平成12年3月21日
第五分科会事務局
長期計画策定会議(第7回)における審議状況について
○那須長期計画策定会議座長より、以下のとおり発言があった。
- 第五分科会では、国民に身近な放射線利用のあり方、及び推進方策に関する事項について検討いただいている。本日は、第五分科会の久保寺座長より、「国際社会への貢献」及び「放射線利用の現状と問題点」という観点から、説明をいただく。
| ○ | 久保寺座長より、第五分科会における議論について、資料「第五分科会における議論の論点」に基づき、以下のとおり説明が行われた。
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- 我が国は唯一の原爆被災国であり、この体験を踏まえ、主体性をもって、国際的に貢献できる我が国の役割の重要性を認識しつつ、論議を行うべきである。
- 本分科会では、身近な生活の中で放射線がどのように利用されているか、またその問題点を議論すべく、医療、産業、農業分野で幅広い利用がなされている実態について、プレゼンテーションしていただいた。さらに、利用と防護・安全管理の調和、国際的な動きとの調和についても、議論をいただいた。
- それらを踏まえて、放射線利用が国民社会に受け入れられるとことが課題であると考える。既に受け入れられていること、これから受け入れられるべきことを整合性をもって示すべきであろう。
- エックス線の例に見られるように、放射線の利用は、発見当初からその光と影の両面を我々に示してくれている。そのプラス面、マイナス面を明確にしながら、いかにプラス面を引き出し、マイナス面を抑えるかについて、議論を行うべきである。
- 受益者としての視点から放射線利用をとらえ直すとの試みや、国民に受け入れられる前提としての青少年に対する放射線教育のあり方も、論点として挙げられる。
- JCO事故を契機とした国民の不安の増大に対して、どのように取り組み、また対処すればよいのか、検討を行うべきである。特に、原爆被災国である我が国には、低線量放射線の健康影響について膨大なデータが存在しているが、こうした知見を積極的に国外へ発信することはなされていなかった。今後、我が国が国際社会においてどのような貢献ができるか、検討すべきであろう。
- 放射線利用については、医療への利用、工業利用及び環境保全への利用、食料の安定供給に区分され、これらに関連する項目として、放射線の健康影響、放射線防護に関する研究、国際協力、海外支援や国際貢献が挙げられる。
- 医療利用は、放射線の利用と放射性物質の利用に分けられ、双方とも治療と診断に区分できる。診断は原因を的確に見分け適切な治療を可能とするため非常に重要であるが、近年には放射性薬剤を用いた苦痛を伴わない診断が可能となり、また、放射線医学総合研究所において重粒子によるがんの治療が行われるなどなど、国民生活に大きく役立っている。
- 放射性薬品は厚生省が管轄しているが、年商600億円規模の市場があり、年間約300万人がその恩恵を受けている。非密封の放射性同位元素の9割が医療用に使われており、その内9割が、約6時間の半減期の核種であるTc-99mである。技術的な目処はあるものの、国内の供給はなされておらず、現在はカナダから輸入している。これは、今後の核医学の発展のために大きな問題ではないか。
- いずれにせよ、今後患者に苦痛を与えない診断と治療を目指すべきであり、放射線診断はその方向に着実に進展していると考えられる。問題点としては、医師、薬剤師、パラメディカルと呼ばれる従事者の人材不足や、法的規制における臨床試験の困難が挙げられる。また、使用する物質により管掌省庁が異なり、医療法、薬事法、放射線障害防止法といった異なる法律に基づく規制を受けるという、多重規制の問題があり、より管理に難儀をきたすこととなっている。これらの点が、今後関係省庁の努力により改善されることをお願いしたい。また、放射線を業として扱う、医師、薬剤師、放射線診療技師などに対する放射線教育が十分に行われているか、ライセンスを与える関係省庁においてもう一度見直しを行っていただきたい。
- 食料の安定供給のために放射線がどう使われ、何が問題かを議論した。問題として、ウコンを例に、現在同じ物質を輸入しても使途により法規制が異なることを資料にまとめている。
