§1 原子力第1船の建造
1経緯

 近年,船舶の高速化,巨大化の傾向はますます顕著なものとなっており,この傾向にこたえる高出力推進機関として,原子力推進機関の開発が期待されている。このため,海外においては,国が主体となって原子力船の実用化のための研究開発がすすめられている。
 わが国でも,昭和38年,原子力委員会の方針にもとづき政府は,「原子力第1船開発基本計画」を策定し,日本原子力船開発事業団(原船事業団)にその建造準備をすすめさせた。
 本基本計画は,総トン数約6,000トンの海洋観測船を46年までに建造することを目途とし,39年度には,その建造費として,約36億円の予算措置が講ぜられた。しかし,原子力第1船の基本設計および仕様書が完成した40年3月,原船事業団は原子力第1船建造のため,これを指名競争入札に付したが,予算船価(約36億円)と製造業者の見積り船価(約60億円)との間に大きなへだたりがあり,契約の成立をみるにいたらなかった。
 このため,原子力委員会は,40年7月,原子力第1船の建造着手を延期することとし,40年8月,原子力船懇談会を開催して,基本計画の再検討,船価低減の可能性の検討,輸入舶用炉の検討等について審議を求めた。
 同懇談会は,原子力第1船について,国産舶用炉の搭載が適当であり,また,船価については50億円を超えることはやむをえないこと等を明らかにした。この結果,原子力委員会は,41年7月,国内技術を主体とする原子炉を搭載する原子力第1船の建造を推進すべきであることを確認した。
 この原子力委員会の方針にもとづき,運輸省および科学技術庁は,第1船建造計画について関係方面と折衝を重ねた。その結果,船種を海洋観測船から特殊貨物船へ,また,大きさについても,従来の約6,000総トンから約8,000総トンヘ大型化する等の方向で検討をすすめることとした。
 このような建造計画の変更にともない,原子力第1船およぴその付帯設備の開発総所要資金は,当初の約60億円から約108億円(うち船価は約56億円)に増大する見こみとなった。
 以上の事情を考慮し,原子力委員会は,42年3月,「原子力第1船開発基本計画」を改定し,これを42年4月に改訂した「原子力開発利用長期計画」におりこんだ。


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