平成12年6月26日

原子力研究開発利用長期計画骨子(案)

 

目  次

第1部 原子力の現状と課題

 第1章 20世紀の科学技術

 第2章 原子力技術の発達

 第3章 我が国の原子力研究開発利用

  1.我が国の原子力発電 -現状と将来展望-

  2.核燃料サイクル政策

  3.放射線利用の現状と課題

  4.先端科学技術としての原子力技術開発の意義

 第4章 これからの原子力政策を進めるにあたって

  1.国民・社会と原子力
   1-1.安全確保と防災
   1-2.信頼の確保
   1-3.立地地域との共生

  2.国際社会と原子力

  3.21世紀に向けて

 

第2部 原子力研究開発利用の将来展開

 第1章 国民・社会と原子力の調和

  1.安全確保と防災

  2.情報公開と情報提供

  3.原子力に関する教育の在り方

  4.立地地域との共生

  5.国の役割と民間の役割

 第2章 原子力発電と核燃料サイクル

  1.基本的考え方

  2.原子力発電の着実な展開

  3.核燃料サイクル事業
   3-1.天然ウランの確保
   3-2.ウラン濃縮
   3-3.軽水炉による混合酸化物(MOX)燃料利用(プルサーマル)
   3-4.軽水炉使用済燃料再処理
   3-5.使用済燃料中間貯蔵

  4.放射性廃棄物の処理処分
   4-1.処分に向けた取組
   (1)地層処分を行う廃棄物
   (2)管理処分を行う廃棄物
   (3)その他の廃棄物
   4-2.原子力施設の廃止措置
   4-3.廃棄物の発生量低減と有効利用の推進
   4-4.処分に対する信頼の確保

  5.高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の研究開発の在り方と将来展開
   5-1.高速増殖炉サイクル技術の位置づけ
   5-2.高速増殖炉サイクル技術の研究開発の方向性
   5-3.高速増殖炉サイクル技術の研究開発の将来展開

  6.原子力供給産業
   6-1.競争力の向上と国際展開
   6-2.人材確保と技術の継承・発展

 第3章 原子力科学技術の多様な展開

  1.基本的考え方

  2.先端的研究開発の推進

  3.研究環境の進め方
   3-1.研究開発の実施と評価
   3-2.研究環境の整備
   3-3.国際協力

 第4章 国民生活に貢献する放射線利用

  1.基本的考え方

  2.国民生活への貢献

  3.放射線の生体影響と放射線防護

  4.放射線利用環境の整備

 第5章 国際社会と原子力の調和

  1.基本的考え方

  2.核不拡散の国際的課題に関する取組

  3.原子力安全と研究開発に関する国際協力

  4.地域別課題への取組


第1部原子力の現状と課題

第1章 20世紀の科学技術

 〇人類の歴史は農耕に始まる文明の進歩とともに展開したが、18世紀に始まる科学技術の進歩は人類の社会と生活に大きな変化をもたらし、先進諸国に物質的な豊かさと繁栄とを実現するに至った。20世紀に入ると、科学技術は更に飛躍的に発展を続けた。これに伴い、工業・農業における生産活動は、歴史的に先例を見ないほどの高まりを見せ、人口の爆発的な増加ももたらされた。医療の進歩は人間の寿命を格段に伸ばし、交通機関の発展は人間の移動空間を地球の隅々にまで拡大した。大量に生産されたモノは、人類の社会生活を便利で快適なものにし、情報通信機器の発達は、膨大な情報を収集・処理することを可能にして、瞬時に世界中の人々と情報の共有や交換が行えるようになった。
 〇また、人々の物質的生活を支えてきたエネルギーについては、かつては薪や水力が利用されていたが、産業革命を契機に、科学技術の進展とともに石炭火力の利用が普及した。さらに第二次大戦後には、石油の利用が大幅に拡大し、原子力発電も実用化されるに至った。
 〇しかし、20世紀に飛躍的に高まった生産活動は、人口の爆発的な増加と相まって、資源の枯渇、生態系の破壊、地球温暖化問題、廃棄物処分問題等をもたらしている。物質的豊かさを亨受してきた先進国は、今後大量生産、大量消費、大量廃棄の社会経済を転換し、循環型社会を目指しつつ、地球環境との調和を図ることが不可欠となっている。今日、人類の活動は、地域間、国際間において相互に依存し、大きな影響を与え合うようになってきており、例えば、21世紀には発展途上国の人口増加と経済発展の追求によって、エネルギー、資源、食料の需給の逼迫、熱帯雨林の減少などが予想されることに対して、全人類的視野に立った取組が必要となっている。
 〇20世紀における科学技術の発達は、地球環境問題を始めとして、人類社会に、様々な問題を投げかけているが、他面でこれらの問題を解決していく上で科学技術の新たな発達が必要であることも事実である。その意味で科学技術は、今後とも人類活動のフロンティアを拡大し、人類共通の知的財産として、今後の文明の更なる発展の基盤となるであろう。そこで、今後は、科学技術と人間・社会との関係や科学技術が社会の要請にいかに応えていくべきかといった視点がこれまで以上に必要となってくる。

第2章 原子力技術の発達
(原子力の誕生)

 〇原子力利用の歴史は、ほぼ100年前のレントゲン・キュリーなどによる放射線・放射能の発見に始まるが、X線が発見された翌年の1896年には放射線がガン治療に使われるなど、放射線は早くから診断、治療の分野で利用されてきた。そして、約60年前には最初の核分裂連鎖反応が発見されている。原子力技術は20世紀が生んだ科学技術である。20世紀を通して、原子力分野では物質透過性という放射線の性質を利用した、医療などの分野における利用と、核分裂によって放出される莫大なエネルギーの利用の双方の技術開発が行われてきた。

(原子力と軍事利用)

 〇核分裂反応の発見により予見された原子力のエネルギーの利用は、残念なことに軍事利用から始まった。世界では、現在までに約2,000回(2000年6月現在)の核実験が行われ、広島・長崎での実戦における核爆弾の投下も行われた。冷戦終了後は、核兵器の大幅な削減が進む一方で、解体核兵器のプルトニウム問題や、インド、パキスタンの核実験、イラクの核開発、北朝鮮の核開発疑惑に代表されるように新たな核拡散の懸念が広がっている。

(原子力の平和利用)

 〇原子力技術の平和利用については、第二次世界大戦後、特に1953年のアイゼンハワー大統領によるアトムズ・フォア・ピース演説以降、核兵器の拡散を防ぎつつ、平和利用を促進する国際的枠組みが整備され、欧米を中心に原子力発電技術の開発が進められた。原子力発電では、世界各国が積極的に研究開発に取り組んだ結果、現在では、世界全体として、400基以上の原子炉が総発電電力量の約16%(1998年)を供給している。米国では電力供給の約20%、欧州においては約30%を原子力が担っており、稼働率の高い既存の原子力発電所の経済性は化石燃料と十分競合している。

(世界の原子力開発の停滞)

 ○しかし、チェルノブイル原子力発電所の事故以降、原子力発電所の運転停止や建設計画の中止・凍結を決める国が出ており、また、エネルギー市場をめぐる様々な状況変化を背景に、欧州を中心に世界の原子力発電所の新設は停滞傾向にある。欧米諸国では、現在原子力発電所の新設の計画はなく、欧州ではスウェーデンのバーセベック1号機の閉鎖や、ドイツの原子力発電所の最大発電量の設定への合意、フランスのスーパーフェニックス高速増殖炉の閉鎖が決定されている。これらの背景には、電力分野における規制緩和、市場化の進行、脱原発・反原発を掲げる政党の政権参加、広域的エネルギー網の整備等様々な事情が見られる。米国では、原子力発電所に対する規制の強化や変更による建設費の高騰や、電力自由化の進展とともに原子力より経済性で優れる天然ガスのコンバインドサイクルの採択によって原子力の新規開発が停滞している。しかし他方で、アジア地域においては、様々な不確定要因はあるものの、中長期的に高い経済成長とそれに伴うエネルギー需要が予想されるところから、原子力発電を拡大する方向にある。いずれにせよ、原子力発電への取組はエネルギー資源の海外への依存度等、各国固有のエネルギー事情の相違によるところが大きいのが現状である。

(放射線の利用)

 〇原子力利用の一つとして、放射線を用いた研究・実用の分野でも技術開発が行われている。様々な種類の放射線は、ミクロの世界の観測、計測、微細加工等先端的研究開発に不可欠な手段を提供し、物質・エネルギーを構成する要素についての新たな知見をもたらして科学技術発展の原動力となっている。さらに、医療分野におけるエックス線診断、医療器具の滅菌、がん治療、産業分野におけるゴム、プラスチックの改質、放射線育種、食品照射等の放射線利用の技術は、先進国、途上国を問わず、世界各国において広く定着しつつある。

(20世紀の原子力の状況)

 〇原子力は、エネルギー供給の面でこれまで重要な役割を果たすとともに、加速器等科学技術の発展の手段の提供、医療、産業等の分野における放射線利用という形で、20世紀の人類に貢献してきた。他方で、原子力の開発利用に伴って、核拡散、安全性、放射性廃棄物処分の問題が生じている。今後人類がこれらの諸問題を社会が受容できるようなレベルに管理し、あるいは解決することができるのかが、今日社会から改めて問われている状況にある。

第3章 我が国の原子力研究開発利用
1.我が国の原子力発電 -現状と将来展望-
(我が国における原子力発電の現状)

 ○我が国が国民生活の質を維持していくには、生活の基盤としてのエネルギーの安定供給を欠かすことはできない。我が国は、1966年に最初の商業用原子力発電所が運転を開始して以来今日に至るまで、石油代替エネルギー源としての原子力発電の導入を積極的に進め、平均して年間1.5基程度の原子力発電所の運転を開始してきた。その結果、1998年度には51基、総設備容量にして4,492万kWの商業用原子力発電所が稼働するに至っている。これらの原子力発電所は、1970年代には故障が相次いで、低い稼働率で操業されていたが、その後、故障の原因究明に基づく抜本的対策や改良標準化等が図られて、故障の発生頻度が低下し、次第に稼働率が向上して、1990年代後半には稼働率は毎年80%を超えるまでになった。その結果、1998年度には、国内総発電電力量9,018億kWhのうち36.8%にあたる3,322億kWhが原子力発電によって供給されている。これは、一次エネルギーに換算すると原油換算約8,084万klに相当し、原油換算5.89億klに達する同年の我が国一次エネルギー供給の13.7%を担っていることになる。
 ○1990年代に入って国際社会において地球温暖化問題への関心が高まり、我が国では地球温暖化ガス削減の有力な方策として、原子力発電への期待大きい。しかし、原子力発電に対しては、1986年のチェルノブイル原子力発電所事故に見られるように、一旦大規模な事故が起きた場合には放射能汚染被害が甚大であるところから、人類は果たして原子力という巨大技術を安全に管理できるのかといった不安が高まっている。また、原子力発電に伴って生ずる高レベル放射性廃棄物について、現世代のみならず後世代にわたっての人の健康に影響を及ぼさないように隔離できるのかという指摘がなされている。このような観点から、原子力を今後とも将来のエネルギー源とすることに不安を感ずる人も多い。また、欧米諸国において原子力開発が停滞していること、地球温暖化防止策として再生可能エネルギーを導入するという機運が高まっていること、さらに我が国で最近一連の原子力関係事故が続発していることなどから、我が国がこれ以上の原子力発電や核燃料サイクルの推進に取り組むことに懸念を抱く人が多くなっている。

