第二分科会「原子力産業のあり方」に関する報告書骨子(案)

平成12年2月17日
レポーター川村

<基本認識>
1 原子力産業の現状
 1.1 我が国の原子力産業とその特徴
 1.2 原子力産業のこれまでの実績
 1.3 原子力産業をとりまく環境の変化

  (1) 経済環境の変化
  (2) 社会環境の変化
  (3) 国際環境の変化

2 原子力産業の方向性と各者の役割
 2.1 原子力産業の方向性
 2.2 原子力産業界の役割
 2.3 国の役割
 3 原子力産業の安全性確保と「規制」および「規制の合理化」
 3.1 原子力産業の安全性確保

  (1) 安全性確保にかかる産業界の役割
   @ 自己責任とモラル
   A 組織経営
   B 産業界全体の役割
  (2) 安全性確保にかかる国の役割
 3.2 原子力産業の「規制」と「規制の合理化」
4 軽水炉発電体系の課題への対応
 4.1 原子力エネルギーに関する技術開発の方向性
 4.2 軽水炉に係わる技術開発の方向性
 4.3 軽水炉の長寿命化対応
 4.4 軽水炉の国際展開


<基本認識>
[短期的な対応]

[中期的な対応]

[長期的な対応]

1原子力産業の現状
1.1我が国の原子力産業とその特徴

(1)我が国の原子力産業は、原子力機器や部品・素材を供給する機器供給産業や核燃料サイクル産業等から成る原子力供給産業と、発電を行う電気事業とに分類。
(2)国内での原子力産業規模は、原子力供給産業が約500社、約45000人、電気事業も11社、約10000人で、広大なすそ野、多岐にわたる技術分野、大きなプロジェクト規模の産業。また、原子力の開発・利用には高い安全性が求められることから、産業界の中でも最高水準の品質レベルが要求される。
(3)原子力供給産業の売上高は、平成9年度で2兆円弱と、農産業とほぼ同等の規模であり、エネルギーの安定供給や放射線利用という重要な役割を担うとともに、既に国内産業の重要な一部分。
(4)電気事業は、経済性を追求しつつも地域への安定した電力供給という公益的性格を保有。

1.2原子力産業のこれまでの実績
(1)原子力発電所は国内で既に50基以上建設され、我が国の原子力による発電電力量は総発電電力量の約36%。全エネルギー消費量の約15%。
(2)原子力発電所は、国際的に見ても高水準の設備利用率、保守員の低被ばく量等、高い信頼性を達成。その設計技術は成熟段階。
(3)更に、核燃料サイクル関連の技術開発や施設の建設も進行中。
(4)電気事業は、電力の安定供給という公益的観点から事業を着実に進めてきており、原子力供給産業は、技術開発、機器の供給等を支え、原子力の開発・利用の重要な担い手。

1.3原子力産業をとりまく環境の変化
(1)経済環境の変化
 @長引く景気の低迷、低成長時代に伴い、電力需要の伸び鈍化。
 A規制緩和の潮流を受けた電力の自由化進行。これまでの地域独占型の電力供給体制から市場原理に基づく電力供給体制に移行しつつあり、電気事業者も一層の経営効率化が必要な状況。これに伴い、既に設備投資の抑制や運転・保守費等の経費削減を推進。
 B原子力供給産業の受注額はピーク時より半減しており、供給産業者も一層の事業経営の効率化が必要な状況。

(2)社会環境の変化
 @原子力関連の事故や不祥事等により、国民の原子力に対する不安が拡大。とりわけ、JCO事故により、国民の不安は更に増大。
 A国民の原子力に対する忌避感は高まっている。
 Bこれらを背景に、原子力産業界においても今後の事業展開に対する不透明感が高まっている。

(3)国際環境の変化
 @欧米においては、原子力開発に対する社会経済環境の変化から原子力市場が低迷。欧米の供給産業界においては、事業の多角化や競争力強化のために国際的な業界再編が進んでいる。
 Aアジアにおけるエネルギー消費は今後大きな増加が見込まれ、原子力発電への期待も上昇。
 B海外の低迷により、相対的に国際社会における我が国の原子力産業の位置づけも上昇。今後、我が国供給産業の技術力維持、およびアジア等への国際協力の観点から、積極的な国際展開が必要。

