2.原子力委員会の決定等

(1)原子力委員会決定一覧(原子炉等規制法に係る諮問・答申を除く)



(2)平成元年度原子力開発利用基本計画

(1989年3月30日答申)
原 子 力 委 員 会
(1989年3月30日答申)
原 子 力 安 全 委 員 会
(1989年3月30日決定)
内 閣 総 理 大 臣

I.総 論
 我が国が原子力研究開発に着手してから30年余が経過し,この間平和利用の堅持と安全確保を大前提に原子力開発利用が着実に進展している。
 我が国の原子力発電は,中国電力(株)島根原子力発電所2号炉の運転開始に伴い既に36基の商業用原子力発電所が運転中であり,これにより総発電電力量の約三割が賄われるに至っており,原子力は我が国の国民生活及び産業活動に必要不可欠なエネルギー源として定着してきている。エネルギー資源の海外依存度の高い我が国においては,その低減を図り,均整のとれた最適なエネルギー供給構造の確立を目指すことが重要であり,このため,他のエネルギー源と比較して,経済性,供給安定性等において優れた特徴を有する原子力を我が国のエネルギー供給構造の脆弱性の克服に貢献する基軸エネルギーとして位置付け,長期的視点に立って,その開発利用を着実に推進していく必要がある。
 また,原子力を,エネルギー供給源として利用することによって,石油,天然ガス,石炭等の限りある天然資源の燃焼による消費を抑制し,これらを化学原料等として有効に活用する道を開くことが可能となる。さらに近時,二酸化炭素,窒素酸化物等による温室効果,酸性雨等の地球規模の環境問題に対する関心が世界的に高まっているが,原子力は,二酸化酸素等を発生しないという点において,石油等の利用に係る環境面からの制約を免れることから,その解決のための一つの方策として大きく貢献することが期待されている。
 このように原子力は様々な優れた特徴を有しているが,その開発利用を推進するに当たっては,その安全確保に万全を期することが不可欠である。このため,安全規制を更に充実させるとともに,マンマシンインターフェイスに関する研究も含めた原子力施設の工学的安全研究,環境放射能,放射性廃棄物等に関する安全研究,施設従業者の教育訓練等を引続き積極的に推進していくこととする。
 さらに,ウラン資源を有効に利用し,原子力発電の自主性の一層の向上を図るため,ウラン濃縮,使用済燃料の再処理及び放射性廃棄物の処理処分等の核燃料サイクルを早期に確立する必要がある。このため,現在,青森県六ヶ所村において進められている核燃料サイクルの民間事業化計画が,安全確保を大前提に円滑に進められるよう,国としても積極的な支援を行っていくこととしている。その際,動力炉・核燃料開発事業団を始めとする原子力開発機関において永年にわたり蓄積されたポテンシャルを最大限に活用することが重要である。
 また,我が国の核燃料サイクルの確立の上での重要課題である高レベル放射性廃棄物の安全かつ確実な処理処分については,特に地層処分に係る技術に関して今後とも動力炉・核燃料開発事業団を中核推進機関として一層の研究開発の進展を図ることとする。
 一方,使用済燃料を再処理することによって得られるプルトニウムは,純国産エネルギー資源として考えられ,これを使用することによりウラン資源の有効利用が図られるため,エネルギーの安定供給上,その意義は極めて大きい。このため,プルトニウム利用体系の確立を目指して,ウラン資源の利用効率が圧倒的に優れている高速増殖炉について,これを将来の原子力発電の主流となすべきものとして開発を進めていくことが基本である。原型炉「もんじゅ」については,平成4年の臨界を目指し,官民協力の下,引き続き建設を進めることとし,その建設・運転経験をその次の実証炉の開発に引き継ぐものとする。さらに,プルトニウム利用に係る広範な技術体系の確立を図るため,高速増殖炉の使用に先立ち,軽水炉及び新型転換炉によるプルトニウム利用を進めていくことが重要である。その際,混合酸化物燃料(MOX燃料)加工の実用化に向けての技術開発を進めるとともに,海外再処理による回収されたプルトニウムの国際輸送については,関係機関の緊密な連携の下に輸送体制の整備をはかることとする。
 一方,今後の原子力の研究開発については,創造的な科学技術の育成の観点から,技術革新の牽引車としての先導的な役割を果していくことが期待されている。このうち核融合の研究開発については,これが実用化された場合,人類が恒久的なエネルギー源を確保することを可能にするものとして,積極的に研究開発を進めていくこととする。特に,臨界プラズマ試験装置(JT-60)については,昭和62年9月に臨界プラズマ条件の目標領域に到達したことを踏まえ,その高性能化のための改造等を進めるとともに,日・米・EC・ソ間で進められている国際熱核融合実験炉(ITER)共同概念設計活動についても積極的に国際貢献を果たす。
 また,高温工学試験研究については,高い固有の安全性,高エネルギー効率等優れた特性を有する高温ガス炉技術の基盤の確立・高度化及び高温工学に関する先端的基礎研究を行うための中核施設として,高温工学試験研究炉の建設に着手することとする。さらに,重粒子線がん治療装置,大型放射光施設等についても,放射線利用の一層の普及・拡大及び利用技術の高度化を目指して着実にその推進を図っていくこととする。
 また,原子力分野のプロジェクトの共通基盤を形成する基盤技術の開発については,各機関に蓄積された研究ポテンシャルを活用しつつ,国際交流を含む産・学・官の積極的な研究交流を通じて,原子力用材料,人工知能,レーザー等に関する創造的・革新的領域の研究開発を進めることとする。
 一方,国際的には,原子力分野における我が国の国際社会への貢献に対する要請が高まっており,これにこたえるため,原子力先進国としての国際的責務を果たしつつ,諸外国との協力活動を主体的・能動的に展開していくこととする。特に開発途上国との協力については,相手国の国情を勘案しつつ,研究基盤・技術基盤の整備に重点を置き,研究者,技術者等の相互交流の促進を図るとともに,外国人研究者の受入れのための宿舎,研究交流施設等の国内環境の整備を図っていくこととする。このうち,我が国と地理的,経済的に密接な関係にある近隣アジア地域との地域協力については,本地域特有の放射線利用,研究炉利用,安全確保対策等の共通課題の解決を目指し,地域全体の原子力技術レベルの向上に資することが重要である。
 また,先進国との協力については,二国間協力の枠組みの整備の一環として,日仏原子力協力協定の改定に向けた日仏原子力協議の円滑な進展を図ることが重要である。また,安全研究を始め核融合,高速増殖炉,高レベル放射性廃棄物の処理処分等の長期的観点から取り組むべきプロジェクトを中心に,互恵性及び双務性の確保に配慮しつつ,研究協力を進めていくこととする。さらに,我が国の原子力開発利用は厳に平和目的に限るとの立場を国際的に明らかにするためにも,より効果的な保障措置体制及び核物質防護体制の整備を今後とも充実させていくこととする。
 原子力の研究開発利用を今後とも円滑に進めていくためには,原子力に関する国民の理解と協力を増進することが極めて重要である。このため,原子力施設の安全運転の実績を積み重ね国民の信頼感を得ることが不可欠であるが,これに加え,原子力に関する正確な知識及び情報の提供に務めつつ,原子力に対する国民の正しい認識を深めるための様々な施策を積極的に展開するとともに,原子力施設立地地域における地域振興方策を充実していくこととする。
 以上の原子力をめぐる内外の諸情勢を踏まえ,昭和62年に策定した原子力開発利用長期計画に沿って以下に示す具体的方策を講じ,原子力開発利用の総合的かつ計画的な推進を図るものとする。

II.各論

1.安全確保対策の総合的強化
 原子力の研究開発利用を進めるに当たっては,これまでも厳重な規制と管理を実施し,安全の確保に万全を期してきたところであるが,1986年4月にソ連チェルノブイル原子力発電所で起きた事故は,原子力の安全確保の重要性を改めて認識させた。この事故を警鐘として受け止め,内外の事故・故障の教訓の反映など従来からの活動に加え,ソ連原子力発電所事故調査特別委員会報告書(以下「ソ連事故調査報告書」という。)で指摘された事項を踏まえ,原子力の安全確保対策を更に充実し,安全性の一層の向上を図っていく必要がある。さらに原子力の安全確保対策は,原子力発電の推進,高速増殖炉原型炉の建設,新型転換炉実証炉の建設計画,再処理工場等核燃料サイクル施設の建設及び放射性廃棄物処理処分対策の推進,放射性物質の輸送の増大及び多様化等,今後における原子力研究開発利用の進展に対応していく必要がある。

