉心下部より流入する軽水冷却材によって冷却される。冷却材は炉内で沸騰し、上昇管を通って、ドラムで気水分離され、蒸気はタービン系へ、水は下降母管を通り再循環ポンプにより再び炉内に送り込まれる。
燃料は、二酸化ウラン・ペレット、ジルカロイ被覆の燃料棒28本を束にしたクラスター型で、燃料サイクルの特徴を生かし、経済性を達成するため、運転中下方より燃料交換を行なう方式としている。
原子炉系は、このほか減速材の重水系、重水のカバー・ガスであるヘリウムの系統、カランドリア管と圧力管の間の熱絶縁のための炭酸ガスを循環する炭酸ガス系、原子炉冷却水の純度保持のための冷却材浄化系、原子炉系補機の冷却を行なう補機冷却系などがある。安全上の対策としては、炉心出力密度に余裕を持たせ、炉心全体を安全な設計とするとともに、大口径配管破断時のいわゆる冷却材喪失事故時にボイド反応度が過大なることを避けるため、冷却系は独立4ループとしている。また、格納容器は加圧水型軽水炉(PWR)ですでに使用されているものと同一の円筒型ドライ・コンテナーである。
(2)原型炉開発スケジュール
原型炉は、現在第二次概念設計を進めるとともに日本原子力発電株式会社の敦賀発電所敷地を建設候補地とし、建設に必要な現地調査を行なっている。原型炉の建設スケジュールは、表3-2のとおりで、昭和45年6月着工、昭和49年9月頃臨界の予定である。
(3)研究開発の成果と今後の計画
原型炉の設計、製作などに必要なものとして実施または計画中の研究開発の今までの実績、今後の予定およびこれらと原型炉建設計画との関連は、表3-3および表3-4(省略)のとおりである。
3.2 原型炉開発計画の妥当性
(1) 原型炉計画
ATR原型炉は、まず重水減速沸騰軽水冷却型動力炉プラントとしての機能を技術的に実現するとともに、PuSSを含む重水減速沸騰軽水冷却型炉の炉特性を確認することを主眼として設計されている。したがって、経済性を考慮した実用炉に比し若干保守的な設計となっており、原型炉による建設、運転の実績などの積み上げにより、経済性のある実用炉への発展を考えることとしている。
(2)原型炉の開発計画にかかわる技術的問題の解明の見通し
ATR原型炉は、軽水炉技術をベースとしており、とくに技術的に困難なあるいは基礎的に解明すべき問題は少なく、プラント・システム全体としての開発が主となるものであるが、初めての重水減速沸騰軽水冷却型動力炉として開発すべき個々の技術的問題としては、
(ⅰ)PuSS方式の実証
(ⅱ)設計データの精度の向上および実験的確認
(ⅲ)比較的未経験な圧力管、燃料集合体、燃料交換装置などの開発
などがあげられる。
これらについての動燃事業団の開発状況および今後の見通しは、次のとおりである。
(ⅰ)PuSSの実証
原型炉の炉心は(ⅱ)に述べる設計コードを用いて設計されているが、二領域臨界実験および重水臨界実験により原型炉の炉心設計データの確認を行なうこととしており、最終的には原型炉に装荷する約20本のプルトニウム燃料の燃焼過程の追跡などから、これを確認することとしている。
(ⅱ)炉心設計データ精度の向上および実験的確認
原型炉の第二次概念設計に先だち、わが国で開発したコードおよび英国より導入した設計コードを英国の臨界実験と対比して、設計に使用するコードを決定している。また、43年度より二領域臨界実験を行なって重水・軽水領域における一応のデータを得ており、今後さらに重水臨界実験により製作設計までにその精度を確認することとしている。また、流動伝熱特性についても、大型熱ループによる実規模実験を44年末より行なうこととして、この結果を設計に反映することとしている。
(ⅲ)圧力管、燃料集合体、燃料交換装置などの開発
