7.放射性廃棄物の処理処分対策
放射性廃棄物の処理処分を適切に行うことは,原子力開発利用を進めていく上で重要な課題であり,このための施策については,従来から原子力委員会の方針に沿って,計画的かつ積極的に進めてきている。
すなわち,原子力発電所等において発生する低レベル放射性廃棄物については,陸地処分及び海洋処分を行うことを基本的な方針とし,再処理施設において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物については,安定な形態に固化した後,30年間から50年間程度冷却のための貯蔵を行い,その後,地下数百メートルより深い地層中に処分する(地層処分)ことを基本的な方針として諸施策を進めている。そして,原子力委員会は,1987年11月に放射性廃棄物対策専門部会を設置し,高レベル放射性廃棄物の処分に係る研究開発の進め方等の基本的事項について,現在調査審議を進めている。
また,放射性廃棄物の廃棄の事業に関する規制を創設し,その安全規制の充実強化を図ることなどを目的とした原子炉等規制法の改正法が1986年5月に成立し,同年11月に公布された。この法改正により,我が国の放射性廃棄物対策を円滑に推進していくために必要な法制度上の枠組が確立されることとなった。
(1)放射性廃棄物処理処分の現状
①低レベル放射性廃棄物処理処分
原子力発電所等の原子力施設で発生する低レベル放射性廃棄物については,各事業者等が自ら処理しており,その大部分を占める廃液,雑固体等の低レベル放射性廃棄物については,蒸発濃縮等の減容を行った後,ドラム缶にセメント固化する等の処理を施し,敷地内の貯蔵庫に安全に保管している。
気体状放射性廃棄物及び一部の液体状放射性廃棄物については,法令に定められた基準値を下回ることを確認して,施設の外に放出している。
これら低レベル放射性廃棄物は,1988年度には原子力発電所から200リットルドラム缶にして約8千本発生しており,累積で約46万2千本が貯蔵されている。また全原子力施設では,1988年度末の累積で約74万本となっている。
低レベル放射性廃棄物の処分は,陸地処分及び海洋処分を行うことを基本的な方針としている。
このうち,陸地処分については,青森県六ヶ所村において,1992年頃の操業開始を目途に,民間事業者が比較的浅い地中に処分する計画を進めている。
具体的には,1984年7月に電気事業連合会が,核燃料サイクル3施設の一つとして,低レベル放射性廃棄物埋設施設の立地協力要請を,青森県及び六ヶ所村に対し行い,1985年4月には,県及び村が受け入れ表明を行っている。また,同年3月には,同施設の建設,運営等に当たる日本原燃産業(株)が設立され,その後,同社により立地調査,設計等が進められ,1988年4月には,同施設の廃棄物埋設事業の許可申請書が提出された。同許可申請書における施設の最大埋設能力は,約4万m3(200リットルドラム缶換算約20万本相当)であるが,今後,逐次増設され,最終的には約60万m3(200リットルドラム缶換算約300万本相当)とする予定となっている。
なお,低レベル放射性廃棄物のうち,貯蔵中の減衰により放射能レベルが十分に下がったもの,原子力施設の廃止措置により生ずるもともと放射能レベルが極めて低いもの等は,放射能レベルに応じて合理的な処分を行うこととし,このための基準の整備等を進めることとされている。
また,海洋処分については,これまで所要の調査研究の実施,国内法令の整備,環境安全評価,国際協調の下にこれを進めるための国際条約への加盟等,所要の実施準備が進められてきた。
我が国としては,海洋処分については関係国の懸念を無視して行わないとの従来よりの方針の下に関係諸国とも協議しつつ対処していくこととしている。
②高レベル放射性廃棄物処理処分
再処理施設から発生する高レベル放射性廃棄物については,その量は1988年度末現在,溶液の状態で約343m3であり,東海再処理工場内の貯蔵タンクに厳重な安全管理の下に保管されている。これらは,今後安定な形態に処理(ガラス固化)し,30年間から50年間程度冷却のため貯蔵した後,地下数百メートル以深の深地層に処分する方針である。また,英仏への再処理委託に伴い発生する高レベル放射性廃棄物は,1993年以降にガラス固化体の形で返還され,青森県六ヶ所村に日本原燃サービス(株)が計画している再処理工場の敷地内で受入れ,貯蔵することが計画されている。同社は,1989年3月に,廃棄物管理事業の許可申請を行った。
なお,原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会では高レベル放射性廃棄物の処分研究開発の進め方や処分事業に係る費用の確保の考え方等についても検討を進めている。
③その他
