第10章 環境放射能対策

§1 放射能対策本部の動き

 政府は,昭和36年10月,核爆発実験にともなう放射性降下物の漸増に対処するため,内閣に放射能対策本部(対策本部)を設置し,放射能の人体に対する影響に関する研究の強化,放射能測定分析の充実,放射能に対応する報道,勧告,指導,その他放射能対策にかかわる諸問題について,関係機関相互の連絡,調整を緊密に行なってきた。
 41年12月,中共の第5回核爆発実験に際しては,石川県輪島において1日の放射性降下物が5,600ミリキュリー/平方キロメートルというわが国では最高の観測値を記録したことにもかんがみ,放射能対策本部は,42年6月,放射性降下物に対する緊急時対策および放射能調査体制の強化についての方針を決定した。
 この方針にもとづき,原子力局では,放射能調査の強化を2ヵ年計画で行なうこととし,初年度の43年度には,次のとおり放射能調査体制の強化をはかった。

     イ 高空の放射能調査
     核爆発実験の情報を入手した場合,ただちに放射能気塊の飛来を確認するため,ジェット機搭載用の簡易小型集塵器4台を配備した。また,民間航空機に搭載し,航路上で迅速に放射能測定を行なうため,携帯用放射能測定器4台を配備した。
     ロ 地上の放射能調査
     環境放射能水準に関し,地上における全国的レベルを把握するため,空間線量用モニタリングポスト7基(気象庁2基,青森,新潟,大阪,鳥取,鹿児島の各府県に1基ずつ)を配備した。
     ハ 核爆発実験後,早期に牛乳などをとおして内部被ばくを与えると考えられるヨウ素-131の迅速測定を行なうため,波高分析器3台(北海道,鳥取,福岡の各道県に1台ずつ)を配備した。
 なお,44年度には,航空機搭載の測定器2台,モニタリングポスト5基,波高分析器2基をそれぞれ配備することとしている。
 また,43年7月から9月にかけて,フランスが南太平洋ムルロア環礁において5回にわたり行なった核爆発実験に関連し7月5日および9月12日に,また43年12月中共が行なった第8回核爆発実験に関連し12月28日および30日に,それぞれ放射能対策本部幹事会を開催し,情報の交換や放射能調査体制等を含む対策について協議した。ムルロア核爆発実験時には,とくに対策はとらず,平常の監視がつづけられた。中共核爆発実験時には,12月28日以後,緊急時調査体制をとったが,その後,核爆発実験によるわが国への影響がないことがわかったので,12月31日,この体制を解除し,平常時の調査体制に移した。


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