- より問題なのは、日本は原爆被災国であり放射線アレルギーが強いために、現在食料安定供給に役立つ照射食品は、唯一ジャガイモが認められているのみだということである。近年日本でも多用されるスパイスは、寄生虫が多いため放射線照射して発展途上国から欧米に輸出される。しかしながら、唯一日本は照射を認めておらず、寄生虫の卵のついた状態で輸入し、くんじょう処理などをしているが、それにより価値が下がるなどの問題が発生している。厚生省などは放射線は全て駄目だとの姿勢ではなく、安全性と危険性を見極めた上で何が必要か考えるべきではないか。また、食品照射の研究者が底をついているということが非常に大きな問題点である。
- 放射線育種については、相当昔の食糧事情が悪い時代に、例えば稲の品種改良などがなされており、既に解決済みである。その当時農水省と厚生省の間の綱引きなどがあって、省庁間の様々な課題も残っているようだが整理するべきであるとの発言もあった。
- 放射線の工業利用は、おしめから自動車部品に到るまで幅広く導入されているものの、放射線のお世話になっていることが国民の目に見えてこない。放射線が行っている貢献を見ていただけるようにする必要がある。
- JCO事故に関連し、被ばく線量が1mSv/yという基準を超え、1.1や2となると放射線被ばく者とみなすべきかとの論議もある。今後様々な議論を行う必要があるであろう。
○久保寺座長の説明に対する、主な質疑応答及び関連する意見は以下のとおりである。
- 第五分科会で食品照射が議論されているのはうれしいが、がん治療のひとつである中性子捕そく療法が論点として欠落している。この方法は、武蔵工業大学で99の実施例があり、現在300名以上の治療例がある。JCO事故で中性子は危険なものだという意識が広がったが、その中性子でがんを治すということで注目され、新聞各社の取材を受けた。中性子はそのエネルギーによって人体に対する影響が異なり、低いエネルギーでの中性子はがん治療に非常に有効であって、特に転移がある場合に圧倒的な力を発揮している。日本で始まったこの方法は、米国、EU、フィンランド等、現在5カ国で行われている。この中性子捕そく療法は中性子のもつイメージを変え得るものであり、ぜひ欠落しないようにお願いしたい。
- もうひとつ抜け落ちているのが、中性子ラジオグラフィーであり、通常のエックス線の分析とは逆に、重い金属は透明となり軽い水素が写るので、工業界で使われている。原研のJRR−3は世界一の素晴らしい装置であり、もう少し中性子線の利用をクローズアップしていただきたい。
(久保寺座長)
- 粒子線の中に陽子線、中性子線を含めており、決して外した訳ではない。
- 1W級の原子炉が、終戦直後に晴海で展示されたことがあるが、その際昭和天皇がチェレンコフ光をご覧になった事実がある。チェレンコフ光が見えるということは、国民の方に原子力を理解していただく上で非常に重要なことであると考えている。研究炉の火が消えないように努力していただきたいと願っている。
- 中性子回折については、DNAの水素解析を含め次回に議論される予定である。その際の報告にも、世界に発信する日本の技術として、詳細に取り上げられることとなるであろう。
- 唯一の原爆被爆国との表現は使うべきでない。日本は、軍事は米国と協力しており、かつ民事利用では世界で最も原子力利用を推進している、いわば核愛好国でもあるからである。この様な教育を子供に行えば、原爆を絶対悪とするあまり、核軍縮の現実的な議論が不可能となり、また、日本のプルトニウム利用が世界に脅威を与えるという側面の理解が出来なくなりかねない。
- 放射線利用のプラス面とマイナス面の両方を指摘するのは適切だが、資料の図にはマイナス面が描かれていないのは問題である。マイナス面を資料に明示することが必要ではないか。
- 国策を議論しているのであるから、放射線利用の促進を唱えるだけでなく、まずい点をどう改めるかを重点的に議論するべきである。例えば、放射線治療が弱いといわれているが、医局内で放射線診療技師の立場が低いなどの問題についても、検討を行えばどうか。
- 資料の食中毒に関する記述では、消費者に責任を押し付ける傾向が見受けられる。行政機関あるいは事業者の方が、むしろ最近の食中毒増加傾向について責任があり、制度の整備を含めて議論すべきではないか。
- 低線量放射線被ばくについて、50mSv以下での影響は、広島、長崎の調査からもわかるように、理論的にはともかく現実的には確認は不可能である。従って、この問題については、十分に安全側に立って議論を行っていただきたい。
