レーザー核融合の現状と展望について

 

 

平成12年8月21日

核融合会議計画推進小委員会


目 次

1 はじめに

2 レーザー核融合の原理と特徴
  2.1 レーザー核融合の原理
  2.2 慣性核融合の各種方式
  2.3 レーザー核融合炉の概念と特徴

3 研究の現状
  3.1 レーザー核融合のあゆみ
  3.2 炉心プラズマ研究の現状
  3.3 レーザー核融合工学研究の現状

4 レーザー核融合研究の広がり
  4.1 総論
  4.2 レーザープラズマ科学分野
  4.3 高出力レーザー科学技術分野

5 レーザー核融合研究の意義と我が国の取り組み
  5.1 エネルギー研究におけるレーザー核融合研究の意義
  5.2 炉心プラズマ研究の進め方
  5.3 レーザー核融合炉関連技術の課題
  5.4 我が国のレーザー核融合研究の国際的な位置付け

6 結語

 

(参考)本報告書で使用している用語の解説


1.はじめに

 レーザー核融合は、基礎となる高エネルギー密度プラズマ科学と高出力レーザー工学の急速な進歩により、新しい研究段階に入ろうとしている。このような状況を踏まえ、第120回核融合会議(平成8年5月30日開催)において「レーザー核融合の現状」が報告され、核融合会議は、レーザー核融合に関し引き続き議論することとした。これを受け、核融合会議計画推進小委員会の下に、レーザー核融合検討ワーキンググループが平成8年7月に設置された。
 第三段階核融合開発基本計画においては、レーザー核融合等の研究開発に関し、「トカマク型以外の装置は、今後の研究開発の成果によってはトカマク型を上回る閉じ込めを実現する可能性を有していること、トカマク装置による研究開発への貢献が期待されていること等から、これらの研究開発を進める」と述べられている。当ワーキンググループの検討においては、最近のレーザー核融合科学研究の進展と第三段階核融合開発基本計画の主旨を考え合わせて、「当該研究開発の現状を整理するとともに、研究課題を抽出・評価し、関連研究分野との連携も視野に入れた研究開発の在り方を明らかにする」こととした。

2 レーザー核融合の原理と特徴

2.1 レーザー核融合の原理
 レーザー核融合は、冷却固化した重水素(D)と三重水素(T:トリチウム)の球殻状に形成した燃料ペレットに強力なレーザーパルスを照射して、核融合反応を起すものである。核融合反応は重水素とトリチウムが高速で衝突する際に起こり、衝突の頻度は重水素とトリチウムからなるプラズマの温度と密度が高いほど多くなり、重水素とトリチウムのプラズマの密度を固体の密度の1,000倍程度にできれば、十分な核融合反応が起こる。すなわち、レーザー核融合においては、高密度状態を作り出すことにより、磁場閉じ込め核融合のように磁力線を用いてプラズマを長時間閉じ込めることなく十分な核融合反応を起こすことが出来る。プラズマの密度が高ければより小さなプラズマとなり、プラズマを発生させるために必要なレーザーエネルギーは小さくても十分な核融合反応を起すことが出来る。この核融合反応の持続時間はプラズマの自由膨張すなわち“慣性”で決まるため、この方法は、慣性核融合(IFE, Inertial Fusion Energy)の一種である。
 レーザー核融合は、以下の過程を経て実現される。

(1)プラスチックに封入した固体D-T層を持つ燃料ペレットに強力なレーザーを一様に照射すると、燃料ペレットの表面に高温のプラズマが発生し、プラズマは外側へ向かって膨張する。
(2)このプラズマの膨張の反作用で、ペレット表面に超高圧が発生し、燃料は球の中心に向かって加速され圧縮される(「爆縮」と呼ばれる)。
(3)燃料ペレットの内部に存在する中空部分に重水素とトリチウムの混合気体が存在すると、この部分は高温のプラズマ(ホットスパーク)に、固体の燃料部分(重水素とトリチウムの混合ガスを冷却固化させたもの)は固体密度の1,000倍程度に達する低温の超高密度プラズマとなる。
(4)中心のホットスパークとそれを取りまく超高密度プラズマ(主燃料)よりなる二重構造のD-Tプラズマが生成され、ホットスパークの質量密度ρと半径Rの積ρR及び温度Tが核融合の点火条件を満たすと、核融合反応が急激に進展(点火)し、この部分より放出されたα粒子で周りの主燃料が加熱され、主燃料部に核融合反応が広がり、レーザーにより投入されたエネルギーを上回る核融合エネルギーが高エネルギー中性子として放出される。
 レーザー核融合では、以上のように燃焼プラズマの密度が固体密度の1,000倍以上に達し、1,000億分の1秒以下の極短時間で半径約0.1mmの狭い領域において核融合燃焼が完了する。(1)から(4)の過程を毎秒数回繰り返すことにより、発電に必要なエネルギーを取り出すこととなる。
 レーザー核融合炉プラントの概念図を図1に示す。核融合燃料を充填したペレットを炉内に打ち込み、これを強力なレーザーで照射して爆縮させる。外部からエネルギーを供給することなく連続して発電所を運転させるには、次のエネルギーバランス条件を満たす必要がある。
 システム内部のエネルギーバランス条件:
〔レーザー効率(エネルギー効率)〕×〔核融合利得〕×〔発電効率〕 =4

 (注)通常は所内循環電力を1/4以内に抑えなければ、商用炉として成り立ち得ないと考えられているので、ここではバランス条件として4を選んである)

ここで、
〔レーザー効率(エネルギー効率〕〕=〔出力エネルギー〕 /〔投入電力エネルギー〕
〔核融合利得〕 =〔核融合出力エネルギー〕/〔照射レーザー光エネルギー〕
〔発電効率〕  =〔発電エネルギー〕/〔核融合出力エネルギー〕
 例えば、レーザー核融合炉が発電炉として成り立つためには、〔レーザー効率〕が10%、〔発電効率〕が40%とすると、エネルギーバランス条件から、〔核融合利得〕100が必要である。レーザー核融合では核融合利得100を当面の目標としている。

図1:レーザー核融合炉プラントの概念図

2.2 慣性核融合の各種方式

 慣性核融合では、エネルギードライバーの種類、燃料ペレットへの照射の方法、核融合点火の方法により様々な方式・方法が提案研究されている。

(エネルギードライバー)
 エネルギードライバーとしてレーザーを用いるレーザー核融合が、慣性核融合方式の内で最も研究が進んだ代表的な方式である。レーザーの代わりに高エネルギーの重イオンビームを用いる方式を重イオンビーム核融合、高速のZピンチを用いる方式をパルスパワー核融合という。この他に、磁化プラズマを高密度に圧縮する磁化標的核融合(Magnetized Target Fusion: MTF)も提案されている。

