原子力委員会
長期計画策定会議御中

 21世紀社会に向けて、原子力の研究と開発、利用に関して、新たな長期計画を策定するという大変重要な委員会に初めて参加させて頂くことになり、責任の重さを感じております。にもかかわらず出張取材のために、最初の会合に出席がかなわず、誠に申し訳ございません。ここに自己紹介も兼ねまして、この会議への期待や希望などを簡単に述べさせて頂きますので、どうぞよろしくお願い致します。
 私は昨年八月まで、約二年半にわたりシンガポールを拠点として、東南アジア地域の政治、経済、社会等の報道に携わって来ました。またそれ以前も、ニューヨーク、マニラ等で特派員活動に従事し、そうしたことも多分にあって、何事であれ「外から見える日本」という視点を自らの基本に据えて来たと思います。
 日本の一挙手一投足は、いまや単に日本にとどまらず、多くの国々に小さからぬ影響を及ぼすところとなっております。そして恐らく原子力の分野においても、それは例外ではなかろうと想像致します。そのような観点から、『長期計画の予備的検討に関する調査報告書』に盛られた「新しい視点に立った国際的展開」を興味深く拝読しました。放射性廃棄物処理・処分、核不拡散、核軍縮、地域協力等など、どれ一つとっても日本の適切な取り組みが、いまほど望まれ、また内外にインパクトを与え得る時代はないであろうと思います。
 一方、足元を見つめますと、そもそも原子力の開発利用は日本において、岐路に立たされているのではないかとの感も強く致します。その一端は、同上の調査報告書の「原子力の社会的受容」でも指摘されておりますが、会議ではこれらの中身をさらに深め、地に足のついた国民的な議論にして行くために、微力ながら私も力を尽くしたいと思います。以上、簡単ですが、私のご挨拶とさせて頂きます。

産経新聞論説委員兼編集委員 千野境子