原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画
   
昭和47年
原子力委員会
 
目  次
 

まえがき

 第1部 総論

  第1章 原子力開発利用の基本的考え方

   1 研究開発の基本方針

   2 利用の基本方針

  第2章 原子力開発利用のすすめ方

   1 原子力発電および動力炉開発

   2 核燃料

   3 環境・安全対策

   4 原子力船

   5 原子炉多目的利用

   6 核融合

   7 放射線利用

  第3章 関連重要施策

   1 基礎研究の充実

   2 科学技術者の養成

   3 科学技術情報の交流

   4 国際協力

   5 保障措置

   6 原子力知識の普及啓発

   7 原子力産業

 第2部 各論

  第1章 原子力発電

   1.原子力発電の必要性

   2.原子力発電の技術進歩と経済性の見とおし

   3.原子力発電の開発規模の見とおし

   4.原子力発電のすすめ方

  第2章 動力炉開発

   1.動力炉開発の方針

   2.新型転換炉の開発

   3.新型転換炉の実用化

   4.高速増殖炉の開発

  第3章 核燃料

   1.基本的考え方

   2.ウラン資源の確保

   3.濃縮ウランの確保

   4.核燃料の加工

   5.使用済燃料の再処理

  第4章 安全対策

   1.安全対策に対する基本的考え方

   2.原子力施設の安全確保

   3.放射線管理および放射線防護

   4.研究開発

  第5章 環境保全

   1.環境保全への要請

   2.放射性廃棄物の処理処分

   3.原子力施設周辺の環境保全

  第6章 原子力船

   1.原子力船開発の意義

   2.原子力船の技術進歩の見とおし

   3.原子力船の実用化の見とおし

   4.原子力船の研究開発

  第7章 原子炉多目的利用

   1.エネルギー需要と原子力への期待

   2.原子炉多目的利用の目標

   3.原子炉多目的利用研究開発のすすめ方

  第8章 核融合

   1.核融合動力炉開発の意義

   2.開発の現状と見とおし

   3.研究開発推進の総合的方策

  第9章 放射線利用

   1.放射線利用への期待

   2.アイソトープの生産および供給

   3.放射線機器の開発

   4.各種放射線利用およびその推進方策

   5.各機関の役割

  第10章 基礎研究

   1.基礎研究の必要性

   2.各機関の役割

   3.基礎研究の促進方策

   4.基礎研究成果の具体化

  第11章 科学技術者の養成

   1.人材養成の必要性.

   2.必要とされる原子力関係科学技術者

   3.原子力関係科学技術者の所要数

   4.養成訓練対策

   5.海外との交流

  第12章 科学技術情報の交流

  第13章 国際協力

   1.経緯および現状

   2.今後の方向

  第14章 保障措置

   1.原子力平和利用と保障措置

   2.保障措置に対処する今後の方策


まえがき

 わが国には,現在すでに4か所の原子力発電所が運転中であるとともに,多数の原子力発電所が建設中であり,近い将来原子力発電は石油火力発電と競合しうるようになるものと考えられる。さらに,原子エネルギーの利用は発電以外の分野にも次第に拡大されており,放射線の利用も医学,工業,農業等の分野において,広範かつ多岐にわかつて行なわれているなど,原子力開発利用は今日その本格的実用化の段階を迎えている。
 このように原子力開発利用が急速に進展しえたのはわが国が当初たら原子力開発利用に関する基本的考え方を明確にし,研究開発を長期的観点から計画的に推進してきたことが大きくあずかつて力があったと考えられる。
 しかし,原子力のきわめて豊かな将来性に着目し,長期的な展望を行なうと,原子力の本格的利用は,ようやくその緒についたところであるにすぎないと考えられる。すなわち,わが国の自主技術開発力は,これまでの努力によつて次第に強化されてきてはいるが,欧米先進国に比して依然としてぜい弱であり,原子力産業基盤も近年著しく整備されてきたものの,いまだ充分に確立されているとはいいがたい状況にある。したがって,将来,さらに実りある原子力.開発利用を指向するためには,研究開発活動の一段の強化をはかることはもとより,原子力産業基盤の一層の充実を期することが必要である。とくに,技術開発の過程においては,研究開発段階から利用段階への結びつきをより緊密かつ円滑なものとするよう,特段の努力を傾注することが重要となっている。
 去る昭和42年4月に策定した原子力開発利用長期計画は,動力炉開発等の国家的目標を明らかにして,総合的な原子力開発利用の方向と,その実施方策を示し,今日の原子力開発利用の発展を導いたものであり,その基本的考え方の多くは依然として維持されるべきものである。しかし,同長期計画策定後における原子力開発利用をめぐる内外の情勢の変化は著しいものがあり,計画の内容に改訂を要する点が生じてきている。
 わが国のエネルギー供給を担っている在来化石燃料には,近年大気汚染,原油の国際価格上昇等の問題があり,将来とも化石燃料に全面的に依存するごとに不安があるのに対して,原子力発電は,経済性信頼性の著しい向上とともに,適切な管理のもとにきれいなエネルギーを供給できることから,原子力に対する要請は著しく増大している。このような情勢から昭和42年度の長期計画策定時に予想した以上に原子力発電所の建設をすすめることが要請されており,この量的拡大に伴って原子力施設の立地の確保,核燃料の安定確保,放射性廃棄物の処理処分等に関する問題を具体的に解決する必要性が増大してきている。
 また,最近,核融合炉,原子炉多目的利用等に関する研究開発をはじめとする新しい分野の研究開発の必要性が高まっているほか,新型転換炉,高速増殖炉,原子力船の開発等これまでに得られた研究成果のうえにたつて,今後の研究開発および利用の方針を明らかにする必要性が生じてきている。
 さらに,近年,わが国経済の急速な発展に伴う自然環境の破壊を防止し,快適な生活条件を確保しようとする気運がとみに高まってきており,原子力は従来からも,その安全性の確保および自然環境の保全に万全の配慮をはらつてきたところであるが,このような産業全般に対する国民的要請を厳粛に受けとめ,安全性の確保および環境の保全にさらに力を注ぎ,この面でわが国の産業界を先導しうるよう努力しつづけることがますます重要になつてきている。
 このほか,わが国の原子力開発利用を円滑かつ効率的に推進するために,多分野にわたる緊密な国際協力が不可欠になってきている。
 以上の観点から,原子力委員会は長期計画専門部会からの報告に基づいて,約20年間を展望し,今後約10年間における原子力開発利用の重点施策の大綱とその具体的推進計画を明らかにする新しい長期計画を策定した。本計画においては,各部門における諸施策の整合性を期したのはもとより,わが国の科学技術および経済社会における他の分野との調和を重視しつつ,可能な限り具体的施策を明確にするように努めた。しかし,原子力開発利用を長期的にみると,流動的な分野も多く,具体的な施策を充分に明示していない箇所も存している。これらの点については本計画の基本的な考え方に沿って,実施段階において,別途改めてその具体策を検討していくこととする。


第1部 総論

第1章 原子力開発利用の基本的考え方

 わが国の経済社会の健全な発展をはかり,国民福祉の向上をもたらすためには,エネルギーの安定,豊富かつ低廉な供給を確保することが不可欠なことである。原子力は,比較的少量の燃料により,豊富なエネルギーの供給が可能であることから,資源の輸送,備畜が容易であるなど,わが国の.将来におけるエネルギー供給の安定化をはかるうえに大きく貢献しうるものである。また,原子力は,今後の研究開発により,在来エネルギーに比較して,エネルギーコストを低減させる期待が大きく,同時に,生活環境の保全をはかるうえに必要なきれいなエネルギーを供給する可能性をもつものである。
 さらに,原子力の開発利用をすすめることは,今後わが国の科学技術水準の向上,産業構造の高度化等に多大な貢献を果たすことが期待される。
 わが国の原子力開発利用は,このような観点から,原子力基本法の精神に基づき,総合的かつ長期的な視点にたつて,計画的に推進されてきており,関係各界の努力たより今日その本格的実用化の段階を迎えている。このような時期にあたつて,政府はわが国の原子力開発利用の調和ある発展をはかり,広く国民の支持のもとに原子力開発利用がすすめられるよう,さらに一層の努力をはらうことが重要である。
 原子力開発利用をすすめるにあたつての理念は当初から一貫しており,何ら変わるもので(はないが,新たに長期計画を策定するに際し最近の情勢の進展を考慮して,ここに基本となる考え方を示せば,次のとおりである。
 第1に,わが国における原子力の開発利用は,平和の目的に徹してこれを推進すべきことである。
 原子力平和利用の理念は原子力基本法の制定以来一貫して維持してきたところであるが,今後とも厳密に平和の目的に徹してこれをすすめるものとする。
 第2に,原子力開発利用は,人間環境との調和をはかる立場にたつてこれをすすめるべきことである。
 そもそも原子力の開発利用は,国民福祉の向上に資することを目標に行なわれるものであり,安全性の確保,環境の保全を前提として,国民全体の利益を重視するとの見地からこれをすすめるべきである。
 第3に,原子力開発利用は,総合的かつ長期的観点から,これを計画的に推進すべきことである。
 原子力開発利用の分野は広範多岐にわたっており,その開発は規模が大きく,多額の資金と多数の人材を要するのみならず,その成果が現われるには長い年月を要するものである。とくに,原子力開発利用が研究開発の進展とともに,原子力発電にみられるような本格的な実用化へと歩をすすめつつある現時点においては,長期的視点にたって整合性のある施策が講ぜられることが必要である。
 このような観点から,わが国の原子力開発利用は,長期的な方向づけを明確化するとともに,限られた資金と人材を効果的かつ効率的に活用するため,総合的な見地から計画的にすすめることが必要である。
 第4に,原子力開発利用は,関係各界が協力して広く国民経済的視野のもとに,これを推進すべきことである。
 原子力の開発利用が実用化の段階に入りつつあることから,今後における原子力開発利用を自主的かつ計画的にすすめるうえに,民間企業の果たすべき役割が一層高まりつつあることは明らかである。
 同時に,原子力開発利用は,研究開発に多額の資金と多数の人材を要すること,国際的関連性が高いこと,安全確保の必要性があることなどから,政府の果たすべき役割はもとよりきわめて大きい。
 また,原子力の研究開発は未知の分野が多い先駆的な科学技術に関するものであるため,今後とも学界の広い分野における研究活動の成果が大いに期待されるところである。
 原子力開発利用(は長期的にはわが国産業経済全般のあり方に大きな影響を及ぼすものであり,しかも,現時点が原子力開発利用の産業化,実用化へ,の移行段階にあることにかんがみ,今後の原子力の開発利用にあたつては,国民全体の利益を重視するとの見地にたち,関係各界は,その役割の重大性を自覚し,協力してこれを推進すべきである。
 第5に,原子力開発利用は,国際協調の精神に基づいてこれを推進すべきことである。
 今日,原子力の本格的実用化の進展に伴い,濃縮ウランの供給確保など国際場裡で解決すべき諸課題が増加しつつあり,わが国の原子力開発利用の効率的推進をはかるためには緊密な国際協力が不可欠である。同時に,わが国の国際的地位の向上に伴う国際的役割の遂行,世界の科学技術水準の向上への貢献等を考慮すると,今後わが国の原子力開発利用は国際協調の精神に基づいてこれを推進することがきわめて重要である。
 このような考え方に基づいて,原子力の研究開発および利用に関してその基本方針を示せば,次のとおりである。

1 研究開発の基本方針

 科学技術の偉大な成果のひとつである原子力の開発利用は,広範かつ大規模な研究開発を通じて可能となったものであり,今後原子力における研究開発を強力に推進することによって,わが国の科学技術水準の向上,産業構造の高度化等に多大の貢献を果たしうるものと期待される。
 原子力開発利用は,今日一部で急速な実用化がすすめられているが,国家的見地から遂行されている開発課題については,目標達成のため,さらに一層の努力が必要であるとともに,豊かで高度な国民生活を築きあげる新しい課題や原子力利用の著しい進展に付随して要請される諸対策について,さらに積極的な研究開発が必要である。
 このような観点から,わが国における原子力の研究開発は,国情に即した原子力利用の達成のため,長期的かつ総合的視野のもとに,基礎研究から開発研究にわたる各分野で調和をとりつつ,効率的かつ重点的にすすめることが必要であり,次の方針のもとにすすめるものとする。
 第1に,原子力の研究開発にあたつては,わが国独自の技術の自主的な研究開発を強力に推進すべきことである。この場合,国際協力,による研究開発の効率性を勘案することも必要である。
 わが国の原子力開発利用は,諸外国に比し遅れて着手された事情もあって,今日まで,その技術基盤を確立するため,海外からの技術導入等によりその推進をはかつてきた。しかしながら技術導入のみに安易に頼ることは長期的にみた場合,わが国の原子力開発利用全般における自主性を損うおそれがある。このような状況に対処して,わが国独自の技術を確立し,原子力産業の自主性を確保することは,今日の緊急な課題であり,加えて,原子力開発が広い分野における科学技術水準の向上と産業基盤の強化に資し,産業構造の高度化の支柱となることを考えれば,将来の国民福祉の向上に多大な影響を及ぼす分野における中核となる技術については,とくに自主的にその開発が行なわれることが望ましい。
 他方,国際協力に伴う研究開発の効率性についても考慮する必要があり,このため自主開発と国際協力との適正な調和について不断の評価検討を加える必要がある。
 第2に,原子力の研究開発にあたつては,基礎研究の一層の充実をはかるべきことである。
 基礎研究は,一面において新しい技術開発の芽生えとなり,他面,応用研究から開発へと研究を進展させる場合,創意工夫を注ぎ込む源泉となる。とくに,今後,原子力の研究開発を自主的にすすめるにあたつては,幅広い基礎研究の一層の充実が,不可欠の要件である。
 第3に,原子力の研究開発は,総合的な観点にたつて効果的,効率的にすすめるべきことである。
 原子力の開発利用は,広範多岐な分野にわたつており,その規模が大きく,成果が現われるには長い年月を要するものが多い。したがって,その計画は総合的観点にたつてたてられることが必要であり,限られた資金と人材を有効に活用し,効果的な研究開発をすすめることが重要である。また,国として重要性と緊急性が高い動力炉開発等のプロジェクト研究をすすめるにあたつても,環境の保全,安全性の確保等に必要な研究を重視し,全体として均衡のとれた原子力開発利用をすすめることが必要である。さらに,研究開発をすすめていく段階にあっては,適宜,適切なる評価検討を行ない,その結果が,研究開発のあり方に反映されるよう努めるとともに,研究開発を国際的に分担することを考慮しつつ,その効率化をはかることが重要である。
 原子力の研究開発をすすめるにあたつては,長期にわたり多額の研究投資を必要とすることなどの理由から,政府の果たすべき役割はきわめて大きく,とくに,必要な資金を確保することが重要である。このため広範な原子力開発利用の各分野における多くの研究開発課題のうち,とくに重要性と緊急性が高く,国として重点的かつ組織的にすすめる必要があるものについては,ひきつづき「原子力特別研究開発計画(国のプロジェクト)」あるいは,「原子力特定総合研究」として必要な資金を投じ,明確な体制のもとに各界の協力を得て研究開発を推進していくものとするが,この際,民間企業は積極的に協力することを期待する。
 すなわち,関連する分野が広く,これらの分野を総合してすすめることにより大きい効果が期待される研究課題,または,わが国の原子力開発利用を一段と進展せしめうる開発課題については,.これを原子力特定総合研究として,政府の調整または計画のもとに関係各機関あるいは民間企業が協力し,分担を明確にしてその研究開発を推進することとする。現在,原子力特定総合研究に指定されている核融合に関する研究開発,食品照射に関する研究およびウラン濃縮に関する研究についてはひきつづきこれを推進するほか,新たに,原子力施設の安全性に関する研究,環境保全に関する研究等についても,原子力特定総合研究に指定して,研究開発をすすめることが必要である。
 また,原子力特定総合研究に比較して,さらに大規模の資金,多方面の協力および長期間の研究開発を必要とし,かつ,開発により将来国全体として多大の効果が期待される課題については,これを原子力特別研究開発計画(国のプロジェクト)として国が開発の目標および期間を明確に定め,体制を整備し,広範な分野にわたる研究開発を系統的,計画的かつ総合的に行ない,関係各機関の適切な分担と協力によって,効率的にその推進をはかることとする。現在,国のプロジェクトに指定されている高速増殖炉および新型転換炉の開発計画ならびに原子力第1船「むつ」の開発計画については,ひきつづき強力にこれを推進するものとする。

2 利用の基本方針

 実用化の段階を迎えた原子力開発利用は,多くの分野ですでに国民生活と緊密な結びつきをもつに至っている。したがって,今後さらに発電等の動力利用や医療等への放射線利用を推進するにあたっては,その利用の展開が直接国民生活に大きな影響をもたらすものであるとめ認識のもとに,国民全体の中に円滑に受け入れられるよう十分配慮することが必要である。このような観点から,次のような方針のもとに,原子力の調和ある利用をすすめるものとする。
 第1に研究開発の成果が円滑かつ迅速に実用化されるよう,研究開発と利用の結びつきを強化する必要がある。
 多額の資金と多数の人材を要して開発した新しい技術は,すみやかにかつ円滑に経済社会に適用し,国民福祉の向上に寄与させることが重要である。とくに,新型動力炉,原子力船等国内で開発する過程において開発された技術は,長期的見地から,国家的利益を認識して,民間企業が自ら積極的にこれを利用していくことが重要である。このため人材の交流等を通じ,研究開発機関と利用者との結びつきを強化するとともに,政府も長期的な国家的利益を確保するとの見地から,国内において技術の信頼性および経済性が実証されるよ.う適切な措置を講ずることが必要である。
 第2に,原子力の利用をすすめるにあたっては,環境の保全に留意するとともに,安全性の確保について万全の措置を講ずる必要がある。
 原子力の利用については,従来から在来産業に比較して,安全性について特段の配慮をしてきたところであり,公害のないエネルギー源をめざして,広範な学問分野にわたる研究と地道な経験が蓄積されてきた。しかし,原子力利用の量的拡大と多様化に伴い,今後,原子力施設の数が著しく増加する傾向にあることを考慮すると,今後一層安全性の確保,環境の保全に努めることが重要であり,安全審査等の機能を一段と充実する必要がある。
 放射線の人に与える影響については,国際放射線防護委員会(ICRP)等の場において従来から綿密に検討されているところであり,わが国としてもICRPの勧告に準拠し,放射線による被ばく量を個人および社会的に容認できると思われるレベルにまで制限しているが,放射線防護に関しては,一層万全を期する必要があるので,放射線物質をやむを得ず環境に放出する場合には,上記のレベル以下に制限することはもちろん,実行可能な限りこれを低減させなければならない。
 また,放射線障害をおこすような事故が発生しないよう,これまで万全の措置がとられてきているが,今後万一このような事故が発生しても,これに対処し得るような対策を講ずることが重要である。
 第3に,原子力の利用は,国民の理解と協力のもとに,これを推進することが肝要である。
 原子力開発利用の進展に伴い,今後,ますます原子力は国民生活に身近かな存在となる。このような状況において,今後さらに,原子力開発利用をすすめるにあたつては,国民の理解と協力のもとに,これをすすめることが肝要である。
 とくに,今後急増する原子力施設の立地にあたつては,政府は住民の立場にたつて,安全性の確保,環境の保全について万全を期することが必要である。この前提にたつて,官民がそれぞれの役割に応じて,原子力発電の必要性,安全性等について,正確な知識を広めるための努力をはらうことが必要である。一方,原子力施設設置者はもとより,地方公共団体および政府は,これに協力して,地元住民の福祉向上,地域社会の発展に貢献する方向で適切な措置を講ずることが肝要である。
 このようにしてはじめて,広く国民が原子力開発利用に伴う利益を享受することが可能となるといえよう。


