第9章 放射線利用

§4 工業利用

 放射線の工業利用は,化学工業における液面計および密度計,紙パルプエ業および鉄鋼業における厚み計,鉄鋼,機械,電機,造船等における非破壊検査など広範多岐にわたっており,利用件数も年々増加している。
 ゲージング利用は,工程管理に広く適用され,利用機器台数は着実な増加を示しており,水分計,励起エックス線分析計等新しい利用技術の実用化も順調に進展している。また生産工程のオートメーション化の動きの中で,コンピューターによる放射線測定データの処理法が大きな研究課題になっている。
 ラジオアイソトープを線源とするガンマ線非破壊検査法は,造船業を中心として広く普及しており,非破壊検査専業会社の数の多い点でわが国は世界一である。現在,非破壊検査は60Co,192Irによる溶接部検査が大部分であるが,日本原子力研究所と航空会社が協力して開発した192Ir,170Tmによる非破壊検査法がジエット・エンジンの非破壊検査に実用化されるなど,その使用分野は著しく拡大している。
 放射化分析については各研究機関,企業等において工業材料の研究や品質管理に実用化されているほか,半導体検出器とコンピューターを応用した分析の自動化の研究が進められている。また14MeVの中性子発生装置の応用として転炉製鋼における酸素の自動分析法が多くの製鉄所で実用化され,現在その利用数は世界第1位である。
 このほか,環境汚染に関連して大気汚染,水質汚濁の測定に放射化分析を応用する研究が急速に進展しており,放射線イオウ計を利用した重油中のイオウの分析,ラジオガスクロマトグラフィによる環境汚染や食品,農作物の汚染の追跡等が実用化される一方,励起エックス線分析や捕獲ガンマ線分析による汚染測定法も研究が進められている。
 放射性トレーサーやアクチバブル・トレーサーを利用した工程解析では,その結果をコンピューターによる自動操業のプログラム作成の基礎に利用しようとする動きが現われている。
 放射線応用計測装置の生産も順調に発展しており,とくに241Amを利用した煙探知器は高層ビル等の防火装置として取り入れられ,海外諸国へも多数が輸出されている。卓上計算機の計数装置にもイオン化のための線源が実用化され普及している。
 使用済燃料から回収されるラジオアイソトープの利用のひとつとしてアイソトープ電池の開発が継続して進められており9たとえば147Pmを利用した電池を用いて電気時計やペースメーカーも試作された。また日本原子力研究所では核分裂生成物の分離法に関する研究への着手と相まって,SrTiO3の原料の新しい製造方法やペレットの製法についての研究のほか137 Csの固形線源,147Pmを利用する直接発電等にも着手した。
 その他国立試験研究機関においても,それぞれの特性を生かした試験研究が広くすすめられている。


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