平成12年3月14日

原子力長期計画策定会議第四分科会における議論

共同座長 秋山 守
永宮正治

1.検討目標とこれまでの検討項目
①先端的・総合的科学技術としての原子力

21世紀を迎え、人類社会と自然環境との調和がこれまでにも増して重要となり、これに対する先端科学技術としての原子力の貢献が求められている。
原子力は多くの分野で知的・技術的リーダーシップを担ってきたが、今後の原子力は、基礎科学の分野との接点を密にし、狭義の原子力に留まらず、その裾野に拡がりを持った未来像が求められている。本分科会では、特にこれからの原子力科学技術の在り方に焦点を当て、その幅広い可能性を追求し、議論・検討する。
さらに、今後の原子力科学技術は、日本のみならず世界におけるリーダーシップを発揮することが求められる。世界に発信できるような先端科学技術の領域は何かを議論する。
②未踏領域への挑戦
原子力の先端技術開発では、光、荷電粒子、中性粒子源の開発等により、新たな研究の展開が可能となる。このための手段として、加速器よりの放射光・中性子・荷電粒子、さらには、強力レーザー光が切り拓く科学を検討した。特に、見る、極める、創る、という観点からの技術分析を行った。さらに、研究開発の意義、将来展望、国際競争力、等の観点からの議論も行った。
③持続可能な技術の発展
環境との調和、エネルギーとしての可能性、安心して使える技術という観点から、これまで培ってきた技術をレビューし、将来の可能性を検討する。特に、核融合の研究開発、研究炉、中小型炉の3つを取り上げ、研究開発の動向、将来展望、国際競争力、等の観点から議論を行った。

2.議論の視点と展開(今後の作業)
①原則
今後何が重要であるかを大きな枠組みで捉え、細部に亘った議論よりは大枠の議論に主眼を置く。
②研究開発におけるバランス
シーズ開拓型とニーズ先行型。テクノロジープッシュとデマンドプル。科学としてのロマンと技術としての完全性。等々のバランスをどこに置くか。
③Priority評価
①のような原則に立ち、オリジナリティ、意義、国際競争、経済的効用、発展性、文化的・学術的貢献度、等々の観点から、検討項目にある程度のPriorityをつける。さらに、緊急性についても考慮。
④実施をしていくための諸点
2-1研究開発体制
国全体としての研究体制の在り方、特に、大学・研究所等の役割、連携、産業界との結び付き、国際社会における役割、等を議論。また、大型プロジェクトにおけるリーダーの育成方策も考える。
2-2評価
プロジェクトの実施には、最適の実施体制の実現と適切な評価活動の実施は、両者ともに重要である。評価とそれを反映させる方策の実現を検討する。
2-3フロンティア科学技術の継続的発展
安全性や高性能仕様を支える技術力の確保とその継承・保持・改善は、研究開発体制を考える上で重要な視点。技術の継続的発展を実現する方策として、人の育成、環境の充実、資金確保、等の重要な諸点を考察。技術を社会の中にいかに構築していくかの検討も重要。
2-4国際社会の中で
21世紀の日本の科学技術は、国際社会の中でいかなる役割を果たしうるかの議論を抜きには考えられない。国際社会での役割、リーダーシップ、推進方法、等の検討。
2-5その他
これまでの長計とは異なった視点、たとえば、文化的原子力フロンティア技術の推進、原子力フロンティア技術の戦略、等々も視点に入れる。

以上


(別添)

第四分科会における審議の概要

(第1回)
 日時  平成11年9月16日(木)
 議題  今後の審議の進め方について等

 分科会の進め方等について議論を行い、以下の点について、重要性、必要性が指摘された。

  • 先端的研究開発の推進による国際貢献や文化的、経済的な地位向上への期待
  • 関連先端技術との連携・競合
  • 新しいアイデアを入れ、新しいものを作るという観点
  • 国民、地元に理解される研究計画作成
  • 日本のリーダーシップの発揮による世界への発信
  • 技術の維持、国際貢献のための長期的視点による人材育成
  • 処分場に対する国民の理解増進
  • 萌芽的研究に対する投資。(研究者に対する適正規模の予算配分も含め)
  • 定常的な評価の実施と原子力委員会における常置組織としての評価専門チームの設置
  • 青少年の先端研究への参加
  • 産業界との密接な連携等

 また、JCO事故を受けた技術の継承、組織の問題について議論を行い、以下の指摘がされた。

  • 優秀な学生の確保という観点での影響
  • モラルの低下や教育や啓蒙のレベルの低下を踏まえた人材教育の必要性
  • 広い観点からのストラテジックな対策と「技術」を社会の中に形作っていくことの重要性
  • 組織の中での技術の継承・保持・改善の姿勢の喪失
  • 日本における技術力の空洞化現象等

