4.3 先進炉方式の研究及び材料、炉工学の基礎研究
4.3.1 先進炉方式の研究の意義・位置付け
4.3.1.1 はじめに
 核融合開発の初期の時代から、様々な閉じ込め方式による核融合研究が推進されてきた。その当時は、特定の閉じ込め方式に人的・予算的な集中投資をすることなしに、複数の路線をある程度並行して進めてきたが、これは将来の核融合炉として確固たる閉じ込め方式が確立していなかったためである。これをマルチパス路線と称することもある。
 従って約20年前における我が国の大学における核融合開発研究では、名古屋大学プラズマ研究所(トカマク、ステラレータ、カスプ、バンピー、REBなど)、筑波大学(ミラー)、東京大学(逆磁場ピンチ)、京都大学(ヘリオトロン、トカマク)、大阪大学(レーザー、FRC)、九州大学(超伝導トカマク)などにおいて、中規模装置が数多く建設され、様々な閉じ込め方式による研究が盛んに行われてきた。また通産省工業技術院電子技術総合研究所では、長年にわたり逆磁場ピンチ方式の研究が推進されてきた。一方、日本原子力研究所では、1970年代に入って、その当時世界的に脚光を浴びてきたトカマク方式に着目し、中型実験装置の建設・実験を推進し、その成果を踏まえて大型実験装置JT-60を建設した。
 過去約40年間において、核融合炉心プラズマ研究は長足の進歩を遂げ、核融合炉心プラズマ条件の指標である核融合積(プラズマ温度、密度、閉じ込め時間の三重積)は、約7〜8桁のオーダーで進歩した。特にトカマク方式では、その優れたプラズマ閉じ込め性能と相俟って、現在世界最先端のプラズマパラメータが達成されており、本格的な核燃焼炉心プラズマ実験研究を目指したITER装置は、このトカマク方式が採用されている。
 長年の核融合プラズマ研究により、高温プラズマの特性がかなり解明されてきており自己点火条件達成の一歩手前まできてはいるが、それでも核融合炉心プラズマを、プラズマ物理の基本原理に立脚してというより、現在の装置での実験データをベースとして半経験的に外挿することにより設計することが多い。しかも高温プラズマは自己組織化現象を始めとした複雑多様な挙動を呈しており、将来的には高温プラズマが有する様々な特性を積極的に活用することにより、現在想定されている炉心よりも優れた性能を有する核融合炉心プラズマの、新たなる開発の可能性も否定できない。また核融合エネルギー開発としては、現在の核融合炉開発で想定しているDT燃料炉よりも優れた特性(トリチウム増殖が不要、高エネルギー中性子量が少ないなど)を有しているDDやD3He等の先進燃料を用いた核融合炉も視野に入れておく必要がある。また一方で、高温プラズマ研究は、宇宙・天体プラズマをはじめとした多岐にわたる学術分野との共通課題も多く、幅広いテーマに対して学術交流が盛んになってきている。さらに核融合開発で培われた高度なプラズマ生成・制御・診断等の技術は、半導体産業などにおいて革新的プラズマ応用技術へと発展してきている。このように高温プラズマ研究からの学術的・技術的なスピンオフが今までも数多く見られてきており、今後も多いに期待できる。
 以上のような観点から、トカマク以外の様々な方式による核融合炉心プラズマ研究開発の役割・意義の重要性に関しては、トカマクを中心とした実験炉開発と同様に、核融合界において強く認識されている。このような背景を踏まえ、より魅力的な先進核融合炉(定常化、小型化、高ベータ化、先進燃料など)を目指したトカマクと異なる閉じ込め方式による研究は、長年我が国では大学を中心として継続されてきた。従ってこのような先進炉方式1(いわゆる代替方式)の核融合研究の進め方に関しては、我が国の大学における核融合開発研究の進め方と相俟って、主に学術審議会特定研究推進分科会核融合部会(現在の原子力部会)で議論されてきた。ここではその議論及び部会報告に沿って、先進炉方式の研究の意義・位置付けについてまとめた。
1 ここでの先進炉方式とは、ヘリカル型や慣性核融合方式などのようなトカマクとは異なるプラズマ閉じ込め方式であり、いわゆる代替方式と呼ばれている研究である。

4.3.1.2 大学における今後の核融合研究の展開についての議論
 学術審議会特定研究推進分科会核融合部会は、「大学における今後の核融合研究について(報告)」を昭和61年2月14日にまとめた。我が国における核融合研究の状況とその中での大学の位置付けとして、「特に今後の大学における核融合研究においては、...(中略)....炉心プラズマとしての一層の定常化、高効率化及び炉の小型化・簡略化を重点目標として、そのための様々なアイデアを各種方式の研究の発展段階に応じて確実に検証していく研究を進める必要がある。」、と述べている。これを受けて、大学における次期計画策定として、1)開放端系や慣性核融合については、当面は既存装置の活用により、先駆性のある研究を推進、2)内部電流系については、大型トカマク計画が進行中であることを考慮して、機動性に富む中・小型装置により先駆的研究を推進、3)外部導体系は、定常運転や内部環状電流が不要などの利点を活用して、環状系磁場閉じ込めプラズマの総合的理解に寄与する、と総括された。その結果、大学における新大型計画として、環状磁場系の外部導体系大型ヘリカル装置が適当と考えられる、との提案がなされた。またそれを推進する方策として、新たに国立大学共同利用機関を設立することが望ましい、と提言している。以上の経緯を踏まえて、平成元年に文部省直轄核融合科学研究所が岐阜県土岐市に新設され、大型ヘリカル装置(LHD)の建設が平成2年より開始された。
 平成9年度にLHD装置が完成しプラズマ実験が開始されるに至って、我が国の大学における今後の研究の進め方についての議論が、平成8〜9年度の文部省学術審議会特定研究推進分科会原子力部会において集中的に議論された。そこではまず、関連する大学の関係機関から、核融合研究活動の現況、得られた成果、今後の課題等について説明を受け、それをもとに、核融合炉実現のための各種プラズマ閉じ込め方式による先駆的・基礎的研究、関連研究機関との連携及び炉工学研究推進等の在り方について検討を行い、「大学における核融合研究の展開について(報告)」(平成10年1月19日)としてまとめられた。
 本部会報告では、まず我が国の大学における核融合研究の意義、位置付け、今後の進め方について、「我が国の大学では,核融合の主要装置としてヘリカル方式を採用し、併せて、環状電流系磁気閉じ込め方式、磁気ミラー方式、慣性閉じ込め方式など、多岐にわたる閉じ込め方式の基礎研究が、炉心プラズマに関する体系化された知識基盤の構築のために行なわれている。」と、纏めている。続いて、ヘリカル方式、トカマク方式、その他のプラズマ閉じ込め方式(トカマク以外の環状電流系磁場閉じ込め方式、磁気ミラー方式、慣性閉じ込め方式)について、研究の進展及び現状、核融合炉としての課題、今後の進め方などについて整理している。
 最後に、このような様々なプラズマ閉じ込め方式による核融合研究の意義、位置付けに関して、次のように記述している。