(1)原子力安全規制行政の充実
 原子力の安全確保のための規制については,行政庁において法令に基づき,従来より厳正な安全規制を行っているが,今後とも,安全審査,運転管理監督体制等のより一層の充実・強化を図る。
 原子力安全委員会においては,行政庁の行った設置許可等に係る安全審査についてダブルチェックを行うほか,設置許可等の各段階においても必要に応じ審議し,行政庁の行う安全規制の統一的評価を行い,原子力の安全確保に万全を期する。
 原子力安全委員会の調査・審議に当たっては,原子炉安全専門審査会及び核燃料安全専門審査会の調査・審議において,独自の安全解析を行うなど審査機能等の充実を図り,客観性・合理性の確保に努める。また,行政庁の行った原子力発電所等主要原子力施設設置許可等に係る審査についてダブルチェックを行う際には当該施設の安全性に関し,公開ヒアリング等を実施する。
 安全規制に必要な各種安全審査指針,基準については,発電用原子炉,核燃料施設等に関し,原子炉立地審査指針,発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針,発電用軽水型原子力施設の安全評価に関する審査指針等の見直しを引き続き行うとともに,試験研究用原子炉施設に関する安全審査指針,放射性廃棄物の処理処分に関する基準等の整備を引き続き行う。また,これらの指針・基準の検討等に反映させるため,チェルノブイル原子力発電所事故を踏まえ,内外の事故・故障の分析・評価を引き続き実施する。なお,原子力安全委員会において,ソ連事故調査報告書を踏まえ,事故が設計基準事象の範囲を超えても,これに対処できるだけの余裕を持っているかという観点からシビアアクシデントの考え方等について引き続き検討を進める。
 放射性物質の輸送の増大,多様化に対処し,輸送の安全確保を図るため,放射性物質の輸送の安全評価等のための調査検討を進めるとともに,プルトニウムの航空輸送に関する安全基準の検討を行う。また,行政庁において国際原子力機関(IAEA)放射性物質安全輸送規則の改訂に伴い,同規則に準拠している国内法令の整備を行う。
 さらに,IAEAにおける原子炉の安全基準改訂に関する検討,放射線防護の諸指針作成に関する検討及び放射性物質の安全輸送に関する検討並びに経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)における原子力施設安全規制国際協力事業への参加並びに米国,フランス等との間で安全規制の情報交換の一層の充実に努め,原子力安全に関する国際協力を一層推進し,我が国の安全審査指針・基準等の整備等安全規制の充実に資するとともに,諸外国からの専門家を招へいするなど世界の原子力安全確保の向上に貢献するよう努める。
 また,放射性同位元素等の利用の拡大に対処して,より一層の安全確保に努める。
 国際放射線防護委員会(ICRP)の新勧告の国内制度への取り入れについては,放射線審議会の意見具申及び答申を踏まえ,所要の措置を講ずる。

(2)安全研究の推進
 安全規制の裏付けとなる科学技術的知見を蓄積し,各種安全審査指針・基準等の整備・充実及び原子力施設の安全性の向上に資するため,軽水炉,新型炉,再処理施設等原子力施設の工学的安全研究,放射線障害防止に関する研究等の環境放射能安全研究及び放射性廃棄物安全研究を推進する。

①工学的安全研究
 軽水炉に関する工学的安全研究については,日本原子力研究所を中心に,国立試験研究機関等の協力の下に,総合的・計画的に実施する。特に,日本原子力研究所においては,加圧水型軽水炉の小破断冷却材喪失事故時の総合実験(ROSA-IV計画),原子炉安全性研究炉(NSRR)による反応度事故に関する試験研究,材料試験炉(JMTR)及び実用燃料照射後試験施設(大型ホットラボ)による燃料の安全研究,ソースターム評価試験等のシビアアクシデント時の安全研究等を実施する。
 また,新型転換炉については,動力炉・核燃料開発事業団において,MOX燃料の健全性評価に関する研究,シビアアクシデント時における炉心損傷評価及び燃料挙動評価に関する研究を行う。
 高速増殖炉については,動力炉・核燃料開発事業団等において安全設計・評価方針の策定に係わる研究,事故防止及び緩和に係わる安全研究等を実施する。
 再処理施設等核燃料施設に関する工学的安全研究については,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団等において,核燃料施設に共通な分野として臨界安全性に関する研究,しやへい安全性に関する研究,事故評価手法に関する研究,放射線管理技術の研究等を,再処理施設の安全研究では耐食安全性に関する研究,再処理プロセスの安全性に関する研究等を実施する。
 特に,日本原子力研究所においては,各種安全解析コードの開発等を行うとともに,臨界安全性,超ウラン元素(TRU)廃棄物に関する安全研究等を行う燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF)の建設を進める。また,動力炉・核燃料開発事業団においては,未臨界度確保に関する安全研究を進める。
 このほか,放射性物質輸送の安全性に関する研究及び原子力施設の耐震安全性に関する研究を船舶技術研究所,地質調査所等の国立試験研究機関等において実施する。
 また,確率論的安全評価に関する研究については,日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団を中心として引き続き進める。
 さらに,国際協力による安全研究としては,軽水炉に関して日本原子力研究所が燃料の性能,信頼性等に関する研究を行うハルデン計画,冷却材喪失事故時における燃料損傷等に関する研究を行うOECD/LOFT計画,炉心損傷事故時の燃料挙動等に関する研究を行うSFD計画等に引き続き参加するほか,日本原子力研究所の原子炉安全性研究炉(NSRR)及び加圧水型軽水炉の小破断冷却材喪失事故時の総合実験(ROSA-IV計画)等に関し,米国,西ドイツ,フランス等との間の研究協力を引き続き行う。また,高速増殖炉について,事故時の燃料破損伝播等の試験に関し,動力炉・核燃料開発事業団が引き続き国際協力による研究に参加する。

②環境放射能安全研究
 環境放射能安全研究については,環境における放射能挙動等に関する研究,低レベル放射線の人体に及ぼす身体的・遺伝的影響の機構の解明及びそのリスクの評価に関する研究等を実施する。
 低レベル放射線の人体に及ぼす身体的・遺伝的影響等に関する研究については,放射線医学総合研究所において,内部被ばく実験棟においてプルトニウムの内部被ばくに関する研究を推進するとともに,人体に対する放射線のリスクの評価に係る研究等を積極的に推進する。また,国立公衆衛生院等の国立試験研究機関において,無機金属元素及び酸素処理血清の投与による生体の放射線防護機構解明に関する研究等を実施する。
 環境放射能の挙動等に関する研究については,放射線医学総合研究所,その他の国立試験研究機関,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団等において,環境放射線モニタリング及び公衆の被ばく線量評価に関する調査研究並びに一般環境及び人体内の放射能の挙動と水準の調査を引き続き行うとともに,食品については,放射能水準の調査を充実する。また,気象研究所等の国立試験研究機関において大気拡散数値モデル等に関する研究等を実施する。日本原子力研究所においては,緊急時においてより広範な放射能影響を予測するためのシステムの開発を進める。

③放射性廃棄物安全研究
 低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分に関する安全研究については,日本原子力研究所等において,環境シュミレーション試験,放射性核種の地表面等移行試験,総合安全評価モデルの整備等を実施する。また,海洋処分に関する安全研究については,国立試験研究機関等において,海洋学的知見を蓄積するため,調査研究等を引き続き実施する。なお,TRU廃棄物の処分に関する安全研究については,日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団において,TRU廃棄物の安全性評価に関する研究等を実施する。
 高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する安全研究については,地層処分に関する安全評価,指針・基準等の考え方に係る基本的な調査研究を進めるほか,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,地質調査所等において,人工バリアに係る試験研究として,地層処分施設の安全評価手法に関する研究,ガラス固化体,固化体容器等の安全性評価に関する研究等を実施する。また,天然バリアに係る試験研究として,処分場周辺の岩盤の安定性に係る安全性評価に関する研究,天然バリアによる閉じ込め性能の安全性評価手法に関する研究,天然バリアの性能を評価するための類似の自然現象(ナチュラルアナログ)に関する調査研究等を実施する。さらに,地層処分システムの総合安全評価手法に関する研究等を進める。特に,天然バリアに係る試験については,カナダ等との二国間又は国際機関における情報交換,人的交流による国際協力を積極的に推進する。

