原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画
   
原子力開発利用長期計画
原子力委員会
 
目  次
 

◆原子力委員会原子力開発利用長期基本計画

 原子力開発利用長期基本計画

 1 目的

 2 前提条件

 3 開発の目標

 4 方針

 5 計画の内容

  (1)原子燃料の供給計画

   (イ)基本的な考え方

   (ロ)計画の内容

  (2)原子炉の建設計画

   (イ)基本的な考え方

   (ロ)計画の内容

  (3)アイソトープおよび高エネルギー放射線の利用の研究の促進

   (イ)基本的な考え方

   (ロ)計画の内容

  (4)日本原子力研究所の業務計画

   (イ)基本的な考え方

   (ロ)実験研究の重点

   (ハ)実験研究用の原子炉

   (ニ)輸入動力炉

   (ホ)放射線の利用の研究

  (5)原子燃料公社の業務計画

   (イ)基本的な考え方

   (ロ)核原料資源の精査

   (ハ)採鉱

   (ニ)核原料物質または粗製核燃料物質の買上等

   (ホ)製錬

   (ヘ)燃料要素の加工

   (ト)燃料要素の再処理および廃棄物の分離処理

  (6)関連技術の育成計画

   (イ)基本的な考え方

   (ロ)技術育成計画の内容

  (7)放射線による障害の防止

  (8)科学技術者の養成訓練計画


◆原子力委員会原子力開発利用長期基本計画

 わが国原子力行政の基本政策となるべき原子力開発利用長期基本計画については,本誌既報のとおり,本年3月以来原子力委員会および事務当局において種々検討中であったが,9月6日の定例委員会で次のように内定をみた。
 すなわち,本計画はさきに決定された「原子力開発利用基本計画策定要領」にもとづき広く関係各方面の意見をきいて策定上の問題点を処理しつつ,幾度か案を練り直した末にでき上ったもので,本年12月頃,石川,藤岡,湯川の各委員ならびに原子力局幹部が海外視察を終えて帰国して後,その調査結果をまって再び検討を加えて正式に決定される予定になっている。なお具体的な開発計画は,先般決定された昭和31年度原子力開発利用基本計画等毎年の年度計画および事項別の年次計画にゆずる訳であるが,本計画の大綱は,今後長く一貫してわが国の原子力の研究,開発,利用の基本となるべきものと考えられる。さらに敷えんしていえば,科学技術庁原子力局をはじめ関係各省庁や日本原子力研究所,原子燃料公社などは,関係各方面と協力し,また諸外国と提携しながら,この計画を中心として原子力平和利用の道を邁進することとなるのである。
 原子力開発利用長期基本計画

(昭和31年9月6日内定)
原子力委員会

原子力開発利用長期基本計画

1 目的

 わが国における原子力の研究,開発および利用について,長期にわたる基本的かつ総合的な目標,方針等を設定することにより,原子力の平和利用を計画的かつ効率に推進することを目的とする。

2 前提条件

(1)原子燃料ついては,国際管理機構の確立等により輸入は順次緩和されるものとする。

(2)原子炉用材料およびその原料の購入並びにこれらの生産技術の導入についても,その制約は順次緩和されるものとする。

(3)エネルギー需給の見とおしについては,経済企画庁,通商産業省公益事業局および資源調査会が作成したエネルギー需給の想定資料を参考とするものとする。

3 開発の目標

 原子力の研究,開発および利用は,わが国のエネルギー需給の問題を解決するのみでなく,産業の急速な進展を可能にし,学術の進歩と国民の福祉の増進をもたらすものであることにかんがみ,すみやかにその実用化を図り,特にわが国の国情に最も適合する型式の動力炉を国産在することを目標とする。このため基礎研究に力を注ぐとともに,関連技術を育成し,原子力工業の基盤の確立に努める。

4 方針

(1)原子力の研究,開発および利用を進めるにあたっては,動力としての利用面と放射線の利用面とを平行的に促進するものとする。

(2)本計画の期間は一応動力炉を国産化する時期を目標とするが,すみやかにこの目標時期に到達するため,当初の間は外国技術の導入を積極的に行うこととし,とのため海外諸国との協力を緊密にするととは勿論,国際管理機構,地域開発機構等との連けい協力を密にすることとする。

