第2章 エネルギー情勢等と内外の原子力開発利用の状況
5.国際協力の状況
近年,大きな原子力の研究開発,プロジェクトの推進に当たっては,一国の経済負担には限度があることから,例えば核融合における先進国の協力(国際熱核融合実験炉ITER)のように,国際協力の下で推進していくことが望ましい状況になりつつある。先進国との協力に関しては,従来の我が国の技術力向上のための協力から脱却して,協調のための協力を推進していくとともに,我が国の研究開発の成果を広く世界に還元していくことが特に重要であると考えられる。また,国際協力を円滑に推進するためには,技術面における協力のみならず,原子力政策分野における対話を重ねていくことが不可欠である。
開発途上国においては,今後原子力活動の拡大が予想されており,我が国に対する期待が大きい。これらの国々に対しては,単に原子力関連技術にとどまらず,基礎科学技術,産業技術,安全規制等の様々な分野において,これまでの我が国の技術と経験を活かした積極的な協力の推進が必要であり,また,安全確保に係る基盤強化(産業及び技術基盤の強化,人材の育成等),核不拡散に十分配慮して協力を行う必要がある。
原子力の安全確保及び国民の理解の増進は,原子力の国際的共通課題として,各国が協力して取り組むことが重要となっている。特に,安全問題については,チェルノブイル原子力発電所事故発生以来,旧ソ連,中・東欧地域における原子炉の安全性に対する懸念が高まっており,早急な対応が必要であるため,我が国も先進国各国と協力して積極的な支援を推進している。
(1)核兵器の不拡散に係る国際協力
我が国は,核兵器の不拡散の観点から,IAEAにおいて行われている保障措置関連のプロジェクトに積極的に参加するなど,IAEAの保障措置体制の整備・強化策の検討に対して積極的に貢献している。
また,旧ソ連の大量破壊兵器関連の科学者,技術者等の能力を平和的活動に向ける機会を提供することを目的とした「国際科学技術センター」構想に対し,研究プロジェクトの提供及び2,000万ドルの支援等を行っていく予定であるほか,1993年5月には旧ソ連の核兵器廃棄等に関する支援として約1億ドルを拠出することを決定,同年10月には核兵器廃棄の支援に係るロシアとの協定が署名された(第1章参照)。
(2)国際協力による研究開発の推進
核融合研究開発については,1988年4月よりIAEAの支援の下で,日本,米国,EC及びソ連(ソ連崩壊後はロシア)の4極共同により国際熱核融合実験炉(ITER)の概念設計活動が行われ,1990年12月に同活動が完了した。次段階である工学設計活動については,4極間の協定が1992年7月に署名,発効し,1992年から約6年間の予定で研究開発が開始された。日本(茨城県那珂町),米国(サンディエゴ)及びEC(ガルヒンク)に設計のための共同中央チームのサイトが設置され,4極の研究者により設計が実施されている。
また,核種分離・消滅処理技術に関しては,情報交換を行う国際協力計画(通称オメガ計画)が我が国の提案によりOECD/NEAにおいて実施されており,第1回の情報交換会議が我が国において開催された。なお,現在,同計画の第2フェーズとして,同技術に関するシステムスタディの実施について検討を進めている。
(3)近隣アジア諸国との協力
我が国の提唱に基づき,近隣アジア諸国との協力が行われており,原子力委員会の主催で第4回アジア地域原子力協力国際会議が1993年3月に東京で開催された。本会議においては,近隣アジア諸国の原子力事情について,広く関係者の理解を深めるため,各国の関係者による各国の原子力平和利用政策,原子力開発の現状及び国際協力についての発青等が行われた。また,①研究炉利用,②放射性同位元素(R I)・放射線の医学利用,③RI・放射線の農業利用,④パブリック・アクセプタンス(原子力に関する理解の増進)の各テーマにつき,それぞれインドネシア,日本,マレーシア及び韓国においてセミナーが開催されたが,その結果を踏まえ,本会合においてこれら4分野につき,近隣アジア諸国における今後の地域協力の具体的な協力テーマ及び計画について意見交換が行われ,協力プロジェクトの推進のための検討が行われた。
また,我が国は,IAEAの支援の下,「1987年の原子力科学技術に関する研究,開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」の締約国として積極的に広くアジア・太平洋地域諸国との協力を行っており,特に,RI・放射線を利用した工業利用,医学・生物学利用及び放射線防護強化の3つのプロジェクトを中心に推進している。1992年3月には東京で第14回RCA政府専門家会合が開催された。なお,同協定は1972年に発効した「原子力科学技術に関する研究,開発及び訓練のための地域協力協定」(1977,1982年にそれぞれ5年間延長)に必要な改定を行い,1987年に発効(我が国は同年締結)したものである。(1992年6月に同協定を5年間延長する協定が発効し,我が国も1992年9月に締結した。)政府関係の協力のみならず,民間の協力として,中国,韓国,台湾及びフィリピンの原子力発電技術協力等を行っている。その一環として,中国の秦山原子力発電所の試運転協力のため,1992年に専門家を派遣している。
(4)旧ソ連,中・東欧地域等に対する原子力安全に関する協力