第2章 原子力開発利用のすすめ方

1 原子力発電および動力炉開発

 わが国の総エネルギー需要は,経済の発展とともに増加し,とくに電力需要の占める割合は,国民生活水準の向上,産業構造の高度化とともに順調な増加を続けると予想される。電力需要のこのような増加に対して,安定,低廉かつきれいなエネルギーを供,給するととは,国民生活の健全な発展を促進するうえで,きわめて重要なことである。
 在来化石燃料による発電は,ここ当分の間,電力生産の主体となるものと考えられるが,その量的拡大に伴い,輸送,備蓄,環境保全等に深刻な諸問題をひき起すことが考えられ,将来の安定した電力供給を確保するためには,適当な代替エネルギーの導入を促進する必要がきわめて大きくなっている。一方,すでにわが国でも実用化がすすめられている原子力発電は,その燃料の輸送,備蓄が容易であり,準国産エネルギー供給源と考えられ,また適切な管理により環境への影響を著しく軽減できるなど,安定で,きれいなエネルギー供給源として期待されるところが大きい。このような,エネルギー供給の動向のもとに,わが国においては,発電に必要とされるエネルギーの供給源として,原子力を導入することが強く要請されており,国のエネルギー政策の一環として,原子力発電の開発利用に努めることが必要となっている。
 原子力発電の経済性については,当面主流となる軽水炉による発電価格が,現在では,石油火力発電より劣っているが,長期的にみると,軽水炉は技術開発による経済性向上の余地が一段と大きく,今後,次第にその差は縮少し,おそくとも昭和50年代の後半には,石油火力発電と経済性において十分競合しうるようになるものと考えられる。このような経済性の見とおしと,前述のような原子力発電の社会的,経済的効果を考えると,原子力発電の開発規模は急速に,増加し,昭和50年代前半から,新規電源開発量のなかに占める原子力発電の割合が,火力発電をしのぐものと予想され,この時期を境に,全発電量に占める原子力発電のウエイトが急速に増大するものと考えられる。
 今後,国民の生活水準の向上に伴い,ますます増大する電力需要に対処するため,原子力発電に対する期待はきわめて大きく,昭和60年度には6,000万KW程度,昭和65年度には1億KW程度を原子力発電でまかなうことが要請されている。
 このような要請に対応して,原子力発電の開発をすすめるにあたっては,安全性の確保,環境の保全はもとより,立地地点の確保,核燃料の安全供給と有効利用,放射性廃棄物の処理処分等に積極的に対処するとともに,新型転換炉,高速増殖炉の精力的開発に努めるなど,調和のとれた原子力発電を推進しなければならない。
 このような観点にたって,原子力発電をめぐる諸般の情勢を考慮すると,現時点においては,昭和55年度における原子力発電の開発規模を約3,200万KWと見込むことは妥当であると考える。
 わが国の原子力発電は,ここ当分の間は,軽水炉が主流を占めると考えられるが,これ以外の炉型についても,今後十分な実証性が得られ次第,それぞれの特色に応じて,わが国においても実用化されることが期待される。
 原子力発電所の建設に際しては,関連機器の需要の増大に対処し,生産設備の拡充をすすめるなど,機器国産化の体制を整備することが重要である。同時に,高度の技術を備えた多数の発電所技術要員の確保,ほう大な所要資金の確保等についても,適切な措置を講ずることが重要である。
 原子力発電の立地については,安全性の確保,環境の保全を前提に地域住民の理解と協力のもとに,その確保をすすめなければならない。とくに,原子力発電所周辺環境の保全をはかるため,環境への放射性物質の放出は基準レベル以下に制限することはもちろん,実行可能なかぎり低くするという姿勢を堅持し,温排水の影響についても,さらに総合的に調査研究をすすめる必要がある。
 このような環境安全対策に加えて,原子力発電施設の設置者が,地域住民の福祉と地域社会の発展に貢献する姿勢を示すとともに,地方公共団体および政府もこれに協力して,原子力施設の,立地確保に資するため積極的に所要の施策を講ずることが必要である。
 さらに長期的展望にたつて,今後の大規模な原子力発電の立地を円滑にすすめるため,政府は,原子力発電立地の将来構想を検討し,電気事業者,地元代表等の協力を得て,地域社会との調和ある発展をはかることが必要である。
 このほか,将来の適地を拡大するため軟弱地盤への立地,地下立地,島立地等の関連技術について研究開発を積極的に推進することも必要である。
 原子力発電を推進するにあたつては,当面,在来型炉の建設に主体がおかれるが今後予想される原子力発電規模の増大に対応して,ますます重要となる核燃料の安定供給と有効利用の課題を根本的に解決していくためには,適切な新型動力炉を開発し,原子力発電の有利性を高度に発揮するごとが不可欠である。しかも,新型動力炉の自主的開発は,産業構造の高度化と科学技術水準の向上に大きな効果が期待され,わが国の原子力開発利用に関する自主性の確保の支柱となるものである。
 このような観点から,現在わが国において開発をすすめている新型転換炉および高速増殖炉は,それぞれ昭和50年代および昭和60年代を目標に実用化をはかることが必要である。
 わが国で開発する新型転換炉は,重水減速沸騰軽水冷却型炉であり,中性子経済が優れているため,軽水炉に比して,ウラン所要量,とくに,濃縮ウラン所要量を大幅に低減することが可能であり,発電原価においても,同等ないしそれ以下になしうると考えられている。
 昭和50年度頃の臨界を目標として開発をすすめている目標最大出力20万KWの原型炉の完成と「新型転換炉評価検討委員会報告書」(昭和44年10月15日)の指摘にかかる,大型化のための研究開発の実施とあいまつて,技術的には安定した運転の可能性が得られ,経済的には,将来大型化による他の炉型との競合性について見とおしが得られる。
 原型炉にひきつづく実用炉の建設を,円滑に実現するための方策については,所要の時期までに検討することとする。
 このようにして電力系統に導入される新型転換炉の全原子力発電設備に占める割合は,昭和65年度にはかなりの部分に達するものと期待される。その後,高速増殖炉が実用化された場合には,新型転換炉は高速増殖炉への燃料として必要なプルトニウムを供給する役割を果たすことも期待され,長期間高速増殖炉と並存するものと見込まれる。
 高速増殖炉は,消費した以上の核燃料を生成する画期的なものであり,ウランのもつエネルギーの最高限度の利用を可能とするもかのであり,これにより,濃縮ウランの必要量を減少できる。また,将来,きれいなエネルギー供給源として,原子力発電の主流どなるべきものであり,わが国においては昭和60年代に実用化を達成することを目標とする。その開発にあなつては,現在,世界的にもつとも有望な炉型とみられている,プルトニウムとウランの混合酸化物系燃料を用いるナトリウム冷却型炉を対象として,目標熱出力10万KWの実験炉を,昭和49年度に臨界に至らしめることとし,また電気出力30万KW程度の原型炉を,昭和53年度頃に臨界に至らしめることを目途とする。高速増殖炉の実用化については,原型炉の建設,運転の成果に基づき,今後,さらに検討するが諸外国における開発の例等から判断すると,実証炉を建設するなど,積極的に実用化の方策を講ずることについても,考慮する必要があろう。
 なお,より長期的に,高速増殖炉の高性能化をはかるため,ガス冷却型高速増殖炉,炭化物燃料等に関する基礎研究および高速増殖炉用燃料の再処理技術に関する研究開発を現在の高速増殖炉開発計画と並行してすすめる必要がある。

2 核燃料

 原子力発電を将来の安定したエネルギー供給源とし前述の原子力発電開発規模を達成するためには,必要となるぼう大な核燃料を安定的に確保し,その有効利用をはかることがきわめて重要である。このため,ウラン資源および濃縮ウランの確保,核燃料の加工,使用済燃料の再処理等について,積極的な施策を講じ,経済的で,かつ,わが国の自主性を確保できるような核燃料サイクルの確立に努める必要がある。核燃料サイクルの各要素の確立については,原則的には民間企業が主体となることを期待するが,原子力が,将来のエネルギー供給を担う国家的課題であることから,政府も適切な措置を講ずることが重要である。
 原子力発電の今後の見とおしに基づくウラン所要量は,昭和55年度には年間約8,000シヨート・トン,昭和65年度には年間約15,000シヨート・トンに達するものと予想される。ウラン資源に乏しいわが国は,そのほとんどすべてを海外に求めざるを得ないので,電気事業者が海外ウランを短期および長期の購入契約により,ひきつづき自主的に確保することな期待するが,長期的には,開発輸入の比率を高め,年間所要量の3分の1程度を開発輸入により確保することを目標として,海外における探鉱開発を強力に行なう必要がある。このため,政府をは,動力炉・核燃料開発事業団による調査活動を強化拡充するとともに,民間企業の探鉱活動に対して,成功払い融資,開発資金に係る融資等の助成措置を講ずるほか,新たな探鉱開発が積極的に行なわれるための施策についても検討することが必要である。
 濃縮ウランについては,分離作業量にして昭和55年度には年間約5,000トン,昭和65年度には年間約11,000トンが必要になるものと思われる。一方現在自由世界で濃縮ウランを商業べースで供給している米国の供給能力は,昭和55年度頃に限界に達するものとみられている。
 このため,昭和55年度頃までに運転を開始するわが国の原子力発電所に必要な濃縮ウランについては,米国からの供給確保に努力することとし,それ以降必要とされる濃縮ウランを確保するためには,国際共同濃縮事業への参加を考慮しつつ,1980年年代に一部濃縮ウランを国産化しうることを目途に,所要の研究開発を推進していくこととする。
 核燃料の加工については,国内加工産業が徐々に国産化の体制を固めつつあるが,その基盤はなお弱体であり,今後技術開発を積極的にすすめるなど,産業基盤の強化をはかることが必要である。
 使用済燃料の再処理については,動力炉・核燃料開発事業団において,昭和49年度操業開始を目途に再処理施設の建設をすすめるものとし,これに続く再処理施設は,使用済燃料の再処理は国内で実施するとの原則のもとに,民間企業においてその建設,運転を行なうことを期待する。しかし,その建設には困難な問題が少なくないと思われるので,政府は立地政策,長期低利融資等必要な措置を講ずるとともに,環境に放出される放射性排出物をできる限り少なくするだめ必要な研究開発を強力に推進するものとする。
 使用済燃料の輸送サービスについては民間企業において行なうこととするが,その事業の健全な発展をはかるため必要に応じ適切な方策を講ずるとともに,輸出容器に関する技術基準等の安全輸送のための関係法令の整備をはかることとする。
 プルトニウムについては,高速増殖炉への利用が最も有効であるが,高速増殖炉の実用化までの間,急増するプルトニウムの備蓄に要する経費等を考慮すると,当分の間は,軽水炉燃料として役立て,これによりウランおよび濃縮ウランの所要量軽減をはかることが望ましい。政府は,民間企業が行なうプルトニウムに関する技術開発について,動力炉・核燃料開発事業団および日本原子力研究所の諸施設および技術的経験の活用ができるよう適切な施策を講ずる必要がある。

3 環境・安全対策

 原子力開発利用は,放射能を安全に管理することによって,はじめてその正しい発展が期待されるものである。このような意味を持つ安全性の確保について,わが国は,これまで国際的な基準に基づく,厳重な規制と管理を実施するなど,他の産業にみられないような注意深い配慮のもとに,その対策に万全を期してきたところである。
 しかし,原子力発電をはじめとする大規模な原子力開発利用がすすめられれば,大量の放射性廃棄物が発生する見とおしであり,これに伴い,環境へ放出される放射性物質の量が増大することも予想される。また多面的な放射線利用の普及によっても,国民および従業員が放射線被ばくを受ける機会が多くなることも考えられる。
 このような事情に対応して,今後,大規模な原子力開発利用をすすめるにあたつて,これまでの原子力開発利用,における尚い安全確保の実績を,ひきつづき維持するためには,さらに一段と安全性の確保と環境の保全とに万全の配慮をはらわなければならない。このため,原子力施設の立地,施設と設備の安全確保ならびに放射線管理等の面において適切な措置を講ずるとともに,原子力施設の安全性,放射線管理等の面における研究開発をはじめ環境放射線とその影響,放射性廃棄物の処理処分等に関する調査研究を推進し,得られだ成果を管理と規制の中に迅速に活用していくことが肝要である。
 このような観点から,安全性の確保,環境の保全をはかるためには,原子力開発利用にたずさわる民間企業が,自らこれらの問題に対して十分な責任を果たすべきことはもとよりであるが,政府においても,今後とも,国民の安全を保証する立場から,厳密な規制を行なうものとする。どのようにして,はじめて,原子力開発利用の健全な発展と,それによる国民福祉の向上が期待されるものである。

(1)安全性の確保
 原子力施設における安全確保に万全を期するためには,常に最新の技術資料に基づいた適確な安全審査を行なうなどにより,事故を起さないよう配慮することが必要である。原子力施設の急増に対処して,安全審査を強化充実させることが重要であり,今後審査機能の充実,審査に必要な安全評価のための研究のすすめ方等について検討を行なうこととする。
 原子力施設の安全性を確保するためには,安全審査の充実とならんで,施設の運転,保守における安全管理体制の強化,施設設備の改善,従事者の安全意識の向上等もまた,重要な要素である。このだめには施設設置者自らの自覚が肝要であるが,政府においても,保安規定の整備を行なうなど所要の方策を講ずることが必要である。
 安全基準の整備については,今後新型動力炉の開発等に伴って生ずる新しい事態に即応して,現行の立地審査指針,設計審査指針等を見直していく必要がある。また,再処理施設,プルトニウム取扱施設等の安全審査指針,輸送容器の設計基準,原子力施設の運転時における放射線安全上の指針等の整備をはかる必要がある。
 その他,原子力施設の多様化,延べ運転時間の増加に伴って運転経験の蓄積を安全操業に反映させるとともに,原子力施設に関する主要な事故,故障異常現象等についての情報の収集,分析等を行なう体制の整備について検討をすすめ,安全性の確保に万全を期することとする。
 同時に,原子力施設の安全性を確保するためには,常に広範囲にわたる研究開発を行ない,その成果を,効果的に適用していくことが肝要である。
 放射線防護については,従来から原子力関係法令に基づき,十分な放射線管理が行なわれているが,さらに万全の対策を立てることが必要である。とくに放射線防護に関する管理体制については,放射線作業従事者の数が増加の一途をたどりつつある現状にかんがみ,長期的にみた被ばく線量管理のため,個人被ばく線量を一元的な基準のもとに登録管理する体制を確立することとする。これにより,職業上の全被ばく線量の把握を容易にし,施設の管理体制の改善等へのフィード・バック,放射線作業従事者の健康管理,職業被ばくの国民線量への寄与の推定等に役立てることとする。また,放射線作業従事者に対して,今後,技術進歩におくれをとることなく最新の知識を提供するため,放射線の安全取扱いに関して,重点的に再教育を行なうことも重要である。
 原子力開発利用の実用化の進展に伴い,今後ますます放射線の取扱いは一般化していくものと考えられる。そめため放射線被ばくに対する治療法,放射線の安全取扱方法等に関する研究開発をすすめることとする。
 原子力の安全性に関する研究開発については,総合的かつ計画的にすすめる必要があり,当面の各種対策とならんで,今後研究課題の重要度の評価,研究計画の立案,成果の評価等について,検討をすすめるものとする。

(2)環境保全
 原子力に関する環境問題としては,従来は主として核爆発に由来する放射性降下物の影響が注目されていたが,近年,著しく進展しつつある原子力施設の大規模化,多様化に伴って,原子力施設周辺の放射能と温排水の影響が問題となってきている。
 環境放射能の問題に対しては,わが国は,従来国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に準拠してきたが,今後とも,ICRP勧告等国際的な基準値のみならず,その背後にある考え方をも尊重して,一個人および集団としての国民の被ばくがICRPの示す線量限度を下まわることはもちろん,実行可能な限り低くするとの方針をとることとする。このような基本的方針に基づいて,原子力施設から発生する放射性廃棄物については,可能な限り厳重にかつ長時間封じこめて人間の管理下におくものとするが,やむを得ず気体,液体状で環境に放出する場合は,環境への放出量を実行可能な限り少なくすることが厳格に実行されなければならない。この場合原子力開発利用の実用化の進展に伴い,これまでの濃度規制のみならず,絶対量の規制を検討することも必要である。また,放射線が環境に影響を及ぼさないよう今後一層原子力施設の安全性の確保と放射線管理の充実をはかることはもとより,環境放射能監視機能の充実等により,公衆が接する環境の放射能レベルを常に把握し,さらに,環境に放出された放射性物質が人間にとり込まれるまでの挙動の解明,放射線の生物学的影響,放射性物質による人体被ばくの低減対策等に関する調査研究を強力に推進することとする。
 温排水の影響の問題については,火力発電と共通する問題であるが,原子力発電では使用する冷却水量が多く,施設が集中する場合には,沿岸漁業が盛んなわが国の現状を考慮すると,より影響が大さいと考えられるので,温排水の放出により生ずる周辺環境への影響のみならず,地域の漁業者や住民に及ぼす社会的,経済的影響をも考慮して対策を講ずる必要がある。しかし,温排水に関する知見は十分でないので,これに関する調査研究を積極的にすすめる必要がある。そのため,原子力発電所設置予定周辺海域における環境,とくに生態系について事前に十分な調査研究をすすめる一方,すでに原子力発電所が設置されている場合には,温排水の放出による生態系の変化とその程度を把握することに努め,今後の原子力発電所の規模増大に伴う温排水の放出による影響を的確に判断し,適切な措置を講ずることが必要である。
 また,これらの調査研究に基づき原子力施設の立地を考える場合には,魚類の再生産や漁場の形成に悪影響を及ぼさないよう,十分なる配慮が施されなけれはならない。
 原子力をめぐる環境の問題は,研究面においても行政面においてもその関連する機関が多いので,以上のような方針のもとに,自然景観の保護を含め総合的に環境の保全をはかるため,原子力施設における環境保全の指針,環境放射能の監視体制,環境保全に必要な調査研究のすすめ方等について,今後具体的に検討していくものとする。

(3)放射性廃棄物の処理処分
 原子力施設から発生する放射性廃棄物のうち,極く低いレベルの気体,液体状の放射性廃棄物は,前述のごとく安全を十分確保しつつ,環境へ放出するが,その他の放射性廃棄物については,以下の方針に基づいて処理処分をすすめることとする。
 原子力発電所等で発生する廃液を濃縮したものなど,低いレベルの放射性廃棄物については,これを固形化し,その種類,性状,発生量,今後の処理処分技術の研究開発,その他社会的および国際的動向を考慮して,陸地処分,海洋処分を組合せて実施する方針でのぞむものとする。とくに,海洋処分については,処分キュリー数を制限するならば,海洋処分を安全に行なう方法を立案することは可能であると思われるので,その安全性を保証し得る処分量に限定し,これを満たす規模と内容の海洋調査を事前に行なう。一方,種々の被処分体サンプルを用意して総合的な安全評価を行ない,試験的海洋処分を実施し,投棄後の被処分体の追跡および海洋調査を行なう。これらによって得られる知見およびその時までの深海に関する最新の知見に基づいて,昭和50年代初め頃までに海洋処分の見とおしを得ることとする。
 また,陸地処分についても無人ないし人口希薄な場所について,水理地質および土木地質の観点を含む地質学的条件等の調査を実施し,処分に関する技術的内容も含めて,昭和50年代初め頃までにその見とおしを明確にするものとする。
 原子力施設で発生するイオン交換樹脂等中程度のレベルの放射性廃棄物については,技術開発の進展を考慮しつつ,昭和50年代半ば頃までにその処分の方針を決定するものとし,それまでは当該施設内に保管するものとする。
 使用済燃料再処理施設等で発生する高いレべルの放射性廃棄物については,当面慎重な配慮のもとに保管しておくものとする。
 放射性廃棄物の処分を行なうに必要な研究開発をすすめるにあたつては,安全性の確保と環境の保全を第一とし,次いで,その処理処分の経済性の向上をあわせはかるとの姿勢でのぞむこととする。これら研究開発は緊急を要するものであるので,目標年次に合わせつつ,政府および民間の関連機関が協力して,強力にすすめるものとし,さらに,これと並行して,放射性廃棄物の有効利用も,当該問題の解決上重要であると考えられるので,これに関する調査研究の実施を積極的にすすめるものとする。

4 原子力船

 世界経済の発展に伴って,国際貿易量は大幅に増加し,大量かつ低廉な高速輸送に対する社会的,経済的要請はますます大きくなりつつある。これに対処して国際海運界においては,商船の高速化,船腹量の拡大がはかられているが,とくに顕著なのはタンカーの大型化,コンテナー船の高速化の傾向である。
 この傾向にこたえる高出力推進機関として,原子力推進機関に対する期待はきわめて大きいものがあり,わが国でも昭和50年代には原子力船が実用化するという見方が一部にみられるが,商船として原子力船を実用化するためには,原子力船が在来船と経済的に競合でき,かつ安全性,信頼性が十分に確保されていなければならない。現在までに建造された世界の原子力船は3隻であるが,これらは,現在わが国で建造中の原子力第1船「むつ」を含めて,いずれも実験船的色彩が強く,在来船と経済的に競合できるものはない。原子力船の安全性,信頼性については,これら実験船の運航によりすでに実証されており,原子力船の実用化の見とおしは,経済性のある進歩した船用炉の開発に左右されるといえよう。このような状況から,原子力船の実用化を推進するためには,さらに船用炉についての広範な調査研究を行なう必要がある。そこで当面は,コンテナー船の高速化など内外海運界の動向をみきわめつつ,一体型加圧水炉を対象とした船用炉に関する研究開発を国際協力をも考慮しながら積極的かつ効率的に実施し,船用炉の安全性,信頼性のより一層の向上に配意しつつ,技術的,経済的見とおしを得るよう努める必要がある。
 実用船としての原子力第2船以降の建造については,船用炉の研究開発の成果と原子力第1船「むつ」の成果が得られた段階で,各国における船用炉開発の進捗状況,コンテナー船の高速化など内外海運界の動向および現在民間ですすめられている日独原子力船共同評価研究等を勘案して,民間企業が自主的にすすめることが期待される。
 この場合,政府としても,原子力船の円滑な実用化がすすめられるよう適切な措置を検討する必要がある。
 また,原子力船を実用化するためには,安全性を確保しつつ,円滑な運航ができるよう措置することがきわめて重要である。このため,当面は,将来の原子力商船の円滑な運航に必要な施策に資することを考慮して,原子力第1船の実験航海等において,出入港,運航等に関する十分な経験を取得するよう努めることが望ましい。他方,国際的には,原子力船に関する国際的動向を勘案しつつ2国間協定の締結を行なうなどの措置を講ずる必要がある。
 現在建造中の原子力第1船「むつ」については,建造,運航の経験を得ることを主目的として,昭和47年度末までに完成することとする。実験航海や総合的評価とりまとめ後の昭和51年度以降における,原子力第1船の保有形態,運航方針および定係港の管理については,実験航海によって各種のデータが得られるほか,その間原子力船実用化の見とおしがより明確になると思われるので,これらの状況を勘案して早急に定めるものとする。

