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関西電力株式会社美浜発電所
原子炉施設の変更について



 原子力委員会は、関西電力(株)から申請のあった美浜発電所原子炉施設の変更(2号炉増設)に関する原子炉等規制法に定める変更許可基準の適合について、内閣総理大臣から昭和42年11月28日付けで諮問を受けた。

 以来安全性については、原子炉安全専門審査会に審査を指示し、昭和43年4月10日に、審査会長から安全性は確保し得る旨原子力委員長に報告がなされた。

 さらに、委員会としては、審査会から報告があった安全性のほか、平和利用、計画的開発利用、経理的能力等についても、審査を行ない、変更許可基準に適合する旨4月11日の定例目議で結論を得、同日付けで内閣総理大臣あてに答申した。

  変更計画の概要

1. 変更の内容
 本変更は、すでに設置許可で行なわれている1号炉に隣接して2号炉を増設するためのものである。

 2号炉は、1号炉と同種の加圧水型(PWR)を採用し、熱火力146万キロワット、電気火力50万キロワットである。

 2号炉の構成機器設備は、1号炉と基本的に同じ標準設計のものを用いているが、熱出力は約40%増大している。

 主要施設のうち、中央制御室、管理室、特高開閉所等は、1号炉で計画したものを共同することになっている。

2. 工事計画
 2号炉の建設工事の予定は、昭和43年5月に着工し、昭和46年10月燃料装備、昭和47年7月運転開始である。

 工事の主建設者は、三菱原子力工業(株)で、1号炉で輸入となっていた圧力容器、蒸気発生器、主要配管等も国産されることになっている。

3. 建設費等
 2号炉建設に要する資金は、約360億円(燃料を含まず)であり、そのうち輸入部分は、約801億円である。

 発電単価は、1KWH当り初年度2円70銭である。
関西電力(株)美浜発電所原子炉施設の設置変更について(答申)

43原委第101号
昭和43年4月11日

  内閣総理大臣殿

原子力委員会委員長

関西電力株式会社美浜発電所原子炉施設の設置変更について(答申)

 昭和42年11月28日付け42原第5560号(昭和43年3月14日付け43原第1383号および昭和43年4月11日付け43原第1942号をもって一部訂正)をもって、諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。

 関西電力株式会社美浜発電所原子炉施設の変更(低濃縮ウラン、軽水減速、軽水冷却の加圧水型、熱出力1,456MWの原子炉1基の増設)に関し、同社が提出した変更の許可申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法待第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。

 なお、各号の基準の適合に関する意見は別紙のとおりである。

 別紙
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準の適合に関する意見
(平和利用)
1 本変更に伴ない設置される原子炉は、一般電気事業を営むために用いられるものであって、平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める。

(計画的遂行)
2 本変更は、「原子力開発利用長期計画」に定める方針にのつとっており、将来のエネルギー供給の安定を図る上で十分な意義を有するものと考えられるので、この原子炉の設置がわが国の原子力開発および利用の計画的な遂行に支障をおよばすおそれがないものと認める。

(経理的基礎)
3 本変更に必要な資金については、自己資金、外資借入れ、日本開発銀行を含む国内金融機関からの借入れ等により調達する計画になっているが、その計画内容からみて調達可能と考えられるので、原子炉の設置変更をするために必要な経理的基礎があるものと認める。

(技術的能力)
4 別添の原子炉安全専門察査会の審査結果のとおり、この原子炉の設置変更を行ないその運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があるものと認める。

(災害防止)
5 別添の原子炉安全専門審査会の審査結果のとおり本変更は核燃料物質、核燃料物質によって汚染された物または原子炉による災害の防止上支障がないものと認める。
関西電力株式会社美浜発電所原子炉施設の変更(2号炉増設)に係る安全性について

原子炉安全専門審査会報告書
昭和43年4月10日

昭和43年4月10日

 原子力委員会
  委員長 鍋島直紹殿

原子炉安全専門審査会
会長 向坊  隆

関西電力株式会社美浜発電所原子炉

 施設の変更(2号炉増設)に係る安全性について当審査会は、昭和42年11月30日付け42原委第287号(昭和43年3月14日付け原委第70号をもって訂正)をもって、審査の結果を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。

