第3章 国際潮流を踏まえた国内外での取組
3-1 国際的な原子力の利用と産業の動向
世界では、東電福島第一原発事故後、脱原発に転じる国々が現れた一方で、電力需要増大への対応と地球温暖化対策の両立がグローバルな課題として認識され、英国やフランスのように原子力を継続的に発電に利用する方針を示している国もあります。米国のように、既存の軽水炉の長期運転を進めるとともに、新型炉の導入へ向けた開発を加速している国もあります。また、アジア、中近東、アフリカ等では、新たに原子力開発が進展している国もあります。さらに、中国やロシア等を中心に、これらの新興国に対して積極的に自国の原子力発電技術を輸出する動きも見られます。
このように社会・経済全体がグローバル化する中、世界における我が国の原子力利用の在り方が問われています。我が国の原子力関係機関は、国際的な研究開発動向を的確に把握し、国際的な知見や経験を収集・共有・活用し、様々な仕組みを我が国の原子力利用に適用していく必要があります。
(1)国際機関等の動向
① 国際原子力機関(IAEA)
IAEAは、原子力の平和的利用を促進すること、原子力の軍事利用への転用を防止することを目的として、1957年に国連総会決議を経て設置されました。IAEAには2022年3月末時点で175か国が加盟しており、約40名の日本人職員がIAEA事務局で勤務しています。IAEAは発電のほか、がん治療や食糧生産性の向上等、非発電分野も含めた様々な目的のために原子力技術を活用する取組を行っています。
IAEAでは、これまでの放射線や放射性同位元素の利用推進事業において培った研究ネットワークを活用し、新型コロナウイルス感染症等の動物由来の感染症に関する検査・分析能力強化を支援するための統合的人畜共通感染症行動(ZODIAC1)事業を含む感染症対策を実施しています。
また、IAEAは、海洋プラスチック問題に原子力科学技術を応用活用することを目的としたNUTEC Plastics2事業を立ち上げました。2021年を通じて地域ごとのラウンドテーブル会合を開催しており、2021年5月にはNUTEC Plasticsアジア太平洋地域ラウンドテーブル会合をオンラインで開催しました。IAEAは同事業において、同位体技術を用いた海洋プラスチックの追跡や海洋生物への影響評価、放射線の照射技術等によるリサイクル技術の確立、これら分野におけるIAEA加盟国の能力構築等を目的としたプロジェクトを実施する予定です。
さらに、IAEAは2022年2月に、特に放射線治療施設が整備されていない国を対象として、放射線によるがん治療の確立・拡大を支援するため、Rays of Hope事業を新たに立ち上げました。② 経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)
OECD/NEAは、参加国間の協力を促進することにより、安全かつ環境的にも受け入れられる経済的なエネルギー資源としての原子力エネルギーの発展に貢献することを目的として、原子力政策、技術に関する情報・意見交換、行政上・規制上の問題の検討、各国法の調査及び経済的側面の研究等を実施しています。OECD/NEAには2022年3月末時点で34か国3が参加しており、加盟各国代表により構成される運営委員会が政策的な決定を行い、具体的な活動は8つの常設技術委員会等で実施しています(図3-1)。また、次長ポストを含め、5名の日本人職員が勤務しています(その他、コンサルタント9名が勤務しています(2021年末時点))。
OECD/NEAは、原子力安全や放射性廃棄物管理分野を中心に原子力科学や放射線防護、原子力法分野の共同プロジェクトやデータベースプロジェクトを実施・運用しており、加盟各国で知見や経験を共有するとともに、多くの成果を報告書として公表しています。
図3-1 OECD/NEAの委員会組織図
(出典)外務省「経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)」及びOECD/NEA「NEA Mandates and Structures」に基づき作成
③ 原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、1950年代に大気圏核実験が頻繁に行われ、大量に放出された放射性物質による環境や健康への影響についての懸念が増大する中、1955年の国連総会決議により設立されました。UNSCEARには2022年3月末時点で31か国が加盟しており、科学的・中立的な立場から、放射線の人・環境等への影響等について調査・評価等を行い、毎年国連総会へ結果の概要を報告するとともに、数年ごとに詳細な報告書を出版しています。
