2000.2.28

二十一世紀文明とエネルギー

三菱マテリアル(株) 秋元 勇巳

生成流転する地球:ガイアの世界
  宇宙飛行士の見た地球:

1)燦々と注ぐ太陽光、火山「エネルギー」
2)それを受け止める地表の物質:大気、水、土壌「マテリアル」
エネルギー解放系、物質閉鎖系としての地球
3)そこに繁栄する生物(遺伝子「情報」を備えた自己創出体)がつくりあげるネットワーク「生態系」
ガイア:
生態系は「エネルギー」を取り入れ、「マテリアル」を循環させて、地球上にダイナミックな平衡を創り上げる
生態系を蝕む文明社会

 

文明社会の軌跡:自己組織化する文明
  Y2K問題の教訓:三要素の安定供給、高品質性、無謬性を要求する現代社会

  後戻りできない文明社会

生息密度:1.4(生態系)、36(世界)、320(日本)、10,000(東京都区)
急増する人口
消費エネルギー:1(筋肉社会)、175(世界)、600(日本)
情報手段

  文明進化を支える三要素:受動から能動、能動から創出へ
情報:保存・伝達技術、ネットワーク、バーチャル空間創出
マテリアル:地下資源利用、材料設計、バイオ技術
エネルギー:火の利用:薪炭、石炭、石油、天然ガス、原子力
     (より高温に、より高密度に:文明手段の高度多様化)
      動力の発達:人力、家畜、帆船、風車、水車、蒸気機関、
      エンジン、電気機器(パワー・アップがもたらした奴隷制度、
      モダン・タイムズ、家事労働からの解放)

  文明の蹉跌:地球が物質閉鎖系であることを忘れた「つけ」
生態系破壊
局地公害
廃棄物処分問題
地球温暖化現象

  一方向型文明から循環型文明へ

 

収奪する文明から共生する文明へ:文明社会サバイバルのために

I.文明社会のミニ地球化:「ゼロエミッション」?
リサイクルとエネルギー消費のトレードオフ関係
物質循環量と所要エネルギーの非線形関係:費用対効果
「ミニマムエミッション」:自然界、文明社会間の物質交換量(資源収奪+廃棄物投棄)の最小化
Ⅱ.江戸時代型の文明社会:物質循環リズムの整合化
1)自然界、文明社会間の物質交換速度を、ガイアの物質循環速度に近づける。

皆伐、焼畑、濫牧畜、が招く文明危機
江戸時代のリサイクル都市生活
2)「永遠」志向の文明から、「滅び」を生かす文明へ
DDT、フロンの教訓:化学公害、オゾン層消滅
伐採による森林活性化:屋久島の例
伊勢神宮遷宮の知恵

Ⅲ.植相型文明社会:太陽を取り入れる(直接:太陽光、間接:風力,水力)
炭素サイクルとは独立のエネルギー源を地球外に求めることにより、地球上の物質閉鎖系への攪乱防止をはかる
クリーン、親しみやすい、小規模適性
生態系とのトレードオフ関係:植物の知恵の後追い?
本質的に低いエネルギー密度、稼働率
低いエネルギー収支:物質交換量の低減化は困難
変動制御の困難性:水力を除き気象変動に対抗する貯蔵能力なし
水力を除き主系統電力用には不適当、ローカル、ニッチ的利用に威力
分散型電源としての将来性を伸ばすべき

IV.21世紀型文明社会:太陽を創る(原子力)
太陽光に代表される宇宙原理のエネルギーを、文明社会の中で創出、制御して、炭素サイクルとは独立のエネルギー源を確保する。
現時点の課題:トータル・システムの完結
循環型が本領のエネルギー源:対化石燃料比百万倍のエネルギー/物質

出力比が、高いリサイクルエネルギー収支を可能にする。
核分裂技術の柱は、プルトニウムのエネルギー化
U-235は原子力利用の火種(マッチ)
軽水炉一辺倒、サイクル先送りが招いた一方向性原子力社会
一方向原子力の引き起こす社会とのミスマッチング
プルサーマルは、一方向性軽減のための緊急避難
軽水炉時代にこそ必要な高速炉:高速炉機能の多面性の活用
エネルギー生産機能:軽水炉と競合
プルトニウム燃焼機能:軽水炉サイクルを補完
緊急の課題:
軽水炉が生み出すPu、TRUのエネルギー化
(軍事Puのエネルギー化)
軽水炉サイクルへの高速炉の導入、補完
整合性ある国策の樹立、実施体制の整備が必要
中期的課題:
デファクト軽水炉を超える高速増殖炉の開発
高速炉サイクル時代への移行
将来の課題:更に太陽に肉薄する
エネルギーの直接転換
核融合など
主系統基盤エネルギーの本命ながら、未完の大器・原子力

 

原子力はパラダイム技術たりうるか:反作用の克服

ポピュリズム政治、行政の克服:ステーツマンシップの確立
責任の空間的逃避:NIMBY、三重県の選択とCOP3公約
責任の時間的逃避:先送り症候群、モラトリアムは政策ではない
公益と私権のバランス確保:責任を分かち合う空間の醸成
地方分権化に伴う公益空間の矮小化:責任権限の共有分担のメカニズム
市場メカニズムの陥穽:公共空間のエアポケット化、無責任空間の発生
原子力固有の社会インフラ整備
開かれた安全対策:
安全風化とサボタージュ脅威の狭間で
業際、国際安全ネットワーク
地域との一体化
放射能環境の正当な理解:
ホリスチックなリスク評価(ICRPの功罪)
初等教育、社会教育の見直し
低線量効果の解明
しきい値の確立
廃棄物処理処分:
消滅する能力(放射壊変)の積極活用
軍事セクターの桎梏からの解放
使えなくなった究極兵器:
原爆禁止運動の成果
ソ連を崩壊させた原爆競争
国際社会復帰の証、南アの原爆政策放棄
核不拡散問題:
核抑止力神話がつくり出す強請屋国家
米国核兵器独占政策の犠牲にされた核燃料サイクル
核兵器解体のジレンマ
北朝鮮への原発供与で露呈したPu兵器神話の虚構
平和利用に徹する意志の継続的実証と表明

ホリスチックな視点の確立
宗教的誤解の解消:核反応も自然の営み
不毛の二極分化からの脱却:安全神話と危険神話
環境運動のバランス回復:ドグマからの訣別

パルシファル(ともに悩んで悟りを得る愚直者)としての日本の原子力の使命
被曝国日本が発する原子力平和利用メッセージの重み
疑惑、対立のパラダイムから、信頼、連携のパラダイムへ

文化を築き上げてきた人の心への信頼回復
文明を築き上げてきた人の知識への信頼回復
世界の公益に繋がる日本の公益
以上