4.3.2 先進炉方式の現状と核融合炉への見通し
4.3.2.1 ヘリカル方式[4.3.2-1、4.3.2-2]
 ヘリカル方式によるトーラス磁場閉じ込め研究は、1950年代のL. Spitzerによるステラレータの概念を起源としている。その後さまざまな磁場配位の最適化がなされてきており、その歴史的流れを図4.3.2.1-1に示す。トカマクなどのトーラス軸対称と異なり、ヘリカル系は、3次元の非軸対称系であるため、プラズマ閉じ込め、MHD安定性、工学的製作性など、物理・工学の色々な側面からの磁場配位の最適化が一意的ではないので、このような閉じ込め磁場配位のバリエイションがあると言える。なお最近の大型計算機の進展とも相俟って、3次元の複雑な構造に対する最適化が可能になってきた点も見逃せない。
 トカマクなどの軸対称トロイダル電流閉じ込め方式と比較した場合、ヘリカル系の特徴は以下のようにまとめられよう。

 長所としては
    ・定常運転が容易
    ・電流崩壊が無い
    ・還流エネルギーが少なく効率的
    ・不純物制御に有効なダイバータが自然に備わっている
    ・磁場配位の外部からの制御が容易
 短所としては
    ・磁場配位が非軸対称なので理論予測が比較的困難
    ・非軸対称性のために粒子閉じ込めが比較的悪い
    ・ヘリカルコイルシステムが工学的に複雑

などが挙げられる。特にヘリカル型炉心プラズマが無電流系である点は、トカマク炉開発において重要な課題とされている、非誘導電流駆動による定常運転の必要性や、炉心プラズマが急速に消滅する電流崩壊(ディスラプション)の心配が無い、という核融合炉として大きな利点を有している。
 ヘリカル系は、閉じ込め磁場を外部コイルのみで構成することで、平均無電流プラズマ閉じ込めであることがトカマクと基本的に相違している点ではあるが、トーラス磁場系での閉じ込め概念としては類似な点も多い。従って、トカマクとヘリカルの共通点・相違点を踏まえた総合的な研究は、トロイダルプラズマの統一的な物理機構の解明を促進すると期待でき、如いてはトカマク型のITERプラズマ研究にも大きく貢献するものと言える。特にトカマクプラズマでは、閉じ込め時間や運転密度がプラズマ電流に強く依存したり、プラズマの平衡・安定性にはプラズマ電流分布が重要な役割を果たしている。これらの研究は、無電流ヘリカル系での相補的・補完的研究により、プラズマ電流の果たす役割について、一般的・統一的に理解出来るようになるものと期待できる。
 図4.3.2.1-1に示されているように、色々な観点による最適化を図ったヘリカル装置が世界的に計画・建設・運転されているが、最も大型な装置は、平成10年3月から稼動開始した核融合科学研究所のLHD(Large Helical Device)である。これはヘリカルコイル及びポロイダルコイルのすべてが超伝導コイルからなる主半径R=3.9mの装置である。なおこれと同規模の装置Wendelstein7-Xが欧州(ドイツ)で建設中である。これらの装置より一回り小型(R=1?2m程度)の装置が、CHS、Heliotron-J(以上、日本)、Wendelstein7-AS(ドイツ)、TJ-II(スペイン)、HSX(米国)、Uragan-3M(ロシア)、H-1(オーストラリア)などであり、プラズマ閉じ込め・安定性などの研究が精力的に推進されている。またヘリカルリップルを極力低減した準軸対称なQAS、QOS装置などが提案されており、今後もさらなる最適化研究が進むと期待されている。
 ここでは世界的に最も大きなLHD装置での研究の現状を中心として、我が国におけるヘリカル系研究について概観してみる。LHD装置は、学術審議会特定研究推進分科会核融合部会「大学における今後の核融合研究について(報告)」(昭和61年2月14日)を受けて、核融合科学研究所において平成2年度から建設が開始された。装置建設は幾多のR&Dを行いつつ、所期の計画通り平成9年12月に装置本体の組立を完了し、装置立ち上げ試験を経て、平成10年3月にプラズマの着火に成功した。LHDプロジェクトの主要研究課題は、高温・高密度プラズマの達成と、炉心プラズマに外挿し得る輸送の研究、平均ベータ値5%以上のプラズマ実現とMHD特性の研究、ダイバータ設置と定常運転の研究、核反応を模擬できる高エネルギー粒子の振舞いの研究、トカマクとの相補的研究とトロイダルプラズマの総合的理解、等である。
 平成10年3月のプラズマ実験開始以降、約1年半の実験期間において、図4.3.2.1-2に示したように、実験が進むに従ってプラズマ蓄積エネルギーが増えている。これは磁場強度の上昇、加熱パワーの増大、壁・ダイバータ等のコンディショニングなどによるものであり、今後も加熱パワーの更なる増大やペレット入射等による高温・高密度化が計画されている。なおLHD装置の仕様を表4.3.2.1-1に、現在までに達成されたパラメータを表4.3.2.1-2にまとめて示す。ここで特筆すべきは、設計に際して予測されていた閉じ込め時間より50%以上優れた性能が得られている点や、すでに2%を越える平均ベータ値が達成されている点が挙げられよう。図4.3.2.1-3はLHD設計時に用いられたプラズマ閉じ込め時間の経験則とLHDプラズマ実験データとの比較である。既存の中型装置データから外挿される予測値よりも1.5-2倍程度閉じ込め時間が優れたデータがLHD装置で得られていることがわかる。実験的には、トカマクのHモードと類似の閉じ込め改善モード(プラズマ周辺で顕著な閉じ込め改善が観測される)が達成されている。なお中性粒子ビーム入射、ECH及びICRF加熱などの実験においても、不純物問題に煩わされることなく加熱の有効性が実証できており、今後のパワー増力による実験の進展が期待される。
 LHD装置建設に際しての技術的評価としては、約1GJ規模の超伝導コイルシステムが順調に立ち上がり、装置製作精度2mmという高精度でのヘリカルコイルシステムの完成がまず挙げられる。また定常ジャイロトロン発振器や負イオン源等の加熱機器の開発、FIR干渉計、高性能トムソン散乱装置、重イオンビームプローブ等の計測機器の開発なども重要な開発成果である。
 我が国におけるヘリカル系の中規模装置としてHeliotron-E、CHS、Heliotron-Jが挙げられよう。Heliotron-Eは、LHDの原型となった装置であり、ヘリカルプラズマのPoP(Proof of Principle)実験として牽引的な役割を果たしてきたが、LHD装置の立ち上げと呼応してシャットダウンとなった。CHSはアスペクト比を下げることにより、ヘリカル系装置のコンパクト化を図ったものであり、ヘリカル系特有のプラズマ物理に関連した様々な実験的成果を挙げてきた。例えば、プラズマのトロイダル回転と新古典粘性との関係を明らかにしたり、重イオンビームプローブによる径電場測定では、プラズマ内の静電ポテンシャルの脈動や内部輸送障壁と径電場シアとの関係が明らかになった。これらの成果は、トカマクにおけるHモードなどの閉じ込め改善モードとも直接関連しており、トロイダルプラズマの総合的理解の上で大いに貢献してきた。また平均ベータ値2.1%を達成しており、当時としてはヘリカル系での世界最高値が達成された。
 Heliotron-Jは、L=1/M=4のヘリカルコイルを有する立体磁気軸装置である。図4.3.2.1-4に示したように、本装置では電流値が異なる2組のトロイダル磁場コイルが設置されており、この電流比を変化させることにより、トロイダル磁場のバンピー度を制御できるようになっている。その結果、準ポロイダル対称(Quasi-Poloidal Symmetry)な磁場配位も可能となり、磁場のバンピー度を積極的に取り入れることによる新古典拡散効果の低減やMHD平衡・安定性の改善を狙っている。

