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食品照射専門部会中間報告



 食品照射専門部会は、昭和40年12月21日以降食品照射研究の推進方策について、研究推進上の問題点および研究推進の具体策を審議してきたが、現段階までにとりまとめた中間報告書を41年7月5日提出した。

食品照射専門部会中間報告書

 食品照射専門部会は、食品照射研究の推進方策について、研究推進上の問題点および研究推進の具体策を審議するに当り、次項審議経過に記述する如く、現在外国で許可され実用化されつつある2品目について第1小委員会を、その他の品目については第2小委員会を設置して、それぞれ本部会からの審議要望事項を検討せしめた。

 本部会はこれら小委員会からの報告を受けて検討した結果、大要以下の結論に達した。

 即ち、海外で実用化の段階にある馬鈴薯、たまねぎについては、3ヵ年計画の初年度として42年度より予算措置を講じ、組織的に研究を実施することにより、研究体制を確立して、これら品目の試験研究をして実用化のための先駆的役割を持たせることが適当である。

 なお、馬鈴薯、たまねぎ以外の食品については、問題点摘出の第一段階の検討を行ない、研究開発の具体策について審議に入ったが、特に42年度からとり上げる対象品目は、わが国独特の研究対象である米をとりあげて推進することが適当である。

 その他の品目については、基礎的な研究を更に進め、また、米以外の品目で日本独特の食品や輸入の可能性の大きい照射食品等を優先的にとり上げ、その推進方策を引き続き検討する計画である。

審議経過

Ⅰ 部会運営の基本的態度
(1)安全性について
 照射食品においては、その安全性が重要な問題となるが、法規上の安全性の許可基準そのものを本部会において検討するというのでなく、その基準をきめる前の段階で問題による点を認識し、組織的な研究を行なうべきである。

(2)研究推進方策について
 本研究を推進させる方策として、品目を選定し、重点的な研究を行なうことが有効な方法と考えられる。

 品目の選定方法としては、第一に、現在外国で許可されている品目、第二は日本独自の対象物が考えられるので、それぞれについて小委員会を設けて検討を進める。

Ⅱ 小委員会の設置
(1)第1小委員会(小委員長・藤巻委員)
 海外で実用されている馬鈴薯、たまねぎの照射について研究推進上の問題点および具体策を検討するため第1小委員会を設置し、次の審議要望事項を呈示した。
a 試験研究の範囲
b 研究体制
c 研究成果の評価
d 研究施設
e 予算額
f その他
(2)第2小委員会(小委員長・飯塚委員)
 馬鈴薯、たまねぎ以外の農畜水産物について、わが国独自の観点から開発すべき品目を限定し、長期的な研究推進方策を検討するため第2小委員会を設置し、次の審議要望事項を呈示した。
a 第1段階として品目別の問題点の摘出
b 第2段階としては、本部会によって検討された第1段階の内容の具体化について第1小委員会に呈示された審議要望事項に準じてまとめる。
 なお、とりまとめに際し、必要であれば対象品目別に特別委員会等を設けて討議することにする。 差し当り、米についての推進方策策定のため臨時特別委員会を設けた。

Ⅲ 小委員会における検討結果
 第1小委員会および第2小委員会はそれぞれ4回の小委員会を開催し討議した結果、それぞれ別紙の中間報告を部会長あて提出した。
1 第1小委員会の報告について
 馬鈴薯、たまねぎについて
 放射線による発芽抑制を目的とする馬鈴薯、およびたまねぎの2品目についての研究は、昭和42年以降の3ヵ年計画で実施する。
a 試験研究の範囲
 1)馬鈴薯およびたまねぎの照射効果に関する研究
 2)照射処理の検知に関する研究
 3)照射による栄養成分の変化に関する研究
 4)照射による誘導放射性物質の可能性に関する研究
 5)照射した馬鈴薯、たまねぎおよびそれら加工品に関する衛生化学的研究
 6)照射馬鈴薯、たまねぎの毒性試験

b 研究体制(aの課題に関連して)
 1)日本原子力研究所高崎研究所、農林省食糧研究所、東京都立アイソトープ総合研究所、理化学研究所、大阪府立大学、大阪市立大学、岡山大学
 2)国立予防衛生研究所、東京大学
 3)国立栄養研究所、国立衛生試験所
 4)5)6)国立衛生試験所
 以上試験研究組織のほか協力組織として各省庁関係機関等が加わる。
 なお、研究を推進していて上の連絡調整のための組織の必要がある。

c 研究成果の評価
 特定の機関により検討し総合的にまとめるが行政面からの参画も必要である。

d 研究施設
 動物飼育施設等の整備をはかる必要があるが、照射施設の設置は第2小委員会の結論をまって検討することとし、当面は高崎研究所のコバルト施設で常温照射を行なう。

