はじめに
 第6分科会に与えられた命題は、長計策定全体のなかで、「新しい視点に立った国際展開」を担当し、具体的には「多様な政策手段を活用した包括的国際協力の在り方および国際的な核不拡散の強化に向けた原子力平和利用の展開に関する事項」を検討することとなっている。いうまでもなく、長期計画は、わが国の国内計画であり、国際問題それ自体としては存在しない。従って本分科会の使命は、他の分科会が提示した課題の遂行にあたって、如何なる国際問題があるかを検討し、それらを解決するための具体的施策を明らかにする事にある。その際われわれは従来のような対外援助的な国際協力や国際貢献という視点ではなく、国際的課題への主体的取り組みと積極的な対応という基本姿勢をとることとした。
 われわれの論議の出発点乃至は基礎となった問題意識は、前回長計から今回に至るまでの数年間における原子力を巡る世界情勢の変化の大きさである。それは次の点において顕著である。即ち世界経済におけるグローバリゼーションの進展、規制緩和、自由化、市場化、冷戦の終結が世界の人々の期待をうらぎってもたらした核拡散の危険の増大、そして地球温暖化問題の一層の高まりである。
 原子力は、すぐれて国際的主題であるといわれる。それは他の産業技術との対比において原子力技術の有する2つの特質に由来する。その1は原子力が軍事技術として開発され、その平和目的への転換が現在われわれの利用している技術の起源なのであり、技術そのものには平和も軍事もない。核物質も同様である。その2は原子力の内包する潜在的リスクの大きさである。チェルノブイリ事故の例をあげるまでもなく、万一の場合の影響は国境を超えて広がる恐れがある。われわれ人類が原子力のもたらすエネルギーとしての恩恵を享受するために、常に真剣に取り組むべき課題が、核拡散の防止と安全の確保であることの理由はここにある。この報告においてわれわれはこれに如何に取り組み、如何なる施策をとるかを示そうと試みた。
 そこでまず、わが国のエネルギー安全保障の観点から原子力が将来とも重要な選択肢の一つであることを踏まえて、世界の現状認識から出発し、非核保有にして原子力発電大国である我が国が、核燃料サイクル政策を推進するために取り組むべき課題と施策を提示し、そのために核不拡散にかかる個別の問題に如何に対応するかを論議した。そして原子力の安全確保と研究開発にとって重要な国際協力の項目に対する積極的取り組みをしめし、最後にアジア、欧米をはじめ各地域別の課題、特にアジア地域におけるわが国の協力のあり方について言及している。
 その中でとくにわれわれが詳細に検討したのは、わが国の核燃料サイクル政策との関連における核不拡散問題である。現在、全世界の原子力による電力は、大小とりまぜて約420基の原子炉によって供給されているが、そのうち約55%は核保有国、約45%は非核保有国にあり、わが国は後者の中の最大の原子力発電設備容量を有する国である。われわれに与えられた原子力開発の国際的取り組みという課題を検討していく上で、念頭においておかなければならないことは、次の点である。
 非核保有国の原子力発電は、その存在が直ちに核兵器の拡散につながるものではない。意図的に核兵器、核武装を行おうとする国が、原子力発電所や核燃料サイクル施設の建設・運転という経済的負担の大きい迂遠な方法をとるはずもない。しかし、原子力発電によって生ずる大量の使用済燃料と再処理から生じるプルトニウムの顕在的、潜在的存在は、核拡散リスクの懸念を生じさせる。
 このため非核保有国として世界で唯一再処理工場の運転と建設を単独で行っているわが国が、否が応でも世界の注目を浴びることをまず第一に強く認識しなければならない。わが国の核不拡散政策に対する信頼は核燃料サイクル政策の透明性の確保は勿論、世界の核軍縮、核拡散防止への積極的行動があってこそ得られるのである。そしてそうした努力の積み重ねによって初めてわが国の原子力開発は明るい未来を描くことが出来るのではなかろうか。

 この分科会に付託された「新しい視点に立った国際的展開」という命題に応えることは容易なことではない。しかしこの報告書において資源小国、経済大国のわが国が核不拡散と安全の確保を大前提としてエネルギー安全保障と環境保全を目途に、国際的課題に主体的、積極的に取り組むかたちを示しておきたい。