(照射方法)
 レーザービームや粒子ビームを燃料ペレットに直接照射して爆縮する方式を直接照射(または直接駆動)方式という。またこれらのビームを金などの重金属の空洞内でX線に変換して、そのX線で空洞内に設置した燃料ペレットを爆縮する方法を間接照射(または間接駆動)方式という。間接照射方式はエネルギードライバーの燃料ペレットへの照射の一様性を改善するために考案された方法であるが、直接照射に比べてエネルギードライバーから核融合プラズマへのエネルギー変換効率が低い。レーザー核融合では両方法が適用可能である。重イオン核融合やパルスパワー核融合では、電気からエネルギードライバーへの高いエネルギー変換効率が期待出来るものの、直接照射では必要な爆縮対称性を得るのが困難であることから間接照射が適しているとされている。

(点火方法)
 核融合点火の方法としては、中心点火(または自己点火)法と高速点火法がある。中心点火法は爆縮プラズマの中心に自然に発生する高温度プラズマ(ホットスパーク)を用いて固体燃料部分の重水素及びトリチウムを核融合反応させる方法である。高速点火法は、中心にホットスパークを持たない低温高密度の爆縮プラズマの一部をプラズマが膨張飛散するよりも短時間に超短パルス超高強度レーザーで追加熱して核融合反応を起こす方法である。この高速点火法は中心点火法よりも小さなドライバーエネルギーで、より高い核融合利得が期待できる方法で、これは、レーザー技術の革新的進歩により最近研究が可能となった先進的な方法である。
 図2に、レーザー核融合の代表的な3種類の方式、すなわち<中心点火法+直接照射方式>、<中心点火法+間接照射方式>、<高速点火法+直接照射方式>の比較を示す。

<参考>重イオンビーム核融合
 重イオンビーム核融合はレーザー核融合におけるレーザードライバーを重イオンビームに置き換えたものである。重イオンビーム核融合の特長はドライバーのエネルギー効率を高く(30%程度)できると期待されることにある。この効率は現行のイオン加速器の経験から推定されている。レーザーの場合には光エネルギーがターゲット表面の非常に浅い層に吸収される。これに対して、重イオンビームの場合、ビームが標的物質に入射するとある程度の深さ(飛程)まで侵入し、イオンの運動エネルギーがターゲットに吸収される。イオンのエネルギーが高くなるにつれて飛程は長くなる。他方、ドライバーエネルギーをあたえるのに要求される値は数メガジュール(MJ;106J)である。エネルギー付与密度を上げるために飛程を短くすると、個々のイオンのエネルギーを下げることになり、パルスに含まれるイオン数を多くしなければならない。軽イオンビームに比べて、ビーム電流の制約がゆるやかであるとは言え、大電流重イオンビームの発生、加速、輸送などはどれも難しい課題である。単位長さあたりの運動エネルギーの吸収量は表面から浅い位置では少なく、深い〔飛程で決まる〕位置で大きくなる。しかも飛程はレーザー吸収層の厚さよりもずっと大きい。このため、重イオン核融合の場合、燃料標的の照射においては間接照射方式を採用することになる。

図2 直接照射方式、間接照射方式による中心点火法と高速点火法

2.3 レーザー核融合炉の概念と特徴

 レーザー核融合炉では、炉チェンバー内でパルス的に燃料ペレットを燃焼させ、内燃機関と同様にこれを1秒間に数回の割合で繰り返して連続的にエネルギーを取り出す。このため、レーザー核融合炉は磁場閉じ込め核融合炉と核融合にいたる過程が大きく異なり、世界の主要国では両者を並行して研究開発が進められている。
 レーザー核融合発電プラントは、核融合炉チェンバー、レーザー装置、燃料ペレット製造施設、発電設備に大きく分けられ、それらは異なる建屋に設置される。レーザー核融合発電プラントの概念設計の一例として、我が国の概念設計「光陽」を図3に示す。この概念設計では、1基のレーザーで4つのモジュール炉を駆動する。1つのモジュール炉は3Hzで燃料ペレットが爆縮され、炉当たりの熱出力は180万キロワットである。炉の直径は10m、高さ20mで、内面は厚さ1mの燃料のトリチウム増殖機能を持つ液体金属(LiPb)で覆われている。この他、炉チェンバー壁に使用する液体金属の代わりに、低気圧のキセノンなどの不活性ガスを充填した固体の第一壁を持つ乾式炉なども提案されている。

 磁場閉じ込め核融合と比較した場合、レーザー核融合発電プラントの特徴として以下の点を挙げることが出来る。
有利な点としては、

(1)プラズマを閉じ込める複雑な磁場を用いる必要がないため炉形状を単純にできる。
(2)内燃機関と同様に1秒間当たりの燃焼回数が制御できる。
(3)エネルギードライバーと核融合炉を分離設置出来るため、1基のエネルギードライバーで複数の核融合炉を駆動することができる。
(4)上記(2)、(3)の特長により電力負荷調整、柔軟な保守点検機能を持つプラントが設計できる。また、完全停止後の立ち上げに必要な電力が小さく磁場閉じ込め核融合に比べて容易である。/TD>
(5)高真空を必要としないため、液体金属壁等の利用が可能であり、DT反応で生じる14MeV中性子による材料損傷を緩和することが出来る。
(6)原理上、超伝導コイルを必要としないため、プラントシステムをより簡素化できる。
 などである。一方不利な点としては、
(1)核融合反応毎にエネルギーを注入する必要があるため、エネルギー変換効率が高く(10%)、高繰り返し(数Hz)が可能で、パルス当たりエネルギー1~4メガジュール, 平均出力数メガワットの大型のドライバーが必要である。
(2)エネルギーがパルス的に放出されるため、炉チャンバーは繰り返しパルス応力に耐えることが必要である。
(3)レーザーの入射窓が多数必要であるが、直接中性子やX線、プラズマ粒子の照射を受けるため防護対策や材料開発が必要である
(4)レーザー導入真空窓の破損を想定して破損防護エリアを大きくする必要がある。
(5)炉内トリチウムの量は磁場閉じ込め核融合に比べて小さくなるが、燃料ペレットへのDT燃料充填のために高圧のDTガスが必要となるため、プラント全体のトリチウム量が磁場閉じ込め核融合に比べて大きくなる可能性がある。
などである。

図3レーザー核融合炉「光陽」概念設計。(a)炉チェンバー。炉容器の内面は1次冷却材となる厚さ1mの液体金属で覆われており、これにより14 MeV 中性子を減速するとともに、炉容器を14MeV 中性子照射から保護する。(b)4基のモジュール炉を1台のレーザー装置で駆動する。

