英国の原子力発電に関する調査報告

補 足 説 明 資 料

(昭和32年1月17日)

訪英原子力調査団

目   次

1.天然ウラン燃料要素の燃焼率3,000MWD/Tについて
2.放射性廃液処理について
3.天然ウランの長期的供給の見通しについて
4.Calder ReactorとIndustrial Power Reactor(発電主目的炉)の要目比較表
5.CalderHall 型原子力発電所の安全問題
6.原子力発電所建設予定地の立地例
7.原子力発電と新鋭火力発電との経済比較
8.原子力発電所の規模と建設費および発電単価の関係

1.天然ウラン燃料要素の燃焼率 3,000MWD/Tについて

 AEA との概括的討議(10月29日)の際の資料“Nuclear Power from British Reactor”には「燃焼率をどの程度までとりうるか現在のところ正確には知られていないが、3,000MWD/Tという初期の予想は適正なものであると思われる」としるされていたが、その後の日程を通じ具体的に討議した経過を述べると次のごとくである。

(1)CalderにてMr.Moore は燃焼率と反応度との関係から3,000MWD/Tが核的には達成容易なることを示し、燃料の放射線損傷の面についてはWindscale炉の実験で、あるものは3,000MWD/T以上に耐えたことを述べた。

(2)Springfields にて Mr.Grainger は Calder炉用の燃料要素に関しては200の試料を作製し、Windscale炉の垂直実験孔を使用し、CO2雰囲気中で試験したことを明らかにしたが、高燃焼率に対する制限因子が何かという点に関しては条件によってことなるので一概にはいえぬと説明した。

(3)Harwell の Dr.Finniston は燃料の放射線損傷は3,000MWD/T 程度では心配はなく、事実 NRX では3,000〜4,000MWD/Tの実験をしたとはなはだ楽観的であった。

 一方製造会社グループにおいては、燃料要素の製作および燃料要素が3,000MWD/Tに耐えるという責任は AEA がもつのであるとの見解であるが、各自燃料要素の設計を行うため、たとえば G.E.C=Simon Carves や E.E.=Babcock & Wilcox の研究所では Can 材料の Magnox のクリープ、腐食、酸化の試験をしており、A.E.I.=John Tompson ではCalder 炉の燃料要素より長さを短くしかつおのおのを冷却溝中で個々に支持することによりクリープ防止を特に考慮する等により、それぞれ3,000MWD/T以上を達成することに確信をもっていた。

(4)11月13日に行われた団員代表とDr. Hill, Mr.Stewart 等 Risley本部部員との討議においては3,000MWD/Tは冶金学的な問題にあり、この燃焼率につき AEA との Contract にて Garrantee するむねが確認されており、16日の AEA との最終会談では Sir Christopher Hinton が3,000MWD/T は核的にも冶金学的にも達成し得るものであるとの見解を述べ、燃料要素は将来とも進歩していくものである点を強調した。

2.放射性廃液処理について

 使用済原子燃料を再処理すると当然放射性廃液が排出されるが、一般に廃液は高放射性、低放射性の2部に仕分けておのおの別々に処理される。
 Windscale 化学処理工場においては、かかる高放射性廃液は1,000c/m3であり低放射性廃液は最高は10c/m3であるとT.Tuohy 氏(Work Manager,Windscale)はいっている。
 高放射性廃液は慎重な注意のもとに地下槽に長期間貯蔵されるが、低放射性廃液は一定冷却期間貯槽に溜めた後、工業用化学処理と同原理の薬品処理または蒸発濃縮、場合によってはイオン交換樹脂法等によって放射能を十分安全なほど除染低下せしめ河川、海洋あるいは地中へ放出するのが一般の処理法である。
 これに対して、Windscale 工場ではかかる低放射性廃液を礬土処理して、そのflocを濾過し、清澄液をそのまま海へ、満潮時に、海から2カイリ沖合まで海底に設置した10インチ鉄管で放出している。なおこの礬土処理による除染率は50〜90%である。
 Tuohy の説明および推定値を総合すれば、海へ放散される廃液の放射能はわれわれが常識としている数値より数けたも高い値のようであるが、現在なんら支障をおこしていないと明言している。
 また放射性廃液中の長期半減期をもつSr,Cs の分離も全然行っていないのであるから、かかる高い放射性廃液の放出は Windscale 工場の立地条件すなわちIrish Sea のごとき満干の差がきわめて大きくかつ海峡地帯の海への放出の時のみに可能な特殊な条件といってよろしいであろうが、一面海中へ廃液を放出する場合の拡散が相当著しいことは注目すべきである。
 もちろんこの計画を立てる以前に大規模な予備実験を行っているし、現在も常に海水、海底、海岸砂の放射能の測定を行って安全を期している。