(我が国のエネルギー供給に関する課題)

 ○日本のエネルギー需給を考える場合、我が国が、他の欧米諸国と異なり、四方を海に囲まれた島国であり、送電線やパイプラインによって他国とのエネルギーの融通が困難であること、また、国内に天然資源が乏しく、そのほとんどを海外に依存していることなど、まず、我が国の地政学的特徴を考慮しておく必要がある。
 ○その上で、我が国のエネルギー供給の第一の課題は、国民生活を支えるために、安定的に経済性の高いエネルギーを確保することである。このためには、主要エネルギー資源の輸入先を多様化しておくこと、また供給途絶に備えて備蓄体制を整備しておくことが必要である。原油に対する輸入依存度は99.7%であり、欧米諸国に比べて著しく高いことから、実行可能な限り、エネルギー源を石炭、天然ガス、原子力、再生可能エネルギーといった石油代替エネルギーに代えていくことが重要である。
 ○第二の課題は、二酸化炭素を中心とする温室効果ガス削減問題への対応である。我が国は、地球温暖化防止京都会議(COP3)において、議長国として温室効果ガスの排出量を2008年から2012年の5年間の平均で、1990年の排出レベルから6%削減するという目標を受け入れている。そのため、エネルギー効率の向上を図るとともに、国民のライフスタイルの転換を促すなど多面的な省エネルギー努力を推進しなければならないが、他方で、温室効果ガスの発生の少ない原子力や再生可能エネルギーへの転換を図ることや、当面の対策として石炭・石油から天然ガスへの燃料転換などの対策が必要となってくる。
 ○このような観点から、省エネルギー技術の研究開発を始め、二酸化炭素回収技術、原子力や再生可能エネルギーについて、より大きな可能性を引き出す技術の実用化のための研究開発を長期的観点から継続的に行うことが重要である。これは、エネルギー資源に乏しく世界有数のエネルギー消費国である我が国にとっての責務でもある。

(省エネルギー)

 ○1970年代の石油危機を契機として、我が国は省エネルギー対策に積極的に取り組んだ結果、我が国のGDPあたりの最終エネルギー消費量は、エネルギー多消費国アメリカの3分の1であり、またドイツの3分の2であるように、その他の欧州諸国と比べても低い水準にある。しかし、近時のエネルギーの需要面を見れば、民生、運輸部門は一貫して伸び続けていることに加え、産業部門でも経済不況による省エネルギー投資の低迷が見込まれることから、今後の省エネルギーの進展については困難が予想されている。ところが、我が国の社会を持続可能な発展を実現できる循環型社会に変えていくには、大量生産、大量消費型の社会経済を見直し、資源の効率的利用と再利用のための技術とシステムの整備充実を図り、人々のライフスタイルの在り方をこの社会にふさわしいものに変革することが不可欠である。しかし、その実施にあたっては、設備の更新を要する場合が多く、その効果が発現するまでに時間を要することに留意しておかなくてはならない。

(再生可能エネルギー)

 ○再生可能エネルギーの総量の一次エネルギーに占める割合は、1998年において、水力3.9%、その他が1.3%である。水力、バイオマスや地熱については、他の再生可能エネルギーに比較して供給の不安定さが小さいという利点があるが、現在のところ国内における水力や地熱の未開発資源は、環境及び立地上の制約、送電線の敷設などの経済的制約のために大規模開発が難しく、その規模を大幅に拡大していくことは困難である。したがって、今後の重点は、環境保全を重視した中小規模の水力発電所の開発や、高温岩体発電のような革新的な技術の開発に向けられるものと考えられる。
 ○他方で、立地条件や自然に左右される太陽光発電、風力発電、波力発電については、これらによる電力供給は不安定であり、エネルギー密度が小さく、かつ、単位発電量あたりの設備費が高いため、現在のところ風況のよい地点における風力発電や住宅等における自家需要としての太陽光発電を除いて、大規模な導入は容易ではない。太陽光発電については、直面する最大の課題は経済性の向上であり、太陽電池の効率向上と製造コストの低減、設置方法の改善が必要である。風力発電については、我が国の地形が複雑で風が不安定であるため、ウインドファームとして大量に導入できる地点はそう多くはない。しかしながら、立地点の風況調査を丁寧に実施して特性にあった風車を選択すると同時に、単機出力を1000kW程度に大型化するなどの経済性追求努力を重ねつつ、その規模を拡大していくことが期待されている。なお、これらの不安定な電源が系統の最低負荷容量に対して一定の割合を超える場合は電力系統側に安定装置が必要となることも、コスト増大要因として指摘されている。
 ○また、製紙工程の廃棄物である黒液・廃材を含む廃棄物はバイオマスの一種と言ってよいが、それによるエネルギー供給能力は、これを排出する主工程の規模に左右され資源量も限られていることから、需要に応じて拡大することには限界がある。
 ○再生可能エネルギーについては、今後、さらに、分散型エネルギーである特徴を生かして利用することに対して、様々な手段を用いて支援するなど、中長期的観点に立って最大限合理的導入を図ることが必要である。しかしながら、これらのエネルギーは、当面は、水力を除いて、補助的水準を超える役割を期待するのは難しいのが実状である。

(原子力の特性と課題)
 【長期供給安定性】

 ○原子力は、燃料のエネルギー密度が高く、備蓄が容易であるという特徴がある。さらにウラン資源は政情の安定した国々に分散しており、適切な価格で購入が可能であるなど、供給安定性に優れている。また、核燃料サイクル技術は、核燃料の効率的利用を可能にして供給安定性に優れるという原子力発電の特性を技術的に向上させるとともに、ウラン資源の利用期間を長期化することを可能にする技術である。さらに、高速増殖炉など、ウランを高い効率で利用できる技術が実用に供されれば、その開発は将来のエネルギー選択の技術的選択肢を拡大させることになる。

 【環境適合性】

 ○原子力発電は、温室効果ガスや窒素酸化物、硫黄酸化物の排出による環境負荷が少ないという特色をもっている。しかし、放射性廃棄物については、放射能が生活環境に影響を及ぼさないように、適切に管理し処分することが必要である。

 【放射性廃棄物】

 ○原子力発電を進める上で、放射性廃棄物の処分問題は最優先課題の一つである。100万キロワットの原子力発電所を1年間運転することによって、ドラム缶数百本の低レベル放射性廃棄物と、使用済燃料の再処理過程で分離される高レベル放射性廃棄物がガラス固化体にして約30本発生する。低レベル放射性廃棄物については、既に埋設処分が開始されており、その放射能は埋設後数百年間で生活環境に影響を与えないレベルにまで減衰することが期待されている。他方、高レベル放射性廃棄物は、長期間にわたって高い放射能が持続するために、放射能が生活環境に影響を及ぼさないように、長期にわたって隔離することが必要となる。このための処分方式として、地下数百メートル以深の安定した地下に埋設する「地層処分」を行うことが各国で計画されている。
 ○我が国においては、平成12年に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」の制定によって高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けての法的枠組みが整備され、今後、この法律のもとで処分事業の実施主体設立、処分地選定プロセスが進められることとなる。また最終処分の実施にあたっては、深地層の科学的知見を得ることが重要であり、このための研究施設を建設することが緊要な課題である。欧米では、施設の立地に際して地域社会の理解を得ることに最大限の努力がなされているが、我が国においても、今後、国民との間で対話を重ね、国民の理解と協力を得ながら地層処分を着実に進めることが必要である。

 【経済性】

 ○各種電源の発電コストは、資源や人件費、資本費がそれぞれの国の経済システムや資源流通機構の整備状況に依存するので、国によって異なっている。我が国では、原子力発電の経済性は、一定の前提による試算によれば、化石燃料発電と比較して遜色のないものと試算されている(通商産業省試算)。

 【安全性】

 ○原子力発電所は大量の放射性物質を内蔵することから放射線によるリスクを十分小さくできるように重層な安全設計と安全管理がなされている。このような管理によってkWh当たりのリスクは他の発電方式に比べ小さいとの報告がある。一方、放射線は五感では感じることができないこと、一般の人々にとって、健康影響が理解しにくいこと、また、安全確保の仕組みが外から見えにくいことなどから、一般の人々にとって原子力リスクは分かり難い。さらに、チェルノブイル事故における被害の深刻かつ重大さ、また最近のJCO事故の体験などから、人々の原子力の安全性に対する不安感は大きく、原子力事業においては安全確保に最優先で取り組むことが依然として最も重要である。

 【核不拡散への配慮】

 ○核燃料や技術の一部は核兵器の材料や製造への転用が可能であることから、原子力の開発利用にあたっては、核不拡散への配慮が不可欠である。我が国は、NPT(核兵器の不拡散に関する条約)に加盟し、IAEA(国際原子力機関)の保障措置の下で、核物質、施設等を厳格に管理し、これによって機微技術の実用化やプルトニウム利用に関して国際社会の理解を得てきた。今後とも、国際約束の遵守はもとより、核不拡散に対する取組の実効性を向上させる観点から、情報、国際規制物資の管理のみならず、関連技術開発の充実に心がけることが必要である。

(我が国における原子力発電の今後)

 ○エネルギー資源に乏しい我が国が、高い質の国民生活を持続しつつ、21世紀にふさわしい循環型社会の実現を目指すには、エネルギー需給構造をそれにふさわしいものに転換していくことが重要である。このためには、国は、適切な資源備蓄水準の確保やエネルギー利用技術の効率向上を絶えず追求しながら社会の様々なシステムや国民のライフスタイルの変革をも視野に入れて、省エネルギー、燃料転換、再生可能エネルギーの量及び質的な特性を踏まえた利用などを、様々な規制的及び誘導的手段を通じて最大限に推進していくことが必要である。
 ○しかしながら、我が国のおかれた地政学的条件を踏まえ、また拡大する中東依存度や将来の不透明さを考慮すれば、これまで国内総発電量の3分の1を超える電力を供給し、エネルギー自給率の向上とエネルギーの安定供給に貢献してきた原子力発電を引き続き基幹電源に位置付け、最大限に活用していくことが合理的である。また、我が国の温室効果ガス削減に原子力発電が大きな役割を担っている点も無視することはできない。
 ○したがって、我が国のエネルギー供給システムを経済性、供給安定性と、温室効果ガスの排出量が少ないという観点から、原子力発電と他の電源の間との適切な構成割合を維持することが適切である。
 ○以上を踏まえれば、国と民間は、万一の原子力事故がもたらす被害の大きさ、核拡散に係る疑念がもたらす国際社会の緊張の大きさに十分配慮し、これらの発現する可能性を十分小さくする努力を継続して原子力施設の安定・安全運転を達成し、放射性廃棄物の適切な処理処分の実施に向けての継続的取組を通じて国民の原子力に対する不安と不信の軽減に努めるとともに、技術開発の成果を適宜、適切に導入して原子力発電とその関連技術システムを絶えず高度化していくことが必要である。

