(1)日本原子力研究所等における基礎研究
我が国原子力研究の中心機関である日本原子力研究所は,核融合炉,多目的高温ガス炉等プロジェクト研究開発を強力に推進する一方,関連機関との有機的連携のもとに,基礎的研究基盤の拡充強化を図ってきた。
まず,物理,化学の分野では,20MVタンデム・バンデグラフ加速器の設計に着手したほか,崩壊熱核データ測定のための装置の整備,荷電粒子を用いた物性の研究,放射線核種の化学的挙動の研究,放射線下の化学反応研究等を進めた。
炉工学の分野では,半均質臨界実験装置(SHE)による高温黒鉛集合体の研究,高温用核分裂計数管の開発試験,ハイブリッド計算機による制御システムの研究等を実施するとともに,軽水臨界実験装置(TCA)によるプルトニウムの熱中性子利用に関する炉物理実験等を行った。
研究炉施設に関しては,JRR-2は原子炉本体改修工事を終了して運転準備を行い,サイクル運転を行っているJRR-3は7サイクル運転後定期自主検査に入った。JRR-4は予定どおり順調な運転を行って原子力船「むつ」遮蔽改修のためのモックアップ実験を開始,一部の実験を終了してその解析に着手した。材料試験炉(JMTR)についても予定どおり順調な運転を行い,燃料・材料照射等に貢献した。動力試験炉(JPDR)は配管クラック等の補修を終了し総点検を行い,昭和50年6月末に臨界に達した。引き続き各種特性試験を行い,本年1月より75%の出力上昇試験を開始した。
燃料工学の分野に関しては,ガス拡散法によるウラン濃縮研究では六フッ化ウラン循環ループの解体・撤去,内部検査を終了し,基礎技術上の研究課題をほぼ解明して研究を終了した。乾湿再処理に関する研究では,高速炉燃料,高温ガス炉燃料の再処理について基礎研究を継続実施した。
原子炉の安全性研究では,冷却材喪失事故試験装置(ROSA)による放出実験を行い,頂部注入系について実験準備を進めた。事故時再冠水に関する研究では,基礎実験を行う一方,大型再冠水効果実証試験装置の検討を行った。
反応度事故に関する研究では,昭和50年6月原子炉安全性研究炉(NSRR)の臨界を達成し,所期のパルス性能を確認した後,燃料の破壊実験を開始した。
安全性コードの整備・開発については,燃料ぺレットの焼しまり効果を考慮した計算コードを開発するとともに,原子炉事故に関する安全解析コードとしてBWR用の緊急炉心冷却系評価コードシステムの開発に着手したほか,米国原子力規制委員会(NRC)から導入した規制用コードの変換・整備を行い,性能評価計算等を実施した。また,商用軽水型発電炉の使用済燃料の総合的な試験を行うための実用燃料照射後試験施設を昭和50年6月に着工,内装機器の検討・設計を行った。
放射性廃棄物処理処分法の研究では,低レベルセメント固化体の耐圧試験,浸出試験を実施するとともに,中高レベル廃棄物の固化法の試験等を実施した。
保健物理の分野では,環境ガンマ線線量測定器の開発,ガンマ線スカイシャインによる被ばく線量評価コードの開発等を行った。
その他,原子炉燃料及び材料の研究,原子炉計測・制御に関する研究,原子力コード及び核データの整備等関連する基礎的な研究を継続実施した。
また,放射線医学総合研究所では,放射線の人体への影響研究等が,また,電子技術総合研究所ではプラズマ閉込めの研究等が行われており,理化学研究所においては,レーザー(による同位体分離,原子核物理の実験研究等が行われている。
なお,大学関係では,京都大学原子炉実験所及び原子エネルギー研究所,東京工業大学原子炉工学研究所,東京大学原子力工学研究施設,東北大学金属材料研究所付属材料試験炉利用施設等において基礎研究が推進されている。
(2)研究用原子炉の利用状況
我が国の,研究用原子炉は,本年4月1日現在7高速実験炉及び新型転換炉を除いて,12基に達しており),このうち,6基が,日本原子力研究所所有のものであり,他の5基が大学所有,1基が民間企業所有のものである。
日本原子力研究所の6基の原子炉のうち,比較的早く完成したJRR-2,JRR-3,JRR-4は,原子力一般研究,材料照射試験,ラジオアイソトープの生産等に用いられており,JPDRは燃料照射試験及び動力炉に関する各種試験を行うことを目的としている。
また,材料試験炉(JMTR)では,材料照射,放射性同位元素の生産が行われており,昭和50年6月に臨界に達した。原子炉安全性研究炉(NSR R)では,反応度実験等,原子炉の工学的安全研究を行っている。
大学に設置されている5基の研究炉は, 一般研究及び教育訓練用に用いられている。これらのうち,最も代表的な研究炉である京大炉は,設置して以来すでに12年近くを経過して老朽化がすすんでいるとともに,新たな研究ニーズに応えられるよう新しい研究炉の建設につき検討ずる必要が生じてきている。
研究用原子炉の故障について,昭和50年度中の原子炉等規制法に基づく報告は4件あり,いずれも人の被ばく及び周辺環境に影響を及ぼすものではなかった。それらの概要は次のとおりである。
① 昭和50年10月,日本原子力研究所東海研究所のJRR-3において燃料体交換のため取り出した燃料体を点検した結果,冷却管下部の折損が確認された。また炉内調査によって,炉心部に折損脱落部の残存が判明した。
残存物を取り出すとともに炉心内部及び新装荷燃料体の健全性について確認したところ特別な異常は認められなかった。折損の原因は燃料体の着座不良によるものと判明した。この故障による環境への影響はなかった。
② 昭和50年11月,日本原子力研究所東海研究所JRR-2においてポンプ室の重水漏洩検知器が作動して警報を発したことから点検を行った結果,重水ダンプ配管に沿って漏水が認められたために原子炉を停止した。詳細調査の結果,漏水は熱遮蔽系の軽水であることが判明した。ポンプ室の床及び空気の放射性物質による汚染,人の被ばく及び漏水による機器への影響はなかった。原因は軽水管周囲の充填機に水分が寄与し,軽水管に腐食孔が生じたためであり,補修措置を講じた。
③ 本年1月,日本原子力研究所東海研究所JPDRのタービンバイパスバルブ制御系のサーボバルブ内蔵フィルタの目詰まりによって,タービンバイパス弁が誤動作し弁が全開したため原子炉は過渡状態になり停止した。
この故障による人の被ばく,環境への汚染及び他機器等への影響はなく,不良機器を交換するとともにフィルター部の警報装置を設置し,本年2月に運転を再開した。
④ 本年3月,日本原子力研究所東海研究所のJPDRにおいて定期点検の際ダンプコンデンサ内部の点検を実施したところ内部の減温管及び過熱戻しスプレー管の一部に損傷が発見された。損傷による原子炉及びその他の機器への影響並びに放射性物質の漏洩はなかった。
原因はくり返し応力による疲労破壊とみられるが,究明中である。
原子炉研究のための臨界実験装置は,日本原子力研究所に4基,動力炉・核燃料開発事業団に1基,京都大学に1基,民間に1基あり,臨界実験,原子炉特性研究等を行っている。
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