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時の話題

放射線照射によるウィンナーソーセージ及び
水産ねり製品の殺菌に関する研究成果報告書について

原子力局技術振興課



1 概要
 原子力委員会が定めた「食品照射研究開発基本計画」に基づき原子力局に設置された「食品照射研究運営会議」により、昨年12月、「放射線照射によるウィンナーソーセージの殺菌に関する研究」及び「放射線照射による水産ねり製品の殺菌に関する研究」の成果がとりまとめられ、昨年12月24日に原子力委員会へ報告された後公表された。

2 経緯
 食品照射研究開発は、食品の損失防止、流通の安定化等国民の食生活の合理化に寄与するところが大きいとして、昭和42年原子力委員会が原子力特定総合研究に指定し、同時に定められた「食品照射研究開発基本計画」に基づき、食品照射研究運営会議(主査:藤巻正生お茶の水女子大学長)による研究計画等の調整の下に、馬鈴薯、玉ねぎ、米、小麦、ウィンナーソーセージ、水産ねり製品及びみかんの7品目を対象に、放射線照射による発芽防止、殺虫又は殺菌を目的として、昭和42年度から昭和56年度まで研究開発が実施された。

 本研究開発の成果としては、昭和46年に馬鈴薯、昭和55年に玉ねぎ、昭和58年に米及び小麦について、それぞれ研究成果報告書がとりまとめられ、公表されており、このうち、馬鈴薯については、この研究開発の成果を基に、昭和47年に食品衛生法に基づく規格基準が改正され、北海道士幌町農業協同組合において実用照射が行われているところである。

 このたび成果がとりまとめられたウィンナーソーセージ及び水産ねり製品の放射線による殺菌の研究は、ウィンナーソーセージについては昭和43年度に、水産ねり製品については昭和44年度に開始され、両品目共に昭和55年度に終了した。

 なお、既に報告書がとりまとめられた6品目の研究成果の概要は別表のとおりであり、みかんの研究成果についても現在とりまとめが進められているところである。

3 ウィンナーソーセージ及び水産ねり製品の成果
報告書の概要
(1)ウィンナーソーセージ
 ア 照射の目的
 放射線照射によるウィンナーソーセージの殺菌、貯蔵期間の延長

 イ 研究の実施分担
 (ア)照射効果に関する研究
 農水省畜産試験場、原研高崎研究所、(社)日本アイソトープ協会、厚生省国立予防衛生研究所
 (イ)健全性に関する研究
 厚生省国立栄養研究所、同国立衛生試験所、(財)食品薬品安全センター

 ウ 研究成果の概要
 (ア)照射効果
 酸素透過性の小さい包装材料で窒素ガス封入後、放射線(γ線)を300〜500krad照射して、10℃程度の温度下で貯蔵することにより、貯蔵期間を3〜5倍(3日程度→9日〜2週間程度)延長することができる。
 (イ)健全性
 小動物(マウス、ラット)等を用いた栄養試験、慢性毒性試験、世代試験、各種の変異原性試験等を行った結果、放射線照射によると思われる影響は認められなかった。

(2)水産ねり製品
 ア 照射の目的
 放射線照射による水産ねり製品(カマボコ類)の殺菌、貯蔵期間の延長

 イ 研究の実施分担
 (ア)照射効果に関する研究
 農水省東海区水産研究所、原研高崎研究所、(社)日本アイソトープ協会、厚生省国立予防衛生研究所
 (イ)健全性に関する研究
 厚生省国立栄養研究所、同国立衛生試験所、(財)食品薬品安全センター

 ウ 研究成果の概要
 (ア)照射効果
 300krad程度の放射線(γ線)を照射した後に10℃程度の温度下で貯蔵することにより、貯蔵期間を2〜3倍(蒸し板かまぼこ:10日程度→20日程度、ケーシング詰かまぼこ:35日以内→100日程度等)延長することができる。
 (イ)健全性
 小動物(マウス、ラット)を用いた栄養試験、慢性毒性試験、世代試験、各種の変異原性試験等を行った結果、放射線照射によると思われる影響は認められなかった。

4 食品照射の国際的動向と我が国における研究開発の成果の今後の活用について
 我が国で進められた食品照射研究開発では、先に記したように研究開発品目である馬鈴薯等7品目のうち6品目について成果報告書がとりまとめられ、残るみかんについても現在とりまとめが進められている。

 一方海外においては、1980年に「照射食品の健全性に関するFAO/IAEA/WHO専門家委員会」が「1Mrad(1,000Krad)以下の実質平均線量で食品を照射する場合の食品の健全性については、問題とすべき点はない。」旨の結論を出しており、また、FAO/WHO食品規格委員会は、この結論を照射食品規格の基準として1983年に承認し、加盟各国に対し、国内法への取込みを勧告中である。

 また、米国食品医薬品局(FDA)は、1984年2月、100Krad以下で果実・野菜等に放射線を照射することを提案し、昨年12月12日米国厚生省長官がこの新規則に署名し、近日中に公表される見込みである。更に、東南アジア諸国では、IAEAのRCAプロジェクトの一環として食品照射研究が進められている。

 このように、食品照射に関する海外の動向は、先進国、開発途上国を問わず活発化しており、我が国としても今後何らかの対応策を講じる必要に迫られることも考えられるが、その際、本研究開発の成果が、基礎的な科学的知見として大いに活用されることが望まれる。

(別表)我が国における食品照射研究開発の主な成果の概要(既報告分)



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