(3)防災対策の充実・強化
 原子力施設の万一の緊急時における防災対策を推進するため,引き続き緊急時連絡網,緊急時環境放射能監視体制,緊急時医療体制及び防災活動資機材の整備等を一層進める。また,緊急時迅速放射能影響予測システムの整備,緊急技術助言組織による助言の迅速・適確化等のためのシステムの整備,防護対策に関する各種調査の実施等防災対策の充実・強化を図る。さらに,原子力安全委員会において,ソ連事故調査報告書を踏まえ,防護対策等のより一層の充実について検討を行う。

(4)環境放射能調査の充実・強化
 ソ連のチェルノブイル原子力発電所事故を踏まえ,原子力発電施設等の周辺における環境放射能の適確な監視体制を整備・充実するとともに,放射性降下物の影響を調査し,国民の健康と安全を確保するため環境放射能調査の充実を図る。

(5)原子力事業従事者の被ばく管理対策の充実
 原子力事業従事者の被ばく管理については,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律,放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律,労働安全衛生法等に基づき,今後ともその徹底を図る。さらに,定期検査等における従事者の被ばく線量の低減化対策の充実を図る。

(6)核燃料サイクルの確立,新型炉の開発等に当たっての安全確保
 使用済燃料の再処理等核燃料サイクルの確立,原子炉の廃止措置に関する技術開発の推進,高速増殖炉,新型転換炉及び高温工学試験研究炉の開発,核融合の研究開発等の進展に即応して,必要な安全審査指針・基準等の検討及び安全性に関する研究開発を進める。

2.原子力発電の推進
 軽水炉については,信頼性及び稼働率の向上,保守点検作業の効率化,作業員の被ばく低減化等の観点から,自主技術を基本として技術の高度化を図り,日本型軽水炉を確立するための調査を行うとともに,原子力発電検査技術の開発及び原子力発電施設の補修作業等を行うロボットの開発を行い,また,民間における原子力発電支援システムの開発の助成を行う。
 また,軽水炉の安全性・信頼性を実証するため,大型再冠水効果実証試験,配管信頼性実証試験,耐震信頼性実証試験,原子力発電施設安全性実証解析等を実施する。さらに,作業員の被曝低減化のための技術調査を実施するとともに高性能燃料確証試験,高機能炉心に関する技術調査,高燃焼度等燃料確証試験をその実用化のため引き続き実施するとともに,また次世代の軽水炉に適用しうる高度安全システムの調査についても実施する。また,軽水炉の長寿命化及び稼働率向上のための技術開発,原子力発電所内における使用済燃料貯蔵対策の調査等を実施し,その実用化の促進を図るとともに,実用原子力発電所のヒューマンファクター関連技術を実施する。
 実用発電用原子炉の廃止の時期に備えて日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)をモデルとして解体実地試験を行うなど原子炉の解体の技術開発を推進する。また,実用発電用原子炉の廃止措置に使用される設備について確証試験を行うとともに,同措置に伴って生ずる放射性廃棄物の処理処分方策に係る調査を行う。また,原子力発電所の新立地技術として高耐震構造立地技術の確証試験を実施する。

3.核燃料サイクルの確立
 我が国の自主的核燃料サイクルを早期に確立するため,海外ウラン探鉱活動の推進,ウラン濃縮国産化対策の推進,国内再処理事業の確立のための施策の推進,放射性廃棄物の処理処分対策の推進等を行う。

(1)ウラン資源確保策の推進
 動力炉・核燃料開発事業団によるオーストラリア,カナダ,ニジェール等における単独又は諸外国の機関と共同で行う海外ウラン調査探鉱活動を重点的に実施する。また,金属鉱業事業団の出融資制度等により,民間企業による海外ウラン探鉱開発活動を助成する。
 動力炉・核燃料開発事業団において,低濃度ウランの回収技術に関する研究を行う。また,金属鉱業事業団において行われている,海水ウラン回収システムについては,昭和62年度で運転を終了したモデルプラントの解体試験を行う。
 また,国内における核燃料サイクル確立の観点から転換の事業化に関する調査を行う。

(2)ウラン濃縮国産化対策の推進
 遠心分離法によるウラン濃縮の国産化を図るため,動力炉・核燃料開発事業団においてウラン濃縮パイロットプラント及び原型プラントの運転試験を継続する。また,新素材を用いた遠心分離機の信頼性確証,低コスト化及び高性能化に必要な研究開発等を引き続き進めるとともに,新素材高性能遠心分離機の実用規模カスケード試験装置の建設を進める。
 さらに,民間によるウラン濃縮商業プラントの建設を推進するほか,ウラン濃縮の事業化に関する調査,テイルウランの再転換貯蔵システム技術の確立等を行うとともに,民間で行うウラン濃縮遠心分離機製造技術の確立及び耐振動衝撃システム開発に対して助成を行う。
 ウラン濃縮新技術については,平成2年度頃に評価を行い得るような所要の研究開発を進める。まず,有望な将来技術として期待されているレーザー法ウラン濃縮の技術開発については,早期に技術的見通しを得るよう積極的に推進することとする。原子レーザー法に関しては,日本原子力研究所において基礎プロセスの解明,データベースの整備等を行うとともに,民間が主体となって設立したレーザー濃縮技術研究組合が実施する機器開発に対する助成を行う。また,金属鉱業事業団において原子レーザー法ウラン濃縮用の金属ウランの連続生産技術に関する調査に着手する。分子レーザー法に関しては,理化学研究所において従来までの原理実証試験の成果を踏まえ,分子法プロセスの最適化試験及びCO2レーザーの高度化試験を行う。動力炉・核燃料開発事業団においても,理化学研究所の協力を得つつ次段階の工学実証試験に必要な技術開発及びシステム機器の設計を行う。さらに,化学法ウラン濃縮技術については,これまでの民間企業によるシステム開発に対して引き続き助成を行う。
 また,ウラン濃縮施設に関する安全性実証試験に着手する。

(3)使用済燃料の再処理及び回収ウランの利用の推進
 再処理技術の実証と確立を図るため,動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設及びプルトニウム転換施設の操業を行うとともに,第2高放射性固体廃棄物貯蔵庫の建設等所要の施設整備を行う。また,同事業団において再処理の改良技術,工程管理技術等の研究開発を進める。
 一方,民間による再処理工場の建設計画を推進することとし,動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設の建設及び運転によって得られた技術等を活用し,所要の協力を行う。また,大型再処理施設の環境安全の確保,保証措置の適用のための技術開発等を引き続き行うほか,民間再処理施設における海外技術の国内定着化等を図るため,民間事業者の行う技術確証等に対し助成を行うとともに,高燃焼度燃料の再処理に関する試験研究及び再処理プロセス解析コードの開発並びに使用済燃料管理に関する技術開発及び原子力発電所内における貯蔵技術の確証等を行う。さらに,再処理施設の安全解析コードの整備,再処理施設の安全性実証試験等を引き続き実施するとともに,再処理技術の高度化に関する調査を行う。
 また,高速増殖炉の使用済燃料の再処理する技術を確立するため,動力炉・核燃料開発事業団において実際の炉で照射した燃料を用いた工学規模の試験を行うための施設の設計を行うとともに,所要の研究開発を進める。回収ウランの利用に関しては,その利用方策について検討するとともに,技術の確立を図るため,動力炉・核燃料開発事業団においてウラン,プルトニウム混合酸化物燃料の母材としての利用, UF6転換及び再濃縮試験を進める。