再処理工場の運転,プルトニウム燃料の製造等に伴って発生するTRU(Trans-Uranium:超ウラン)核種を含む放射性廃棄物については,適切な区分と,その区分に応じた合理的な処分方策を確立することとしている。これをうけ原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会では,1988年11月よりTRU核種を含む放射性廃棄物の処理処分について,その放射性廃棄物発生累積量,現在の処理技術の進展状況及び処分対策等について検討を行っている。
また,民間のウラン燃料加工事業所,動燃事業団のウラン濃縮施設等から発生するウラン廃棄物については,現在,安全に貯蔵されているが,その処分については,その特性に応じた方法を採り得ると考えられ,処分技術の研究開発を進めることとしている。
(2)放射性廃棄物処理処分の研究開発
①低レベル放射性廃棄物処理処分
陸地処分については,日本原子力研究所,(財)原子力環境整備センター等において,放射性同位元素を用いた放射性核種の地中挙動に関する試験,低レベル放射性廃棄物の再利用に関する技術開発,濃度上限値を上回る低レベル放射性廃棄物に関する処分技術の開発,モニタリング手法開発のための調査研究等が行われている。
海洋処分については,関係省庁,(財)原子力環境整備センター等において,試験的海洋処分の実施に関し所要の調査研究が進められている。
②高レベル放射性廃棄物処理処分
(i)固化処理技術開発固化処理については,世界的に主流となっているホウケイ酸ガラスによる固化処理技術に最重点をおいて,研究開発が進められている。
動力炉・核燃料開発事業団においては,1991年度頃の試験運転開始を目途に,ガラス固化プラントを建設し,固化処理技術の実証を行うとともに,この建設計画と整合性をとって,貯蔵プラントの建設を行うこととしている。固化処理技術の開発を進めるに当たっては,実験室規模の試験と実規模の試験,コールド試験とホット試験を組み合わせて行っており,動力炉・核燃料開発事業団においては,1978年度からの模擬廃液を用いた実規模でのガラス固化処理の試験,1982年度からの高レベル放射性物質研究施設(CPF)における,実廃液を用いた実験室規模でのガラス固化処理の試験の成果を踏まえ,現在,固化プラントの建設を進めている。
なお,大阪工業技術試験所においてはガラス固化処理に関する基礎的研究を進めている。
(ii)地層処分研究開発高レベル放射性廃棄物の地層処分は,これまでの「有効な地層の選定」(第1段階)の成果を踏まえ,今後,「処分予定地の選定」(第2段階),「処分予定地における処分技術の実証」(第3段階)及び「処分施設の建設・操業・閉鎖」(第4段階)という4段階の手順で進めることとしている。
第2段階においては,国の重要プロジェクトとして,(イ)地層処分技術の確立を目指した研究開発,(ロ)地層環境等の適性を評価するための調査及び(ハ)処分予定地の選定を実施することとされている。このうち(イ)の研究開発は,日本原子力研究所,地質調査所等との適切な役割分担の下に,動力炉・核燃料開発事業団を中核推進機関として推進することとされており,少なくとも今後十数年以上の期間が必要と考えられている。また(ロ)の調査は,動力炉・核燃料開発事業団が実施することとされ,(ハ)の処分予定地の選定は処分事業の実施主体に行わせることとされていが,具体的な場所については現段階においては全国的に全く白紙の状態である。なお,処分事業の実施主体は,国が,今後の研究開発及び調査の進展状況を見極めた上で,適切な時期に具体的に決定することとされている。
このような方針を受け,原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会においては,研究開発の進め方等について審議が進められている。
動力炉・核燃料開発事業団は,日本における処分システムを構築することを目標においた第2段階における研究開発の中核推進機関として,各開発プロジェクトの推進を担当している。同事業団は,日本列島を対象として地質環境に関するデータを収集するとともに,これらデータを基に地層処分システムを確立するために必要な研究開発を以下のように進めている。
(イ)天然バリアに関する研究と地質環境特性の調査技術開発
地震動・断層運動が地質環境に与える影響を評価・予測する手法の開発を,地質調査所等専門研究機関と協力をしながら進める。
また,地下水の研究では,その水理特性の他,地球科学的性質等の研究を中心に進めている。そのために,各地での原位置試験を重点的に進めており,特に深部岩盤の水理特性が明らかにされつつある。
さらに,深部の地質環境特性を総合的に把握する技術の確立を目指し,調査機器と調査手法に関する技術開発を進めている。