2021年3月には、「2011年東日本大震災後の福島第一原子力発電所における事故による放射線被ばくのレベルと影響:UNSCEAR2013年報告書刊行後に発表された知見の影響」(UNSCEAR2020年/2021年報告書)を公表しました。④ 世界原子力協会(WNA)
世界原子力協会(WNA4)は、原子力発電を推進し原子力産業を支援する世界的な業界団体であり、情報の提供を通じて原子力発電に対する理解を広めるとともに、原子力産業界として共通の立場を示し、エネルギーをめぐる議論に貢献していくことを使命としています。WNAには、世界の原子炉ベンダー、原子力発電事業者に加え、エンジニアリングや建設、研究開発を行う企業・組織等、産業全体をカバーするメンバーが参加しており、「原子力産業界の相互協力」、「一般向けの原子力基本情報やニュースの提供」、「国際機関やメディア等、エネルギーに関する意思決定や情報伝播に影響を持つステークホルダーとのコミュニケーション」の3つの分野での活動を行っています。
⑤ 世界原子力発電事業者協会(WANO)
世界原子力発電事業者協会(WANO5)は、チョルノービリ原子力発電所事故を契機に、自社・自国内のみでの取組には限界があると認識した世界の原子力発電所事業者によって1989年に設立されました。WANOは、世界の原子力発電所の運転上の安全性と信頼性を最高レベルに高めるために、共同でアセスメントやベンチマーキングを行い、更に相互支援、情報交換や良好事例の学習を通じて原子力発電所の運転性能(パフォーマンス)の向上を図ることを使命としています。この使命の下で、原子力発電所に対する他国事業者の専門家チームによるピアレビュー、原子力発電所の運転経験・知見の収集分析・共有、各種ガイドライン等の作成、ワークショップやトレーニングプログラムの提供等を実施しています。
コラム ~IAEAの報告書:気候変動対策における原子力の役割~
IAEAは、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)を目前に控えた2021年10月に、報告書「ネットゼロ世界に向けた原子力(Nuclear Energy for a Net Zero World)」を発表しました。この報告書では、原子力が化石燃料に代替し、再生可能エネルギーの拡大に貢献し、クリーンな水素を大量に製造するための経済的な電源となることにより、パリ協定の目標や持続可能な開発目標(SDGs6)の達成に向けて重要な役割を果たすとしています。このような役割を踏まえ、IAEAは同報告書において、原子力の拡大を加速するために以下を含む一連の行動を取ることを勧告しています。
コラム ~UNSCEARの報告書:東電福島第一原発事故による放射線被ばくの影響~
UNSCEARは、2021年3月に表題「福島第一原子力発電所における事故による放射線被ばくのレベルと影響:UNSCEAR2013年報告書刊行後に発表された情報の影響」のUNSCEAR2020年/2021年報告書を取りまとめました。また、2022年3月には同報告書の日本語版も公表されました。同報告書では、下記のように、被ばく線量の推計、健康リスクの評価を行い、放射線被ばくによる住民への健康影響が観察される可能性は低い旨が記載されています。
(2)海外の原子力発電主要国の動向
① 米国
米国は、2022年3月末時点で93基の実用発電用原子炉が稼働する、世界第1位の原子力発電利用国であり、ボーグル原子力発電所3、4号機の2基のプラントの建設が進められています。
原子力発電に対しては、共和・民主両党の超党派的な支持が得られています。バイデン大統領は、気候変動対策の一環として先進的原子力技術等の重要なクリーンエネルギー技術のコストを劇的に低下させ、それらの商用化を速やかに進めるために投資を行っていく方針です。高速炉や小型モジュール炉(SMR)等の開発にも積極的に取り組み、エネルギー省(DOE7)が2020年に開始した「革新的原子炉実証プログラム(ARDP8)」等を通じて開発支援を行っており、多数の民間企業も参画しています。また、米国内にとどまらず、2021年4月には、気候変動対策の一環として国際支援プログラム「SMR技術の責任ある活用に向けた基本インフラ(FIRST9)」を始動することが、同年11月には、国際協力を含め原子力導入を支援する「原子力未来パッケージ」に米国政府が資金拠出することが発表されました。