5 原子炉多目的利用

 原子炉の熱を発電のみならず,製鉄,化学工業,海水脱塩,地域暖房等に用いるいわゆる原子炉の多目的利用は,化石燃料にかわる豊富かつ安定した原子エネルギーの広範にわたる分野への効率的利用を可能にすることにより,わが国のエネルギー供給の安定化に多大な寄与を果たすとともに,現在エネルギー多消費産業等において問題となっている環境汚染問題の軽減を通じて,国民福祉の向上に大きく貢献していくものと期待されている。
 このような原子炉の多目的利用の実現にあたつては,在来炉による利用の推進をはかるとともに,さらに広範な産業分野への原子炉熱の利用を可能ならしめる高温ガス炉およびその利用技術の開発を,政府および民間相互の密接な協力のもとに,総合的,計画的に推進することが必要である。
 原子炉多目的利用のうち,在来炉による比較的低い温度の多目的利用技術の開発は,具体的に熱併給発電システムを計画する民間企業あるいは地域社会等が,適宜,政府関係機関等の協力のもとに開発をすすめることを期待するが,安全性,原子炉立地基準等については,政府が中心となって調査研究をすすめることが必要である。
 多目的高温ガス炉については,これが原子炉の核熱エネルギー広範な産業への利用を可能ならしめる反面,将来の産業構造の見とおし,海外における技術の進展状況,多目的利用技術の動向等,なお,検討を要する点が多い。
 しかしながら,エネルギー政策的観点から見て,将来一次冷却材炉心出口温度1,000°C程度の多目的高温ガス炉の必要性が考えられるので,それに備えて当面はひきつづき燃料,材料等に関する研究をすすめることとする。この場合,研究開発の効率的推進のため長期的な研究開発計画を検討しておく必要がある。
 このようにして,基礎的研究から積み上げた技術的成果と産業構造上からの経済的要請および海外における高温ガス炉技術の進展状況等をも充分考慮しつつ,実験炉の建設問題を検討するものとする。

6 核融合

 核融合は,きれいなエネルギーを半永久的に安定して供給することができ,しかも安全性がきわめて高いことなどから,人類の未来を担う究極のエネルギー源としてその実現に大きな期待が持たれている。
 現在,世界的には,昭和50年代前半に臨界炉心プラズマ達成の見とおしがあるとされており,核融合動力炉を明確な目標として動力炉プラントの総合開発へと研究開発が拡大移行しつつある状況である。わが国においても,世界の開発進歩の一翼を担うまでに研究開発がすすんでおり,今後の.研究開発の成果に期待が寄せられている。
 このような情勢にかんがみ,わが国としては,世界的に有望視されているトカマク型トーラス系装置の研究開発に当面の重点をおき,昭和60年代に核融合動力実験炉を建設することをめざして研究開発をすすめるものとする。そのため,従来のプラズマ物理中心の研究から,今後は,それを含めた総合的,工学的研究に拡大移行することが必要であり,核融合炉心工学技術および核融合炉プラント工学技術の開発を行なうものとする。
 炉心工学技術の開発については,最近完成したJFT-2装置等による試験研究等を通じて,昭和40年代末までに臨界炉心プラズマの開発に必要な知見の収集に多大の成果が得られると期待されるので,昭和50年代に臨界炉心プラズマ試験装置を建設することを目途とする。そのため,当面,プラズマ加熱,高磁界発生,動的制御,真空技術等の研究開発を強力にすすめることが必要である。また,臨界炉心プラズマ試験装置の開発との緊密な連けいのもとに,計画的に動力実験炉の炉心の開発をめざして,実用規模の大容積炉心プラズマの発生および制御技術の開発を行なうものとする。
 一方,炉プラント工学技術の開発については,従来の核分裂炉による経験が相当役に立つと考えられ,炉心工学技術の開発と並行して早急にすすめる必要があり,炉工学,材料,熱伝達等の技術開発をすすめ,各コンポーネント機器の開発を行なうものとする。

7 放射線利用

 放射線は早くから医療に利用されていたのみならず,物理学,化学,生物学等各分野における研究手段として利用されてきたが,最近では放射線化学,プロセス制御,がんの診療,品種の改良等実用面における利用も進展し,今後,さらに産業と国民生活の広範な分野にわたって,重要な役割を果すものと期待されている。このように,放射線利用の実用化の進展に伴い,今後,一層その普及をはかるにあたっては放射性アイソトープ線源の確保,放射線機器の開発とその規格化標準化等が重要であるほか,放射線の安全管理および取扱い上の安全確保に特段の配慮が必要である。
 アイソトープのの供給については,短寿命アイソトープや特殊アイソトープは,日本原子力研究所および国内関係機関で国産化に努力するが,広く一般に普及しているものについては,経済ベースで供給が確保されることを期待する。さらに長期的には,民間企業によって,商業ベースでのアイソトープの生産供給体制が確立される方向で,すすめられることを期待する。
 線源確保に関する研究開発については,原子炉による生産のための研究をひきつづきすすめるとともに,加速器による短寿命アイソトープの生産に関する研究開発をすすめる。使用済燃料の再処理に伴う放射性廃棄物よりの有用核分裂生成物,超ウラン元素等の分離技術およびそれらの利用についての研究開発は日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団を中心にすすめるものとする。
 放射線機器については,小型軽量,高性能,高信頼度,廉価であることが強く要請されており,今後大線量測定機器やモニタリング機器の開発をすすめるとともに,機器の規格化,標準化をすすめ,検定を実施する必要がある。
 放射線の各種利用については,今日までに多くの分野で実用化の段階に達しており,今後,官民が協力して,円滑な実用化,利用の普及に努めることが重要である。とくに,放射線化学,食品照射等については,これまでの研究成果のうえにたつて,早急に実用化の促進がはかられるよう適切な施策を講ずることが必要である。
 放射線利用については,今後,より一層利用の多様化,高度化が期待できる分野であるので,ひきつづき各分野で研究開発をすすめることが必要であり,たとえば,各種疾患の診療法の確立や環境問題に関する研究,食品照射等国民生活の向上に資するような分野の研究を重点的にすすめる必要がある。これらの研究開発の推進にあたつては,政府関係研究機関が中心になつて,大学および民間企業の協力のもとに推進することが必要であり,とくに,環境問題,がんの治療等への放射線の応用研究のように関連分野の広い研究課題についでは,各機関の内容に応じた研究分担等により総合的な研究をすすめることとする。


第3章 関連重要施策

1 基礎研究の充実

 基礎研究はあらゆる研究開発活動の基盤となるものであり,原子力の各分野における自主的な技術の開発を,強力に推進するためには,目的指向的な研究とともに,自主性を尊重した,幅広い基礎研究の強化をはかることが必要である。
 現在,原子力開発利用は,実用化の段階に達しつつあるとはいえ,新しい動力炉,原子炉多目的利用,核融合等に関しては,基礎から開発へ至る広範な研究を必要とし,また,開発に伴う環境安全対策を確立するうえにおいても,基礎研究の重要性はきわめて大きい。
 これまで,大学,日本原子力研究所,放射線医学総合研究所等は,これら原子力開発利用における基礎研究の推進に主要な役割を果たしてきており,今後も一層その重要性を増すものと考えられる。今後,核融合,環境安全対策等に必要な基礎研究等を政府関係研究機関が中心となってすすめるにあたつては,国際交流の推進はもとより,大学等からの広範な分野にわたる協力が必要である。したがって,基礎研究を円滑かつ効率的にすすめるため,日本学術会議等との密接な連絡のもとに研究環境を整備し,客員研究員制度,流動研究員制度等の充実をはかり,共同研究,人材交流を積極的に推進することが必要である。また,大学,日本原子力研究所等における大型共同利用研究施設の整備充実をはかるなど,適切な措置を講ずる必要がある。
 一般に,このような基礎研究における努力の成果は,可能な限り,速やかに実用化に結びつけることが重要であり,そのためには,科学技術情報の流通処理の合理化,大学,政府関係研究機関,民間企業等の間の人材の交流等の促進により,基礎研究成果を広く応用開発部門へ正確かつ迅速に伝え,わが国の自主的な原子力開発を強力に推進することが必要である。

2 科学技術者の養成

 わが国の原子力開発利用を先進国に伍して自主的にすすめるためには,それぞれの分野において優れた科学技術者を数多く確保することがきわめて重要な課題である。
 現在,大学や原子力関係機関の養成訓練施設において人材養成をすすめているが,今後,原子力開発利用の一層の進展に伴い,研究開発面においても利用の促進面においても,人材の量的確保とともに,多種多様の専門家の確保,専門家の質の向上等が重要となってきている。とくに,原子力発電の本格的実用化,新型動力炉開発の本格化等に対処し,原子力専門課程を専攻した科学技術者のほか,機械,電気,土木等の一般工学部門を専攻した科学技術者の需要はますます増大している。原子力開発利用の急速な進展に伴い,安全性の確保,環境の保全をはかることは,一層重要性を増しており,この面における調査研究をすすめるために必要な生態学等を含めた幅広い学科を専攻した科学技術者の必要性も高まっている。今後は,核融合研究の進展に伴って,新たに核融合専門科学技術者が必要となるとともに,研究開発の大型化に伴って,適切なプロジェクト管理能力を有するプロジェクト管理者の養成も必要ある。
 このような需要に対処して,人材養成に最も重要な役割を果たす大学においては,現在ある原子力関係および関連する講座,学科および大学院等の一層の充実がはかられることを期待する。一方,日本原子力研究所,放射線医学総合研究所等においても,各機関の特徴を生かし,大学卒業後の再教育,あるいは高度の養成訓練を行なうことを目標に教科課程の拡充と施設の充実をはかり,組織的,体系的な養成訓練を行なうこととする。
 また,国内,国外との人材および情報の交流を相互主義的に積極的に行なうなど,多数の優れた人材が原子力開発利用の各分野において活躍しうる環境を整備することも必要である。

3 科学技術情報の交流

 内外の原子力関係科学技術情報の迅速かつ合理的な収集,処理を行なうことは,わが国の原子力開発利用の発展をはかるうえできわめて重要である。
 このため,わが国においては必要により2国間協力をすすめつつ,国際原子力情報システム(INIS)の活動に積極的に協力するとともに,国内情報流通サービスを充実すべく,関係各機関による有機的な情報流通処理体制を整備拡充していく必要がある。とくに,日本原子力研究所は,INISに対する日本側担当機関であるので,わが国における原子力情報センターとして,国内の原子力に関する科学技術情報の一元的な流通処理を可能とするよう,その充実をはかることとする。
 また,INISの情報検索サービスを実現できるよう,日本原子力研究所を中心とする国内の情報流通処理体制の整備をすすめることとし,そのための研究開発,人材の養成を行なうこととする。
 なお,核データ,計算コード等の専門情報の交流についても,海外諸機関との協力を深めつつ,日本原子力研究所等の機能を強化充実することが必要である。

4 国際協力

 原子力開発利用は,国際的関連性がきわめて強く,わが国は研究開発の当初から,国際協力には特段の努力をはらつてきたところである。今日,原子力の本格的実用期を迎え,ウラン資源の確保,濃縮ウランの入手,その他,国際場裡で解決すべき諸問題はますます増加しつつあり,わが国の原子力開発利用の効果的推進をはかるためには,密接な国際協力が不可欠である。研究開発の基礎的段階にあっては,国際協力も比較的容易であるが,すでに原子力が産業として成長した今日,各種の利害が錯綜する国際場裡において,わが国の自主性をできるだけ確保しつつ国際協力をすすめることは決して容易なことではないので,政府と民間が密接な協力のもとにこれをすすめなければならない。とくに,原子力にわける国際協力は,政府ベースの国際約束が協力の大前提となる場合がきわめて多く,2国間または多国間の協定の締結,国際機関の活用等の方法により積極的な協力の促進が必要となっている。
 このような情勢にかんがみ,放射性廃棄物の処分,環境問題,保障措置等については,国際原子力機関における活動を重視するとともに,欧州原子力機関への参加により,先進諸国間における国際協力を積極的に行なうこととする。また,ウラン濃縮国際共同事業については,これに,適切な対処ができるよう,多数国会議への参加,海外調査の強化など必要な措置を講ずるものとする。
 一方,ウラン資源の確保,安全性をはじめとする各種研究協力,原子力情報交流,科学技術者の交流等については,2国間協力の果たす役割の大きいことを考慮して,今後とも2国間における積極的な協力の促進をはかることとする。このほか,基礎的研究面における国際協力を強化するとともに,開発途上国への技術援助をすすめることとする。なお,国際協力の進展に対処して,国際場裡で活躍する人材が多数必要となるめで,必要な人材の養成を長期的観点にたつてすすめるなど,国際協力基盤の強化をはかることが重要である。

5 保障措置

 わが国は原子力開発利用を平和の目的に徹してすすめているところであるが,原子力開発利用に必要な核物質等を外国から入手するにあたつて,これらの核物質を軍事目的に転用しないよう適切な措置を請ずることが必要であり,そのため国際的には,国際原子力機関(IAEA)の保障措置を受け入れることを約束している。
 最近における核物質の量および原子力施設の増加は著しく,これに伴い,核物質管理および保障措置に関する業務は著しく増加しており,その効率化が強く要請されている。
 このような情勢にかんがみ,わが国は,核物質の効果的かつ合理的な管理体制を確立し,国際的信頼性を高め,IAEAの保障措置がこれを検証する方向で適用されるよう努めるとともに,技術開発の推進およびIAEA等との国際協力の実施を積極的にすすめることとする。この場合,保障措置適用によっていたずらに商業機密が漏洩するようなことがあっては,研究開発意欲の減退をもたらし国益を損なうことになるので,合理化,簡素化等によつてこの問題に適切に対処する必要がある。
 保障措置技術の開発については,わが国の核燃料サイクルの特徴等を考慮しつつ,重点的に必要な課題について研究開発を行なうこととし,さらにわが国において開発されたシステムおよび機器については,諸外国に積極的に情報を提供し,相互理解を深め,国際的な保障措置制度の改善に努めるものとする。

6 原子力知識の普及啓発

 原子力開発利用を円滑に推進するためには,国民一般の理解と協力を得ることが重要である。このためには,原子力に関する正確な情報を,迅速に広く一般に提供し,国民がわが国の原子力開発の必要性実態等についてまず正しい理解を得るように努めなければならない。
 このため,政府は,各種広報資料等の作成,配布を行なうほか,セミナー,講演,記念行事等を開催し,原子力知識の国民一般への普及に努めてきたが,今後は,さらに一層広報普及活動の充実に努める事が必要である。長期的観点からみると,若い世代に原子力に関する正しい知識を普及させることがきわめて重要であるので,学校教育等の場を通じて原子力教育の強化に努めることが望ましい。同時に,原子力広報専門機関のより一層の強化充実をはかるとともに,関係機関が協力して,原子力広報資料センターのような施設の設置を検討するなど,広報普及機能の充実をはかることが必要である。

7 原子力産業

 わが国の原子力開発利用は急速に進展しており,これをさらに推進するためには,原子力関連機器,核燃料等の低廉かつ安定した供給が不可欠であり,国産化の観点から国内における原子力産業が果たすべき役割は大きい。同時に,原子力産業は研究開発分野の多い知識集約型産業であり,その発展はわが国の産業構造の高度化に大きく貢献するものである。
 政府は,従来から,関係各研究機関における研究開発の促進とその成果の民間への開放等により,民間企業の技術的能力を向上せしめるとともに,民間企業が自ら行なう優れた研究開発に対しては,適宜所要の措置を講じて,原子力産業の育成をはかつている。民間企業においても,技術導入や自らの研究開発等に積極的な努力が重ねられており,その決果,世界的な原子力開発利用技術の進歩とあいまつて,わが国の原子力産業の基盤はようやく固まりつつある。しかしながら,ぼう大な研究開発を実施し,多くの蓄積を有する欧米の原子力産業に比べると,わが国の原子力産業は,いまだその産業基盤が弱体であり,今後,内外の需要に対処して円滑に機器や核燃料の供給がはかられるよう適切な措置がとられることが必要である。
 機器供給面においては,現在,わが国の原子炉機器メーカーは海外のライセンスによつて製作を行なつているが,これら外国技術の吸収とともに,今後は,さらに一層自主技術の開発を積極的に行ない,わが国独自の技術を確立する必要がある。その際,とくに,機器の据え付け,製作のみでなく積極的な研究開発を通じ,計画,設計,監理等のいわゆるソフトウエアを強化することが重要である原子力発電の進展に伴い,核燃料の需要が急増するが,これに対処して,低廉な核燃料の安定供給をはかることが重要である。この場合,わが国に適した核燃料サイクル確立に努めるなかで,転換,成型加工,再処理等の事業が円滑にすすめられ,わが国の核燃料産業体系が確立されることが必要である。そのためには,有効な市場競争を実現することが望ましく,とくに核燃料成型加工の分野では,機器供給における場合と同様,独自の炉心設計を行なうなど,ソフトウエア面における充分な能力を有する独立系燃料メーカーの市場への参入が期待される。
 このような観点に立つて,政府は,わが国の原子力産業の基盤を強化し,早期に国産化体制を確立するため,生産設備投資に対して従来からとられてきている金融税制上の措置を継続するとともに,研究開発の強化,実証性試験設備の拡大,共同利用施設の利用,基準の整備等についても積極的な措置を講ずることが必要である。


第2部 各論

第1章 原子力発電

1.原子力発電の必要性

 わが国の総エネルギー需要は経済の発展とともに増加し,とくに電力需要の占める割合は,国民生活水準の向上とともに順調な増加を続けている。このような情勢を背景にわが国の電力需要は,20年後には現在の4~5倍に達するものと予想される。電力需要のこのような著しい増加に対して,安定低廉かつきれいなエネルギーを供給する,ことは,わが国の経済社会の健全な発展を促進するうえできわめて重要なことである。
 電力需要の著しい増大に対応して必要とされる新規電源開発については,火力発電および原子力発電が主力になるものと思われる。
 火力発電は,将来とも,その燃料として石油および天然ガスを使用する,ものと思われるが,このような化石燃料が将来大量に消費された場合には,次の諸点が問題となろう。

 このような観点から,化石燃料による発電は,長期的にみれば,適当な代替エネルギーが実用化され次第,その発電比重を低下せしめる方向にすすむことが妥当であると考えられる。
 一方,原子力発電については,次のような利点が考えられる。
 このような点から,わが国においては,国民福祉の向上をめざしたエネルギー政策をすすめるうえで,原子力発電の開発を積極的に推進していくことが強く要請されるところである。一方,原子力発電は広範にして高度の技術を必要とする分野であり,研究開発を通じ,わが国の科学技術水準の向上と産業構造の高度化にきわめて大きな役割を果たしうるものと期待される。

2.原子力発電の技術進歩と経済性の見とおし

(1)軽水炉
 軽水炉は,従来から,単基容量の大型化,規格化,機器の簡素化および改良,炉心出力密度の増加,燃料燃焼度の増加,安全防護施設の改良等,数多くの技術開発が行なわれてきたが,今後とも環境の保全と安全性の確保を前提としつつ,さらに経済性をより一層向上させるための技術開発が推進されるものと思われる。経済性の追求の面から最も期待されるもののひとつに,単基容量の増大によるスケール・メリットがあり,今後の技術進歩に伴い,単基容量は急速に大型化していく見とおしである。
 現在ではすでに50万KW級の発電所が運転中であるが近く100万KW級の発電所の建設も着手される見込みであり昭和50年代の後半には150万KW級が実用化されるものと予想される。
 軽水炉による原子力発電の経済性を火力発電と比較してみると,火力発電については,公害対策,海外における燃料価格の上昇等問題があり,原子力発電についても,環境の保全,安全性の確保,核燃料価格の上昇等の問題があり,相方とも将来の発電原価の低減にかなりの困難が伴うものと考えられる。しかし,原子力発電については,将来の技術開発による経済性向上の効果が火力発電に比べて一段と大きいと考えられる。したがつて,現在では火力発電の方が原子力発電に比べて優位にたつているが,今後次第にその差は縮少し,おそくとも昭和50年代の後半頃からは,原子力発電は火力発電と十分競合しうるようになるものと期待される。

(2)重水炉
 重水減速型の新型転換炉は,海外では,英国が濃縮ウランを用いる重水減速沸騰軽水冷却型炉を,カナダが天然ウランを用いる重水減速沸騰重水冷却型炉およびそれを発展させた重水減速沸騰軽水冷却型炉の開発をすすめており,それぞれ原型炉を完成させている。
 わが国は,当面,重水減速沸騰軽水冷却型炉(ATR)の実用化を目標として開発をすすめている。ATRの原型炉は昭和50年度頃の臨界を目標に現在その建設が行なわれており,これと並行して炉物理,熱ループ実験,コンポーネントテスト,安全性等に関する研究開発がすすめられている。ATRは,原型炉の完成と「新型転換炉評価検討委員会報告書」(昭和44年10月13日)の指摘にかかる大型化のための研究開発の実施を経て昭和50年代には実用化され,軽水炉の発電原価と同等程度になる見とおしである。