3.天然ウランの長期的供給の見通しについて

 現在天然ウランの原鉱は原地において粗製錬せられSpringfields の精錬工場に送られ天然ウランメタルに精錬せられる。
 だいたい日産10トン程度と推定せられるので年産1,000〜3,000トンと考えらる。
 この製法は比較的旧式のものであるから目下新設計Plant の建設中であり、これは年産数千トンと称せられている。
 燃料は英国内には産出しないので主としてアフリカコンゴ地方から輸入せられている様子であった。
 この燃料の長期的見通しについては原子力の将来に最も重要な問題であるから、AEA において十分その見通しを討議した。
 原鉱についての詳細は知りえなかったが、供給する原子炉に対しては希望するなら“as long as”供給するという。
 ウラン鉱そのものの長期見通しについてAEAのMemberであるStrath 氏に所信をただした。氏の答は次のごとくであった。(ウラン鉱の入手については英国は十分の自信を有している。もし日本に供給することができなくなるならその前に英国は滅亡するであろう。)
 英国が今日のごとく大規模開発を躊躇なく推進している現状およびその他の国における最近の原子燃料資源の開発の進展状況等からみて将来の燃料事情は心配しなくてもよいと思われる。

4.Calder Reactor と Industrial Power Reactor(発電主目的炉)の要目比較表

 Industrial Power Reactorの要目数値は、現在英国の各製造会社が製作しうる発電炉の設計値の標準的なものを例示したものである。

5.Calder Hall 型原子力発電所の安全問題

 天然ウラン黒鉛CO2冷却炉の安全性に関してはRisley 本部において Mr.Fletcher, Mr.Farmer の説明をうけ、種々討議したのでその大要を述べよう。
 Mr. Farmer は100MW の発電炉ではFission Productは運転開始後約100日で108curies 程度の飽和値に達するが、この F.P. が大気中に放出され広い範囲に汚染が及ぶといった事態は決しておこらないと説明した。なんとなればこのような事態になるには、燃料要素のキセ金が熔け、F.P.がCO2系に混入することがおこらねばならない。
キセ金温度が過度になる原因は、出力の上昇あるいは冷却能力の低下により熱の発生と除去とのバランスがくずれることである。前者はたとえば回路の故障や誤った操作によって制御桿が引き技かれた場合であるが、この対策として制御桿の最大速度を制限している。後者は blower の故障や ductのリーク等によるもので、これらいずれの場合でも温度上昇の割合は2〜5°C/sec 程度と考えられている。
 運転時キセ金表面最高温度は400〜420℃であり、一方キセ金材料である Mg 合金の融点は600〜650℃であるので相当の margin があり、この間に安全桿が落下して炉を停止させるのでキセ金の熔解はおこらない。
 この際安全桿が動作しないかもしれぬという万一の懸念に対しては、たとえばboron−Steel ball が炉中に落下するといった安全機構を2重あるいは3重に並用すればよいわけであるが、これもだめだとしても最後は炉の固有の安全性、すなわち温度が上昇すれば反応度が低下するという負の温度係数に依存できる。事実冷却は自然循環しか期待できぬという最悪条件でキセ金温度の変化をSimulatorにより種々解析していたが、(Harwell 研究所および G.E.C.,NPPC)この時のピーク値が Mg 合金の融点以下であれば、F.P.はCO2系に混合しないであろう。たとえ全 F.P.の5〜20%がCO2系に混入したとしても、CO2系にリークを生じなければ汚染範囲はその部分に限定されており、大気中に放出されるものではない。
 この炉の設計で重要なもう一つの点は、Mr.Fletcherが指摘したごとく、CO2 圧力が過度にならぬように考慮することである。CO2 圧力が過度になる原因としては、炉の過熱、CO2のつめすぎ、蒸気や水が熱交換器部で CO2 系にリークするといったことが考えられる。前2者は発生の可能性がないように設計されているが、リークは発生の可能性が絶無であるとはいえないので、10個程度の安全バルブを備え正規圧力の15%増加で動作するようにしている。(Calder 炉の例)このCO2 の大気中への放出は固形物を除去するためセラミックフィルターを通して行われるが、CO216N,41A,14C によって放射性である。しかしながらこの放出は地上でさして危険をともなうものでないと考えられている。
 さらにまた、燃料要素の欠陥の有無は各燃料溝ごとにCO2をsamplingし1/2時間に1回ずつ検査されており、元来Uと CO2間の反応は運転温度では激しいものでないから欠陥は急には生長しないので、この検査により検出された欠陥は十分の時間的余裕をもって処理できる点も、この炉の安全性の特長である。


6.原子力発電所建設予定地の立地例

 CEA で近く建設を開始する原子力発電所の建設予定地 BradwellとBerkeley は CEA と AEA の両者によっで慎重に調査検討された上決定されたのであるが、その場所の人口分布状況は次のごとくである。

