§3 農業利用

 放射線の農業利用は,照射による優良品種,農林畜水産物の殺薗,保存などの照射利用,ラジオアイソトープのトレーサー利用による施肥法,作物保護技術,飼養法の改善に関する研究,放射化分析による徴量成分代謝や鉱害の調査等,広範囲にわたってすすめられており,放射線の農業利用はすでに基礎研究の段階を終え,実月研究への試用という中規模研究へと進展し,さらに現地圃場規模での試験研究および実用化をめざす研究への利用段階に入ってきたといえよう。

  1照射利用

 作物の品種改良については,放射線照射による作物の育種法の改善および優良品種を育成するための突然変異体の作出などが,農林省放射線育種場等で行なわれており,多くの作物で品種改良上有用な形質変異が見出されている。これらの研究の結果,すでに普及しつつある水稲「レイメイ」,大豆「ライデン」および小麦「ゼンコウジムギ」に続いて,44年度には大豆「ライコウ」(中生種,多収穫)が,農林省の新育成品種として登録された。
 木材加工では,水質材料および木材構成分にビニール系化合物を含浸させ,これに放射線を照射し,グラフト重合させた新木材“プラモウッド”に関する研究は,工業化をめざし,製造条件が検討されてきており,一部はすでに実用化されている。
  2トレーサー利用

 トレーサー利用法は,現在,広汎な分野の日常研究に使用されており,44年度においても各種の研究が行なわれた。
 32P,15Nなどの標識肥料を用いた追跡試験により合理化施肥法が検討された。また,32P試薬による根活力分布検診法で,水稲,玉ねぎ,ビート,大豆等の根活力分布状況を明らかにし,合理的な施肥位置が決定された。病虫害の防除については,土壌に散布したBHCのマツ,スギ菌等の体内への吸収移行過程が明らかにされた。家畜の育種については,ブロイラーに適する生長の早い鶏種を育種選抜するため,甲状腺機能の測定を利用した新簡易法が開始された。家畜疫病については,ウィルスの精製同定の研究が行なわれ,ニワトリレオウイルスの蛋白質,核酸の構造が明らかにされ,馬伝染性貧血ウイルス,豚コレラウイルス等のウイルス性状の基礎的知見がえられた。
 以上のほか,動植物の栄養生理,体内代謝,病虫害,農業水利等にトレーサー法が利用され,顕著な成果を収めている。
  3放射化分析

 放射化分析法は,微量元素を迅速,高精度,容易に検出できる非破壊分析法であり,これを利用して,動植物における微量栄養成分,残留農薬,水質汚濁による農作物の被害等の研究が進められている。
 近年,アクチバブルトレーサー法が開発されたが,この方法は,非放射性元素または化合物などをトレーサーとして実験系に導入し,実験途上または最終段階で採取した試料中に含まれる導入元素を放射化分析法で定量する方法である。この方法の開発により,従来のトレーサー法の難点である“実験過程でのラジオアイソトープの取扱いのわずらわしさ″が皆無となり,この方法は野外での大規模な実験を簡単に行なうための有力な手段として注目をあびている。この方法により土壤と作物の関係について,Mr,Cu,Asの挙動が究明されている。


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