4.3.2.2 慣性核融合方式[4.3.2-3]
 慣性閉じ込め核融合方式は、直径数ミリ程度の燃料ペレットに、高強度のレーザーやイオンビームを照射し、瞬間的に高温・高密度プラズマを発生させて、核融合反応をおこさせるものである。図4.3.2.2-1は、磁場閉じ込めと慣性閉じ込め方式におけるプラズマの密度や閉じ込め時間の領域を示したものであり、両者は大きく異なるパラメータ領域に位置している。慣性閉じ込め方式では、非常に短時間(10-11秒程度)ではあるが、固体密度の1000〜10000倍にまで高密度化させる必要がある。なおここでは、慣性核融合方式のドライバーとして最も研究が進んでいるレーザー方式を中心として、研究の現状や磁場核融合研究との相違・相補性についてまてめてみる。
 1980年代において、大型(数十kJクラス)のレーザー装置が、日・米・仏で建設され、レーザー爆縮核融合研究が大きく発展した。図4.3.2.2-2には、レーザー核融合研究において現在までに達成されているプラズマパラメータを示す。なお大阪大学のGEKKO-XII号装置では、固体密度の約600倍までの高密度圧縮に成功しており、世界トップのデータを出している。これらの成果を踏まえ、米国では自己点火の達成を狙った次期装置NIF(National Ignition Facility)の建設を1997年に開始した。この装置は、192本のレーザービームから構成されており、総エネルギーは1.8MJである。計画では1回の爆縮で核融合出力20MJ以上(エネルギー利得10以上)を期待している。またフランスでも同規模の装置LMJ(Laser Mega Jurle)が計画されている。
 レーザー核融合のプロセスは、(1)レーザー照射(小球ペレット表面にレーザービームを均一に照射する)、(2)加速(ペレット表面が噴出し、その反作用でペレットは内向きに加速される)、(3)圧縮(高温のホットスパーク部と高密度の主燃料部からなる圧縮コアが形成される)、(4)点火・燃焼(ホットスパーク部で点火が起こり、主燃料部で核融合燃焼が起きる)、から成っている。ここでレーザー照射の方式として、多数のレーザービームを直接ペレットに照射する直接照射方式と、レーザー光をX線に変換した後に照射する間接照射方式がある。また圧縮・点火のプロセスにおいても、中心点火方式と高速点火方式がある。
 中心点火とは、圧縮コアの中心部(ホットスパーク部)を、圧縮力によって自己点火条件まで加熱させる方式である。この場合、ホットスパーク部と主燃料部との境界でレーリー・テーラー不安定性による流体混合が起きやすいので、この混合層の厚みを許容範囲内に抑制することが課題である。一方高速点火とは、流体混合によりホットスパーク部が消滅しても、ペタワットレーザーを主燃料に集中させて加熱することにより強制的にホットスパークを形成する方式である。
 直接照射・間接照射方式、及び中心点火・高速点火方式に対する、必要とされるレーザーエネルギーとターゲット利得を図4.3.2.2-3に示す。前述のNIFやLMJ装置は、MJ級の超大型レーザーを用いて、間接照射方式による中心点火を狙っている。一方高速点火方式では、数百kJ級のレーザーで、しかも大きなターゲット利得が得られるが、ホットスパーク形成のためにペタワット級の超強度レーザーが必要とされる。なお近年のレーザー極短パルス圧縮技術の進展に伴って、大阪大学では100テラワット級のガラスレーザーがすでに建設されており、高速点火方式による高利得慣性核融合研究を計画している。
 慣性核融合方式では、燃料ペレットの投入・照射の繰返し周期の制御によって、直接的に出力を調整可能である。従って、出力安定制御や出力可変制御は比較的容易であると予想できる。熱設計が許す範囲でリアルタイムの負荷追従も可能であろう。ディスラプションという概念は存在しないが、慣性核融合方式ではペレットの打ち損じが発生する可能性がある。照準機器の問題などが連続的に発生すれば、出力低下または停止が起こる。しかし、連続的に発生するのでなければ、繰返し周期の制御で電気出力の維持は可能と思われる。
 慣性核融合炉の炉心プラズマは、磁場核融合炉とは大きく異なり、プラズマ物理の観点から両者の共通点を見出すことは必ずしも容易ではない。また炉工学技術に関しても、高繰り返し・高効率・大出力レーザーの開発や、均一なペレット生成技術など、慣性核融合炉固有の課題もある。しかし一方で、それを取り巻く炉工学技術に関しては、多くの面で共通する項目を挙げることが出来る。表4.3.2.2-1は、慣性核融合炉の炉工学関連の重点課題を列挙したものであり、ITER装置や磁場核融合炉との共通点が数多く見られる。
 爆縮用大出力レーザーやペタワットレーザーをはじめとして、半導体励起固体レーザーやKrFレーザー等のレーザー技術は、核融合研究のみならず広範囲な分野における産業応用が期待できる。また高強度レーザーを用いた新たな荷電粒子加速方法なども提案・実験されており、加速器分野からも大いに期待されている。一方レーザー核融合研究での高温・高密度プラズマは、超新星爆発やガンマ線バーストなどの天体物理とも強い関連を持っており、実験室天文学として学術的にも関心が持たれている。特にこの分野では、光やX線などの輻射が重要な役割を果しており、輻射流体力学として新たなる学問領域を切り拓こうとしている。なおITER装置のダイバータ領域でも、輻射が重要な役割を果しており、慣性核融合研究で培われた輻射に関するアトミックデータや輻射場の研究とも強い関連性を有している。