 Ⅰ 審査結果

 関西電力株式会社美浜発電所原子炉施設の変更(低濃縮ウラン、軽水減速、軽水冷却の加圧水型原子炉1基を増設)に関し、同社が提出した「美浜発電所原子炉施設変更許可申請書」(昭和42年11月28日付け申請、および昭和43年3月11日付け訂正)に基づいて審査した結果、本原子炉施設の変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

 Ⅱ 審査内容

1. 変更計画の概要
 本変更は先に設置許可を受けた美浜発電所に、新たに第2号原子炉を設置しようとするもので、立地条件および施設の概要は次の通りである。
1.1 立地条件
 本変更に伴ない増設される原子炉(以下2号炉という。)は現在建設中の原子炉(以下1号炉という。)に隣接して設置されるもので、敷地および周辺環境の状況、敷地附近の地質、海象、気象および地震活動性からみた立地条件は本変更においても変ることはない。

 2号炉設置の支持地盤は、試掘横坑の掘削や、原子炉設置予定位置の掘削を行なって精査した結果、十分な支持耐力を有するものであることが確認されている。

 また、1、2号炉を合わせた淡水所要量は、約3,000m3/日となるが、原水取水源としている落合川および馬背川の両河川から渇水期にも約4,000m3/日以上の取水ができるので、必要な用水は十分確保される。

 復水器冷却用水は、丹生湾奥から取水し、外海側へ放水される。

1.2 原子炉施設
 2号炉は、熱出力約1,456MW(電気出力約500MW)の加圧水型である。

 炉心部は、円筒形鋼製圧力容器に収められ、燃料としては、従来の加圧水型原子炉で用いられるものと同様な、低濃縮ウランペレットをジルカロイ-4被覆管に詰めた燃料要素を集合体に組立てたものが使用される。

 その装荷量は、ウラン約48トンである。

 制御棒は、銀-インジウム-カドミウム合金をステンレス鋼被覆管に収めたもので、その16本をクラスタ状にして、燃料集合体の中に挿入される。

 制御棒の駆動は原子炉の上方からラッチ式磁気ジャッキにより行ない、緊急停止時には自然落下させる。

 さらに、一次冷却材中のほう素濃度を調整して反応度制御を行なう化学・体積制御設備が設けられる。

 なお、この設備は、非常用制御設備としての役目も果すようになっている。

 冷却系としては、原子炉から蒸気発生器への1次系2回路および蒸気発生器からタービンへの2次系1回路が設けられる。

 原子炉格納施設としては、原子炉本体および1次冷却系を収容する鋼製格納容器が設けられるほか、その外周にコンクリート壁が設けられ、両者の間の下半部を二重格納構造のアニュラス部としている。

 そのほか、放射性廃棄物処理施設、放射線管理施設等が設けられる。
2. 安全設計および安全対策

 本変更にかかる原子炉施設は、次のような種々の安全設計および安全対策が講じられることとなっており十分な安全性を有するものであると認める。

2.1 核、熱設計および動特性
 本原子炉は、減速材温度係数と燃料のドップラ効果にもとづく負の反応度出力係数を持つので、反応度外乱に対して自己制御性が高い。

 なお、減速材温度係数が炉心寿命の初期において、正になることが予測されるが、その絶対値は小さく、過渡現象はドップラ効果によって十分おさえられ、安全制御上問題ないと考える。

 また、1号炉に比べ2号炉の炉心有効長が長くなることにより、炉内でのXeによる出力分布の空間振動の可能性が予測されるが、解析の結果、振動は発散性でなく、また周期の長いものであり、さらに、中性子吸収材を一部に入れた出力分布調整用制御棒により抑制できるので十分安全に対処しうる。

 1次冷却材の圧力および温度は、定格出力運転時においてそれぞれ約157kg/cm2・gおよび約324℃であり、燃料の最高線出力密度は約51kW/mで、最高被覆温度および最高中心温度は、それぞれ約400℃および約2,200℃である。

 また、この時の最小限界熱流束比(DNB比)は、約1.83である。

 仮に、設計過出力(112%)の場合でも、燃料の最高中心温度は約2,400℃で溶融点よりかなり低く保たれ、DNB比は、1.30以上である。
2.2 燃料
 燃料棒は、二酸化ウランペレットを長さ約3.8mのジルカロイ-4製の被覆管(肉厚約0.62mm)に入れたものであり、制御棒案内管および計測用管とともに14×14に組立てた無側板型の集合体が使用される。