(3)ガス冷却炉
 ガス冷却炉のうち,改良型ガス冷却炉(AGR)は,英国ですでに10基,620万KW実用炉の建設がすすめられており,近く運転が開始され商業炉の段階に入ろうとしている。
 この炉型は,在来のガス冷却炉の設計,建設,運転等の経験,実績をもとに技術開発の成果をとり入れて開発されたものであり,炉心,ボイラー,送風機等の原子炉主要部分をプレストレストコンクリート製原子炉圧力容器(PCPV)に収容したインテグラル方式の採用等により,安全性が著しく向上し,また,在来型ガス冷却炉に比べ,高出力密度および高温化の達成等により,高いブラント熱効率が得られるようになったものである。
 AGRよりさらに高温化を狙った高温ガス冷却炉(HTGR)は,米国,英国および西独において開発がすすめられており,実験炉の段階を経てすでに原型炉による実証運転段階に近づいている。また,将来は,ガス冷却型高速増殖炉への発展が期待されており,そのための研究が行なわれている。
 これらの炉型の経済性を予測することは,いまだ若干の不確定要素はあるが,軽水炉と十分競争しうるものになる見とおしである。わが国においても,各国における今後の動向に注目しつつ,耐震設計等わが国特有の研究開発を行ない,将来,商業炉ベースでの建設が行なわれることが期待される。

(4)高速増殖炉
 高速増殖炉については,各国ともナトリウム冷却型炉を主流として開発をすすめているが,すでにソ連では,35万KW級原型炉の建設が完了している。英国,フランスにおいても,30万KW程度の原型炉が近年中に完成する見込みであり,米国,西独も原型炉あるいは実証炉の建設計画をすすめている。
 わが国においても,動力炉・核燃料開発事業団がプルトニウムとウランの混合酸化物系燃料を用いてナトリウム冷却型炉の開発をすすめている。
 高速増殖炉の開発にあたつては,炉物理,計測機器,ナトリウム技術および機器材料,燃料,安全性等の研究開発がすすめられそいるが,先進国においてもまだ,その経済性を明確に評価するにいたつていないのが現状である。しかしながら,燃料燃焼度,増殖率の向上等により昭和60年代には実用化され,さらに将来は,技術開発により発電コストが低下し,原子力発電の主流になるものと期待される。

3.原子力発電の開発規模の見とおし

(1)長期電力需給
 昭和46年6月の第55回電源開発調整審議会による長期電力需給の見とおしによれば,昭和50年度,昭和55年度におけるわが国の総電力需要は,それぞれ約4,700億KWh,約7,200億KWhと予想されている。その後の電力需要は,昭和60年度までは55年度をベースとして年平均伸び率6%~7%で増加し,昭和65年度までは60年度をベースとして年平均伸び率5%~6%程度で増加するものと推定して,このような電力需要にこたえるために必要な全発電設備を試算すると,昭和55年度は約1億7,40O万KW,昭和60年度は約2億3,600万KW,昭和65年度は約3億200万KWと想定される。

(2)原子力発電開発規模
 将来における原子力発電開発規模について,電源開発調整審議会の電源開発長期計画から推定すると,昭和55年度においては,わが国の原子力発電規模は,約3,200万KWに達するものと予想される。
 さらに長期的に各種電源構成を考えた場合,電力系統の負荷曲線に対して,水力発電はピーク時用として全発電設備の約20%を担い,残りの約80%を原子力発電と火力発電とで分担する形で開発がすすめられることとなろう。
 わが国のエネルギーの安定供給をはかるうえから原子力発電に対する期待はきわめて大きく,電力系統当運用上からの好適な組合わせをも考慮して,昭和60年度および昭和65年度にはそれぞれ約6,000万KW,約1億KWを原子力発電でまかなうことが要請されている。このような要請に対応して,原子力発電の開発をすすめるにあたつては核燃料の確保,立地対策,環境保全等に関する諸対策を今後積極的に推進することが必要である。

4.原子力発電のすすめ方

(1)立地対策
 前述の原子力発電開発規模に対応して必要となる立地地点数は,昭和55年度で10数地点,昭和65年度ではその2~3倍に達するものと見込まれる。これらの立地地点の確保については基本的には電気事業者が自らの企業責任において,これをすすめていかなければならないが,政府としても,国土の総合的な保全とその有効利用,地域社会との調和をはかるため,積極的な施策を講ずることが必要である。

 さらに,長期的展望にたつて今後の大規模な原子力発電の立地を円滑にすすめるために,政府は原子力発電立地の将来構想を検討し,原子力発電施設設置者,地元代表等の協力を得て,地域社会との調和ある発展をはかることが必要である。
 温排水については,周辺海域における漁業の発展との調和をはかるため,その影響の実態を明らかにして適切な対策を講ずる一方,温排水の利用についての研究開発をすすめるなど,漁業振興に寄与するような施策の実現をはかることが必要である。

(2)機器の合理的供給
 原子力発電設備機器を低廉かつ安定的に供給するとともに,プラントの建設,運転,保守を円滑にすすめていくためには,発電設備機器の一層の国産化を推進することが必要である。
 このためには,まず第1に,原子力機器メーカーのシステム・エンジニアリング能力を強化することが必要である。第2に,安全性確保をはじめとする各種の研究開発を充実することが要請される。第3に,重要な機器の安全性,信頼性を実証する大規模実証試験設備の拡大に努めることが望まれる。第4に,今後増大する需要に応ずるためには生産過程における自動化,省力化をより積極的に推進する必要がある。
 このような機器メーカーにおける国産化の促進に対し,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団等の施設を民間企業の利用に供するなど,所要の措置を講ずることを考慮する必要がある。
 なお,機器の発注および運転開始の平準化,双子形式による原子力発電所の設置,サイト条件をも含めた標準設計システムの開発等において,機器メーカーと電気事業者が協調し,合理的な原子力発電所の建設に努めることも重要である。

(3)所要資金の確保,
 原子力発電所の建設には,長期間を要するとともに巨額の資金が必要である。
 昭和65年度までにおける原子力発電規模を達成するための所要資金は,発電所建設費,初装荷燃料費を合わせると概算10兆円と試算される。この値は電気事業者が必要とする総工事資金の約25%を占める。
 このようなぼう大な資金を長期間にわたり安定して調達していくことが,原子力発電開発の円滑なる推進をはかるために必要であり,政府はひきつづき適切な資金的措置を講ずることが必要である。

(4)発電所技術要員の確保
 原子力発電の急速な進展に伴い,必要とされる発電所技術要員が急増すると予想されるので,その所要人材について量的確保のみならず,質的に高度な人材を積極的に確保することが要請される。とくに運転要員については,発電所の安全確保上きわめて重要であるので,教育訓練用大型シミュレーターの活用,運転オンサイドでの運転訓練等により十分な教育訓練がなされる必要がある。


第2章 動力炉開発

1.動力炉開発の方針

 核燃料の安定供給と有効利用をはかり,かつ,原子力発電の有利性を最高度に発揮せしめるため,適切な動力炉を自主的に開発することは,エネルギー政策における重要課題であるとともに,産業基盤の強化と科学技術水準の向上に大きく寄与するものである。
 このような観点から,わが国においては現在,新型転換炉および高速増殖炉の開発を国のプロジェクトとして関係各界の総力を結集し,動力炉・核燃料開発事業団を中核とする一元的責任体制のもとにすすめてきたが新型転換炉は昭和50年代に,また高速増殖炉は昭和60年代に実用化することを目標にひきつづき開発を推進するものとする。
 現在,新型転換炉については,天然ウランを燃料として使用しうる重水減速沸騰軽水冷却型炉を,また高速増殖炉については,プルトニウムとウランの混合酸化物系燃料を用いるナトリウム冷却型高速増殖炉をそれぞれ対象として開発をすすめているが開発段階に応じて定める基本計画に従って開発業務を効率的かつ計画的に実施するものとし,科学的管理手法をとり入れて,進捗状況の把握および成果め評価を行なうこととするさらに,海外技術の有効な活用をはかるため情報の交換,人材の交流等を活発に行なうものとする。

2.新型転換炉の開発

 わが国で開発している重水減速沸騰軽水冷却型炉は,中性子経済が優れているため,軽水炉に比してウラン所要量,とくに濃縮ウラン所要量を大幅に低減することが可能である。また,燃料として微濃縮ウラン燃料およびプルトニウム富化燃料のいずれをも使用することが可能であるので,燃料選択の自由度が大きく,したがって,ウラン価格,ウラン濃縮作業料金の変動あるいは濃縮能力等,核燃料に関連する海外の事情に対して,かなり自主性を保つことが可能である。さらに経済性についても軽水炉に匹敵しうると予想されており,新型転換炉の早期実用化が強く望まれるととろである。
 新型転換炉の開発にあたっては,動力炉・核燃料開発事業団の動力炉開発業務に関する第2次基本計画(昭和46年4月1日)に基づき,動力炉・核燃料開発事業団が中心どなって,初期装荷燃料として微濃縮ウランおよび一部プルトニウム富化天然ウランを用いる電気出力,16万5千KW(定格出力)の重水減速沸騰軽水冷却型の原型炉を昭和50年度頃に臨界に至らせることを目標に建設をすすめる。
 原型炉の建設と並行して,炉物理,熱ループ実験,機器部品の開発,核燃料の開発,安全性の研究等の研究開発を実施し,その成果を原型炉の建設に反映せしめることとする。

3.新型転換炉の実用化

 上述の原型炉の完成と「新型転換炉評価検討委員会報告書」(昭和44年10月13日)の指摘にかかる大型化のための研究開発の実施とによって,技術的には安定した運転の可能性が経済的には将来大型化による他の炉型との競合性についての見とおしが得られる。
 原型炉にひきつづく実用炉の建設を円滑に実現するための方策については,所要の時期までに検討することとする。
 このようにして電力系統に導入される新型転換炉の全原子力発電設備に占める割合は,昭和65年度にはかなりの部分に達するものと期待される。その後高速増殖炉が実用化された場合には,新型転換炉は高速増殖炉の燃料として必要なプルトニウムを供給する役割を果たすことも期待され,長期間高速増殖炉と併存するものと見込まれる。
 このほか,新型転換炉実用化に関連して重水製造能力を有しないわが国としては,低廉かつ安定した重水の確保が重要な問題である。カナダを中心とした重水生産計画の実現を期待するものとして世界の重水の需給バランスをみると,昭和55年度頃までは,供給が需要を上回っているが。昭和55年度以降,重水炉が本格的に実用ベースで導入された場合に,は,かなりの供給不足が予想されるので,わが国としては,世界の状況を十分勘案しつつ,その安定確保の方策について検討するものとする。

4.高速増殖炉の開発

 高速増殖炉は,消費した量以上に,核燃料を生成する画期的なものであり,ウランのもつエネルギーを最高限度に利用することが可能であるとともに,その発電コストも低下する可能性を有していることなどから,将来の原子力発電の主流になるものと考えられる。
 高速増殖炉の開発にあたっては,前述の第2次基本計画に基づき動力炉・核燃料開発事業団を中心として,ナトリウム冷却型の実験炉,原型炉の建設をすすめるものとする。
 すなわち,実験炉については初期熱出力5万KW(目標熱出力10万KW)のものを昭和49年度に臨界に至らせることを目標とする。また原型炉としては,プルトニウムとウランの混合酸化物系燃料を用いる電気出力20万KWないし30万KW程度のナトリウム冷却型炉を昭和53年度頃臨界に至らせるものと想定して所要の設計研究を実施し,事前の研究開発の成果および海外における技術の動向等の評価検討を行ない,原型炉建設の適否について結論を得るものとする。
 これらの建設,設計等と並行して,炉物理,ナトリウム技術機器部品の開発,核燃料の開発,安全性の研究等の研究開発を実施し,その成果を逐次実験炉,原型炉の建設に反映せしめることとする。
 高速増殖炉の実用化は昭和60年代と見込まれるので,その実用化にあたつては,今後さらに検討するが,諸外国における開発の例等から判断すると,実証炉の建設など積極的に実用化の方策を講ずることについても,考慮する必要がある。
 さらに,将来における高性能の高速増殖炉の開発にそなえ,ガス冷却型高速増殖炉および炭化物燃料等に関する基礎研究を推進することとする。


第3章 核燃料

1.基本的考え方

 原子力発電の飛躍的な進展に伴い,わが国のエネルギー供給源としての原子力発電の役割は急速に増大しつつあり,このため,必要な多量の核燃料を安定的に確保するとともに,その有効利用をはかることはきわめて重要である。とくに今後10数年間は軽水炉が原子力発電の主役を担うとみられるので,濃縮ウランの安定確保が最も重要な課題である。さらに,わが国はウラン資源に乏しく,加工事業,再処理事業もようやく緒についたばかりであるなど,わが国に適した核燃料サイクルが確立されるための基盤は全体的にいまだ弱体である。このため,政府は,今後,海外ウラン資源の積極的確保策を講じ,またウラン濃縮技術の研究開発を強力に推進するとともに,加工事業,再処理事業その他核燃料関連事業の育成強化をはかり,わが国に適した核燃料サイクルの確立に努めることが必要である。

2.ウラン資源の確保

(1)わが国のウランの需要と確保状況
 わが国における今後の原子力発電規模の見とおしに基づきウランの所要量を計算すると,八三酸化ウラン量で昭和55年度には約8,000シヨート・トン,昭和65年度には約15,000シヨート・トンとなり,その累積量はそれぞれ約48,000シヨート・トン,約170,000シヨート・トンに達する。((第3-1表 参照))

 ウラン資源の確保については,これまで国内において積極的な調査,探鉱活動を行なつてきたが,把握されたウラン資源の埋蔵量は,八三酸化ウラン換算で8,000シヨート・トン程度にすぎず,今後もその飛躍的増加は期待できない見とおしである。このためわが国としては,海外にその供給源を求めざるを得ず,すでに民間において合計約65,000シヨート・トンの海外ウラン購入契約が締結されている。これにより昭和60年度頃までに必要とされる量のほぼ3分の2が確保されたことになるが,その後の手当てはまだ不十分である。

(2)海外のウラン需要と探鉱状況
 欧州原子力機関(ENEA)および国際原子力機関(IAEA)が作成した報告(1970年)によると,自由世界のウラン所要量は1980年(昭和55年)に約73,000シヨート・トン,1985年(昭和60年)に約130,000シヨート・トンで,1985年(昭和60年)までの累積所要量は約960,000シヨート・トンに達するものとみられている。これに対し,自由世界において,現在,経済的に採掘可能なウラン資源の埋蔵量としては,八三酸化ウラン換算で約840,000シヨート・トンが確認されているにすぎない状況である。
 このため,今後大規模なウラン鉱床が発見されなければ,ウランの需給関係は昭和50年代中頃には現在の買手市場から売手市場となると思われる。しかも,これまでに発見されているウラン資源は米国,カナダ,南ア共和国等の特定地域に偏在し,また,国際大資本等による寡占化傾向が顕著となつてきているので,将来におけるウラン資源の安定確保については必ずしも楽観することができない。
 このような事情から,世界的にウラン資源の調査探鉱活動が活発になつており,とくにウラン資源に乏しい西独,フランス,イタリア等の欧州諸国は,政府自ら海外資源の確保を積極的にすすめるとともに,民間の探鉱活動に対し強力な助成措置を講じている。

(3)わが国の海外ウラン資源確保策
 先に述べたように,わが国はウラン資源に乏しくその供給を海外に依存しなければならないが,世界的な需給バランスからして,長期的たは既知鉱床のみに依存することはできず,新たな鉱床の発見と開発が不可欠である。
 しかしながら,これら新鉱床の発見と開発は巨大な国際資本等によつて独占的に行なわれる傾向にあり,わが国にとつてウラン資源の安定確保が妨げられるおそれがある。したがつて,海外ウランの長期購入契約等をひきつづき促進するとしても,長期的には開発輸入の比率を高める必要がある。このため,年間所要量の3分の1程度を開発輸入により確保することを目途に,民間企業が主体となって政府の強力な助成措置のもとにウラン資源の確保を早急にすすめることが必要である。

(a)政府による調査活動の強化
 動力炉・核燃料開発事業団の先駆的な基礎調査活動を一層強化拡充し,得られた情報等を民間企業に提供することにより,その調査探鉱活動を促進することどする。また民間企業の進出していない有望地区には探査権を設定するとともに調査を行ない,企業探鉱への見とおしを得る段階までの間に民間に引き継ぐものとする。

(b)民間企業に対する助成強化
 民間企業による海外ウラン資源開発については,昭和45年度に鉱山業界,電力業界等の出資により設立された「海外ウラン資源開発株式会社」が,フランス原子力庁およびニジエール政府との共同開発によりニジエール国においてかなりの成果をあげており,今後の活動が期待されるところである。しかし,一般に海外における探鉱開発には長期間を要するとともに,資金もぼう大な額にのぼり,かつ,大きなリスクを伴うため,民間企業に対する助成を一層強化し,次のような施策を講ずることが必要である。

(4)国内探鉱開発のすすめ方
 国内ウラン資源の調査および探鉱は,これまで主として動力炉。核燃料開発事業団により全国的な規模ですすめられ,鉱量の把握,推定に一応の成果をみたが,今後は未調査のまま残されている有望地区につき,昭和50年度終了を目途に概査を中心とした探鉱を行なうものとする。

3.濃縮ウランの確保

(1)わが国の濃縮ウランの需要見とおし
 原子力発電の本格化に伴い,濃縮ウランの需要は急速に増大する見とおしである。すなわち,今後10数年間に建設が予定される原子力発電所は軽水炉によるものが大部分であり,現在,動力炉・核燃料開発事業団において積極的に開発のすすめられている新型動力炉が実用化されても,ひきつづきなお相当量の濃縮ウランが必要と見込まれる。今後の原子力発電規模の見とおしに基づき濃縮ウランの所要量を試算すると,昭和55年度には年間約5,000トンSWU,昭和65年度には年間約11,000トンSWUに達する。((第3-2表 参照))

(2)濃縮ウランをめぐる世界の動向
 自由世界の原子力発電設備容量は年々増加の一途をたどり,前述のENEA/IAEA報告(1970年)によれば,1980年(昭和55年)には約3億KWに達し,これに伴い同年における濃縮ウランの需要も約4万トンSWUに達すると予想されている。
 現在,自由世界で商業的に濃縮ウランを供給できるのは米国のみであり,同国は,現有3工場の能力増強等により,この増大する内外の需要に応じていくものとみられているしかしながら,1980年代に入ると米国が世界のぼう大な需要を満たしていくことは困難であるとみられ,かつ,濃縮料金が値上りの傾向にあるとともに,濃縮施設の民間移管等その供給に不安定要素があるので,各国はエネルギーの安定確保の面から何らかの方法で濃縮ウラン入手先の多様化安定化をはかるべく努力している。
 欧州では,英国,オランダ,西独3国が遠心分離法による濃縮ウラン生産計画をすすめるとともに,フランスも自国のガス拡散技術による共同濃縮工場建設計画を発表している。
 また,オーストラリア等のウラン資源国においては,付加価値の高い濃縮ウランの形でウランを市場に出すべく,米国等の濃縮技術を導入して自国に多国間協力による国際濃縮工場を建設する構想について検討をすすめている。
 これらの動きに呼応して,米国は1971年7月,資金上および機密保護上適切な取決めを得れば,多国間ベースで行なう濃縮計画に対し,同国のガス拡散技術を提供する可能性があるとして,関係国と予備的話し合いに応ずる用意があることを表明した。

(3)わが国の濃縮ウラン安定確保策
 前述のとおり,わが国では多量の濃縮ウランを必要とするが,これを確保するため,ひきつづき米国からの供給確保に努力するほか,とくに1980年頃以降に新たに必要となる濃縮ウランを確保するため,国際濃縮計画への参加を考慮しつつ,1980年代に一部国産化しうることを目途に所要の研究開発を推進していくものとする。

(a)日米原子力協力協定による供給確保
 現在,日米原子力協力協定により確保されている濃縮ウランの供給量は,1973年(昭和48年)までに着工が.予定されている26基の発電用原子炉(出力合計約1,800万KW)に必要な328トン(U235量)であるが,さらに1974年(昭和49年)以降に着工が予定される発電用原子炉(に要な濃縮ウランの供給についても早急に米国と交渉を開始することとする。

(b)国際濃縮計画
 1980年代に入ると,米国の現有工場のみでは自由世界の需要をまかなうことはできなくなる情勢にあり,かなりの需要をもつわが国としては,米国の新工場あるいは国際共同濃縮事業の帰すうに重大な関心がもたれるところである。
 国際共同濃縮事業については,わが国の態度いかんによって大きく左右されるものと思われるので,この計画の可能性について検討し,遅くとも1973年(昭和48年)には,わが国としての方針を決定することが必要である。
 このため,政府としての基本的な方針の決定に資するよう原子力委員会に設置された国際濃縮計画懇談会を中心に所要の検討を行なうとともに,国際濃縮計画に関し総合的な調査検討を行なうために民間に設置されたウラン濃縮事業調査会に対し所要の調査を委託するものとする。

(c)ウラン濃縮技術の研究開発
 濃縮ウランの長期安定確保をはかるため,その需要の一部について1980年代に国産化しうることを目途に,所要の研究開発を強力に推進するものとする。これらの研究開発は,さらに長期的かつ具体的な計画のもとに推進する必要があるので,原子力委員会に設置されたウラン濃縮技術開発懇談会において,研究開発計画,開発体制等につき検討を行なうものとする。