米国における原子力安全規制は、原子力規制委員会(NRC)が担っています。NRCは、稼働実績とリスク情報に基づく原子炉監視プロセス(ROP10)等を導入することで、合理的な規制の施行に努めています。また、産業界の自主規制機関である原子力発電運転協会(INPO11)や、原子力産業界を代表する組織である原子力エネルギー協会(NEI12)も、安全性の向上に向けた取組を進めています。
また、原子力発電所の80年運転に向けて、2度目となる20年間の運転認可更新が進められています。2022年3月末時点で、NRCから2度目の運転許可更新の承認を受けて80年運転が可能となった原子炉が2基、一度は2度目の運転許可更新の承認を得たものの環境影響評価手続上の問題のため2022年2月にNRCが承認を取り下げた原子炉が4基、NRCが2度目の運転認可更新を審査中の原子炉が9基となっています。
米国では、民生・軍事起源の使用済燃料や高レベル放射性廃棄物を同一の処分場で地層処分する方針に基づき、ネバダ州ユッカマウンテンでの処分場建設が計画されています。2009年に発足したオバマ政権は、同計画を中止する方針でした。2017年に誕生したトランプ政権は一転して計画継続を表明しましたが、2018から2021会計年度にかけて連邦議会は同計画への予算配分を認めませんでした。バイデン政権下で公表された2022会計年度の予算要求でも、ユッカマウンテン計画を進めるための予算は要求されていません。② フランス
フランスでは、2022年3月末時点で56基の原子炉が稼働中です。我が国と同様にエネルギー資源の乏しいフランスは、総発電電力量の約7割を原子力で賄う原子力立国であり、その設備容量は米国に次ぐ世界第2位です。また、10年ぶりの新規原子炉となるフラマンビル3号機の建設が、2007年以降進められています。
2020年4月に政府が公表した改定版多年度エネルギー計画(PPE)では、2035年までに国内の原子力発電の割合を50%に削減する(図3-2)ため十数基の90万kW級原子炉を閉鎖する一方で、2035年以降の低炭素電源の確保のため原子炉新設の要否を検討する方針が示されました。この方針に基づき送電系統運用会社(RTE13)が検討を行い、2050年までに欧州加圧水型原子炉(EPR14)14基を建設し、既存炉との合計で40GW以上の原子力発電容量を確保するシナリオの経済性が最も高いとする分析結果を2021年10月に公表しました。この分析結果を受け、マクロン大統領は、同年11月に原子炉を新設する方針を示し、2022年2月には、6基の新設と更に8基の新設検討を行うとともに、90万kW級原子炉の閉鎖を撤回することを発表しました。マクロン大統領は、PPEを改定する意向も示しています。
図3-2 改訂版多年度エネルギー計画(PPE)における主な目的
(出典)フランス環境連帯移行省「Programmation pluriannuelle de l'énergie résumée en 4 pages」(2020年)に基づき作成
フランス政府は原子炉等の輸出を支持しており、燃料サイクル事業はオラノ社、原子炉製造事業はフラマトム社が、それぞれ担っています。フラマトム社が開発したEPRは、既に中国で2基の運転が開始されているほか、フランス及びフィンランドでは1基ずつ、英国では2基の建設が進められています。
高レベル放射性廃棄物処分に関しては、2006年に制定された「放射性廃棄物等管理計画法」に基づき、「可逆性のある地層処分」を基本方針として、放射性廃棄物管理機関(ANDRA15)がフランス東部ビュール近傍で高レベル放射性廃棄物等の地層処分場の設置に向けた準備を進めています。同処分場の操業開始は2030年頃と見込まれています。③ ロシア
ロシアでは、2022年3月末時点で37基の原子炉が稼働中です。この中には、SMRかつ世界初の浮揚式原子力発電所であるアカデミック・ロモノソフの2基、ナトリウム冷却型高速炉の原型炉1基と実証炉1基も含まれます。また、3基が建設中です。このうち1基は、鉛冷却高速炉のパイロット実証炉BREST-300で、2021年6月に建設が開始されました。