3.研究開発の現状

3.1 レーザー核融合のあゆみ

 1960年代初頭のレーザー発振の成功の後、まもなく米国とソ連においてレーザー核融合の開発計画が立てられた。1964年には、ソ連はガラスレーザーを重水素化リチウムに照射し核融合中性子の発生に成功している。その後、高強度レーザーとプラズマの非線形相互作用がプラズマ物理学の最先端のトピックスとなり、我が国でも大阪大学と名古屋大学プラズマ研究所との共同研究により、パラメトリック不安定性の実験が行われるなど、レーザープラズマの理解が長足の進歩を遂げた。
 1972年には、米国ローレンスリバモア研究所により、爆縮核融合の概念が提案されレーザー核融合研究が本格化した。
 1970年代後半から1980年代前半にかけて日本、欧米及びソ連においてレーザー核融合用の大型レーザー装置が次々に建設された。これらのレーザー装置により、1990年代前半までには、日、米のリーダーシップのもとに、爆縮研究が急速に進み、点火条件である温度10keVと高密度(固体密度の1,000倍)が個別にではあるが達成された。この爆縮核融合の原理実証に成功したことで、レーザー核融合研究は新たな段階に入った。
 現在は、点火を実証すること、及び、高い核融合利得を実現するための原理を実証することが目標となっている。米国では、点火実証に向けて国立点火実験施設(NIF:National Ignition Facility)計画を定め、その準備研究としてロチェスター大学の「オメガレーザー」を改良して高精度爆縮実験を進めている。1997年からは「NIF」の建設をローレンスリバモア研究所で開始し、2010年頃を目標に点火及び核融合燃焼を実現しようとしている。我が国では、1980年代後半より核融合中性子発生や高密度爆縮において数々の世界記録を生み、研究をリードしてきた。現在は、高利得の原理実証を目標とする爆縮物理の高度化、及び超高強度レーザー技術の進展に基づく新しい点火方式である「高速点火法」の原理実証を欧米に先駆けて行うことが考えられている。
 高速点火法は相対論的レーザープラズマ相互作用の解明等、新しい研究課題の解決を必要とするが、実証されれば、米国やフランス等の超大型レーザーを用いて実証しようとしている中心点火法より、小型のレーザーでかつ高い利得が期待されるものである。この点で、核融合研究全体に与えるインパクトは大きい。
 図4は、現在までに達成された爆縮プラズマのパラメーター(核融合指数及びプラズマ温度)と点火及び高利得の達成に必要なパラメーター領域を示す。

図4 レーザー核融合プラズマの到達パラメーター

3.2 炉心プラズマ研究の現状

 高出力レーザーにより核融合燃料ペレットを直接あるいは間接に加熱し、爆縮することによって高温・高密度のプラズマを発生する。この爆縮過程では、レーザー吸収によるプラズマアブレーション圧力の発生とその圧力による爆縮流体運動の物理を研究する必要がある。燃料ペレットの表面に発生するアブレーション圧力で球殼状の核融合燃料は圧縮されるとともに中心に向かって加速され、スタグネーションして高温・高密度プラズマとなる。この爆縮過程の解明のため、

(1)レーザー吸収に関連した、パラメトリック不安定性やレーザー自己集束等のレーザープラズマ相互作用物理、
(2)レーザープラズマ中でのX線発生や原子過程にかかわる放射・原子過程の物理、
(3)アブレーション放射流体力学、
 等の爆縮物理の研究が進められてきた。
 1960年代後半、高出力レーザーによるプラズマの発生が可能になり、レーザープラズマ相互作用や高密度プラズマの輻射流体力学の研究が始まった。1970年代には、爆縮過程を総合的に記述する計算機シミュレーションコードが作られるなど、レーザー爆縮に関わる物理が体系的に研究されるようになった。その結果、1980年後半までには、パラメトリック不安定性等の結果起きる高エネルギー電子の発生と先行加熱、及びアブレーション圧力のレーザー強度及びレーザーの波長に対する比例則が明らかとなり、その結果、より短波長レーザーの必要性が判明した。また、レーザー照射の不均一性やペレット表面の非一様性が爆縮の流体不安定性(レーリーテイラー不安定性)により成長する過程やそれに伴う爆縮コアプラズマの圧力の低下等が明らかとなった。
 一方、高速点火法に関連する超高強度レーザープラズマ相互作用、高エネルギー電子・イオン・X線の発生・輸送及び高密度プラズマの加熱等の研究は、1990年代に入り超高強度レーザー技術の進歩と共に、急速に進んでいる。相対論的なレーザープラズマ物理が研究テーマであり、レーザー加速、レーザーX線・イオン・中性子源等の新しいレーザー応用にも関連することから、競争の激しい研究領域となっている。高速点火法の科学実証には、高エネルギー電子やイオンによる大規模プラズマの加熱の物理を明らかにする必要がある。シミュレーションに必要な計算機能力の不足や高エネルギー粒子や放射線の計測精度が不十分であることから、加熱物理の体系化は今後の課題となっている。

(1) 直接照射爆縮
 1986年には、「激光XII号」によりD-Tを封入したガラスマイクロバルーンを爆縮し、温度1億度が達成され、DT核融合中性子発生数1013個(核融合ペレット利得0.1%)が観測された。 1987年に米国ロチェスター大学では、出力エネルギー2キロジュール、24ビーム、波長0.35μmレーザー「オメガ」で固体密度の100~200倍の中密度圧縮が達成された。次いで、1989年に我が国で開発された照射均一性改良技術であるランダム位相板を装備した出力エネルギー10キロジュール、12ビーム、波長0.53μmレーザー「激光XII号」で、固体密度の1,000倍(平均で600倍)の高密度圧縮が、重水素、三重水素化ポリスチレンペレットで実現された。これらの成果を基に米国やフランスでは点火実証実験施設、「NIF」や「LMJ(Laser Mega-Jule)」計画が立案されるに至っている。
 「激光XII号」で実現された高密度圧縮は、爆縮プラズマの中心に点火源となるホットスパークが安定に存在しないものであったため、その原因と予想された流体不安定性の研究、及びそれを抑制するために必要なレーザーの照射均一性の改善研究が精力的に行われた。一連の研究の結果、点火・燃焼に必要な照射均一性が評価出来るようになり、これを実験で検証すべく、平面ターゲットを用いた流体不安定性や先行加熱量の研究が1999年に完成した大阪大学の「激光XII号高強度基礎実験装置(波長0.35μm、照射強度1015W/cm2、照射均一性1%)」で行われている。また、米国ロチェスター大学では、1995年に建設された出力エネルギー30キロジュール、ビーム数60の波長0.35μmレーザー「オメガ・アップグレード」で核融合点火と等価な状態を実証すべく研究が進められ、既に核融合ペレット利得1%に達する核融合中性子発生数1014を達成している。