 燃料棒は、制御棒案内管に固定された支持格子により横方向が支持され、軸方向には自由に膨脹を許し、変形および振動を防止するような設計となっている。

 燃料被覆管はペレットによる内部からの支持がなくとも外圧によってつぶれることのない自立性の設計であり、燃料棒上部に設けられるプレナム体積も、最高燃焼度48,000MWD/tに応じて核分裂生成ガス等の蓄積により過大な内圧上昇をもたらさないように十分大きくとってある。

2.3 計測および制御系
(1) 核計測系
 中性子束は、圧力容器外周に配置された検出装置により測定される。

 また、炉内に置かれた可動小型検出器により必要に応じて中性子束分布が測定される。

(2)安全保護系
 安全保護系は、外重チャンネル構成で、中性子束、原子炉圧力等重要な測定に対して“2 out of 3”方式などの論理回路を形成し信頼度を高め、さらに電源喪失、回路の断線等に対してフエイルセイフの機能をもたせて、安全性を高めるよう配慮されている。

(3)反応度制御系
① 反応度制御の方法
 反応度制御系は、制御棒クラスタおよび化学、体積制御設備よりなる。

 前者は、その位置調整により原子炉の出力変化および高温停止に必要な反応度制御を行なうとともに、スクラム操作にも使用される。

 後者は、1次冷却材中のほう素濃度調整により燃料の燃焼、核分裂生成物の毒作用による比較的緩慢な反応度変化に対する補償と低温停止時における余剰反応度の吸収に使用されるほか、非常用制御設備の機能も有する。

 初装荷炉心および平衡炉心の実効余剰増倍率は、それぞれ0.24(△K)以下および0.19(△K)以下で、最も反応度効果の大きい制御棒クラスタ1本が炉心に挿入できない場合でも制御系の反応度抑制効果は、実効増倍率の変化にして、それぞれ0.25(△K)以上および0.20(△K)以上〔うち、いずれも制御棒クラスタ約0.05(△K)〕であり、常に炉心の実効増倍率を0.99以下に抑えるだけの停止余裕があるよう設計される。

 さらに、運転中常に必要な停止余裕を確保するため、制御棒クラスタが挿入位置限界値に近づいたとき、停止余裕監視装置により、警報を発するよう設計される。

② 制御棒クラスタ
 制御棒クラスタの位置調整は、磁気ジャッキ式駆動装置により上方から駆動されるが、スクラム動作は、制御棒クラスタが自重で炉心内に落下することにより行なわれる。

③ 化学・体積制御設備
 ほう素濃度の調整は、化学・体積制御設備により、1次冷却材の注入、抽出およびイオン交換によって行なわれるが、いずれの場合も濃度の変化にもとづく原子炉の反応度変化は緩慢で、原子炉の運転制御に支障を与えることはない。

④ 出力制御系
 原子炉の出力は、蒸気発生器入口および出口における1次冷却材平均温度が負荷に応じた値をとるように制御棒クラスタの位置の調整により自動制御される。

⑤ 加圧器
 加圧器は、±5%/分のランプ状、±10%のステップ状負荷変化に対しても、1次冷却材圧力を許容範囲内に制御する機能を有する。

 また,加圧器上部には安全弁および逃がし弁を設けて、1次冷却系の異常圧力上昇を制限する。

⑥ 中央制御室
 中央制御室には、原子炉施設の運転に重要なすべての計測制御装置が設備されており、事故時においても運転員が安全に所要の措置をとり得るように遮蔽、換気等の放射線防護上の配慮がなされている。
2.4 原子炉冷却系
(1) 圧力容器および1次冷却系配管
 圧力容器および配管は、わが国の法令に決める基準を満足するように設計、製作される。また、材料の疲労および応力集中などについて解析を行ない、これらに十分耐えることを確認することになっている。

 これらに、圧力容器は、圧力を受けている間容器の温度をNDT+33℃以上に保つようになっている。

 なお、中性子照射によるNDT値の上昇については、圧力容器内に照射試料を挿入し、定期的に監視することになっている。

(2)安全注入設備等
 安全注入設備は、蓄圧注入、高圧注入および低圧注入の三つの系統からなり、1次冷却材喪失時故時にほう酸水を圧力容器に注入し、燃料温度の過度の上昇を防止して、燃料の損傷、溶融、燃料被覆管のジルコニウム-水反応を防止する機能を有する。

