2000/4/24

新たな原子力長期計画骨子作成のための議論用資料

森 嶌 昭 夫

20世紀の原子力の研究開発利用の成果と課題
 -原子力の光と影
  • 原爆被爆体験。
  • 原子力は総発電電力量の約34%、国民に電力を安定的に供給。
  • 科学技術、放射線利用の貢献。
  • 事故・不祥事による国民の不安・不信の高まり。

  • 海外の原子力研究開発利用の動向。
  • 核不拡散への懸念。

○21世紀社会の潮流、○原子力研究開発利用の意義・役割

(21世紀文明の展望)

  • 科学技術は、人類文明の発展の基盤。
  • 人類の諸活動が国際的に相互依存性を高める中、全人類的視野に立った取り組みが必要。
  • 大量消費、大量廃棄ではなく、循環型社会の実現により、地球との共生を目指し、諸問題の解決が必要。
  • 健康、医療、文化的活動、コミュニケーション等、人間及び人間関係を中心とした「豊かさ」の向上が期待。
  • 要すれば①科学技術の更なる進歩を原動力とし、②全人類的な視野に立ち、③地球との共生を目指しつつ、④物質的豊かさではなく、人間を価値の中心に据えた、文明の発展が見通されるのではないか。
  • 人口爆発と途上国の生活レベルの向上に伴う食料、エネルギー、環境問題は文明の行方に大きく影響。
  • 我が国においては、先進国中、最速で少子高齢化が進行中、労働力の減少は、科学技術による生産性の向上等により補うことが必要。
  • このように21世紀文明を展望すると、我が国としては、優れた科学技術に依拠することにより資源の制約等諸問題を克服し、持続的発展を目指すことにより、この文明の発展に寄与していくべきではないか。

(原子力の可能性)

  • 原子力に関する科学技術は、人類に、物質に内在するエネルギーを解放・利用する新たな力を与え、現在では、エネルギーの基盤を支えるとともに、新たな知の創造による知的フロンティアの拡大、産業の活性化、国民生活の質の向上等に重要な役割を果たすことが期待。
  • 原子力に関する科学技術の知見の恩恵は、発展途上国の人々も含めて人類共通の財産。中でもエネルギー供給における原子力発電の役割を期待。
  • 地球との共生の観点から考えれば、エネルギー消費そのものの削減が重要であるが、供給面では、再生可能エネルギーと原子力が、循環型社会の求めを満たし得る有力な候補。持続可能な文明を次世代に引き継ぐために、選択肢を用意・提示することが現世代の責任。
  • 放射線利用の面では、診断・治療の先端医療応用、環境監視・保全技術への適用、食品照射による食料・健康の維持への応用、効率的なプロセス技術の産業への応用等を通じて、安心して暮らせる社会の実現、国民生活の質の向上に貢献。
  • 以上のように、原子力は、現在既に文明を支える一つの要素として存在しており、また、21世紀以降の文明の持続的発展を担うものの一つではないか。
  • 原子力の特徴、即ち放出されるエネルギーが膨大であり、放射線の発生を伴うことに起因する施設の安全確保、事故や放射性廃棄物の現世代及び将来の世代への影響を含む放射線のリスクの低減、さらに、核不拡散の問題に加え、国民の信頼、安心の確保等解決しなければならない問題も存在する。
  • いわゆる原子力の影の部分については、人類の英知で管理することが可能ではないか、そうであるならば、影の部分の管理を前提に光の部分のポテンシャルを引き出していくことが我々の子孫のためにも必要ではないか。

(我が国にとっての意義・役割)