(2) 高速点火法
 中心点火法よりも高いペレット利得がより小出力のレーザーで実現出来る可能性がある高速点火法の基礎研究が1996年より開始された。大阪大学では、1997年「激光XII号」に100テラワット(TW:1012W)の超高強度レーザーを付加して、爆縮プラズマを「激光XII号」により発生させ加熱する実験を開始した。その結果、中性子の発生や MeVの電子の発生を確認するなどして、高速点火法の原理実証に必要な超高強度レーザーの相対論的自己集束、及びその結果としての高密度領域へのレーザー伝播、並びに爆縮コアープラズマに向かって高エネルギー電子が指向性を持って伝播すること等が確認された。現在、100テラワットレーザーを増力して1ペタワット(PW:1015W)のレーザー(エネルギー~800ジュール)とする開発が進んでおり、本格的な爆縮プラズマの加熱実験が2001年に開始される予定である。 (3) 間接照射爆縮
 間接照射方式に関しては米国ローレンスリバモア研究所で出力エネルギー40キロジュール、波長0.35μmレーザー「ノバ」で精力的に研究され、X線への変換に用いられる空洞(ホールラウム)内でのX線の振る舞い、照射均一性、流体不安定性等が詳細に研究された。その結果、点火・燃焼に必要なX線放射温度300万度を達成すると共に、燃料ペレットの半径圧縮率20までシミュレーション結果と良い一致を示すホットスパークの形成に成功している。

(4)ターゲット設計
 レーザー爆縮により核融合燃焼を起こす方法が1972年に提案され、その提案においては10,000倍の圧縮が可能であり、1キロジュールのレーザーで点火するとされた。しかし、レーザープラズマ相互作用、アブレーションプラズマの熱力学、流体力学、高密度プラズマの原子過程、放射過程及び状態方程式等に関する研究が進み、爆縮の安定性や高エネルギー電子や衝撃波による先行加熱といった現象のため、点火及び高利得を実現するためのレーザー及びターゲットの条件が制約を受けることが明らかになった。
 1990年代に入って、高密度圧縮が実験的に確認されたことなどにより、ターゲット設計の中心課題は安定なホットスパークの形成方法となった。すなわち、中心ホットスパーク点火のためには、間接照射方式では、レーザーパルスエネルギー1~2メガジュールが必要であることが「NIF」のターゲット設計で明らかになった。直接照射方式については、日、米でターゲット設計が行われ、レーザーパルスエネルギー4メガジュールで利得100以上のターゲットが設計の目標となっている。
 一方、中心ホットスパークの形成に関係する種々の困難を回避する方策として、外部加熱でホットスパークを形成する「高速点火法」が最近提案され、ターゲット設計が日、米やイタリアで進められている。高速点火法のターゲット設計は、まだ基礎的段階であり、その高精度化は、超高強度レーザーとプラズマの相互作用の物理の解明に依存している。

(5)統合爆縮シュミレーションコード
 レーザー爆縮物理の高度化に伴い、多様なレーザープラズマの物理を取り込んだ統合爆縮コードが開発されてきた。1970年代には世界に先駆けて、「LASNEX」コードが米国ローレンスリバモア研究所において開発された。我が国でも「HISHO」、「HIMICO」、「ILESTA」等の1次元、2次元の流体爆縮シミュレーションコードが開発され、実験解析、ターゲット設計に用いられてきた。1980年代以後には、高密度プラズマの物性や放射過程、原子過程等の数値モデルの精密化が爆縮物理の研究の進展に伴い進んだ。また、流体力学的不安定性に関する研究も進み、多様な物理を含む精度の高い統合爆縮シミュレーションコード開発が進んだ。米国ローレンスリバモア研究所の「HYDRA(3-D)」、米国ロチェスター大学の「OHCHIED(2-D)」、米国海軍研究所の「FAST(3-D)」及び、イタリア原子力・代替エネルギー研究開発国家委員会(ENEA)の「DUED(2-D)」等のコードが開発され、ターゲット設計に利用されている。また、我が国でも、「ILESTA(2-D)」の高精度化が進行中でありターゲット設計に利用されている。スーパーコンピューターの性能が急激に高くなるのに伴い、3次元の統合爆縮シミュレーションの役割がますます重要視されるようになっている。 

(6)診断技術
 レーザー核融合では、直径が数mm程度(爆縮初期の燃料ペレット)から直径0.1mm程度(爆縮コアープラズマ)まで秒速300 kmで変化し、かつ密度ならびに温度がそれぞれ1019 cm-3から1025 cm-3、数 eVから10 keVに亘って急峻に変化する。このため形状、温度、密度、核融合反応領域等の核融合プラズマの特性を空間分解能~10μm、時間分解能~10ピコ秒で1回のレーザー照射毎に計測する必要がある。この高密度プラズマは、X線やMeVのエネルギーを持つ核融合反応で生成される中性子や一部の荷電粒子しか通さない。そのため、X線や核融合反応粒子を計測して、直接または計算機シミュレーション結果との比較により計測する方法が用いられている。高利得実証実験のためには多くの開発要素が残されているが、原理手法としてはほぼ確立しつつある。

3.3 レーザー核融合工学研究の現状

 レーザー核融合炉の主要工学技術には、ドライバー技術、ペレット・燃料系技術、炉チェンバー技術、炉材料技術などがある。

〔高出力レーザー工学技術〕
 レーザー核融合研究に関連する技術でとくに重要で、かつ幅広い研究の広がりを持つのが高出力レーザー技術である。核融合用レーザーは多段増幅器と多数のビームを持った高出力レーザーの総合技術の集積であり、短パルス、高出力レーザーの技術開発に大きな役割を果たしてきた。また、その成果は産業応用、各種レーザー加工などに利用されている。
 1960年に、レーザー発振が成功して以来、レーザーの高出力化の研究開発が飛躍的に進歩した。すなわち、Qスイッチ発振、モードロック発振、及び、チャープパルス増幅技術の発明により、短パルスで尖頭出力の非常に大きいレーザー光が得られるようになった。その結果、パルス幅は、ナノ秒、ピコ秒から、フェムト秒にいたるまで、自由に選択できる様になるとともに、尖頭出力は、ギガワット、テラワットさらにペタワットに達している。1970年以降、レーザー核融合実験を支えてきたのは、レーザービームの直径が数十センチにもなる大口径のパルスレーザーの開発であり、パルス幅がナノ秒で、パルスエネルギーがキロジュールに達する大型のガラスレーザーや、紫外光を直接発生するKrFレーザーが建設され、核融合実験に用いられている。
 現在、次の段階の実験施設として、点火・燃焼プラズマの実証研究のため、出力がメガジュールに達する超大型レーザー核融合装置の研究開発がガラスレーザーを採用して進められている。また、高速点火法の実証に向け、10キロジュール級のピコ秒レーザーの開発も進められている。高利得炉心の実験のためには、出力エネルギーだけでなく、照射の一様性と時間的な波形整形も重要な開発要素である。このため位相変調素子や部分干渉光(PCL)、またビーム成形技術が開発され、照射不均一性1%以下が達成されるなど、照射ビームの品質は飛躍的に向上している。
 一方、ドライバー用レーザーとして必要となる高繰り返しで高効率の高出力レーザーの開発については、半導体レーザー(LD)励起固体レーザー等の研究の進展により、平均出力10メガワットで効率10%以上の性能をもつレーザーの開発のめどが立てられるようになっている。高速点火法においては効率5%程度の追加熱レーザーが必要であり、現在この要求を満足するものとして、半導体レーザー励起固体レーザー及びエキシマレーザーの一つであるKrFレーザーが高速点火法のためのドライバー候補と考えられている。