 ポンプおよび配管は多重性を持たせた設計とし、ポンプの電力は非常用電源からも供給される。

 また、余熱除去設備により原子炉停止後の崩壊熱除去を行なうほか、2次冷却系には蒸気ダンプ設備を設けている。

2.5 燃料取扱系
 燃料取替は、原子炉上部のキャビティにほう酸水を水張りし、水中で燃料取扱設備を用いて行なわれる。

 燃料取替中は、仮に、制御棒クラスタが全部取出されたとしても、原子炉を未臨界に保てるようほう素濃度が調整される。

 使用済燃料貯蔵水槽は、原子炉補助建家内に設けられ、4/3炉心相当以上の貯蔵容量を有し、使用済燃料を鉛直に保持して水中貯蔵するようになっている。

2.6 廃棄物処理
(1)気体廃棄物
 本原子炉から発生する気体廃棄物の大部分は、1次冷却材中のほう素濃度を変更する際の排水とともに出てくるもので、ガス減衰タンク4基およびフィルタを通し、放射能レベルの連続測定後原子炉格納容器端の約55m高さの排気筒から放出される。

(2)液体廃棄物
 液体廃棄物は、液体廃棄物処理施設で処理されるが、汚染された廃水は、ごく低レベルのものを除き、放出されない。

 ごく低レベルのものは、復水器冷却水で希釈して放出される。

 その濃度は、わが国の法令に定める許容値以下にすることとしている。

(3)固体廃棄物
 使用済樹脂、蒸発濃縮器廃液等は、放射能を減衰させたのち、ドラム罐詰めにして一時貯蔵保管される。

 なお、これらを海洋投棄する場合は、関係官庁の承認を受けることとしている。

2.7 放射線管理
(1)放射線遮蔽等
 遮蔽については、従業員の作業時間に応じ、その被ばく線量が、法規に規定された許容値を十分下まわるように設計される。

 換気系は、主要な場所ごとに別系統となっており、事故時における放射能汚染の拡大防止等について十分配慮されることになっている。

 なお、本変更に伴なう工事を実施するに当っては、1号炉からの放射線による被ばくについても十分対策が講じられることになっている。
(2)放射線監視
  発電所敷地内における放射線監視は、固定モニタによる中央制御室での連続監視、移動モニタによる定期監視、サンプリング測定等によって行なわれる。

 また、個人の被ばく管理に必要な機器も備えられる。

 敷地外の放射線監視については、敷地境界附近および周辺の適当な場所に設置したモニタリングポストでの積算線量の測定および排水モニタによる連続監視が行なわれ、さらに、放射能観測車も備えられる。

 これらにより、周辺一般公衆の被ばく線量が法令に定める許容値を越えないことを常に確認することになっている。

 なお、これらの放射線監視は、ほとんど1号炉と共通でおこなわれる。

2.8 放射性物質の放出防止
 事故時においても、周辺環境に大量の放射性物質が放散されないように次のような配慮がなされている。
(1)原子炉格納施設
 原子炉格納施設は、鋼製格納容器およびその外周コンクリート壁からなり、両者の間の下半部は密閉格納構造のアニュラス部を構成し、原子炉施設の主要部分は、この原子炉格納容器内に収容される。

 また、格納容器を貫通する配管および配線はアニュラス部に集められる。

(2)原子炉格納容器空気再循環設備
 この設備は、除湿装置、高効率エアフィルタ加熱コイル、冷却コイルおよび循環送風機ならびによう素フィルタからなり、通常運転中は原子炉格納容器内の空気の温度調整および除塵を行なう。

 また、1次冷却材喪失事故時等には原子炉格納容器内圧の減少をはかるとともに、原子炉格納容器内に浮遊する核分裂生成物(とくによう素)の除去を行なうようになっている。

(3)アニュラス排気設備
 アニュラス排気設備は、フィルタ装置および排風機からなり、この設備によりアニュラス部を常に負圧に保つとともに、原子炉格納容器内に放射性物質が放出されるような事故時には、アニュラス部の空気をフィルタで濾過したのち排気筒から放出する。

(4)隔離弁
 原子炉格納容器を貫通する主要な配管には隔離弁を設け、事故時に放射性物質が外部に漏洩しないように設計されている。

(5)原子炉格納容器スプレ設備
 原子炉格納容器内部にはスプレ設備を設け、1次冷却材喪失事故時に、原子炉格納容器内圧の減少をはかる機能を有している。

2・9 安全防護設備の機能確保
(1)非常用電源
 2号炉に必要な電力は、主発電機または、275kV母線から供給されるが、予備電源として77kV系送電線からも受電できる。