(4)放射性廃棄物の処理処分対策の推進
 低レベル放射性廃棄物については,原子力発電の進展に伴い,今後発生量の増大が予想されているところであり,その適正な処理処分のための技術開発を推進するとともに,発生から処理処分に至る効率的な全体システムの確立に資する調査等を進める。
 低レベル放射性廃棄物の陸地処分については,引き続き日本原子力研究所において,環境シミュレーション試験等の安全評価に関する試験研究等を推進する。また,民間による低レベル放射性廃棄物埋設施設の建設計画を推進するとともに,安全性実証試験を継続する。さらに,放射性廃棄物処分の安全解析コードの整備,埋設の濃度上限値を上回る低レベル放射性廃棄物の処分技術の開発等を推進する。
 海洋処分については,関係国の懸念を無視して強行はしないとの考え方の下に,その実施については慎重に対処する。
 原子力施設の解体等から発生する極低レベル廃棄物については,合理的処分に係る安全性実証試験及び再利用技術開発を進める。また,核燃料施設の解体に伴って生ずる放射性廃棄物の処理処分方策に係る調査に着手する。
 高レベル放射性廃棄物の処理処分の研究開発については,動力炉・核燃料開発事業団を中心に進める。動力炉・核燃料開発事業団においては,ガラス固化処理の関連技術開発及びガラス固化技術開発施設の建設を進める。また,地層処分技術を確立するための深地層試験等の研究開発と高レベル放射性廃棄物等の貯蔵を行う貯蔵工学センターについては,深地層試験場,ガラス固化体貯蔵プラント等の概念設計を進めるほか,同センター計画についての地元の理解を深めるための広報活動を行う。さらに,地層処分に関しては,地層処分技術の確立を目指した研究開発を国の重要プロジェクトとして引き続き推進し,地層に関する調査研究,人工バリア,天然バリア,地層処分システム,サイト特性調査技術等に関する研究開発,地質環境等の適性を評価するための全国的な調査等を行う。
 日本原子力研究所においては高レベル放射性廃棄物の処理処分に関する安全性評価試験等を引き続き実施する。また,国立試験研究機関等においても,処理処分に関する基礎的調査研究を実施する。さらに,国際協力の分野においては,日豪協力によるシンロック固化処理の研究及び日加協力による地層処分の研究等を進めるほか, OECD/NEAにおける日豪協力によるウラン鉱床を用いた天然バリアの隔離機能等の評価研究に引き続き参加していく。
 また,動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所において高レベル放射性廃液には極めて長寿命の核種と比較的単寿命の核種が混在していること及び有用核種が含まれていることに着目し,処分の効率化及び応用核種の回収の観点から高レベル放射性廃液の核種分離,長寿命核種の消滅処理等の研究開発を長期的な課題として推進する。
 また,アルファ放射性廃棄物の処理処分に関する調査を行うとともに,動力炉・核燃料事業団において,プルトニウム廃棄物に関する処理技術の確立を目的としてプルトニウム廃棄物処理開発施設の運転を進める。TRU廃棄物の処理処分については,動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所において,固化技術等の処分技術の開発を進めるとともに,天然バリア中における核種移行に関する研究等の処分技術の開発を行う。使用済燃料の海外再処理委託に伴う返還廃棄物に関しては,我が国への受け入れが円滑に行えるよう,受入れ・貯蔵システムに関する開発調査,受入れ検査機器の開発及び発送前の検査システムの確立のための調査等を行う。さらに,放射性廃棄物輸送容器等の安全性実証試験を行う。
 以上のほか,核燃料サイクル分野における民間への技術協力体制の充実を図るとともに,技術移転の円滑化方策,核燃料サイクル支援基盤技術等の調査,放射性物質の輸送に関する調査及び核燃料施設の解体技術に関する調査を行う。また,動力炉・核燃料開発事業団において,金属燃料等の新型燃料による核燃料サイクルに関する技術についての調査を行う。

4.新型動力炉の開発
 核燃料の有効利用を目指す新型動力炉の高速増殖及び新型転換炉の開発を推進する。

(1)高速増殖炉
 高速増殖炉の開発については,動力炉・核燃料開発事業団において,実験炉「常陽」について熱出力10万kWの照射用炉心での定格運転を行い,燃料,材料の照射試験を実施する。同原型炉「もんじゅ」については,平成4年度臨界を目途としてこれを進めることとし,原子炉構造機器の製作,蒸気発生器の据付等を行う。さらに,機器システム,燃料,材料,安全性等の研究開発を進める。また,同実証炉の開発については,電気事業者及び動力炉・核燃料開発事業団等が相互に連絡・調整をとりながらメーカーの協力を得て進める。さらに,同実証炉の大型構造設計に関する技術確証試験を行う。

(2)新型転換炉
 新型転換炉原型炉「ふげん」については,連続運転を実施して,実証炉設計等へ反映するための運転経験及びデータの蓄積と評価を進めるほか,供用期間中検査装置の開発等の運転に関連する研究開発を進める。
 同実証炉については,平成9年度運転開始を目途に建設・運転の実施主体である電源開発株式会社において用地取得等を進め,動力炉・核燃料開発事業団においては,プルトニウム燃料の改良・加工に関連する研究開発を進める。
 また,同実証炉の安全解析コードの整備を進めるとともに,建設・運転に必要な技術確証試験等を行う。

(3)プルトニウム燃料加工技術の開発等
 動力炉・核燃料開発事業団において高速増殖炉「常陽」及び「ふげん」に使用するプルトニウム燃料の開発のため,引き続き,プルトニウム燃料製造施設の操業を行う。また,高速増殖炉原型炉「もんじゅ」等の燃料を製造する高速増殖炉燃料製造技術開発施設の運転,新型転換炉実証炉の燃料を製造する新型転換炉実証炉燃料製造技術開発施設の建設を進める。また,新型動力炉原型炉の各種機器・機材等の寿命信頼性等に関する実証試験及び安全性に関する実証解析等を進める。
 軽水炉用プルトニウム燃料の加工について燃料棒の溶接・組立・検査技術の確証を行う。さらに,プルトニウム燃料加工事業体制確立のための調査及びプルトニウムのリサイクル利用最適化方策についての調査を行う。また,プルトニウム航空輸送のための技術開発等を行うとともに,軽水炉及び新型転換炉におけるプルトニウム利用方策に関する調査並びにプルトニウム及びウランの効率的・計画的な利用を促進するため,核燃料サイクル評価システムの確立を図る。

5.先導的プロジェクトの推進

(1)核融合の研究
 核融合については,大学における各種研究の進展を考慮し,国際協力の推進にも留意しつつ,日本原子力研究所におけるトカマク方式による大規模な研究開発,国立試験研究機関による研究等を計画的に推進する。日本原子力研究所においては,臨界プラズマ試験装置(JT-60)が昭和62年9月臨界プラズマ条件の目標領域に到達したことを踏まえ,プラズマ高密度化等の高性能化実験を継続するとともに,大電流化等の高性能化計画を進める。さらに,実燃料使用時のプラズマの振舞を模擬した研究等のために,JT-60において重水素を使用することとし,そのための諸準備を行う。
 また,高性能トカマク開発試験装置(JFT-2M)による非円形断面トーラスプラズマの研究を行うとともに,プラズマ加熱を始めとする核融合炉心工学技術及び超電導磁石技術,トリチウム取扱い技術を始めとする炉工学技術の研究開発を進める。
 電子技術総合研究所においては,高ベータ・プラズマの研究のため逆磁場ピンチ型核融合装置(TPE-1 RM-15)による実験等を進める。また,金属材料技術研究所及び名古屋工業技術試験所においては,核融合炉に関連する材料の基礎的研究を行う。
 さらに,米国のダブレット―IIIを使った共同実験,核融合材料の共同照射研究,トリチウムの大量取扱い技術の取得を目指したトリチウムシステムの試験施設(TSTA)計画等の日米間の共同研究及び平成元年2月20日に締結された日-EC核融合協力協定に基づくECとの間の各種共同研究等の二国間協力を推進する。さらに,国際エネルギー機関(IEA)の下で,米国のTFTR及び欧州共同体(EC)のJETと我が国のJT-60との間における大型トカマク装置の多国間研究協力等を推進する。また,核融合先進国(日,EC,米,ソ)間で1988年4月よりIAEAの下で行われている国際熱核融合実験炉(ITER)共同概念設計活動に引き続き参加する等,国際協力を推進し,我が国の核融合研究開発の効率的実施に資することとする。