〔燃料ペレット製作技術〕
 燃料ペレットの製作技術には、球殻状の燃料容器の製作と検査、固体燃料層の形成及びその検査などがある。燃料容器の製作では日本で開発されているエマルション法と、米国を中心に行われている熱分解型の鋳型を使った気相重合法が、最も将来の核融合炉の要求に近い性能を達成している。検査技術は、抜き取り検査法が一定の成果を実証しているが、将来予想される燃料ペレットの連続動作に対応した検査技術に関しては不十分である。

〔炉工学〕
 レーザー核融合炉の炉チェンバーは、核融合パルス出力から炉壁を防護すること(中性子遮蔽)、ブランケットで中性子出力を熱に変換し(発電)、燃料であるトリチウムの増殖を行うという3つの機能を持つ第一壁(ブランケット)を必要とする。パルス出力から炉壁を防護する方法としては次の2つのタイプに大別される。

(1)ウエットウオール型
・薄い液体層を形成する方式、(代表的概念設計例:「Prometheus」,「Hiball」, 「光陽」)
・厚い液体層、液体流を形成する方式(代表的概念設計例:「HYLIFE」、「HYLIFE-II」)
(2)ドライウオール型
・ガスプロテクション方式(1Torr程度の キセノン等のガスによりX線、荷電粒子エネルギーを吸収する方式。ペブルフローを用いるタイプもある)
・磁場プロテクション方式(磁場により荷電粒子から防護する方式)

 液体金属、溶融塩を用いるウエットウオール型については、種々の自由液面形成の方法が提案されている。パルス繰り返しのためには、蒸発した液体の凝縮の過程が真空度回復時間を決めるので問題となる。
 ドライウオール型では、0.1Torr~1Torrのガスを注入し、10Hz以上の高繰り返しの可能性も検討されているが、壁表面の熱衝撃の問題、ペレットインジェクションの条件等の点で不確かな点がある。
 慣性核融合発電プラントの概念設計は、様々な炉チェンバー概念の提案を中心として、多くの設計例が報告されている。IAEAのレビュー報告書では、これまでに提案されている多様な概念設計の主要諸元が表にまとめられている(Energy from Inertial Fusion, Vienna, IAEA, 1995(186-187))。
 国内においては、レーザー核融合発電プラントの概念設計として、大阪大学と産業界との協力で行われた「光陽」の概念設計がある。「光陽」の設計については、研究の蓄積が進んでいる直接照射方式 の中心点火法に基づき、かつこれと組み合わせてドライバーとして必要な効率を満足しうる半導体レーザー励起固体レーザーを用いているため、データベースに基づいて、総合的な設計の整合性について議論できるようになっている。
 慣性核融合炉の経済性、安全性についても、現在までの概念設計研究に基づく評価が行われており、IAEAのレビュー報告において研究の現状がまとめられている。
 ブランケット材料の候補としては、磁場閉じ込め核融合と同様のセラミックス系材料、高融点金属材料が検討されている。

4 レーザー核融合研究の広がり

4.1 総論

 レーザー核融合における研究は、レーザー爆縮物理学及び、恒星や惑星の内部状態等の物理学(実験室宇宙物理学)を含む高エネルギー密度プラズマ科学を形成しつつあり、レーザープラズマX線源、コンパクト中性子源、レーザー加速、超高圧下での衝撃波工学等各種の応用分野やレーザー核物理・高強度場科学等の新分野に研究が広がりつつある。そこでは、レーザー核融合の固有の研究課題である短パルスの中性子、X線や粒子線を制御する技術が新しい研究分野を創生し、原子核工学、X線放射線科学や加速器科学にインパクトを与えると考えられる。また、レーザー核融合に必須である高出力レーザーの高性能化は、大型光学技術や非線形光学等を進展させ、これらの装置技術の進歩は、レーザーアブレーションやレーザー誘雷等のレーザー応用分野の研究を進展させつつある。このように、レーザー核融合研究は、新しい基礎科学分野の開拓、及び産業科学への応用〔スピンオフ〕との二重の意味で広い科学技術分野との連携を深めている。以下に、レーザープラズマに関連する研究の広がり、及び高出力レーザー科学技術に関連する研究の広がりをまとめた。

4.2 レーザープラズマ科学分野

〔レーザープラズマX線源〕
 高出力レーザーで生成するプラズマは、高輝度のX線輻射源となる。数keVまでの電子温度のレーザープラズマは線輻射と再結合輻射により、エネルギーがKeV程度のX線を発生する。最近の超高強度レーザープラズマでは、MeV以上の電子を大量に短パルスとして発生し、制動輻射等によりピコ秒の高輝度・高エネルギーX線を効率よく発生できる。高繰り返しレーザーを高質量数のキセノンやアルゴン等のガスターゲットに照射して得られる高輝度の軟X線源は、利用研究がリソグラフィーや生体細胞の観測等について進んでいる。
 レーザープラズマを用いることでレーザー波長をX線領域に拡大できれば、原子レベルの精度で計測が可能になり、制御し得る大きさの範囲も原子領域となる。時間分解能もアト秒領域となるので、原子の運動のみならず電子の運動も追跡出来るようになる。レーザー核融合用に開発された大型レーザーを活用して、X線レーザーの研究が開始され、現在は波長がナノmオーダー、及びサブナノm以下をめざしてX線レーザーの短波長化、高出力化、小型化が課題とされている。
 X線レーザーを用いた加工については、レーザープラズマX線源の出現で、波長のオーダーまで空間を制御することによって、特定の分子・原子を直接操作することを可能とし、化学反応の制御と合わせて、いわゆるナノマシンの構築が可能となりつつある。  また、X線レーザーにより、光電子分光や光電子ホログラフィー(立体像)といった原子分子レベルの物質表面解析技術の精度向上が飛躍的に進むと考えられる。

〔レーザー加速〕
 マイクロ波技術をベースとする従来の加速器では、放電破壊によりその加速電場は高々10~100MeV/m程度である。一方、レーザープラズマ相互作用によるレーザー加速では、原理的に放電破壊による電場の制限は無く、100GeV/m以上の超高電場の発生が可能である。このため、従来の加速器では不可能な高エネルギー加速が可能になるばかりでなく、これまでの大規模な装置を1/100~1/1000の規模に小型化することができる可能性がある。

〔核・極限物性科学〕
 Tキューブレーザーやペタワット級レーザーの集光強度は1022W/cm2を実現できる可能性が見込まれており、これが実現化すると、陽電子の発生や原子核の励起など極限状態の物理の新分野を拓くと期待される。