 これらの電源がすべて喪失しても、原子炉施設の安全確保に必要な電力は、ディーゼル発電機および所内 バッテリ系から供給できるようになっている。

(2)保守点検
 原子炉安全保護回路、安全注入設備、原子炉格納容器スプレイ設備、原子炉格納容器空気再循環設備および原子炉格納容器の気密を保持するに必要な隔離弁等は、原子炉施設の耐用期間を通じて、その機能を確認するため、運転中あるいは停止中に点検または試験ができるようになっている。

 また、原子炉格納容器の漏洩率は、定期的に測定されることになっており、かつ、配管、配線貫通部は、漏洩検出のための試験ができるようになっている。

2.10 耐震上の考慮
 原子炉施設は、1号炉の場合と同様に、原則として剛構造とし、重要な建物、構造物は直接岩盤に支持される。

 すべての施設は、安全上の重要度に従って、A、BおよびCの3種のクラスに分類され、それらに応じて耐震設計が行なわれる。

 原子炉、原子炉格納施設等のように、その機能喪失が原子炉事故をひきおこすおそれのある施設および周辺公衆の災害を防止するために緊要な施設は、Aクラスとする。

 Aクラスの建物、構築物の耐震設計は、基盤における最大加速度が少なくとも300ガルの地震波により動的解析を行なって求められる水平震度ならびに建築基準法に示された水平震度(この場合、地域による低減は行なわない。)の3倍を下回わらない値によって行なわれる。

 鉛直震度は、建物、構築物の高さ方向に一定とし、それらの基礎底面における水平震度の1/2を下回わらない値とする。

 この場合、水平および鉛直方向の地震力は、同時に作用するものとする。

 Aクラスの機器・配管類については、運転時の応力と地震力による応力を加え合わせた場合について、応力集中および材料の弾性、そ性等を考慮した解析により耐震設計が行なわれる。

 この場合 の水平震度は、前記の地震波に対する動的解析によって求められる値とし、かつ、据付位置における支持構築物に関し、建築基準法に示された水平震度の3.6倍を下回わらない値とする。

 鉛直震度は、建物、構築物に対する値の1.2倍とし、水平および鉛直方向の地震力は同時に作用するものとする。

 また、機器、配管類の振動によって生ずる変位、変形は機能の保持に支障のないものとする。

 次に、原子炉格納容器、原子炉停止装置、ほう素制御系等のように安全対策上特に緊要な施設については、Aクラスの扱いのほかに、その機能が保持されることを確認するために、基盤における最大加速度が少なくとも400ガルの地震波による動的解析を行なう。

 特に原子炉格納容器については、設計用地震時応力と事故時の内圧・温度条件との組合せに対してもその機能を保持することが確認される。

 また、原子炉補助建屋、廃棄物処理系等のように高放射能性物質に関する施設は、Bクラス、その他の施設はCクラスとし、それぞれに対し1号炉の場合と同様の耐震設計が行なわれることになっている。

 なお、地震の際には、原子炉を非常停止させるため、地震加速度検出計を設け、自動的に原子炉を停止することができるようになっている。

3. 平常運転時の被ばく評価

 平常運転時における被ばく評価は、次のとおりであり、敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものと認める。

3.1 気体廃棄物
 気体廃棄物の放出に当っては、周辺監視区域外における年間被ばく線量が法規に定める値をこえないようにすることはもちろんのこと、気象条件を考慮して放出管理を十分に行ない、できるだけ被ばく線量を少なくすることにしている。

 平常運転時の最悪条件として、燃料被覆の破損率を5%と仮定し、このような条件が、1年間継続して、ガス減衰タンクで45日間減衰したのち、大気中に放出された場合の放射性物質の量を計算すると、希ガスで年間最大約10,500Ciとなる。

 仮りに、これが同一方向に放棄されるとし、年間の気象データー、建物による風の吹きおろし効果を考慮して、敷地境界の年間積算線量を計算すると、最大値は許容値(500mrem/年)の約1/14、また1、2号炉を合わせても約1/8である。

 なお、敷地内外において放射線監視設備を設けて十分な監視を行なうこととしている。

3.2 液体および固体廃棄物
 安全設計および安全対策の項で述べたように液体廃棄物および固体廃棄物の廃棄については、十分な安全対策を講じることになっている。

4. 各種事故の検討

 2号炉において発生する可能性のある反応度事故および機械的事故について検討した結果、それぞれ次のような対策が講じられており、2号炉は十分な安全性を確保しうるものであると認める。