- 第五分科会においては、放射線の利用が様々な分野で広く行われていることを、国民に大きな声で言っていただきたい。国民は、放射線、放射能について、いわゆる日のあたるものと、事故などの不安をよびおこすものを、全く別のものと考えてしまっている。放射線に対する理解が不足しており、天然の放射線でも悪いものと考えることさえある。こうした認識を改める必要がある。
- 特に、低線量の被ばくについては、数字や単位について一般の人は理解できないために、大きいのか小さいのか分からない、出たか否かだけが問題とされてしまう。例えば、動燃のアスファルト固化事故では、線量は天然の地域差の何分の一であり、全く影響のないレベルであったが、報道では大きく取り上げられてしまった。ぜひ国も含めて放射線のバックグランド教育の充実に努めていただくようお願いしたい。
- 第五分科会では、放射線利用と放射線影響を区別して議論しないと混乱をきたす恐れがある。医療利用以外の放射線利用は被ばくを伴わないものであるが、それを明確にしなければ、被ばくを伴わないものまで被ばくが起きるかのように誤解されてしまう。
- 消費者、利用者側への教育はもちろん必要であるが、企業の側に、例えば、「タイヤに対して照射していると説明して良いか」と聞くと、「消費者の理解がなされていないため誤解を招く、絶対に言わないで欲しい」との答えが返ってくる。企業の側への教育についても、ぜひ充実していただき、「放射線を利用しているが全く安全です」「放射線を照射して非常に強度が増しました」などと、企業に放射線を利用したということを明らかに言っていただくようお願いをすべきであると考える。
- 第五分科会では、利用者を招いてヒアリングを行うようお願いしたい。また、資料の第2頁の表については、日本の現状と展望とあるが、両者を明確に区別して記述する必要があるだろう。
- 放射線技術をよく理解されている方が議論されているので、メリットが強調されている傾向がある。食品照射については、もう少し慎重に説明を行うべきではないか。遺伝子組み替え食品などは、やや無理押しして性急に導入したため、逆に不信を招き、苦況に陥っている現状がある。遺伝子組み替えと食品照射とは同じものではないが、最初の提示のやり方は一方的であってはならず、慎重に提案しないと受け入れられないであろう。
- 工業利用、医療利用などは、メリットが明確であるため、どのように利用されているのかもっと提示していただきたい。しかし、食品照射については、何故必要なのかという観点が十分に明確ではないため、まず事業者が利用に二の足を踏んでいるような状況である。また、導入された際には当然その旨を製品に記載することが求められるであろう。そうした事情を十分に理解した上で議論を行い、それらを報告書に反映すべきである。
- 放射線ホルミシス効果については、どのように扱われているか。また、報告書には反映されるのか。
(久保寺座長)
- 広島、長崎での被ばく者の調査や米国での動物実験の結果などについて、報告をいただいており、低線量放射線に対する生体応答は全くないのではなく、むしろあると言われている。報告書への反映については、委員の方々と相談して決めたいと考えている。
- 私どものALAPの原則では、被ばく線量はなるべく低い方が良いとしており、これが技術的に困難な場合もあるため、申し上げた。
(久保寺座長)
- 環境基準を設定する基準は、10万人に1人の発がんのリスクが発生するとの確率論的評価に基づいている。世の中で2千種類以上の発がん性の化学物質が知られているが、それらのうち幾つかについては、環境基準の設定にあたり直線理論を採用している。それでベンゼンは1ppmを環境基準としているが、だからといって2ppmを吸入しても必ずベンゼン曝露腫になるわけではない。環境基準において別個に、どの程度吸入すればどのような症状が現れるか、明確に記載している。
- 放射線についても、将来はベンゼンなどと同様に、「環境基準の1mSv/yについてはこういう根拠で決めたが、一方、広島、長崎の被ばく者の調査結果解析からはこの線量ではこういう障害は発生しません」との二本立てで、説明を行うべきであろう。1mSv/yだけで議論を行うと、世の中は混乱をきたすのではないか。
○審議を受けて、那須長期計画策定会議座長より、以下のとおり発言があった。
- 本日の議論を踏まえ、第五分科会で、より議論を深めていただきたい。
−以上−