  4.3 高出力レーザー科学技術分野 

〔レーザー技術〕

(高出力半導体レーザー関連)
     産業応用固体レーザーは連続発振を基準としているが、Wall-plug-efficiencyで20%を目標として開発されており、その技術はそのまま核融合研究に応用可能となる。すなわち、高負荷で長寿命をめざすために、半導体レーザーは不純物のアルミニウムが少ない組成のものが開発されており、同時に、効果的な冷却方式の競争も激しい。これらは、いずれも核融合用レーザーに利用できる技術である。
(大型光学技術)
     核融合用レーザーシステムは、大出力レーザー増幅システムであるが、同時に、多数の並列チャンネルを持つ高精度で大型の光学システムでもある。装置が大型になると、建設コストにおける大型光学素子のコスト、さらに、その制御システムの比率が相対的に高くなってくる。光学素子製作技術には、光学研磨、洗浄、コーティング、取り付け、光学調整技術などが含まれる。いずれも、核融合用レーザーに必要な技術目標は高く、他の産業分野で開発されることを期待できない。したがって、レーザー核融合研究の一環として、技術開発を積極的に進めなければいけない。
     非線形光学結晶技術は、核融合研究に特有のものも含め、過去5年間に急速に進展した。大型非線形結晶「KDP」の高速育成技術や、「CLBO」、「YGCOB」など新しい短波長変換用非線形結晶などの研究を見ると、今後も大きな発展の可能性が残されており、基礎研究が関連分野と連携して進められている。
(光学薄膜技術)
     過去10年間の光学薄膜技術の進歩を見ると、重力波天文学、X線光学、光通信用超狭帯域フィルターなど、各種の先端分野で新しい光学薄膜技術が開発され、従来の常識が覆されつつある。この様な他分野における技術開発の進展に伴い、レーザー核融合用光学薄膜技術に、新しい研究戦略を立てる必要性が生まれてきている。
(非線形光学結晶)
     核融合用レーザーのように高いレーザー強度を持つビームでは、非線形光学結晶による波長変換を高効率で行うことができる。第3高調波の発生効率を80%以上とすることも可能である。ただし、核融合用レーザーでは、ビーム直径が大きいことが要求されるので、非線形光学結晶も必然的に大型のものが要求される。

〔フェムト秒レーザー加工〕
 高速点火法などで研究されている超短パルス超高密度レーザー光と固体ターゲットの相互作用は、産業界が開発しようと考えているフェムト秒レーザー加工と同じ物理現象である。加工用レーザーがフェムト秒領域になると、ターゲット内の熱伝導を無視することができるので、投入パワーのすべてが材料加工に利用され、高効率の加工ができるはずである。レーザー核融合研究が産業応用に先駆けてこのような超短パルスの開発をすることが期待される。

〔レーザー同位体分離〕
 原子力関連のレーザー応用として、レーザー同位体分離がある。ウランの同位体分離については、日本、米国、フランスにおいてはレーザーを光源として同位体分離を行う原子法及び分子法が研究されている。

〔レーザー誘雷〕
 レーザー誘雷は送電線の落雷事故を防止するため、レーザー光で大気中にチャンネルを形成し、あらかじめ決められたポイントに落雷させる技術である。レーザー誘雷は世界各国で研究されてきたが、実際に誘雷に成功した例は我が国のみであり、この際レーザー核融合用に開発された大出力CO2レーザーが利用された。これは、大出力レーザー技術とプラズマ生成物理の両方を熟知している核融合研究者が参加して初めて可能となった事例である。

〔宇宙技術〕
 レーザー核融合に必要な高出力・高繰り返しレーザーは、人工衛星の軌道修正や、人工衛星の損傷につながる衛星軌道上デブリの燃焼除去、軌道変更などに利用できる可能性がある。このための基礎研究として、レーザーによる飛翔体推進の研究が米国やロシア、ドイツで既に開始されており、我が国においても財団法人航空宇宙技術振興財団で調査研究が行われている。

 以上のように、レーザー核融合に必要な大出力レーザー科学技術には、他分野に活用されている事例が多い。このように、レーザー核融合研究の分野で開発した技術を積極的に普及させるとともに、他分野で開発されつつある技術を積極的に取り込み、他のレーザー分野との相互交流を活発にして、互いの利益、貢献を高めることが期待される。

5 レーザー核融合研究の意義と我が国の取り組み

5.1 エネルギー研究におけるレーザー核融合研究の意義

 1958年9月の第2回原子力平和利用国際会議(ジュネーブ会議)を契機に、研究の公開が始まってから40年以上が経過している。現在の主要エネルギー源である石油や原子力(核分裂)に比べ、より魅力的なエネルギー源を開発することが核融合研究の使命である。この点において、レーザー核融合に代表される慣性核融合は最近の研究の進展が著しく、核融合炉工学分野には、トカマク型を含むすべての磁場閉じ込め核融合と原理・技術基盤が異なる部分も多く、開発プロセスも違っていることから、核融合の先進炉方式として、その研究の発展に大きい期待が寄せられている。
 慣性核融合では、燃焼プラズマの密度が固体密度の1,000倍以上に達し、100ピコ秒以下の短時間で半径100μmの狭い領域において核融合燃焼が完了する。毎秒数回の燃焼の繰り返しにより、必要な平均出力を実現することになるが、炉の形状は炉心プラズマに縛られず、核的、熱的挙動に対し最適な炉形の選択が可能である。すなわち、通常の磁場閉じ込め核融合装置がプラズマの形状に強く縛られていることと比べて、慣性核融合では炉形状と独立にプラズマを作ることができる。このことからレーザー核融合は、炉構造材料の中性子損傷からの保護、核融合燃料の増殖、利用可能な炉材料の多様性、エネルギー変換方式の自由度等の炉工学的な有利性を有している。

5.2 炉心プラズマ研究の進め方

 今後の慣性核融合炉の研究開発では、直接照射方式や間接照射方式等の照射方式及び、中心点火法や高速点火法等の点火法の位置づけを明確にし、科学技術研究としての意義に十分配慮して進める必要がある。米国やフランスでメガジュール級の超大型レーザーを用いた間接照射方式での点火実証実験計画が進行中である。国際的な研究分担の観点とエネルギー開発の視点から、我が国では高速点火法を含め、直接照射方式による炉心プラズマ実証の研究を中心に進めるべきと考える。