4.1 反応度事故
(1)制御棒クラスタ引抜事故
 運転員の誤操作または機器の誤動作により、最大反応度効果を有する制御棒クラスタ1本を最大速度で連続的に引き抜いても、核的逸走は負の出力係数でおさえられ、かつ、中性子束高スクラムにより原子炉は停止されるので、燃料被覆が破損することはない。

(2)ほう素希釈事故
 運転員の誤操作または化学・体積制御系機器の誤動作による炉心内のほう素濃度の減少にもとづく反応度添加率は、制御棒クラスタの連続引抜きによる反応度添加率より小さい。

(3)制御棒クラスタ落下事故
 運転中に最大反応度効果を有する制御棒クラスタ1本が落下し、中性子束分布に歪みが生じても、制御棒の落下を検出し、「自動制御棒引抜き阻止インターロック」で制御棒の引き抜きを阻止し、タービン負荷の自動切下げを行ない、安全に原子炉の運転を継続できる。

(4)制御棒クラスタ遠出事故
 制御棒クラスタ駆動機構の圧力ハウジングが破損し、制御棒クラスタ1本が瞬時に抜け出しても、運転中は制御棒クラスタがほぼ引き抜かれた状態にあるため、それによる反応度添加量は、小さく、他の制御棒クラスタにより、原子炉を停止できる。

(5)燃料取替事故
 燃料の取替中、運転員の誤操作もしくは機器の誤動作により、燃料集合体が炉心に落下しても、水中のほう素濃度が高いので、臨界に達することはない。

4.2 機械的事故
(1)1次冷却材流量喪失事故
 原子炉運転中、1次冷却材ポンプが機械的故障、電源喪失あるいは、運転員の誤操作により、2台同時に停止しても、1次冷却材流量低スクラム、または1次冷却材ポンプ電源喪失スクラムにより原子炉は停止し、系の慣性により1次冷却材流量は急激に減少しないので、燃料被覆が破損することはない。

(2)1次冷却材喪失事故
 1次冷却系配管が破断し、充てんポンプによる加圧器水位の維持が困難となれば、原子炉圧力の低下により蓄圧ダンクが作動し、また、加圧器水位低と原子炉圧力低の両信号により高圧および低圧安全注入系が作動するとともに、スクラムにより、原子炉は停止し、燃料の過熱をおさえる。

 この事故により、燃料被覆の一部が破損しても、燃料から放出される核分裂生成物は、その量が僅かで、原子炉格納容器内に保留され、原子炉格納容器空気再環環設備で除去される。

 希ガス等原子炉格納容器から漏洩したものは、アニュラス排気設備を経て排気筒へ導かれる。

(3)蒸気発生器細管破損事故
 蒸気発生器の細管破損により、1次冷却材が2次系へ流出すると、蒸気発生器のブローダウン配管と空気エゼクタの2個所に設けた放射線モニタにより事故を検出し、原子炉を停止するとともに、空気エゼクタを停止し、かつ、細管が破損している蒸気発生器を2次側蒸気隔離弁により分離する。

(4)主蒸気管の破断事故
 主蒸気管が破断すると、蒸気発生器での熱交換量が急増し、原子炉出力は異常に増加するが、中性子高スクラムあるいは、1次冷却材可変温度高スクラムにより原子炉は停止する。

 なお、放出される蒸気には、放射性物質は含まれない。

(5)燃料取扱事故
 燃料の取扱中、使用済燃料が装置の故障で落下し、一部が破損しても、損作はすべて原子炉格納容器内または、原子炉補助建家内の水中で実施されるので、水中から放出される核分裂生成物の量は僅かであり、さらに換気設備により濾過した後、排気筒から放出される。

(6)気体廃棄物処理設備の破損事故
 気体廃棄物処理設備の配管やタンク等が破損しても放射性気体は、換気設備により濾過した後、排気筒を経て放出される。

 この場合、敷地周辺の公衆に対する被ばく線量は低いので支障がない。

(7)その他の事故
 制御棒クラスタ駆動装置、主要弁類、蒸気発生器2次側給水設備等の故障または誤動作、復水器真空度の低下、電源の喪失等があっても、いずれも十分な対策がなされている。