4.3.2.3 ミラー方式[4.3.2-4]
 ミラー方式とは、直線磁場配位において、磁力線方向の磁場の強弱及び電場を利用したプラズマ閉じ込め方式である。直線磁場の両端からのプラズマ損失を如何に低減させるかが最重要課題であり、最近の研究は直線磁場の両端にミラー磁場コイルを配したタンデムミラー方式が主流である。なおそこでは、両端に電位を形成し、磁力線に沿ったプラズマ損失を静電的に閉じ込めるように工夫されている。図4.3.2.3-1にタンデムミラーのコイル配置、磁場及び静電ポテンシャルの空間分布を示す。セントラルセルと呼ばれている装置中心部に高温・高密度プラズマを閉じ込めることを主目的としている。高温プラズマは、両端のミラー磁場に反射され、セントラルセル部に閉じ込められているが、一部のプラズマは反射されずアンカー部やプラグ部に逃げてしまう。図4.3.2.3-1に示されているように、アンカー部とプラグ部の磁場・電場分布を制御・最適化することにより、イオンと電子共に閉じ込めることを狙っている。なお磁場構造の最適化は、磁場コイルの形状・設計を工夫することにより可能であるが、電場(電位)の形成・制御はプラズマ自身を介して行わなければならないので、必ずしも容易ではない。
 現在稼動しているミラー磁場閉じ込め装置は、GAMMA10、HIEI、QT-Upgrade(以上日本)、AMBAL-M、GDT(以上ロシア)、HANBIT(韓国)などである。特にGAMMA10は、世界で最も大きな装置の一つであり、ミラー磁場閉じ込め方式の研究の世界的牽引車としての役割を果している。なお電位閉じ込めによるタンデムミラー磁場閉じ込め研究は、電位形成やそれによる端損失低減などの検証実験が中心であり、現在は原理実証(Proof of Principle)の段階であると言える。
 GAMMA10装置では、セントラルセル部でのICRF加熱によりイオン温度10 keVを観測しており、熱核反応による中性子の発生も確認されている。またプラグ部の静電ポテンシャルも約1kVが形成されている。ただし電子温度は 100 eV程度であり、プラズマ密度は2 x 1018 m-3と低い。なお静電閉じ込めに必要な電位は電子温度の5〜10倍程度であるので、核融合炉では、100 kV以上の電位形成が要求される。
 直線型装置の核融合炉としての特徴は、比較的単純な磁場配位と、装置の組立て・分解の容易性である。また定常磁場コイル装置であり、定常運転が容易である。従って先進燃料を用いた高ベータシステムや強力中性子源としての可能性も指摘されている。
 現在トカマクプラズマで閉じ込め改善のキーワードの一つとして径電場が挙げられるが、ミラー方式では古くからプラズマ電位の重要性が指摘されており、中心的研究課題であった。またITERなどのトーラス磁場配位で問題となっているダイバータの磁力線は、ダイバータ板と連結した、いわゆる開いた磁力線構造である。これはミラー装置での磁力線構造と類似しており、磁力線方向のプラズマ物理(電位形成やプラズマ流れなど)において、共通する課題が多い。
 なおミラー装置の建設・研究段階において、中性粒子ビーム入射装置やジャイロトロンなどの加熱機器の開発や、マイクロ波や軟X線計測などをはじめとした先進計測機器を開発してきた。ここで開発された加熱・計測装置及びその技術は、その後トカマクをはじめとした多くの核融合実験装置に広く普及している。