4.核燃料の加工

(1)ウラン燃料の加工
 わが国における軽水炉燃料の所要量を,今後の原子力発電規模の見とおしに基づき試算すると,低濃縮ウランの量にして昭和55年度には約1,400トン,昭和65年度には約2,800トンに達する。
 ウラン精鉱および減損ウランから六弗化ウランへの弗化加工は,当分は米国等に依存せざるをえないが,濃縮ウランの国産化に関連しているのでこれの加工技術の研究開発をすすめておく必要がある。
 転換加工および成型加工は,わが国においては他の核燃料分野に比べて比較的国産化が容易な分野であり,自主技術あるいは導入技術をもとに国産化の体制が整いつつある。しかし,その体質はなお弱く,品質の良好な核燃料を安定かつ低廉に供給し,輸出産業にまで発展するためには,今後も多大の努力を要するものと思われる。とくに,燃料設計,燃料管理等の面での海外との技術格差は依然として大きい。このため品質管理等に関して技術の蓄積をはかるとともに,設計,管理等燃料の基本的な技術分野での研究開発の促進が望まれる。また,独立系燃料加工メーカーを育成し,原子炉系メーカーによつて実質的に二分された状態にある核燃料加工市場に有効競争を実現させることが必要である。この場合,転換加工と成型加工の一貫化の動きに留意しつつ,スケールメリットを生かした適正規模の産業に育てる必要がある。
 被覆管の製造については,これまでの研究,試作により,あるいは技術導入をもとに,その技術は全体としてすでに実用段階にあるとみられる。今後は商業炉における実用化を目標に,国際競争力を高めるため一層の品質向上と一貫化,量産化をすすめることが必要であり,企業間における協調提携の努力が特に重要である。
 なお,現在電気事業者は,原子炉メーカーのサービスのもとに核燃料の入手,管理を行なつているが,今後は核燃料の設計,管理等核燃料技術の能力を相当程度自らが保有し,核燃料の選択について自主性をもつことが望まれる。
 このような方向で,核燃料加工産業の基盤強化をはかるため,政府は民間における研究開発について,日本原子力研究所の材料試験炉等の施設,動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センターの施設の利用に関して,便宜を与えるなど所要の措置を講ずることが望ましい。

(2)プルトニウム燃料の利用
 わが国におけるプルトニウムの生成量は昭和55年度には累積で約13トン,昭和60年度には,約45トンになると見込まれる。これに対してプルトニウムの需要は研究用として昭和60年度までに数トンが予想されるのみで,昭和60年度までに約40トンの余剰プルトニウムが生ずることとなり,世界的にも昭和60年度には米国で二百数十トン,欧州で百数十トン程度累積すると見込まれる。熱中性子炉から生成されたこれらの余剰プルトニウムの利用については,高速増殖炉の初装荷燃料に備えて貯蔵するか,あるいは熱中性子炉にリサイクルするかの問題があるが,世界の大勢は当分は後者にあるとみられる。
 プルトニウムの核的性質からは,これを高速増殖炉に使用するのか最も有効であるが,高速増殖炉の実用化の時期,その導入規模,プルトニウムの貯蔵技術等との関連でプルトニウム貯蔵の経済性については種々不確定要素がある。これに対しプルトニウムを軽水炉にリサイクルする場合は天然ウランおよび濃縮ウランの所要量をそれぞれ15%程度節減できるとみられるので,大量のウラン質源および濃縮ウランの確保をせまられているわが国としては,プルトニウムを軽水炉燃料として役立てることが必要である。
 プルトニウムの軽水炉燃料としての利用技術については,欧米では基本技術の開発は終わつてすでに実証試験の段階にすすみ,近く商業的にリサイクルが開始されるものと思われる。わが国においても電気事業者が中心となって,米国の実証プロジェクトに参加しているほか,商業炉での照射計画がすすめられており,今後も民間が主体となって一層効率的に研究開発が行なわれることを期待する。これらの研究開発を促進するため,政府は,動力炉・核燃料開発事業団や,日本原子力研究所の諸施設および技術的経験の利用につき適切な措置を講ずるものとする。
 また,新型転換炉および高速増殖炉に用いられるプルトニウム燃料についての研究開発は,動力炉開発の一環として,強力に推進するものとし,高速増殖炉の実用化に伴つて必要となる多量のプルトニウム確保策については,高速増殖炉開発の進捗状況に応じて,今後検討を行なうものとする。

5.使用済燃料の再処理

(1)再処理事業のあり方
 使用済燃料からウラン,プルトニウム等の有用核物質を分離抽出し,放射性廃棄物を安全に処理することは,核燃料の安定供給および安全確保の観点からとくに重要であり,また現在国のプロジェクトとして開発がすすめられている新型動力炉にとっては,プルトニウムをリサイクルすることが不可欠となる。このため,核燃料サイクル確立の一環として再処理は国内で行なうことを原則とし,わが国における再処理事業を早急に確立するものとする。
 現在,動力炉・核燃料開発事業団において建設中のわが国最初の再処理施設(最大処理能力年間210トン)は昭和49年度に操業を開始することとなっているがわが国の使用済燃料の排出量は,昭和52年度頃にはこの処理能力を上まわり,昭和55年度には年間約700トン,昭和65年度には約2,600トンに達する見とおしである。
 再処理工場の建設には,長期間を要するので,動力炉核燃料開発事業団の施設に続く再処理工場の建設に早急に着手する必要があるが第2工場以降の建設は動力炉・核燃料開発事業団の施設において得られた経験を生かして,民間において行なわれることを期待する。
 再処理事業の安定操業のためには,スケールメリットを生かすことが重要なので,電気事業者を含む関係業界において早急に協調体制の確立をすすめることが望まれる。

(2)再処理事業の育成策
 再処理工場の建設には多額の資金と長期の日時を必要とし,また,立地や放射性廃棄物の処分について困難な問題が少なくない。
 このため,政府としては,以下の諸施策を講じわが国における再処理事業の育成をはかることが必要である。

(3)高速増殖炉燃料の再処理法の研究開発
 高速増殖炉にあっては,経済性向上のため迅速なプルトニウムリサイクルが求められるが,高速増殖炉の使用済燃料は,他の炉型から排出される燃料に比べて,燃焼度およびプルトニウム濃度が格段に高く,その再処理には解決すべき多くの問題が残されている。
 このため,関連技術の確立について事前に十分な準備をしておく必要があり,昭和50年代中頃から排出の始まる高速増殖炉原型炉の使用済燃料を湿式法で再処理することを目途に,動力炉・核燃料開発事業団が中心となって研究を行なうものとする。
 なお,長期的には処理工程が短く,液体廃棄物が生じないなどの利点を有する乾式法の実用化が期待されるので,これについては,ひきつづき日本原子力研究所において所要の研究をすすめるものとする。

(4)使用済燃料の輸送
 動力炉・核燃料開発事業団の再処理施設は昭和49年度操業開始の予定であり,これを機に各原子力発電所から同施設への使用済燃料の輸送が本格化すると思われるが,その後,原子力発電所から排出される使用済燃料は,昭和55年度には約700トン,昭和65年度には約2,600トンに達し,これらは動力炉・核燃料開発事業団または将来建設される民間の施設まで輸送されることとなる。使用済燃料の大量輸送はわが国としては初めての経験であり,その安全性の確保については十分意を用いなければならない。
 このため,輸送方法,輸送技術等について十分な検討を加え,輸送容器の製作および使用または輸送業務の実施にあたつて準拠すべき技術基準をはじめ関係法令を整備すること等により使用済燃料の輸送が事業として存立発展するための基盤を整備する必要がある。


第4章 安全対策

1.安全対策に対する基本的考え方

 原子力の開発利用にあたつては,放射線に対する安全の問題に慎重に対処する必要がある。このため原子力施設における安全確保に万全を期するとの立場にたち,政府は,必要な法的措置および体制の整備を原子力開発利用と表裏一体となって実施するとともに,積極的な研究開発をすすめてきた。しかし国内各地に設置される原子炉,再処理施設,放射線取扱施設,原子力船等の原子力施設が急増すること,原子炉の高出力化がすすみ,性能向上をめざす設計が行なわれること,国内に保有される核燃料物質,放射性物質の種類,数量が増加すること,さらに多面的な放射線の利用が著しく普及することなど原子力の利用の本格化に伴い,原子力施設の安全性を確保し,公衆および従業員を放射線の危険から守ることは,今後とも,ますます重要な課題となっている。
 このような観点から,原子力施設設置者が安全性の確保について十分な責任を果たすことはもとより政府としても,多様化する原子力施設の設置,運営に関して国民の安全を厳格に保証する立場で,規制を行なうことが必要である。

2.原子力施設の安全確保

(1)原子力施設の安全審査と安全基準
 原子力施設における安全確保に万全を期するためには,まず厳格な安全審査を行なうことが前提であり,従来から安全審査にあたっては十分な意をはらつてきたところであるが,近年における原子力発電の大規模な開発,原子力施設の高度化,多様化等に伴つて,安全審査を一層強化充実し,あわせてその合理的運用をはかることが重要となつている。このため常に最新の技術資料,データ等の収集および評価処理能力について一層の充実をはかることが必要である。
 このような観点から,安全審査機能の充実安全評価のための研究のすすめ方等必要な検討を行なうことどする。
 安全基準の整備については,新型動力炉の開発等急速な技術の進歩に伴って生ずる新しい事態に即応して,現行の原子炉立地審査指針,原子炉安全解析のための気象手引,原子炉設計審査指針等の不断の見直しを行なう必要がある。これら現行の諸指針は,主として軽水炉を対象としたものが多いが他の炉型の原子炉についても適用できるよう検討を加えるてととする。また,再処理施設,プルトニウム取扱施設等に対する安全審査指針,輸送容器の設計基準,原子力施設の運転時における放射線安全上の指針等の整備をはかることとする。
 上述のような原子力施設の諸基準の整備改訂を現実の要請に遅れることなく円滑に実施していくためには,関係各界の学識経験者等による検討をもとに,常に基準の整備をはかることが必要である。

(2)原子力施設の運転,保守および事故対策
 原子力施設の運転保守にあたつては,従事者の安全意識の向上および技術者の資質の向上,保安規定の整備,安全貨理体制の整備,施設設備の改善,信頼度の維持向上等をはかるとともに,高放射能下の各種検査技術事故の早期発見方法等の研究開発を行ない,事故防止に万全を期さなければならない。
 また事故および故障の原因や状況を把握し,分析することは同種の事故を防止するためにきわめて重要であるので,原子力施設の多様化,延べ運転時間の増加に対処して原子力施設に関する主要な事故,故障,異常現象等についての情報の収集,記録の保持,分析等を行なう機能を整備することが必要である。
 なお,このようは事故対策に加えて,いかなる災害にも十分対処しうるよう必要な防災対策を確立しておくことは,きわめて重要である。
 このため,災害の予防および災害発生時における応急対策等について,適切に対処しうる体制を整備充実する必要がある。

3.放射線管理および放射線防護

 原子力施設における放射線管理については,原子力関係法令に基づき,周辺の公衆および従業員の安全に支障が生じないよう従来から,十分な配慮がはらわれてきているが,さらに万全の対策を立てる必要がある。
 とくに,放射線防護に関する管理体制については放射線作業従事者の数が増加の一途をたどりつつある現状にかんがみ,長期的にみた被ばく線量管理のための被ばく線量の一元的な登録管理制度を設け,職業上の全被ばく線量を把握する必要がある。これは施設の管理体制の改善へのフイードバツク,放射線作業従事者の健康管理,職業被ばくの国民線量への寄与の推定等に効果的な制度として重要である。また,放射線作業従事者の安全確保については作業環境の安全性向上のためこれに必要な機器等の開発をすすめるとともに,従業員の安全に関する教育訓練等の充実をはかることが必要である。

4.研究開発

(1)原子力施設の安全研究
 原子力施設の安全の確認と確保のためには,常に広範囲にわたる研究開発を行ない成果の蓄積とその効果的な適用をはかることが肝要である。原子力施設における安全確保の問題は,施設の設置者はもとより政府としても国民全体の安全性確保の面から大きた責任があるので,その研究開発については民間および政府が役割を明確にしつつ協力してすすめることが必要である。とくに,原子力施設の安全研究には大規模な設備を用いて総合的かつ計画的に行なう必要のあるものが多いので,重点的な研究課題をえらび具体的な実施計画を立て,原子力関係機関をはじめ,大学,国公立試験研究機関および民間企業等が各自の分担を明確にして研究開発をすすめる体制を整備するとともに,海外との協力,分業による研究体制を確立することが必要である。
 このような観点から原子力の安全性に関する研究開発については,以下のでとき研究課題の重要度を評価し,計画の立案,成果の評価等について検討しつつ,強力にこれを推進することとする。

(2)ラジオ・アイソトープの安全取扱研究
 現在多種類の密封線源が広範囲にわたつて使用されているが,その安全性についてはなお検討の余地が多い。したがつて,これらの研究を強力に推進し密封線源検査法をISO(国際標準機構)規格等の国際的な規格との関連において確立することが重要である。とくにアイソトープ発電器,ペースメーカー等,線源の新しい利用法の開発に伴い,これらの取扱い全般にわたって検討を加え,安全取扱法の確立をはかるべく,研究開発を行なう必要がある。
 非密封の線源の場合も,トリウム等をかなり大量に使用する実験が増加してきているので,それらのいくつかの核種に対して使用,保管,廃棄まで合めた安全取扱マニュアルを作成するよう研究開発を行なう必要がある。
 また一般にアイソトープを安全に取扱うためには,線源容器,防護用具,適切な線量測定機器等の開発ならびにその性能向上に関する研究や遮蔽基準等大量放射線施設に対する安全性に関する研究を推進することが必要である。

(3)その他の安全研究
 以上のような安全研究のほか,プルトニウム等の超ウラン元素等の特殊核種に着目した研究,防護マスク等放射線防護用具の開発および放射線の人体に対する影響の解明,体内被ばく線量の推定,放射線障害の予防,治療等に関する研究については,今後とも継続して推進する。


第5章 環境保全

1.環境保全への要請

 わが国では原子力開発利用の当初から安全性の確保に万全を期するとともに,放射性物質の環境への放出についてば極力これを低減させるよう努力してきており,また,万一放射性物質の異常な放出が起っても,人間とその環境に大きな影響が及ばないよう十分なる配慮を施してきたところである。
 しかし,今後予測される原子力発電規模の増大や使用済燃料の再処理工場の建設等原子力開発利用の進展に伴い,放射性廃棄物が大量に発生する見とおしであり,これに伴い環境に放出される放射性物質の量が増大することも予想される。また,原子力発電規模の増大に伴い放出される温排水が周辺海域に与えるかもしれない影響が問題となることも考えられる。
 とくに,国土が狭隘で,人口密度が高く,海洋資源への依存度の大きいわが国の自然的,社会的諸条件を考慮すると,良好な環境を保持する必要性はきわめて大きく,原子力開発利用の飛躍的発展に伴っては,それ相応に入念な環境保全への諸対策が強く要請されるところである。このような,観点から,原子力開発利用の健全な発展を保証するためには,環境の保全を重視するとの立場から,固体廃棄物の処分,原子力施設からの放射性物質の放出等をはじめとする放射性廃棄物の処理処分を安全かつ経済的に行なうとともに,温排水の影響に対して適切に対処するなど,環境保全に対する社会的要請に十分応ずることが必要である。

2.放射性廃棄物の処理処分

(1)基本的考え方
 放射性廃棄物は原子力施設から気体,液体,固体の状態で発生するが,これを可能な限り厳重にかつ長時間封じ込めて人間の管理下におくべきもめとする。しかし処分またはやむを得ず環境に放出する場合には十分安全を確保しつつ,かつ実行可能な限り環境への逸散量を,少なくすべきものとする。
 そのためには,今後の技術開発にまつところが大きいので,技術開発を積極的にすすめなければならない。
 また,放射性廃棄物の処理処分に関する施策の具体化と技術進歩に対応して,必要な法令等の整備を行なうこととする。
 気体および液体状で環境に放出されるものについては,環境問題の項で取り扱うこととする。

(2)処理の方針
 原子力施設で発生する放射性廃棄物を処分するに先立ち,前処理,固形化等の処理を施すことが必要である。

(a)前処理技術
 原子力施設で発生する気体状のものは,ろ過,捕集,貯留,化学処理等を行なつた後,その一部を環境に放出する。減容,濃縮等の固形化しやすくする前処理として,液体状のものは蒸発,イオン交換,凝集沈でん等の処理を行ない,また固体状のものは焼却か焼,圧縮,切断等の処理を行なう。

(b)固形化技術
 放射性廃棄物を処分したときに内包されている放射性物質の環境への逸出を防ぎ,かつ荷役輸送等の作業中に作業従事者に対する被ばくおよび漏出等の危険をもたらさず取扱いを容易にするため,セメント,アスファルト等で固形化を行なう。

(3)処分の方針

(a)低いレベルの固体放射性廃棄物
 原子力発電所等で発生する廃液を濃縮したものなど低いレベルの放射性廃棄物については,これを固形化し,その種類,性状,発生量,今後の処理処分技術の研究開発,その他社会的状況および国際的動向を考慮して,陸地処分,海洋処分を組み合わせて実施する方針でのぞむものとする。

(イ)陸地処分
 低いレベルの放射性廃棄物の陸地処分の可能性については,その方法,場所等について検討をすすめる必要がある。そのためには無人ないし人口希薄な場所について水理地質および土木地質の観点を含む地質学的条件等の調査を実施し,処分に関する技術的内容も含めで,昭和50年代初め頃までにその見とおしを明確にするものとする。

(ロ)海洋処分
 処分キュリー数を制限するならば,海洋処分を安全に行なう方法を立案することは可能であると思われるので,その安全性を保障し得る処分量に限定し,これを満たす規模と内容の海洋調査を事前に行なう一方,種々の被処分体サンプルを用意して総合的な安全評価を行ない試験的海洋処分を実施し,投棄後の被処分体の追跡および海洋調査を行なう。
 これらによつて得られる知見およびその時までの深海に関する最新の知見に基づいて,昭和50年代初め頃までに海洋処分の見とおしを得ることとする。

(b)中程度のレベルの放射性廃棄物
 原子力施設で発生するイオン交換樹脂等中程度のレベルの放射性廃棄物については,技術開発の進展を考慮しつつ,昭和50年代半ば頃までにその処分の方針を決定するものとし,それまでは当該施設内に保管しておくものとする。

(c)高いレベルの放射性廃棄物
 核燃料再処理施設等で発生する高いレベルの放射性.廃棄物については当面慎重な配慮のもとに保管しておくものとする。

(4)研究開発
 放射性廃棄物の処理処分に関する研究開発の基本的な考え方は,安全の確保と環境の保全を第1とし,次いでその処理処分の経済性の向上をあわせはかるものとする。
 このためには,民間企業および政府が協力して,放射性廃棄物の処理処分の目標年次に合わせて,計画的かつ総合的に研究開発をすすめることが必要である。

(a)処理技術の研究開発
 下記に述べる主要な事項に重点をおいて処理技術の研究開発をすすめることとする。

(イ)低いレベルの放射性廃棄物
 低いレベルの固形化されうる放射性廃棄物については,廃液の蒸発濃縮,イオン交換樹脂による処理,可燃性物質(生物体を含む)の焼却減容と排気処理等の技術の開発に努めるとともに,セメント,アスファルト等による固形化技術の確立につとめる。

(ロ)中程度のレベルの放射性廃棄物
 中程度のレベル固形化されうる放射性廃棄物については,均圧容器,耐圧容器等の処分のための収納容器に関する研究開発および内容物の浸出防止対策等の研究開発をすすめる。

(ハ)高いレベルの放射性廃棄物
 高いレベルの放射性廃棄物については,当面,地上施設に保管貯蔵することが考えられるので,安全かつ確実に長期間貯蔵しておくために必要な固形化等の技術の開発をすすめる。

(b)処分技術の研究開発
 放射性廃棄物を安全かつ経済的に,人間環境から隔離するための処分技術の研究開発をすすめることが必要である。

(イ)陸地処分
 放射性廃棄物を陸地に処分する場合には,その施設が長期にわたつて放射線や地震等の影響によつても損傷することなく,その機能を保つ方法,技術の研究開発をすすめることが必要である。
 放射性廃棄物を地下に処分することに関しては,放射性廃棄物を地下処分した領域から放射性物質の流出を防ぐ被覆等の技術,放射性物質が拡散しない地層の調査研究およびそれへの処分技術,廃液の圧入等の技術の研究開発をすすめる必要がある。

(ロ)海洋処分
 固形化された放射性廃棄物の海洋処分に関しては,海洋処分に必要な海洋環境に関する調査研究を行なうとともに,試験処分による被処分体の挙動と処分後の周辺海洋環境の変化に関する調査研究および安全投棄技術に関する研究開発を早急にすすめる必要がある。

(c)その他の研究開発

(イ)放射性廃棄物の輸送技術に関する研究開発
 固化体の大型化,専用コンテナの開発等,輸送能率の向上のための研究開発,荷役投棄作業の機械化等の技術の開発が必要である。
 また,放射性廃棄物を未処理のまま輸送する可能性を考慮して,そのための安全輸送技術の研究開発を行なう必要がある。

(ロ)モニタリング技術に関する研究開発
 放射性廃棄物を処分した深海,地下等の領域をモニターする技術の研究開発をすすめる必要がある。
 また,未だ十分な知見の得られていない深海,土中等について,研究が行なわれることが望ましい。