5. 災害評価

 2号炉は、すでにのべたように、種々の安全対策が講じられることになっており、かつ、各種事故に対しても検討の結果安全を確保し得るものと認めるが、さらに、「原子炉立地審査指針」に基づいて、重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりで、解析に用いた仮定は妥当なものであり、その結果は立地指針に十分適合しているものと認める。

5.1 重大事故
 重大事故として、1次冷却材喪失事故および蒸気発生器細管破損事故の二つの場合を想定する。

(1)1次冷却材喪失事故
 圧力容器に接続している最大口径の配管である1次冷却系配管(内径約70cm)1本が、原子炉入口ノズル附近で瞬時に破断し、破断口両端から1次冷却材が放出される事故を想定する。

 解析の結果では、二酸化ウランの溶融温度に達することなく、また燃料被覆がジルカロイの溶融温度に達することはない。

 ただし一部は被覆管の破損を起こすと予想される約600℃をこし、さらに炉心内のジルコニウムの数%は水と反応する。

 原子炉格納容器内の圧力は1次冷却材の放出により急上昇するが、原子炉格納容器空気再循環設備および原子炉格納容器スプレ設備により冷却され、設計圧力をこえることなく、事故後約3時間以内に内圧はほぼ大気圧近くまで減少する。

 そこで核分裂生成物の放散過程に従って、次の仮定を用いて計算する。
① 燃料ペレットは溶融温度に達することはないが、燃料被覆管の破損により全炉心に内蔵されている核分裂生成物のうち、希ガス2%、よう素1%、固体分裂生成物0.02%相当分の放出があるものとする。

 なお、燃料外に放出されたよう素のうち10%は有機よう素であり、また、残りの無機よう素の50%は格納容器壁面等に吸着されるものとする。

② 原子炉格納容器内に浮遊するよう素は、原子炉格納容器空気再循環設備のよう素フィルタにより大部分が除去されるが、その除去効率は、無機よう素に対して90%、有機よう素に対して70%とする。

③ 原子炉格納容器からの漏洩率は、事故後24時間まで0.1%/日、それ以降30日まで0.045%/日とする。

④ 原子炉格納容器からの漏洩は、その90%が配管や配線の貫通するアニュラス部に生じ、また10%は原子炉格納容器ドーム部に生ずるものとする。

 なお、アニュラス部に漏洩したものは、アニュラス排気設備により、よう素フィルタを通して排気筒に導びかれるが、このよう素フィルタの除去効率は90%とする。

⑤ 大気中への拡散に用いる気象条件は、排気筒の高さ、現地の気象データをもとに「原子炉安全解析のための気象手引」(以下気象手引という)を参考にして、高さ55m以下均一分布、拡散幅30°、有効拡散風速2m/secとする。
 以上の解析の結果、大気中に放出される放射能はよう素が約1.5Ci(I-131換算、以下同様)、希ガスが約2,560Ci(0.5MeV換算、以下同様)である。

 敷地外で線量が最大となるのは敷地境界(原子炉中心から約700m)であって、その地点における線量は、甲状腺線量(小児)が約0.08rem、全身に対して約0.19remである。

(2)蒸気発生器細管破損事故
 蒸気発生器細管の1本が破断し、1次冷却材が2次側へ流出して、その中に含まれる核分裂生成物が空気エゼクタを経てタービン建家内に放出される事故を想定する。

 事故を検知してから原子炉を停止し、1次例の除熱と減圧を行なった後2次側蒸気融離弁を閉止する。

 それまでに約22分を要するが、1次冷却材の2次側への流出は、全保有量の約1/3である。

 そこで次の仮定を用いて線量を計算する。
① 1次冷却材中のよう素-131の濃度は5μci/cc(燃料被覆に5%相当の欠陥がある状態で定格出力運転を行なっている時の平衡濃度に相当)とする。

② 2次側へ流出した1次冷却材中に含まれる核分裂生成物のうち、希ガスは全部が、またよう素は一部が(気相→液相の分配係数を100とする)空気エゼクタを経て、タービン建家から放散されるものとする。

③ 大気中への拡散に用いる気象条件は、現地の気象データをもとに気象手引を参考にして、英国気象局法を用い、地上拡散、安定度型、拡散幅30°、有効拡散風速2m/secとする。
 以上の解析の結果、大気中に放出させる放射能は、よう素が約5Ci、希ガスが約14,500Ciである。