圧力管については、カナダから技術情報を入手し、これを参考として異種金属との接合技術、その他試作による事前確認を行なうこととなっている。また、圧力管の照射効果、水素ぜい化、不安定破壊試験などの問題に対しては、各種炉外試験や日本原子力研究所材料試験炉(JMTR)を用い、カプセルおよび圧力管照射試験、腐食試験などを行なうが圧力管の長期にわたる変化については、原型炉運転後定期検査の際モニタリングを行ない、またサーベランス・テストを行なって材料の特性劣化をチェックしていくよう計画している。
燃料棒については、軽水炉の設計基準に準拠することで十分であり、開発の重点はアセンブリ関係にあると考えられる。アセンブリングの開発については、構造上の強さ、振動特性、フレツテング腐食、熱・水力学的な問題および照射とフレツテングとの相互作用が重点となる。これらのうち機械的あるいは熱的な問題は、大型熱ループおよびコンポーネント・テスト・ループで実寸模擬燃料集合体について行なう試験などにより、燃料製作開始前に必要なデータの確認を行なうよう計画している。照射とフレツテングとの相互作用については、ハルデンおよびJMTRにおいて重点的に試験を進め、その結果を燃料設計に反映する計画となっている。
実用炉に装荷される燃料は、その完全性が実証され、かつ十分な品質管理のもとに製造されていることが必須の条件であるが、完全性に関する統計的に有意なデータは、原型炉の運転実績にまたざるを得ないと考えられ、ATRの開発においても、原型炉における使用実績のフィード・バック、製造経験の積み重ねなどによる品質管理の確立などにより、はじめて完全性が確保されると考えるべきで、原型炉の初期装荷燃料が現在商用化されている軽水炉の燃料と同程度の完全性を期待することは無理であるが、当面検査設備の整備と検査方法の確立を図るとともに、材料強度その他の特性についての統計的バラツキを明確にし、設計に反映させることとしている。
燃料交換装置については、その製作設計前に第二次概念設計に基づく実規模の試作を行ない、その機能の確認を行なうこととしている。
以上は、原型炉に関する技術的問題およびこれらについての動燃事業団の研究開発の概要であるが、これらの技術は、部分的には英国およびカナダにおいてすでに実施ないし計画中のものもあり、動燃事業団の試作開発、研究施設による試験研究などにより、その技術的解決の見通しにおいて大きな困難が予想されるものはないと思われる。
原型炉の燃料集合体などの炉内での挙動については、完全性に関する統計的に有意なデータは原型炉の運転に期待せざるを得ないと考えられるが、事前の炉外試験および照射試験によりできるだけその完全性を高めることが重要なので、その開発を進めるにあたって、この点にとくに留意することが望ましい。
(3)開発スケジュール
開発スケジュールについては研究開発との関連も含め、技術的に著しい無理はないと認められるが、今後の計画の遂行にあたっては、動燃事業団およびその業務を受託する機関におけるマンパワーの問題がある。現在、各機関の予想される業務分担において、それぞれ所要の態勢が準備されているが、今後とも動力炉開発を円滑に進めるため技術者の確保には一層の努力を要すると思われる。
3.3 ATR実用炉の技術的見通し
ATR原型炉は、わが国で初めての経験でもあり、とくに安全に留意するとともに確実な運転をねらって若干保守的な設計となっており、軽水炉と同程度以上の経済性を有する実用炉の開発のためには、表3-5に例示するような設計の合理化が必要である。すなわちATRを実用化するためには、重水ダンプ代替システムの開発、カランドリア管・圧力管などの肉厚の減少、ピーキング係数の減少、冷却系のループ数の削減、燃料棒有効長の増加、燃料棒間隙および被覆管肉厚の減少などを図ることが必要である。
