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第4回原子力平和利用国際会議に
原子力委員会論文を提出



日本における原子力開発の展望


原子力委員会


緒 言

 原子力委員会は、1967年4月、わが国の原子力平和利用についての長期計画を策定した。この計画は、1985年度までにおよぶ原子力平和利用の諸分野における将来の姿を展望しつつ、特に1967年度から始まる約10年間について、各分野における原子力開発利用の推進方策および重点施策を明らかにしたものである。

 1967年の長期計画策定以降のわが国の経済成長には著しいものがあり、エネルギー需要も大幅な増加を示している。このエネルギー供給をになってきた化石燃料は大気汚染防止問題、原油の国際価格上昇問題等のため、使用が抑制され、従来からエネルギーの安定供給源として期待されていた原子力の役割が一段と高まりつつある。このような新しい情勢の進展に即応して、原子力開発利用の促進をはかるべく、原子力委員会では、1971年中に現在の長期計画を改訂する方針であるが、すでに政府による1980年度までの電源開発長期目標および日本原子力産業会議による2,000年までの原子力発電の開発を中心とした原子力産業の長期見通しなどが作成され、エネルギー供給における原子力発電の役割が急速に増大する傾向が期待されている。

 このような情勢のため、核燃料の確保、動力炉の開発、環境保全等がより緊要な問題となりつつあるので、これらについての対策を中心にのべることとする。


Ⅰ 原子力開発利用の展望



(1) エネルギー需給の長期の見通し

 「原子力開発利用長期計画」の策定のもととなった「経済社会発展計画」は、1967年に政府により定められた。この計画は、わが国経済の安定成長を経済運営の指針とするもので、国民総生産(GNP)の伸びを年率8.2%としている。この計画によると総エネルギー需要は、1970年に1967年の1.3倍、1975年に1967年の1.8倍そして1985年に1967年の3.2倍と見込んでいる。
 新経済社会発展計画にもとづいた「総合エネルギー調査会」(通産大臣の諮問機関)の最近(1970年)の予想では、国民総生産(GNP)の伸び率を1969~1975年度間は10.6%、1976~1985年度間は8.5~9.5%としている。これによると、1975年の総エネルギー需要は1967年の2.5倍、1985年では1967年の5.4~6.0倍に達するものとされている。(第1表参照)
 このうち電力需要の伸び率は著しく、わが国の産業構造の高度化および国民生活レベルの向上にともなう電力需要の旺盛さを示している。

第1表 エネルギー需要見通し 




(2) 原子力発電の進展

 原子力発電がになう将来におけるエネルギー供給上の重要な役割を考慮して、1967年の長期計画では、1985年度における発電規模を3,000~4,000万kWと見込んでいる。
 1971年3月末現在、わが国の商業用発電炉で運転開始しているものに東海炉(16.6万kW)、敦賀炉(35.7万kW)、福島1号炉(46.0万kW)、美浜1号炉(34.0万kW)の計4基(132.3万kW)がある。このほか建設中のもの9基(580.3万kW)があり、計画テンポを上回って開発が進められつつある。一方、1970年には政府による1980年度までの電源開発長期目標が作成されたが、この目標では、1980年度における原子力発電設備容量を約2,700万kWと想定している。また、日本原子力産業会議においても、2,000年までの原子力発電開発の長期見通しを作成し、1990年度までに11,000万kW、2,000年度までに22,000万kWと莫大な開発規模を想定している。次にこれらの長期見通しの概要を紹介する。

(イ) 政府による電源開発長期目標

 1970年5月、政府が国民経済指標としてのGNPの実質伸び率に主として着目し、1970~1980年度までの経済社会の長期見通しを行ない、電源別の電力供給構成の見通しのなかで原子力発電の役割が急速に増大する傾向を見通している。すなわち、1980年度の電力需要は8,200億kWhと想定している。
 この需要に対応して良質かつ安定した電力供給を行なうため、水力、火力、原子力の各種の電源を総合的経済的に運用するとともに、電気事業の広域運営をさらに積極的に推進することにより、全体として8~10%の供給予備力を保有することを目標とした。
 その結果、1980年度末の発電設備は、水力約3,300万kW(20%)、火力約10,100万kW(63%)、原子力約2,700万kW(17%)の合計16,100万kWとなっている。(第2表参照)