(2)放射線利用の推進
 放射線利用については,医療分野における各種疾病の診断,重粒子線等によるがん治療等に関する研究,工業分野における放射線化学研究開発,農林水産分野における放射線育種の研究開発等を推進する。このため,放射線医学総合研究所において,サイクロトロンを用いて速中性子線及び陽子線によるがん治療研究を引き続き進めるとともに,がん治療成績の著しい向上が期待される重粒子線によるがん治療法に関する調査研究,重粒子線がん治療装置の製作・重粒子線棟の建設等を推進する。また,ポジトロン核種による診断に関する研究開発等,短寿命ラジオ・アイソトープによる画像診断技術の開発を推進する。また,国立衛生試験所,国立病院等においても,放射性医薬品に関する研究,がん治療研究等を推進する。
 日本原子力研究所においては,放射線化学関係の研究並びにラジオアイソトープの生産及び利用を推進するとともに,種々のイオン粒子線の重照射等により,耐放射線性極限材料,機能材料,ライフサイエンス等の分野において画期的な新材料の開発,新技術の創出に寄与できる研究として産・学・官の研究者から強い要望が寄せられている放射線高度利用研究を行うため,イオン照射設備及び建屋の整備等を推進する。
 さらに,理化学研究所においては,AVF型入射器及び線型加速器を前段加速器として,リングサイクロトロンを主加速器とした重イオン科学用加速器を用いて,原子核・原子・素粒子物理等の広い分野にわたった重イオン科学総合研究を推進する。
 大型放射光(SOR)施設に関しては,原子力分野において研究の基盤を形成するものと期待されるとともに,原子力分野におけるこれまでの技術蓄積を活用しうる分野であることから,産・学・官の研究者の協力の下,日本原子力研究所及び理化学研究所のポテンシャルを結集して研究を進める。
 国立試験研究機関においても,電子技術総合研究所における放射線標準に関する研究,国立病院等における放射性同位元素を用いた疾病の診断に関する研究,農林水産省各試験場における放射線による品種改良,トレーサー利用による生理生体研究等を行うほか,国立衛生試験所における食品照射に関する研究等を実施するなど,放射線利用に関する研究を推進する。
 さらに,鹿児島県奄美諸島及び沖縄県下の諸島における放射線照射によるウリミバエ防除事業に対して必要な助成を行う。

(3)原子力船の研究開発
 日本原子力研究所において,原子力船「むつ」による研究開発及び将来の舶用炉の開発のための研究を引き続き進める。原子力船「むつ」による研究開発については,今後の舶用炉の研究開発に必要な実験データ・知見を得るため,実験航海実施に先立ち,出力上昇試験等所要の諸準備を行う。
 また,船舶技術研究所においても,原子力船に関する基盤的研究等を進める。

(4)高温工学試験研究
 日本原子力研究所において,高温熱供給,高熱効率,高い固有の安全性等優れた特性を有する高温ガス炉の技術基盤の確立・高度化及び高温工学に関する先端的基盤研究を行うための中核的な研究施設である高温工学試験研究炉の建設に着手し,敷地整備,建屋掘削等の基礎工事及び炉心支持構造物の製作等を行う。さらに,大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)等を用いて,燃料体,炉心構造物等の物性試験を行うほか,OGL-1,VHTRC等既存の施設を活用し,高温ガス炉の要素技術開発を行う。さらに,これらを行うに当たり,熱材料試験,高温計装技術開発,安全設計等各種の分野において共同研究,情報交換等の国際協力を積極的に展開していく。

6.基盤技術開発等の推進

(1)基盤技術開発及び基礎研究の推進
 基盤技術推進専門部会報告を踏まえて,21世紀の原子力技術体系を構築することを目的として,我が国独自の原子力技術の高度化,多様化に対応することを可能にし,現在の原子力技術体系に大きな波及効果を与えうる革新技術の創出が期待できる基盤技術開発を推進する。当面,原子力用材料,原子力用人工知能,原子力用レーザー及び放射線リスク評価・低減化の4つの分野に重点を置き,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,理化学研究所,国立試験研究機関等において蓄積されたポテンシャルを活用する。これら基盤技術の推進に当り,特に各機関が研究ポテンシャルを結集して行うべき技術開発課題を重点戦略課題として設定し,国際交流を含む産・学・官の連携の下に基盤技術の開発を進める。
 また,汎用研究炉(JPR-3)の改造を完了し運転を再開するとともに,材料試験炉(JMTR)等による各種燃料・材料の照射試験を引き続き実施する。さらに,タンデム型重イオン加速器の一層の性能向上を図るとともに,核データの取得のための研究等を行う。高転換軽水炉については,炉物理・熱水力の研究を行い,炉の概念について検討を行う。また,高い固有の安全性を有する原子炉等新型炉の概念検討を行うとともに,原子炉の設計システムの高度化を図るための調査検討を行う。
 新超電導技術に関しては,日本原子力研究所において,耐放射線性の解析のための試験,中性子線回折による構造解析等を行うとともに,動力炉・核燃料開発事業団において,原子力分野における超電導技術の利用に関する調査を進める。
 このほか,国立試験研究機関においても,核融合,安全研究,放射線利用等の分野で基礎研究を実施する。

(2)科学技術者等の養成訓練
 原子力関係科学技術者の養成訓練については,大学に期待するほか,海外に留学生として派遣し,その資質向上に努める。また,日本原子力研究所のラジオアイソトープ・原子炉研修所及び放射線医学総合研究所において養成訓練を引き続き実施する。
 また,引き続き,原子力発電所等の運転員の長期養成計画,資格制度等の運用により運転員の資質向上を図る。

7.主体的・能動的な国際貢献
 原子力分野における我が国の国際貢献への要請に応えるべく,原子力開発利用について核不拡散との両立を図るとともに,安全確保の重要性を認識しつつ,主体的・能動的な国際貢献を果たしていくこととする。

(1)二国間協力
 先進国との協力については,原子炉の安全研究,新型動力炉,高温ガス炉,核融合,放射性廃棄物処理処分,廃炉等の研究開発等の各分野に関し,米国,西ドイツ,フランス,イギリス,オーストラリア,カナダ等との二国間協力及び多国間協力を進める。また,我が国原子力施設の規制の充実に資するため,米国,フランス,西ドイツ等との規制情報交換を進める。開発途上国との協力については,原子力関係要人及び専門家の我が国への招へい並びに原子力技術アドバイザーの開発途上国への派遣を引き続き行う。また,開発途上国の原子力研究者の我が国研究機関への招へい及び我が国の研究者の開発途上国への派遣並びに原子力関係管理者研修及び原子力専門家の登録・派遣斡旋事業を拡充・強化する。また,開発途上国関連の情報を体系的に整備し,関係機関に提供する事業を開始する。また,国際原子力機関(IAEA)技術援助協力計画に積極的に参加し,「原子力科学技術に関する研究開発及び訓練のための地域協力協定」(RCA)に基づくRI・放射線利用分野の協力を引き続き進めていく。

(2)近隣地域協力
 近隣アジア地域の原子力分野における放射線利用,研究炉利用,安全確保対策等の共通課題解決に当たって本地域の限られた研究開発資源を効果的・効率的に活用するとの観点から,各国ごとの特殊事情及びニーズに応じ,その国の研究ポテンシャルから見て最適な分野に重点を置いた研究・研修環境の整備等の基盤整備について相互に協力することが不可欠である。そのため,近隣アジア地域の原子力行政の責任者を招へいして地域協力について検討する国際会議を開催する。

(3)国際機関対応
 IAEAの保障措置の改善に協力していくとともに,IAEAを中心として行われている原子力国際協力枠組みについて国際的検討の場に積極的に参加する。
 また,IAEAを中心として進められている原子力発電所の安全基準作成事業に参加するなど,IAEA,経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)等の国際機関の活動に積極的に貢献するとともに,我が国の原子力活動に対する国際社会の理解の増進を図るため,これらの国際機関会合の招致等を行う。

(4)国内環境整備
 我が国の国際対応を円滑に進めていくため,適切な国内環境の整備を進めていくこととし,増大する外国人研究者の受入れに対処するための宿舎や国際研究交流実験棟の整備,外国人研究者の受入れ制度(リサーチフェロー制度)の創設,国際人養成研修等を実施する。

(5)核不拡散対応の強化
 我が国の核不拡散対応を一層明確かつ主体的なものとして確立するための種々の検討を積極的に進める。
 保障措置については,原子力の平和利用を確保し,核兵器の不拡散に関する条約を履行するため,国内保障措置体制の拡充・強化を図る必要がある。
 このため,核物質に関する情報処理,試料の分析,査察等の業務を充実・強化するとともに,IAEA等との協力を図りつつ,大型再処理施設等に係る保障措置の有効性向上のための技術の研究開発を推進する。また,民間再処理施設建設の円滑化に資するため,IAEAにおける大型再処理施設保障措置適用性評価に関する検討に対し,必要な支援を行う。
 このほか,最近の国際動向を踏まえ,核物質等の新たな国籍別管理システムの開発を行う。
 核物質防護については,昨年加入した核物質の防護に関する条約に沿って,我が国の核物質防護体制の一層の充実を図るほか,動力炉・核燃料開発事業団において核物質防護に関する技術開発を進めるなど関連調査研究等を行う。