(3)今後おける原子力開発の基本は,原子燃料の供給態勢如何によるととが大であるので,すみやかにその態勢を確立するよう努力するものとする。

(4)原子燃料は,極力国内資源に依存し,その開発を促進することとするが,やむを得ない場合には不足分を輸入することとする。この場合にも,できる限り製錬加工は国内で行うこととする。

(5)燃料要素の再処理については,極力国内技術によることとし,原子燃料公社をして集中的に実施せしめる。

(6)原子炉に関する研究は,日本原子力研究所を中心として行い,その研究施設は関係研究者に開放することとし,原子炉の建設は当分の間同研究所に集中するものとする。

(7)わが国における将来の原子力の研究,開発および利用については,主として原子燃料資源の有効利用の面から見て増殖型動力炉がわが国の国情に最も適合すると考えられるので,その国産に目標を置くものとする。

(8)動力炉に関する技術の吸収向上,原子力発電の諸条件の検討等の目的のため,相当規模の動力炉数基をできるだけすみやかに海外に発注する。

(9)わが国の電力事情から見て,国産による増殖動力炉の完成以前に,相当数の動力炉が輸入され,または国産されることが予想されるが,この場合には(8)の動力炉の運転成果を十分活用するものとする。

(10)船舶用原子炉については,わが国における造船および海運の重要性と世界の趨勢とにかんがみ,なるべくすみやかに実用化のための試作に着手するととを目標として研究の推進を図るものとする。

(11)発電用および船舶用以外の動力への原子力の利用については,現状においてはその将来を十分予測できないので今後の諸外国における研究の進展に応じてあらためて考慮する。

(12)工業用または医療用の原子炉については,その将来性にかんがみ研究を進めるものとする。

(13)大学における研究教育用の原子炉については,わが国における原子力の研究の進展に応じてその設置を考慮するものとする。

(14)原子燃料の効率的な利用と原子炉の集中とにより原子力の研究および開発の急速な進展を期するとともに,これらに伴う危害および障害の防止を図るため,原子炉等の管理に関する法律(仮称)を制定するものとする。

(15)放射線の利用については,その応用範囲が広はんでおり,科学技術の振興,経済の発展,等に及ぼす影響力く大きいので,極力民間,公立,国立の試験研究機関における研究の促進およびその成果の普及を図るものとする。

(16)アイソトープの利用の促進にあたっては,まずその供給を確保する必要があるので,すみやかに国産への移行を図り,わが国においてアイソトープの自給が可能となるよう配慮するものとする。

(17)原子力関連技術については,原子炉およびその必要資材を国産するため,またその技術の開発が広く科学技術一般の水準の向上と新産業の開拓を招くことにかんがみ,極力その育成に努める。

(18)原子燃料の有効利用等の見地からウラン,トリウムおよびプルトニウムについて十分な基礎研究を行うこととする。

(19)将来予想される濃縮ウランの需要に備え,ウラン濃縮の基礎研究の推進を図るものとする。

(20)核融合については,情報の収集に努力し,調査を進めるものとするが,研究の進展に応じてあらためて施策を講する。

(21)原子力に関する基礎研究については,大学における研究を促進し,これと緊密に提携して研究成果の交流等にも意を用いることとする。

(22)原子力の研究,開発および利用にあたっては,科学技術者の養成が不可欠であることにかんがみ,基礎部門および応用部門の各分野においてその養成訓練を図るものとし,とりあえず科学技術者の再教育に重点を置くが,恒久的な方策としては大学における教育の充実に努めるとととする。

(23)原子力の研究,開発および利用の進展に伴い放射線障害の防止に万全を期するためすみやかに放射線障害防止法(仮称)を制定し,あわせて国立の放射線医学総合研究所(仮称)を設置するものとする。