第2表 政府の電源開発長期目標による発電設備 



(ロ) 日本原子力産業会議による2000年までの原子力発電開発の長期見通し

 昭和50年度までの新経済社会発展計画は、年率10.6%の経済成長率を予想しているが、本長期見通しでは、GNPの伸び率を1969~1980年間は9.9%、1980~1990年間は7.6%、1990~2000年間は4.8%と逐次低下方向で推移するものとみている。
 将来の電力需要の大部分を占める九電力会社需要に対する発電設備としては、1990年2億8,600万kW程度、2000年度4億4,000万kW程度が必要となる。(第3表参照)これは1969年度末設備約5,000万kWに対し、それぞれ6倍、9倍に達する規模であり、将来ますます原子力発電の役割が増大する傾向を見通している。
 このような電源開発規模のなかで、毎年の水力、火力、原子力設備を想定し、負荷曲線のなかにおけるこれらの稼動状況を検討した結果、発電設備全体に対する原子力設備の比率を、1990年度で約40%、2000年度で50%と見込んでいる。

第3表 日本原子力産業会議の長期計画による発電設備規模



 しかしながら、このようなエネルギー需要の増加に対し、大気汚染などの産業公害問題および原油の長距離輸送にともなう供給面でのネックなどエネルギー需要の増加傾向を抑制する諸要因が逐次発生しており、また、わが国の産業構造が非エネルギー集約産業へ移行することを考えると、総合エネルギー調査会の想定ほどには、エネルギー需要は増大しないかもしれないが、原子力によるエネルギー供給量は、総合エネルギー調査会の見通しを下らないものと考えられる。
 原子力発電は、供給の安定性、燃料輸送および備蓄が容易であるなどの理由から、わが国経済の成長を支えるエネルギー供給の有力な担い手となるものとしてその実用化が着実に進められている。


(3) 核燃料確保

 最近の原子力発電所の急速な建設状況から、U3O8の累積所要量は、1975年度までに約1万8,000トン、1985年度まで約12万トンに達し、さらに1990年度までに約17~20万トンと大幅に増加する見込みである。
 国内において動力炉・核燃料開発事業団は10年あまりの探査の結果、人形峠、東濃地区などにおいて約8,000トンU3O8を発見しているにすぎない。
 わが国においてウラン資源の確保は重要な問題であり、長期にわたって、その安定供給をはかる見地から、ウラン資源の相当程度を開発輸入方法で民間企業によって確保することとしている。その好例としては、鉱山業界、電力業界等の民間企業によって、海外ウラン資源開発(株)が設立され、ニジェール政府、フランス原子力庁と共同してニジェールのウラン資源の開発が進められている。
 民間による探鉱開発を補充するため、政府は動力炉・核燃料開発事業団等の政府機関をして、開発のための基礎調査を世界各国の有望地域についてなさしめ、民間企業の進出を容易ならしめるよう推進している。
 わが国の原子力発電に必要な濃縮ウラン所要量は、最近の原子力発電所の急速な建設状況から、1980年度で約5,000トンSWU、1985年度で約9,000トンSWUと急激に増加すると予想されている。このような大量の濃縮ウランを、米国だけにその供給源を依存することは、核燃料の安定供給面で望ましいことではない。
 このような観点から、原子力委員会は、1969年8月ウラン濃縮の研究開発の重要性にかんがみ、原子力特定総合研究として現在すすめている遠心分離法とガス拡散法について、1972年までの第1段階において、濃縮に関する技術的諸問題の解明の見通しを得ることを目標として、研究開発を積極的におし進めている。
 さらに、原子力委員会は、濃縮ウランに対する海外の動向、国際協力の推進方策を通じてわが国の濃縮ウランの長期的安定確保対策などについて検討をかさねている。
 核エネルギーの有効利用をはかるため、新型転換炉、高速増殖炉の早期実用化を促進するとともに、核燃料加工事業の育成、再処理体制の整備、使用済燃料から取り出されるプルトニウムの核燃料としての利用の促進等、わが国に適した核燃料サイクルの確立を推進している。
 動力炉・核燃料開発事業団による使用済燃料再処理工場は処理能力210トン(ウラン)/年で、1974年度の操業開始を目途に、1971年に茨城県東海村において建設に着手した。また核燃料加工事業については、すでに工場が稼動しており、この分野での産業化の進展が著しい。