(ロ)人工バリアに関する研究
人工バリアを構成するオーバーパック,緩衝材等について,人工バリアと地下水との相互作用の研究,オーバーパックの腐食の研究,ガラス及び放射性核種の溶解の研究等を進めている。
(ハ)地層処分システムに関する研究
多重バリアシステムが長期的にどのように変化し,その結果放射性核種がどのような挙動を示すかを明らかにする研究(性能評価研究)を進めている。
また,我が国の特徴を踏まえた処分場のレイアウトの設計,設計プログラム等の開発を進めている。
このように,動力炉・核燃料開発事業団では,我が国の地質環境等の特徴を踏まえた地層処分を確立するため,地質調査の成果と天然バリア,人工バリア等の研究との整合性をとりながら,処分研究を進めている。
なお,動力炉・核燃料開発事業団の貯蔵工学センター計画は,地層処分技術を確立するための深地層試験等の研究開発と高レベル放射性廃棄物等の貯蔵とを行う総合研究センターを目指したものであり,円滑な実施に配慮しつつ,その着実な推進を図っている。
また,経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)のストリパ国際共同研究,スイスの連邦放射性廃棄物全国貯蔵組合(NAGRA),カナダ原子力公社(AECL)やベルギー原子力研究センター(CEN)との国際共同研究等の国際協力を積極的に進めている。これらの技術開発と並行して,日本原子力研究所においては,処理処分の各段階の安全評価手法の整備を図るため,ガラス固化体の特性,処分条件下での放射性物質の挙動等の基礎的な試験研究を行っており,1982年度からは廃棄物安全試験施設(WASTEF)において放射性物質を用いた試験を進めているほか,シンロック等ガラス固化以外の新固化技術,核種分離・消滅処理,海洋底下処分等に関する基礎的研究を進めている。海洋底下処分については, OECD/NEAの海洋底下処分ワーキング・グループにおいて共同研究が進められており,日本原子力研究所が参加している。現在大西洋及び太平洋において調査中である。
また,地質調査所においては,地層処分の岩体に与える影響等について,専門的知見に基づき,基礎的研究を進めている。
③TRU廃棄物処理処分
再処理工場の運転及びプルトニウム燃料の製造等に伴って発生するTRU(Trans-Uranium:超ウラン)廃棄物は,放射能レベルは低く,発熱量も少ないものの,長半減期のアルファ崩壊放射性核種を含むものであり,また,放射性廃棄物の性状も多様で,種類も多い。このため,その低減化を図るためベータ・ガンマ廃棄物との区分管理技術,減容・除染技術の開発を行うとともに,安定な形態への固化技術及び高レベル放射性廃棄物処分の研究開発を参考とした処分技術の開発を,動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所で行っている。
④核種分離・消滅処理技術開発
再処理施設において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物は,放射能が強く,発熱量が多い核分裂生成物(FP)と,放射能はそれほど強くはないが,半減期が極めて長い長半減期核種とを併せ含んだ廃棄物である。さらに,この廃棄物には,白金族元素(ルテニウム,ロジウム等)や,ラジオアイソトープとしての活用が期待できる核種(セシウム137,ストロンチウム90等)の有用物質が含まれている。
このような,高レベル放射性廃棄物の含有物の特徴に着目し,長寿命核種や白金族元素等を分離し,それぞれの特徴に応じて,処分や有効利用を行えば,高レベル放射性廃棄物の資源化と処分の効率化を図ることができ,さらに,分離した長寿命核種等については,核分裂,核破砕または光核反応などの核反応により短半減期または非放射性の核種に変換するものであり,一層,処分の効率化を図ることができることとなる。
核種分離技術及び消滅処理技術は,高レベル放射性廃棄物の最終処分の負担の軽減化と資源の有効利用を図るものであり,これらに関する基礎的研究開発を日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団を中心に進めている。
原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会では核種分離・消滅処理技術の研究開発の長期的取組みについて,1988年10月に報告書をとりまとめた。
また,経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)においても我が国が提唱した核種分離・消滅処理等に関わる科学技術情報交換の国際協力計画(通称:オメガ計画)が1989年6月から開始された。
目次へ 第2章 第8節へ