 

2原子力産業の方向性と各者の役割
2.1原子力産業の方向性

(1)我が国の原子力に係わる経済環境、社会環境の変化により、現状に於いては国内の原子力産業にとって厳しい状況であるものの、既に原子力発電は我が国エネルギー源の重要な一部分。
(2)エネルギーは食料と共に国家の根幹に係わる重要な基盤。従って、各国の国情に応じた確固たるエネルギー政策が必要。
(3)我が国では、今後省エネルギーに最大限の努力を払い新エネルギーを最大限導入するとしても、基幹電源になり得るのは化石燃料と原子力のみ。エネルギーセキュリティ、地球環境等を勘案すれば、化石燃料に依存せざるを得ない原子力のモラトリアムは適切とは言えない。
(4)ただし、公益性を有するエネルギー産業と言えども経済性の追求が求められることから、経済性と公共性の調和が重要。市場経済原理だけでは、公益性を有する活動を全て網羅することは困難であり、国の適切な関与は自由な経済活動と公益とを調和させる観点からも必要。
(5)技術力の完全な維持は、モラトリアム論とは両立し得ない。
(6)21世紀を通して、原子力は我が国の主要なエネルギー源。従って、経済的効率性と公益性とを同時に達成するの観点から、国と民間はそれぞれの特質を活かしつつ協力し、原子力産業の維持、継承及び発展を図るべき。
(7)そのためには、まず関係者が一体となって、原子力への社会的信頼の獲得を図ることが何よりも重要。
(8)更に、先進技術開発と原子力産業の活性化により魅力ある原子力産業を育成し、また、原子力に関する正しい教育を行い、人材の確保に官民が協力して取組むべき。

2.2原子力産業界の役割
(1)原子力産業界は、エネルギーの安定供給という、その担っている責任の重要性を認識した上で、社会的信頼を得るために、既存原子力施設の安定運転に向けた着実で地道な努力を行うことが必要。
(2)原子力産業界は、技術力、製造力等を維持し、継承させ、発展させていくために、自ら技術的及び経済性共に魅力ある原子力を提供することのできる実力の保持・発展に努めることが必要。
(3)企業として常に最新の技術を取り込む努力を継続すると共に、企業内での教育訓練等を通して、それまでに蓄積された技術を発展させ将来世代へ継承する努力を行うことが必要。
(4)さらに、国内のみならず国際的な視点で事業を捉え、国際入札や製造拠点の国際化、更には国際アライアンス等も視野に入れた国際展開や、事業の再構築や業界の再編成等を視野に入れた抜本的な経営体質の強化により、国際的なコスト競争力と技術力維持を図る努力も重要。

2.3国の役割
(1)国は、長期的な視野に立ち、エネルギーの安定供給と環境維持および経済性を加味した、我が国の総合的なエネルギー戦略の中で、原子力の位置づけを明確にし、原子力開発・利用に対する社会的信頼を得る努力を行うべき。
(2)初等・中等教育段階から、我が国のエネルギー資源確保と原子力に関する適切な教育を行うことにより、原子力に対して公正かつ的確な判断ができるような次世代を担う人材の育成に、これまでにも増して傾注すべき。
(3)国と民間との間で、技術協力協定の拡充や共同研究の更なる推進、または人材の交流等、相互の人的・技術的交流を促すような体制をつくり、官民の有機的・効率的連携を一層推進することにより、原子力産業の活性化を促すようにすべき。
(4)長期的なエネルギーセキュリティの確保、基礎技術等、市場原理が当面働きにくい分野については、国が積極的に技術開発等を担い、その成果を民間に移転する。

 

