原子力委員会は、日本原子力研究所から同研究所法第36条第2項の規定に基づく内閣総理大臣の指示(昭和42年3月13日付け42原第875号)第1項の規定により、承認申請のあった軽水臨界実験装置(TCA)の変更の安全性について、内閣総理大臣から3月14日付けで諮問を受けた。
以来安全性について、原子炉安全専門審査会に審査を指示し、5月15日に、同審査会長から安全性は確保しうる旨原子力委員長に報告がなされた。
委員会としては、審査会からの報告に基づき、5月16日の定例会議で検討を行ない、同日付けで内閣総理大臣あてに答申した。
TCAの変更計画の概要
1. 変更の内容
本変更は、天然ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料と従来の低濃縮二酸化ウラン燃料とともに2領域炉心として使用するもので、原子炉本体および付属施設は、従来のものに変更を要さない。
2. 変更の理由
天然ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料を使用する本実験は、プルトニウムの熱中性子炉への利用に関する原研と動燃事業団との共同実験の一環として実施されるものであり、軽水減速PuO2-UO2格子系の基礎的データを得るために行なわれる。
日本原子力研究所原子炉施設(軽水臨界実験装置)
の変更に係る安全性について(答申)
43原委第131号
昭和43年5月16日
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内閣総理大臣殿
原子力委員会委員長
日本原子力研究所原子炉施設(軽水臨界実験装置)
の変更に係る安全性について(答申)
昭和43年3月14日付け原第1229号(昭和43年5月9日付け43原第2518号をもって一部訂正)をもって、諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。
記
日本原子力研究所原子炉施設(軽水臨界実験装置)の変更に係る安全性に関し、同研究所が提出した「東海研究所原子炉施設の変更に係る安全性の審査に関する書類」(昭和43年3月11日付け43原研05第11号および昭和43年5月9日付け43原研05第25号をもって一部訂正)に基づき審査した結果、別添の原子炉安全専門審査会の安全性に関する報告書のとおり安全上支障がないものと認める。
日本原子力研究所原子炉施設(軽水臨界実験装置)
の変更に係る安全性について
原子炉安全専門審査会
昭和43年5月15日
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原子力委員会
委員長 鍋島直紹殿
原子炉安全専門審査会
会長 向坊 隆
日本原子力研究所原子炉施設(軽水臨界実験装置)
の変更に係る安全性について
当審査会は、昭和43年3月14日付け43原委第69号(昭和43年5月9日付け43原委第127号をもって訂正)をもって、審査の結果を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。
1 審査結果
日本原子力研究所原子炉施設(軽水臨界実験装置:TCA)の変更に係る安全性に関し、同研究所が提出した「TCAの変更に関する書類」(昭和43年3月11日付け申請および昭和43年5月9日付け一部訂正)に基づき審査した結果、本原子炉施設の変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。
2. 変更事項
(1)原子炉の型式を低濃縮ウラン・プルトニウム軽水減速型(従来低濃縮ウラン軽水減速型)に変更すること。
(2)本変更に伴う天然ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料を従来の低濃縮二酸化ウラン燃料とともに2領域炉心として使用すること。
(3)本変更に係る燃料を使用する場合には、最大過剰反応度を0.4%△k/k(従来0.5%△k/k)に変更すること。
3. 審査内容
(1)安全設計および安全対策
本変更に係る原子炉施設は、次のような安全設計および安全対策が講じられることになっており、十分な安全性を有するものであると認める。
(イ)炉心構成
炉心は、燃料要素、燃料支持板、格子板、格子板支持枠、制御安全要素等により構成され、実験の目的および方法によって燃料装荷量、格子配列、炉心挿入物が決定されるが、従来のものと炉心構造の変更はなく、燃料要素以外は、すべて既設の施設、構造が使用される。
燃料の炉内最大挿入量は、ウラン約1,200kg(235U約30kg)、プルトニウム約0.7kg(239Pu約0.64kg)である。
(ロ)燃料
本変更に係るウラン・プルトニウム混合酸化物燃料は、本体装置用および実験用に大別される。
本体装置用燃料要素は、PuO2(239Puの同位体比約92%)とUO2(天然)の浪合焼結ペレットを長さ約83cmのジルカロイ-2製の被覆管(肉厚約0.7mm)に入れたもので、両端を溶接封じとし、内外圧に対して、リークタイトにしている。
実験用燃料要素は、本体装置用と同様の混合焼結ペレットを長さ約157cmのジルカロイ-2製の被覆管(肉厚約0.75mm)に入れたものである。
これら燃料要素の製作に当っては、プルトニウムの漏洩の生ずる可能性がないように、設計、製作、検査等を行なうこととしている。
(ハ)燃料の取扱いおよび管理
燃料要素には、濃縮度および種類の異なる燃料が使用されるので、刻印、色刷等により判別管理が十分行なわれることになっている。
燃料要素の取扱いに際して、燃料要素を取り落すことはないと考えられるが、万一の落下を考慮しても安全上十分な対策がなされることになっている。
なお、プルトニウム燃料の使用の前後には、αサーベイを行ないα放射能の漏洩のないことを確認することにしている。
(ニ)動特性
本変更に係るウラン・プルトニウム混合酸化物燃料を装荷した本原子炉では、核・熱的性質は変更前と大差なく、減速材温度係数および減速材ボイド係数のいずれも負の反応度係数を持ち、かつ、ドップラ効果にもとづく負の反応度係数を持つので、反応度外乱に対しては、自己制御性が高い。
(2)平常時の被曝評価
前項で述べた通り、本委員に係る燃料要素は、厳格な品質管理のもとに製作されるので、漏洩にともなう内部被曝の生ずることはないと考える。
また、原子炉の運転中および燃料取扱いに伴う外部被曝線量は従来と変更ないものと考える。
従事者の年間被曝線量は、年間予定積算出力、燃料取扱い頻度、過去の運転実績等を勘案すれば約140mremとなると推定される。
よって、一般公衆および従事者の受ける被曝線量は許容値を十分下まわるものと認められる。
(3)事故評価
変更に係る本原子炉においても各種事故の検討の結果、運転特性、安全保護系などに関連する事故に対して安全性を確保しうると認めるが、仮想事故として、炉心タンク水位連続上昇事故を想定する。
すなわち、起動時に水位制限スイッチの不動作により、最大給水速度で給水が行なわれたとすると付加反応度は、0.02%△k/k/secとなる。
そこで次の仮定を用い線量を計算する。
① 出力計の故障か、運転員が出力上昇を感知しない。
② 核計装、水位制限スイッチ等による全てのスクラムが動作しない。
③ 運転員が、炉室内外に設置された放射線モニタ(設定値6mrem/hr)の警報によりはじめて事故を検知し、手動によりダンプ弁を開放する。
これの所要時間を約20秒とする。
④ ダンプ弁の開放より約20秒で原子炉は停止する。
この結果、放出エネルギーは約200MWsecとなり燃料温度の上昇は最高520℃程度となるが、燃料被覆の破損には至らない。
また、このような事故時において線量が最大になるのは、炉室建屋外近傍であって、その値は、約2.14remとなる。
したがって変更に係る本原子炉は敷地外の一般公衆に対して安全と認められる。
4. 審査経過
本審査会は、昭和43年3月18日第57回審査会において、次の委員よりなる第38部会を設置した。
三島 良績 |
(部会長) |
東京大学 |
竹越 尹 |
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電気試験所 |
渡辺 博信 |
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放射線医学総合研究所 |
審査会および部会においては、次表のように審査を行なってきたが、昭和43年5月9日部会において部会報告書を決定し5月15日第59回審査会において本報告書を決定した。

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