I 第18回放射線審議会
第18回放射線審議会総会は、昭和40年6月8日、国立教育会館において開催されたが、議題および議事概要は次のとおりである。
1.議題
(1)原子力発電基準特別部会の報告について
(2)原子力発電所における放射線障害の防止に関する技術的基準の制定について(答申)
(3)1962年ICRP勧告特別部会の報告について
(4)1962年国際放射線防護委員会勧告について(具申)
(5)放射線審議会の運営および部会について
(6)その他
2.議事概要
(1)原子力発電基準特別部会の報告について
通商産業大臣から諮問のあった「原子力発電所における放射線障害の防止に関する技術的基準の制定について」について、審議結果が矢木部会長から報告された。
(2)原子力発電所における放射線障害の防止に関する技術的基準の制定について(答申)
原子力発電基準特別部会の報告に基づき、答申案を審議した結果、別項に示す答申を決定し、放射線審議会会長から通商産業大臣あて答申を行なうこととした。
(3)1962年ICRP勧告特別部会の報告について
1962年ICRP勧告特別部会は、1962年国際放射線防護委員会勧告をわが国においてどのように取り上げるべきかについて審議を行なったが、その審議結果が田島部会長から報告された。
(4)1962年国際放射線防護委員会勧告について(具申)
1962年ICRP勧告特別部会の報告に基づき具申案を審議した結果、別項に示す意見の具申を決定し、放射線審議会会長から内閣総理大臣あてに意見の具申を行なうこととした。
(5)放射線審議会の運営および部会について
審議会の所掌事務を分掌させるため部会が置かれることになっているが、部会を再編成し常設部会は別項に示す審議会決定のように、総括、基本、原子炉、アイソトープ、測定の5部会とすることが決定された。
II 原子力発電所における放射線障害の防止に関する技術的基準の制定について(答申)
原子力発電所における放射線障害の防止に関する技術的基準の制定について(答申)
昭和40年2月15日付40公1180号をもって、本番議会に諮問のあった標記については、原子力発電基準特別部会を設け、昭和40年4月9日から昭和40年5月21日まで5回にわたって審議を重ねてきたが、昭和40年6月8日に開催された第18回総会において下記のとおり、その結論を得たので答申する。
貴案のとおりでおおむね適当であると考えるが、なお、次の点について考慮するのが適当である。
(1)一次冷却材の定義について
一次冷却材の定義については、圧力容器がない場合にも適用できるようなものとすること。
(2)安全弁等について
逃し弁および破壊板についても、安全弁の場合と同様に、これらから放出する放射性物質を含む流体を安全に処理することができるように施設しなければならないという規定を設けること。
(3)廃棄物貯蔵設備について
廃棄物貯蔵設備については、固体状でない放射性廃棄物の貯蔵に関する規定も設けること。
(4)原子炉の性能について
原子炉施設は、故障時において原子核分裂の連鎖反応が無制御に継続しないものでなければならないという規定を設けること。
(5)原子炉格納施設の強度について
原子炉格納施設の強度に関する規定として、一次冷却系統に係る施設の故障または損壊の際に生ずるものと想定される最大の圧力および最高の温度に耐えるものでなければならないという規定を設けること。
III 1962年国際放射線防護委員会勧告について(具申)
1962年国際放射線防護委員会勧告について(具申)
国際放射線防護委員会(以下ICRPという)は、1958年に行なった勧告をその後の研究と実施による知識に基づいて検討し、その結果若干の点を改正して1962年に新しい勧告を行なった。
1958年のICRP勧告をわが国に受け入れるに際して、本審議会は昭和35年にICRP勧告特別部会を設置してその改正点について検討し、わが国として採り入れるべき諸点についての意見を具申した。
本審議会は今回も1958年勧告の際と同様にICRP勧告特別部会を設置し、同部会は昭和40年2月以来6回にわたり1962年勧告において新たに改正された部分についてわが国の立場から検討してきた。
ここに下記のとおり意見をまとめたので、政府の施策に反映されるよう具申する。
1.姙娠可能年令の婦人の職業上の被ばくについて
(1)妊娠の最初の2ヵ月間に胚のうける線量を1レム未満に保つために妊娠可能年令の婦人に対して腹部の被ばくを13週間に1.3レムに制限すべきものと考える。この場合所要の測定についても考慮を払うことが必要である。
(2)姙娠と診断された場合には、残りの姙娠期間中に胎児のうける平均の線量が1レムをこえないようにするために、姙娠中の腰部の被ばくが年間に1.5レムをこえないような条件の下で放射線作業に従事するべきものと考える。
(3)150kV以下の診断用X線装置を使う作業に従事する場合には母体の被ばくが13週間に1.3レムをこえない率で作業に従事することができる。なお、腹部が放射線から防護される等により残りの姙娠期間中に胎児のうける平均の線量が1レムをこえない場合にも母体の被ばくを13週間1.3レムとすることができる。