3原子力産業の安全性確保と「規制」および「規制の合理化」
3.1原子力産業の安全性確保

(1)安全性確保にかかる産業界の役割
 @自己責任とモラル
 (a)原子力産業に拘わらず、全ての産業において安全性の確保が最も重要な事項。
 (b)原子力施設の安全性確保の第一義的責任は、その施設を運営する事業者にあることは明白。事業経営者は、その施設の現場の状況を十分に把握した上で、経営の自己責任として、安全性を確保するために必要なソフト、ハードを含めた自主基準を策定することが必要。
 (c)また、組織内において、これら自主基準の遵守を積極的に促すような組織内制度を確立すべき。
 (d)さらに、このような組織内制度を実効あるものとするためには、原子力産業に携わる者一人一人の確かな倫理観が不可欠であり、これなくしては自らの事業のみならず、我が国の原子力産業全体が成立し得ないという緊張感を常に持続させ、取組んで行くべき。また、このような意識の維持・向上は、実務者まで安全を最優先させる組織内での風土の醸成が必要不可欠。

 A組織経営
 (a)原子力関連の組織運営においては、安全性を確保するために必要な投資は、短期的にはコスト増加の要因となる側面はあっても、長期的に見ればコスト低減のための投資であることを念頭に置き、安全性の確保と企業の経済活動をどのように一致させるべきであるかを常に考慮し行動すべき。
 (b)また、組織経営者は、安全性確保を根底で支えている個々人の倫理観の高揚の重要性を単に訴えるだけではなく、組織内でそのような雰囲気が醸成されるためには何が必要であるかを常に検討し、そのために必要な具体的方策を示し実行することも重要。

 B産業界全体の役割
 (a)原子力の開発・利用を担っている産業界としては、自らの安全行動指針を定めその安全性を確保するのみならず、原子力産業界全体として安全性の確保を目指すよう、個別組織の運動を相互に連結し、その相乗効果を得るような、産業界全体を巻き込んだ運動も重要。
 (b)また、これまで軽水炉発電分野で培われた安全に対する意識・文化を、原子力の開発・利用に携わるもの全てで共有できるような枠組みを整備するとともに、継続的に組織間でこれらを確認することで、原子力産業界全体の安全意識の高揚を図ることも重要。
 (c)さらに、以上のような組織内部及び組織間での安全性確保に対する取組みに加え、民間第三者機関や専門的知識を有する第三者を有効に活用した原子力安全に関する民間の監査・評価制度を確立・充実させることにより、透明性の確保、安全確保に対する不断の緊張感維持による一層効果的・実質的な安全性確保を図る必要がある。
 (d)組織内部においては、国により認定される原子炉主任技術者や核燃料取扱主任者免状取得者が、安全性確保に中心的な役割を果たすことができるような組織上の位置づけとなるよう留意すべき。

(2)安全性確保にかかる国の役割
 @原子力産業の安全性確保は、その第一義的責任は事業者にあることは明らかであり、実効性のある安全性確保を達成するためには、国による規制強化のみならず事業者の不断の努力が不可欠。
 A国は、事業者や産業界が守るべき安全基準を明確に示すとともに、その安全性確保状況を常に厳格に監視し、さらに事業者や産業界が安全性確保に対して適切な緊張感を持続しながらその事業を遂行していくことを促すことで、総合的に安全性の確保に資することが求められる。
 B国は、国の安全性の確保に対する取組みを内外に示すことで国民に安心を与えるという重要な役割を果たしていることを認識した上で、国民の信頼を裏切らないよう、安全性確保に対し、その規制システムが十分に機能するよう努力すべき。

3.2原子力産業の「規制」と「規制の合理化」
(1)国の規制は、不断に事業者による安全性確保を促し国民に安心を与える意味で、非常に大きな役割。
(2)しかし、安全性に直接的な関わりがない事項については、適正な経済活動を維持する観点から、合理的な規制の在り方について国は常に検討が必要。
(3)他国との比較において、地理的状況等により我が国固有の事情による規制が存在することを勘案しつつ、国は合理化の検討の余地があるか否かについて検討が必要。
(4)国の規制により、安全性確保上必要なレベルを担保し産業界の適度な緊張感を維持する一方、安全確保実務の細部、信頼性確保のための基準については産業界の自主保安を充実強化し、詳細な技術基準等は民間規格化を検討すべき。この場合、民間による定期的な外部監査と認証により、安全水準が確保されていることを明らかにする必要がある。
(5)国際基準と国内基準とを整合させるとともに、運用の柔軟性確保を図るべき。このため、国内に、技術基準等について専門に検討する体制を確立し、その成果を国際的に発信していくことが重要。