2.核燃料サイクル政策
(核燃料サイクルの現状)

 ○現在の原子力発電の主流である軽水炉では、天然ウラン中のわずか0.7%しか含まれていないウラン235を主として利用しており、それを前提とした場合に、IAEA(国際原子力機関)等の試算では、ウランの可採年数は70数年と見積もられている。しかし、使用済燃料を再処理して未利用資源として残存しているウランとプルトニウムを、再び燃料として再利用することによって、ウラン資源の有効利用が図られ、ウランの可採年数を伸ばすことができる。このため、我が国は、原子力発電を将来にわたって長期的かつ安定的に利用することを可能にする核燃料サイクル技術の開発と実用化に取り組んできた。
 ○現在、原子力発電所の使用済燃料は、崩壊熱が減衰するまで発電所で貯蔵された後、再処理されている。これまで再処理は主として海外の再処理事業者に委託されてきたが、今後は、青森県六ヶ所村に建設中の商業用再処理工場に委託される予定となっている。また、この工場の能力を超えて発生する使用済燃料については、当分の間、引き続き発電所で貯蔵するか、今後、発電所敷地外における使用済燃料の中間貯蔵事業者に引き渡され、再処理されるまでの間、安全に貯蔵されることとなっている。また、再処理に伴い発生する高レベル放射性廃棄物は安定な形態に固化した後、30年から50年間程度冷却のための貯蔵を行い、その後地層処分することが計画されている。また、回収されたプルトニウムについては、海外でも既に1980年代から利用が本格化されているプルサーマルと呼ばれる方式で現在の軽水炉で利用されたり、研究開発に利用される。
 ○ウラン資源を更に高い効率で利用するには、高速中性子を利用できる原子炉(高速増殖炉)で、プルトニウムを燃料として燃焼させるのが最も効率的である。これまで我が国では、実験炉「常陽」において増殖性能の確認や同炉からの使用済燃料の再処理によるプルトニウムの回収を行い、また、原型炉「もんじゅ」においては試験的発電が行われるなどの成果を収めてきたが、「もんじゅ」は、1995年12月に試運転の途中でナトリウム漏えい事故を起こしたことにより、運転が停止されている。
 ○海外においては、フランスなど、使用済燃料を再処理して、プルトニウム利用を図ろうとする国がある一方で、米国など、使用済燃料を再処理せずに直接処分することとしている国がある。また、高速増殖炉関連の開発に対する各国の取組も多様で、ロシアや中国など、高速増殖炉開発に熱心な国がある一方で、欧米諸国は、様々な理由から、一定の成果を上げた上で、開発を中止したり、方針の転換を図っている。

(我が国における核燃料サイクルの意義)

 ○我が国のエネルギーを取り巻く状況を直視する限り、様々な継続努力を行って長期的に安定的なエネルギー源を技術的に確保する必要があるという状況は変わっていない。現在、我が国におけるエネルギー源の約52%を占めている石油の賦存量は、世界エネルギー会議の試算などによれば42年程度と見積もられているが、アジアを中心とする発展途上国の石油消費量の急速な伸びを考慮するならば、石油資源の逼迫は不可避と考えられる。さらに、世界は21世紀に向けて人口増大、環境悪化等の様々な問題を抱えているが、これらはエネルギーの問題と密接に関連しており、途上国の経済成長の権利を保証しつつ、いかにしてエネルギー供給の安定と、環境保全を図っていくかは、中長期的重要な問題である。その際、原子力が有力な選択肢の一つであることについては、先に述べたところであるが、核燃料サイクル技術は、供給安定性に優れているという原子力発電の特性を技術的に向上させるとともに、原子力が長期にわたって安定的なエネルギー供給を行うことを可能にする技術である。
 ○さらに、不透明な将来に備え、将来のエネルギー選択肢を確保しておくため、様々な技術的選択肢の開発を行っておく必要があるが、そのような選択肢の中でも、高速増殖炉サイクル技術は、資源消費を節約し、さらに、高レベル放射性廃棄物中に長期に残留する放射能を少なくして環境負荷を更に低減させることのできる、潜在的可能性の最も大きなものの一つとして位置付けられる。これらの技術の開発のための基礎的研究と実用化に時間を要することを考慮すると、我が国のみならず、世界のエネルギー問題の解決も視野に入れ、我が国独自の長期的戦略的判断の下に、その研究開発に取組むことが必要である。

3.放射線利用の現状と課題

 ◯放射線は、取扱を誤れば健康に悪い影響を及ぼす危険性を有すが、適正に利用することによって、我々のより良い暮らしを実現し、社会に活力を与えうる利器である。
 ○現在、放射線の利用は、既に医療、農業、工業分野をはじめ身近な国民生活や産業活動に広く定着している。今後とも、手術を行わずにがんを治療するといった、生活の質を損なわない医療の実現、食品照射による食品衛生の確保、放射線の利用による排煙からの窒素・硫黄酸化物の除去などの環境保全技術、放射線による改質などを利用した効率的なプロセス技術の製造業への応用など、様々な分野における利用が期待されている。
 ○これらを通じて、放射線利用技術は、国民生活の質の向上、環境と調和する循環型社会の実現、活力ある産業の維持・発展など、21世紀の社会的な要請に応えることになるであろう。
 ○他方で、例えば食品照射に関しては、我が国では、消費者の照射食品の安全性に対する不安感から、諸外国に比べて普及が遅れている。放射線や放射線の人体への影響に対する国民の正確な理解を促進することが今後の放射線利用の普及にとって重要である。
 ◯特にJCOウラン加工工場臨界事故を契機として、放射線の人体への影響に対する国民の関心が高まっているので、放射線の人体影響とその治療等に関する研究開発を一層進めるとともに、科学的研究の成果を広く国民に対して発信していくことが必要である。

4.先端科学技術としての原子力技術開発の意義

 ○21世紀の日本は、これまで以上に基礎的分野の研究を充実させ、人類共通の知的資産の形成、独創的、革新的技術の創出に努めることが重要である。原子力の分野においても世界のフロントランナーとして先端分野の研究開発に積極的に取り組むことが重要である。
 ○原子力に関する科学技術は、核融合を始めとする新たなエネルギー技術発展の基盤であるとともに、レーザー、加速器、原子炉等の技術は、例えば、X線や放射光等を使って、ヒトのDNAやタンパク質の微細な構造を、観察することを可能にし、また、粒子線を使って、原子・分子レベルの構造を操作して、人工的に新しい元素や耐久性の高い材料などを創生・加工することを可能とし、さらには、原子や素粒子といった物質・エネルギーの本質を探ることをも可能にするものである。原子力に関する科学技術は、物理学等基礎科学の分野における新たな知見をもたらし、他方で、ライフサイエンスや物質・材料科学技術等の分野において最先端の研究を行うための手段を提供するなど大きな可能性を秘めている。
 ○これら原子力科学技術の発展は、今後革新的技術の創出が期待される物質・材料系科学技術やライフサイエンスの分野の研究の進展と相まって、21世紀の人類の知的フロンティアの開拓と我が国の新産業の創出等に貢献するものと考えられる。
 ○また、加速器、原子炉、核融合等の技術は、様々な分野における先端技術を総合した巨大システムの体系であり、原子力の技術開発に取り組むことによって、原子力の分野にとどまらず、日本の科学技術力全体の裾野を広げるという効果も期待できる。
 ○しかし、今日、限られた研究資源の下で最大限の効果を上げるために、研究開発投資の在り方が厳しく問われている。原子力の研究開発は、大型の装置を必要とすることから巨額の投資や人的資源を集中して進める場合が多く、また、研究開発の期間も長期にわたることが多い。このため、国民の理解を得ながら、効率的、効果的に研究開発を進めるためには、研究着手前に研究計画に対する厳格な評価を行うことが求められていることは当然であるが、さらに、諸情勢の変化に応じて研究に対する適時適切な評価を行い、研究計画を見直していくことが重要である。

第4章 これからの原子力政策を進めるにあたって

 ○今後、原子力政策を進めるに当たっては、国民・社会、また国際社会との関係を考えながら、進めて行かなければならない。このため、安全確保と防災、国民の信頼の確保、立地地域との共生、平和利用の堅持、国際的理解の確保を大前提として、これからの原子力政策を進めていく。

1.国民・社会と原子力

 ○高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏洩事故、東海再処理工場火災爆発事故、JCOウラン加工施設における臨界事故など、一連の事故、不祥事によって国民の原子力に対する信頼が大きく損なわれた。一般に、ある技術が社会に定着し、また、発展していくためには、その技術のもたらす便益とリスクが社会的に十分理解され、社会に受容されることが必要不可欠である。原子力についても、今後、我が国のエネルギー供給や科学技術の発展において、原子力がその期待される役割を果たしていくためには、国民の理解と協力が不可欠であることは言うまでもない。
 ○このためには、原子力事業は、安全の確保を大前提に、着実に安全実績を積み重ねることが不可欠である。それとともに、積極的に情報公開を行うことによって原子力行政や事業者の活動の透明性を一層向上させなければならない。国民の視点に立った正確な情報の提供や国民各界各層との対話の促進が、国民の信頼確立にとっての前提条件である。特に、原子力施設の立地と安定的な運転のためには、立地地域住民の理解と協力が不可欠であり、原子力と地域との共生という考えに立った対応が重要である。

1-1.安全確保と防災

 ○原子力の安全確保に関しては、①国の規制責任、②事業者の保安責任、③万一事故が発生した場合に備えて防災計画を整備するとともに、その実効性を担保するために、国、地方自治体、事業者それぞれの責任が十分果たされなければならない。さらにこれら責任主体の活動が国民の前に明らかにされ、信頼されることが重要である。
 ○JCO臨界事故の教訓として、国の規制の在り方、万一の事故の際の防災対策の在り方に加えて、事業に従事する全ての関係者のより高い安全意識に基づく安全管理体制を確立し、安全教育の徹底を図ることの重要性が指摘された。
 ○JCO事故を踏まえて、事故後、事業者の保安規定の遵守状況の検査等を内容とする原子炉等規制法の改正、原子力災害対策特別措置法の制定、原子力安全委員会の事務局機能の強化等を行うなどの取組がなされているが、今後は、これらの取組の実効性を確実なものとしていくことともに、原子力関係者は、安全を最優先させるという考えを組織内はもとより、産業界全体に浸透させることが、国民の原子力の安全に対する信頼の確保に不可欠である。一方、万一の場合の健康影響を最小限に抑え、治療を実施できる備えも忘れてはならない。