ロシアは、2030年までに発電電力量に占める原子力の割合を25%に高め、従来発電に用いていた国内の化石燃料資源を輸出に回す方針です。加えて、2021年10月には、2060年までにカーボンニュートラルを達成する方針を定めた政令が制定されました。原子力行政に関しては、国営企業ロスアトムが民生・軍事両方の原子力利用を担当し、連邦環境・技術・原子力監督局が民生利用に係る安全規制・検査を実施しています。原子力事業の海外展開も積極的に進めており、ロスアトムは旧ソ連圏以外のイラン、中国、インドにおいてロシア型加圧水型原子炉(VVER16)を運転開始させているほか、トルコやフィンランド等にも進出しています。原子炉や関連サービスの供給と併せて、建設コストの融資や投資建設(Build)・所有(Own)・運転(Operate)を担うBOO方式での契約も行っており、初期投資費用の確保が大きな課題となっている輸出先国に対するロシアの強みとなっています。
また、核燃料供給保証17を目的として、シベリア南東部のアンガルスクに国際ウラン濃縮センター(IUEC18)を設立し、IAEAの監視の下、約120tの低濃縮ウランを備蓄しています。④ 中国
中国では、2022年3月末時点で53基の原子炉が稼働中で、設備容量は合計5,000万kWを超えています。原子力発電の利用拡大が進められており、19基の原子炉が建設中です。2021年3月には、2021年から2025年までを対象とした「第14次五か年計画」が策定され、2025年までに原子力発電の設備容量を7,000万kWとする目標が示されています。
軽水炉の国産化及び海外展開にも力を入れており、中国核工業集団公司(CNNC)と中国広核集団(CGN19)が双方の第3世代炉設計を統合して開発した華龍1号は、中国国内では福清5、6号機が営業運転を開始し、更に10基が建設中です。国外でも、華龍1号を採用したパキスタンのカラチ原子力発電所において、2021年5月に2号機が営業運転を開始し、2022年3月に3号機が送電網に接続されました。また、英国でも華龍1号の建設等が検討されている(表 3-1)ほか、中東やアジア、南米においても協力覚書の作成等を進めています。
さらに、高速炉、高温ガス炉、SMR等の開発も進めてられおり、2021年7月にはSMRである玲龍1号の実証炉の建設が開始されました。また、石島湾発電所の高温ガス炉の実証炉は、2021年9月に初臨界に達しました。⑤ 英国
英国では、2022年3月末時点で11基の原子炉が稼働中です。
北海ガス田の枯渇や気候変動が問題となる中、英国政府は2008年以降一貫して原子炉新設を推進していく政策方針を掲げています。2020年11月には、原子力を始めとする地球温暖化対策技術への投資計画である「10-Point Plan」を公表し、SMRの開発等を目指すための革新原子力ファンドの創設を示しました。また、2021年10月に公表された「ネットゼロ戦略」では、「10-Point Plan」を更に進める形で、大型原子炉新設に向けた支援措置を講じることや、SMR等の先進原子力技術を選択肢として維持するための新たなファンドを創設することが示されました。同年11月には、ロールス・ロイスSMR社によるSMR開発に対して革新原子力ファンド等を活用した資金拠出が行われ、2022年3月には同社が開発するSMRの一般設計評価20が開始されました。
大型炉については、フランス電力(EDF21)と中国広核集団(CGN)の出資により、ヒンクリーポイントC原子力発電所(図3-3)において建設が、サイズウェルC原子力発電所及びブラッドウェルB原子力発電所において新設計画が進められています(表3-1)。同年2月には、華龍1号の一般設計評価が完了し、設計が規制基準に適合していることが認証されました。
図3-3 建設中のヒンクリーポイントC原子力発電所(2021年11月)
(出典)EDF「Built 25% faster - Hinkley Point C's Unit 2 and the "replication effect"」(2021年)
表3-1 英国での大型原子炉新設プロジェクト(2022年3月末時点) 電力会社・コンソーシアム サイト 炉型 基数 状況 EDFとCGN ヒンクリーポイントC EPR 2 建設中 EDFとCGN サイズウェルC EPR 2 計画中 EDFとCGN ブラッドウェルB 華龍1号 2 計画中 (注)各プロジェクトへのEDFとCGNの出資比率はサイトによって異なる。