(第2回、第3回)
 日時  平成11年10月21日(木)及び11月29日(月)
 議題  未踏分野への挑戦について

 ○谷畑委員から基調的なプレゼンテーションが行われ、概要は以下のとおり。
(議論の前提)

  • 「粒子や原子核の反応に根ざした幅広い科学技術」という定義に基づく原子力
  • 人類の持続的発展に貢献するとともに、総合科学技術としてエネルギー技術開発等の基礎を築くことを目的とした先端的研究開発
  • 具体的な切り口として、「見る、極める、創る」や「環境との調和、安心して使える技術、エネルギーとしての可能性」、「知る、つくる、守る」など提案

主な論点は以下のとおり。

  • 社会全体が原子力をエネルギーとして固定的に捉えていることが問題
  • ニーズ先行型研究に対して適正なバランスを保ったシーズ・ニーズ開拓型の研究推進の重要性
  • アジア圏での立場を認識した積極的な貢献
  • テクノロジープッシュ型研究における、独創性や独自性に重点を置いた評価、ニーズ先行型研究における、マイルストーンの設定や進捗状況の評価の重要性
  • 知的成果を社会に還元する観点に立った研究者のマインド転換の必要性
  • 原子力委員会の役割や機能の再構築
  • 優れた研究者による計画立案パネルの設置
  • 世界レベルに基準を置いた相対的評価と、長期的ストラテジーにのっとった比較的長いレンジでの評価基準の設定

 また、各論について、以下の各委員からのプレゼンテーション及び議論が行われた。
(1)放射光分野における研究開発の意義・将来展望(上坪委員)

  • 我が国における優れた軟X線源の必要性
  • 国際的な技術競争力を重視した、産業界の参加や産学協同施設の活用
  • 指を使うことの重要性を認識した教育の必要性

(2)中性子科学分野における研究開発の意義・将来展望(齋藤委員)

  • 中性子利用の幅広い展開の可能性
  • 強度やエネルギ―レベルを選ぶときの判断基準としての科学的基礎づけのある明確な評価の必要性
  • 科学的側面及び工学的側面の両端からの研究接続の必要性

(3)荷電粒子科学分野における研究開発の意義、将来展望等(谷畑委員)

  • 加速器研究の方向性(物質の根源探索、物質・生体の機能解明、応用の開拓、新エネルギーの可能性探索)の提示
  • テクノロジープッシュにより生み出された成果の重要性

(4)レーザー科学分野における研究開発の意義、将来展望等(中塚教授)

  • 原子力領域における先進的レーザーの開発の必要性と計算科学の推進の重要性
  • ネットワーク組織によるレーザー科学の推進の必要性

 ○先端的研究開発に関わる諸問題について、上坪委員から基調的なプレゼンテーション及び議論が行われた。論点は以下のとおり。

  • 減点法から、加点法への評価方法への転換と優劣の明確化の必要性
  • 国際競争という観点からの、重点的な利用機会の割当て
  • 日本の独自性の発揮と閉鎖性の排除
  • 経常研究の強化、支援の必要性
  • 人材育成の観点からの世界最先端の施設の整備と、産業能力の観点からの、新しい技術の基盤的研究の実用化を目指すことの重要性
  • 大学と研究機関の連携による、ニーズ側の要求と整合のとれた研究の推進。

 ○また、ユーザーの立場からの期待という観点から、平井、藤井、石井、小林の各委員がプレゼンテーションを実施し、議論を行った。主な論点は以下のとおり。
(放射光利用)

  • 産官学による多数の融合プロジェクトによる新技術創出の提案
  • 放射光施設の産業界への利用拡大
(中性子散乱)
  • 研究支援体制の充実
  • 加速器中性子源と原子炉の相補性
(元素分析技術(PIXE法))
  • 新技術開発による遠隔地医療の発展など、医療分野への応用の期待
  • PIXE装置を教育機関に設置して、原子力の応用を直に経験し、波及させる教育の実現の期待
(量子ビーム研究)
  • 分野毎の最先端技術の現状とニーズの分析

(第4、5回)
 日時  平成12年1月24日(月)、2月14日(月)
 議題  持続可能な発展を目指して

核融合、研究炉、中小型炉等技術について、研究開発の現状と今後の展望、国内外協力のあり方と研究推進方策等について審議。

(1)澤岡委員から「原子力先端科学技術分野は原子力の傘から脱出して独自の文化圏を形成すべき時ではないか」というタイトルでプレゼンテーションを実施した。主な論点は以下のとおり。
  • 原子力委員会はエネルギーに的を絞り込み、先端科学技術は別の場で議論すべき
  • レーザーや加速器開発に当たり、国民の理解を得る上で夢やロマンを訴えることが必要だが、それにより本来の原子力の発展が阻害され、不利益がもたらされるならば、その傘から脱出させて独自の文化圏を形成させることが重要。