(点火、高利得実証に向けての研究)
 レーザーによる直接照射方式での中心点火法は、核融合炉へ向けての検討評価が最も進んでいる。点火源となるホットスパーク形成を支配している流体不安定性の研究が進み、核融合炉に必要な高利得の実証に向けての研究を精力的に進めるべき時期にきている。このため、出力エネルギー50キロジュール、100程度のビーム数を持つ波長0.35μmのレーザーを建設し、高利得の原理実証実験を実施し、照射均一性や爆縮の安定性、主燃料の先行加熱に関する条件を明らかにすることが重要である。具体的には、核融合点火に必要な温度と密度を持つホットスパーク、及び点火燃焼が起これば高利得が得られる主燃料温度1keVを達成する小型の高利得等価爆縮プラズマを実現し、これと並行して進められる統合爆縮シミュレーションコードに対してデーターベースを提供し、高利得実証実験のためのデーターベースを確立することが重要である。なお、高利得の原理実証実験には均一性の高い固体DT層を持つクライオターゲットが必要であるため、これを可能とする燃料ペレットの製作技術及び無支持懸架またはインジェクション技術の確立が必要である。
 ここで、核融合炉としては、照射ビームのためのポート数が少ない方が工学的に望ましいため、ポート数の低減を可能とするためのターゲット設計やビームのプロファイル制御の研究が重要である。
 高速点火法は、直接照射方式でのレーザーの一様性を緩和する1つの方法と考えられており、照射ポート数の低減を可能性にするものと期待される。今後解明されなければならない重点課題は、相対論的効果により高密度領域まで進入したレーザーで生成される高エネルギー電子やイオンによる高密度プラズマの加熱機構及び加熱効率を解明し、爆縮プラズマの一部を点火温度まで加熱すること(高速点火法の原理実証)である。現在、大阪大学で建設中の高利得原理実証用のペタワット級レーザー(エネルギー~800ジュール)では、数100eVの爆縮プラズマを高温度(1keV)以上にまで加熱できると予測されている。この実験に成功すれば、次の段階の研究では、高エネルギー電子の飛程より大きい爆縮プラズマの一部を点火温度(10keV程度)にまで加熱することが目標となる。そのためには、高利得原理実証用のレーザーとして、出力が数ペタワットで10キロジュール級の超高強度レーザーを建設し実験を行うことが望まれる。

(統合爆縮シミュレーションコードの開発)
 レーザー爆縮プラズマの計算機シミュレーションの高度化により、より精度の高い高利得ターゲットの設計が可能となりつつある。高利得等価プラズマ実験の結果を体系化し、高利得爆縮を数値計算により実証することは今後の中核的研究課題である。直接照射方式での高速点火法や中心点火法による高利得実験の達成には、相対論的レーザープラズマを含むレーザープラズマ相互作用、X線放射や原子過程の物理、高密度プラズマの状態方程式等の数値計算モデルを高精度化した統合爆縮シミュレーションコードの開発が不可欠である。

5.3 レーザー核融合炉関連技術の課題

 レーザー核融合炉の開発における重要課題について以下に示す。

〔高出力レーザー技術〕 
 高効率で高繰り返し動作が可能なドライバーの開発は、レーザー核融合にとって最重要課題の一つである。半導体レーザー励起固体レーザーや気体レーザーであるKrFレーザーのいずれも、高効率、高繰り返し励起の技術が開発されつつあるが、レーザー媒質と励起源から熱を除去する必要があり、レーザー光の波面の擾乱を抑制しつつ必要な冷却を行う設計と技術の確立が必要である。このため、ドライバーのモジュール開発を行い、出力を段階的に増やして核融合用ドライバーとなり得ることを実証しなければならない。半導体レーザー励起固体レーザーでは、高性能レーザー媒質の開発や短波長への高効率波長変換技術の確立が、KrFレーザーでは超高強度光の発生技術の確立や効率の一層の向上が重要な課題である。

〔ペレット・燃料系技術〕
 燃料ペレットの製造技術に関しては、エマルション法により非真球性、不均一性を現状の1/3程度に改善できれば最終ゴールに到達したと言える。その後は、ばらつき、歩留まりの改善などの技術的課題、短時間で燃料を充填できる材料の開発が課題である。ペレットのインジェクション技術は今後の開発課題である。

〔炉工学〕
 レーザー核融合炉の長所を生かしつつ、短所に対処して、経済性、安全性の観点から魅力的なプラント概念を構築することが、今後の概念設計研究の課題である。

 これらの設計研究に基づき、個々の概念設計の物理的、技術的成立性を評価し、システム全体としての整合性を評価すること、及び経済性、安全性 を含めた総合的な評価を行うこと、またその概念成立のためのクリティカルな課題を摘出し、今後の研究開発の方向を明確にしていくことが最も重要な課題である。

5.4 我が国のレーザー核融合研究の国際的な位置付け

 米国は1993年12月に慣性核融合に関連した研究の機密を大幅に解除し、それ以降、米国エネルギー省核融合エネルギー科学部の中におかれたIFE(慣性核融合エネルギー科学)班のもとでの研究が活発になっている。そこでは、重イオンビーム開発、レーザードライバー開発、炉工学、高速点火法ならびにレーザープラズマと実験室宇宙物理学等関連分野の研究が進められている。
 米国やフランスにおける「NIF」及び 「LMJ」等のプロジェクトはSBSS(Science Base Stockpile Stewardship:科学基盤の構築による核兵器の維持・管理)とIFE(慣性核融合エネルギー)開発等の基礎科学研究を目的とする装置である。米国の「NIF」に関しては、慣性核融合エネルギーの観点からその位置付けについて米国エネルギー省主催の核融合研究方策の作業会(1999.8.スノーマス)において議論され、概念の検証及び原理実証につづく第2段階の慣性核融合実験装置とされた。
 ヨーロッパにおいては、米国の機密解除を受けて、核融合研究全体を見直す動きがあり、EU内の各国の研究グループ間の装置の共同利用等連携を深めるための経費として毎年100万ECUが手当されている。
 上記のように、近年、慣性核融合のエネルギー応用研究を含む基礎科学技術が、機密研究とは区別された明確な領域として確立しつつある。このような、欧米の流れを作り出す要因の一つとして、我が国が質及び量において、欧米に勝るとも劣らない研究成果をあげてきたこと、さらに過去25年間の研究実績において、我が国の研究が厳に平和利用の原則の下で進められてきたことなど、これまでの我が国の慣性核融合エネルギーに関する研究活動の結果が挙げられる。今後とも、現在の研究及びその延長上で国際的に研究の連携を行っていくことが重要である。ただし、将来において、点火、高利得の実証を目指す超大型のレーザー装置を用いるプロジェクトを実施する時には、機密研究との関係に十分な配慮を要するであろう。
 今後、レーザー核融合研究の進展に伴い、レーザー技術、高エネルギー密度プラズマ科学及び炉工学はより高度化するとともに、研究分野が多岐に亘るようになる。このため、国際協力による研究の推進がますます重要になりつつある。「激光XII号」、「NIF」、「LMJ」等の核融合レーザーやペタワットレーザー等の大型レーザー装置は大型加速器と同様に国際的な共同利用が可能である。諸外国においては、共同利用の国際化を進めようとする動きがあり、我が国としても積極的に参画してゆくことが望まれる。
 基礎科学技術及びエネルギー開発の研究として、レーザー核融合研究の国際協力を積極的に進めるためには、早急に国際協力の在り方について検討を行うことが必要である。例えば研究者間でレーザー核融合等の研究環境に関する世界の情勢等について情報交換を行い、国際協力等の在り方を議論することが考えられる。また、慣性核融合エネルギー開発に直結している、半導体レーザー励起固体レーザー、KrFレーザーや重イオンビーム等の装置開発や炉工学の研究については、研究目的がエネルギー開発に限定される限り、さらに、超高強度レーザーによるプラズマや核融合〔高速点火法〕の研究についても、その研究目的が基礎学術やエネルギー研究に限定される限り、国際協力のテーマとして適当であると思われる。