(出典)WNA「Nuclear Power in the United Kingdom」に基づき作成
高レベル放射性廃棄物処分に関しては、英国政府は2006年、国内起源の使用済燃料の再処理で生じるガラス固化体について、再処理施設内で貯蔵した後、地層処分する方針を決定しました。2018年に公開した白書「地層処分の実施-地域との協働:放射性廃棄物の長期管理」に基づき、地域との協働に基づくサイト選定プロセスを開始しています。2021年11月には、カンブリア州コープランド市中部において、自治体組織の参加を得ながら地層処分施設の立地可能性を検討するコミュニティパートナーシップが英国内で初めて設立されました。さらに、同年12月には同州コープランド市南部で、2022年1月には同州アラデール市で、新たなコミュニティパートナーシップが設立されました。
⑥ 韓国
韓国では、2022年3月末時点で24基の原子炉が稼働中です。また、4基が建設中です。
2017年に発足した文在寅(ムン・ジェイン)政権は、原子炉の新増設を認めず、設計寿命を終えた原子炉から閉鎖する漸進的な脱原子力を進める方針を打ち出しました。政府は、同年10月に、設計寿命満了後の原子炉の運転延長を禁止する脱原子力ロードマップを決定しました。2020年から2034年までの15年間を対象とした「第9次電力需給基本計画」では、2034年の原子力発電設備容量を2020年比3.9GW減となる19.4GWとしています。
国内で脱原子力政策を進める一方で、文政権は、輸出については国益にかなう場合は推進する方針を打ち出しました。韓国電力公社(KEPCO22)は、アラブ首長国連邦(UAEF)のバラカ原子力発電所において4基の韓国次世代軽水炉APR-1400の建設を進めており(図3-4)、1号機が2021年4月に、2号機が2022年3月に営業運転を開始しました。韓国政府はそのほかにも、サウジアラビア、チェコ、ポーランド等の原子炉の新設を計画する国に対してアプローチしています。
図3-4 バラカ原子力発電所
(出典)Emirates Nuclear Energy Corporation「Barakah Nuclear Energy Plant」
なお、韓国では2022年3月に大統領選挙が実施され、脱原子力政策を撤回し、原子力発電所の新設再開及び既存炉の運転期間延長等を行うことを選挙公約として掲げた尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏が当選しました23。
⑦ カナダ
カナダでは、2022年3月末時点で19基の原子炉が稼働中です。世界有数のウラン生産国の一つであり、世界全体の生産量の約22%を占めています。原子炉は全てカナダ型重水炉(CANDU24炉)で、国内で生産される天然ウランを濃縮せずに燃料として使用しています。
現在や将来の電力需要に対応するために、州政府や原子力事業者は、原子炉の新増設よりも既存原子炉の改修・寿命延長計画を優先的に進めています。オンタリオ州では10基の既存炉を段階的に改修する計画で、2020年6月にはダーリントン2号機が改修工事を終え、4年ぶりに運転を再開しました。
一方で、SMRの研究開発に力を入れており、2020年12月には連邦政府が「SMR行動計画」を公表しました。同計画では、2020年代後半にカナダでSMR初号機を運転開始することを想定し、政府に加え産学官、自治体、先住民や市民組織等が参加する「チームカナダ」体制で、SMRを通じた低炭素化や国際的なリーダーシップ獲得、原子力産業における能力やダイバーシティ拡大に向けた取組を行う方針です。SMR行動計画の枠組みで出力30万~40万kWの発電用SMRベンダーの選定を進めていたオンタリオ・パワー・ジェネレーション社は、2021年12月に、米国GE日立ニュークリア・エナジー社のBWRX-300を選定したことを公表しました。なお、カナダ原子力研究所(CNL25)がSMRの実証施設建設・運転プロジェクトを進めているほか、安全規制機関であるカナダ原子力安全委員会(CNSC26)が、小型炉や先進炉を対象とした許認可前ベンダー設計審査を進めています。
使用済燃料の再処理は行わず、高レベル放射性廃棄物として処分する方針をとっており、使用済燃料は原子力発電所サイト内の施設で保管されています。処分の実施主体として設立された核燃料廃棄物管理機関(NWMO27)が国民対話等の結果を踏まえて使用済燃料の長期管理アプローチを提案し、政府による承認を経て処分サイト選定プロセスが進められており、2か所の自治体を対象として現地調査が実施されています。上記以外の原子力発電を行っている諸外国の動向については資料編「7. 世界の原子力に係る基本政策」に、低レベル放射性廃棄物の扱いについては第6章コラム「~海外事例:諸外国における低レベル放射性廃棄物の分類と処分方法~」にまとめています。