1-2.信頼の確保

 ○原子力に対する国民の信頼を得るためには、第一に原子力関係者が安全運転の実績を積み重ねていくことが不可欠であり、これに加えて普段から原子力に関する積極的な情報公開を行うことによって、原子力行政や事業者の活動に対する透明性を一層向上させるとともに、政策決定過程に対する国民参加を進めていくことが重要である。また、原子力に対する国民の理解促進のため、国民の視点に立った情報提供と様々な形での国民との対話や、教育を充実させ、国民一人一人がエネルギー、原子力について考え、判断するための環境を整備することが必要である。

(情報公開)

 ○情報は、国民が原子力の問題について判断する基礎となるものであり、国民の必要とする情報が適切に公開されることが重要である。既に、国においては、原子力に関する情報は核物質防護等に関する情報を除いて、原則すべて公開されているが、今後とも、明確な情報開示の基準に基づいて、通常時・事故時を問わず、適時に、的確かつ信頼性の高い情報公開を行うべきである。

(政策決定への国民参加)

 ○もんじゅ事故を契機として、原子力委員会は他の行政機関に先駆けて、政策決定過程における国民の参加を進めてきた。今後とも、国民の多様な意見を踏まえて原子力政策決定を行っていくために、政策案に対するパブリックコメントを広く求めるなど、政策決定過程に対して国民の参加を促すとともに、国は政策決定に関し、様々な機会を活用して説明責任を果たすことが重要である。また、これらのプロセスは社会情勢の変化に応じて柔軟に見直す必要がある。原子力政策円卓会議は、これまで、様々な人の意見をとりまとめて、政策提言を形成していく機能を果たしてきたが、広く国民の声を汲み上げて、原子力政策に反映していくという観点から、原子力政策円卓会議に続く新たな意見集約の場の在り方を検討する。

(国民の理解)

 ○原子力政策や原子力活動に対する国民の理解を得るためには、国民の視点に立って、その疑問に答える分かりやすい情報の提供に努めなければならない。その際、特に、対話を基本とする双方向のコミュニケーションを進めることが重要である。また、エネルギーや原子力の問題は、国民一人一人が電力を消費している自らの問題としても考えることが重要であり、教育の場においては、青少年の発達段階に応じて、適切な形で学習を進めることが重要である。

1-3.立地地域との共生

 ○原子力施設の立地問題は、一地域、一事業者の問題にとどまらず、国全体のエネルギー政策と密接に関わっている。したがって、国レベルで決定されるエネルギー政策については地方自治体・地域住民の意見といかに両立させ、いかに両者の間の調和を図っていくかが重要な課題となっている。
 ○原子力発電所等の立地に当たっては、これまでも様々な形で立地地域の住民の声を反映させる手続きが採られているが、今後はさらに、原子力施設の立地に限らず、地域住民が立地に関連して直接意見を表明することができる機会を設けることがますます重要となる。
 ○立地後は、原子力施設が安全に運転されることが当然の前提となるが、立地地域の住民の理解と協力を得るためには、原子力施設が設置・運転されることが地域において重要な社会的役割を果たしており、事業者と地域社会が相互に発展するという「共生」の考え方が重要となる。地域の発展のためには、地方自治体の主体性を尊重しながら、国、地方自治体、事業者の三者がそれぞれ適切な役割分担を図りつつ、相互に連携、協力して取り組むことが重要である。
 ○さらに、発電電力のほとんどが地元では消費されずに、大都市圏に移出され、都市での生活や産業に利用されている現状を踏まえれば、立地問題については、電力生産地と消費地という地域間の役割をいかに調和させるかという視点から捉えることも重要である。

2.国際社会と原子力

 ○海外の論調の中には、我が国が核兵器を開発するのではないかとの疑念を表明したり、我が国におけるプルトニウム利用が、国際的な核拡散につながるという懸念もあるようである。我が国の原子力開発利用を円滑に進めるには、国際社会の一部にあるこのような懸念に対して、我が国は、我が国の原子力政策の考え方を国際社会に明確に伝え、国際社会の理解と信頼を得ることが必要である。また、原子力利用を進める各国共通の関心事である原子力の安全問題や放射性廃棄物処分の問題の解決に向けて、我が国がその技術と経験をもって国際社会と相協力して主体的に取り組むことも、国際社会の理解と信頼を得ていく上で重要である。

(我が国の原子力平和利用堅持の理念と体制の世界への発信)

 ○我が国は原子力開発の第一歩から一貫して、原子力基本法に則り、民主・自主・公開の原則の下に、原子力研究開発利用を平和利用目的に限って推進してきた。我が国は、自ら率先して原子力平和利用に専心していることにつき、非核三原則、NPT(核兵器の不拡散に関する条約)に基づく義務の完全履行の説明を尽くすのみならず、我が国にとって核武装することは利益にならないという我が国の考え方、又、国際的な管理システムによって透明性を確保してきているという我が国の実態を世界に明らかにして、我が国が非核兵器国としての立場を堅持していることを、より強力に発信していくべきである。

(我が国のプルトニウム利用政策に対する国際的理解促進活動の積極的推進)

 ○今後、我が国がプルトニウム利用を進めるに当たっては、平和利用の原則を厳重に確保することはもちろん、我が国が行っている平和利用の確保に係る取組に対する国際社会の理解と信頼とを得るための努力を継続することが重要である。
 ○原子力発電大国であって非核保有国である我が国は、核燃料のリサイクルを前提としたプルトニウム利用政策について、その必要性、安全性、経済的側面についての情報を明確に発信するとともに、我が国のプルトニウムの利用については、利用目的のない余剰プルトニウムは持たないという原則を踏まえて、透明性を一層向上させる具体的な施策を検討し、実施していくことが重要である。
 ○原子力発電を進める上では、核燃料物質や放射性廃棄物の国内外の輸送が必要である。その中で、現在、海外再処理委託に伴い行われている国際輸送については、輸送沿岸国等の輸送の安全性に対する懸念が高まっている。これに対し、政府及び事業者が、輸送の必要性と今後の見通し、安全性や万一の場合の補償について輸送沿岸国等に説明を行う等、理解を促進する努力が必要である。また、今後、我が国の核燃料サイクル諸政策を進めるに当たっては、こうした輸送を巡る動向についても十分考慮することが必要である。

3.21世紀に向けて

 ○20世紀における原子力は、人類に対して様々な貢献を重ねてきたが、他方で軍事利用や平和利用の際の放射能放出を伴う事故など人類の生存を脅かすものともなった。放射性廃棄物の処分問題も21世紀に持ち越されてきた。しかしながら、これまで30年以上にわたる原子力安全や廃棄物の処理処分に関する技術的な蓄積に加えて、これまでの原子力研究開発利用の歴史に対する厳しい反省に立って、今後、研究開発を含め所要の対策を着実に進め、また、国際社会と一体となって核不拡散の努力を継続していくことにより、これらの問題を管理できる見通しが得られつつある。
 ○人類は自然から「火」を受け取ったが、科学技術の発展の結果、20世紀の人類は、物質に内在するエネルギーを解放・利用する「原子力」を獲得した。原子力には、少量の物質から莫大なエネルギーを生み出し、放射線を放出するという特性があるが、この特徴を使いこなし、管理することにより、環境への負荷を抑制しつつ、長期間にわたって人類にエネルギーの安定供給を行い得る。さらに、エネルギー分野以外でも原子力は、科学技術の発展や国民生活の質の向上に貢献できる可能性を秘めている。今後、地球社会の持続可能な発展を目指し、大量消費、大量廃棄から、循環型社会への転換に向けた様々な努力が必要であるが、このような原子力の特性を引き出し活用していくことは、21世紀の人類文明の目指すべき方向に向けた努力の一つであると考えられる。
 ○20世紀に生まれた原子力は、21世紀に人類の更なる英知をもって取り組むことによって、社会が受容できるよう管理しつつ、同時に、原子核エネルギーの有効利用、原子力を利用する先端科学技術の発展、国民生活の質の向上に向けて原子力の多様な可能性を最大限引き出す努力を行い、その成果を着実に将来の世代に引きついでいくことが、我々原子力利用の創成期に立ち会った20世紀の世代の責務である。また、このような努力の結果得られる成果は、我が国のみならず、将来の世界のエネルギー環境問題の解決や、人類の知的資産の創出にも貢献し得るものであることから、国際社会において利用に供されるような普遍性の高い技術の開発を目指すなど、我が国としても国際的視点に立って対応することが必要となる。

第2部 原子力研究開発利用の将来展開

第1章 国民・社会と原子力の調和
1.安全確保と防災
(安全確保の取組)

 ○JCO事故を踏まえた原子炉等規制法の改正により、今後、国による事業者の保安規定の遵守状況の検査等が行われるとともに、原子力安全委員会においては、設置許可後の行政庁による規制の状況を現地調査等により把握・確認するなど安全規制の強化が図られることとされている。これらの取組と、安全確保に第一義的責任を負う事業者の自主保安活動によって、安全確保の実効性を上げることが期待されている。また、その際、規制する側と規制される側との間に健全な緊張関係を構築することが重要である。
 ○安全確保の第一義的責任を有する事業者においては、経営責任者において安全を最優先させる考えを組織内に徹底させるとともに、研究者・技術者対して安全についての教育を充実させることが重要である。また、事故を機に、原子力関係者によってニュークリアセイフティーネットワーク等が設立されたが、産業界全体として安全意識の高揚や情報・経験の共有化を進めていくことが重要である。
 ○さらに、国、事業者は、故障、トラブルから得られた教訓や内外の最新の知見を安全対策に適時適切に反映させるとともに、国は、安全研究に関連する機関の連携の下、原子力安全委員会が決定する安全研究年次計画を踏まえて、研究を着実に推進する。

(原子力防災の取組)

 ○安全確保のためにいかなる取組がなされたとしても、事故発生の可能性を100%排除することはできない。そこで、万一事故が発生した場合に備えて、事故による生命・健康等への被害を最小限度に抑えるための防災対策が整備されていなければならない。今後、国、地方自治体、事業者、住民等が連携協力して原子力災害対策特別措置法の実効性を確実なものにしていくことによって原子力が社会的に受容されるように努めるべきである。

2.情報公開と情報提供
(情報公開の在り方)

 ○情報は、国民が原子力の問題について判断する基礎となるものであり、国や事業者は、組織内での情報の所在や責任の明確化等を行い、国民の必要とする情報について、明確な情報開示の基準の下、通常時、事故時を問わず、適時、的確かつ信頼性の高い情報公開がなされるよう努める。