(24)上記の方針に従い,今後緩急に応じて逐次事項別の年次計画を策定し,本計画の具体化を図るものとする。

(25)本計画は,今後における原子力の研究,開発および利用の進展状況等を勘案して,必要に応じ修正するものとする。

5 計画の内容

(1)原子燃料の供給計画

(イ)基本的な考え方
 原子燃料については,極力国内における自給態勢を確立するものとする。このため,国内資源の探査および開発を積極的に行い,あわせて民間における探査および開発を奨励する。また,不足分については海外の資源を輸入し得るよう努力する。なお,将来わが国の実情に応じた燃料サイクルを確立するため,増殖炉,燃料要素再処理等の技術の向上を図る。

(ロ)計画の内容

 ただし,その研究は日本原子力研究所を中心として行うものとする。

(f)燃料要素の再処理および廃棄物の処理は原子燃料公社において集中的に行うものとする。

(2)原子炉の建設計画

(イ)基本的な考え方
 基礎的研究より始めて,国産による動力炉を建設するため必要な各段階の原子炉を国内技術をもって建設し,これらの成果を利用して動力炉を国産することを究極的さ目標とする,このため,海外の技術を吸収することを目的として各種の実験炉,動力試験炉,動力炉等を輸入し,すみやかに技術水準の向上を図るとととする。なお,最終的に国産を目標とする動力炉は,原子燃料資源の有効利用ひいてはエネルギーコストの低下への期待という見地から,増殖動力炉とする。

(ロ)計画の内容

(3)アイソトープおよび高エネルギー放射線の利用の研究の促進

(イ)基本的な考え方
 アイソトープおよび高エネルギー放射線の利用の研究については,各分野における研究に活路を与え極めて短期間に技術の飛躍的な改変をもたらす可能性があることにかんがみ,その研究の促進と成果の普及を図るとととする。また,増大する傾向にあるアイソトープ需要に備え,極力その国産化を図るものとする。

(ロ)計画の内容

(4)日本原子力研究所の業務計画

(イ)基本的な考え方
 原子炉の開発については,研究用原子炉の開発と動力炉の開発とを平行的に実施するものとする。アイソープの利用については,その重要性にかんがみ,国産天然ウラン重水型原子炉の活用によって所要量の確保を図るとともに,アイソトープおよび高エネルギー放射線の利用の研究をもあわせて行う。
 なお,研究所の施設は逐次整備し,必要に応じ支所を設置することとするが,これらの施設は努めて関係研究者に開放して実験研究の総合的開発を図ることとし,あわせて科学技術者の養成訓練を行うものとする。

(ロ)実験研究の重点
 日本原子力研究所において実施する主要な実験研究は,次のとおりとする。

(ハ)実験研究用の原子炉
 原子炉開発の将来の目標は,増殖動力炉の国産化にあり,このため下記の研究用原子炉および実験炉を設置して国内技術の培養を図るものとする。

(ニ)輸入動力炉
 初期に輸入する動力炉は日本原子力研究所に設置することとし,できるだけすみやかに型式,容量等を決定して発注するものとする。この炉によって動力炉の設計建設技術の習得,関連技術の育成,運転技術の修練等を行うこととする。
 増殖動力炉の設計条件に関する資料を得るため相当規模の増殖動力試験炉を輸入設置する。ついで上記の増殖実験炉およびこの炉を基礎とし,増殖動力炉の国産化を図る。

(ホ)放射線の利用の研究
 アイソトープおよび標識化合物の生産,輸入および頒布,技術者の養成訓練等を行い,また,アイソトープの医学,農業,工業等の各分野における利用に必要な基礎的研究または共通的研究を推進するとともに,高エネルギー放射線による物質変性等に関する研究施設を設けて研究を行う。これらの研究施設は広く一般に開放し,関係研究者の研究の促進に資する。

