原子力安全委員会 ウラン加工工場臨界事故調査委員会 報告の概要 |
T.はじめに
U.事故の全体像 V.事故の原因とそれに関する状況 W.事故に係る防災上の対応 X.健康対策・事故現場の対応 Y.事故の背景についての考察 Z.今後の取り組みのあり方について [.事故調査委員会委員長所感(結言にかえて) 図 |
この「報告の概要」は、本委員会の最終的な報告の概要を事務局の責任でまとめたものである。
1.事故の発生の状況等
1.事故発生の原因と再発防止対策
(1)直接的原因と対策
@ | 臨界状態の継続性を直接的に検知できる装置の設置 |
A | 濃縮度20%のウランを溶液系で扱うような施設は臨界事故を想定する |
B | 継続性の判断のための正確かつ必要な情報の速やかな提供。同時に情報の適切な収集と適切な場での専門的検討の実施 |
C | 情報の公開と適切なタイミングでの提供及び情報源の一元化 |
D | 海外への正確な情報の速やかな伝達 |
@ | 事故対応のための専門家の速やかな支援体制についての検討 |
A | 事故の終息に向けて特別の放射線作業を要するような場合における責任や法的根拠の関係者間での周知 |
@ | 今回の事故の特徴は、臨界状態の終息に至るまでに時間を要し、敷地境界における放射線レベルが通常の値の範囲を超えている時間が長かったこと。 |
A | 地域住民が受けた放射線量は、本報告書作成後も、できるだけ詳細に評価される必要があるが、仮に有意な放射線量が認められない場合でも、精神的負担などを考慮した心身のケアを図るなどのフォローアップを行うことが肝要であること。 |
B | 放射性物質の放出は住民の健康及び環境に影響を及ぼすものではなかった。 |
C | 放出放射線による線量率と距離との関係は、350m地点で、敷地境界の値の約80分の1、1km地点で、同じく約1万4千分の1であった。 |
@ | 本施設は事業内容の特殊性を考えると、加工施設ではあっても、むしろ使用施設的な特別な施設として審査することもあり得た。規制行政庁と原子力安全委員会のダブルチェック機能の実効性ある運用を含め、両者の多重補完的安全審査のあり方について改めて検討すべきことを提言する。 |
A | 本施設のように安全上の重要度が高くかつ運転管理をより重視する必要がある施設については、その安全審査及び安全規制のあり方に関し、管理体制、作業工程さらに検査及び確認の方法までを視野にいれた専門的検討の緊要性を指摘する。 |
B | 原子力安全委員会は、原子炉と核燃料サイクルを全体的に俯瞰しつつ変動する時代や社会の要請に応えて、規制行政庁とは独立した立場から安全行政を監視し指導することが求められており、事務局の抜本的強化と専門的助言者集団を確保すべきことを提言する。 |
@ | 核燃料物質の取扱いに際しては、作業性を考慮しつつ安全な設備を設計し製作することの重要性を認識する必要がある。 |
A | 工程管理及び作業管理による安全確保の徹底を図るシステムを確立することが重要である。 |
B | 安全性の向上と技術の継承を図るシステムをそれぞれの事業所において確立することが求められる。また、経営者や生産管理者についても「安全」への一層の理解が求められており、そのための教育も必要である。 |
@ | 情報源をできるだけ一元化し、情報の混乱を最小限にとどめるべきである。報道機関への情報提供者は、その情報源と直結し特に指名された者が当たるべきである。 |
A | 災害防止や事故の終息に向けた迅速かつ的確な判断を可能にするためには、提供される情報を専門的に分析する作業を必要としており、それらの作業は、適切な場で特別にその任に当たる者によって遂行されるべきである。 |
@ | 人的管理に依存し易い今回の施設のような場合には、核物質管理情報のシステム化が検討されるべきである。 |
A | 核物質管理上特に機微な核燃料物質を取扱う施設においては、核物質防護上の情報との統合化とシステム化も検討されるべきである。 |
@ | 原子力の「安全神話」や観念的な「絶対安全」から「リスクを基準とする安全の評価」への意識の転回を求められている。リスク評価の思考は欧米諸国において既に定着しつつあるが、我が国においても、そのことに関する理解の促進が望まれる。 |
A | 規制する側とされる側との間に健全な緊張関係があってはじめて自己責任の安全原則が効力を発揮する。 |
B | プロジェクト型の技術開発のあり方については、プロジェクトを構成する個々のサブプロジェクトがそれぞれに自律化しその過程を通して全体が進化していくように管理運営されている必要がある。また、止むを得ず発生するかも知れない事故の影響を予知しそれを最少化するリスク管理システムの開発と併せて、プロジェクト型の技術開発のあり方について新たな研究開発テーマとして取り組んでいくべきことを提言したい。 |
C | 自己責任によって安全確保の向上を不断に目指す社会システムの構築に、専門的知識を有し、かつ、社会への適用性に優れていて安全意識の高い技術者集団の参加を必要としており、特に、それらの集団のリーダーとなる人材の育成が不可欠である。また、各分野における現場作業者の育成も重要な課題であることを指摘したい。 |
1.防災対策全般
1.住民等の健康対策
1.企業・産業のあり方
(1)原子力産業概観
飽和した技術領域では、安全工学的設計の範囲を超えた事故が目立つようになり、事故の教訓が必ずしも安全工学的設計の開発・改良に結びつかなくなってきている。今回の事故は、ハード型の安全確保対応の開発・改良が飽和するにつれてソフト型の安全確保対応や安全確保支援の形成と実現が重要課題になってきたことを示したものと言える。
また、部分的変更はシステム全体の最適化を損ないうるとの認識が不可欠である。上記の4つの要素の実現は、最終的には安全確保のための個人の知識や技能、動機づけやメンタリティに結びつくものでなければならず、政府の過剰な介入がこれらに逆行しうることにも注意すべきである。
安全社会システムの総合設計においては、国民の安心をも視野に入れてシステム全体を捉え、事業者、国、自治体、地域住民、第三者機関等を含めた責任の分担など、安全問題に関わる様々な要素等を隙間なく考慮した設計とその実現が必要であり、国が総合設計の責任を持つ役割を果たすことが求められる。
また、社会の責任として「安全」価値に対して適正なコスト負担をしていく必要があり、政府、企業、自治体等が適切に安全コストを負担し、安全社会システムの総合設計の中でその責任と役割を果たしていくことが重要である。