(情報提供の在り方)

 ○国民の原子力に対する理解促進を目指す情報提供にあたっては、①タイムリーであり、②専門家でなくとも分かりやすく、③情報の受け手側の多様なニーズを踏まえることが必要である。また、情報提供の手法としては、草の根的な情報提供、双方向のコミュニケーション、インターネット等の新たな媒体を用いた情報提供等を体系的に組み合わせて実施する。その際、原子力活動に伴うリスクについて、自然放射線や身の回りの他のリスクと比較において理解することや、リスクについて関係者が相互に情報や意見を交換、評価しあい、その過程のなかで、関係者間の理解レベルの向上が図られるようなコミュニケーション(リスクコミュニケーション)の考え方に基づいて国民と原子力に関するコミュニケーションを図っていくことが重要である。

(マスメディアの役割)

 ○情報が氾濫する今日の社会において、国民が判断するに足る必要な情報を分かりやすく、かつ正確に報道することがマスメディアに期待されている。国、事業者は、マスメディアが考え、判断するのに必要な素材、要素を的確に提供するよう留意が必要である。

3.原子力に関する教育の在り方

 ○原子力の問題について、国民一人一人が自らの問題として考え、判断する能力を養うため、青少年の発達段階に応じ、原子力に関する教育を充実させることが重要であるが、原子力に関する教育の問題は、エネルギー、環境、科学技術、放射線等の観点から、体系的かつ総合的にとらえることが必要である。
 ○このため、新しい学習指導要領において新設された「総合的な学習の時間」等の活用、教員、保護者、教科書発行者等への原子力に関する正確な資料や情報の提供、教える立場に立った教材の作成・提供、教員への研修等の支援を充実させるとともに、教員が必要な時に適切な情報や教材等が提供されるよう、教員、科学館、博物館、原子力関係事業者、学会等を繋ぐネットワークの整備を図る。また、原子力やエネルギー問題については、学校のみならず、施設の見学等体験的な学習や、科学技術に関する理解増進のための方策の一環としての取組を充実させることも重要である。

4.立地地域との共生

 ○原子力施設の円滑な立地のためには、まず、電力の消費者である国民が我が国のエネルギー問題の現状についての理解に立って、電源の立地に対する理解を深めることが重要であり、国、事業者は原子力発電によって電力供給を受けている電力消費地の住民と立地地域の住民との間の相互の理解を促進するための活動を充実させる。
 ○原子力施設立地地域の住民の理解と協力を得るためには、原子力施設の安全確保や防災対策が適切になされていることに加え、原子力施設の運転を通じて、事業者と地域社会が相互に発展するという「共生」の考えが重要である。これまで、原子力施設の立地は、地方自治体の財政、地域の雇用等にプラスの影響を与えているが、より長期的、広域的、総合的な地域振興につなげていくためには、立地地域が主体となり自らの発展のためのビジョンを構築し、立地を起爆剤として次の発展を目指すという視点をもつことが重要となってきている。
 ○このためには、地方自治体においては、体制の整備や人材育成等のソフト面に軸足を置きつつ、長期的、総合的な振興策を検討するとともに、原子力事業者は、民間企業の立場から、その資源、ノウハウを活用し、地域の将来像を描くなどの試みに積極的に参画していくことが期待される。また、国においても、このような地域の新たな発展の方向を有効に支援するような振興策を検討するとともに、電源三法交付金等、国の電源立地促進策について、このような観点も踏まえ、より地域の発展に役立つように、常に見直すよう努める。

5.国の役割と民間の役割

 ○国の基本的な役割は、①国民生活や経済基盤を支えるエネルギーの安定供給等の基本的な政策の展開、②安全規制、核不拡散のための保障措置等明確な法的ルールの設定とその遵守の徹底、③防災等の危機管理機能などである。市場経済において国は、基本的役割を果たすため必要な措置を講じつつ、市場を整備して競争を促すことにより、国民生活の質の維持・向上を図ることが求められる。
 ○したがって、国は、長期的観点からエネルギーの安定供給の確保や地球環境問題に係る国際的約束を果たすために必要な対応方針を明確にし、民間の自主的な投資活動に伴う原子力発電の規模が、その役割を踏まえた目標を達成するように、状況に応じて誘導する責務を有する。
 ○さらに、国には、将来においても原子力発電が合理的な選択肢の一つとなるように研究開発を推進し、民間事業者が実用化できるように適切な誘導を行うことも求められる。
 ○また、加速器研究等未踏領域への挑戦など基礎的、基盤的な研究開発については、国が主体となって、その推進を行うことが必要である。

第2章 原子力発電と核燃料サイクル
1.基本的考え方

 ○原子力発電は、既に国内総発電量の3分の1を超える電力を供給し、我が国のエネルギー自給率の向上及びエネルギーの安定供給に貢献するとともに、エネルギー生産当たりの温室効果ガス排出量の低減に大きく寄与しており、引き続き基幹電源に位置付け、最大限に活用していくこととする。
 ○核燃料サイクル技術は、供給安定性に優れているという原子力発電の特性を技術的に向上させるとともに、原子力が長期にわたって安定的にエネルギー供給を行うことを可能にする技術であり、それが国内で実用化されていくことによって、原子力の我が国エネルギー供給システムに対する貢献を一層確かなものにしていくことが期待される。
 ○このことから、使用済燃料を再処理し回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用していくことを基本的考え方として、民間事業者が今後ともこの考え方に則って活動を継続することを期待する。
 ○原子力の便益を享受した現世代は、原子力の研究開発利用に伴って発生する放射性廃棄物の安全な処分への取組に全力を尽くす責務を有しており、今後とも、放射性廃棄物処分を着実に進めていく。
 ○長期的な観点から今後のエネルギー供給を考えた場合、安定供給が可能でかつ環境適合性の高いエネルギー源を確保すべく、多様な技術的選択肢を探索し、その実現可能性を高めるための研究開発が我が国のみならず人類社会にとって重要である。高速増殖炉サイクル技術は、ウラン資源の利用率を現状に比べ飛躍的に高めることができ、高レベル放射性廃棄物中に長期的に残留する放射能を少なくする可能性を有していることから、将来の非化石エネルギーの有力な技術的選択肢として位置付け、適時適切な評価の下にその研究開発を着実に進める。
 ○プルトニウム利用を進めるに当たっては、安全確保を大前提とするとともに平和利用の確保に厳重を期すことはもちろん、我が国の平和利用確保に係る取組への理解と信頼を得る努力とともに、利用目的のない余剰プルトニウムを持たないとの原則に従い、プルトニウム利用の透明性向上に努める。我が国の今後のプルトニウム利用は、当面の間、プルサーマル及び高速増殖炉等の研究開発において行われる。研究開発に用いられるプルトニウムの需要は、関連する研究開発計画及びその進捗状況によって変動する可能性があるが、その場合においてもプルトニウム需給の全体を展望しつつ、柔軟な利用を図ることとしている。

2.原子力発電の着実な展開

 ○高経年炉の安定運転の維持は、軽水炉を安定的に継続して利用する上で重要。10年毎に行われる定期安全レビューなどの機会に、国内外の高経年プラントの経験を踏まえて、機器や素材の経年変化を早期に検出する点検活動を重点的に実施するとともに、その結果に基づいて適切な予防保全活動を行っていくことが重要である。
 ○安全規制に関しては、国はリスク評価技術の進歩を踏まえ、例えば十分低いリスクを有意に変えない範囲での定期検査の柔軟化や長期サイクル運転、電気出力規制から熱出力規制への変更等、合理的な安全規制の在り方について絶えず検討して、実現を図っていく必要がある。これらに必要な新しい技術情報や方法論を提供する研究を充実していく必要がある。
 ○なお、国は、効果的かつ効率的な規制活動を実現していくため、事業者の行う原子力施設の運転管理活動や品質保証活動を監査・評価する業務に、専門的知識を有する民間の第三者認証機関を活用していくことも積極的に検討すべきである。さらに、国は、国の技術基準と国際基準との整合を容易に図ることができるよう技術基準の機能性化を図るべきである。このために国と民間は、技術基準等について専門的に検討する国内の組織や、その成果を国際的に発信していく活動を支援していくことも重要である。

3.核燃料サイクル事業
3-1.天然ウランの確保

 ○我が国電気事業者が、当面、引き続き適切な価格により天然ウランを調達することは可能と考えられるが、天然ウランを安定的に確保することの重要性を踏まえれば、鉱山開発のリードタイムの長期化、ウラン産業の寡占化の進行等にも留意して、適切な量の備蓄を保有する一方、供給源の多様化に配慮しつつ、引き続き長期購入契約を軸とした天然ウランの確保を図ることが重要である。

3-2.ウラン濃縮

 ○世界におけるウラン濃縮役務市場の需給は、当面の間供給能力過剰で推移すると予想されるが、中長期的に見れば不安定になることも予想され、我が国として、濃縮ウランの供給安定性や核燃料サイクルの自主性を確保することは重要である。その観点等から、現在稼働中の六ヶ所ウラン濃縮工場については、これまでの経験を踏まえ、より経済性の高い遠心分離機を開発・導入し、同工場の生産能力を1500トンSWU/年規模まで着実に増強しつつ、安定したプラント運転の維持及び経済性の向上に全力を傾注することが望まれる。
 ○我が国の濃縮技術を国際競争力のあるものとするためには、濃縮技術が高度でかつ機微な技術であること等を勘案して、国内において研究開発を引き続き推進することが重要であり、民間事業者は、核燃料サイクル開発機構によるこれまでの遠心分離機の開発成果や知見、人的資源を着実に集約して有効に活用するとともに、国際市場の動向を踏まえて他国との協力をも視野に入れ、技術開発を主体的に推進することが望まれる。

3-3.軽水炉による混合酸化物(MOX)燃料利用(プルサーマル)

 ○プルサーマルについては、海外では既に1980年代から利用が本格化されており、我が国でも日本原子力研究所における基礎研究や1980年代後半から実用炉で行われた実証試験の成果等を踏まえて、2010年までに累計16から18基において順次プルサーマルを実施していくことが電気事業者により計画されており、関係者の努力により実現の緒についたところである。
 ○プルサーマルは、ウラン資源の有効利用を図る技術であるとともに、原子力発電に係る燃料供給の代替方式であり、燃料供給の安定性向上の観点から有用で、この計画を推進することは、将来のプルトニウム本格利用時代に備えて産業基盤や社会環境を整備することにも寄与すると考えられる。プルサーマルの経済性については向上の余地があるが、こうしたプルサーマルの技術的特性、内外の利用準備や利用実績、安全性、及び利用目的のない余剰プルトニウムを持たないとの我が国の基本的な原則を遵守し、プルトニウム利用の透明性を確保するとの方針を踏まえれば、我が国としては、この計画を着実に推進していくべきである。したがって電気事業者には、プルサーマルを計画的かつ着実に進めることが求められる。
 ○プルサーマル計画を進めるために必要な燃料は、海外において回収されたプルトニウムを原料とするものについては、海外のMOX燃料加工工場で製造されているが、国内において回収されたプルトニウムを原料とするものについては、国内で加工されるのが合理的である。そこで、民間事業者は、六ヶ所再処理工場の建設・運転と歩調を合わせて国内にMOX燃料加工事業を整備する必要がある。この場合、核燃料サイクル開発機構からの技術移転や海外からの技術も参考とすることにより、我が国においてMOX燃料加工事業が早期に産業として定着するよう、最善の努力を行うことが望まれる。