 ○主な議論は以下のとおり。

  • 基礎研究が原子力の一端を支えていることを世の中に積極的に訴えるべき
  • フロンティア的研究と巨大科学プロジェクトは背反する特徴があること。適切に予算を配分する判断基準が確立されていないことという2つの問題点がある。
  • 基礎研究と実用化研究・技術の間が断絶しており、連携を活発化させるべき。

(2)核融合研究開発推進の意義と将来展望等について、井上、伊藤両委員からプレゼンテーションが行われた。主な論点は以下のとおり。

  • 社会に対する貢献と科学技術への貢献の二つの視点からの意義
  • 新たな知見を世界に発信していくことの重要性
  • トカマク方式とそれ以外の炉形式についての研究の意義と重要性・問題点の提示
  • 未知のシステム実現に向けた科学・技術財産の伝承による、学問の進歩の重要性
  • 未踏領域の計画の是非を判断するための新たな判断法の検討の必要性
  • フロントランナーとして、新エネルギーに対する国際規格のヘゲモニーの追求の必要性

 ○主な議論は以下のとおり。

  • 計画策定者の考えが政策に直結するようなシステムづくりが必要
  • 技術的なリスクを克服する道筋を設定するとともに、確実に遂行できる第2の方式を持っておくことも重要
  • 計画策定者、遂行者及び判断者の明確な分離、判断基準としてのリスクの評価の重要性
  • 過去の評価結果データベースに基づく今後のプロジェクト推進判断の必要性

(2)革新的な中小型炉の開発について、大瀬委員からプレゼンテーションが行われた。主な議論は以下のとおり

  • 中小型炉の開発による国内効果及び国際的貢献の期待
  • 官・民・学の協力による研究開発の活性化と実用化価値判断のための横断的な評価の場の必要性

 ○主な議論は以下のとおり。

  • 中小型にとらわれず、原子力の技術革新を進めていくべき。
  • 大型炉との比較検討によるコスト評価の必要性
  • 長期間の経済性、安全性に関する革新技術の実証が必要。国の政策的、財政的支援の要請
  • メーカーにおける技術伝承のための人材確保・育成の必要性
  • 中長期的な視野で、開発について検討・評価を行う場の設置の必要性
  • システム・インテグレーションの伝承の重要性
  • 研究開発におけるポートフォリオ的な概念の導入の必要性

(3)研究用原子炉の将来展望と課題等について、岡委員からプレゼンテーションが行われるとともに、東大伊藤教授、神田策定会議委員から補足説明が行われた。主な論点は以下のとおり。

  • 研究、教育・人材育成のみならず、原子力や放射線の理解増進の観点での研究炉の重要性
  • 将来展開として、ニーズの高度化への対応、共同利用施設としての体制整備等。課題として、技術の継承、使用済燃料の処理と廃棄物処分の問題の解決等
  • 産業生産力に優れている反面、革新的で創造的な分野で弱点を抱えている我が国の軽水炉技術に対する、国の支援による技術革新の重要性
  • 基礎学問の強化、他分野の勉強、創造力と想像力の養成、予算の多様化、加点法の評価と失敗の継承、経常・実験研究の重視、情報交換、ソフトの重視。
  • 学・官・民の連携の重要性と適切な役割分担
  • マシンタイムの不足等の問題点や、小型の私大炉の困難な経営状態の指摘
  • 研究炉機構設立(国と民間からの資金で、総合的な利用計画の立案、利用の調整と拡大を目指し、協議会的な連携と支援及び情報活動・国際協力の強化を図るもの。)の提言
  • 研究炉における高レベル廃棄物処理等に関する問題点

 ○主な議論は以下のとおり。

  • 中性子利用について、原子炉の特長を活かした高度化は今後も必要
  • 研究炉の個別ケース・将来展望が明確でない時点でどこまでとりあげるべきか
  • 個別の問題については必ずしも長期計画全体の議論にする必要はない

(4)「持続可能な発展について」の全体を通しての論点は以下のとおり。

  • 21世紀に向けたエネルギー問題における持続可能とは何かという視点が重要。
  • 個人の能力をいかに活用し、世界に貢献していくかを全体的に流れを見ながら考えていくシステムの必要性
  • 新しい概念と十分な技術的素地に基づいた研究開発の推進と我が国の強力なリーダーシップの発揮
  • クリティカルかつ明快な評価の必要性と結果を行政へ直結させることの重要性
  • 原子力に関する技術の伝承と国家保障の問題
  • 研究者のアカウンタビリティ保持の必要性

(第6回)
 日時  平成12年3月13日(月)
 議題  横断的事項について

    • 研究開発の推進方策
    • 研究体制及び評価のあり方
    • 地域への展開
    • 若者の参加意欲増進

------今後の予定------

(第7回)
 日時  平成12年4月17日(月)
 議題  報告書骨子案の検討

(第8回)
 日時 平成12年5月中旬(予定)
 議題 報告書の取りまとめ