e 予算
 研究課題1)~6)に関する3ヵ年計画の予算額は前記照射施設の新設を除き、概算120,000千円である。

f その他
 馬鈴薯、たまねぎの安全性の研究については馬鈴薯は男爵、たまねぎは泉州黄を対象とし、日本原子力研究所、高崎研究所の60Coによりそれぞれ27トンづつ常温照射する。
2 第2小委員会中間報告
(1)第1段階
 わが国独自の観点から開発すべき農畜水産物の品目に関する第1段階の審議は品目別の問題点を摘出するに当り基本的な考え方として
1)実現性
2)従来の研究の進捗状況
3)流通の需給面からの必要性
4)経済性
5)食品としてのホールサムネス、特に安全性の諸点に重点をおき、さらにコールドチェーンとの関連性、個々の品目にとらわれない共通的かつ基礎的な研究についても長期的視野に立った研究推進方策が設定されるべく考慮して検討を行なった。
A 検討した対象品目
 ①農産物
   穀 類・・・・米、麦
   果実類・・・・りんご、みかん、いちご
   そ菜類・・・・全般(たとえば、かんらん、トマト等)
 ②水産物
   生鮮品・・・・たら、さば、まぐろ、貝類(とくにかき)
   加工品・・・・乾製品
   その他・・・・あさくさのり
 ③畜産物
   肉類・・・・・牛肉、豚肉、ブロイラー、ケーシング、輸入肉
   卵・・・・・・特に鶏卵
   骨粉・・・・・配合飼料の原料
   配合飼料・・・(単味および配合製品)
B 安全性についての研究領域
 ①毒性
 ②発癌性
 ③栄養価の変化
 ④微生物学的問題(殺菌効果、検定法等)
 ⑤誘導放射能
 ⑥その他(Stored energy,遺伝的影響等へ)
C 対象品目および安全性試験に関する主たる問題点
 ①穀類
(イ)照射線量によって質的変化を伴う
(ロ)照射技術上考慮すべき点が多く検討を要する
 ②果実類
(イ)データ不足であり可能性について未知数が多い。
(ロ)ENEAの研究との関連性を考える必要がある。
 ③ そ菜類
 放射線に対する抵抗性が弱く最適線量の把握が難しい。

 ④ 水産物
(イ)生食で利用されケースも多く、蛋白質を主成分とするものは照射により極めて複雑な変化を生ずる可能性がある。
(ロ)完全殺菌を目的とすると高線量になるので実規は難しいので低線量による照射と冷凍法、真空包装法等との併用方式をとる可能性が強い。
(ハ)細菌に対するデータが不足している。
 ⑤ 畜産物
(イ)肉類および卵は照射により複雑な変化をきたす可能性があり魚介類と同様に、低い線量による冷蔵との併用方式の検討を要する。
(ロ)ケーシングの照射によるネト防止、輸入肉の殺菌など、早期に実現を要請されている。
(ハ)飼料原料や骨粉についても家畜の嗜好試験、安全性の試験が必要である。
(ニ)細菌に対するデータが不足している。
 ⑥ 安全性
(イ)安全性、特に毒性試験については、わが国独自のデータがなければ照射食品として市販することが許可されない。
(ロ)検体として試験に供する照射試料の配分方法
(ハ)試験動物の選定と飼育期間および観察事項
D 必要とする共通および基礎的研究分野
 ① 各種食品に共通する照射処理の効果的諸条件の究明
 ② 照射線源の種類および形態、線量測定
 ③ 照射装置の考案
 ④ 包装材料の検討および開発研究
 これらの問題点は将来企業化を図る場合、改善されるべき余地のある重要課題であるので基礎的研究も重視すべきである。
(2)第2段階
A 初期計画
 第1段階の検討結果に基づき審議した結果、米を除き対象品目ないしは共通的問題の年次別推進計画は、今後なお小委員会において継続討議することとし、初期には基礎的な段階あるいは共通的な問題点を解明するため大要以下の研究から入るべきと考える。

 ① 照射処理試験
  a 適正線量の把握
  b 線量率が照射効果に及ぼす影響
  c 品質性状の変化等

 ② ホールサムネスの研究
  a 放射線による微生物の消長、挙動の研究
  b 特殊成分の研究
  c 動物供餌法の研究

B 米について
 照射食品としての米の研究はわが国が率先的にとりあげる問題であるとの観点から42年度より研究に着手する

 a 試験研究の範囲
  1)殺虫線量の検討
  2)線源および線量率が照射効果に及ぼす影響
  3)玄米、外米、籾への放射線照射が品質、性状におよぼす影響
  4)放射線照射による殺菌効果の検討および照射米の貯蔵中におけるミクロフローラの消長

 b 研究体制
  1)日本原子力研究所高崎研究所、農林省食糧研究所、東京都立アイソトープ総合研究所、岡山大学、北海道大学、東京農工大学
  2)日本原子力研究所高崎研究所、東京大学、理化学研究所

 c 予算
 42年度予算として概算 11,844千円

 d その他
 対象品目は玄米、外米、籾とし、約150kgを日本原子力研究所高崎所の60Coにより常温照射し、上記の試験研究のための試料として各試験研究機関に配分する。
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