平成2年版
原 子 力 白 書
平成2年10月
原子力委員会
平成2年 原子力年報の公表に当たって
我が国においては,原子力発電は総発電電力量の3割弱を占め,基軸エネルギーとしての役割を果たしています。この間,公衆の健康に影響を与えるような事故を起こしたことは一度もなく,優れた安全確保の実績を積み重ねています。
しかしながら,1986年のチェルノブイル原子力発電所事故を契機として,一般層を含め国民各層が原子力に対する不安・疑念を感じるようになっています。
一方,本年8月のイラクのクウェート侵攻により原油価格が上昇したことから,エネルギー源を石油に大きく依存している我が国において,エネルギーの安定供給の確保の重要性が一層強く認識されるようになっています。
さらに,地球温暖化,酸性雨等の地球環境問題が近年大きな問題となっており,特に地球温暖化問題については,エネルギーと密接に関連していることから,エネルギーの面でも,エネルギー利用効率の向上,非化石エネルギーへの転換が重要な課題となっています。
原子力発電は,中核的な石油代替エネルギーであるとともに,地球環境問題の解決においても重要な役割を果たすことが期待されており,一層の安全確保と国民の理解を得つつ着実にその推進を図ることが必要です。
このため,本年報では,国際石油情勢,地球環境問題等エネルギーを巡る世界の情勢等我が国におけるエネルギー需給等を概観した上でこれを踏まえた原子力発電の位置づけについて把握し,さらに,自主的な核燃料サイクル,特に再処理―リサイクル路線及び放射性廃棄物対策についてまとめるとともに,この一年間における我が国の原子力発電開発利用の進展状況について記述しました。
本年報が広く国民各位の原子力発電開発利用に関する理解を深めるために役立てば幸いです。
平成2年10月26日
| 国 務 大 臣 | | |
| 原子力委員会委員長 | | 大島 友治 |
| 科学技術庁長官 | | |
本書の構成と内容
本書は,この1年の原子力開発利用の動向を取りまとめたものである。
第I部「総論」においては,イラクのクウェート侵攻に関わる原油問題を含めたエネルギー動向,あるいは,環境問題等の最近のエネルギーを巡る世界的情勢及び世界主要国等の原子力発電を巡る状況等を概観しその中での我が国の原子力発電の位置づけを明らかにし,続いて,核燃料サイクルに焦点を当て,その必要性,安全性等について述べるとともに,我が国における原子力発電,放射線利用等の原子力開発利用の進展状況について取りまとめた。
第2部は,「各論」として,「原子力発電」,「核燃料サイクル」,「安全の確保及び環境保全」,「新型動力炉の開発」,「核融合,原子力船及び,高温工学試験研究」,「放射線利用」,「基礎・基盤研究等」,「国際協力活動」,「核不拡散」及び「原子力産業」について,各々の最近の動向を中心に具体的に説明している。
第III部は「資料編」として,原子力委員の決定,原子力関係予算,年表等をとりまとめた。
なお,原子力開発利用においては,安全の確保が大前提であり,原子力安全委員会,安全規制当局,研究開発機関,電気事業者,メーカー等は国民の期待に応えてそれぞれの立場で安全の確保に努めている。それについては,別に「原子力安全年報」において取り扱われているので,本書においてはその詳細に立ち入ることは避け,原子力委員会に関係する基本的事項に留めることにした。
目 次
| 第I部 総 論 |
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| はじめに |
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| 第1章 国際石油情勢等最近のエネルギーを巡る情勢と原子力発電の役割 |
| 1,世界のエネルギー情勢と原子力発電 |
| 2.我が国の原子力発電を巡る動向 |
| 3.原子力発電を巡る海外諸国(地域)の動向 |
| 第2章 我が国における核燃料サイクルの確立に向けて |
| 1.我が国における使用済燃料の再処理-リサイクル路線の推進 |
| 2.放射性廃棄物処理処分に関する施策の推進 |
| 3,国内外のコンセンサス形成の推進 |
| 第3章 我が国における原子力開発利用の展開 |
| 1,我が国における原子力発電の動向 |
| 2.原子力研究開発の推進 |
| 3.国際社会への主体的貢献 |
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| 第II部 各 論 |
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| 第1章 原子力発電 |
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| 1,原子力発電開発の状況 |