4.3.2.4 逆磁場ピンチ方式[4.3.2-5]
 逆磁場ピンチ(RFP:Reversed Field Pinch)とは、トロイダル磁場がプラズマの中心部と周辺部で逆方向を向いているトーラスプラズマ閉じ込め方式である。このような逆磁場配位が安定であることは、1960年代にZETA装置により実験的に発見されたものであり、その後理論的裏付けを得て多くのRFP装置が建設・運転され、RFPプラズマの特性理解とプラズマ性能向上の研究が盛んに行われてきた。図4.3.2.4-1は、我が国の中小装置も含め、現在稼動中の大型装置(TPE-RX:日本、MST:米国、RFX:欧州)及び実験炉等の設計例を示したものである。これら大型装置は、プラズマ主半径が約1.5‐2m、プラズマ電流が約1 MA規模である。
 RFP装置は、トカマク装置と同様にトロイダル電流を有する軸対称トーラス配位であるが、トカマクと比べて約10倍以上のトロイダル大電流を流すという点で大きく異なる。もしトカマクと同程度のプラズマ電流値(Ip=10-20MA)でRFP型核融合炉が出来るならば、トロイダル磁場はトカマクより1/10以下の強さで良いことになる。これにより常伝導コイルの使用も可能となり、装置構造の単純化・軽減化と相俟って、核融合炉コストの大幅な低減化をもたらす可能性を有している。
 RFPとトカマクとの中間に位置するプラズマ配位として、極低q (ULQ)配位がREPUTE-1装置(日本)で実験的に発見された。理論的に、この領域には安定な平衡解は存在しないと言われていたが、プラズマ中の安全係数分布を制御することにより準安定な領域が見出された。この安全係数分布は、最近話題となっているトカマクにおける負磁気シア−分布と相似形であり、先進トカマク研究の先駆的役割を果してきた。
 RFPプラズマの特性として、エネルギー閉じ込め時間や密度は、プラズマ電流の増加とともに増える傾向(τE−Ip1.5、n-Ip)を示している。図4.3.2.4-2は密度と閉じ込め時間の積をプラズマ電流の関数としてプロットしたものであり、今後さらなる大電流化による研究が待たれるところである。なおRFPプラズマでの電子・イオン温度は数百eVであり、ベータ値は5〜20%程度である。RFPプラズマのパラメータ・閉じ込め特性は、同規模のトカマクと比較した場合、約1/10 〜 1/100 程度であると言える。例えば、現在までに達成された最も長い閉じ込め時間は、MST装置のτE 〜10 msecである。今後は、プラズマ閉じ込め機構の解明と閉じ込め特性の改善を図る必要がある。
 RFPプラズマの平衡・安定性はJ.B. TaylorによるMHD緩和理論により説明されている。これは系全体のヘリシティを保存しつつ、系全体がMHD的に平衡・安定な系に緩和するという理論であり、実験結果とも比較的よく一致している。このような自己組織化現象は、磁力線の繋ぎ変え現象(磁気リコネクション)により引き起こされるものである。なお磁気リコネクション研究は、H.P. Furth達の理論的体系化がなされ、トカマクにおける電流崩壊やベータ値上限の主要な原因であるティアリングモード解析に発展・応用されている。またMHD緩和状態に移行するに際して、ダイナモ効果と呼ばれているプラズマ自身が磁場を生成する機構が介在している。このダイナモ効果は、地球磁場発生機構や太陽表面における太陽フレア現象など、核融合以外の幅広い学術分野での研究にも共通する物理現象であり、分野を横断した幅広い学術交流がなされている。特にRFPプラズマでは他分野の研究と違って、これら自己組織化現象が実験室規模で制御された状態で発生させることができ、詳細な計測が可能である、という観点から、重要な役割を果している。

4.3.2.5 球状トーラス[4.3.2-6]
 球状トーラス(ST: Spherical Torus)は、トカマクの極端な低アスペクト比化(通常のトカマクはアスペクト比 A(=R/a) > 2.5 であるのに対して、STではA < 1.6)、またはコンパクトトーラスに弱いトロイダル磁場を付加した形状とみなせる。STにおける磁力線構造を図4.3.2.5-1に示す。STではトーラス内側の、いわゆるgood curvature領域に磁力線が巻き付いている構造をしているので、非常に高いベータ値限界が得られる可能性がある。図4.3.2.5-2は、欧州のSTART装置で実験的に得られたベータ値であり、既存のトカマク装置が高々10%程度のベータ値であるのに対して、START装置では40%のベータ値が達成された。
 現在は、START装置より一回り大きなMAST装置(英国)、NSTX装置(米国)での実験が開始されており、STプラズマの原理実証(Proof of Principle)研究を目指している。MAST及びNSTX装置の装置サイズは、主半径/小半径=0.7m/0.5m(MAST)、 0.85m/0.68m(NSTX)であり、プラズマ電流としては、1〜2MAを狙っている.日本でも、TS-3/4、TST-M/2、HISTなどの小型ST装置(主半径 R = 0.3〜0.4 m規模)が建設・稼動中であり、プラズマ合体によるST生成、高周波加熱、ヘリシティ入射などの先駆的研究が推進されている。
 STの核融合炉は非常に小型(主半径は高々3 m程度)で魅力的であるが、小型ゆえの工学的問題点として、トロイダル磁場発生用中心導体の設計や、高い中性子壁負荷・ダイバータ熱負荷などが挙げられよう。中心導体は超伝導コイルでなく常伝導銅コイルを用いているが、非常に細いトーラス中心領域に設置された銅コイルの、中性子照射による劣化などが課題である。なお小型装置であるゆえの高い中性子壁負荷という特性を積極的に活用して、ブランケットなどの機能試験を行うための体積中性子源としての利用なども検討されている。