旧ソ連,中・東欧諸国の原子力発電所の安全性確保は,世界的に重大な懸念材料であるとして,国際的に支援方策が検討されている。
1992年7月のミュンヘン・サミット経済宣言においても,ソ連型の原子力発電所の安全性は重大な懸念材料であり,運転上の安全性改善,安全性評価に基づく短期の技術的改善,規制制度の強化を含む多国間の行動計画の枠組みの中で旧ソ連,中・東欧諸国に対する支援を行うことに加え,原子力安全条約の早期締結の必要性が述べられた。
また,1992年7月に開催された西側先進諸国24か国で構成されるG24原子力安全ワーキンググループ(現G24原子力安全支援調整国際会議)において,ミュンヘン・サミットの経済宣言を受けて既存のG24調整対象国を従来の中・東欧諸国のみならず旧ソ連諸国まで拡大し,より一層効率的にする新しい枠組みを作成することが決定された。同ワーキンググループにおいて支援策の調整活動が実施されている。
1993年7月の東京サミットではミュンヘン・サミットの行動計画の実施状況が評価された。経済宣言において,短期的措置については二国間支援,原子力安全支援基金の設置,G24の支援調整機構の整備等で進展があることを評価するとともに,今後の課題として支援を遅滞なく実行に移し,安全性の向上を図ることが重要としている。また,長期的措置については,世界銀行及び国際エネルギー機関(IEA)によるエネルギー研究報告を参考にしつつ今後の支援の枠組みを策定することとし,各当事国が危険な原子力発電所の早期閉鎖を可能にするようなエネルギー戦略の策定を支援し,世界銀行等がそのための融資政策の調整を図れるようにすることを目標としている。
このほか,民間による国際協力として,世界原子力発電事業者協会(WANO)が,旧ソ連,中・東欧地域を含めた世界規模での原子力発電の安全向上のため,原子力発電所の交換訪問等の活動を行っている。
①旧ソ連,中・東欧地域の原子力安全対策に対する我が国の協力
我が国は,IAEAのソ連型原子力発電所の安全性評価プロジェクトのために,専門家を派遣するとともに,1992年度から特別拠出を実施している。また,1993年度より,OECD/NEAに対して旧ソ連,中・東欧の原子力の安全性の向上に係るプロジェクトを支援するための特別拠出金を実施する予定である。
旧ソ連,中・東欧諸国及びアジア諸国より原子力技術者を受け入れ,原子力安全向上のための研修を実施している。また,原子力発電技術者の技術レベル・安全意識向上のため,研修生を10年間に1,000人規模で招へいすることとし,1992年より実施している。旧ソ連,中・東欧諸国の原子力発電の状況等の調査を実施するとともに,旧ソ連,中・東欧諸国に我が国の原子力安全の専門家を派遣し,原子力安全に関する技術の交流を行っていく予定である。
原子炉の配管からの冷却水漏洩を検知するための運転中異常検知システムをソ連型原子力発電所に設置し,当該技術を適用することにより,安全性の向上を図ることとしている。また,運転員の訓練の充実及び資質の向上を図るため,原子炉施設の挙動を模擬する本格的シミュレータをロシアに1基設置することとしている。
②原子力安全条約の検討
旧ソ連,中・東欧地域の原子力発電所の安全問題を契機として,各国の原子力施設の安全確保を目的とした原子力安全条約の策定が,1991年9月のIAEA主催の原子力安全国際会議で提案された。1992年2月のIAEA理事会で,条約草案策定のためのワーキンググループの設置が了承され,この決定に基づいてワーキンググループが設置され,検討が進められている。
我が国としては,原子力の安全性に関する基本原則からなる世界共通の理念として原子力安全条約が,旧ソ連,中・東欧諸国を含む現在の原子力利用国の安全の確保・改善とともに,アジア諸国等が今後原子力開発利用を進めるに当たっての適切な原子力の安全確保に資するとの観点から重要であると認識し,早期作成に向けて積極的に対応している。
③原子力安全支援基金の設立
ミュンヘン・サミットにおいて,旧ソ連,中・東欧諸国の原子力発電所の安全性を確保するための緊急措置として二国間支援の強化に合意するとともに,これを補完するため必要な場合には原子力安全支援のための多国間メカニズムを設けることについて合意した。G7各国は,1993年3月,二国間支援を補完する多国間支援基金を欧州復興開発銀行(EBRD)内に設立することに合意し,我が国は本基金に対し3年間で1,200万ドルの資金を拠出することを決定するとともに,初年度分として400万ドルを拠出した。また,1993年6月には同基金による最初の支援プロジェクトとしてブルガリアのコズロドイ原子力発電所に対し2,400万エキューを支援することが決定された。
④その他の協力
WANOは,その活動の一環として,旧ソ連,中・東欧諸国の原子力発電事業者の啓発のため,事業者間の交換訪問を実施しており,1989年から1992年末までに合計177の訪問が行われた。WANOは情報交換機関であるため,直接設備の改善に関わる事業はできないが,技術的助言の供与,実務処理の支援及び関係機関の調整等の役割を果たしてきた。WANOでは,ブルガリアのコズロドイ原子力発電所の設備改善に関し人を派遣し,補修・改善工事の管理及び指導に当たるとともに,契約業務の支援,提携関係締結の支援等を行ってきている。
WANO東京センターからも人を派遣し,この作業に協力している。
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