放射線の健康影響 ― ―広島、長崎に学んだことから東海村事故を考える

近畿大学原子力研究所 武部 啓    

 今回の事故に関連して、いくつかの週刊誌に、作業員及び周辺の住民に重大な健康影響が起こり得るといった予測が述べられています。しかしながら、事故直後でも、3週間たった今日でも、不幸にして大線量のひばくを受けた3人の作業員の方を除いて、発癌、白血病などを生じるおそれは全くありません。ましてや住民の方々にそのようなおそれは皆無であり、妊娠中であっても奇形や流産のおそれ、遺伝的影響などは、全く心配ありません。
 このことは広島、長崎の被爆者についての、50年以上にわたっての詳しくて厳密な研究から断言できるのです。私たちは、広島と長崎の犠牲のうえに築かれた貴重な研究成果から学ばねばなりません。そして、科学的に根拠がないだけでなく、誤った情報で不必要な恐怖感をあおることは犯罪に等しいと認識すべきではないでしょうか。

 この図と表は、広島と長崎の被爆者において、癌と白血病が0.1シーベルト以下ではほとんど起きていないことを示しています。奇形は発生は妊娠初期に0.2グレイ(ほぼシーベルトに同じ)以上の線量を受けた方に、知的障害児が少数生まれています。東海村では、3人以外の作業員は高い人で約0.1シーベルト、一般の方は推定できないくらい低いひばくであることが明確ですので、あらゆる障害が生じないと判断できます。チェルノブイリでは、甲状腺癌(核分裂によって生じた放射性ヨードによる)が増えたほかは、白血病、奇形などが増えたという報告はありませんし、今後も増えないと広島などとの比較から予測されています。遺伝的影響も広島、長崎には全くありません。