4.3.2.6 コンパクトトーラス[4.3.2-7]
 スフェロマックや反転磁場配位(FRC:Field Reversed Configuration)を総称してコンパクトトーラス(CT: Compact Torus)と呼ぶ。スフェロマックは完全球形のプラズマに、トロイダル及びポロイダル電流を流して、ポロイダル磁場、トロイダル磁場を形成するものである。1980年代に米国において比較的中規模のスフェロマック装置LASLとS-1が建設・運転された。電子温度数百eVのプラズマ生成には成功したが、その配位維持が難しく、その後シャットダウンとなった。我が国では小規模の装置が建設・運転されてきたが、最近ではトーラスプラズマの合体やそれに伴う磁気リコネクション研究などへと発展させてきた。なお最近、米国リバモア研究所で新たに中規模スフェロマック装置を建設することになった。
 FRCはプラズマ中にトロイダル電流を流し、ポロイダル磁場のみでプラズマを閉じ込める配位である。一般的にトロイダル方向の電流を流す方法として、いわゆるテータピンチ方式が使われる。原理的には非常に高ベータプラズマの閉じ込めが可能である。代表的なFRC装置として、FIX、TS-3/4(共に日本)、LSX(米国)が挙げられる。FRCではプラズマ半径とイオンラーマ半径の比S値(S = a/ρi)が重要であり、現在の実験ではS=2〜3であるが、核融合炉ではS=40程度まで大きくなり、大きなS値でのプラズマ特性の評価が必要である。なおFRCではプラズマ生成部とプラズマ燃焼部とを区分できるので、FRCプラズマを軸方向に移動させる実験も盛んに行われている。
 コンパクトトーラスの研究は、いまだ原理探求段階であると言えるが、それでも超高ベータの可能性や、核融合炉の小型化・単純化の可能性を秘めており、D3He等の先進燃料核融合炉の候補として研究が推進されている。

4.3.2.7 内部導体装置[4.3.2-8]
 超高ベータプラズマ閉じ込めを狙う装置として内部導体トーラスが脚光を浴びてきている。RFP/ULQプラズマは電子の流れが無力磁場配位へとMHD緩和したものであり、基本的には低ベータである。一方これにイオンの流れも加味することによる2流体プラズマ系でのMHD緩和状態が理論的に導き出された。そこではプラズマのベータ値とアルフベン速度で規格化されたプラズマ流れの2乗の和が、磁気面に垂直方向で一定であるとの結論となっている。これは静圧(プラズマ圧力)と動圧(プラズマ流れの圧力)の和が一定であるというベルヌーイの法則の一般化であるとみなせる。従ってプラズマ周辺部に高速のプラズマ流れを誘起することにより、プラズマ中心部に高ベータプラズマを保持する平衡配位が有り得ることを示唆している。
 このようなプラズマの2流体効果を利用した新たなるMHD緩和状態を実験的に実現する装置として内部導体トーラスが適している。そこでは内部導体円環電流によりポロイダル磁場を発生させ、プラズマ中の径電場によりトロイダル方向に高速に回転させる。なおアルフベン速度程度の高速プラズマ流れを誘起する方法として、プラズマをわずかに非中性化(10-4%程度)させれば、大きな径電場を発生させることができる。ポロイダル磁場は内部導体から離れるに従って弱くなるので、EXBドリフト速度は、大きくなり、内部導体近傍に高ベータプラズマを閉じ込めることが出来る。
 内部導体装置による超高ベータプラズマの閉じ込めの可能性を探る装置として、Proto-RT装置(日本)が建設・運転されている。現在までのところ、電子の入射により非中性プラズマ生成に成功しており、約500V程度の静電ポテンシャルの形成されている。ただしこの装置は、銅コイルの内部導体装置であるので、電流リードや支持機構が磁気面を横切ってしまうので、超伝導コイルを用いた磁気浮上内部導体装置を現在設計中である。
 磁気浮上内部導体装置は、1960年代後半から1970年代前半にかけてLevitron、Spheratorなどが建設・運転されてきた。これらの装置は磁気井戸効果や磁力線のシア−による安定化効果を期待したプラズマ閉じ込め装置であり、比較的良好なプラズマ閉じ込め時間が得られていたが、トカマクの隆盛や内部導体装置としての炉工学的観点から、シャットダウンとなった。なお最近、米国では、これらの概念とも違う超高ベータプラズマ閉じ込めの可能性が提案され、磁気浮上内部導体装置LDXが建設中である。LDX装置では、ダイポール磁場の大きな磁力線の圧縮効果を利用して超高ベータプラズマを閉じ込めようという概念である。
 プラズマ流れの効果は、トカマクプラズマでのHモードでも重要な役割をはたしており、上述の2流体的MHD緩和現象がHモード物理に関係しているとの指摘もある。また惑星間衛星による観測では、木星には超高ベータプラズマ(100%以上のベータ値)が存在しているとの指摘もあり、このような超高ベータプラズマの閉じ込め機構と関連している可能性もある。