(1)Bradwell, Essex(Blackwater 河口)

 (a)人口分布 半径 0.5 mile 以内  6戸

           〃  1  〃 〃   43〃

           〃  5  〃 〃 7,500人

 (b) 附近の都市

             距 離   人 口

    West Mersea   3 miles   3,000

    Brightlingsea    7      4,800

    Maldon        9      14,000

    CoIchester     10      54,450

(2)Berkeley, Gloucester Shire(Severn 河口)

 (a)人口分布 半径 0.5 mile 以内  1戸

            〃 1 〃  〃  21〃

            〃 5 〃   〃  14,000人

 (b) 附近の都市

             距 離   人 口

     Berkeley   1.5 mile  1,116

     Lydney    3     4,800

     Dursley    6     3,000

     Stroud    13     15,900

7.原子力発電と新鋭火力発電との経済比較

 送電端出力28万kW の原子力発電所と大規模新鋭火力発電所の発電原価を比較するため一試算を示せば別表のとおりである。

(注)

(1)比較のために選定された火力発電所A,B,C,Dは第1期工事が最近完成し、さらに現在増設工事中のものおよび新規工事中のものあるいは計画中のものでわが国(世界的にも)最新鋭の高効率発電所である。

(2)発電単価は送電端出力で算出した。

(3)年利用率は70%とした。ただし年利用率70%の場合の原子力発電の運転年経費、kWh当りの燃料取換費は AEA 提示の80%の場合の値と変らないものとした。

(4)AEA 提示の建設費(総額)37.20百万ポンド中には Royalty 10%と輸送費20万ポンド(20,000トン@10£/T)が含まれているが、このうち輸送費は火力発電所の輸入の実績から判断すると過少とみられ、また耐地震対策による若干の工事費増等が考えられるが、一方Royalty 10%については相当交渉の余地があるものと推定されるので、原子力発電建設費として、一応37.20百万ポンドを基準値とし、それに建設利息13%(工期4年、金利6.5%)をさらに折り込んで423.75億円とした。

火力発電所建設費については建設利息を含んだ実際の計画値をとっている。

(5)減価償却方法は英国、日本それぞれの慣例に従い複利法、定額法の2とおりの場合について計算した。

コールダー・ホール型原子力発電所の発電単価(出力 280MW複利法償却)

コールダー・ホール型原子力発電所と新鋭火力発電所との発電単価比較試算
(1)複利法償却年利用率70%


ただしいずれの場合にも原子炉の残存価格は0、他の部分の残存価格は10%とみなし原子力発電所全体として建設費の93%を20年間に償却するものとした。

(6)金利は6.5%とした。

(7)石炭単価は最近の値上り傾向にあるので90銭/kcal,100銭/kcal,110銭/kcalの3とおりの場合を試算した。

一方ウラン燃料については将来低下することが期待されるが、この計算には取り入れてない。

(8)使用済燃料の価値は一応無視して計算したが、AEA では5,000ポンド/T(kWh当りにして約30銭に相当する)で引き取るといっている。この場合その輸送費その他の経費との差額分だけ発電単価は低下する可能性がある。

8.原子力発電所の規模と建設費および発電単価の関係

 標記の問題特に小容量にした場合の発電所の建設費(単価)がどのように変化するかについて、各製造業者グループを訪問した際に質問を提起し、およそ次のような回答を得た。

1.GEC−Simon Carves
300MW;125£/kW(2炉4〜6タービン)
150MW;140〜150£/kW(1炉2タービン)
100MW;180£/kW(1炉2タービン)

 この価格には燃料貯蔵庫、冷却池その他すべての附属装置を含む。

2.AEI−JohnThompson
100MW×2=200MWの場合を100%とすると
150MW×2=300MWの場合は90%
200MW×2=400MWの場合は85%
60MW×2=120MWの場合は120%

なお One unit の場合は15〜20%増となる。


コールダー・ホール型原子力発電所と新鋭火力発電所との発電原価比較試算
(2)定額法償却年利用率70%


3.NPPC

4.EE−Babcock Wilcox

 発電所の大小による建設費の変化は下記曲線のとおりとなる。この曲線は2炉1組の発電所を考えたもので、1炉の発電所すなわち半分の規模を考える場合は15〜20%上昇する。また建設費は立地条件によりある程度の影響を受けることを念頭に入れておく必要がある。


コールダー・ホール型原子力発電所の建設単価(含建設利息)


 以上四つの製造会社グループから得た数値を基礎として原子力発電所の出力と建設費および発電単価の関係のおおよその見当を図示すれば次のようになる。

コールダー・ホール型原子力発電所の発電単価
(複利法償却、年利用率70%)