(4) 動力炉開発

 わが国の原子力発電を、軽水炉のみに長期にわたり依存することは、将来におけるわが国の核燃料の安定供給およびその有効利用をはかるうえに必らずしも望ましいことではない。原子力発電の推進にあたっては、資源に乏しいわが国としては、原子力発電の有利性を最高限に発揮するために適切な動力炉を自主的に開発することが、エネルギー政策における重要課題である。
 高速増殖炉および新型転換炉(重水減速炉)をわが国において自主的に開発することとし、これを、「国のプロジェクト」として、動力炉・核燃料開発事業団を中核にして、日本原子力研究所あるいは民間の協力のもとに強力に推進しつつある。
 高速増殖炉の開発については、1980年代後半に実用化することを目標として、高速実験炉「常陽」の建設が開始され、1974年に臨界に達せしめるとともに、高速原型炉「もんじゅ」についても設計研究を進めている。
 また、新型転換炉については、1970年代の後半の実用化を目標として原型炉「ふげん」の建設を1971年度から着手し、1975年に臨界に至らしめる運びとなっている。


(5) 原子力船の開発

 わが国の原子力船に関する技術水準を向上するため、原子力第一船「むつ」は実験船として国内技術によって建設することとし、日本原子力船開発事業団が「原子力第一船開発基本計画」にもとづき、その推進をはかってきた。
 1970年7月船体ぎ装工事を完了し、青森県むつ市の定係港に回航した。現在、そこで原子炉ぎ装を行なっており、以後引きつづき燃料装荷、出力上昇試験等、順次行ない、1973年3月に完成の見込みである。
 なお、第2船については、その建造運航を民間に期待しているが、国は経済的舶用炉の開発について適切な助成案を講ずることとしている。
 一方、原子力船の進水および外国原子力船の入港等に対処して、原子力損害賠償制度を改善した。


(6) 放射線利用の促進

 放射線利用については、短寿命核種および標識化合物の国産化がすすめられる一方、放射線測定器、粒子加速器などの関連機器の発展とも相まって、大量照射の技術や放射化分析の技術が確立されつつある。
 原子力委員会が、1967年度に原子力特定総合研究に指定して推進している食品照射については、従来の馬鈴薯、玉ねぎ、米などの照射試験のほか、1969年度においては、小麦、水産ねり製品について、その保存性向上のための照射試験が行なわれ、それぞれ良好な成績を収めている。このうち馬鈴薯の発芽防止について近く、その実用化が計画されている。
 一方、放射線化学においては、日本原子力研究所高崎研究所が中心となり、繊維の放射線グラフト重合、エチレンの放射線気相重合、トリオキサンの放射性固相重合等が有望なプロセスとして工業化への研究開発を推進している。


(7) 核融合の研究および原子炉の多目的利用

 将来、わが国のエネルギー源として期待される核融合の研究については、プラズマ物理に関する基礎的な研究の充実をはかるとともに、制御された核融合の実現を目的とする第一段階の研究開発を、原子力特定総合研究に指定し、その研究を推進している。
 1969年度には、日本原子力研究所で、低ベータ軸対称トーラス磁場装置(JFT-1)を用いて、プラズマの安定保持に明るい見通しを得たほか、プラズマ電流軸対称トーラス磁場装置(JFT-2)の建設を進めている。このほか、通産省電子技術総合研究所においても、大型テーターピンチ装置による高ベータープラズマの研究が進められた。さらに、プラズマに関して理化学研究所においては関連技術の研究が、また大学においては基礎研究がそれぞれすすめられている。
 一方、原子炉の多目的利用についても、最近、核エネルギーの製鉄への利用について鉄鋼業界等から要望の強まっている状況にかんがみ、原子力委員会は当面、製鉄に直接利用可能な冷却材温度(約1,000℃)が得られる高温ガス炉の技術的実現性についての見通しを得るため、日本原子力研究所において、研究開発をすすめている。


(8) 安全対策

 原子力開発利用における原子炉の安全対策については、実証的な安全研究を強力にすすめるとともに、より具体的、合理的な安全基準の改善整備をはかり、厳密な炉の安全審査を行なう等、原子力の実用化に対応した安全対策の確立をはかっている。
 一方、環境放射能対策については、放射能水準の把握に関して全国的に幅広い調査を実施しているとともに、海産生物に対する影響等の調査研究を進めている。さらに、放射線の影響に関する研究をすすめており、低線量域の影響についても研究を強力に推進する予定である。
 また、放射性廃棄物の処理、処分に関する調査研究は、従来から、日本原子力研究所、民間等において実施しているが、今後、かなりの量の放射性廃棄物が発生するので、専門家からなる検討会において処理・処分の具体的方法等について検討を進めているところである。