8.国民の理解と協力
 原子力の研究開発利用を円滑に進めていくためには,原子力施設立地地域住民を始めとする国民全般の原子力に関する理解と協力を得ることが極めて重要である。このため,原子力施設の安全運転の実績を積み重ね,国民の信頼感を得るとともに,原子力の安全性,必要性等について,正確な知識及び情報を国民に伝えるための施策を関係機関との密接な連携の下に推進していく必要がある。さらに,原子力施設の立地による波及効果を立地地域の長期的発展へ結び付けていくとの観点から,地域振興方策を充実していくこととする。

(1)広報活動等の推進
 原子力の研究開発利用に関する国民の正しい認識を深め,原子力発電及び核燃料サイクルを始めとする原子力の研究開発利用を一層円滑に推進するため,一般国民各層を対象とした適時的確で懇切丁寧な広報活動を展開する。
 そのため,個別地点対策として,原子力発電所,核燃料サイクル施設等の立地予定地域を対象とした広報素材の作成,テレビ等マスメディアを活用した広報活動等の実施,原子力講座・フォーラム,講習会の開催等の原子力施設の立地についての地元住民の理解と協力を得るための施策を進め,また,地方自治体の行う広報対策等への助成を行う。
 また,地方支分部局等の機能的な活動により,原子力発電所の立地に係る地元調整を推進するとともに,原子力発電所の立地地域及び核燃料サイクル施設の立地予定地域については,原子力連絡調整官による地元と国との密接な連絡調整を進める。
 さらに,全国を対象として,新聞・テレビ・ラジオ等マスメディアを活用した広報事業,映画・ビデオ等各種広報素材の作成・提供のほか,説明会・講習会の開催等を新たに行う。
 また,国民の理解と協力を得るための施策の推進に当たっては,国際的な連携を強化することが必要であることから,諸外国との密接な情報交換等を行うとともに, IAEA及びOECD/NEAと協力しつつ,パブリック・アクセプタンス(国民的合意形成)に関する事業の強化を図る。

(2)立地地域の振興方策の充実等
 発電用施設周辺地域整備法等の電源三法等を活用し,原子力発電施設等の周辺住民の福祉の向上等に必要な公共用施設の整備,地域の産業振興及び住民,企業等に対する給付金の交付等の施策を引き続き推進する。また,環境放射能の適確な監視体制を整備するとともに,運転管理方策調査,温排水の影響調査,防災対策,原子力発電施設等の安全性・信頼性実証試験等を推進し,原子力発電施設等の立地の円滑化を図る。


(3)原子炉等規制法に係る諮間・答申について



(4)専門部会等報告書

原子力損害賠償制度専門部会報告書

1988年12月2日
原子力委員会原子力損害賠償制度専門部会

はじめに
 我が国における原子力損害賠償制度については,昭和36年に原子力損害賠償関係二法(「原子力損害の賠償に関する法律」及び「原子力損害賠償補償契約に関する法律」)が制定されて以来,諸情勢の変化等に対応するという観点から,概ね10年毎に原子力委員会において所要の検討を行い,これに基づいて法改正が行われている。
 昭和54年の法改正以来9年が経過した現在,本専門部会においては,我が国の原子力開発利用の進展,民間損害保険の動向,原子力損害賠償に係る国際動向等,内外の諸情勢の変化に鑑み検討が必要と認められる事項について所要の検討を行った結果,諸点について次のような結論に至った。

1.賠償措置額の引上げ
(1)原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という。)は,被害者保護等の観点から,原子力損害を与えた原子力事業者の無過失・無限の賠償責任及びいわゆる「責任の集中」を規定しているが,さらに原子力事業者に対し損害賠償措置を講じることを義務付けている。この損害賠償措置は,万一原子力損害が発生した場合に,被害者に対する賠償を迅速かつ確実ならしめるための具体的ファンドとしての重要な役割を担っている。また,原子力事業者にとっても,これにより万一の原子力損害の発生に伴う偶発的支出を経常的な一定の費用に転化することが可能となり,その合理的経営に資するものである。
 この損害賠償措置については,原賠法第7条によりその方法が規定されているが,具体的には全て民間との責任保険契約及びこれを補完する政府補償契約が用いられている。
 賠償措置額は,昭和36年の原賠法制定時には50億円とされ,昭和46年改正時に60億円に,昭和54年改正時に100億円にそれぞれ引き上げられて現在に至っており,いずれの場合においても諸外国の水準を参考としつつ,損害賠償措置の中心である責任保険の引受能力等を踏まえ,賠償措置額を制定してきている。
 前回の法改正時から既に9年を経過している現時点においては,我が国の原子力の開発利用を取り巻く環境は国内的にも国際的にも大きく変化してきており,また責任保険の引受能力も更に拡大されている。今回賠償措置額を相当に引き上げることは,被害者の保護を図るとともに,今後とも国民の理解と協力を得て原子力の開発利用を発展させていくとの観点からも大きな意義を有すると考えられている。
 現時点における主要国の賠償措置額の状況を見ると,アメリカが9千億円程度,西ドイツ及びスイスが350億円程度,スウェーデン,イギリス,フランス等が我が国の現行額と同程度の100億円ないしはそれ以下となっている。
 この中でアメリカは,我が国と異なり有限責任制度を採用していること,また,損害賠償措置についてもその内容は,責任保険は200億円程度であり,残りの部分は,小規模な原子力事業者が多いため単独の賠償資力には限界があることを背景として,最終的には政府の支援によって裏付けされる「事業者間相互扶助制度」という独自の方法によって措置していること等から,我が国とは一概に比較し難い面がある。したがって,現時点において我が国が賠償措置額を引き上げるにあたっては,為替変動等の要因を勘案しつつ,我が国と同様の無限責任制度を採用している西ドイツ及びスイス両国の水準を参考とし,これと遜色のない水準とすることが適当である。
 一方我が国の責任保険の引受能力は,円高等の要因はあるものの,今後の海外再保険,国内保有の双方の引上げを含め,現時点では,300億円とされている。
 これらの点を総合勘案すると,今回の法改正に当たって賠償措置額は300億円に引き上げることが適当である。
(2)原賠法の施行令において,原子炉の運転等の種類に応じ法定措置額より低額(20億円又は2億円)の措置額が定められているが,これについても法定措置額の引上げに伴い,国際水準,国内保険引受能力等を参考として相当の引上げを行うことが適当である。
 また,プルトニウムに係るものについては,上記の観点に加えて,今後の取扱い単位量の増大等も勘案して特例額を特記することを考慮することが適当である。
 原子炉の解体については,当面従来どおり「原子炉の運転及びこれに付随してする核燃料物質等の運搬,貯蔵又は廃棄」として取り扱うこととするが,今後の解体に係る技術開発の動向等を見つつ,原賠法における原子炉の解体の位置付けについて更に検討を行うことが適当である。

2.原賠法第20条における適用期限の延長
 原賠法では,第10条において責任保険を補完するものとして政府補償契約を,第16条において賠償措置額を超える原子力損害が発生した場合の国会の議決に基づく国の援助を,それぞれ規定している。また,同法第20条は,これらの規定の適用を,昭和64年末までに開始した原子炉の運転等に係る原子力損害に限るものとしている。これは,法律の適用を10年間程度予定し,その後の取扱いは,原子力の開発利用の進展,責任保険の担保範囲の質的,量的拡大等の状況を勘案して,その時点での判断において必要に応じた法改正を行うことを意図したものである。
 このような立法主旨に鑑み,これらの規定の必要性について検討したところ,まず政府補償契約については,その担保範囲である地震,噴火等による原子力損害を責任保険で担保することは,海外再保険市場での制約等の理由により,現時点においても不可能な状況にある。また,国の援助についても,万一の場合への備えとして本制度の規定は現時点においても意義があると考えられること,諸外国の立法例においても原子力損害に係る国の救済措置が規定されていること,また,被害者保護のために国が援助を行うことを法律で規定することは原子力に対する国民の不安の除去の観点からも引続き極めて重要であることを指摘することができる。
 これらの状況を踏まえると,被害者の保護と原子力事業の健全な発達のために,昭和65年以降に開始される原子炉の運転等にががる原子力損害についても,政府補償契約に関する規定及び国の援助に関する規定をいずれも存続させる必要がある。
 延長の期間については,特段の事情の変更がなく,また,このような期限の設定が本制度の見直しの一つの契機になり得ること等も考慮して従来と同様10年とし,その後の取扱いについては,今後の原子力の開発利用の進展,責任保険の担保範囲の拡大等を踏まえ,その時点における判断に委ねることとする。

