3 発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針の決定発電用軽水炉施設からの気体廃棄物及び液体廃棄物に含まれる放射性物質の環境への放出については,周辺公衆の被ばく線量が許容被ばく線量である年間500ミリレムを超えないよう,機器の故障その他の異常の発生の防止について十分な防護対策を講ずることはもとより,通常運転時における環境への放射性物質の放出量の低減について,被ばく線量は容易に達成できる限り低く保つことが望ましいとするいわゆる「as low as practicable」の考え方に立つて,努力が払われてきた。
今後における原子力発電の規模の増大等による環境への放射性物質の放出量の増大が予想されるところであり,これに対処して周辺公衆の被ばく線量を低く保つための努力が払われることが必要とされる。
更に,また,周辺公衆の被ばく線量を低く保つことについての努力の目標値を明らかにすることは,原子力発電に対する国民の理解の一助となるものと考える。
このような観点から,原子力委員会は,環境・安全専門部会からの「as low as practicableの原則のとり入れ方」についての報告(昭和49年10月)をもとに検討した結果,発電用軽水炉施設からの放射性物質の放出に伴う周辺公衆の被ばく線量を低く保つための指針を昭和50年5月13日に決定した。
この指針では今後新設される発電用軽水炉施設を対象とし,その通常運転時における環境への放射性物質の放出に伴う周辺公衆の被ばく線量を低く保つための努力目標として,
① 放射性希ガスからのガンマ線による全身被ばく線量(生殖腺又は造血臓器の線量当量。以下同じ。)の評価値及び液体廃棄物中の放射性物質に起因する全身被ばく線量の評価値の合計値について年間5ミリレム
② 放射性よう素に起因する甲状腺被ばく線量(線量当量)の評価値について年間15ミリレム
を採用した。
この努力目標値としての被ばく線量の決定に際しては,被ばく線量と障害との直線的関係から障害発生の可能性をどこまで低減するかという観点から検討したものではなく,発電用軽水炉施設のこれまでの設計,運転の経験からみての実現可能性の難易度の評価に基づいて定められたものであるが,実現可能性の難易度については,原子力発電を推進しなければならない我が国のエネルギー事情にかんがみ,国民の原子力発電に対する理解と協力を得るため,とくに厳しい立場に立って評価した結果,国際放射線防護委員会が公衆の個人に対して勧告している線量限度の1/100に,また,自然放射線による被ばく線量の約5/100に相当する諸外国に例をみない低い値になった。
この努力目標値は,周辺監視区域外の許容被ばく線量及び周辺監視区域外における放射性物質の許容濃度の規制値に代わるものではなく,いわゆる「as low as practicable」の考え方に立って周辺公衆の被ばく線量を低く保つための努力目標値である。この線量目標値が達成できないことをもって,運転停止,出力制限等の措置を必要とするような安全上の支障があると解すべきものではない。
なお,工事中又は既設の発電用軽水炉施設についても設備の改修等の機会には,実用的かつ有効な新技術を採用する等周辺公衆の被ばく線量を低く保つための改善に努めることとした。
目次へ 第2章 第4節へ