(9) 人材養成の充実

 原子力開発利用を推進するためには、ほとんどあらゆる専門分野にわたる科学技術者の養成を適切に行なうことが不可欠の要件である。このため、大学および再教育、または高度の養成訓練を行なう機関について整備拡充を推進しつつある。
 1965年度における原子力関係科学技術者の総数は約10,000人、1969年度は約14,000人であったが、将来における原子力開発の見とおし、放射線利用の進展等から、現在の長期計画では、1975年度においては約27,000から29,000人程度が必要であると思われる。
 このように、原子力に関する科学技術者の需要は、大幅に増加するものと推定されるので、最も重要な役割を果す大学においては、原子力関係および関連する講座、学科等の増設、増員をはかるとともに、教育、研究施設の大幅な拡充を推進している。また、原子力関係技術者の養成訓練は、日本原子力研究所、放射線医学総合研究所などにより、海外技術者も含め研修が積極的に推進されている。


Ⅱ  原子力開発利用をめぐる将来の課題


 わが国が将来、尨大な量のウラン資源および濃縮ウランを安定して確保するためには、自主的な核燃料サイクルを確立することが急務である。
 とくに、ウラン資源の安定確保については、海外から長期買入契約による輸入を図るとともに、海外ウラン資源の開発輸入に期待しなければならない。このうち後者についてかなり高い比重をかける必要があると考えられるが、開発のためのリスクが大きいので、政府としても産業界の活動を支援、補完するため積極的な対策を講じることとしている。
 また、核燃料サイクルの軸となるウラン濃縮の開発は、予想以上に急速な勢で拡大しつつある原子力発電の情勢にかんがみ、その方針の確定を迫られている重要課題である。現在、濃縮ウラン供給についての国際情勢はきわめて流動的で、わが国においては濃縮ウランの安定確保方策をたてるため、広く国際的視野に立っての判断が必要であると考える。とくに、世界の需給見通しより、米国およびヨーロッパ諸国におけるウラン濃縮工場の新設計画には相当の関心を払ってはいるが、いずれにしても、わが国としてもウラン濃縮技術の開発はこれまで以上に積極的に推進する考えである。
 国土が狭く、人口密度が高い、わが国においては、一般に広大な敷地を確保することは、きわめて困難である。これに加え、わが国では、原子力施設の安全性に対する不安感や、火力および原子力発電所からの温排水による沿岸漁場の維持確保に対する不安感が強く、立地問題を一層困難なものとしている。
 このような条件を克服して、原子力の開発利用を円滑に推進するためには、原子力施設の安全性について、国民一般に正確な知識を持たせるための啓蒙、啓発活動を強化するとともに、環境放射能の監視、評価体制をさらに充実したいと考えている。
 また、原子力発電所および使用済燃料再処理プラント等から発生するかなりの量の放射性廃棄物の処理・処分も重大な問題である。
 高レベルの廃棄物については、陸上での長期貯蔵によらざるを得ないと考えているが、廃棄物の大部分を占める低中レベルの個体廃棄物の処理処分については、これを陸上保管によるべきか、海洋投棄によるべきかについて国より異なった条件もあるが、海洋投棄については、国際機関等において国際的な問題として解決されるべきものと考える。わが国としては、海洋投棄の安全性の確保に必要な技術開発を強力に推進している。
 なお、原子力開発利用について最後に附言したいことは、IAEAの保障措置に関する問題である。
 わが国としては1971年2月、IAEA保障措置委員会が決定した方向に沿って可能な限り合理化、簡素化すべきであると考えている。このためには、とくに同委員会が決定したように、各国の国内保障措置制度をできるだけ有効に利用することが肝要である。わが国としては、原子炉等規制法等にもとずく国内の保障措置制度の整備充実を図るとともに、保障措置に必要な技術開発を行なってIAEAの保障措置の新しい方向に対処することとしている。
 以上の原子力開発利用をめぐる将来の課題は、いずれも一国のみの力では円滑に解決してゆけるものではなく、国際的な協力が是非とも必要であるとの認識にたち、わが国としては、今後、従来以上に積極的に国際協力を推進する考えである。


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