参考文献

[4.3.2-1]藤原正巳、「大学における先進閉じ込め方式の研究―LHD、 CHSについて―」、核融  合会議開発戦略検討分科会 資料18-2。
[4.3.2-2]若谷誠宏、「大学における先進閉じ込め方式の研究―Heliotron-J―(Heliotron-J実験計画)」、核融合会議開発戦略検討分科会 資料18-4。
[4.3.2-3]三間國興、「大学における先進閉じ込め方式の研究―レーザー核融合の場合―」、核融合会議開発戦略検討分科会 資料17-3。
[4.3.2-4]玉野輝男、「大学における先進閉じ込め方式の研究―タンデムミラー核融合研究開発の現状と課題―」、核融合会議開発戦略検討分科会 資料16-3。
[4.3.2-5]早瀬喜代司、「逆磁場ピンチ(RFP)研究の現状」、核融合会議開発戦略検討分科会資料17-2。
[4.3.2-6]高瀬雄一、「大学における先進閉じ込め方式の研究―TST―(球状トカマクの現状と将来展望)」、核融合会議開発戦略検討分科会 資料18-5。
[4.3.2-7]桂井誠、「大学における先進閉じ込め方式の研究―TS-4、ピンチ、コンパクトトーラス―(コンパクトトーラス研究の動向)」、核融合会議開発戦略検討分科会 資料18-6。
[4.3.2-8]吉田善章、「大学における先進閉じ込め方式の研究―非中性プラズマを用いた核融合研究(新しいエネルギー緩和状態の探求)―」、核融合会議開発戦略検討分科会資料16-2。

表4.3.2.1-1 LHD装置の仕様と現状

表4.3.2.1-2 LHD装置で現在までに達成されたパラメータ(1999年度)

表4.3.2.2-1 慣性核融合炉工学の重点課題

図4.3.2.1-1 ヘリカル系核融合プラズマ閉じ込め配位の発展

図4.3.2.1-2 LHD装置の運転の進展に伴うプラズマ蓄積エネルギーの向上

図4.3.2.1-3 中規模ヘリカル装置によるヘリカル系プラズマのエネルギー閉じ込め時間に関する比例則と、LHDプラズマの閉じ込め時間との比較

図4.3.2.1-4 Heliotron-J装置のコイル構成(HF coil:ヘリカル磁場コイル、TA Coil/TB Coil:2組のトロイダル磁場コイル、IV Coil/AV Coil:ポロイダル磁場コイル)

図4.3.2.2-1 磁場閉じ込めと慣性閉じ込め核融合プラズマのパラメータ領域の違い

図4.3.2.2-2 慣性核融合プラズマ研究で達成された現在のパラメータ領域の自己点火領域へ向けての方向性

図4.3.2.2-3 慣性核融合方式での様々なシナリオにおいて必要とされるレーザーエネルギーとターゲット利得

図4.3.2.3-1 タンデムミラー方式のGamma10装置構成と、磁場・電位の軸方向分布

図4.3.2.4-1 国内外のRFP装置と将来計画の装置サイズ・プラズマ電流

図4.3.2.4-2 RFPプラズマのプラズマ性能(密度と閉じ込め時間の積)のプラズマ電流依存性

図4.3.2.5-1 STの磁力線とトカマクやCTの磁力線構造の比較

図4.3.2.5-2 START装置(STプラズマ)で実験的に達成されたベータ値と既存トカマクでの値との比較

4.3.3 材料・炉工学の基礎研究
4.3.3.1 はじめに
 実験炉や原型炉を目標とした材料開発の戦略については第3.3.2節に、また、炉工学技術の開発戦略については第3.2節に記載した。ここでは、これらの基礎的・学術的側面を記述する。
 核融合炉工学は、炉内材料工学、構造材料工学、ブランケット工学、トリチウム理工学、超伝導マグネット工学、電磁構造工学、トリチウム生物影響学、熱構造工学、炉設計工学、システム安全性工学、中性子工学、慣性核融合の炉工学等の多岐にわたる分野から構成されている。平成3年度から7年度まで科研費総合研究として、「核融合の総合的体系化の推進」及び「核融合学の高度化とネットワーク化に関する総合的研究」が検討された。これらの活動をとおして核融合科学研究所・大学等のネットワークが整備され、核融合炉工学においては、炉システム安全性グループ、炉材料・燃料グループ、電磁・マグネットグループ及び慣性核融合の炉工学からなる組織の構造も提案された。これらの分野あるいはグループでは共同研究、情報交換等が進められ炉工学研究の推進に寄与している。例えば、炉材料の分野では、原子炉照射等を利用した共同研究を通じてネットワーク化が強化され、研究課題の設定、共通試料の作製やデータベースの構築がなされている。
 炉工学の課題等の検討はまた、日本学術会議の活動においても行われている。第16期核融合研究連絡委員会では、核融合炉工学小委員会の検討をもとに、「核融合炉工学における共同研究拠点の整備について」と題する報告(平成8年6月)において、炉工学における重要課題と拠点整備について提言している。第17期核科学総合研究連絡委員会・核融合専門委員会の活動においては、核融合炉工学小委員会のもとで「核融合炉工学の再構築と体系化」について検討され、今後の炉工学に関する基礎研究の進め方に関する提言が学術会議の対外報告としてとりまとめられようとしている。
 このように炉工学の各研究分野においては大学等の特徴を生かした基礎的研究が進められているが、これらの研究活動は、実験炉計画の炉工学基盤を支えると共に、長期的な核融合炉開発課題の解決や、広範囲な分野にわたる人材の継続的育成に寄与するものである。以下では、まずネットワークを通じて取り組まれてきた炉工学の重要課題についてまとめ、次に核融合炉材料の研究について具体例をあげて述べる。
 以下に各分野における炉工学の研究課題の例を資料[4.3.3-1]を参照して示す。

4.3.3.2 炉工学の研究課題
1) 炉内材料工学
高Z材料の照射を含む特性評価
ダイバータへの熱負荷低減法
ヘリウム灰除去と粒子バランスの研究
LHD、TRIAM-1Mなどを利用した対向機器の評価、コンディショニング、コーティング法の開発

2) 構造材料工学
先進的低放射化材料の開発と評価
原子炉照射試験法の高度化
材料挙動モデルの高度化
分子動力学法などのシミュレーション技術の開発
微小試験法の確立に向けた形状効果の基礎研究
変動複合環境照射効果
イオン・電子線照射による損傷基礎機構の研究

3) ブランケット工学
増殖材料の物理、化学、機械的データベースの評価と整備
ブランケットからのトリチウム移行機構
固体増殖材、増倍材の照射効果
液体増殖材用セラミックコーティング
溶融塩フリーベのブランケットシステムとしての有効性の検討