3-4.軽水炉使用済燃料再処理

 ○我が国においては、軽水炉の使用済燃料はこれまで、核燃料サイクル開発機構の東海再処理工場に委託された一部を除いて、海外の再処理事業者に委託され再処理されてきた。この間に、民間事業者は、国内におけるその需要の動向等を勘案し、核燃料サイクル開発機構の東海再処理工場の運転経験を踏まえつつ、海外の再処理先進国の技術・経験を導入して、六ヶ所再処理工場を計画し、現在、2005年の操業開始に向けて建設を進めている。
 ○我が国は、核燃料サイクルの自主性を確実なものにするなどの観点から、今後、使用済燃料の再処理は国内で行うことを原則としていることから、民間事業者は、我が国に実用再処理技術を定着させていくことができるよう、この我が国初の商業規模の再処理工場を着実に建設、運転していくことが期待される。この再処理工場や中間貯蔵の事業が計画に従って順調に進捗していく限り、海外再処理の選択の必要性は低いと考えられる。また、この問題については、国際輸送に伴う沿岸諸国の動向を考慮することが重要である。
 ○核燃料サイクル開発機構は、現在、東海再処理工場において、従来の再処理に加え、高燃焼度燃料や軽水炉使用済MOX燃料等の再処理技術の実証試験等を行うこととしており、これらの成果は将来に重要な貢献をもたらすと考えられるので、成果について段階的に評価を受けながら実施されるべきである。
 ○六ヶ所再処理工場に続く再処理工場は、これらの研究開発の成果も踏まえて優れた経済性を有し、ウラン使用済燃料の再処理を行うだけでなく、高燃焼度燃料や使用済MOX燃料の再処理も行える施設とすることが適当と考えられるが、さらに今後の技術開発の進捗を踏まえて、高速増殖炉の使用済燃料の再処理も可能にすることも考えられる。したがって、この工場の再処理能力や利用技術を含む建設計画については、六ヶ所再処理工場の建設・運転実績、今後の研究開発及び中間貯蔵の進展状況、高速増殖炉の実用化の見通しなどを総合的に勘案して決定するべきであるが、現在、これらの進展状況を展望すれば、2010年頃から検討を開始することが適当である。

3-5.使用済燃料中間貯蔵

 ○使用済燃料の中間貯蔵は、使用済燃料が再処理されるまでの間の時間的な調整を行うことを可能にするので、核燃料サイクル全体の運営に柔軟性を付与する手段として重要である。
 ○我が国においては1999年に中間貯蔵に係わる法整備が行われ、民間事業者は2010年までに操業を開始するべく準備を開始しており、今後は、中間貯蔵を適切に運営・管理することができる実施主体が、安全の確保を大前提に、事業を着実に実現していくことが期待される。

4.放射性廃棄物の処理処分
4-1.処分に向けた取組

 ○放射性廃棄物の安全な処理処分は、これを発生させた者の責任においてなされることが基本である。
 ○原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物の一部については、既に埋設処分が進められており、それ以外の放射性廃棄物についても、処分方策の検討を行った結果、現在調査審議中のウラン廃棄物を除き、処分の見通しは得られている。
 ○処分のための具体的な対応がなされていない放射性廃棄物については、早期に安全かつ効率的な処理処分が行えるよう、発生者等の関係者が十分協議・協力し、具体的な実施計画を立案・推進していくことが重要である。その際、原子力の開発利用が支障をきたさないよう、国は必要に応じ関係者の取組を支援する。
 ○今後は処分の実施に向けた具体的対応が重要であるが、放射性廃棄物は、放射能レベルの高低、含まれる放射性物質の種類等が多種多様であることから、以下に示す区分に応じ処分の実施に向けて具体的な対応を図ることとする。

(1)地層処分を行う廃棄物

 ○放射性廃棄物の中のうち、放射性核種の濃度が高く半減期の長い核種(長寿命核種)が多く含まれるものについては、この放射能が生活環境に影響を及ぼさないように廃棄体からの放射性物質の漏出抑制を目的とする人工バリアを設けて、天然バリアとなる数百メートル以深の安定した地下に埋設する「地層処分」を実施する。

 (高レベル放射性廃棄物)

 ○我が国では、再処理で使用済燃料からウラン等の有用物質を分離した後に残存する高レベル放射性廃棄物は、安定な形態に固化した後、30年から50年間程度冷却のための貯蔵を行い、その後地層処分することを基本的な方針としている。
 ○現在、既にガラス固化された高レベル放射性廃棄物の貯蔵が青森県六ヶ所村で開始されており、その発生時期とその後の冷却期間を考慮して、2030年代から遅くとも2040年代半ばまでには処分を開始することを目途とする。
 ○高レベル放射性廃棄物の地層処分技術については、核燃料サイクル開発機構がこれまでの研究開発成果を取りまとめた「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性について―地層処分研究開発第2次取りまとめ―」(1999年11月26日)について現在原子力委員会で評価中であり、今後とも深地層の研究施設、地層処分放射化学研究施設等を活用し、地層処分技術の信頼性の確認や安全評価手法の確立に向けて研究開発を着実に推進していく。そしてその成果は、この処分に関する安全基準の策定に役立てるとともに、処分事業の実施主体に適切に移転されるよう努める。
 ○処分事業の実施主体の設立等を内容とする「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づき、速やかに処分事業の実施主体が設立されるとともに、処分に係る費用の積み立てが開始されることが重要である。
 ○処分地の選定については、国が先頭に立ってこの処分の意義、安全性等についての理解促進活動を行い、立地調査に当たっても当該地域の意見を尊重しながら着実に推進することが重要であるとともに、立地地域との共生の在り方については、地域との共同作業によりそれを設計していくことが重要である。

 (高レベル放射性廃棄物以外の廃棄物)

 ○高レベル放射性廃棄物以外にも、放射性核種の濃度が高く、また、その中には長寿命核種が比較的多く含まれるため地層処分が必要な放射性廃棄物が存在する。これらの放射性廃棄物は、その性状が多様であるため、高レベル放射性廃棄物処分研究開発の成果も活用しつつ、合理的な処分に向けて、その多様性を踏まえた処理処分に関する技術の研究開発を、発生者等が密接に協力しながら推進することが重要である。

 (長寿命核種の分離変換技術)

 ○高レベル放射性廃棄物に含まれる長寿命放射性核種を分離し、これを原子炉や加速器を用いて短寿命あるいは安定核種に変換する技術は、まだ研究開発の初期段階であるが、処理処分の負担軽減、資源の有効利用に寄与する可能性があり、この分離変換技術に関する研究開発は、定期的に評価を行いつつ、核燃料サイクルの他の研究開発課題との関連を考慮しながら進める。

(2)管理処分を行う廃棄物

 ○人間による管理が期待できる期間内に生活環境に影響を与えないレベルにまで放射能の減衰が期待できる放射性廃棄物は、放射能が時間とともに減衰して人間環境への影響が十分に軽減されるまで、人工バリアと天然バリアを組み合わせ、放射能に応じた管理を行うことで、人間環境から安全に隔離するのが基本である。
 ○既にコンクリートピットへの処分が進められている原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物以外の廃棄物については、今後、処分の実現に向けた具体的取組を進めることが重要であり、取組を進めるに当たっては、処分の合理性を追求する観点から、処分方法が同じ廃棄物は、原子力施設、研究所、大学、病院等の発生源を問わず同一の処分場に処分することや、同一の処分場において複数の処分方法による処分を実施することも考えるべきである。

(3)その他の廃棄物

 ○ウラン廃棄物に関しては、その処分方策に関して現在原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会にて調査審議中であり、速やかに取りまとめを行う。

4-2.原子力施設の廃止措置

 ○発電炉、試験研究炉、核燃料サイクル施設等の原子力施設の廃止措置は、その設置者の責任において、安全確保を大前提に、地域社会の理解と支援を得つつ進めることが重要である。

4-3.廃棄物の発生量低減と有効利用の推進

 ○廃棄物については発生量低減や有効利用が必要であり、そのための研究開発を積極的に推進していく必要がある。放射性廃棄物の有効利用については、関係者及び関係行政当局が連携して、十分な安全確認の在り方を確立することを前提に、再利用の用途やシステムの形成などを幅広く検討していくことが重要である。
 ○特に、クリアランスレベル以下の物については、放射性物質として扱う必要のないものであり、一般の物品と同じ扱いができるものである。これらは合理的に達成できる限りにおいて、徹底してリサイクルしていくことが重要である。

4-4.処分に対する信頼の確保

 ○処分に対する信頼の確保を図っていくためには、事業の全ての段階を通じて情報公開を徹底し処分事業の透明性を確保するとともに処分における安全確保の考え方や処分に必要とされる技術について、分かりやすく国民に向けて発信していく。

5.高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の研究開発の在り方と将来展開
5-1高速増殖炉サイクル技術の位置づけ

 〇先進国の中でも特にエネルギー資源小国である我が国は、エネルギー問題の解決に向けて資源節約型エネルギー技術を開発することにより将来の技術的選択肢を確保していくことが重要であり、高速増殖炉サイクル技術はそのような技術的選択肢の中でも潜在的可能性が最も大きいものの一つとして位置づけられる。
 〇また、高速増殖炉サイクル技術は、多様な燃料組成や燃料形態に柔軟に適用し得るという技術的特徴を有しており、高レベル放射性廃棄物中に残留する潜在的危険性の高い超ウラン元素の量を少なくすることが可能なことから、廃棄物問題の解決にも貢献し得ると考えられる。

5-2高速増殖炉サイクル技術の研究開発の方向性

 ○電力市場の自由化等を背景として、経済性の一層の追求が社会的に要請されており、高速増殖炉サイクル技術の研究開発に当たっても、実用化段階において軽水炉や他電源と比肩し得る経済性を達成するという目標を設定することが重要である。
 ○研究開発に当たっては、将来の社会的ニーズの多様性を考慮して、原子炉や核燃料サイクル技術に関して幅広く技術的選択肢を検討するとともに、環境負荷低減や資源の有効利用の面で注目される長寿命放射性物質の分離変換技術について今後とも着実に研究開発を進める。さらに、それらの成果をグローバルな視点から国際的に役立たせることを目指し、技術的に核拡散につながり難い選択肢を開発する。
 ○高速増殖炉サイクル技術のうち、最も開発が進んでいるものは、MOX燃料とナトリウム冷却を基本とする技術である。他の選択肢との比較評価のベースともなるもので、技術的選択肢を広く検討していくに際しても、同技術の評価をまず優先して行うことが不可欠である。