| 2.原子力発電所の運転状況 |
| (1)設備利用率 |
| (2)故障・トラブル等 |
| 3.原子力発電所の立地関連状況 |
| (1)原子力発電所の立地をとりまく状況 |
| (2)原子力発電所等の立地促進 |
| (3)公開ヒアリング |
| 4.軽水炉技術の向上 |
| (1)軽水炉の改良標準化 |
| (2)軽水炉の高度化 |
| 5.原子炉の廃止措置 |
| (参考)諸外国(地域)の動向 |
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| 第2章 核燃料サイクル |
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| 1.ウラン資源 |
| (1)天然ウランの需給バランス |
| (2)ウラン資源の調査探鉱 |
| (3)製錬・転換技術の開発 |
| 2.ウラン濃縮 |
| (1)ウラン濃縮需給バランス |
| (2)ウラン濃縮の技術開発 |
| (3)商業プラントの建設 |
| 3.核燃料再転換・成型加工 |
| (1)軽水炉用核燃料再転換・成型加工 |
| (2)研究炉用核燃料成型加工 |
| 4.,使用済燃料の再処理 |
| (1)東海再処理工場 |
| (2)民間再処理工場 |
| (3)海外再処理委託 |
| (4)技術開発 |
| 5プルトニウム利用 |
| (1)軽水炉によるプルトニウム利用 |
| (2)プルトニウム燃料の加工 |
| (3)高速増殖炉燃料再処理技術開発 |
| 6,核燃料物質の輸送 |
| 7,放射性廃棄物の処理処分対策 |
| (1)放射性廃棄物処理処分の現状 |
| (2)放射性廃棄物処理処分の研究開発 |
| 8.核燃料サイクル関連施設の立地 |
| (参考)諸外国の動向 |
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| 第3章 安全の確保及び環境保全 |
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| 1.原子炉施設等の安全確保 |
| (1)原子炉施設の安全確保 |
| (2)核燃料施設等の安全確保 |
| (3)放射性同位元素等の取扱いに係る安全確保 |
| 2.原子力の安全研究 |
| (1)原子力施設等の安全研究 |
| (2)環境放射能の安全研究 |
| (3)放射性廃棄物処分の安全研究 |
| 3,原子力施設等の安全性実証試験等 |
| (1)配管信頼性実証試験 |
| (2)大型再冠水効果実証試験 |
| (3)再処理施設耐食安全性実証試験 |
| (4)再処理施設換気設備安全性実証試験 |
| (5)ガラス固化体閉じ込め安全性実証試験 |
| (6)再処理施設耐震安全実証試験 |
| (7)再処理施設抽出工程安全性実証試験 |
| (8)再処理施設安全性実証解析等 |
| (9)再処理施設臨界安全性実証試験 |
| (10)新型動力炉原型炉機器等寿命信頼性等実証試験 |
| (11)放射性廃棄物輸送容器等安全性実証試験 |
| (12)燃料集合体信頼性実証試験 |
| (13)溶接部等熱影響部信頼性実証試験 |
| (14)原子力発電施設耐震信頼性実証試験 |
| (15)電気計装品信頼性実証試験 |
| (16)実用原子力発電施設安全性実証解析等 |
| 4.環境放射能調査 |
| (1)自然放射線の調査 |
| (2)原子力施設周辺の放射能調査 |
| (3)核爆発実験等に伴う放射性降下物の放射能調査 |
| (4)米国原子力軍艦の寄港に伴う放射能調査 |
| (5)放射能測定マニュアルの整備 |
| 5.温排水に関する調査研究 |
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| 第4章 新型動力炉の開発 |
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| 1.高速増殖炉 |
| (1)実験炉の運転 |
| (2)原型炉の建設 |
| (3)実証炉の開発 |
| 2,新型転換炉 |
| (1)原型炉の運転状況 |
| (2)実証炉の開発 |
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| 第5章 核融合,原子力船及び高温工学試験研究 |
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| 1.核融合 |
| (1)総論 |
| (2)研究開発の現状 |
| (3)国際協力 |
| 2.原子力船 |
| (1)原子力船「むつ」による研究開発 |