  • 資源に乏しい我が国において、総発電電力量の約3分の1を供給する基軸エネルギーである原子力は、我が国のエネルギーセキュリティの確保、地球環境保全等の面で重要な役割を果たしており、今後も果たし得るのではないか。
  • 21世紀の循環型社会を展望すれば、個人のライフスタイル、経済構造の変化を踏まえて、徹底した省エネルギーや環境負荷の小さい自然エネルギーの導入努力が払われるべき。しかしながら、そうした努力によっても、これらが近い将来に、エネルギー供給において原子力を代替することはできないと予測。
  • そこで、安全確保を大前提として原子力を利用し、再処理を通じて有用成分を回収し、廃棄物を局限しつつ、さらにすぐれた性能を有する高速増殖炉及び関連サイクル技術を開発していくことは、長期的視点からの国のセキュリティ、環境負荷低減に貢献し、21世紀のリサイクル社会の実現に向けた努力として適切ではないか。
  • また、我が国がその優れた技術力をもって、21世紀社会にふさわしい原子力技術を目指してその研究開発に積極的に取り組むことは、我が国の技術面からの安全保障にも貢献するのではないか。

  • 原子力科学技術は、エネルギー源の確保に繋がるのみならず、ヒトのDNAやタンパク質の構造等を「見る」ことを可能にし、物質・エネルギーとは何かを「極め」、新しい物質を「創る」といった21世紀の最先端の科学技術の一つとして我が国の知的フロンティアの開拓に貢献するのではないか。
  • 21世紀には、日本が基礎研究を充実させ、原子力科学技術のフロントランナーとして指導的な役割を果たすことが期待されるのではないか。
  • 原子力研究の総合性から原子力の先端研究は、日本の科学技術力の裾野をひろげることにも役立つのではないか。
  • 少子高齢化が進む我が国においては、現在でも数兆円規模とも言われている放射線利用による産業の活性化や、がんの放射線治療等生活の質を損なわない医療等放射線利用の重要性が益々高まるのではないか。
  • 今後アジアを中心に発展途上国の経済発展が見込まれるが、それに必要なエネルギーと技術の基盤の整備に我が国が寄与することは世界の平和と安定、地球規模のエネルギー、環境問題の解決への貢献であり、我が国の総合的安全保障の確保につながるのではないか。
  • 世界的自由化の風潮の下、経済活動については極力規制の関与を減らし、市場に委ねていくとともに、国のエネルギーや技術にかかる安全保障を中長期的視野から強化していく施策を講ずるのが政府の責務との観点からすれば、原子力研究開発利用を着実に図る施策を講じることは国の重要な責務ではないか。
  • 本長期計画は、上述のような我が国にとっての原子力の意義、役割の認識に立ち、解決しなければならない課題に焦点を当てて、今後の政策の在り方を提言するものではないか。

 

○国民・社会と原子力政策の新たな関係、
 ○原子力開発利用の進め方の一部(安全確保、信頼と安心、評価)、○国の役割と民間の役割

(安全確保の考え方)
  • 今後の社会においては、「安全」は、極めて重要度の高い価値として位置づけられ、原子力の研究開発利用においても安全確保は最優先の前提条件ではないか。
  • その基本は、①事業者が自らが管理する施設の安全確保に最終責任を有することを踏まえ、あらゆる状況に備えて適切な安全確保の取り組みを実施すること、②国は適切な規制を行い、事業者による安全確保活動が的確になされることを国民に保証すること、③事故防止に万全を期すのみならず、事故が発生した場合に備え、被害を最小に抑えるための危機管理体制を整備すること、の3点ではないか。
  • JCO事故を踏まえ、国では、原子炉等規制法の改正、原子力災害対策特別措置法の制定、原子力安全委員会の事務局機能の強化等を行い、事業者等は、ニュークリア・セイフティ・ネットワークを設立するなどの取組がなされているが、これらの取組の実効性を挙げることが求められているのではないか。
  • 「安全性」を軽視した「経済性」は存在し得ないが、両者を共に追求することは事業者のあるべき姿。

(国民の信頼と安心の確保)

  • 国民の信頼と安心の確保にあたっては、
    -人・組織、政策決定に対する信頼感の醸成、適切な情報提供
    -安心感のもてる安全確保体制の確立、国民への正確な知識の普及、適切なリスク情報の取扱、適切な情報提供、マスメディアの役割
    等が重要。

(合意形成)

