7 放射性廃棄物の処理処分対策
(1) 放射性廃棄物処理処分対策の基本的考え方
原子力委員会は,昭和51年10月放射性廃棄物対策に関する基本的方針を決定した。その概要は次のとおりである。
① 原子力施設において発生する放射能レベルの低い固体廃棄物については,最終的な処分方法としては海洋処分及び陸地処分を組み合わせて実施することとする。
海洋処分については,事前に安全性を十分評価した上,昭和53年頃から試験的海洋処分に着手し,その結果を踏まえ,本格的処分を実施することとする。
また,陸地処分についても,昭和50年代中頃から地中処分の実証試験を行い,これに引き続き試験的陸地処分を実施し,その成果を踏まえ,本格的処分に移行することとする。
これらを進めるため試験的処分等の実施を受託する法人の設立が必要である。
なお,処理については民間の責任で行うものとし,処分については試験的処分等により見通しの得られた段階から原則として民間の責任において行うものとする。
② 使用済燃料の再処理施設で発生する放射能レベルの高い廃棄物については,安定な形態に固化し,一時貯蔵した後,処分するものとし,高レベル廃棄物の処理については,再処理事業者が行い,処分は国が責任を負い,必要な経費については,発生者負担の原則によるものとする。
また,当面の研究開発の目標としては,固化処理及び貯蔵については昭和60年代初頭に実証試験を行い,処分については地層処分を中心に昭和60年代から実証試験を行うこととする。
(2) 放射性廃棄物処理処分の現状
原子力発電所等の原子力施設で発生する放射性廃棄物は,各事業者等が自ら処理しており,その大部分を占める濃縮廃液,雑固体等の低レベル放射性廃棄物については,ドラム缶にセメント固化するなどの処理を施し,安全管理上良好な状態にして施設内の貯蔵庫に保管している。
また,使用済イオン交換樹脂等一部の廃棄物については,前処理を施して貯蔵タンクに一時貯蔵しており,固化処理技術の確立を待って固化することとしている。
このほか,極低レベルの液体状及び気体状の放射性廃棄物については,法令に定められた基準値を十分下回るよう適切な処理を施したのち,環境に放出されている。
低レベル放射性廃棄物の累積発生量をみると,昭和54年度には原子力発電所から,ドラム缶にして約5万本の廃棄物が発生し,累積すると約19万本になっているなど全原子力施設では約28万本に達している。
これら低レベル放射性廃棄物の処分については,前述の基本的方針に沿って陸地処分と海洋処分を併せて実施することとしているが,昭和51年10月主として低レベル放射性廃棄物の処理,処分に関する調査研究及び処分の受託を行う機関として(財)原子力環境整備センターが設立され,試験的海洋処分に関する準備及び陸地処分に関する調査研究が進められている。
また,再処理施設で発生する高レベル放射性廃棄物については,その量は昭和54年度末現在,液体約70m3,固体約27m3であり,動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設において厳重な安全管理の下に保管されている。
(3) 放射性廃棄物処理処分の研究開発
放射性廃棄物処理処分に関する研究開発について,昭和51年6月原子力委員会放射性廃棄物対策技術専門部会が「放射性廃棄物対策に関する研究開発計画」(中間報告)を取りまとめた。
この「研究開発計画」に沿い,廃棄物処理処分に関する全般的な安全性試験については,日本原子力研究所が,・低レベル放射性固体廃棄物の試験的海洋処分に関する準備及び陸地処分に関する調査研究については(財)原子力環境整備センターが,高レベル放射性廃棄物に関する技術開発については,動力炉・核燃料開発事業団が各々中心となり実施している。
このうち,特に低レベル放射性廃棄物の処分については,試験的海洋処分を昭和56年度以降できるだけ早い時期に実施することを目標に,(財)原子力環境整備センターが所要の準備を進めており,その一環として,試験的海洋処分の実施に関して,その作業方法の管理に関する検討等の調査研究が進められた。また陸地処分についても同センターが,科学技術庁の委託を受け浅層処分に関する調査研究として秋田県尾去沢において模擬廃棄物によるフィールド試験を継続実施するとともに地中処分(保管)に係る適地の選定について具体的な調査研究を行った。さらに,現在同センターが中心となって陸地処分候補地の選定作業を進めている。
なお,これらの海洋投棄等に必要な制度面の整備については,昭和54年1月,海洋投棄用の投棄物,放射能の濃度等海洋投棄の基準についての規則及び告示が定められるとともに,国による確認の制度が設けられた。また,試験的海洋処分の実施について国内関係者への説明が実施されるとともに,南太平洋地域から懸念の表明があったことに応えて昭和55年8月13日に専門家を派遣し,グアムで開催された南太平洋首脳会議において説明を行ったほか,オーストラリア,フィジー,ソロモン等の諸国に対し説明を行うとともに,更に同年11月には北マリアナ連邦,グアム等に対して,第2回の説明を行っており,各国の理解を得るための努力が重ねられている。