 敷地外で線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉中心から約700m)であって、その地点における線量は、甲状腺(小児)に対して、約2.5rem全身に対して約1remとなる。

5.2 仮想事故
 仮想事故としても、重大事故と同様、二つの事故の場合を想定する。

(1)1次冷却材喪失事故
 仮想事故としては、重大事放と同じ事故について安全注入設備の炉心冷却効果を無視して、炉心内の全燃料が溶融したと想定する。

 また原子炉格納容器空気再環境設備、原子炉格納容器スプレ設備およびアニュラス排気設備の効果については、重大事故と同じと仮定する。

 この場合、炉心内のジルコニウムの多量が水と反応するが、原子炉格納容器内の最高圧力は、重大事故の場合とほぼ同じである。

 線量を、重大事故の場合と同様に仮定して、計算する。

 ただし、次の仮定は重大事故の場合と異なっている。
① 炉心の100%溶融により、内蔵されている核分裂生成物のうち希ガス100%、よう素50%、固体核分裂生成物1%相当分が原子炉格納容器内に放出される。

② 原子炉格納容器からアニュラス部へ漏洩して、アニュラス排気設備で濾過されるもの、および原子炉格納容器ドーム部から漏洩するものは、いずれも地表面から放出されると仮定する。

③ 大気中での拡散に用いる気象条件は気象手引を参考にして、英国気象局法を用い、安定度F型、拡散幅30°、有効拡散風速2m/secとする。
 以上の解析の結果、大気中に放出されるものは、よう素が約75Ci、希ガスが約128,000Ciとなる。

 敷地外で線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉中心から700m)であって、その地点の線量は、甲状腺(成人)に対して約4.3rem、全身に対して約12.3remである。

 また、全身被ばく線量の積算値は2.4万人-remである。

(2)蒸気発生器細管破損事故
 重大事故の場合と同じ事故について、2次側蒸気隔離弁が閉止されず1次冷却材中の核分裂生成物の全量が2次側へ流出すると想定する。

 そこで重大事放と同じ仮定を用いて線量を計算する。

 解析の結果、大気中に放出される放射能は、よう素が約15Ci、希ガスが約43,000Ciである。

 敷地外で線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉中心から700m)であって、その地点における線量は、甲状腺(成人)に対して約2rem、全身に対して約3.1remである。

6. 技術的能力

 申請者は長年にわたり、原子力発電に関する調査および原子力発電所の建設準備を行なってきており現在、美浜発電所1号炉の建設を行なっている。

 発電所の運転に当っては2号炉の運転開始時、約220名の技術者を予定している。

 これらの技術者については、現在1号炉の建設に従事している者に加えて、今後さらに国内の諸機関を活用して、養成訓練を行なうほか、海外の原子力関係諸施設へ派遣するなど、技術的能力の確保を図っている。

 2号炉運転要員については、1号炉の運転を通じ、また2号炉の試運転期間中に所要の教育訓練を実施することになっている。

 なお、2号炉の建設に当っては、三菱原子力工業株式会社が原子炉機器、タービン発電機および技術役務の供給ならびに据付を行なうことになっている。

 又、同社はWH社と技術提携し、1号炉の建設に当ってはWH社の下請業者として参加しており建設経験を持っている。

 これらの点から、2号炉を設置するために必要な技術的能力および運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があると認める。

  Ⅲ 審査経過

 本審査会は、昭和42年12月6日第53回審査会において、次の委員よりなる第36部会を設置した。
   内田 秀雄 (部会長)  東京大学
   安藤 良夫  東京大学
   江藤 秀雄  放射線医学総合研究所
   表 俊一郎  建築研究所
   川崎 正之  日本原子力研究所
   川瀬 二郎  気象庁
   後藤清太郎  電力中央研究所
   吹田 徳雄  大阪大学
   竹越  尹  電気試験所
   都甲 泰正  東京大学
   久田俊彦 (第55回審査会から)  建築研究所
   三島 良績  東京大学
   渡辺 博信  放射線医学総合研究所

 同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行なうこととし、昭和42年12月23日第1回会合を開き、審査方針を検討するとともに、A(炉関係)、B(装置・プラント関係)、C(環境関係)の各グループを設置して、審査を開始した。

 以後、部会および審査会においては、次表のように審査を行なってきたが、昭和43年4月4日の部会において部会報告書を決定し、4月10日第58回審査会において、本報告を決定した。

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