  • 「合意形成」とは、国民全ての合意を得ることを目指しつつも、実際には、政策決定のための適切なプロセスをとることではないか。
  • 原子力については、様々な議論が存在することから、原子力の研究開発利用に当たっては、より広範な合意を得る努力が重要。

(政策決定のあり方)

  • 政策決定にあたっては、幅広く選択肢の比較検討を行うとともに、情報の公開や決定過程の明確化といった透明性の確保及び政策決定過程への国民参加のための取組を行うことが重要。
  • 政策責任者は、政策決定過程及び政策決定後において、政策についての国民に対する説明責任が生じる。
  • なお、一旦決定された政策については適時的確な評価を行い、必要に応じて修正することが重要。

(国の役割と民間の役割)

  • 国の役割は、①国民生活や経済基盤を支えるエネルギーの安定供給等国の基本的な戦略政策の展開、②安全規制、核不拡散のための保障措置等明確な法的ルールの設定とのその遵守の徹底、③防災等の危機管理機能等。
  • 一方、民間の役割は、自主的な事業活動による安価な製品の供給や事業者の社会的責任としての公益的な役割が期待。
  • 両者については、それぞれの特徴を踏まえた連携・協力を図っていくことが重要。
  • 研究開発については、国の行う研究開発の成果を円滑に民間に移転し、実用化が図られるよう取り組むことが必要。

(選択肢と適時的確な評価による着実な機動性ある対応)

  • 研究開発を進めるにあたっては、具体的な課題解決のための選択肢とその評価方法を定め、原子力委員会を中心に適時的確な評価を実施することにより、機動性をもって着実に進めることが重要。
  • 評価プロセスと評価結果についての公開が重要。

(立地地域との共生)

  • 原子力施設が立地地域の住民の理解と協力を得るためには、まず、安全の確保と適切な手続きがとられていることが前提。その上で、原子力施設が重要な社会的役割を果たし、地域社会と相互に発展するという共生の考えが重要。
  • そのためには、立地地域自らの持続的発展のために、地域が主体的に取り組むことが重要。また、そのような取組への支援が重要。

 

○国際社会と我が国の原子力政策の関わり、○原子力開発利用の進め方の一部
(原子力平和利用堅持の理念と体制の世界への発信)

  • 我が国はこれまで、核兵器の究極的廃絶と原子力平和利用に取り組んできており、そのことを対外的にきちんと理解してもらえるよう発信すべき。その際、核武装の懸念を払拭するためには、我が国の海外依存度の高さ、日本国民の原爆被爆体験等により我が国にとって非核兵器国であることの堅持が国益にかなうことをより強力に発信。
  • 非核兵器国として、原子力平和利用技術(核不拡散技術、被曝医療技術等)をもって国際社会に貢献することは国際社会における日本のあり方として重要。

(我が国の原子力政策に対する国際的理解)

  • 核燃料サイクルの必要性・意義について発信していくとともに、プルトニウム需給見通しの説明等、我が国の核燃料サイクル政策の透明性の向上を図ることが重要。

○原子力開発利用の将来展開
※本項目については、各分科会の審議を踏まえて作成。

 

《参考》

  • 長期計画では、国民に対して、分かりやすく、政策を伝えることが必要。  例えば、以下のような論理展開は適当か。

 20世紀の原子力の歴史は、人類社会に多大な貢献を果たしてきた。特に、資源が少なく、地理的制約を受ける日本にとっては欠くことのできない科学技術資源であるとも言える。
 他方、度重なる事故・不祥事、核拡散の懸念等、国民・社会や国際社会に影を投げかけている問題がある。

 21世紀を迎える今、我が国は、原子力の有する影の側面を管理するため、

「国民・社会との調和」(安全確保、情報公開、国民参加等が重要)と
「国際社会との調和」(平和利用、国際的透明性の確保等が重要)
を原子力研究開発利用の大前提として取り組み、
 また、
「原子力発電・核燃料サイクルの展開」、
「先端的な研究開発の推進」、
「放射線利用の普及」等
を行い、原子力の持つ潜在的な力を国民・社会、ひいては国際社会に役立てるよう取り組む。