5-3高速増殖炉サイクル技術の研究開発の将来展開
(もんじゅ)

 〇原型炉「もんじゅ」は、高速増殖炉サイクル技術の研究開発の場の中核として位置付け、安全の確保を大前提に、地元を始めとする国民の理解を得て、早期に運転を再開し、発電プラントとしての信頼性の実証とその運転経験を通じてナトリウム取扱技術の確立という初期の目的を達成する。
 〇「もんじゅ」は、最も開発が進んでいるMOX燃料を用いたナトリウム冷却型の炉であり、高速増殖炉研究開発にとって国際的に見ても発電設備を有する貴重な高速増殖炉プラントとして、重要な場である。このため、「もんじゅ」及びその周辺施設を国際協力の拠点として整備し、「もんじゅ」における研究開発は、内外の研究者に開かれた体制で進め、その成果を広く国内外に発信する。
 〇長期的には、実用化に向けた研究開発によって得られた要素技術等の成果を「もんじゅ」において実証するなど、燃料製造及び再処理と連携して、「もんじゅ」を実際の使用条件と同等の高速中性子を提供する場として有効に活用し、高速増殖炉サイクル技術の確立に向けた研究開発を行っていく。
 〇また、「もんじゅ」において、マイナーアクチニドの燃焼や長寿命核分裂生成物の核変換等に関するデータを幅広く蓄積することが重要である。

(実用化戦略調査研究等)

 〇高速増殖炉サイクル技術の研究開発に当たっては、社会的な情勢や内外の研究開発動向等を見極めつつ、長期的展望を踏まえ進める必要がある。そのため、高速増殖炉サイクル技術が技術的な多様性を備えていることに着目し、選択の幅を持たせ研究開発に柔軟性を持たせることが重要であるとの観点から広く検討を行う。
 〇炉型選択、再処理法、燃料製造法など、高速増殖炉サイクル技術に関する多様な技術的選択肢の検討を進めるという観点から、現在、核燃料サイクル開発機構において電気事業者等関連する機関の協力を得つつ実施している「実用化戦略調査研究」等を引き続き推進し、競争力のある高速増殖炉サイクル技術を評価し、そこへ至るための研究開発計画を明示する。
 〇また、核燃料開発サイクル機構、日本原子力研究所、電力中央研究所、大学等の各機関は、高速増殖炉サイクル技術について裾野の広い基盤的な研究開発を行っていく。

(実用化に向けた展開)

 〇高速増殖炉の実証炉の具体的計画については、実用化に向けた研究開発の過程で得られる種々の成果等を十分に評価した上で、その決定が行われることが適切であり、実用化への開発計画について実用化時期を含め柔軟に対応していく。

6.原子力供給産業
6-1.競争力の向上と国際展開

 ○我が国の原子力産業は、新規発電所建設の停滞に伴い電気事業者の設備投資が急激に減少していること等により、機器供給産業の原子力関係売上高は近年減少傾向となっている。一方、海外からの国内電気事業者への納入実績は経済のグローバル化に伴う国際調達の活発化等により増加している。我が国の原子力供給産業は、このような市場構造の変化への対応を迫られていることを認識して、経営の効率化を一層進めるとともに総合的な戦略を立案して対応することが迫られている。
 ○我が国の原子力機器供給産業においては、国内活動のみならず国際入札や製造拠点の国際化、さらには国境を越えた企業経営等も視野に入れた国際展開や事業の再構築、業界の再編成等を視野に入れて、企業の技術や経営資源を十分に活用しつつ経営体質の強化を図り、経営の効率化や国際的なコスト競争力と技術力を維持していくことが重要である。
 ○近年のアジアを中心とする国際社会における原子力の環境変化を踏まえ、アジア諸国からの引き合いに応じて、機器供給を中心とした国際展開を積極的に図ることが期待される。将来、我が国の高い安全性を持つ軽水炉技術を輸出するに当たっては、世界のエネルギーの安定供給や環境問題の解決に寄与する視点に立って、単に軽水炉プラント機器の供給だけではなく、我が国で培われた安全思想とセットで国際展開することで、国際社会への責任ある貢献を果たすことに配慮することが重要である。
 ○また、将来の実用化を目指すような技術の研究開発に当たっては、我が国で生まれた基本的な技術概念を世界レベルで共通化し、将来の国際標準化を目指すような取組も重要である。
 ○国は、こうした民間活動の国際展開の進展にあわせ、二国間協定などによる枠組み作り、相手国における法整備の支援、技術協力等の環境整備を行っていく。

6-2.人材確保と技術の継承・発展

 ○我が国の原子力産業は、発電所の建設よりもメインテナンスの比率が高まりつつある成熟期に入りつつあり、原子力供給産業における技術者、研究者、及び技能者の人員数並びに原子力関連の研究関係支出高は近年減少しており、設計や物作りに関する分野において、これまでに蓄積された技術力・人材を従来通りの規模で維持することは困難になることが予測されている。
 ○原子力供給産業界は、将来の市場規模を踏まえて適正規模に集約しつつ技術力及び製造力の維持・継承、発展を図るための方策を検討し、今後とも安全性のみならず技術的及び経済性に優れた社会が求める原子力エネルギー技術・製品を提供できる実力の保持・発展に努めるべきである。
 ○それと同時に、企業内での教育訓練等を充実させ、それまでに蓄積された技術を企業内において発展させ将来世代へ着実に継承する努力を行うべきである。また、分業化が進展する中で、システム全体を見渡せるような経験豊富な人材が持つノウハウ等を確実に次世代へ受け継いでいく努力も求められる。
 ○原子力供給産業における技術力や人材の維持・発展、継承は、物作りを継続することで効果的に達成されることから、原子力供給産業は、高い安全性を有する機器・プラントを供給し、原子力に対する信頼性の向上に力を尽くすことが重要である。
 ○日本原子力研究所や核燃料サイクル開発機構等の国の研究機関と民間事業者との間で技術協力協定を拡充し、共同研究や人材の交流等、相互の人的・技術的交流を促すような体制をつくり、我が国全体としての人材・技術力の維持・継承、発展を図るよう努力することも重要である。

第3章 原子力科学技術の多様な展開
1.基本的考え方

 ○科学技術には、自然の摂理を明らかにしようとする知的好奇心に基づく基礎研究と、経済・社会や生活者のニーズに対応した研究開発という二つの側面がある。
 ○原子力科学技術もこの二つの側面において、それぞれ、重要性を有している。基礎研究分野では、物質の究極の構成要素とは何かを探り、また、加速器を用いた認知手段の提供により、ライフサイエンスや材料科学技術等の基礎研究の発展を支えるものである。一方、核融合や革新的な原子炉の研究開発は、将来のエネルギーの安定供給の選択肢を与え経済・社会のニーズに応えるものである。
 ○これらの研究開発については、基礎研究とニーズに対応した研究開発の調和を図るとともに、研究者の独創性を重視し、競争的な環境の下、適切な評価を行いつつ推進する。

2.先端的研究開発の推進

 ○上記の基本的考え方を踏まえ、加速器、核融合、革新的な原子炉等の研究開発の進め方について示す。

(加速器)

 ○物質の起源の探索や、生命機能の解明、新材料の創成に大きな手段となる大強度陽子加速器計画については、原子力委員会・学術審議会共催で行う評価を踏まえ適切に推進する。また、RIビーム加速器施設については、着実に建設を進める。一般に、大型加速器計画は常に国際的競争状態におかれており、技術主導の性質を持つことから、提案・評価後、遅滞なく評価結果を反映させることが重要である。

(核融合)

 ○未来のエネルギー選択肢の幅を広げ、その実現可能性を高める観点から、核融合の研究開発を推進する。
 ○特に、今後達成・解明すべき主な課題として、核融合燃焼状態の実現、核融合炉工学技術の総合試験等があり、国際熱核融合実験炉(ITER)計画はこの観点から重要であり、ITER計画において次の段階への知識基盤を構築することが検討されている。なお、その推進にあたってはITER計画懇談会の評価の結果を踏まえることが必要である。また、核融合科学を広げる研究については、適切なバランスを考慮しつつ進める。

(革新的原子炉)

 ○安全性、経済性等において優れた特徴をもつ革新的な原子炉の研究開発については、多様なアイデアの活用に留意しつつ検討を行う。

(基礎研究)

 ○以上の他、萌芽的な基礎研究については、競争的な環境の下、適切な評価を行いつつ推進する。

3.研究環境の進め方
3-1.研究開発の実施と評価

 ○研究開発活動の効率化・活性化を図り、より優れた成果をあげていくためには、研究開発課題及び研究機関について適時適切な評価を実施し、評価結果を資源の配分等に反映することが重要である。
 ○評価に当たっては、研究の科学的、技術的観点のみならず、社会的意義、実施体制など研究内容に応じた適切な評価項目の設定による評価が重要である。今後とも、原子力委員会において評価の在り方について検討していく。
 ○また、多数の研究者を結集して行うプロジェクト研究の実施に当たっては、リーダーシップが重要であり、リーダーの能力を評価の対象とすることも重要である。

3-2.研究環境の整備

 ○研究活動を活性化し、また、社会や市場からの要求に適切に応えていくため、産学官の研究交流が重要であり、国は、共同研究、人材交流、施設の共同利用の促進を図る。また、研究成果の民間への円滑な移転が重要となる研究開発においては、産学官の役割分担のみならず、関係する研究者が相互に乗り入れあるいは結集するなど柔軟な研究実施体制を組むことも重要である。
 ○さらに、研究成果については、技術移転システム等を活用して積極的に産業化を図る。
 ○若者の科学技術離れ、急速に進む少子高齢化等の傾向の中で、国民の原子力に対する理解を得つつ、原子力の先端的研究開発の着実な推進を図っていくためには、その担い手となる人材の育成を図ることが不可欠である。このため、原子力に対するイメージの向上を図るとともに、原子力の幅広い可能性に挑戦し、若い人に夢と希望を与えるような原子力研究開発を展開することが重要である。
 ○研究者、技術者の養成及び確保については、国際的視点も含め、人材養成の中核機関である大学、研究機関、民間事業者等関係機関の連携の下、所要の措置を講ずる。また、青少年への教育という点では、原子力やエネルギーに関して青少年が自らの体験を通じておもしろさを感じることができるよう、施設の見学等体験的な学習を充実していくことが有効である。
 ○研究炉の使用済燃料に関して、高濃縮度のウラン燃料については米国への期限内の返還を確実に行うことが必要であるが、これらを含め使用済燃料の取扱について早急に検討を行うことが重要である。