(3)我が国の原子力産業の国際的動向
我が国では、2006年の株式会社東芝による米国ウェスチングハウス社買収を皮切りに、株式会社日立製作所と米国ゼネラル・エレクトリック社がそれぞれの原子力部門に相互に出資する新会社(米国のGE日立ニュークリア・エナジー社、日本法人である日立GEニュークリア・エナジー株式会社)の設立、三菱重工業株式会社とフランスAREVA NP社28による合弁会社ATMEAの設立など、各社とも国外企業との関係を強化してきました。
しかし、近年、一部では海外プロジェクトから撤退する動きも見られます。株式会社東芝は、2017年3月のウェスチングハウス社による米国連邦倒産法第11章に基づく再生手続の申立てにより、2018年8月に、カナダに本拠を置く投資ファンドのブルックフィールド・ビジネス・パートナーズへのウェスチングハウス社の全株式の譲渡を完了しました。また、株式会社日立製作所は、2020年9月に、英国における原子力発電所建設プロジェクトからの撤退を公表しています。
一方で、新たに海外事業に参画する事例も見られます。2021年4月には日揮ホールディングス株式会社が、同年5月には株式会社IHIが、米国ニュースケール社に出資し、同社のSMR事業に参画することを公表しました。また、三菱重工業株式会社及び三菱FBRシステムズ株式会社は、日仏間及び日米間の高速炉開発協力に参画しています29。
- Zoonotic Disease Integrated Action
- NUclear TEChnology for Controlling Plastic Pollution
- 34か国のうち、ロシアは2022年5月11日から参加停止。
- World Nuclear Association
- World Association of Nuclear Operators
- Sustainable Development Goals
- Department of Energy
- Advanced Reactor Demonstration Program
- Foundational Infrastructure for Responsible Use of Small Modular Reactor Technology
- Reactor Oversight Process
- Institute of Nuclear Power Operations
- Nuclear Energy Institute
- Réseau de Transport d'Électricité
- European Pressurised Water Reactor
- Agence nationale pour la gestion des déchets radioactifs
- Voda Voda Energo Reactor
- 第4章4-3(3)④「核燃料供給保証に関する取組」を参照。
- International Uranium Enrichment Centre
- China General Nuclear Power Corporation
- 英国内で初めて建設される原子炉設計に対して、建設サイトとは無関係に安全性や環境保護の観点から評価し、規制基準への適合を認証する制度。建設には別途許認可の取得が必要。
- Électricité de France
- Korea Electric Power Corporation
- 2022年5月10日に大統領就任。
- Canadian Deuterium Uranium
- Canadian Nuclear Laboratories
- Canadian Nuclear Safety Commission
- Nuclear Waste Management Organization
- 現在は機能の一部をフラマトム社に移管。
- 第8章8-2(4)②「高速炉開発に関する国際協力」を参照。
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