(ハ)アルファ汚染廃棄物に関する研究開発
 プルトニウム等によって汚染したアルファ汚染廃棄物の処理処分および安全取扱技術等の研究開発をすすめる必要がある。

(ニ)放射性廃棄物の有効利用に関する研究開発等
 使用済燃料の再処理に伴って発生する高いレベルの放射性廃棄物から,有用な長寿命核分裂生成物や超ウラン元素を分離,利用する方法等,放射性廃棄物の有効利用に関する研究開発をすすめる必要がある。
 このほか,高中性子束等の照射により,長半減期核種を短半減核種あるいは安定核種にまで転換する技術の可能性についても,調査検討をすすめることが望ましい。

3.原子力施設周辺の環境保全

(1)基本的考え方
 原子力施設周辺環境の保全については,今後の原子力施設の急増,規模の増大,質的多様化等を考慮して,これに対処しなければならない。
 原子力の開発利用に伴う問題として特徴的なものは,放射能の影響と温排水の影響の問題が考えられる。
 放射能の影響には,身体的影響および遺伝的影響があるが,低線量域におけるこれらの影響に関して十分な知見が得られていないために,放射線防護の立場からは,しきい値のない直線的線量効果関係が仮定されている。この立場に立つて,原子力の開発利用をすすめるに際して放射性物質をやむを得ず環境に放出する場合には,実行可能な限り,これを低減させなければならない。
 わが国は従来から国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に準拠して安全の確保をはかってきたが,今後とも,ICRP勧告等国際的な基準値のみならず,その背後にある考え方をも尊重して,一個人および集団としての国民の被曝が,ICRPの示す線量限度を下まわることはもちろん,さらに実行可能な限りこれを少なくしなければならない。また,現行の放射性廃棄物の濃度規制に加えて,絶対量の規制を検討することも必要である。
 また,環境に影響を及ぼすような事故が発生しないよう,これまで安全対策が十分施されており,万一起るかもしれない事故についても対策が施されているが,今後一層その対策をすすめるとともに,関連する調査研究を推進する必要がある。
 温排水の問題は,原子力発電と火力発電に共通する問題であるが,原子力発電では,使用する冷却水量が多く,施設が集中する場合には,沿岸漁業が盛んなわが国の現状を考慮すると,より影響が大きいと考えられるので,温排水の放出により生ずる周辺環境への影響のみならず,地域の漁業者や住民に及ぼす社会的,経済的影響も考慮して対策を講ずる必要がある。しかし温排水に関する知見は十分でないので,これに関する調査研究を積極的にすすめる必要がある。
 そのため,原子力発電所設置予定周辺海域における環境,とりわけ生態系について事前に十分な調査研究をすすめる一方,すでに原子力発電所が設置されている場合には,温排水の放出による生態系の変化とその程度を.把握することに努め,今後の原子力発電所の規模増大伴って多量に放出される温排水の影響を的確に判断し,適切な措置を講ずることが必要である。また,これらの調査研究に基づき,原子力施設の立地を考えろ場合には,魚類の再生産や漁場の形成に悪影響を及ぼさないよう十分なる配慮が施されなければならない。
 以上のような方針のもとに,自然景観の保護を含め総合的に環境の保全をはかるため,原子力施設における環境保全の指針,環境放射能の監視体制,環境保全に必要な調査研究のすすめ方等について具体的に検討していくことが必要である。

(2)調査研究
 環境問題に関する調査研究のすすめ方については,問題,の多面性にかんがみ,専門を異にする研究者および技術者の協力が要請されているところであり,従来から実施してきた研究をふまえて関係機関の協力のもとに,総合的かつ計画的に調査研究を実施することが必要である。

(a)放射線に関する調査研究  原子力施設の設置に伴い発生する放射性物質は可能な限り”封じ込める”こととするが,やむを得ず環境に放出する場合には基準レベル以下に制限することはもちろん,実行可能な限り低くする」との理念のもとに,人間はもとより環境に悪影響を与えないようにする必要がある。環境に放出された放射性物質が人間にとり込まれるまでの挙動については,核爆発実験による放射性降下物の影響に関して昭和36年度以降研究がすすめられ,かなりの成果が得られているが,今後はとくに原子力開発利用に関連の深い核種についてその挙動を解明し,人間および環境に対する影響を研究する必要があり,あわせて放射性物質による人体の被ばくの低減のための対策を樹立することが重要である。
 したがつて,下記の項目に重点をおいて総合的な調査研究をすすめることが必要である。

(b)温排水に関する調査研究
 温排水による周辺海域の表層部海水の水温の上昇,表層および中,下層海水の流動の変化,ならびに構築物の設置等により周辺海域の生物等に影響を生ずることが考えられるほか,今後予想されている原子力発電規模い増大に伴い,影響範囲がさらに沖合にまで及ぶ可能性もある。
 したがって,下記の項目に重点をおいて総合的な調査研究をすすめることが必要である。


第6章 原子力船

1.原子力船開発の意義

 最近における世界海運の趨勢をみると,世界経済の発展に伴つて,国際貿易量は大幅に増加し,大量かつ低廉な高速輸送に対する社会的,経済的要請はますます大きくなつてきている。
 これに対処して国際海運市場においては,船腹量の拡大をはかるとともに,技術革新を伴つた輸送構造の近代化,合理化を積極的に推進してきている。とくにコンテナー船の高速化,タンカーの大型化の傾向はますます顕著なものとなってきた。
 しかしながら,このような船舶の高速化,巨大化に伴つて必要とされる,高出力推進機関としては,在来推進機関では燃料消費量等の点に問題が生じるために限界が予想され,これらの問題を解決するものとして原子力船の実用化に対する期待が一層高まりつつある。
 原子力船は,少量の核燃料で長期間にわたつて高速運航を行なうことができ,また大量の燃料油の塔載が不要であるなど,在来船にはない優れた特性を有している。さらに原子力推進機関は酸素を必要としないので,将来原子力潜水商船等の実現も考えられる。
 このように原子力船の開発は,海運合理化のために必要な船舶に係る技術革新の主要な分野を形成し,これを推進することはわが国の科学技術水準の向上にも大きく寄与することが期待される。
 したがつて,わが一国としても世界の主要海運・造船国における原子力船開発の動向に対応して,海運・造船における国際的優位性をひきつづき確保するため,鞄えざる技術革新をはかり,近い将来に予想される原子力船時代に対処することがきわめて肝要である。
 このため,官民一体となって,原子力船の自主的早期開発を強力に推進,海運・造船における国際競争力の一層の強化とその基盤の造成をはかり,国民経済の進展に寄与する必要がある。

2.原子力船の技術進歩の見とおし

(1)海外における原子力船開発の状況
 現在世界において運航および建造されている原子力船はすべて実験船的な性格を有しており,未だ実用化された原子力船はない。すでに運航中の3隻の原子力船のうち,米国のサバンナ号は実験船として運航を開始し,続いて貨物船としての商業運航を行なつた後現在では係船中である。ソ連の原子力砕氷鉛レーニン号は,現在北極海において船舶誘導に活躍中であり,西独のオツトー・ハーン号は鉱石運搬船として建造され,実験航海を行なつた後,現在商業運航を行なつている。
 現在建造中のものでは,日本における実験船「むつ」や,ソ連における砕氷船があげられるが,とくに世界の主要海運国であり,かつ原子力先進国である米国,英国においても特筆すべき進展は認められず,実用原子力船の建造に関する具体的な計画は現在のところ世界にはない。

(2)舶用炉開発の見とおし
 実用舶用炉は安全性,信頼性はもとより経済性への要請を満たすことが必要である。これまでに建造,運航された原子力船の炉はすべて加圧水炉であり,この炉の舶用炉としての安全性および信頼性は,すでに実証されている。しかし,分離型加圧水炉は比較的大型となるので,小出力の場合には経済性に問題がある。一方,大出力化により,経済性の向上をはかることは現在の海上輸送方式のうえでは限界がある。
 結局,実用舶用炉の技術的課題は,安全性,信頼性を十分に確保しつつ,いかに舶用炉を小型化できるかにかかつているが,これに十分こたえ得るような炉は現在実現していない。しかしながら当面は,これまでの原子力船において,技術的に最も蓄積の多い加圧水炉,とくに分離型加圧水炉の改良進歩されたものとしての一体型加圧水炉を中心とした研究開発がすすむものと考えられる。
 また,長期的にみた場合は,ガス炉,とくに高温ガス炉等の出現も予想される。

3.原子力船の実用化の見とおし

 これまで述べたように,原子力船に対する期待はきわめて大きく,わが国においても原子力船は昭和50年代にコンテナー船として実用化するという見方が一部にみられるが,しかし,原子力船実用化に関する見とおしは,経済性のある舶用炉の技術進歩に関する見とおし次第で大きく左右される。したがって原子力船の経済性の正しい見とおしを得て,実用化の時期および開発の目標を定めるためには,まず舶用炉の検討,なかでも一体型加圧水炉に関しての検討が必要である。さらに,商船として原子力船を実用化するためには,原子力船が在来船と経済的に競合でき,かつ安全性,信頼性が十分であることのほかに出入港,航行の自由が十分保証されていること,環境保全,安全確保のための港湾設備,運行基準等が整備されていること等の条件が満足されていることが重要である。
 同時に,国際間の運行については2国間協定の締結を行なうなど国際上の諸問題を解決することが必要である。

4.原子力船の研究開発

 以上のような情勢を考慮し,かつ世界におけるわが国海運造船の優位性を確保するため原子力船の研究開発を積極的に推進しなければならない。その際には原子力第1船の建造,運行によつて得られた成果を十分に生かしつつ,研究開発を行なうが,これを効果的に推進するため,状況に応じて諸外国との協力を考慮する必要がある。
 したがつて,原子力第1船「むつ」の建造,運航を通じて原子力船の安全性,信頼性の実証を得るとともに経済性の目安を得る一方,一体型加圧水炉を中心とする舶用炉の研究開発を積極的に推進することとする。さらに,原子力第2船以降の建造においては原子力第1船「むつ」の成果船用炉開発の成果および現在民間ですすめられている日独原子力船共同評価研究等を総合的に勘案して,民間において自主的にすすめられることが期待される。
 この場合,政府としても.原子力船の円滑な実用化がすすめられるよう適切な措置を検討する必要がある。

(1)原子力第1船の開発計画
 現在,国のプロジェクトとして実施している原子力第1船「むつ」の開発を,原子力第1船開発基本計画(昭和43年3月26日)に基づいて,ひきつづき推進し,建造,運航の経験を得ることを主目的として昭和47年度末までに完成せしめることとする。
 完成後約2年間実験航海を行ない,操船技術の習得等乗組員の原子力船に対する慣熟をはかるとともに,第1船の安全および性能を確認し,また出入港の経験を得ることとする。
 実験航海終了後は内部総点検,機器補修等所要の整備を行なうとともに,データの解析評価および総合的取りまとめを行なうこととする。
 昭和51年度以降における原子力第1船の保有形態,運航方針および陸上付帯施設の利用については,第1船の実験航海によつて各種データが得られるほか,その間原子力船の実用化の見とおしがより明確になると思われるので,これらの状況を勘案して早急に定めるものとする。

(2)舶用炉の開発
 原子力船実用化の推進方策として,一体型加圧水炉を主眼とした舶用炉の概念設計研究を継続して行ない,舶用炉の技術的,経済的見とおしを早急に得ることとする。
 このような舶用炉の研究開発を中心として今後の原子力船の研究開発については,民間企業の技術開発力を発揮しつつ推進されるべきであるが,日本原子力船開発事業団における第1船の建造,運航の経験,運輸省船舶技術研究所における基礎的な研究成果,民間企業に対する政府からの委託研究の成果等を効果的に組合わせて,関係機関の協力のもとに推進することが必要である。


第7章 原子炉多目的利用

1.エネルギー需要と原子力への期待

(l)エネルギーの需要予測
 近年,わが国のエネルギー需要は,国民経済規模の拡大に伴い,飛躍的な増大を示し,昭和45年度には石油換算で約2.5億キロリットルに達している。これは10年前の昭和34年度の総需要の3~4倍以上にあたり,今後もこの拡大傾向は継続するものと予測されている。
 これに対するエネルギー供給の海外依存度はますます高まる傾向にあり,昭和44年度における輸入エネルギー構成比率80.4%が,原子力を国産エネルギーと見なしたとしても,昭和50年度においては87.4%,昭和60年度では83.5%~84.9%と増加することが予測されている。このような高い海外エネルギー依存度はGNPの伸び率が上記予測を相当下まわった場合を考慮しても,ここ当分大幅には変化しないものと考えられ,その需給事情は同様の傾向をたどるものとみられる。
 石炭については,国内企業の経営合理化の推進とならんで海外原料炭の確保,一般炭の原料化の技術開発がすすめられており,石油については,大陸棚油田開発,海外原油確保,輸送および備蓄の合理化,脱硫技術開発等がはかられている。さらに,公害対策上有利なエネルギー源である天然ガスについては,供給源の確保,冷凍タンカー船腹確保,利用産業の技術革新がすすめられている。しかしながら,これらの施策が強力に遂行されたとしても化石燃料資源に依存すること基本的には資源の大量の輸送,備蓄面で制約があり,さらには,過密狭少な国土内での大量消費に伴う環境汚染問題等が一層深刻化するものと考えられる。したがって,高い化石燃料資源依存に起因する歪を是正するために,化石燃料資源偏重からの脱却を今後どのような時点でどのようにすすめるべきかを慎重かつ具体的に検討することが,現今,わが国が直面するエネルギー政策,国土開発政策等における緊急かつ重要な課題である。

(2)原子エネルギーへの期待
 原子エネルギー資源は,在来化石燃料資源に比べで,単位重量当り莫大なエネルギーを内蔵するために,輸送,備蓄問題が大幅に軽減される利点がある。また,原子エネルギー変換プロセスは,化石燃料資源におけるエネルギー変換プロセスと異なつて,ほぼ密閉サイクルに近い利用形態をとるととから,現今多くの問題を提起している環境汚染問題を大幅に軽減する可能性を有していると考えられ,エネルギー政策面からだけでなく,国土開発政策の面からも広く期待される。
 すでに電力産業においては,多くの制約のある化石燃料資源偏重からの脱却をはかつて,原子力の大幅導入を開始している。
 近年その経済性,安全性,信頼性が逐次確認されて,各国とも原子力発電の拡張計画を展開しつつあり,わが国でも,本長期計画においては昭和60年度には発電設備総容量約2億3,600万Kのうち,その約25%の約6,000万kwを原子力発電でまかなうことが期待されている。
 しかしながら,昭和45年7月の総合エネルギー調査会の見とおしによれば,わが国のエネルギー総量に占める原子エネルギーの比率は,昭和60年度において,9~10%程度であり,化石燃料の比重は依然として高いものと考えられている。したがって,化石燃料資源偏重からの脱却,あるいは海外エネルギー資源依存の軽減のためには,原子エネルギーを,プロセスガス,プロセス熱およびプロセス蒸気の形で,鉄鋼,化学等の各種のエネルギー多消費産業分野および海水淡水化,地域暖房等多くの分野に直接利用することが必要である。
 とくにわが国の総エネルギー消費量の20%余を占めている鉄鋼業においては,在来方式による鉄鋼生産の増加傾向が続くならば,その原料炭需要量は昭和50年度には約1.1億トン,昭和60年度には約1.9~2.1億トンになるものと予測されている。これらの原料炭の供給については,国内自給は2千万トン程度であり,他は輸入に頼らなければならない。
 このように多量の原料炭を輸入に頼りつつ安定供給することはむづかしく,とくに1億トンを局える輸入は,価格問題をも含めて著しく困難さが増加するものと考えられる。したがつて,今後,在来方式とは異なった製鉄方式の開発導入が必要になると考えられ,原料炭を他の還元剤に代替する原子力製鉄に多大の期待が寄せられている。
 一方,産業活動の一層の活発化に伴つて,人口と産業の都市集中化が促進され,その結果として,すでに局所的に深刻な問題を生じつつあるように,生活用水および工業用水の需給事情の逼迫化が確実に予想される段階にある。建設省「広域利水調査第一次報告書」(昭和46年4月)によれば,用水の不足は昭和60年度時点で,京浜,京葉,鹿島地域では年間約31億トン,京阪神地域では約19億トン,その他の地域では約5億トンに達するものと予測されている。現在,化石燃料による海水の淡水化が一部ですすめられてはいるが,国の総合エネルギー政策の見地から海水淡水化への原子エネルギーの導入が期待されている。

2.原子炉多目的利用の目標

(1)原子炉多目的利用の形態
 原子炉の熱エネルギーの直接利用が期待される分野としては,製鉄,化学工業等のエネルギー多消費産業分野および海水淡水化,地域冷暖房等の分野が考えられる。
 製鉄業への利用は,原子炉で発生する高温を利用して,鉄鉱石の還元に必要な還元ガスを原油,廃油等から作り出すとともに,還元ガスを850°C以上に加熱して,原料炭を使用することなく還元鉄を製造するものである。現在850°C前後の比較的還元温度の低い直接製鉄法への適用が検討対象となっており,得られた還元鉄は,電気炉で鋼に精練される。
 化学工業部門では,200°C前後の比較的低温,低圧のプロセス蒸気に対する需要が大であるが,原子炉を利用して,より高温,低廉な熱が供給されれば,原油,廃油,低質炭等から水素,その池の合成ガスの製造等を行なうことが技術的に可能となる。
 海水淡水化においては,蒸気タービンの低温背圧蒸気の一部を抽気し,多段フラッシュ法等によって海水を淡水と濃縮塩水とに分離する方法が検討されている。地域冷暖房は,低温背圧蒸気を利用して冷暖房用蒸気および温水を供給するものである。
 また,炉型によって利用分野の組み合わせは異なるが,原子炉を中心とした熱,蒸気,ガスのカスケード利用体系を組みあげ,さらに,電力生産をも組み合わせて,最終的には原子力コンビナート等への構想にまで発展させることが考えられる。これらの原子力コンビナート構想にあっては必然的にトータルシステムの最適化,すなわちエネルギーバランス,マテリアルバランスが総合的に計画されるとともに,各業種において前処理した廃棄物を集中的に処理処分すること等も計画されて,産業構造の高度化,地域社会の発展等に直接応える一方,環境問題および産業立地問題の解決にも大きな役割を果たすものと期待される。

(2)1,000°C以上の高温ガス炉
 現在,主として,発電に利用されている原子炉にあっては海外において技術開発がすすめられている一次冷却材炉心出口温度700°C前後の発電用高温ガス炉も含め,供給する蒸気温度が300°Cないし500°C前後であるために,製鉄,石油精製等1,000°C程度の高い温度の熱源への要請に直接応えることは出来ない。
 これに対して,一次冷却材炉心出口温度1,000°C程度といった高い温度の高温ガス炉が実現するならば,エネルギー利用効率が向上するばかりでなく,原油,廃油,低質炭等のガス化が可能になり,原子力製鉄への途が拓けることになる。
 このようにして,エネルギー利用効率の向上,化石燃料資源偏重からの脱却,化石燃料資源の原料化促進等を期待することができる。

3.原子炉多目的利用研究開発のすすめ方

 原子炉多目的利用のための研究開発課題としては,①在来炉を中心とした比較的低い温度範囲の目的利用技術開発,②1,000°C以上の高い温度を狙う高温ガス炉に関する技術開発,および③高温ガス炉を中心とした多目的利用技術の開発とに大別される。
 比較的低い温度の多目的利用技術開発課題としては海水淡水化,地域冷暖房あるいは化学工業等へのプロセス蒸気供給システムの開発があげられるが,このシステムを構成する各部門は大部分が在来技術の応用によって占められているものと考えられるので,原子炉との組み合わせ技術の開発,都市接近に伴う安全性および経済性の実証等が開発の重要項目となろう。この場合,各分野の利用技術の開発は,具体的に熱併給発電システムの建設を計画する民間企業あるいは地域社会等が,適宜政府の援助を受けながら,関連研究開発機関,企業との相互協力のもとに開発をすすめることを期待するが,安全性,原子炉立地についでは,政府およびその関連機関が中心となって調査研究をすすめることが必要である。この研究開発に関する開発試験は日本原子力研究所の動力試験炉JPDR-IIを利用してすすめることが効果的である。1,000°C以上の高い温度の高温ガス炉技術開発に関しては,すでに原子力委員会高温ガス炉懇談会報告書(昭和46年5月20日)において,安全設計,被覆粒子燃料,耐熱材料,熱交換器等に関する技術開発課題が検討されているが,海外においても,いまだこれらに関する十分な実証的データを得るに至っていない。
 多目的高温ガス炉については,これが,原子炉の核熱エネルギーの広範な産業への利用を可能ならしめる反面,将来の産業構造の見とおし,海外における技術の進展状況,多目的利用技術の動向等,なお検討を要する点が多い。
 しがしながら,エネルギー政策的観点から見て,将来一次冷却材炉心出口温度1,000°C程度の多目的高温ガス炉の必要性が考えられるので,それに備えて当面はひきつづき燃料,材料等に関する研究,をすすめることとする。この場合,研究開発の効率的推進のため,長期的な研究開発計画を検討しておく必要がある。
 このようにして,基礎的研究から積み上た技術的成果と産業構造上からの経済的要請および海外における高温ガス炉技術の進展状況等をも充分考慮しつつ,実験炉の建設問題を検討するものとする。
 高温ガス炉の多目的利用技術の開発課題としては,還元鉄製造,原油,廃油,低質炭等の分解やガス化等ヘのプロセス熱,プロセス蒸気の供給システムの開発をはじめとし,各利用分野における利用技術の開発があげられる。これらの開発にあたっては,その分野が広範にわたるため,政府および民間相互の密接な協力のもとに,総合的,計画的に推進することが必要である。