これらは技術的見地から飛躍的なものではなく、海外においてもすでに採用されようとしているものもあり、今後行なわれる重水臨界実験装置、大型熱ループ、コンポーネント・テスト・ループなどによる試験および安全性実験、その他実用炉につながる研究開発および原型炉の運転実績などによって実現可能であると考えられる。
3.4 天然ウラン専焼炉について
長期核燃料サイクル計算結果にも見られるように、FBRの実用化の頃(1980年代後半)からプルトニウムの供給源としての天然ウラン専焼炉の必要性が高まってくると思われる。
ATRの将来の開発目標である天然ウラン専焼炉については、当面正のボイド係数の問題があるが、PuSS炉の開発により重水炉の技術が一応確立された段階において、これを基礎として制御系、安全防護設備などの開発を行なうとともに、PuSS炉においても性能向上の面より考慮されている炉心内軽水量の減少(燃料棒間隙の縮少など)、炉心出口蒸気重量比の上昇にかかわる開発などを進めることにより、その必要とする時期までに技術的には実用化できる可能性があるものと考える。
第3-1表 ATR原型炉プラント主要仕様
定格電気出力(発電端) |
165MWe |
目標最大電気出力(発電端) |
200MWe |
原子炉定格熱出力 |
532MWt |
原子炉目標最大熱出力 |
630MWt |
発電端熱効率(165MWe時) |
31% |
1.原子炉設備
(1)原子炉本体
(イ) |
炉形式 |
重水減速沸騰軽水冷却型 |
|
|
|
(ロ) |
燃料 |
|
|
濃縮度 |
1.5w/o U235 |
|
装荷量(U) |
36.3t |
|
ペレット外径 |
14.80mm |
|
燃料被覆管材質 |
ジルカロイ-2 |
|
燃料有効長 |
3,700mm |
|
燃料棒本数 |
28本(燃料集合体当り) |
|
燃料集合体数 |
224本(予備含まず) |
|
平均燃焼度(U) |
約22,700MWD/tU |
|
〃 (Pu) |
約11,100MWD/tU |
|
|
|
(ハ) |
炉心 |
|
|
有効直径 |
4,060mm(圧力管ピッチ240mm) |
|
有効高さ |
3,700mm |
|
圧力管材質 |
ジルコニウム-ニオブ合金(2.5%) |
|
圧力管内径 |
117.8mm |
|
圧力管厚さ |
4.30mm |
|
カランドリア管材質 |
ジルカロイ-2 |
|
|
|
(ニ) |
制御棒およびブースター |
|
|
制御棒材質 |
不銹鋳鋼およびボロン・カーバイド |
|
本数 |
|
|
調整棒 |
5本 |
|
シム安全棒 |
48本 |
|
ブースター材質 |
濃縮ウランおよびアルミニウム |
|
ブースター本数 |
16本 |
(2)原子炉冷却系設備
運転圧力 |
69kg/cm2g |
運転温度 |
284.5℃ |
ループ数 |
4 |
再循環流量 |
9.2×106kg/h |
蒸気流量
(ドラム1基あたり最大) |
268,900kg/h |
(3)原子炉補助系設備
(イ)重水系統
(ロ)ヘリウム系統
(4)工学的安全防護設備
(イ)高圧注入系
(ロ)急速注入系
(ハ)低圧注入系
(ニ)格納容器ポンプ再循環系
(ホ)隔離冷却系
(ヘ)余熱除去系
(5)原子炉格納施設
格納容器形状 上下部半だ円形鏡円筒形
格納容器材質 炭素鋼
概略寸法 (H×64m×36mφD)
(6)放射性廃棄物処理設備
(イ)気体廃棄物処理系統
(ロ)液体廃棄物系統
(7)燃料取扱貯蔵設備
(イ)燃料交換装置
(ロ)燃料貯蔵設備
(ⅰ)燃料移送機
(ⅱ)燃料貯蔵プール
2.タービン発電機設備
(1)蒸気タービン
定格出力 165MWe
最大可能出力 200MWe
(2)発電機
容量 223MVA
第3-2表 新型転換炉原型炉建設工程法
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