第7章 放射線利用
§1 各分野における利用
§1 各分野における利用
1 医学利用
放射線の医学への利用は,放射線による悪性腫瘍の治療とラジオアイソトープによる各種疾病の診断とに大別される。
(1) 放射線治療は,従来から,エックス線装置によるもののほか,ラジウムやコバルトの針,管などの小線源が舌がん,子宮がんなどの治療に全国の病院で利用されているが,最近におけるがん対策の推進とともに,各地にがんセンターが設置され,これらのがんセンターでは,放射線による悪性腫瘍の治療を総合的に行なうため,コバルト―60の照射装置をはじめ,各種の放射線発生装置が設置されている。とりわけ放射線発生装置による高エネルギー放射線の利用が活発となり,すでにベータトロン,リニアックが,科学技術庁放射線医学総合研究所(放医研),国立がんセンター等主要病院に設置され,悪性腫瘍の治療に効果をあげている。
とくに,41年度においては,世界で最大の13MeV医療用リニアックの国産化が成功し,久留米医科大学に設置され,各地の病院にこれらの粒子加速器が設置される傾向にある。
(2) ラジオアイソトープによる診断は,短寿命アイソトープ,放射性医薬品および医療機器の国産化にともない,水分,塩類,糖類代謝をはじめ,血液,内分泌疾患等に関する診断が,国立病院,大学付属病院等の主要病院において実用化されて,従来の診断技術に代って用いられるようになった。この分野で利用されるアイソトープの種類は,多岐にわたっている。
最近では,短寿命アイソトープの利用について,半減期の比較的長い親核種から必要に応じて,短寿命の娘核種を抽出し,利用する方法が確立され,これらのラジオアイソトープが診断に用いられている。
また,クリプトン-85,キセノン-133等の気体状のラジオアイソトープが,従来の核種にはない種々の利点があるので,呼吸系の診断に新たに利用されるようになった。
また,保健物理的に開発されたヒューマンカウンタは,すでに放医研,東京大学に設置されているが,新たに臨床診断を目的とする研究がすすめられ,今後,主要病院などに建設する計画が検討されている。
このほか,最近では,高感度ガンマカメラが開発されて,移動しつつあるラジオアイソトープを瞬間的に捕捉することが可能となり,心臓血管系の疾患の診断に特色を発揮している。
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