3.その他

(1)国境を越えた原子力損害
① チェルノブイル事故を契機として,原子力事故による越境損害は国際的に関心の高い問題の一つとなっている。我が国の原子力発電所等についていえば,その安全性の水準の高さ等からみて,チェルノブイル事故のような事態は起こるとは考え難いが,今後とも近隣諸国を含めた世界の原子力の開発利用の一層の進展も予想されるので,万一の事態に際しての越境損害への我が国の対応の在り方について検討を行った。
 越境損害に係る国際間の賠償問題を取り扱う条約としては,すでにパリ条約及びウィーン条約が発効しているが,我が国の国内法との整合性の問題があること,近隣諸国が条約を締結していないこと等からみて,現時点では,これらの条約による解決は容易ではない。したがって,現段階においては,基本的には次の方向で対応することが適当である。
 i)我が国で原子力事故が発生し,これにより外国で原子力損害が生じた場合の賠償問題については,国際私法の原則により日本法が準拠法となる場合には,我が国の原賠法が摘用され,これにより解決が図られることになる。
 ii)外国で原子力事故が発生し,これにより我が国で原子力損害が生じた場合にも,私法上の賠償責任の追及は国際私法の原則によって定まる準拠法に基づき行われることとなる。その際,我が国における被害や相手国の状況等を考慮しつつ適当であると判断される場合には,賠償問題が迅速に処理され,被害者が救済されるよう政府間で相手国政府に働きがけることが考えられる。また,いずれにせよこのような場合には,チェルノブイル事故時の各国の例にみられるように,国内被害救済の観点から,一般救済対策さらに必要な場合には事後立法により解決が図られる
 べきであると考えられる。
② 越境損害については,当面は上記の方向で対応を図ることとするが,本件に係る国際動向を注視しつつ,越境損害の問題への国際法及び国内法上の対応を含めた今後の我が国の対応の在り方について更に調査検討を行うけとが適当である。

(2)避難費用
 原子力施設において異常事態が発生し,周辺住民が避難した場合に生じる避難費用については,米国改正プライス・アンダーソン法においてこれが法律上明示されることになった。我が国の原子力施設においては万全の事故防止対策が講じられているが,万一このような事態が発生した場合の避難費用の取扱いについて検討した結果,次の理由により,基本的には従来どおり現行法の運用により対応することで特に支障はないと考える。
① 原賠法に規定する原子力損害は,核燃料物質等の原子核分裂や放射線等の作用により生じた損害であり,直接損害はもちろんのこと,更に放射線等の作用と相当因果関係がある限り間接損害も含まれるものである。したがって,原子力施設の異常事態により,周辺住民が避難した場合の避難費用についても,具体的事例にもよるが,このような放射線等の作用と相当因果関係のある限り,原子力損害として原賠法が摘要される。
② また,具体的事例によっては,避難費用が原賠法の摘用を受けるかどうか限界的な場合も生じると考えられる。このような場合には,法第18条に基づく原子力損害賠償紛争審査会において,損害の調査及び評価を行うことにより,賠償の円滑かつ適切な処理を図ることができる。
 なお,実体的には,我が国の原子力発電所等については,万一の事態に備えて,災害対策基本法に基づいて作成された地域防災計画に基づき,市町村長の勧告・指示による周辺住民の集団避難が行われる場合には,そのための輸送手段や避難施設の確保等の対策が用意されている。

ウラン濃縮懇談会報告書

1989年5月16日
原子力委員会ウラン濃縮懇談会

 ウラン濃縮懇談会は,1988年4月,新素材高性能遠心機の研究開発の現状を評価するとともに,今後の研究開発の進め方について検討するため,「新素材高性能遠心機技術開発検討ワーキング・グループ」を設置した。
 当懇談会は,同ワーキング・グループより,1988年8月1日及び1989年4月28日の2回にわたり,別添の報告書の提出を受けた。
 当懇談会としては,これらの報告書に基づき,以下の考え方に立って,今後の新素材高性能遠心機の開発・実用化を進めていくことが適当であると考える。
1. 新素材高性能遠心機の研究開発は,ほぼ順調に進展してきているが,今後,その実用化を図っていくため,遠心機1,000台程度からなる実用規模カスケード試験装置の建設・運転を行うこととする。
 この試験装置の設置場所としては,動力炉・核燃料開発事業団の人形峠事業所とし,その建設・運転のスケジュールとしては,1989年度に建設に着手し,1991年度の運転を開始することを目途とすることが適当である。
2. 実用規模カスケード試験装置の建設・運転は,関連メーカーの協力の下に,動力炉・核燃料開発事業団,日本原燃産業(株)及び電気事業者が共同して実施するものとする。
3. 実用規模カスケード試験装置の建設・運転と並行して,引き続き,新素材高性能遠心機に関する所要の研究開発を進めていくことが重要であるが,1991年度以降については,民間がその研究開発の主導的な役割を担うこととし,一方,動力炉・核燃料開発事業団は,基礎的・基盤的な研究開発,先導的な研究開発,国として必要な安全性の研究等を実施するとともに,必要に応じ,民間の行う研究開発を支援するものとする。

(別添1)
原子力委員会ウラン濃縮懇談会新素材高性能遠心機技術開発検討ワーキング・グループ中間報告書

1988年8月1日

1.はじめに
(1) 我が国におけるウラン濃縮の事業化は,動力炉・核燃料開発事業団が中心となって開発を進めてきた遠心分離法の技術により進められている。
 本年4月には,岡山県人形峠において,遠心分離法のウラン濃縮原型プラント(200トンSWU/年)の部分操業が開始され,この原型プラントは,来年1月頃には,全面運転に入る予定である。
 この成果を踏まえ,日本原燃産業(株)は,青森県六ヶ所村において,昭和66年頃の操業開始を目途に,商業用ウラン濃縮工場の建設計画を推進している。
(2) 一方,我が国のウラン濃縮事業を取りまく環境は,現在,極めて厳しく,世界的なウラン濃縮役務の供給能力の過剰及び最近の急激な円高の進行により,国内におけるウラン濃縮事業の一層の経済性の向上が強く求められている。
 このような状況の下,我が国において国際競争力のあるウラン濃縮事業を確立していくためには,今後,経済性の一層の向上を図り得るウラン濃縮新技術の開発・実用化が極めて重要な課題である。
(3) 岡山県人形峠における原型プラントに採用された遠心機は,技術的にみて,ほぼ完成の域に達したものであり,その遠心機が青森県六ヶ所村における商業プラントの第1期分(600トンSWU/年)に採用されることとなっている。この遠心機については,今後のこれ以上の飛躍的な技術的進歩は期待し難く,また,回転胴に高価な素材を用いていることから,今後のコスト・ダウンにも限界があるものと考えられる。
 一方,新素材回転胴を用いた高性能遠心機は,これまでの研究開発の成果からみても,在来の遠心機に比べ大幅な性能の向上が見込まれ,また,遠心機の製造コストも,今後,低減化が期待されている。さらに,ウラン濃縮新技術のなかでは,最も開発が進んでいる技術であり,また,既存の技術あるいは設備との整合性もよいため,比較的容易かつ早期に実用化が可能な技術と考えられる。
 このため,日本原燃産業(株)は,青森県六ヶ所村において昭和70年頃から操業を開始する予定の商業プラントの第2期分(900トンSWU/年)においては,新素材高性能遠心機を導入することを計画している。
(4) 当ワーキング・グループは,昭和63年5月以来,これまで4回の会合を開催し,新素材高性能遠心機の研究開発の現状を評価するとともに,今後後の研究開発の進め方について調査審議を行った。
 ここに,これまでの調査審議の結果を中間的に取りまとめたので,報告する。