 

4軽水炉発電体系の課題への対応
4.1原子力エネルギーに関する技術開発の方向性

(1)原子力利用を今後も安全にかつ安定的に進めていくためには、国と民間とが連携し、その技術力を維持し高める努力をたゆまず継続することが必要。
(2)市場経済原理が当面働きにくい、長期間に亘り開発を必要とする技術や基礎基盤的技術開発分野等は、国が主導的にその開発を進め、その成果を民間に移転する。その際、民間側も当該成果に移転が円滑に進められるよう、環境条件の整備に十分配慮する。
(3)既存技術を更に改善する等の市場経済原理が期待される分野については、民間に開発を委ねる。
(4)官民が適切にそれぞれの役割を担いつつ、両者の緊密な連携を保つことが重要。
(5)国に関連する研究機関と産業界との人や技術の交流を更に一層積極的に図ることが重要。
(6)原子力エネルギーに関する研究開発をより一層効率的に進めていく観点から、国は、国として推進すべき方向性を明示しつつ、公募型研究等、競争原理の取り込みを検討すべき。

4.2軽水炉に係わる技術開発の方向性
(1)これまでの軽水炉発電技術は、蓄積された豊富な運転経験と技術開発により、安全性と信頼性向上のための標準化、高度化が段階的に進められ、世界的にも高い水準の技術レベルに到達。
(2)今後しばらくは軽水炉主流の時代が継続するものと予想されることから、一層の経済性、運転・保守性等の向上を目指した開発が必要。
(3)軽水炉開発は、目的に応じ、従来にも増した投資効率が得られるような大型炉と、単機当たりの建設費が抑制でき簡素化等の新概念を導入した中小型炉の開発が想定される。
(4)一般に、活性化した経済市場下においては技術開発が更に進展することを踏まえ、市場を活性化し得るよう、これらの開発は適切な競争原理を導入しつつ進めることが肝要。

4.3軽水炉の長寿命化対応
(1)我が国の軽水炉発電は成熟段階にあり、同時に高経年化したプラントも増加傾向。
(2)これまでのところ運転年数の増加によりトラブルが増加する傾向は認められていないが、一般に機器や素材は時間とともに経年劣化していくものと考えられることから、国による定期点検や事業者の自主点検による予防保全の充実が重要。
(3)事業者は、プラント保全に関する第一義的責任を有していることを認識し、自らの責任において、これまでの運転経験を踏まえ、運転開始後30年を越えるプラントについては、経年変化事象を的確に捉えるための技術的評価を定期的に実施し、その結果に基づく保全の実施や総合的な予防保全計画の策定を行うことが必要。
(4)国は、事業者による技術評価結果や保全計画等の成果を適切に評価、確認することが必要。
(5)また、より信頼性の高い管理を行うため、経年変化評価方法等に関する技術開発や、経年変化を考慮した技術基準・民間規格の整備、材料や機器に関するデータの蓄積といった、長期的な努力を着実に継続することが重要であり、事業者をはじめ供給産業、国等の関係者が連携しつつ適切に役割分担しながら進めていくことが重要。

4.4軽水炉の国際展開
(1)国内市場における原子力を巡る経済的環境の変化や、アジアを中心とする国際社会における原子力の環境変化を踏まえると、国内の原子力産業界の技術力を維持・発展させるとともに、我が国の高い安全性を持つ軽水炉技術を国際公共財として活用するため、我が国の軽水炉発電技術の海外への国際展開も積極的に推進していくことが重要。
(2)単に軽水炉プラント機器の供給だけではなく、我が国で培われた安全思想をセットで国際展開することで、国際社会への責任ある貢献を果たすことも重要。
(3)民間は、品質および価格競争力を高め、技術的及び経済性に優れた魅力ある原子力技術を提供できるよう努力するべきであり、また、自ら積極的に国際社会へアピールすることも重要。
(4)国は、民間活動の国際展開の進展にあわせ、核不拡散等の安全保障上必要となる二国間協定締結相手国の拡大、原子力エネルギー利用のための安全規制や原子力損害賠償制度などの法整備、更には基礎技術レベル向上のための技術協力等、必要な環境整備を積極的に行っていくことが重要。

以上