高レベル放射性廃棄物の固化処理技術については,動力炉・核燃料開発事業団において,近い将来実用化が見込まれるホウケイ酸ガラスによる固化処理技術を重点に,昭和53年度より模擬廃液を用いた工学規模での試験を進めており,また現在建設中の高レベル放射性物質研究施設が完成する昭和56年度からは,東海再処理施設で発生した実廃液を用いた実験室規模での試験を開始することとしている。さらに,これらの試験の成果を踏まえ,同事業団において,東海再処理施設に附設する固化・貯蔵パイロットプラントの設計・建設を進め,昭和62年度からは実廃液を用いた工学規模での固化処理技術及び固化体の一時貯蔵技術の実証試験に入ることとしている。また,日本原子力研究所が固化処理処分各段階の安全評価手法の確立をめざして研究開発を行うとともに,ガラス固化以外の新技術についての基礎的研究を進めている。
更に工業技術院大阪工業試験所では,ガラス固化体の基礎的研究が進められている。
また,高レベル放射性廃棄物の処分については,動力炉・核燃料開発事業団において,地層処分を中心に昭和51年度から調査研究が進められてきているが昭和60年代から処分の実証試験を行うことを目標に昭和58年まで可能性のある地層の調査を行い,昭和59年にそれまでの調査結果のチェック・アンド・レビューを行うこととし,現在,その調査を進めている。一方日本原子力研究所においては,処分時の安全評価の一部として地中での伝熱試験等を実施している。
(4) 放射性廃棄物対策に関する放策の調査審議
昭和53年7月の原子炉等規制法の一部改正に伴い,放射性廃棄物の廃棄については,原子力施設が設置された事業所内及び事業所外の廃棄に区分して規制が行われることとなり,事業所外の廃棄については確認の制度が整備された。これに伴い,放射性廃棄物の廃棄の基準を整備するため,原子力委員会放射性廃棄物対策技術専門部会で技術基準の検討が行われ,昭和53年8月「放射性廃棄物の廃棄に関する技術的基準」が決定された。これを受けて,昭和54年1月4日付で関係規則の改正が行われるとともに,事業所外廃棄に関しては,前述したように新たに海洋投棄に関する規則,告示が制定された。
昭和53年10月,原子力安全委員会の設置に伴い,従来原子力委員会の下にあった放射性廃棄物対策技術専門部会が改組され,原子力委員会には放射性廃棄物対策専門部会が,原子力安全委員会には放射性廃棄物安全技術専門部会が新たに設置された。
原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は,昭和51年10月の原子力委員会決定「放射性廃棄物対策について」に沿った施策の促進を図るため,次の4つのワーキンググループにおける検討結果を踏まえ,現在その具体策を検討している。
なお,高レベル放射性廃棄物対策については,研究開発の占める割合が大きいため,研究開発計画を中心に検討が進められている。
① 発生量予測ワーキング・グループ
② 高レベル処理ワーキング・グループ
③ 高レベル貯蔵・処分ワーキング・グループ
④ 低レベルワーキング・グループ
一方,原子力安全委員会放射性廃棄物安全技術専門部会は放射性廃棄物処理処分に関し,安全確保に必要な環境安全評価,諸基準の策定等を行うこととされ同専門部会の下に次の2つの分科会が設けられている。
① 安全評価分科会
低レベル放射性廃棄物の試験的海洋処分及び試験的陸地処分に関し,事前安全評価及び結果の評価について検討を行う。
② 基準分科会
低レベル放射性廃棄物の海洋処分,陸地処分の実施基準(技術基準)について検討を行う。
同専門部会では,試験的海洋処分の事前安全評価についての調査審議が行われ,昭和54年11月12日,試験的海洋処分の環境への影響は極めて小さなものであるという見解が取りまとめられた。原子力安全委員会では,この報告を受けて審議を行った結果,昭和54年11月19日,試験的海洋処分については,環境の安全は十分確保できるものと認められるので,関係方面の理解を得てその実施に当たるものとするという決定を行った。
さらに,試験的海洋処分の準備の一環として,海洋に投棄されるすべての物を対象として,その投棄によって海洋汚染が生じないように各国が相協力することを目的とする海洋投棄規制条約(ロンドン条約)を批准するための所要の規定の整備を図るため,原子炉等規制法及び放射線障害防止法の一部を改正する法案を第91国会に提出し,昭和55年4月25日成立をみた。
また,ロンドン条約の承認案件も同年5月9日に可決され,海洋汚染防止法の一部改正案も同国会において成立した。なお,わが国は昭和55年10月にロンドン条約の批准書を寄託し,同年11月14日に同条約はわが国について発効した。
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