第8章 原子力船
§1 原子力第1船の開発
§1 原子力第1船の開発
1 概要
近年の世界海運界のすう勢は,世界経済の発展に伴って拡大する貿易量に対処するため,高速コンテナ船,巨大タンカー等に見られるように船舶の大型化,高速化の傾向にある。現在,世界の造船所には約40隻の高出力船舶(70,000馬力以上の主機関を搭載するもの)が発注されており,このうちには12万馬力のタービンを搭載するコンテナー船11隻が含まれている。しかしながら,これに搭載するタービン,ディーゼル機関等在来の主機関は,大量の燃料油を消費することから船舶の機能低下を招来する種々の問題が生じてきており,これを解決する方法として原子力船の実用化に対する期待が高まりつつある。
それでも,原子力船が実用化されるためには在来船と経済的に十分競合でき,かつ,安全性,信頼性が十分である原子力船の技術開発に努めることのほか,陸上サービス施設の整備,出入港,航行等における手続きの制度化等の諸問題を解決しなければならない。
このため,世界の主要な海運造船国において原子力船の実用化に関する研究開発が進められており,その顕著な例としてアメリカのサバンナ号,ソ連のレーニン号,ドイツのオットー・ハーン号の3隻がすでに完成している。
わが国においても,昭和38年,日本原子力船開発事業団法に基づきわが国における原子力船の開発を行なう中心機関として日本原子力船開発事業団(原船事業団)を設立し,以来原子動力実験船として原子力船「むつ」の開発を進めており,その過程を通じて得られる建造技術,運航経験等の成果が将来の原子力船の実用化に大いに役立つものと期待されている。
日本原子力船開発事業団の具体的な開発業務は,原子力委員会が決定した,「原子力第1船開発基本計画」(昭和38年7月決定,昭和42年3月,昭和46年5月改訂)に基づき実施されており,総トン数約8,000トン,主機出力約10,000馬力,航海速力約16ノットの特殊貨物の輸送および乗組員の養成に利用できる原子力第1船を昭和47年度末までに完成させ,以後約2年間の実験航海を行なうこととしている。さらに,当該開発のため必要な陸上付帯施設の整備,乗組員の養成訓練等を行ない日本原子力船開発事業団法存続期限である昭和50年度末までにすべての開発業務を終了することとなっている。
なお,原子力船「むつ」の主要目および原子力第1船開発スケジュールは(第8-1表)および(第8-2表)に示すとおりである。
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