おわりに
 「何事も問題点の指摘は容易だが、解決策の提示は難かしい」といわれる。この報告書の策定においてもこのことを実感した。しかし、「はじめに」での問題意識を踏まえて、われわれは今日、可能な限りの挑戦を試みた積もりである。簡にして要を得た報告書の作成を目指したが、結果は50頁を越すものとなってしまった。それら全てが大切な成果であるが、そのうち特に強く訴えたい課題を以下にまとめて、結びとする。
 この報告書の冒頭部分で『原子力はその裾野の広さ、人類社会全般への影響の大きさから、本来国際的な視野に立って取り組むべき技術であり、原子力を将来とも重要なエネルギーの選択肢とするために、その国際的課題に対する正しい取り組みが極めて重要である。したがって、21世紀に向かってこの分野におけるわが国の果たすべき役割について、その理念と具体的政策を、国が行うべき項目を中心に内外に明確に提示するべきである。』という基本認識を述べた。その上で幾つかの重要なテーマを選んで、問題点の指摘と解決策の一端を提示している。

1.わが国の核燃料サイクル政策への国際的理解を求めて
 この報告書の「はじめに」に始まっていくつかの箇所で「資源小国の経済大国」と並び登場するのは、「非核保有の原子力発電大国」という言葉である。その様な国が原子力の利用を平和目的に限定しつつ、再処理・プルトニウム利用を中核とする核燃料サイクル政策を進める理由と根拠を、核拡散のリスクが高まる世界の現状を懸念する海外の問題意識に、明確に応える形で示すことは必ずしも簡単なことではない。
 そのためには、こうした政策の正当性、妥当性の主張が核不拡散体制の堅持を担保する具体的措置を伴うものでなくてはならない。その中心的考え方は「利用目的のないプルトニウムは持たない」という原則である。しかし、実際には、需要と供給双方の側に不確定要素が常に存在することは避けられないし、中・短期的に計画の期待される進捗との間に時にギャップも生まれる。したがって、使用済燃料、プルトニウムをはじめとする全ての核物質を厳格に管理された状態に置くと共に、透明性をより一層向上させる具体的施策を進んで講じていかなくてはならない。
 わが国は原子力発電所で発生する使用済燃料は、中間貯蔵による計画の柔軟性を図りつつ、国内で再処理することを原則としている。これまで海外事業者に委託したものについては、核燃料物質、放射性廃棄物の国際輸送が行なわれているが、近年、輸送ルートにあたる沿岸国を中心に輸送の安全性に対する懸念が高まっている。こうした懸念は真摯に受け止め、これらの国々と外交努力による理解活動は勿論政府及び事業者が密接に連携してこの問題に対応していくことが求められる。今後核燃料サイクルの確立に向けた諸施策を進めていくに当たっては、こうした国際輸送を巡る動向をも十分に考慮することが重要である。

2.核不拡散体制の強化へのイニシアティヴ  現在、核不拡散条約(NPT)を中心とする核不拡散体制は、体制の内側にあるイラク、北朝鮮、外側のインド、パキスタン双方から挑戦を受けている。このような状況の下で、わが国が世界の核不拡散体制の強化に果たす役割は極めて大きなものがある。  わが国は、最近国際的合意を得た未申告の核物質や、原子力活動の探知能力の向上を図るための保障措置協定の追加議定書を率先して締結したが、更に未締約国の参加を積極的に働きかけると共に、従来の包括的保障措置と併せた「統合保障措置」の検討作業に積極的に参画していく必要がある。
 また、核テロ防止に向けた国際条約の検討や核物質防護のあり方をめぐって内外の関心が高まっている現在、国も産業界も、こうした議論に加わり、この問題に自ら進んで取り組んでいくことが望まれる。
 包括的核実験停止条約(CTBT)の早期発効及び核兵器用核物質生産禁止条約(FMCT)交渉の早期開始へ向けての努力については、先般のNPT2000年運用検討会議におけるわが国の対応が国際的に評価されてよい。今後とも核兵器のない世界の1日も早い実現に向けて、努力を重ねていかなくてはならない。
 以上の諸施策に加えて、核拡散リスク低減のための国際的な技術開発及び朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)プロジェクトへの協力を進める。また核不拡散分野での情報発信、技術開発等を進めるため、国際的な専門家の参加を得た「核不拡散研究センター」(仮称)を設立する構想を検討する。
 米露間の核軍縮の進展に伴い、解体核兵器から生ずる大量のプルトニウムの不適切な管理から生ずる核拡散の危険防止も緊急を要する。余剰兵器プルトニウムの管理・処分は、第一義的には米露が取り組むべき問題である。しかし、わが国としてもG8諸国等と協力して、国際的な枠組みを検討し具体化していく中で、核軍縮の促進と核拡散の防止の観点から問題の重要性を強く認識するとともに、核拡散防止のための国際的活動へのわが国の熱意を具体的に示す機会ととらえ、他の主要国と歩調を揃え協力していくことが必要である。この問題はポスト冷戦社会における原子力の重要な国際的な課題の一つであり、わが国は対応をどうすべきか、早急な検討が望まれる。