第8章 核融合

1.核融合動力炉開発の意義

 核融合動力炉は,それが実現された暁には,埋蔵量に制約のある地下資源に依存することなく,半永久的にエネルギーの安定供給を可能とするものである。また,高い安全性が見込まれることから,立地上の制約は大幅に緩和されるとともに,放射性廃棄物の処理処分問題も事実上存在しないこととなる。したがつて,核融合動力炉は,人類の未来を担う究極のエネルギー供給源として,その実現が強く期待されているものであり,近年その実現について明るい見とおしが得られつつある。
 とくに,わが国は地下資源に乏しく,狭隘な国土に密度の高い人口をもっており,環境の保全を前提としつつ,豊かな国民生活の達成をはかるため,最も好適なエネルギー供給源である核融合動力炉の実現を,早急に必要とする立場にある。このような核融合動力炉開発の意義と必要性にかんがみ,高度な科学技術水準の達成と,それを通しての人類福祉への貢献をめざして,わが国は,先進工業国の一員として核融合動力炉の開発に大きな努力を払うべきである。

2.開発の現状と見とおし

(1)世界の現状と見とおし
 核融合の研究開発は,過去10年以上の間,高温プラズマを安定に閉じ込め得る磁気容器の探索にその重点が置かれていた。しかし,世界のすう勢は昭和44年度頃から新しい局面を迎え,とくにトカマク型を中心とする低ベータ・トーラス系装置は今後プラズマ加熱法の技術開発やベータ値を高めるなどの改良,発展により臨界炉心プラズマの達成までつなげ得るとの見とおしを立て得る段階にまで到達している。
 このような情勢にあって,米国およびソ連で建設が予定されている同型の大型装置においては,昭和50年代前半に,当面の開発目標である制動放射損失を若干上まわる核融合出力をもついわゆる臨界炉心プラズマが達成される可能性も大きい。
 プラズマ加熱法としては,多くの方法がすでにかなりの程度開発されているが,いずれも現在では到達最高温度や加熱注入エネルギーに限界があり,またプラズマ閉じ込め装置の型との適合性の問題もあるので,当面ば臨界炉心プラズマの実現めざしてその技術開発がすすめられている。
 一方,高ベータ・プラズマは,閉じ込め磁場のエネルギー利用率が高いなどいくつかの長所を持っており,その代表ともいえるデーター・ピンチは,各国において大型化,トーラス化に向っているが,安定したプラズマ閉じ込めの観点からの磁気容器の性能については,炉への発展の可能性を評価し得る段階まで到達するにはなお数年程度の期間が必要と予想されている。
 なお,開放型磁気容器,とくに磁気鏡型は,開放端からのプラズマ粒子漏洩が過大なため,そのままでは実用的な動力炉にまで発展する公算は薄いが,その漏洩対策が研究されている。
 このように,世界における研究努力の結果,昭和50年代前半に臨界炉心プラズマが実現されれば,動力炉としての開発は,いよいよ本格化し,その時期と相前後して,その研究開発の主点は次第に実用規模の核融合動力炉の炉心となる大容積の超高温プラズマの発生制御技術の確立,熱出力の取出し,新発電方式等を含めた核融合力炉プラントの総合開発に移行することになる。今の段階では炉の実現可能な時期は環境の保全その他の社会的要請や国のエネルギー政策によつて大きく左右されるが,核融合炉には核分裂炉の工学技術がかなりの程度役立つと予想されることを合わせ考慮すると,世界的にみて昭和60年度頃までに動力実験炉,さらにその後10年以内に原型炉の開発に成功すると予想することもできる。

(2)わが国の現状
 わが国では,昭和43年7月核融合の研究開発を原子力特定総合研究に指定し,核融合研究開発基本計画に基づいて現在その研究開発が進行中である。
 すなわち,日本原子力研究所では低ベータから中間ベータトーラスの研究開発をすすめることとして,まず,昭和45年度に6極内部導体型トーラス系装置(JFT-1)を建設し,低ベータ・プラズマのトーラス閉じ込めに成果を得たがさらに臨界炉心に必要な中間ベーク実現のためトカマク型装置の建設を提案した。
 昭和45年2月核融合研究運営会議は,この型のトーラス系装置に開発の重点を置くことを定め,日本原子力研究所において実験装置の建設をすすめ,昭和47年度初頭に完成した。
 本装置(JFT-2)は,現在研究中あるいは建設が予定されている諸外国の多くのトカマク型装置と比較してその設計にいくつかの特徴を備えており国際的な協力関係の中で将来の大型化および改良に対し,重要な資料が得られるものと期待されているが,現段階でば,トーラスに加える磁界値が諸外国のものに比して著しく低い点が早急に改善すべき問題点として指摘されている。また,電子技術総合研究所における高ベータ・プラズマの研究では,150キロ・ジュールの規模のトーラス・スクリュー・ピンチ装置を昭和47年度完成をめざして建設中である。理化学研究所では各種のプラズマ生成,加熱,計測および真空壁材料の特性の研究がすすめられている。
 一方,名古屋大学プラズマ研究所をはじめとして各大学では,広範囲のプラズマ生成,閉じ込め,加熱に関する新着想の理論および実験的研究,試験ならびにそれらの基礎となるプラズマ物理の研究が行なわれており,それぞれ成果を挙げでいる。また,各大学は大学院生を中心とする人材養成にも成果を挙げており,核融合研究開発に対する基盤の強化に重要な役割を果たしている。

3.研究開発推進の総合的方策

 わが国においては,核融合炉の開発の必要性とその現状にかんがみ,核融合の研究開発を一層強力に推進することが必要であり,国際協力を重視しつつ,昭和60年代には,核融合動力実験炉を建設し,炉に関する工学的知見を得ることを目指して開発をすすめることとする。とのため,昭和50年代後半までに実用規模の動力炉の炉心となる大容積の核融合プラズマの発生および制御のための工学技術(以下「核融合炉心工学技術」と呼ぶ。)および核融合動力炉プラントの総合開発のための工学技術(以下「核融合炉プラント工学技術」と呼ぶ。)の2項目についてかなりの程度までの知識と経験を積み重ねる必要がある。
 これらは相互に密接な関連をもっているので,総合的に方策の具体化をはかり,計画的に研究開発を推進するものとする。

(1)核融合炉心工学技術の開発
 核融合炉心工学技術を確立するためには,制動放射損失を上まわる核融合出力をもつプラズマ(以下「臨界炉心プラズマ」と呼ぶ。)の開発ならびに実用規模の大容積炉心プラズマの発生および制御技術の開発を実施する必要がある。
 現在,外国で建設が予定されているトカマク型トーラスは,昭和50年代前半までに臨界炉心プラズマの開発に成功する可能性があるので,わが国としても早急にかつ強力にその実現をはかる必要がある。
 このため,わが国においてはトカマク型トーラス装置の研究開発に当面の重点をおくこととし,昭和50年代に臨界炉心プラズマ試験装置を建設することを目標とする。
 臨界炉心プラズマ試験装置の建設のためには,プラズマ加熱,高磁界発生,動的真空制御,高温プラズマ計測等に関する新しい装置製作技術をかなりの程度までに確立すると同時に,プラズマ閉じ込め用の大規模な電源を,確保することが必要であり,そのため可及的速やかに必要な技術開発項目を慎重に選定し,計画的かつ能率的に開発をすすめるものとする。
 その際,必要に応じて他の型の高温プラズマ装置の成果をも積極的に取り入れるよう考慮するなど,常に柔軟性を確保しつつ開発をすすめることが必要である。高ベータ・トーラス装置は,磁気容器としての性能に不確定な点もあり,低ベータ域からベータ値を高めることを意図するトカマク型トーラスとは対照的・相補的であるが,閉じ込めについての特徴を持つており,さらにプラズマの断熱圧縮等の加熱の研究および関連技術の開発に有効であり,将来トカマク型との複合が考えちれることなど,トカマク型の中間ベータ・トーラスの開発にも役立つものと期待される。以上の理由からわが国においてはこの関係の研究を,目標を明確にしたうえで,適当な規模において,継続するものとする。
 実用規模の大容積炉心プラズマに関する炉心工学技術の開発については,昭和50年代中頃から後半にかけてこのためのモック・アップ試験を実施することを目途として,臨界炉心プラズマの開発との緊密な連けいのもとに計画的に推進することとし当面は,そのための調査研究および必要に応じて準備的な試験研究を逐次実施することとする。

(2)核融合炉プラント工学技術の開発
 昭和60年代に核融合動力実験炉を完成させるためには,その,設計および建設に着手するまでに核融合炉プラントの総合的な工学技術を確立しておく必要がある。
 とくに,開発を必要とする主なコンポーネントまたは施設としては,炉心真空容器壁,ブランケット,炉心プラズマ閉じ込め,大型高磁場発生系,燃料生産および処理系,熱出力の取出し,エネルギー変換系等がある。
 これら相互間およびこれらと炉心プラズマとの間は密接に結びついているので,これら各部の開発にあたっては総合的な開発計画と強力な推進方策が必要である。とくに,新しい要求に適合する材料の開発には一般にかなりの長時間を必要とするので,とれら各コンポーネントの開発に際してはこの点に十分な留意をはらい,早急に調査研究および予備的な試験研究に着手する必要がある。その際,ブランケットよりの熱出力の取出しおよびエネルギー変換糸に関しては,現在進行中の高速増殖炉における溶融金属,その他の各種技術開発の経験が,かなりの程度役立つものと考えられる。
 また,前述の炉心工学技術および各コンポーネント機器の開発の進展状況に応じて,常にシステム工学的手法の適用によるライトの試験設計また概念設計を用意しておくことが必要である。
 このため,わが国においては,早急に核融合炉プラント工学技術の詳細な開発計画を立案すると共に,開発をすすめるべき項目については速かに必要な予備的試験研究を計画し,逐次実施に移していくものとする。

(3)高温プラズマ研究および核融合開発基盤の整備
 名古屋大学プラズマ研究所をはじめとして各大学で行なわれている高温プラズマの生成,閉じ込めおよび加熱に関する新着想の理論的および実験的研究を一層強化する必要がある。
 また,核融合動力炉開発のための工学的基盤の整備をはかる必要があり,そのための所要の措置を講ずることが必要である。

(4)核融合研究開発規模の拡大
 核融合研究の今後の進展に伴い,従来のプラズマ物理からそれを含めた総合的工学的研究に移行すると考えられる。したがって,今後は適切な時期に所要の資金と研究組織の規模拡大をすすめることが必要である。

(5)開発体制
 核融合動力炉の開発はわが国においてこれまでに類例を見ない長期的かつ大規模な計画であり,関係各界の総力な結集して,これを強力に推進するための体制を整備することが必要である。
 このため,昭和50年代に臨界炉心プラズマ試験装置を建設できるよう,現行の核融合研究開発基本計画を見直し,必要な修正を加えることとする。また,核融合炉心工学技術および核融合炉プラント工学技術の開発に対する調査および設計研究,技術開発,試験研究等に関しては各大学,民間企業および関係研究開発機関等より緊密な協力が得られるよう,今後,具体的な実行計画について,早急に検討をすすめるものとする。


第9章 放射線利用

1.放射線利用への期待

 放射線は,早くから医療に利用されていたのみならず,物理学,化学,生物学等各分野における研究手段として利用されてきたが,最近においては,がんの診断および治療,医療用具の滅菌,放射線育種,食品照射,放射線化学,非破壊検査等の面における利用も進展しつつあり,原子力の動力利用とならんで国民福祉の向上に貢献しつつある。
 このように,放射線の利用は,研究開発による利用技術の高度化とともに,ますます発展しつつあり,今後とも安全を確保したうえで,産業経済と国民生活の広範な分野にわたつて重要な役割を果たすものと期待されている。
 これらの利用をさらに一層促進するためには,今後は,原子力発電所の使用済燃料からの有用アイソトープの分離をはじめとするアイソトープの生産技術およびその利用技術の確立など,動力利用と密着した放射線利用の開発,放射線機器の開発等を積極的にすすめるとともに,放射線取扱上の安全確保,使用済アイソトープの廃棄処理体制の整備等利用拡大に伴う諸対策の整備充実を総合的にすすめる必要がある。
 また,大学,産業界,政府関係機関の間における相互協力の推進,人材養成,利用技術の普及,啓蒙活動およびアイソトープ装備機器の型式承認制度の導入の検討等,実用化に必要な措置を適切に講ずることが必要である。
 さらに,放射線利用の分野は,発展途上国に対する技術援助が期待されている分野であり,今後この面においてわが国が貢献することが望まれる。

2.アイソトープの生産および供給

 アイソトープの需要は放射線利用の進展に伴い,ますます増大することが予想され,とくにアイソトープの利用技術が確立し,その応用が定常化する分野では特定のアイソトープに需要が集中するとともに,良質な製品を低廉な価格で安定して供給することが要請される一方,研究開発,各種試験に用いられるアイソトープはますます多様化するものとみられる。したがって,アイソトープの供給は需要に応じて適時に適切な価格でなされることが利用推進の基本である。
 アイソトープの生産については,日本原子力研究所を中心とする関係機関の努力により,極力国産化を推進してきたが,供給の迅速性および需要の動向ならびに国際的動向を考慮して生産をすすめることが必要である。
 すなわち,今後のアイソトープの供給については,試験的に生産を行なうことが適切なものおよび短寿命アイソトープのように輸入が困難なものにっては極力日本原子力研究所をはじめ関係機関において,それらの国産化に努力することとするが広く一般に普及している核種については,経済性を考慮して供給が確保されることを期待する。
 しかし,将来においては民間企業によって商業ベースでアイソトープの生産が行なわれるにとを期待する。そのため,日本原子力研究所の既存炉の改造を必要に応じて考慮するほか,民間炉の活用,等に期待する。
 以上の考え方に基づき,原子炉による精製アイソトープおよび線源アイソトープの生産に関してば,当面主として日本原子力研究所において既存の研究炉および材料試験炉を活用して生産するものとする。またサイクロトロン等加速器による短寿命アイソトープ等の製造に関しては,この種のアイソトープは医学面への利用に伴い需要が急激に増加するものであり,加速器自体の普及と相まって円滑な供給が可能となるよう適切な配慮を行なうとともう利用現場に密着したサービスを行なうことが必要である。このため各地域の中心的な研究機関がこれらの機能を果たし得るようその機能の強化充実をはかることが重要である。
 アイソトープの頒布については,輸入アイソトープおよび日本原子力研究所等で生産したアイソトープについて,主として日本アイソトープ協会の活動に期待する。日本アイソトープ協会はその公共性にかんがみ,需要者,生産者等の意向を反映した業務の遂行に努めるとともに,国産アイソトープの優先頒布を行なうことを期待する。
 アイソトープの生産のための研究開発は,今後のアイソトープの生産および供給計画に即して積極的に行なうものとし,原子炉による製造技術の開発は主として日本原子力研究所で,また,加速器によるものの開発は理化学研究所日本原子力研究所および放射線医学総合研究所を中心として行なうものとする。
 また,今後は使用済燃料再処理に伴う放射性廃棄物が,原子力発電の進展に伴い加速度的に蓄積されるので,これな重要なアイソトープ資源としてとらえ,有用な長寿命核分裂生成物や超ウラン元素等の利用を積極的にすすめることが必要である。
 このため,今まで利用されていなかった核種の利用についての研究をすすめるとともに,核分裂生成物等の分離抽出に関する技術の開発については,日本原子力研究所および動力炉核燃料開発事業団を中心として積極的に推進するものとする。

3.放射線機器の開発

 放射線機器は放射線利用の促進と密接な関係があるので,従来から積極的にその開発を推進してきた。その結果,使用目的に応じた特色ある機器の開発が行なわれ,その種類も多種多様化してきており,これらの成果が放射線の利用に拍車をかけ,その利用分野をますます拡大している。放射線利用の実用化が進展した現在,これらの機器は小型軽量,高性能,高信頼度,廉価であることが強く要請されている。
 このような情勢のもとに,今後はソフトウエアを含めたシステム化,機器の高度化および大線量測定機器,モニタリング機器の開発等を積極的に推進するとともに,一般計測器および放射線線量の測定方法等について,関係機関が民間企業の協力により規格化,標準化を推進することが必要である。さらに,計測器についての検定を実施する方向で検討をすすめることが必要である。

4.各種放射線利用およびその推進方策

(1)医学利用
 放射線の医学利用は,新しい核種,放射性医薬品等の開発および測定処理装置の進歩普及により,診断法の著しい発展をもたらし,照射治療装置の普及と医用加速装置の実用化とあいまって,今日放射線はがんの診療をはじめ各種疾病の診断治療のために不可欠な手段とたるまでにいたっている。
 アイソトープを疾病の診断および治療に利用するにあたつては,患者の放射線による被ばくを軽減させ,診断精度の向上をはかるため,短寿命アイソトープを用いることが必要であり,短寿命アイソトープによる各種疾患の診療法を確立する必要がある。
 がんの治療については,大量線源照射装置や電子線加速器を用いて治療効果をあげてきたが,今後はその改善と重粒子線加速器や原子炉等を用いた高LET放射線による治療法の開発をすすめるとともに,機器の自動化,遠隔制御,コンピュータ制御の導入および各種治療法との組み合わせ等による診療効果の一層の向上をはかる必要がある。
 さらに,直接人体に投与せずに検査できるインビトロテスト法やシンチレーションカメラ等を用いた新しい診断法,アイソトープ電池を用いての心臓疾患治療のための医用電子技術等の開発に努めるとともに,医療用具の放射線滅菌の実用化を促進し適用範囲を拡大する必要がある。
 医学利用を推進するにあたつては,専門医,研究者および技術者の絶対的な不足が当面の隘路となつており,今後当分の間このような状況が続くものと見られるので,人材の養成再教育とその配置について適切な措置を講ずることが必要である。

(2)放射線化学
 放射線化学は,この10数年間に基礎,応用の両分野にわたつて進展がみられているが,さらに実用化を促進し,その普及をはかるためには,工業化のための研究開発を推進する必要がある。今後は,従来からの研究開発をひきつづき推進するとともに,放射線重合,放射線グラフト重合,低分子化合物の合成等有望とみられる反応糸について,放射線化学プロセスの確立に重点をおいた開発試験を推進し,パイロット試験を行なうことが必要である。さらに,研究開発の成果を実用化するため,民間企業や各種研究機関が協力することが重要であり,そのため所要の方策を講ずることが必要である。

(3)食品照射
 食品照射に関しては,すでに海外で一部実用化され,一般の市場に供されており,わが国でも昭和42年度に原子力特定総合研究に指定されて以来,実用化研究が総合的,計画的にすすめられてきた結果,その1つの成果として馬鈴薯に関する研究がすでに終了し,実用化のめどがたつにいたつている。今後は同計画の対象品目のうち,馬鈴薯を除く6品目についてその実用化のめどをたてたうえで,ひきつづき照射効果および健全性試験等に関する研究開発をすすめるとともに必要によりベーコン,生鮮魚類の2品目を研究対象に追加することを考慮するものとする。
 今後,これらの研究開発をすすめるにあたっては,有効適切な照射技術,線量測定法,必要線量の低減,他の貯蔵法との併存法等の開発もあわせて行なう必要があるので,日本原子力研究所における共同利用施設その他の既存の研究機関の設備を整備充実するとともに必要により経済性を考慮した大規模照射技術の開発を行なうものとする。

(4)生物および農業利用
 生物および農業分野における放射線利用に関する研究は,すでに実用化をめざす研究段階に入ってきており,今後はこれらの研究を促進するとともに,とくに重要と考えられる利用分野に関し,さらに重点的な研究開発を実施する必要がある。
 放射線育種分野においては,環境条件制御下の照射,アイソトープの内部クローニック照射ならびに中性子線および重粒子線の照射による育種研究の促進をはかるものとし,トレーサー利用については生態系における汚染物質の循環代謝など環境問題に関する研究ならびに生命科学の中心的課題である生命現象,生物機能に関する研究へのトレーサー利用を推進するものとする。
 これらの研究をすすめるため,必要に応じベータガーデン,大量照射用の重粒子線加速器,原子炉からの中性子線の利用施設および放射化分析施設の設置について検討するものとする。

(5)工業利用
 放射線およびアイソトープの工業利用は,大きな技術的,経済的効果が期待されており,すでに広範な分野たわたって実用化がすすめられている。
 今後はとくに,核分裂生成物,超ウラン元素の有効利用に関する研究およびアイソトープによる公害調査,公害防止への応用に関する研究の推進が重要である。
 また,従来から行なわれてきた生産現場の工程解析と管理への応用,電子計算機による放射線測定データの解析技術の応用,アイソトープの分析化学への応用技術,放射線現象の物性論的研究への応用,大規模卜レーサー実験技術等の開発を今後とも継続して推進する必要がある。
 以上のほかに,新たにアイソトープ電池および発電器の開発ならびにアイソトープ技術の宇宙開発および海洋開発への応用に関する研究を推進するとともに,アイソトープ利用技術の標準化をすすめることが必要もある。