| (2)その他の研究開発 |
| 3.高温工学試験研究 |
| (1)研究開発 |
| (2)国際協力 |
| (参考)諸外国の動向 |
| (1)核融合 |
| (2)原子力船 |
| (3)高温ガス炉 |
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| 第6章 放射線利用 |
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| 1.放射線利用の動向 |
| 2.農林水産業への利用 |
| (1)食品照射 |
| (2)害虫防除 |
| (3)品種改良 |
| 3.工業への利用 |
| (1)測定・分析 |
| (2)高分子材料の合成・改質 |
| (3)医療用具の滅菌 |
| 4.医療への利用 |
| (1)診断 |
| (2)治療 |
| 5.放射線利用に係る研究開発 |
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| 第7章 基礎・基盤研究等 |
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| 1.基礎研究の動向 |
| (1)日本原子力研究所における基礎研究 |
| (2)放射線医学総合研究所における基礎研究 |
| (3)理化学研究所における基礎研究 |
| 2.基盤技術開発 |
| (1)原子力用材料技術 |
| (2)原子力用人工知能技術 |
| (3)原子力用レーザー技術 |
| (4)放射線リスク評価・低減化技術 |
| 3.国立試験研究機関における原子力試験研究 |
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| 第8章 国際協力活動 |
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| 1.先進国との国際協力 |
| (1)二国間協力 |
| (2)多国間協力 |
| (3)国際機関との協力 |
| 2.開発途上国との国際協力 |
| (1)IAEA/RCA |
| (2)日韓原子力協力取極の締結 |
| (3)開発途上国協力の展開 |
| (参考)第1回アジア地域原子力協力国際会議の結果について |
| 3.国際交流 |
| (1)原子力委員会招へい |
| (2)開発途上国原子力関係者招へい |
| (3)海外原子力関係者の来訪 |
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| 第9章 核不拡散 |
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| 1.核不拡散に関する我が国をめぐる二国間の動向 |
| (1)日仏原子力協力協定改正について |
| (2)新日米原子力協定 |
| 2.核不拡散に関する国際的協議 |
| (1)国際核燃料サイクル評価(lNFCE)後の諸問題 |
| (2)NPT再検討会議と原子力平和利用国連会議 |
| 3.保障措置 |
| (1)我が国における効率的な保障措置体制 |
| (2)保障措置の実施状況 |
| (3)保障措置技術に関する研究開発と国際協力 |
| 4.核物質防護 |
| (1)核物質防護をめぐる国際的動向 |
| (2)我が国における核物質防護 |
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| 第10章 原子力産業 |
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| 1,原子力発電関連機器産業 |
| 2,核燃料サイクル関連事業 |
| (1)核燃料再転換・成型加工事業 |
| (2)ウラン濃縮・再処理等の核燃料サイクル関連事業 |
| 3.RI・放射線機器産業 |
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| 第III部 資 料 |
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| 1.原子力委員会,原子力安全委員会及び原子力関係行政組織 |
| (1)原子力委員会 |
| (2)原子力安全委員会 |
| (3)原子関係行政組織 |
| 2.原子力委員会の決定等 |
| (1)原子力委員会決定一覧(原子炉等規制法に係る諮問・答申を除く) |
| (2)平成2年度原子力開発利用基本計画 |
| (3)原子炉等規制法係る諮問・答申について |
| (4)専門部会報告書 |
| 3.原子力関係予算 |
| (4)1990年度電源開発促進対策特別会計 |
| 4.その他 |