3.安全の確保と研究開発
 核不拡散と並んで原子力利用の基本的な重要課題は安全の確保である。チェルノブイリ事故が世界の原子力開発に与えた負の影響は測りしれないものがある。わが国としては国、民間が共同して安全文化の浸透をはかるとともに、国際基準の整備に向けて、積極的にリーダーシップを発揮すべきであり、安全条約の下のピアーレヴューを行うとともに、WANOの備えている民間組織としての有利性と役割は充分に考慮に値する。
 一国の不祥事は世界の原子力利用に大きな影響を及ぼす。昨年、わが国で起きたJCO問題はまさに痛恨の極みである。この事件が引き起こした原子力の安全性に対する内外の信頼の喪失は計り知れない。これまでのわが国の安全への努力を無にしないためにも、今後安全実績の積み重ねに一層努力していかなくてはならない。再発防止と防災のための全ゆる措置を講ずると共に、国際的にも緊急時における情報の発信と入手のための具体的対応の強化と各国間の協力体制を確立する必要がある。
 国際的な研究開発の協力については多くの紙数をさくことは出来なかったが、欧米の牽引力の低下と、アジア地域における原子力利用の拡大の見通しを踏まえ、とくに基盤技術の研究開発分野ではフロントランナーにふさわしい主体性をもった国際協力を行っていく。
 アジア各国の強いニーズがある放射線利用分野は実績をもつわが国が具体的に活動出来る中心的領域の1つであり、積極的に対応すべきである。また、放射線の健康影響については、世界的に評価されている被爆医療の分野でのリーダーシップを発揮していくためには国内体制の一体化を強く求めたい。

4.地域別協力
 国際的課題への取り組みは、夫々の地域における事情と状況を踏まえて進められるべきであることはいうまでもない。
 今後わが国にとって多くのニーズと課題提起が予想されるアジア地域諸国との協力は、この地域が宗教、文化、政治、社会、産業、経済において夫々固有の歴史的発展を遂げている極めて多種多様の国々であるとの認識の上にたって取り組みが行われなければならない。まさに「アジアは1つ1つ」である。
 核不拡散と安全確保の基盤の上に、研究開発分野においては、各国の技術向上の自助努力を積極的に支援するきめ細かい取り組みが必要である。今年秋からスタートするアジア原子力協力フォーラムへの期待は大きい。
 アジア諸国の原子力発電所建設計画への対応については、今後とも民間主体でビジネスベースにより協力していくこととし、国は必要に応じ、二国間協定などによる資機材移転のための枠組作りや相手国の法制度の整備、基礎技術レベル向上等のための協力によって環境の整備を行う。
 欧米諸国では、原子力開発が停滞しているが、これら諸国が永年にわたって蓄積した技術とその価値は依然として大きい。とくに米国においては、原子炉技術の分野で新しい研究開発計画もたてられつつあり、あらゆる機会を捉えて人材交流、情報の交換、施設の共同利用を図りたい。核燃料サイクル技術を有する欧州についても同様である。今後ともこれら先進国との間には主体性を持った技術交流の取り組みを進めて行く。
 最後に、この報告書は原子力の視点から国際問題を検討しているが、当然のこと乍ら、これらは、わが国の21世紀における国際政治と外交戦略全体にもかかわっている。とくに核不拡散の国際的課題への取り組みを通して痛感することは、この問題とわが国の総合的安全保障との関連であり、今後、この観点からの幅広い論議を進めて欲しいと願うものである。
 約1年にわたる原子力分野における国際的課題についての真剣な論議を振り返って思うことは、混迷と複雑を増す国際社会における取り組みの難しさである。われわれは、「変えることの出来ないものを受け容れる冷静さと、変えることが出来るものを変える勇気と、そしてその両者を識別する智慧」(R.ニーバー)をもって21世紀の原子力政策に取り組まなくてはならない。