3-3.国際協力

 ○原子力分野における研究開発の成果は、核不拡散に配慮しつつ国際社会においても利用に供されうる高い普遍性を有する技術の開発を目指すことや、人類共通の知的資産の創造に向け我が国の主体的取組の下に国際的に進めるといった観点が重要である。このため、我が国が積極的に貢献できる領域を見極め、先進諸国の一極を担う責任をもって取り組む。
 ○特に、アジア地域における我が国の役割を考えたとき、当該地域の研究者を積極的に受け入れ、先端的研究施設を活用したアジア地域における研究リーダーの育成に貢献するための方策を充実させる。

第4章 国民生活に貢献する放射線利用
1.基本的考え方

 ◯放射線は、取扱を誤れば健康に影響を及ぼす危険な道具であるが、正しく使うことでより良い暮らしを実現し、社会に活力を与えうる利器であり、国民生活の広範な分野で活用されるよう放射線利用の普及を図っていく。
 ◯放射線は、ものを透視したり、ものの性質を向上させるという特長をもっているが、放射線が目に見えないことや、放射線に関する知識に触れる機会が十分でないことにより、放射線に対して漠然とした「恐ろしさ」が形成されている。このため、国民に対して、放射線利用や放射線についての正確な知識の提供に努める。
 ◯1999年9月にJCOウラン加工工場臨界事故が発生し、放射線の人体への影響に対する国民の関心が高まっているが、放射線の人体影響とその治療等に関する研究開発を進めるとともにその成果を広く発信していく。

2.国民生活への貢献

 ◯今後、少子化高齢化が進む我が国において、放射線利用による効率的で負担の少ない医療の重要性が高まると予想される。また、世界的な人口増加に対応して、食料増産や食品保存のため放射線利用の必要性が高まると考えられる。さらに、社会のニーズに応える新素材や新しい製造プロセスの開発、利用など、産業の様々な場面で放射線利用の拡大が期待される。
 ◯医療分野では、粒子線を含む放射線を用いた診断・治療の高度化を進めるとともに、診断・治療における健常組織への被ばく線量の低減化、新しい医療用線源や放射性薬剤の開発による診療適応範囲の拡充などの研究開発を産学官が協力して進める。
 ◯食品分野では、衛生的な食品を安定に供給し、腐敗による食料の損失を防ぐ殺菌技術の有力な選択肢の一つとして、食品照射の必要性と便益、他の手法との比較や安全性についての分かりやすい情報提供を行う。
 ◯以上のほか、農業・工業・環境保全への利用については、環境保全型の植物の放射線育種や、環境保全技術・新材料開発など先端技術と新しい放射線の利用について、社会的ニーズを踏まえた技術開発を産学官が協力して推進する。

3.放射線の生体影響と放射線防護

 ◯低線量放射線の人体影響については、関係機関が連携して、疫学研究や、動物実験や遺伝子レベルの研究など様々な研究手法を用いて、より広い視野の下で基礎的な研究を総合的に推進する。また、これらの研究の成果を、合理的な防護基準の設定や防護手段の開発に取り入れていくことが期待される。さらに、放射性物質の環境中での移行・循環に関する研究についても取り組んでいく。

4.放射線利用環境の整備
(人材育成と技術移転)

 ○放射線利用を支える技術者などの質と層の充実を図るため、関係機関が連携を取りつつ効果的な人材育成に取り組む。
 ◯放射線利用を支える基礎的、基盤的な研究を充実するとともに、その成果については、技術移転システムの活用等により実用化を図っていく。
 ○放射線利用は多岐にわたり、担当省庁も複数にのぼることから、省庁横断的な協力や協調を円滑に進める。

(放射線利用の国際協力)

 ○放射線利用技術の国際協力においては、相手地域の特質やニーズを踏まえた技術移転、技術の定着に向けた人材養成、研究協力を進める。

(被ばく医療・放射線防護)

 ○我が国は、広島・長崎の被ばく者の調査から得られた豊富な研究実績と高い学問的レベルを持っており、また、JCO事故における緊急被ばく医療対策の経験を活用し、放射線被ばく医療分野での国際的な協力を行う。また、これらの研究成果や被ばく医療の経験を国際的に発信し、国際的な放射線防護基準の枠組み整備に貢献する。

第5章 国際社会と原子力の調和
1.基本的考え方

 ○原子力はその裾野の広さ、人類社会全般への影響の大きさから、本来国際的な視野に立って取り組むべき技術である。原子力を将来とも重要なエネルギーの選択肢として利用し、また人類共通の知的資産の創出に貢献していくためには、原子力を取り巻く様々な国際的課題に対する適切な取組が極めて重要である。
 ○我が国の原子力を巡る現在及び将来における国際的課題に対しては、相手国のニーズあるいは国際機関等からの要請に応じて受動的に対応するだけでなく、より主体的に、また能動的に取り組む中で戦略を構築する。

2.核不拡散の国際的課題に関する取組

 ○原子力の平和利用を円滑に実施していくためには、核拡散体制の維持は、安全確保とともに、極めて重要であり、「核兵器の不拡散に関する条約(NPT)」や「包括的核実験禁止条約(CTBT)」等種々の国際的枠組みが制定されてきた。これらの枠組みの維持に加え、我が国のもつ原子力平和利用技術と人的能力をもって、核不拡散体制の強化を目指して主体的に取り組んでいく。

(余剰兵器プルトニウム管理・処分への協力)

 ○余剰兵器プルトニウム管理・処分は、核兵器保有国が第一義的には、責任をもって行うものであるが、これは核軍縮の促進と核不拡散の観点から極めて重要であり、我が国としても、当事国の責任と当事国以外の協力の意義のバランスを考慮しつつ、外交上の主体的な協力を行っていく。

(IAEA保障措置の強化・効率化)

 ○今後、追加議定書の締結国の拡大の努力、「統合保障措置」の検討への積極的な参画、保障措置技術の研究開発への貢献、国内保障措置制度の一層の充実といった施策を積極的に推進していく。

(核物質防護への取組)

 ○冷戦終結後の旧ソ連・東欧諸国における核物質管理の状況を踏まえ、核物質の不法移転、核拡散の懸念が国際的に指摘されている。これら課題に、積極的に取り組んでいく。

(CTBT早期発効及びFMCT交渉開始に向けた努力)

 ○包括的核核実験禁止条約(CTBT)に関しては、条約の早期発効に向けて、引き続き我が国として関係各国に対し、批准促進の主体的な働きかけを行う。兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)についても、交渉の早期開始に向けて公式及び非公式協議を重ねるなど、引き続き努力を傾注する。

(核不拡散への取り組みに対する我が国のイニシアティブ強化)

 ○国際協力による核拡散抵抗性が高い原子炉及び核燃料サイクル技術の開発、プルトニウム利用の透明性を一層向上させるための施策の検討、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)プロジェクトへの協力、並びに我が国の核不拡散に関する情報発信、技術開発機能、及び政策検討機能の強化など、様々な形で核不拡散への取組を積極的に進めていく。
 ○原子力資機材・技術の輸出管理のは、核兵器の水平拡散防止及び原子力エネルギーの平和利用の促進のための重大な意義を有するものであり、今後とも厳格な輸出管理を実施していくことが必要である。

3.原子力安全と研究開発に関する国際協力
(原子力安全に関する協力の推進)

 ○原子力安全分野の国際協力については、国際基準の整備に向けて、我が国は積極的にリーダーシップを発揮すべき。特に原子力施設の安全確保に関連した国際的教育プログラムを我が国は積極的に推進すべき。また、JCO事故時の反省から、事故トラブルの時には、特に海外へも情報をタイムリーかつ分かりやすく情報発信することが重要であり、諸外国との迅速かつ正確な情報連絡体制の構築・強化を行っていく。
 ○アジア諸国との協力においては、相手国の国情や計画に合わせて安全規制に従事する人材の育成、規制関係情報の提供等の協力を二国間、又はアジア原子力協力フォーラム、IAEA特別拠出アジアプロジェクトといった多国間の協力枠組みを利用し、アジア地域の原子力の安全性の向上を図る。

(研究開発の推進)

 ○原子力研究開発分野における欧米の牽引力の低下や、アジア地域における今後の原子力研究開発利用の拡大の見通しを踏まえ、これまでのキャッチアップ重視の態度から、フロントランナーにふさわしい主体性のある国際協力を進める。
 ○特に我が国の地政的な特徴を考えた場合、北東アジア、東南アジアにおける原子力研究開発の拠点としての我が国の役割が、今後一層重要性を増していくと考えられ、北東アジアに対しては、主にエネルギー利用や原子力安全といった分野、東南アジアに対しては、主に放射線利用、放射線安全や人材養成といった分野を中心として、研究開発等の場と機会を提供する。

4.地域別課題への取組
(アジア諸国)

 ○多種多様な国情を踏まえ、相手国の国情と開発段階に応じ、きめ細かい協力を行う。各国が自立的に原子力研究開発利用での実績を積んでいくことができるよう、その国の技術向上に係る自助努力を支援する。
 ○原子力委員会の主催するアジア原子力協力フォーラムにおいて、情報・意見交換、技術交流の場を提供しており、地域での関連技術レベルの向上などに寄与していく。
 ○アジア諸国の原子力発電所建設計画への対応については、今後も国際競争の下、民間主体で商業ベースにより協力していくのが適当である。国は、相手国との協力関係の進捗に応じ、具体的なニーズを踏まえ、二国間協力協定などによる資機材移転を可能とする平和利用等の保証取付の枠組み作りを行い、法制度の整備、基礎技術レベル向上のための技術協力等の環境の整備を行う。

(欧米諸国)

 ○米国とは、核燃料サイクル政策を推進している我が国の立場への理解を深めるよう努める。また、最近の米国内の新しい研究開発の動向を注視しつつ、幅広い原子力科学技術分野における米国との協力関係を再活性化する。
 ○欧州も原子力分野においては高い技術レベルを保持しており、相互に先端的な研究施設を開放するとともに、核融合等の巨大プロジェクトについて国際分業を進めるなど、フランスを始めとする欧州原子力先進国との協力を引き続き進めていく。

(旧ソ連・中東欧諸国との取組の在り方)

 ○原子力安全に関する責任は、基本的に当該原子力施設を所轄する国が負うという国際的な原則を踏まえ、今後とも協力活動の効率化を図っていく。
 ○ロシアは、高速増殖炉分野の研究開発等、高い科学技術のポテンシャルを有しており、今後我が国はロシアと緊密な協力関係を強化していく。

(国際機関の積極的活用)

 ○IAEA、OECD/NEA等の原子力に関する国際機関の活動に対しては、財政的支援ばかりでなく、これまで以上の人的貢献も含め積極的に参加していくことが重要である。