3.高温工学試験研究
高温ガス炉研究開発を中心とする高温工学試験研究は,1969年以降,日本原子力研究所を中心に,炉設計,炉物理,炉工学,燃料・材料,高温機器等の分野で進められてきている。
他方,昨今の核熱プロセスの需要の動向等高温ガス炉を取りまく社会情勢の変化も著しいものがあるため,これらの状況を考慮し,1986年3月には,原子力委員会に高温ガス炉研究開発計画専門部会が設置され,今後の研究開発の進め方等について審議,検討を進め,同年8月に中間報告,同年12月に最終報告を取りまとめた。その主な内容は次の通りである。
イ)高温ガス炉による高温核熱の化学工業,製鉄業等における産業利用については,近い将来に経済性が成り立つ情勢にないので,高温ガス炉の早期の実用化への一ステップとして位置付けられている実験炉を建設する計画は見直すべきであるが,高温ガス炉は高温熱供給,高い固有の安全性,燃料の高燃焼度等優れた特性を有し,その研究開発の推進は安全性の確保の下に経済性の向上,利用分野の拡大等原子力開発上重要な課題の解決に寄与し得る点で大きな意義を有するので,その技術の基盤の確立及び高度化を展開していくべきである。また,高温ガス炉施設特有の大型かつ高温の照射領域を利用する各種の高温に関する先端的基礎研究は,主に材料系科学技術分野において,将来の技術革新の契機となる新技術の創生に貢献することが期待される。
ロ)このため,高温ガス炉技術の基盤の確立及び高度化を図り,また,各種の高温に関する先端的基礎研究を実施するための施設として,出力30メガワット程度で炉内照射等所要の機能を有する高温工学試験研究炉を早急に建設すべきである。
原子力委員会は,この専門部会報告を受け1987年6月に策定した原子力開発利用長期計画において高温工学試験研究を,次世代の原子力利用を開拓する先導的・基礎的研究として,総合的・効率的に進めることとし,このための中核となる研究施設として高温照射機能,大型試料照射機能等,多様な試験研究を効率的に行う機能を有する高温工学試験研究炉を建設して,高温ガス炉技術の基盤の確立及び高度化を図るための研究を進めるとともに,各種の高温工学に関する先端的基礎研究を行うことが重要であると決定した。
(1)研究開発実験炉の詳細設計については,1980年以降進めてきたが,1986年度には高温ガス炉研究開発計画専門部会の報告等を踏まえ,所要の設計変更を加えつつ,総合調整設計を行った。さらに,1987年度には,原子力開発利用長期計画に示された方向に沿い,実験炉を見直し,高温照射機能,大型試料照射機能等多様な機能を有する高温工学試験研究炉の建設準備設計を行った。1988年度は,原子炉建家及び炉内構造物の実施設計,地盤・環境調査及び安全解析を行い,1989年2月に国の安全審査を受けるため高温工学試験研究炉の原子炉設置許可を申請した。1989年度予算には,高温工学試験研究炉の建設着工のための経費が計上され,原子炉建屋の堀削工事着工,炉心支持構造物の製作開始,国の安全審査対応及び設工認対応を行う。
また,高温工学試験研究炉に組み込まれる主要機器・部品の機能及び健全性を実証するための大型構造機器実証試験ループ(HENDEL: Helium Engineering Demonstration Loop)については,本体部(高温ガス供給部),燃料体スタック実証試験部(T1),炉内構造物実証試験部(T2)を用いた実験が行われている。さらに,高温ガス炉臨界実験装置(VHTRC)による炉物理試験を進めるとともに,耐熱材料,黒鉛材料,燃料,高温熱工学及び高温構造等に関する研究も引き続き進められている。また,核熱の利用技術については,水素製造に関する基礎的研究等を行っている。
日米間の協力については,軽水炉安全性情報交換取決めに基づき,高温ガス炉情報交換会議がこれまで3回開催された。また,1980年6月,日本原子力研究所とGAT社(General Atomic Technology nc.)との間で,高温ガス炉関係の情報交換に関する覚書が交換されて,1988年6月まで8年間情報交換が行われた。また,1983年7月以来日米間で協力の拡大の可能性について協議が行われ,1985年9月,日本原子力研究所と米国エネルギー省(DOE)との間で,協力の分野,方法等基本的事項を包括的に定める「日米高温ガス炉研究開発協力実施取決め」が締結された。その後,この実施取決めに基づく具体的協力として,1986年3月にフィッションチェンバー及び高温ガス炉用燃料の共同照射試験計画を内容とする付属書1及び2が締結され,1987年5月には黒鉛材料開発試験,耐熱金属材料研究開発を内容とする付属書3及び4が締結された。さらに,1987年9月には,高温工学試験研究炉と米国のモジュール型高温ガス炉(MHTGR)の設計情報の交換等を内容とする付属書5が締結されるなど幅広い分野で研究協力が進んでいる。
日独間の協力については,日独科学技術協力協定に基づき,これまで5回「高温ガス炉に関するパネル」が開催された。また,1979年2月以来,日本原子力研究所とユーリッヒ研究所との間で研究協力が行われてきたが,1988年1月,従来の研究協力協定の期間満了に伴い,さらに,協力を拡大するために情報交換協定を改訂するとともに,付属書を1988年4月に締結した。付属書に基づいて西独の高温ガス実験炉AVRにおける安全性実証の共同試験を進めている。また,1984年1月に締結された日本原子力研究所とGHT社/IA社間のKVK(大型高温機器試験ループ)-HENDEL情報交換協力取決めは,1988年1月の期間満了に伴い更新した。また,高温ガス炉に関して西独産業界との協力を進めるため,1988年3月にSiemens/IA社とHTTR/HTRモジュール情報交換についての覚書を締結した。
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