4) トリチウム理工学
トリチウム透過バリアーの開発と閉じ込めの高度化
トリチウム透過窓材と加工技術の開発
トリチウム汚染除去、廃棄物処理技術
トリチウム精製、分離、回収技術の高度化
トリチウムの乾式処理技術開発

5) 超伝導マグネット工学
高温超伝導体など高機能超伝導体の探求と実用化
超伝導体の電磁特性の改善と安定化
マグネットの安全性と保護
大型超伝導マグネットの構造力学的成立条件の探求
超伝導マグネットの冷却と伝熱
超伝導マグネット構成材料の耐放射線化

6) 電磁構造工学
電磁破壊現象に対する機器信頼性の向上
渦電流・電磁力解析による構造健全性の評価
電磁非破壊検査法の高度化
電磁構造連成現象の解明と設計への応用

7) トリチウム生物影響学
ドーム環境でのトリチウム動態研究
放射線障害修復機構の解明と応用
長期低レベルトリチウム曝露効果
環境トリチウムから人への影響評価の基礎研究

8) 熱構造工学
先進冷却方式による動力炉の成立性の研究
  (固体混相流、液体金属自由界面流、液体金属2相流 など)
先進高熱負荷システムの開発
先進熱流体システム開発への基礎技術
熱流動安全性とシステム設計

9) 炉設計工学
新概念導入による核融合概念の革新
各種炉概念における安全性・環境性の向上のための技術開発化の明確化
新技術応用による、各種炉設計概念での共通的な炉工学信頼性の向上
各種炉概念設計の経済性評価に関する共通評価方式の確立

10) システム安全性工学
核融合施設の安全確保に関る基本概念と指針の確立
核融合施設のシステム安全解析評価
工学的安全設備の開発研究

11) 中性子工学
14MeV以上のエネルギーを含む核データベースの整備・更新
核融合関連特殊目的ファイルの編纂
放射線輸送・核設計コード群の整備と改良
コードおよび計算機システムの遠隔利用
中性子照射施設の開発、設計、建設
核データ測定、核設計評価用ベンチマーク実験など中性子工学実験
照射実験技術、放射線計測手法の開発

12) 慣性核融合の炉工学
慣性核融合の炉工学においては上記1から11の課題に共通する分野と、以下のような固有の炉工学分野がある:
高出力、高効率、長寿命ドライバーの開発と相互比較
ペレットの高精度製造技術および高速高精度入射技術開発
液体金属壁、ビームポートなどの炉チャンバー設計
慣性核融合炉システム・安全性研究

4.3.3.3 核融合炉材料の研究
 前述した諸課題のうちで、核融合炉材料の研究は、どの閉じ込め方式にも共通しかつ開発に長期を要する。特に構造材料の重照射効果を含む研究は、基礎的機構の解明を踏まえて進めるという大学の研究の特色を生かして継続して計画的に進められてきた。大学における核融合炉材料研究は科研費・核融合特別研究により本格的に始められ,広範な分野で各種材料や基本的現象について基礎的理解など大きな成果が得られた。これらは、人材の育成にも極めて有効であった。
 その後の研究は日米協力事業・核融合分野の共同プロジェクトを基軸として、東北大学金属材料研究所材料試験炉利用施設を利用した共同利用研究や各大学の講座単位の研究と連携ながら実施されてきた。
 日米協力事業のRTNS−II 計画は第1期の核融合炉材料照射研究として位置づけられ,米国の回転ターゲット型D-T中性子源を利用して、一連の純金属やモデル合金について極低温から高温まで系統的な照射温度依存性を調べ、低照射量領域の欠陥組織の発達や照射硬化における核融合・核分裂中性子相関の解明など照射損傷の基礎研究で成果をあげた。また核融合中性子による機能材料の特性変化についても貴重なデータを得た。
 引き続き行われた第2期核融合材料照射研究に相当する日米協力事業FFTF/MOTA計画は、主として高速中性子試験施設を利用して各種構造材料およびセラミックス材料の高温における重照射領域での系統的な機械的特性と微視的組織発達および各種手法によるヘリウム効果を明らかにすべく実施された。具体的には、低放射化構造材料およびバナジウム基合金の重照射領域でのスウェリングと機械的性質に及ぼす合金元素と析出物形成の影響の解明、金属材料における動的ヘリウム添加法や核変換法によるはじき出し損傷とヘリウム同時効果の実験法の確立、セラミックス系複合材料や金属・セラミックス接合材料の照射効果に関する新しい知見の整理などが行われた(資料[4.3.3-2])。
 第3期核融合材料照射研究に相当するJUPITER計画においては主として高中性子束同位体炉を利用して特に力学特性や輸送現象における累積効果に加え動的効果の重要性や、実機で生ずる変動・複合効果の重要性に着目して研究が進められており、セラミックスにおける中性子重照射下での電気伝導率や熱伝導率の変化を実測を行うとともに、低放射化構造材料の主要な候補材料について照射中の温度変動サイクルの影響の解明を行っている(資料[4.3.3-3])。
 核融合材料単体の照射効果の解明を主眼とした研究はこれらの3期に渡る日米協力事業で当初の目的を達成し、炉工学の他分野との協力により先進ブランケットを目指した材料システムに関する統合研究へと発展する予定である。

参考文献

[4.3.3-1] 科研費総合研究(A)「核融合学の高度化とネットワーク化に関する総合的研究」炉工分科会最終報告書、平成8年5月
[4.3.3-2] 「核融合実用炉を目指した材料開発の現状」日米科学技術協力・FFTF/MOTA照射研究成果、1993年5月、核融合科学研究所
[4.3.3-3]「核融合材料の照射下動的挙動と変動・複合環境効果」日米科学技術協力・JUPITER計画中間成果報告、1997年12月、核融合科学研究所