5.各機関の役割

 放射線の利用については,今や多くの分野において研究開発の域を脱し,実用化の段階にある。これらについては,民間企業による独自の利用が期待され,政府は円滑な実用化に必要な諸条件の整備を行なうことが必要である。しかし放射線利用はその取扱う範囲がきわめて広範であり,まだ研究開発段階にあるものも多数ある現状であるので,これらについては,研究を効率的にすすめるため,施設の共同利用をはかるとともに,緊密な連けいのもとに積極的に共同研究を推進する必要がある。
 とくに環境問題への応用研究のように,国民生活に緊密に関連する研究課題については,各機関の内容に応じた研究分担をはかるなどの総合的な研究体制を整備する必要がある。
 以上の状況のもとに,放射線利用の一層の促進をはかるため,医学,農業分野においては関係国公立試験研究機関が中心となり,また食品照射,放射線化学の分野においては,日本原子力研究所高崎研究所など政府関係研究機関が中心となって,大学および民間企業の協力のもとにこれを推進する。工業利用については民間企業が中心となつて関係各機関の協力のもとにすすめられることを期待する。


第10章 基礎研究

1.基礎研究の必要性

 基礎研究は,研究開発活動の基盤となるものである。すなわち,基礎研究は新しい技術の開発の芽生えとなるものであるとともに,応用研究から開発へと研究を進展させる場合,創意工夫を注ぎこむ源泉となる役割を有している。
 原子力開発利用に対する基礎研究の貢献度は非常に高く,しかも,その結びつき方はけつして単純なものではなく,常に流動的である。今日,応用と無縁と思われる分野の研究が,ある1つの発見により一躍開発への重要な足がかりとなる例は,原子力開発利用の歴史のなかにも顕著に現われている。したがつて,基礎研究の基盤はできる限り広く,深いことが望ましい。
 また,充実した基礎研究を通じて達成された高度の技術開発力は,変化が早く流動的な時代においては,新たに発生する緊急のニーズおよび問題への迅速で適切なる対処を可能とするものであり,とくに多くの未知の分野をかかえている原子力分野では一層重視されるべきであろう。
 今日わが国における原子力開発利用は,すでに実用化の段階に達しつつあるとはいえ,新しい動力炉,原子炉,多目的利用,核融合等の研究開発においては基礎から開発にわたる広範な研究を必要としており,また急速に進展する原子力開発利用に対処して,十全の環境安全対策を確立するためにも基礎研究の重要性はきわめて大きい。
 このように,今後,原子力開発利用の各分野における自主的な技術の開発を強力に推進するためには,幅広く基礎研究の強化をはかることが,とくに必要である。
 さらに基礎研究は一般に国際協力が盛んな部門であり,わが国としても国際協調の立場にたって,今後,積極的に原子力における基礎研究をすすめ,国際社会の発展に寄与することが重要である。

2.各機関の役割

 原子力開発利用における基礎研究においては,これまで大学,日本原子力研究所,放射線医学総合研究所等が主要な役割を果たしてきており,原子力開発利用は今後核融合や環境安全対策の推進等,さらに広範囲な分野に及ぶことから,一層これら機関の役割の重要性は増大すると考えられる。
 そのため,日本原子力研究所,放射線医学総合研究所を中心として,ひきつづきその研究活動の強化をはかることとするが,同時に研究協力,研究分担等を通じて大学や民間からの積極的な参加協力が必要である。
 このような観点から,各機関は基礎研究において次のような役割を担うことが適当である。
 日本原子力研究所は,わが国の原子力研究活動の中心的役割を果たすべきものであり,動力炉開発,燃料および材料の開発,アイソトープの生産,原子炉多目的利用,放射線利用,核融合,安全管理等広範囲な原子力開発利用に関連する理学,工学分野での基礎研究を行なう。
 放射線医学総合研究所においては,放射線医学に関する基礎研究をすすめ,放射線による診断治療,放射線障害の防止および放射線の生体への影響等の研究を行なう。
 理化学研究所においては核物理,核化学,核融合,放射線化学,放射線生物学等,原子力開発利用の基礎的な分野において,その特色を生かした研究開発を行なう。
 大学においては,研究者の創意工夫を生かした自由にして広範な基礎研究を実施し,わが国の原子力開発利用に関し,研究開発の基礎を広め,かつ深化させることを期待する。
 その他の国公立試験研究機関においては,原子力の動力への利用,原子炉材料,放射線機器の規格化,標準化,放射線の医療への利用等それぞれの行政目的に関連し,またはそれぞれの地域性を発揮しつつ応用研究との連けいを考慮した基礎研究を行ない,政府のすすめる研究開発推進の一端を担う。
 さらに民間企業においても,原子力開発利用分野での特定目的をもった基礎研究の一部を,関係各機関と協力して分担することを期待する。

3.基礎研究の促進方策

 近年におけるわが国の原子力開発利用の進展,とくに大規模化,多様化に伴い,基礎研究は一層多種多様化の傾向を示している。したがって,基礎研究を円滑かつ効率的にすすめるにあたっては,大学をはじめ関係各研究機関,民間等からの広範な分野にわたる協力がますます重要となっており,日本学術会議等との,密接な連絡のもとに,適切な施策を講ずることが必要である。また,この際民間の参画を促進するため,適切な措置を講ずることも必要である。

(1)研究環境の整備充実
 基礎研究分野における研究活動においては,研究者の創意工夫によるところがきわめて大きく,研究者が独創性を生かすことができるような研究環境の整備改善と研究意欲の増進をはかる必要である。最近研究用施設設備はますます大規模化。高度化の傾向にあり,政府としては,重イオン加速器,強力な定常およびパルス中性子源,超プルトニウム元素研究施設など大型共同利用施設を設置することが必要である。さらに,研究用施設設備は一般に研究手法の改善等により,その老朽化年限も著しく短縮されつつある。
 これらの事情により,基礎研究の推進に必要な資金と人材を確保するとともに人材および情報の充分な交流をはかるなど,研究の推進に支障のないよう措置する必要がある。
 また,基礎研究では既成の事実に捉われず,試行錯誤の敢行を寛容に支持する心構えが必要であるとともに研究者の研究意欲増進等のため適切な評価機関による実績評価を行ない,独創的,意欲的研究者に対して優遇措置を考慮するなどの適切な措置を講ずる必要がある。

(2)連けいの緊密化
 基礎研究をさらに発展させるため,大学,関係各研究機関相互の連けいをより一層緊密化させることが望ましい。このため,次のような措置を講ずる必要がある。

(3)国際交流
 基礎研究を効果的に進展させるためには,できるだけ多くの国際的研究討論の場をもつこと,あるいは,国際的に共同研究を行なうことがきわめて有効な手段と考えられる。このため,今後,海外諸国との情報交流の強化,国際的共同研究を考慮するほか学術的討論会等への積極的参加,わが国における国際会議の開催等が必要である。

4.基礎研究成果の具体化

 基礎研究の成果は,国のプロジェクトをはじめとする応用研究,開発研究の一部として組み入れられ,それらの研究開発を促進する重要な要素となりうるので,その成果を情報として整理し,広く開発研究に従事する人々に正確かつ迅速に伝達するなど実用化に結びつける努力をすることが重要である。
 さらに,基礎研究の成果は,新しい技術の芽生えとして将来技術革新の中核となりうるものもあるので,わが国としては,海外諸国にみられるように,自国の基礎研究成果を骨組として開発研究さらには実用化へと円滑に結びつける方策を検討する必要がある。


第11章 科学技術者の養成

1.人材養成の必要性.

 原子力開発利用の分野は,広範多岐にわたり,開発規模は著しく大きい。また,原子力分野での新しい進展を考慮すると,その効果的な推進のためには,計画的に多数の優秀な人材の確保をはかることがきわめて重要である。
 とくに今後は原子力開発利用の実用化の進展に伴い専門家に対する需要は多種多様化する一方,従来の量的拡大から質的向上に移行しつつあると考えられる。
 巨大科学技術である原子力分野で必要とされる人材としては,原子力関係の専門知識を有する専門家および広く理学,工学,農学,医学等の分野にわたって高度の専門知識を有するいわゆる境界領域についての専門家が多数必要とされているとともに,社会科学,人文科学等の分野の専門寂の確保も不可欠となっている。
 このような人材確保への要請に対処して,基礎的な教育を行ない人材養成に重要な役割を担う大学に期待する一方,大学との深い連けいのもとに科学技術者の再教育再訓練を行なう日本原子力研究所,放射線医学総合研究所等の養成訓練施設を整備充実し,計画的な人材の養成をはかることが必要である。
 資源の比較的乏しいわが国が世界各国に伍して,原子力開発利用を推進するためには,優秀な人材の確保とその活用をはかることは,きわめて重要な課題である。

2.必要とされる原子力関係科学技術者

 原子力の開発利用を促進するために,必要とされる科学技術者は,次のとおりである。
 原子力専門科学技術者:原子炉物理,原子炉工学等の原子力関係専門分野について高度の知識,技術を要する業務に従事する科学技術者原子力関連科学技術者:機械,電気,物理,化学,冶金,その他の専門分野についてそれぞれの知識,技術を有し,あわせて,原子炉の設計,製造,運転等の原子力関係の知識,技術を要する業務に従事する科学技術者核燃料科学技術者:冶金,化学,機械,その他の専門分野についてそれぞれの知識,技術を有し,あわせて,核燃料の精練,加工,ウラン濃縮,使用済燃料の再処理等,核燃料分野についての専門の知識,技術を要する業務に従事する科学技術者放射線利用科学技術者:理学,工学,農学,医学の各分野において専門の知識,技術を有し,あわせて放射線の利用に関する知識,技術を要する業務に従事する科学技術者原子力安全管理科学技術者:原子力発電所,原子力船,核燃料関係施設,大規模な放射線取扱施設等において,放射線防護,安全設計,放射性廃棄物の管理および処理,緊急時の安全対策,安全管理についての知識,技術を要する業務に従事する科学技術者核融合専門科学技術者:プラズマ物理,磁界工学等の核融合関係専門分野についてそれぞれの知識,技術を有し,あわせて核融合燃料,核融合装置の設計,製造,運転等についての専門の知識,技術を要する業務に従事する科学技術者原子力開発利用プロジェクト管理科学技術者:原子力についての高度の専門知識を有し,かつ理学,工学,医学,社会科学等の分野について,それぞれの知識,技術を有し,プロジェクトの企画,管理,評価等の業務に従事する科学技術者,なお,以上の科学技術者とは別に多種類の技能者,研究補助者が必要である。

3.原子力関係科学技術者の所要数

 昭和44年度における原子力関係科学技術者の総数は,約18,800人と推定される。将来における所要数の推定を行なうことはきわめて困難であるが,原子力発電開発規模の見とおし,放射線利用の進展等から推定すると昭和55年度においては,約44,000人の原子力関係科学技術者が必要である。((第11-1表参照))

 このことから今後10年間における原子力専門科学技術者の需要については,新陳代謝を考慮しても,年間二百数十人と推定される。このほか,原子力関連科学技術者核燃料科学技術者,放射線利用科学技術者,原子力安全管理科学技術者,核融合専門科学技術者,原子力プロジェクト管理科学技術者等として,大学および大学院において原子力を学んだ者が必要である。
 現在,大学学部における原子力専門学科においては年間約三百数十人,大学院の原子力関係専攻課程においては年間百数十人が養成されている。したがって,原子力専門科学技術者に関する限り,需要と供給のバランスは一応とれた形になっている。
 しかし,今後,原子力開発利用の実用化の進展,新型動力炉の開発の本格化等に伴い,機械,電気,冶金,造船,土木,建築など原子力以外の工学部門の専門分野の科学技術者に対して,原子力関係科学技術者としての需要が,より一層増大するものと推定される,さらに今後核融合炉開発の進展に伴って核融合専門科学技術者が,また原子力における研究開発の大型化に伴って原子力プロジェクト管理科学技術者が新たに必要となるので,関係学科,課程科整備充実が必要である。
 さらに,これらの科学技術者のほかに,近年問題となっている環境問題に対処するため,この面における調査研究をすすめるに必要な生態学を含めた幅広い学科を専攻した科学技術者が必要となっており,積極的にその養成確保に努めろ必要がある。

4.養成訓練対策

 原子力開発利用に従事する専門家の養成訓練を効果的に実施するために,大学,日本原子力研究所,放射線医学総合研究所およびその他の研修機関は,それぞれの役割を明確にし,計画的,体系的にその養成訓練をすすめることが必要である。

(1)大学
 原子力関係科学技術者の養成訓練に関し,大学の果たすべき役割はとくに重要である。
 原子力関係の科学技術者に関しては,大学学部における基礎教育に加え,大学院における教育訓練に期待するところが大きいので,たとえば共同利用施設等,その施設と設備の格段の充実をはかることが必要である。また原子力利用の広範囲な普及に伴い原子力以外の学科においても原子力知識の普及がはかられることが望ましい。

(2)研修機関
 急速に進展している原子力利用に対し,自主的創造的な技術開発をすすめるためには,科学技術者の量の確保をはかるとともに,既に原子力関係の業務に従事している科学技術者の再教育,再訓練の方途を講じ,技術進歩に見合う質の向上をはかることが必要である。
 このため,日本原子力研究所の原子炉研修所およびラジオアイソトープ研修所ならびに放射線医学総合研究所養成訓練部など関係各機関に設置された研修施設では,今後の原子力開発利用の進展に即応して施設設備の充実をはかり,研修内容の高度化,専門化,研修人員の拡充を行なう必要がある。
 これらの養成訓練施設のほか,原子炉運転技術者の養成のための施設をはじめとする民間の養成訓練施設においても,需要に応じた適切な養成訓練を実施することが望ましい。

5.海外との交流

 急速に進展しつつある世界の原子力開発に対処し,海外の科学技術者との交流をすすめることは,わが国の原子力関係科学技術者の質の向上をはかるうえからもきわめて効果的であり,今後,海外研究機関等との間で科学技術者の相互交流を積極的にすすめることが重要である。


第12章 科学技術情報の交流

 原子力開発利用の急速な進展とともに,国内外における原子力各分野の科学技術情報量は著しく増加しており,この傾向は今後ひきつづき継続すると予想される。これらの情報の収集,合理的処理および迅速な情報提供は,わが国の研究開発の効率的推進をはかるうえできわめて重要である。
 このため,日本原子力研究所,日本科学技術情報センター,国立国会図書館等の相互連けいの緊密化を推進し,有機的な情報交流体制を確立する必要がある。とくに日本原子力研究所は,後述のINISの担当機関であることにもかんがみ,日本における原子力情報センターとしての役割を果たすことを目標として,一研究所の範囲内にとどまらず,国内の原子力情報の一元的利用が可能となるよう情報処理の機械化を促進するなど,その充実をはかることとする。
 国際情報交流の分野においては,国際原子力情報システム(INIS)が発足し,迅速かつ広範に海外諸国と原子力情報を交流し得る体制が確立強化されつつあるので,情報検索をはじめとするその多角的な利用を効果的にすすめるために,日本原子力研究所を中心とするINISの情報処理体制を早急に確立する必要がある。とくに,情報検索については,その重要性にかんがみ,日本原子力研究所が国内の一元的担当機関として,昭和50年度頃までに,国内での利用が実現できるよう,精力的にその開発と体制の整備をすすめることとする。また,アメリカ原子力委員会と日本原子力研究所との間の情報交換活動をはじめとする2国間情報交換活動については,当面INISを補完するうえできわめて重要であるので,ひきつづきその推進をはかるものとする。
 なお,このほか核データ,計算コード等の特殊専門情報の交流についても,海外諸機関との協力を深めつつ,その入手,国内情報サービス等の充実をはかるべく日本原子力研究所等の機能を強化充実することが必要である。


第13章国際協力

1.経緯および現状

① 原子力開発利用をすすめるにあたっては,多額の資金と多数の人材が必要であり,それを効率的,効果的にすすめるためには国際協力が不可欠である。
 わが国の場合,とくに原子力開発利用における先進国に比べ,そのスタートが比較的遅れたこと,および国内の核燃料資源が乏しいこと等によの,その研究開発の当初から,米国等原子力先進諸国と協力協定を締結するなど,国際協力を推進することによって,開発利用の一層の促進をはかってきた。
 このようにして,現在ではわが国は米国,英国,カナダの3国と原子力平和利用協力協定を締結しており,また,フランスおよびオーストラリアとも同様の協定に調印し,これらは,国会の承認を経て発効することとなっている。西独とは平和利用の促進に関する書簡交換を行ない,さらに米国英国等原子力先進諸国との間に定期的に.原子力に関する会議,を開催し,情報の交換等平和利用の促進に資している。
 また,わが国は,世界における原子力平和利用の効果的な推進のためには,国際機関を通じての国際協力が有効であることを認め,国際原子力機関(IAEA)に1957年(昭和32年)創立と同時に加盟し,その後ひきつづき理事国として原子力平和利用の推進のために努力をはらってきた。同時に,欧州原子力機関(ENEA)にも,1965年(昭和40年)に準加盟を,さらには1972年(昭和47年)に正式加盟を行なっている。
② わが国は,これまでの原子力開発利用促進の努力により,現在原子力先進国としての地位を確保しているが,今後実用期に入ったわが国の原子力開発利用を総合的に推進するうえにおいて,ウラン資源入手源の多角化,濃縮ウランの確保等をはじめとする核燃料問題,環境安全問題,放射性廃棄物の処理処分問題等について積極的に国際協力の場を通じて対処していくことが必要となっている。
 このように,わが国の原子力に関する国際協力については,これまでにおける基礎研究を中心とした技術情報交換や人材交流等,基礎的研究開発面における国際協力に加え,原子力開発利用分野での産業化の発展に伴い,産業面における国際協力が従来に比して重要の度を増してきている。
 したがつて,今後とくに原子力先進国との協力にあたっては,相互主義の原則にたつことが要求される情勢にある。
 また,今後わが国からの開発途上国に対する援助,とりわけ技術協力が拡大するに伴い,開発途上国に対する原子力技術分野に関する広範な協力が国際的責務として一層強く求められるものと考えられる。

2.今後の方向

 以上のような情勢にかんがみ,原子力開発利用に関する国際協力は,今後以下の方針により実施することが必要である。


第14章保障措置

1.原子力平和利用と保障措置

 わが国における原子力開発利用は,原子力基本法に基づき,これを平和利用にのみ限ることを基本方針としており,核物質,施設等の管理は,核原料物質,核燃料物質および原子炉の規制に関する法律等に基づいて実施されている。
 また,原子力開発利用に必要な核物質等を外国から入手するにあたっては,これらの核物質等を軍事目的に転用しないことを約束しており,これが遵守されることを確認するための手段として国際原子力機関(IAEA)の保障措置を受諾している。
 近年,核物資の量および原子力施設の増加は著しく,これに伴い核物質管理および保障措置に関する業務は著しく増加しており,その効率化が強く要請されている。
 また,核兵器不拡散条約(NPT)が昭和45年3月発効したが,本条約を批准した場合には,現行の保障措置の対象となつている核物質に加えて,それ以外の核物質についてもNPTの新しい保障措置が適用されることとなる。この新しい保障措置制度においては,国の核物質管理制度を検証する方向で保障措置を適用するという原則が確立された。

2.保障措置に対処する今後の方策

 以上の情勢にかんがみ,国内核物質管理制度を充実し,原子力の平和利用に対する国際的信頼性を高めるとともに,技術開発の推進およびIAEA等との国際協力の実施等を積極的にすすめることとする。この場合,保障措置適用によつて,いたずらに商業機密が漏洩するようなことがあっては,研究開発意欲の減退をもたらし,国益を損なうことになるので,合理化,簡素化等によってこの問題に適切に対処する。

(1)核物質管理制度の整備充実
 原子力開発利用の本格化に伴い核物質の取扱量は増大し,またその使用形態も多様化しており,このため加工,使用,貯蔵および輸送等における管理方式は一層複雑化する傾向にある。したがつて,核物質の効果的かつ合理的な管理体制を確立することは政府および民間企業にとつてきわめて重要である。
 また,今後の保障措置の適用を受けるにあたつては国の核物質管理制度の有効性がIAEAの実質的な査察業務量の軽減く寄与することにもかんがみ,記録の整備,報告の合理化迅速化等をはかり,国内検証措置を含む核物質管理制度を充実し,国際的信頼性を高める必要がある。このため,核物質等に関する情報の処理および管理,核物質管理技術者の養成保障措置に関する調査および普及等の業務を総合的に実施する体制を早急に検討するとともに,関係法令の整備および行政機構の真実をはかる。

(2)保障措置に関する技術開発の推進
 保障措置に関連する技術開発は,現在,日本原子力研究所動力炉。核燃料開発事業団,大学,民間企業等においてすすめられているが,今後は,これを一層計画的に推進する必要があり,また計画の進捗状況および研究開発の評価検討等を随時行なう必要がある。
 この場合,とくにわが国の核燃料サイクルの特徴および費用対効果等を考慮して,次の分野における研究開発を重点的に推進するものとする。

(3)国際協力の実施
 今後の保障措置に関連する技術開発にあたっては,諸外国との不必要な重複を避け,効果的に推進することが必要であり,このため情報交換,専門家の相互交流および共同プロジェクトの実施等の国際協力がきわめて重要である。
 このため,わが国としてはIAEAが行なう技術開発に協力するとともに,米国,英国,西独等との2国間協力を積極的に行なうものとする。
 また,わが国において開発されたシステムおよび機器については,その情報をIAEAおよび開発途上国をも含めて諸外国に積極的に提供し,相互理解を深め国際的な保障措置制度の改善に努めるものとする。


目次へ