第1章 原子力発電
§5 発電用原子炉の受入体制
§5 発電用原子炉の受入体制
5−1 受入体制のきまるまで
受入体制がきまるまでには,原子力発電に対する認識の相異にもとづき民間資金を主とする受入体制にするか,政府資金を主とする受入体制にするかという問題,つまり,民間会社とするか特殊法人とするかということが第一に議論の焦点であつた。すなわち原子力発電が採算の圏内にちかづきつつあると考え,関係業界の協力による新民間会社の設立を妥当なりとする案と,実用発電炉の導入は時期尚早ではないかという疑問をいだくとともに,特殊法人による受入を是なりとする案とがみられたが,種々検討の結果,受入体制は民間の新会社とし,これに対し政府がある程度の監督権をもつ,ということで大体の調整がおこなわれた。
その後は新会社に対する出資の比率が問題とされ,電源開発会社の出資比率,九電力会社,電機メーカーなど関連会社の出資比率,日本原子力研究所の参加の可否などをめぐつて討議がおこなわれたが,出資比率を政府(電源開発会社)20%,九電力40%,公募40%ということに政府部内で意見の統一がみられた。9月には実用発電炉受入主体について次のような点がさだめられるにいたつた。
(1)実用発電炉受入のため原子力発電株式会社(仮称)を設立する。
(2)受入会社の資本金はさしあたり必要最少限度(10億円程度)とする。
(3)必要ある場合には政府は受入会社に将来法的措置をくわえることがある。
(4)出資比率はおおむね政府関係(電発)20%,九電力40%,その他民間一般40%を目途とする。
(5)受入会社人事についてはあらかじめ政府の了解をへるものとする。
5−2 日本原子力発電会社の設立
原子力発電会社の設立準備委員会は数回会合をひらき,32年9月会社設立の基本方針を次のようにさだめた。
1)新会社は,名称を日本原子力発電株式会社とし,初期段階における原子力発電の企業化のため,実用規模の発電炉を輸入し,原子力発電所の建設,運転,操作およびこれにともなう電気の供給とこれに附帯する事業をおこなうことを目的として設立される。
これらの決定にもとづき,日本原子力発電会社は11月1日に正式に発足した。同社の業務はさしあたつて英国のコールダーホール改良型原子炉の調査をおこない,調査結果が良好であれば,これが導入をおこなうことにあつたので,まず訪英調査団の派遣に主眼をおいて,地震,安全,経済,設計建設,敷地および仕様書について調査をすすめ,準備をととのえた。
2)設備計画としては,現在の段階において実用化に適するとかんがえられる英国系の天然ウラン型と米国系の濃縮ウラン型の原子炉を設置するものとし,第1期工事としては,天然ウラン型式による実用規模の発電炉を設置し,第2期工事として,濃縮ウラン型の設置をおこなう。
事業収支としては,販売電気料金を最近の新鋭火力の原価程度と想定しても,41年度には5分程度の配当が可能である。
3)資本金は40億円(授権資本)とし,第1回払込金を10億円とする。
4)株式割当比率は,電源開発会社20%,民間80%とする。民間80%のうち,九電力42%,原子力産業5グループ20%,設立準備委員5%,その他原子力発電主要関連産業13%へ,する。
この結果,33年1月はじめ,天然ウラン黒鉛減速炭酸ガス冷却型による原子力発電施設の購入に関して必要な調査をおこなうとともに,購入条件等につき英国側関係者と折衝をおこなうため,英国に調査団が派遣された。調査団は3月はじめに帰国したが,これにさきだち,約1カ月半にわたる調査の結果,天然ウラン黒鉛減速炭酸ガス冷却型の原子炉をわが国が導入する場合に問題となるとかんがえられる諸点は解決可能であるとの見通しのもとに,正式仕様書を作成して,AEI-ジヨン・トンプソン原子力グループ,イングリツシユ・エレクトリツクーバブコツク・アンド・ウイルコツクスーテイラーウツドローグループおよびGEC-サイモンカーブス原子力グループに手わたし,本年7月末までに見積書を提出するよう要請した。
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