(注)この場合、「姙娠可能年令の婦人」とは年令的には初経から月経閉止までの期間にあるものをいう。
2.眼の水晶体に許容される線量について
1958年の勧告においては、眼の水晶体を蓄積線量の公式D=5(N−18)が適用される臓器としていたが、1962年勧告においては、水晶体の最大許容線量を13週間に4レムとした。
ただし、水晶体が高LETの粒子放射線に被ばくする場合には、他の臓器に適用されるレム値にさらに修正係数を乗じなければならない。この新勧告の主旨は妥当なものと考える。
この修正係数の値は、放射線のLET∞が53keV/μ以上の場合は3,3.5keV/μ(水)以下の場合は1、その中間の場合は直線的な補間によって定められる。中性子についてはエネルギー10keV以上の場合に3、熱中性子では1、ととれば、勧告の主旨は満足される。
3.90Sr
の最大許容濃度について
90Srの水および空気の最大許容濃度は1962年勧告においては1958年勧告の値の4倍となった。この値は、わが国の現在の資料から検討した結果、妥当であると考える。
4.ウランの化学毒性について
ウランの化学毒性に鑑み、可溶性ウランについて吸入は1日当り2.5mg、経口摂取は2日当り150mgをこえるべきでないというICRPの勧告は適当であると考える。また、この値に基づいて改正された新しい最大許容限度も適当であると考える。
5.追加された核種の最大許容濃度について
ICRP Publication 2、表1に新たに追加された核種の最大許容濃度は、わが国においても追加するのが適当であると考える。
6.線質係数(QF)等の用語について
ICRPは放射線生物学の用語との混乱をさけるために線質係数(QF)、線量当量(DE)等の新しい用語を勧告している。しかしながら、これらの用語は現状においては未だ慣用されておらず、直ちに採用するのは混乱をおこすおそれがあるので時間尚早と考える。
7.有意面積について
皮ふの被ばくの場合の有意面積についての1962年勧告は妥当なものと考える。すなわち、皮ふが放射性物質によって汚染したときには、有意面積を30cm2程度とする。ただし、それ以外の体外被ばく、特に線源との距離が非常に近い場合または被ばく面積が非常に小さい場合については有意面積は従来の勧告にしたがって1cm2とする。
(注)有意面積とは最大許容組織線量を計算する際にそれを平均すべき面積の大きさをいう。
8.身体負荷量の概念について
被ばく線量の推定に当って、ICRPの主旨を十分生かすためには身体負荷量の概念をとりいれねばならない。したがって、今後十分検討し、わが国の法令にこれを採り入れるよう努めることが望ましいと考える。
9.その他
(1)わが国の放射線防護関係の法令については改善を要する諸点がでてきたのでこれらの点について考慮する必要があると考える。
(2)放射線防護の施設、設備については現在必ずしも十分とはいい難いものもあると思われるので、これらについて必要な措置を講ぜられるよう考慮されたい。また、管理面でも、放射線作業従事者について適正な防護がなされるようその配置等を考慮する必要があろう。
(3)ICRPの勧告は各国において尊重されており、わが国においても放射線防護に関して重要な役割を果しているのであるが、わが国自体においても放射線防護に関する調査研究を、さらに推進し、ICRP勧告を受け入れるに当ってこれの結果を反映させることが必要であると考える。
IV 放射線審議会の部会について(放射線審議会決定)
標記について、下記のとおり部会を設置し、その運営を行なうこととする。
(I)部会の設置およびその所掌事項
1.常設部会
放射線審議会に次の表の左欄に掲げる常設部会を置き、各部会において所掌する事項は、それぞれおおむね同表の右欄に掲げる事項とする。
2.特別部会
常設部会において審議することが適当でない事項であって、特に審議を要するものについては、特別部会を設けることができる。
(II)その他
すでに設置されている部会は、次のものを除き解散する。
1.環境放射能特別部会
2.災害対策特別部会
3.放射性物質輸送特別部会
V 放射線審議会の部会の議事概要
〔日時〕昭和40年6月1日(火)14.00〜17.00
〔議題〕
(1)放射性物質の大量放出事故に対する応急対策の放射線レベルについて
(2)その他
〔議事概要〕
IAEAの緊急被ばくに関するパネルの最終検討会が開かれたので、そのパネルの検討結果の報告が行なわれた。
次に、放射能によって汚染された飲食物の摂取制限等の指標に用いられる線量について審議を行ない、特に事故時における農作物の汚染状況の推定を行ない、これに基づいて検討を行なった。
なお、昭和40年6月25日(金)午後1時30分から5時まで第1回放射性廃棄物の処分に関する検討打合せ会が開催された。
同打合せ会においては、座長を選任し、ついで検討事項は、主として放射性廃棄物の海洋への放出に関する問題点とすることが決定された。また、検討の方法としては、39年6月に報告された原子力委員会廃棄物処理専門部会報告書中の海洋への放出に関する部分についてより具体的に検討することとした。
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