2.新素材高性能遠心機開発の成果と今後の課題

(1)開発の成果
 新素材高性能遠心機の開発については,昭和61年10月28日の原子力委員会ウラン濃縮懇談会報告書の中で,「官民の有機的連携の下に,関係者の人的交流も含めた積極的な対応により,新素材高性能遠心機についてできるだけすみやかに実用化への見通しを得るよう開発を進める」とされている。この方針に沿って,動力炉・核燃料開発事業団,日本原燃産業(株)及び電気事業者は,昭和61年12月,研究協力協定を締結し,新素材高性能遠心機の開発及びその製造技術の開発を進めてきた。動力炉・核燃料開発事業団において進めてきた遠心分離機の開発については,これまで,単機開発,集合機開発,システム試験等を実施し,所期の成果を収め,現在ブロック試験の試運転を開始したところである。また,メーカーにおいて行われてきた遠心機の製造技術の開発については,ほぼ見通しが得られつつあり,今後,国の支援を受けてさらに製造技術の改良を行う予定である。
 これらの技術開発の成果を取りまとめれば,以下のとおりである。

①新素材高性能遠心機の開発

(イ)単機開発
 低コスト指向の回転胴,軸受等の試作を行い,実機採用の見通しを得た。
 また,各種の運転条件下における遠心機の分離特性を確認した。

(ロ)集合機開発
 実規模集合機により,構造設計が妥当であることを確認するとともに,コスト評価としては,単機当たりのコストが在来の遠心機より低くなり得るとの見通しを得た。

(ハ)システム試験
 操作条件をパラメーターとしたカスケード特性試験を行い,在来の遠心機によるカスケードと変わらない制御性を有することを把握するとともに,設計値に近い分離パワーを得た。

(ニ)ブロック試験
 カスケードの基本特性を把握するための数十台からなるプロック試験装置の据付工事を完了し,その試運転を開始したところである。

②遠心機製造技術の開発

(イ)回転胴製造技術の開発
 製造法の湿式法への統一,高速加工試験,連続硬化法の実証等を行い生産性向上の見通しを得た。

(ロ)回転胴品質管理技術の開発
 寸法検査及び非破壊検査のための基本装置を試作し,検査時間の短縮等の見通しを得た。

(2)今後の課題
 新素材高性能遠心機の開発は,前述のとおり,ほぼ順調に進められているところであるが,これを商業プラントに導入するためには,今後,ブロック試験の成果を見極めるとともに,以下の研究開発を進める必要があると考えられる。
① 実規模カスケードの特性評価
② 商業プラントへ向けての遠心機製造技術の検証
③ 新素材高性能遠心機の性能確認
④ 新素材高性能遠心機の実証的経済性評価
⑤ 新素材高性能遠心機の故障率及び長期耐久性の把握
⑥ 実規模カスケードの運転技術の確立
⑦ 新素材高性能遠心機の信頼性の実証

3.今後の新素材高性能遠心機の技術開発の進め方
(1) 新素材高性能遠心機によりウラン濃縮の事業化を進めていくためには,前述したような技術的課題を解決するため,今後できるだけ早期に,パイロット規模試験装置(以下「パイロット・プラント」という。)の建設・運転を行う必要がある。
 新素材高性能遠心機のパイロット・プラントは,商業プラントの設計・建設に必要なデータを取得するためのパイロット的役割を果たすとともに,商業プラントへの新素材高性能遠心機の導入を最終的に決断するための実証的役割をも果たすことが期待される。
(2) パイロット・プラントの遠心機の台数としては,①このプラントの設計・建設を通して取得できるデータは,実規模カスケードになるべく近い規模のもので実施すればするほど,商業プラントの設計を合理的なものとし,商業プラントの経済性・信頼性を向上させるものとなること,②遠心機製造の観点から重要なのは,商業プラントへの導入に向けての製造技術の検証であり,パイロット・プラントにおける遠心機の製造本数がその大きな要因となることなどを考慮すれば,1000台程度とすることが適切と考えられる。
 また,パイロット・プラントの設置場所としては,既設施設を活用することにより,その建設を短期間に行うことが可能であり,かつ,建設費の大幅な低減化が可能であることから,動力炉・核燃料開発事業団の人形峠事業所が適切と考えられる。
(3) 以上の考え方に基づき,動力炉・核燃料開発事業団・日本原燃産業(株)及び電気事業者は,共同して,パイロット・プラントの詳細設計を速やかに進めるものとする。
 なお,このパイロット・プラントの建設・運転体制等については,引き続き,当ワーキング・グループにおいて調査審議を進めるものとする。

(別添2)
原子力委員会ウラン濃縮懇談会新素材高性能遠心機技術開発検討ワーキング・グループ報告書

1989年4月28日

1.はじめに
 新素材高性能遠心機技術開発検討ワーキング・グループは,昨年8月1日,新素材高性能遠心機の開発状況及び実用規模カスケード試験装置(以下「パイロット・プラント」という。)の遠心機台数,設置場所,詳細設計の進め方等についての検討結果を中間報告書としてとりまとめ,原子力委員会ウラン濃縮懇談会に報告した。
 その後,当ワーキング・グループは,合計7回の会合(動力炉・核燃料開発事業団の東海事業所と視察を含む。)を開催し,中間報告以降の研究開発の進渉状況を評価するとともに,パイロット・プラントの建設・運転体制等について検討した。
 ここに,中間報告以降の当ワーキング・グループの調査審議の結果をとりまとめ,報告する。

2.中間報告以降の研究開発の進渉状況

(1)遠心機の開発
 新素材高性能遠心機の長期的な回転安定性を向上させるための技術開発を進めた結果,技術的課題の解決の見通しが得られ,パイロット・プラントに採用する遠心機の基本仕様が決定された。

(2)ブロック試験
 新素材高性能遠心機の多台数生産の経験が得られるとともに,ブロック試験装置の運転試験を通じ,軽ガス発生特性,起動時間等のカスケードの起動に関する基礎的なデータ及び濃縮特性等のカスケード特性に関する基礎的なデータが得られ,ブロック試験の所期の目的を達成しつつある。

3.今後の進め方
(1) 新素材高性能遠心機を商業用ウラン濃縮工場に導入していくためには,中間報告書でも述べたとおり,パイロット・プラント(遠心機1,000台程度,動力炉・核燃料開発事業団の人形峠事業所に設置)の建設・運転が必要である。
 一方,中間報告以降に本格的な運転を開始したブロック試験装置の運転試験の状況,遠心機の長期的な回転安定性を向上させるための技術開発の状況を含め,これまでの研究開発により得られた成果からみて,パイロット・プラントの建設・運転に進むために必要な技術的な見通しは得られたものと評価される。
 以上から,今後,パイロット・プラントの建設・運転を進めていくものとし,そのスケジュールとしては,1989年度にパイロット・プラントの建設に着手し,1991年度にその運転を開始することを目途とすることが適当である。
(2) このパイロット・プラントの建設・運転を通じ,これまでに動力炉・核燃料開発事業団に蓄積されてきた関連技術を民間に円滑に移転するとともに,将来の民間のウラン濃縮事業を担う技術者の育成を図ることが重要である。
 このため,パイロット・プラントの建設・運転は,関連メーカーの協力の下に,動力炉・核燃料開発事業団,日本原燃産業(株)及び電気事業者が共同して実施するものとする。特に,建設・運転のために人形峠事業所で必要となる要員は,動力炉・核燃料開発事業団と民間の適切な協力の下に確保するものとする。
(3) 新素材高性能遠心機の実用化を確実なものとするためには,パイロット・プラントの建設・運転と並行して,引き続き,所要の研究開発を進めていくことが重要である。
 現在,動力炉・核燃料開発事業団,日本原燃産業(株)及び電気事業者が協力して,1990年度までの予定で,新素材高性能遠心機に関する共同研究が進められている。
 1990年度以降については,新素材高性能遠心機の改良・高度化のための研究開発は民間で行うなど,民間が新素材高性能遠心機に関する研究開発の主導的な役割を担う一方,動力炉・核燃料開発事業団は,基礎的・基盤的な研究開発,先導的な研究開発,国として必要な安全性の研究等を実施するとともに,必要に応じ,民間の行う研究開発を支援するものとする。このような基本的な考え方に立って,官民の適切な役割分担及び協力の下に,1991年度以降の新素材高性能遠心機の研究開発を実施していくものとする。


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