(5)原子燃料公社の業務計画

(イ)基本的な考え方
 昭和33年度末終了を目標として地質調査所が行っている概査の成果を利用し,有望鉱床について精査を行う。採鉱,選鉱および粗製錬は,民間において行うことを原則とするが,原子燃料公社もその一部を実施する。民間において生産した核原料物質または粗製核燃料物質は,これを買い上げ,なお不足する場合は,海外から輸入し,製錬することとする。燃料要素の加工は民間企業と平行して行い,燃料要素の再処理および廃棄物の分離処理は日本原子力研究所との緊密な連けいのもとに実施するものとする。

(ロ)核原料資源の精査
 当初は特定地域において坑道,ボーリング等による探鉱を行い,以後漸次その規模を拡大し,できるだけすみやかに埋蔵量についての一応の見とおしを得るよう努力するものとする。

(ハ)採鉱
 採鉱は民間において行うことを原則とするが,原子燃料公社が行うことが必要であると認められた場合にはこれを行うこととする。

(ニ)核原料物質または粗製核燃料物質の買上等
 民間において生産した核原料物質または粗製核燃料物質は鉱石または粗製ウラン塩,粗製トリウム塩等の形で買い上げ,なお不足する場合は海外から輸入することとする。

(ホ)製錬
 粗製ウラン塩を精練しウラン金属を製造する。なお必要と認められた場合は選鉱および粗製錬を行うものとする。トリウムについては,その将来性にかんがみ,トリウム精錬技術の確立を図るものとする。

(ヘ)燃料要素の加工
 各種の燃料要素の加工は日本原子力研究所における研究を受け継ぎ,民間企業と平行して原子燃料公社がこれを実施する。

(ト)燃料要素の再処理および廃棄物の分離処理
 燃料要素の再処理および廃棄物の分離処理については,その初期には日本原子力研究所が研究的に実施するが,その後は核燃料物質の散逸を防止し,安全性を確保するため原子燃料公社において集中的に実施するものとする。

(6)関連技術の育成計画

(イ)基本的な考え方
 関連技術の育成については,助成措置により技術の確立を図り,将来わが国において建設される原子炉およびその関連設備の生産,建設等を極力国内技術によって行い得る態勢を関連産業内に熟成せしめることを目標とする。このためさしあたり工業化に必要な基本的技術の育成を主目的とし,その後は需要の情勢に応じて適宜量産化を図る。
 なお,さしあたって企業化するには採算上困難であると認められる原子炉構成材料,機械装置,燃料要素等については,特に保護育成の措置を講ずるものとする。

(ロ)技術育成計画の内容
 育成が必要と認められる関連技術の範囲は次のとおりとする。

(7)放射線による障害の防止
 わが国の原子力の研究,開発および利用の進展に伴い留意すべき放射線障害の防止については,原子炉等の管理に関する法律(仮称)および放射線障害防止法(仮称)をすみやかに制定し,原子炉,放射性物質,放射線発生装置等に関する規制を行い,また,これらに伴う保安上および保健上の措置を講ずるものとする。これと平行してわが国の自然放射能を総合的に調査し放射線の障害防止に資するものとする。また,国立の放射線医学総合研究所(仮称)を設置し,放射線障害に関する基礎および応用の研究を行い,あわせて放射線の医学への利用の研究ならびに放射線に関する医師および技術者の養成を行うものとする。

(8)科学技術者の養成訓練計画
 原子力の研究,開発および利用にあたっては,その分野が全く新しいものであるので,とりあえず各分野における専門技術者の再教育に重点を置くものとし,原子炉物理,原子炉化学,保健物理,熱伝導,計測制御,炉材料,機械装置,核原料物質の選鉱および製錬,燃料要素の加工,燃料要素の再処理および廃棄物の分離処理の各部門,応用面としてのアイソトープの利用,動力への利用,放射線障害防止等の部門に分けて,それぞれ養成訓練を行うとととする。このためさしあたりは海外に留学生を派遣することとするが,国内における設備の完成に伴い,国内における訓練に逐次重点を指向するものとする。なお,日本原子力研究所においても科学技術者の養成訓練等を行う施策を講ずる。関連産業における技術者の育成については,上記の施策によるほか国の補助金の交付等による試験研究の推進にあたって関連産業内においてこれを行うことをあわせて考慮する。


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