平成8年版 原 子 力 白 書 平成8年12月
原子力委員会
平成8年版 原子力白書の公表に当たって 1954年,我が国が原子力開発利用に着手して以来,原子力を暮らしに役立てようという先達の努力の結果,原子力は,総発電電力量の約3割を担うまでの基軸エネルギーへと成長し,さらに病気の診断や治療,害虫の防除など様々な分野で放射線の利用が展開されています。このように原子力は,私たちの生活に深く溶け込んでいます。
他方,昨年12月の高速増殖原型炉「もんじゅ」の2次系ナトリウム漏えい事故とその後の不適切な対外対応を契機として,国民の間で原子力に関する様々な議論が行われています。原子力の先進性と巨大技術システムであること,そして放射線や放射能というものに対する漠然とした不安などのため,国民一人一人に原子力開発利用について十分な理解が得られているとは必ずしも言えません。
しかしながら,原子力発電のみならず,既に国民生活に深く結びついている原子力利用を今後もさらに展開するとともに,世界でも有数の科学技術を持つ我が国として,原子力の分野でも先端的な研究開発の新たな領域を切り拓き,世界に貢献していくためには,原子力開発利用に対する国民の間の合意を得ることが重要です。
原子力について国民に様々な意見がある中,このような合意を得ることは一朝一夕には達成し難いことですが,それは豊かで質の高い生活を誇りを持って次の世代に引き継いでいくために不可欠なことです。
そのため,実際に政策を担当する者に分かりやすく説明をする責任が求められています。「もんじゅ」の事故は,原子力政策に責任を有する者として極めて残念なことであり,関係者全員が改めて身を引き締めなければなりません。
本年の原子力白書では,このような思いから本編第1章において,「国民とともにある原子力」を目指して,新たな一歩を踏み出した国の様々な取組を中心に取り上げました。本書が皆様にとって原子力の意義をいま一度,自身の問題としてお考えいただける契機となることを望みます。平成8年12月24日
国 務 大 臣 科学技術庁長官 近岡 理一郎 原子力委員会委員長
本書の構成と内容 本書は,最近約1年の原子力全般に関する動向をとりまとめたものである。
本書の構成としては,「本編」と「資料編」とした。
まず,本編として第1章においては,昨今の原子力開発利用に関する国民の不安感などの高まりに対する国の施策の新しい流れである国民との対話を重ね,国民の意見を的確に反映させていくための国の様々な取組について示した。
第2章においては,「核不拡散へ向けての国際的信頼の確立」,「原子力安全確保」,「情報公開と国民の理解の増進」,「原子力発電の現状と見通し」,「軽水炉体系による原子力発電」,「核燃料リサイクルの技術開発」,「バックエンド対策」,「原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化」,「原子力分野の国際協力」,「原子力開発利用の推進基盤」及び「原子力産業の展開」について,それぞれの最近の動向を中心に具体的に説明している。
また,資料編では,主な原子力委員会の決定,原子力委員会委員長談話,原子力関係予算,年表などをまとめた。
なお,原子力開発利用については,安全の確保が大前提であり,原子力安全委員会,安全規制当局,研究開発機関,電気事業者,メーカーなどは国民の期待に応えるべくそれぞれの立場で安全確保に努めている。それについては,別に「原子力安全白書」において取り扱われているので,本書においてはその詳細に立ち入ることは避け,原子力委員会に関係する基本的事項にとどめることにした。
なお,とくに本年の白書では,
①各項目に数行の要約の記載
②主要な用語の解説及び用語索引の添付
③図表の掲載及び図表索引の添付
といった編集上の工夫をこらした。
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