6 結語

 レーザー核融合に代表される慣性核融合は、レーザー科学をはじめとする広い関連分野を持ち、また、磁場閉じ込め核融合と原理や技術基盤が多くの点で異なるため、磁場閉じ込め核融合とは異なる独自の発展をとげてきた。即ち、レーザーの発明以来、高出力化等の技術の高度化により、レーザー科学とともに発展してきた。一方、炉工学技術やプラズマ物理学では、レーザー核融合固有の研究分野もあるが、磁場閉じ込めの核融合研究と共通する分野も少なからずある。また、半導体レーザー励起固体レーザー等の技術開発が進み、高効率・高繰り返しの核融合用レーザーの開発を見通せるようになったこともあり、レーザー核融合研究は炉心プラズマの実証へ向けての新しい段階に入った。すなわち、米国、フランスでは大型レーザー施設「NIF(国立点火実験施設)」、「LMJ(レーザーメガジュール)」を建設し、間接照射方式による点火実証に向けて第一歩を踏み出した。また、英国、フランスでは、ペタワットレーザーの共同研究施設を建設して高速点火法と高エネルギー密度科学の研究を進めようとしている。
 我が国においては、1980年代からの研究により、核融合炉の成立条件として不可欠な炉心プラズマ条件である固体密度の1000倍圧縮や温度1億度が個別にではあるが達成し、世界のレーザー核融合研究をリードしてきた。これまでの実績を更に発展させ、レーザー核融合エネルギー開発を推進するため、直接照射方式による高利得燃焼の科学的原理実証研究を進めることが望まれる。現在大阪大学に建設中のペタワット級レーザーにより、激光XII号の爆縮プラズマの加熱実験に成功した後には、直接照射方式による高利得等価プラズマの発生に必要な出力・ビーム数を持つレーザーや、高速点火法の可能性を追求するための、出力数ペタワットの超高強度レーザーの建設に向けて努力することが必要である。このような炉心プラズマ研究の推進と共に、高効率、高繰り返しの半導体レーザー励起固体レーザーやKrFレーザー等の核融合炉用ドライバーの開発研究を中心とする炉工学関連技術の研究開発を体系的に進めるための研究体制を整備することも必要である。
 上記の研究計画を進めるにあたり、超高強度レーザープラズマの研究や高平均出力のレーザー技術開発は、光量子科学等の基礎研究や産業応用等の広い関連分野を有するものであり、関連研究機関との研究協力及び連携を十分配慮すべきである。すなわち、我が国国内の産官学による研究ネットワークを構築すると共に、欧米等諸外国との研究協力を推進するよう努力すべきである。


核融合会議計画推進小委員会レーザー核融合検討ワーキンググループの設置について

平成8年7月4日
原子力委員会核融合会議
計画推進小委員会

1.目的及び設置
 レーザー核融合については、第三段階基本計画において「トカマク型以外の装置は、今後研究開発の成果によってはトカマク型を上回る閉じ込めを実現する可能性を有していること、トカマク型装置による研究開発への貢献が期待されること等から、これらの研究開発を進める。」と記述されてある。これまで計画推進小委員会において議論が行われ、また、第120回核融合会議においても「レーザー核融合の現状について」の報告がなされ、レーザー核融合について引き続き議論していくこととされた。このため、当小委員会にレーザー核融合検討ワーキンググループ(以下「ワーキンググループ」という。)を設置する。

2. 任期
 委員の任期は、2年間とする。ただし、再任を妨げない。

3.ワーキンググループの構成

①ワーキンググループに主査を置く。
②ワーキンググループの委員は、核融合会議計画推進小委員会主査が指名する。
③ 必要に応じて、ワーキンググループに、技術的事項の検討を行い、又は意見を聴取するため、関連する分野の学識経験者等を参加させることができる。

4.その他
① ワーキンググループの主査は、検討結果を適宜核融合会議計画推進小委員会に報告するものとする。
② ワーキンググループの庶務は、科学技術庁原子力局核融合開発室が行う。


核融合会議計画推進小委員会レーザー核融合検討ワーキンググループ構成員

 

植田 憲一電気通信大学・レーザー極限技術研究センター長
  
大和田野 芳郎電子技術総合研究所・極限技術部・総括主任研究官
  
岡野 邦彦(財)電力中央研究所・狛江研究所・電力システム部・上席研究員
  
小川 雅生東京工業大学・原子炉工学研究所・教授
  
桂井 誠東京大学・工学部・電気工学科・教授
  
神前 康次大阪大学大学院・電子情報エネルギー工学専攻・客員助教授
  
香山 晃京都大学・エネルギー理工学研究所・教授
  
三間 圀興大阪大学・レーザー核融合研究センター長
  
山崎 耕造核融合科学研究所・プラズマ制御研究系・教授
  
山中 龍彦大阪大学・レーザー核融合研究センター・教授
  
芳野 隆治日本原子力研究所・那珂研究所・炉心プラズマ第2実験室長


計画推進小委員会レーザー核融合検討ワーキング・グループ委員
(平成12年4月20日現在)

 

主査三間 圀興大阪大学レーザー核融合研究センター 教授
   
委員植田 憲一電気通信大学レーザー新世代研究センター長
   
 大和田野 芳郎通産省工業技術院電子技術総合研究所 エネルギー部長
   
 岡野 邦彦(財)電力中央研究所狛江研究所原子力システム部上席研究員
   
 小川 雅生東京工業大学原子炉工学研究所 教授
   
 桂井 誠東京大学大学院 新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻 教授
   
 神前 康次大阪大学工学研究科電子情報エネルギー工学専攻 助教授
   
 香山 晃京都大学エネルギー理工学研究所 教授
   
 山崎 耕造核融合科学研究所プラズマ制御研究系主幹
   
 山中 龍彦大阪大学レーザー核融合研究センター長
   
 芳野 隆治日本原子力研究所 企画室 調査役


開催日

 第 1回 平成 9年12月19日 第 8回 平成11年 6月 8日
 第 2回 平成10年 3月 2日 第 9回 平成11年 7月19日
 第 3回 平成10年 4月14日 第10回 平成11年 9月30日
 第 4回 平成10年 7月14日 第11回 平成12年 2月10日
 第 5回 平成10年10月 7日 第12回 平成12年 3月 1日
 第 6回 平成11年 3月23日 第13回 平成12年 4月20日
 第 7回 平成11年 5月13日 第14回 平成12年 6月 5日